あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Persona 0-12



ペルソナ0 第十二話

 走る、走る。
 辺り一面には茫洋とした霧が立ち込め、前も後ろも右も左も分からない。
 ただ混迷を深める景色のなかをルイズは走る。
 どこへ向かっているかは分からない。
 なにを目指しているかも分からない。
 それでも足を止めることは出来なかった。

 ドキドキする心臓とズキズキする喉、息は荒く力を使いすぎたせいか割れそうなほど頭が痛い。
 足は棒のようで一歩踏み出すごとに馬鹿みたいにふらつく。
 それでも足を止めることは出来なかったのだ。
「――トォ、サイトォ」
 朦朧とする意識、痛む喉が知らずその名前を呟いていた。
 見知らぬ他人、ほとんど会ったこともない平民の少年。
 だと言うのに何故? 何故こんなにも心を掻き毟られるのだろう?
 こんなにも切ない気持ちになるのだろう?
「それはただの幻想にすぎない」
 心のなかで思っただけなのに、その言葉に返事が返ってきた。
「今感じている感情はお前が得たものではないからだ」
 ルイズは走る、四方八方から響いてくる声がルイズに方角を見失わせる。
 けれど走る、心が命じるまま倒れそうになる体を動かす。
「偽りの繋がり、偽りの主従、滑稽だ。それほどまでに追い求めた“真実”がどれほど厳しいものか……」
「――るさい」
 ルイズは叫ぶ、自分を惑わす声を、行く手を遮る霧を吹き払うかのように。
「うるさい!」
 激情のままにルイズは叫ぶ。
 そのルイズを憐れむように霧の向こうから響く声は告げる。
「愚かな……ならば知るがいい」
 霧の中に照らし出される、一筋の道。
「お前が求める真実の苛烈さを……」
 それきり霧の向こうからの声は途絶えた。
 代わりにルイズの耳が捉えたのは慌てた足音と、己の名を呼ぶ友の声。
「ルイズちゃん、ルイズちゃーん!」
 赤と黒で彩られた道の向こうからルイズを呼ぶ声がする。
 疲れ果てた体に鞭を打ってルイズは一歩踏み出した。



 ――その姿を見ている者がいる。

 一人は人をあざ笑う白痴の塊。
 一人は全てを覆い隠す霧の王。

 そして一人は神の国を統べる狂信者。
 ロマリアの王、若き教皇ヴィットーリオ・セレヴァレは杖を振りかざしたまま、宙に浮かんだ光る鏡に映し出されたルイズの姿を熱心に見ていた。
 その傍らに控えるのはにやにやとした笑いを浮かべた月目の優男。
「成程、素晴らしきは“虚無”の力と言ったところですか」
「ええ、全くですね。しかし癪に障るな、本来なら僕が聖下の使い魔になるはずだった筈なのに」
「それは仕方がありません、これも始祖のお導きでしょう」
 そうってヴィットーリオが杖を動かすと、鏡はその移す景色を変える。
 ルイズの遥か後方、霧の果てから彼女のことを見つめる一匹の巨大な化け物へと。
「虚無の使い魔の最後の一人、記すことすら憚られる者――一体偉大な始祖ブリミルは僕たちになにをさせようとしているんでしょうね?」
「それはわかりません、ですが私たちがするべきことはただ一つ」
 ヴィットーリオは空いた方の手で執務机の上に置かれた書類にサインした。
 無駄に修飾と婉曲な表現を多用したその羊皮紙でできた髪の上には教皇庁の名立たる大司教の署名と共にある二つの名前が書き連ねられている。
 それは一つの歴史ある王国に新たに生まれた女王と、その側近である年老いた枢機卿の名前。
「“この”ハルケギニアに住む者たちに幸福を齎すことではないでしょうか?」
 杖を下ろしにこりと微笑んだヴィットーリオの言葉には一片の曇りもなく、ほんの僅かな逡巡もない。

 パンパンパンパン




 突然響いた拍手の音にヴィットーリオは背後を振りむき、ジュリオは自らの主を庇うように前で出る。
 何者だ、などと無粋極まりない詮索などしている暇はない。
 此処は薄暗く黴臭い六千年を秘め隠す教会の暗部、歴代の教皇のみが入ることを許された地下禁書庫だ。
 場所を知っている者も極めて限られている上に、水の秘薬の力でただこの場所を守ること以外考えられなくなった最強の衛兵へと己の心を作り変えた精鋭達が羽虫一匹たりとも入れぬ警備を続けている場所。
 そんな場所まで入ることのできた暗殺者に詮索などしては無意味だ。
 懐の銃を握ったジュリオの手が嫌な汗で汗ばむ。
 既に自分の命を代価として最愛の主人を逃がすことは彼の決定事項であったが、果たして自分程度の人間の命でどれほど時間を稼げるものか?
 ジュリオの頭に主が見せてくれた別の世界の自分の姿が浮かぶ。
 もう一人の自分は右手のルーンを輝かせ、幾百幾千もの幻獣たちを操って主のことを守っていた。
 ガリアが放った巨大な騎士人形ですらガンダールヴと二人ががりならば物の数ではなかった。
 なのに今の自分はただの木偶の坊、命を代価としてすら主がルーンを唱えきる時間を作り出すことすらできない役立たず。
 目前に現われた男への殺意と異なる世界への自分への嫉妬で狂いそうになりながら、ジュリオは引き金を引いた。

 ダンッと火薬がはじけ、もの暗い世界が一瞬照らされた。
 そこに立っていたのは蒼い髪の美丈夫であった。
 船乗りが着るような簡素な服の上から、それとはまったく不似合いな深紅のマントを帯びたその男は肩から血を流している。
 銃が当たったと言うことよりも、まだ自分が死んでいないことが信じられずジュリオはその端正な顔を間抜けに呆けさせ、目の前の男のことを見ていた。

 パン、パン、パン……パン

「素晴らしいご高説まったく痛み入る」
 ジュリオに肩をやられたせいか若干やりずらそうだが男は拍手をやめようとしない。
 いや己の傷にまったく頓着していない。
「それだけ言えれば大したものだ、宗教狂いの教皇聖下どの」
 男は笑う、いかにも楽しそうと言った様子で笑うくせに男の声は少しでも楽しそうではなかった。
「さて――物は相談なのだがね、その話に俺も咬ませてはくれないか?」
「おま……いえ、あなたは…………」
 ジュリオが男の正体に気づいた時、彼の主は既に心を決めていた。
「構いませんよ、ガリアの無能王どの」
「おお、それは僥倖だ。既に娘を魔法学院に留学させてしまってな、これで断られたらどうしようかと思ったぞ」
 笑う無能王と笑う教皇。
 二人とも方向性こそ違っていたがその瞳には同種の光が宿っている。
 ぞくりとジュリオは身を震わせると、糸が切れた人形のようにその場に膝をつく。
「しかし、一体どうやって此処へ」
 ジュリオの問いにジョゼフは笑いながら答えた。
「何、始祖ブリミルの気まぐれに振り回されるのは今に始まったことではないからな」
 無造作に掲げた右手、そこには薄汚れて茶色くなった始祖の香炉が握られている。
「全く、この世は喜劇に満ちているな」
 くつくつと、ジョゼフは笑った。




「これを使うクマ!」
 そう言ってルイズに手渡したのはピンクのフレームをしたメガネ。
 霧を見通す力を持った“それ”にルイズは驚きクマに感謝の言葉を送る。
 ――けどこんなもの一体どこから持ってきたの?
 帰って来た素朴な疑問の言葉にクマは頭を捻った。
 云われて見ればクマは一体どこからこんなものを用意したんだろう? と。
 思い出そうとしても思い出せない、そもそもクマ自身の眼にも備わっている霧を見通す能力だが、最初からこんな力はなかった気がする。
 ただルイズに会いたくて、ルイズを助けたくて、死に物狂いで霧の中を走っていたらいつの間にか出来るようになっていた。
 メガネだって同じだ、いつの間にか持っていた。
 まるで何もないところから湧き出してきたように。
「クマは、クマは一体なんなんだクマ?」
 足を止め自問するクマ、こんなことができる自分はなんなのだろうか?
 空っぽな自分、その中身は一体どこにあるのだろうか?
 考えれば考えるほど深みに嵌まりそうになり、クマは無心でルイズの後を追いかける。
 そしてクマは出会う。
 気を失った一人の少年をその背に乗せた、自分と極めて近しい存在に。
「お前、お前は……」
 それは一匹の黒毛赤眼の巨大な犬、冥府の番犬“ガルム”だった。
 伝説によれば生と死の境界を明確に区切る地獄の獄卒でもあり、またその恐ろしい見た目から想像できないが歌好きで、飼い主であるヘルには甘えた一面を見せるとも言われる。
「サイト!?」
 だがガルムはその身体を霞ませていた。
 黒い身体はむこう側の地面が見えるほど透きとおり、ともすれば一瞬その存在を見失いそうになるほど存在感がない。
「くぅん」
 一鳴きするとガルムはゆっくりと背中の少年を地面に横たえ、ルイズに向かって押し出した。
 少年はまるで醒めない悪夢のなかにいるかのようにうなされ続けているが、命には別状はないようだ。
 ほっと一息ついたルイズとは対照的に、クマの表情は暗い。
 薄くなり続けるガルム、今にも消えてしまいそうなナニカ。
 それがやたらと心を掻き毟り苦しくて堪らない。

 ――君は、何クマか?

 クマの問いかけにガルムは薄くなった真紅の瞳でまっすぐにクマを見る。

 ――“同胞”ヨ、ルイズ、ヲタノム……

 消えていくガルムの最後の思念、それがクマのなかの空っぽな何かを震わせる。

 ――任せるクマ、ルイズちゃんはクマが必ず守るクマ!

 その言葉が届いたのか僅かに纏う雰囲気を穏やかなものへと変え、黒い犬は虚空へと溶け消えた。
 後に残ったのは気を失った少年とふらふらになりながらその少年に取りすがる少女。
「同胞って、どう言う意味なんクマ?」
 頭を抱えた一匹のクマと。

 ――ルゥゥゥゥイズゥゥゥゥ。
 霧の果てから彼らを見守る、一匹の化け物が残された。



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