あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第20話 決意


 公爵令嬢の口からその言葉が出た時、彼--マザリーニ枢機卿は、思考という物を放棄してしまった。
 頭の中が真っ白になるというのはこういう感覚なのかと、事態が落ち着いた後に彼は述懐している。
 『トリステインはアルビオンと同盟して、レコン・キスタをたたきつぶしてください』
 公爵令嬢、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールは、帰国するなりアンリエッタとマザリーニに、そんな言葉を叩きつけたのであった。



 ルイズ達を危険な任務に送り出してから約一週の後。
 マザリーニと共に日々の執務をこなしていたアンリエッタの元に、変に慌てた伝令がやってきた。
 「申し上げます。ただいまヴァリエール公爵家三女、ルイズ・フランソワーズを名乗る女性が、休暇中のグリフォン隊隊長ワルド子爵を伴って、マリアンヌ大后、マザリーニ枢機卿、アンリエッタ妃殿下の三名に対して、至急の面会を求めております」
 「ルイズが! 戻ったのですか!」
 「姫様、落ち着いてください」
 思わず立ち上がるアンリエッタを、マザリーニが押さえる。
 アンリエッタは顔を赤らめつつ、姿勢を正すと、伝令に向かって言った。
 「直ちに彼女たちを……飛竜の間に通しなさい。それと、もしミス・ヴァリエールが従者の女性を引き連れていたならば、その者もそのまま通しなさい」
 「かしこまりました」
 伝令はそのまま足早に門の方へと向かって言った。
 「ただ事ではなさそうですな」
 「ええ。任務を果たした、もしくは失敗したという報告なら、彼女はもっと穏便な方法で私に報告してくれると思いますわ。元々が秘密裏に頼んだことなのですから」
 「そうですな」
 マザリーニも頷くと、目の前の書類を片付けはじめた。

 そして飛竜の間にて。
 マザリーニはまさに驚天動地の報告を受け取ることになった。
 ミス・ヴァリエールとその使い魔の女性が、ただ二人でレコン・キスタ三万に勝利し、その兵力がそっくりそのまま王党派に寝返ったという報告を。
 ワルドの証言と、ジェームズ一世及びウェールズ連名の書状まで付いていては、疑うことすら出来ない。
 そしてルイズは、報告を受けて驚いている一同に、先の言葉を叩きつけたのだった。
 「ミス・ヴァリエール」
 呆然とするマザリーニの脇で、マリアンヌがルイズに声を掛ける。
 「あなたは本当に『虚無』に目覚めたのですね」
 「はい。残念ながら証明することは難しいですが」
 ルイズははっきりと答える。困ったことに伝説なだけに虚無が虚無であることを証明する術は実のところ全く存在していない。だからこそクロムウェルは『虚無』を名乗ることが出来たとも言える。
 「そこは信じましょう。現にあなたは普通のメイジには決して出来ないことを成し遂げてくれたみたいですからね」
 「うむ。始祖の奇跡でもなければ、テューダー王家に助かる見込みはなかった」
 マザリーニも復帰してマリアンヌの言葉を肯定する。
 「こうなると我が国の方針も、前提条件から変わることになると思います」
 ワルドがマザリーニを見つめて言う。
 「マザリーニ様が妃殿下とゲルマニア皇帝との婚姻を望んだのは、レコン・キスタの圧倒的兵力に対抗するためだったと思います。ですが今、その兵力の半分が王党派に寝返りました」
 マザリーニは無言のまま、先を促す。
 「もっとも、兵力こそ手に入ったものの、今の王党派ではそれを維持できません。加えてミス・ヴァリエール及びその使い魔ナノハの力により、襲ってきた部隊の武器がことごとく破壊されています」
 つまり人はいても物がない。今の王党派はそういう状態だった。
 「この場合、我々トリステインが打てる最高の手は速やかな資金及び物資の援助です。兵数が互角になった今、王党派の物不足を解消すれば、最低でも五分の戦いが可能です。
 加えてミス・ヴァリエールの「虚無」が存在していれば、レコン・キスタの打倒も不可能ではありません」
 ワルドは力を込めてマザリーニやマリアンヌに訴えた。
 ワルドの言うことは正しい。但し、そこには「時間」という制約が課されている。
 アルビオン王党派に対する援助は、冗談抜きに一刻を争う。早ければ早いほど効果的であり、逆にわずかな遅れでも即、死に繋がる。
 マザリーニは考えた。確かにこの話は時間との戦いだ。貴族派が体勢を立て直す前に手を打たねば、せっかくの奇跡も無駄になる。
 マザリーニは決断した。
 「早急に援助を送りましょう。まず食料と金貨、そして船ですね。トリステインの軍船を何隻か送る必要があります」
 幸い今の時点において、ゲルマニアもガリアもトリステインに侵攻してくる謂われはない。
 多少戦力を引き抜いても何とかなる、そう判断した。
 「但し、ミス・ヴァリエールには別の任務を与えないといけませんね」
 「別の任務、ですか?」
 マザリーニは疑問を浮かべるルイズに対して、きっぱりと言った。
 「あなたはロマリアへ向かってください」
 「ロマリア、ですか?」
 「ええ。もしあなたが真実『虚無』の担い手ならば、あなたは一度ロマリアに行って教皇聖下に謁見する必要があります」
 「ええっ!」
 さすがにルイズも驚いた。だがマザリーニはそんなルイズの様子を無視するように言葉を続けた。
 「先ほどあなたは自分が虚無であることを証明する手段はないといいましたが、聖下の認定があればそれは証明されたも同じです。それを抜きにしても、教皇聖下にはこの事を報告しなければなりません」
 マザリーニは政治家ではなく、宗教家の顔に戻って言った。
 「いわば、お墨付きをもらえと言うことですね」
 「そういうことです」
 ルイズが納得したのを見届けて、マザリーニは言葉を重ねた。
 「本来ならあなたには援助の船団と共に、トリステインの援助の象徴としてアルビオンに向かってもらう方が戦略的には正しいと思います」
 アルビオンにおいてはルイズの『虚無』を疑うものはいないからである。
 「ですが、その後のことまで考えた場合、ロマリアを引き込んで聖下からお墨付きをもらっておく方が圧倒的に動きやすくなります。始祖の『虚無』には、それほどの重みがあるのですよ、ミス・ヴァリエール」
 「は、はい」
 思ったより重そうな『虚無』の名に、少し緊張するルイズ。
 もっとも、このマザリーニの考えには彼の及ばない部分で間違いがあった。
 ガリアの現王が虚無であり、しかも本人がそのことに重きを置いていないと言うことが。
 彼からしてみれば、ブリミルの血脈である三国の王の中に、背教者と言ってもよい人物がいることなど、想像の埒外だったのである。
 この事が後にトリステインを危機に陥れることになるのだが、それはまだ未来のことであった。
 「あと、ミス・ヴァリエール」
 さらに重ねるように、マリアンヌがルイズに、奇妙な響きを持った声を掛けてきた。
 ただの呼びかけなのに、そこに期待と困惑と開放感がごちゃ混ぜになっていた。
 「これは正式にはあなたのお父上も交えて話さねばならないことですが、概略だけ今のうち伝えておきます」
 一転して真面目になった口調に、ルイズも姿勢を正す。
 「あなたが虚無を発動させた……すなわちこれは、あなたこそがもっとも色濃く始祖の血を引くことを証明したことになります」
 「は? はい」
 一瞬、なんでそんなことをと思ったルイズであるが、慌てて口元を引き締める。
 (うわ、それもありますか)
 そんなところに、今の言葉でなにを言いたいのか察したらしいなのはから念話が入る。
 (どういうこと?)
 (ちょっととんでもない話が来ると思いますから、覚悟してくださいね)
 なのはは答えは言わず、ただ構えろ、という。
 「あなたが虚無を発動したことによって、トリステイン王家の正統は私たちからあなたの家、ヴァリエール家に移ることになります。よって現時点において、空位であるトリステイン王の地位を受け継ぐべき継承権第一位が、ミス・ヴァリエール、あなたに渡されます」

 「えええ~~~~っ!」

 さしものルイズも、耐えきれずに素っ頓狂な悲鳴を上げることになった。



 「どどどどういうことなんですかマリアンヌ様」
 困惑するルイズに、マリアンヌは優しく言った。
 「元々トリステイン・アルビオン・ガリアの三王家は、始祖ブリミルの血を受け継ぐことがその地位の証となっています。そしてそれを明確に証明する物が、始祖の血脈にのみ現れるという『虚無の担い手』です」
 頷くルイズ。
 「ですが、代を重ねるごとに、子孫は増え、血は拡散していきます。本来その血において、どの子孫が優秀かというのは、実は身分には関わりがありません」
 社会的なしがらみを考慮しなければ、すべての子孫は『ブリミルの血を継ぐ』という一点においては等価だと言うことである。
 「現時点において我がトリステイン王家が正統と言うことになっていますが、実のところ、それは社会的なものであって、始祖に連なるという点から見ればただの建前でしかないのです。
 始祖の血を受け継ぐという、我が王家本来の存在意義からすれば、始祖の御技の再現とも言える『虚無』を発言させたと言うことは、身分にかかわらず、その系統こそがもっとも始祖に近いと言うことの証明となるのです」
 そう言われてルイズにもマリアンヌの言いたいことが理解できた。
 ヴァリエール公爵家は元々王の庶子、つまりは正妃や寵姫以外の女性から生まれた子供がその祖である。言い換えれば王の血を引いているものの王家の者ではないと見なされた子供である。
 ところがその血統から、始祖ブリミルの力であるとも言える『虚無』の担い手が現れた。
 つまり、王家が庶子の子を無碍に扱ったことが間違いであり、本来ならば庶子の母となった人物こそが、始祖によって定められた正統な王妃となるべき人物であると言うことになる。
 結果として、ルイズという『虚無の担い手』が現れたことにより、現トリステイン王家はその正統性を喪失、ルイズの血脈であるヴァリエール公爵家の血統こそが正統なトリステイン王家の血脈であると証明されたことになる。
 そして現トリステイン王が空位である以上、王座に就くべき第一位は、もっとも始祖に近い人物、虚無の担い手、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールである。
 ちなみに第二位はルイズが未婚であるため、直系の血族であるヴァリエール公爵、第三位が姉妹であるエレオノールとなる。要はルイズと始祖ブリミルを結ぶ血統のラインを基準として、ルイズを起点にそれに近い順に決まるということである。
 もしこの時点でマリアンヌなりアンリエッタなりが王になっていた場合は、ルイズはあくまでも次の王、第一位の継承者であってもすぐに王になる訳ではなかった。
 極端な話、ルイズとアンリエッタにそれぞれ子供が出来て、その子が異性ならばそれを結婚させることにより血の融合を図ることも出来た。
 だがここに来て王が空位というのがある意味裏目に出た。この場合、現王家は王を出す資格を完全に喪失することになるのである。

 「よってミス・ヴァリエール。あなたには継承権第一位の身にある者の義務として、現トリステイン王家にかわり、ヴァリエール一世としてこのトリステインの玉座に座らねばならないのです」
 「そそそそれではマリアンヌ様やアンリエッタ様は」
 「ほほほ、もう様付けで呼ぶ必要もないのですよ、ルイズ姫」
 わざとらしくいうマリアンヌ。さすがにルイズが真っ赤になって反論した。
 「やめてください大后様、建前ではそうかも知れませんけど、急にそんなこと出来ません!」
 「冗談ですよ、ミス・ヴァリエール。でも、公爵と正式に話し合って、そうならなければいけないのは事実ですよ」
 「でもそうするとマリアンヌ様達は」
 「心配することはありませんよ。私たちは降家して新しく公爵を名乗ることになるだけですから」
 「あ、そうですね……」
 王族の血を引くものが王家から離脱して貴族位を名乗る時に用いられるのが公爵である。
 つまり公爵は他の侯伯子男爵と違い、王家の血を引くものか、王家の血を取り入れる……王家の人物と結婚しない限り名乗れない身分なのである。
 「それに実をいうと、あなたがこれを受けてくれると、不肖の娘のためにもなるのですわ」
 口調は優しいものの、目が全く笑っていない大后。ルイズどころか、ワルドや背後に控えていたなのはまで震えるような目つきであった。
 「お、お母様……」
 「全く、この子は親に内緒でなんというものを取り交わしているのですか。幸い事なきを得ましたけど、一歩間違えばあなたは亡国の姫として未来永劫誹られることになったのですよ」
 「全くですな。まあ実のところゲルマニアの皇帝には半々くらいの確率で失礼をすることになっていたとはいえ、これがばれていたらトリステインは国家としての面目を喪失しているところでした」
 マザリーニにも釘を刺される。
 「でも……」
 下を向きつつも、少し不満そうなアンリエッタ。
 「でももなにもありません」
 ぴしゃりと言うマリアンヌ。
 「まあ、若い恋心が押さえられないものだということくらい、母として判ります……ですが始祖に愛を誓った文を交わすのはやり過ぎです。少しは自分の身分を考えなさい」
 「……はい」
 今度こそぐうの音も出ないアンリエッタであった。それを見たマリアンヌは、今度はルイズの方に向き直る。
 「つい先ほどまでは、こう言うしかありませんでした。ですがミス・ヴァリエール。あなたが玉座に着いた場合、事情は一変します」
 「へ?」
 一瞬言葉に詰まるルイズ。その疑問に答えたのはワルドだった。
 「簡単なことだよ、ルイズ。君が玉座に着いた場合、アンリエッタ姫は継承者としての立場から解放される。つまりウェールズ殿下の元に嫁ぐことに、なんの障害もなくなるということさ」
 「あ!」
 「それどころか、トリステイン=アルビオンの同盟に対して、またとない保証となる。虚無の発現で王家がヴァリエール家に移管しても、現トリステイン王家であったという身分は残る。この婚姻は同盟のまたとない証になるからね」
 「つまり、いいことずくめと」
 「そういうこと」
 これは駄目押しの一撃になった。自分だけならともかく、親友の結婚問題が絡むとなると、ルイズには断るという選択肢が選べなくなる。
 とはいえ、即答できる問題でないのは明らかである。父も交えて話し合わねばならないであろう。
 それに国内の貴族達に対する工作も必要に違いない。王家の移管ともなれば、権力構造が激変する。ただでさえ今のトリステインには毒虫が無数に巣くっており、枢機卿がゲルマニアの皇帝をペテンに掛けてまでそれを燻り出そうとしていたくらいである。
 そこまで思い至って、はたと真相が見えた。
 「あの、マリアンヌ様、マザリーニ様」
 ルイズは少し上目遣いになって言う。
 「ひょっとして私にロマリアへ行けというのは、そのためにいろいろと下準備がいるから……でしょうか。毒虫退治とか」
 一瞬動きが止まる大后と枢機卿。だが次の瞬間、それは破顔に取って代わられた。
 「これはこれは。次代は案外と期待できそうですな」
 「ほんと。うちの娘より才能あるのでは」
 「お母様! ……否定はしませんけど」
 どう見ても肯定している返答に、ルイズは肩をすくめることになった。



 「いずれにせよ、教皇様と謁見するまでは、虚無のことを広めてはいけませんよ。お友達が先に帰っている以上、学院内に広まっているところまでは何とかいたしますが、決してそれ以上は広めないように」
 「ミス・ヴァリエールなら、その理由はわかっていると思うが」
 「もちろんです!」
 二人の念押しを受けつつ、ルイズは城を辞した。いったん学院に帰ったあと、今度はロマリアに向かわねばならない。
 「なのは」
 用意された馬車の中で、ルイズは半身とも言える使い魔に声を掛けた。
 「なんかものすごい大事になっちゃったわね」
 「無理もないかと」
 なのはも苦笑する。
 「でも、ロマリアか……ガリアの向こう側よね。行くのに時間かかりそう。アルビオンが持ってくれるといいんだけど……」
 「ですね。大砲とかは全部壊してしまいましたし」
 「……やり過ぎたかしら」
 「でも、あそこまでやらないと、降伏までは持っていけなかったと思います」
 二人はそろって、大きくため息をつくのであった。







 学院に帰還したルイズとなのはは、真っ先に学院長の下へ向かった。
 虚無の件の漏洩を防ぐための手を打ってもらわねばならない。そのためにマリアンヌ大后とマザリーニ枢機卿、連名の書状も預かってきている。
 「なにやら大変だったようじゃの」と言っていたオールド・オスマンも、ルイズの報告と書状の内容が頭にしみこむにつれ、だんだんとその顔から遊びが消えていった。
 そしてすべてが終わった時、そこにいるのはいつもの好々爺然とした老人とはまるで別人と言ってもよかった。
 「ミス・ヴァリエール。君はこれがどういう事態なのか、ちゃんと理解しているのかね」
 「はい。貴族としての誇りにかけて」
 「……ならばよろしい。その身にかかる重さは、おそらくそなたの想像を絶するじゃろう。だがもはや投げ出すことは出来ぬぞ。我々も出来る限りの援助をしよう」
 「ありがとうございます」
 きっちりとした礼を返すルイズ。それを見てオスマンは少し緊張を解いた。
 「わしの見る限り、そなたの噂は学院内に広まってはおらぬ。そなたの友人達は物事が判っているのう」
 「私の友人ですから」
 胸を張るルイズ。オスマンは内心、だばだばと涙を流していた。
 使い魔召喚のあのときまで、あのルイズがこうまで立派な生徒になるなど、どうして想像できようか。
 ある意味教育者冥利に尽きると同時に、それを成し遂げるきっかけとなったのが教師達ではなく、背後に控えている使い魔の女性であるという事実に少し落ち込んでもいた。
 だがそれはそれ、これはこれである。
 「して、このあとそなたはロマリアへ赴かねばならぬのだな?」
 「はい。続けで授業を休むことになってしまって申し訳ありませんが」
 「なに。ある意味今更じゃよ。それにおぬしが虚無だとしたら、我々に教えられることなどほとんどありゃせんわい。魔法関連の授業はもはやなんの意味もあるまい?」
 「……確かに、そうですね。私には四系統の魔法は使えないと、なのはにも太鼓判を押されていますし」
 「その言葉の使い方は間違っておるぞ、ミス・ヴァリエール」
 太鼓判を押すというのは、絶対確実という意味であるが、基本的に肯定的に用いる言葉である。
 「まあそういうことじゃから、出席日数のことは気にせんでよろしい。魔法以外の部分で手を抜かなければ、きちんと卒業させるから安心せい」
 ルイズは深々とオスマンに向かって頭を下げた。







 その日ルイズは授業に出ることもなく、自室に戻った……が。
 「あらお帰りなさい。報告はすんだの?」
 「お帰りなさい」
 「お疲れ様。さっきタバサが水を冷やしておいてくれたよ」
 何故か見知った人物が三名、ルイズの部屋にたむろしていた。
 「なんであんた達がここにいるのよ!」
 「あら。どうせお城でいろいろあったんでしょ? 自分のためにもあなたのためにも、なにがあったかはきっちりと聞いておきたいわ」
 悠然と語るキュルケ。頭に血が上りつつも、ルイズは何とか言葉を紡ぎ出した。
 「とりあえず言うと、私はロマリアに行かないといけなくなったわ。帰ってきたら……戴冠式かも」
 「はあ?」
 さすがにキュルケにもその言葉は予想外だったようだ。
 「戴冠式って……マリアンヌ大后かアンリエッタ妃殿下、王位を継ぐ決心したの?」
 「あたしの」
 「え」
 「……」
 「……はい?」
 キュルケも、タバサも、ギーシュも、見事に硬直した。
 「あたしが虚無の担い手なら、もっとも玉座に近いんだって」
 そういわれてタバサとギーシュは即座に納得した。
 キュルケは一瞬考え込んだが、それでも次の瞬間には理解したようだった。
 「考えてみればありえるわよね……」
 「でもどうしてロマリアに?」
 そう聞いてきたのはタバサ。
 「要は私が正真正銘の『虚無の担い手』であることを証明してもらうためよ。何しろあたしが虚無だって証明するの、実質的に不可能じゃない。使える魔法だって、エクスプロージョンだけ。見た目じゃ失敗爆発とあんまり変わらないもの」
 「なるほど」
 タバサもすぐに状況を理解した。虚無はその成り立ち上、宗教との結びつきが深い。
 「確かにそれは必要」
 「で、教皇聖下から証明していただいたら、ルイズは晴れて女王様って言うわけか」
 「マザリーニ様のあれとか、レコンキスタ討伐とかあるから、すぐにじゃないと思うけど、最終的にはそうならざるを得ないわ。姫様の結婚もかかってくるし」
 「姫様の?……ああ、確かにそうなるわね」
 キュルケもすぐに納得した。
 「ルイズが女王になれば、妃殿下がウェールズ殿下と結ばれるのに、確かになんの問題もなくなるな」
 ギーシュも頷きつつ言う。
 「で、みんな。申し訳ないんだけど、あたしこれからロマリア行きの準備しなくちゃならないの。結構時間かかりそうだから、ちょっといいかな」
 「あ、ごめんなさい。それはそう……ん?」
 そういって部屋を辞そうとしたキュルケを、何故かタバサが止めた。
 「時間が掛かりすぎる」
 「まあ、ロマリアまで行くとなれば一月掛かりですものね」
 タバサはそのままルイズの前に出ると、ぼそりと言った。
 「送る。私なら二日でいける」
 「え、いいの!」
 元々今回のことは時間との戦いだ。この申し出はまさに渡りに船である。
 「いい悪いじゃない。今回は時間との戦い。ならば私とシルフィードの役目」
 「ありがとう、タバサ!」
 ルイズは思わずタバサに抱きついていた。抱きしめられたタバサは、一瞬ぽかんとなったが、次の瞬間、ぽっと顔を赤らめた。
 「ルイズ、準備は身軽でいい。出来れば始祖の祈祷書を借りてくるといい」
 「あ、そういえば……判ったわ」
 ルイズは力強く頷いた。
 「お城に早馬を出してもらって、今日はゆっくり休んだ方がいい。取りに行くのはあとでも出来る」
 「判った。なにからなにまでありがとう、タバサ」
 「私がなのはから受けたものに比べれば、大したことじゃない」
 タバサは何故か横を向きながら、そう答えた。







 ところ変わって、ここはミッドチルダ。
 「ようやく準備が整ったな」
 若き提督、クロノ=ハラオウンは、かつて苦楽を共にした老朽戦艦を、感慨深く見つめていた。
 戦艦アースラ。新型艦への置換が進む中、本来ならばとうに廃艦になっていたはずの戦艦である。
 だが今回のプロジェクトに際し、最後の奉公となった。
 表向きがエースオブエース、高町なのは救出作戦。裏側に全く未知の領域である「第六次次元障壁突破作戦」を擁し、各部門のエースや管理局の中でも目端の利くものがこぞって参加してきた一大プロジェクトが、ついに始動した。
 「提督~、あと提督だけですよ~、早く乗艦してださい~」
 ぼんやりしていたら、ちっちゃい曹長ことリーンフォースⅡから催促の通信が入ってしまった。
 「おっといけない」
 彼は慌てて乗艦口へと向かった。
 そして古強者は、前人未踏の航海へと出発する。
 そしてその艦橋では。
 「待ってて、なのは……必ず、迎えに行くから」
 彼女の一番の親友が、親友の娘を抱きかかえながら、遙か虚空をにらみつけていた。




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