あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ナイトメイジ-17


帆を失ったマリー・ガラント号は急速に速度を落とし、やがて風の向くままにゆったり進むだけになってしまう。
そうなればもう空賊船から逃げる術はない。
おまけに空賊船に据え付けられた大砲に加え船縁にずらりと並んだ空賊たちが銃でマリー・ガラント号を狙っている。
船員達には抵抗する術もなく、あとは空賊の気まぐれにすがるしかない。
鍵のついたロープが空賊船とマリー・ガラント号は繋ぎ、そのロープを伝って数十人もの空賊たちが乗り込んできた。
マリー・ガラント号の乗員たちはただ震えてその命令に従うだけである。
その中にあって微塵も不安を見せない二人がいた。
ワルドとベルがそれである。
「ねえ、あの空賊たちを見てどう思う?」
「そうだな……」
ワルドは剣や銃を手に甲板を歩き回る空賊たちにざっと見渡し、次いで空賊船の甲板に並んでいる空賊たちをこれまたざっと見渡した。
「やけに統制がとれているな。船員たちの扱いもならず者の空賊と言うよりも軍に近い。それにあそこに並んで銃を構える空賊たちを見たまえ。実に扱いに慣れている」
「それから?」
「たぶん彼らは軍人崩れだね。しかも空賊に身を落としたのはつい最近だ。アルビオンでの戦況を考えるに元王党派といったところだろうね」
「やっぱり、そう思うわよね」
ベルは組んだ腕をそのままに空賊たちを面白そうに見ていた。
少なくとも仮面の男を見るよりもずっそれを楽しんでいた。


ルイズはアンリエッタの手を握り、空賊の中でもひときわ派手な格好をした男が近づいてくるのを見ていた。
どうやらその男が空賊の頭らしい。
頭はマリーガラント号の船員達を値踏みするように一人一人をじっくり見ていく。
剣を突きつけて脅すのも忘れない。
もうすぐルイズ達の番になる。
どうすればいいか。
ルイズが不安でいっぱいになりそうな頭でどうにか考えてみたが、何かいい方法が浮かぶはずもない。
どうにか出た答えは貴族の誇りを捨て去りあんな下賤の者、そしてアンリエッタには無様な姿を見せるすようなまねはしてはならない、ということだけだった。
「ねえ、ルイズ。今の状況を解決するいい考えがあるんだけど」
だからベルのその言葉はルイズにとっては池で溺れたときに投げられた1本のロープのようにも感じられた。
「どんな考え?」
「それはね……」
ベルはルイズの耳元でその考えというのを囁くが、それはルイズが期待したようなものではなかった。
どっちかというとロープが糸、しかも蜘蛛の糸になったような気がする。
「ちょっと、それ本気?からかってない?」
「もちろん本気」
即答である。
が、ベルの目は笑っている。
「何となく信用ならないのよね」
「ひどいわね。この任務では使い魔らしい事をしているつもりよ。姫様を連れ出したでしょ、桟橋の時には不審な男を追い払ったし」
「そうなんだけど……」
それが何かの壮大な前振りのような気もして嫌な予感もひしひしとする。
「じゃあ、ルイズは他にいい考えがある?」
「……ない」
「じゃあ、やってごらんなさい。それに、あの空賊が普通じゃないのはあなたの婚約者のお墨付きよ」
「ほ、本当に?」
それなら話は別だ。
ベルなんかとは段違いに信用できる。
「間違ってたら助けてあげるわ。そうね……この命に代えても」
「当然よ!」
ルイズは大きく深呼吸をして、これから来る大きな困難に備えた。

これからすることを考えると心臓の高鳴りが止まらない。
落ち着こうとすればするほどどきどきという音が耳に響いてくる。
空賊の頭がルイズ達の前に来たのはそんな時だ。
「魔法で船を速くしたのはお前らってわけか。無駄だったがな」
ルイズはベルに言われたことをしようとしたができなかった。
ぼさぼさの髪に無精髭だらけの顔が無遠慮に近寄ってきたとき、言おうとした言葉が全部喉の奥に引っ込んでしまう。
「ほう、メイドまで連れてきてやがる。しかも上玉ときたもんだ。おまえ、こんな情けない貴族どもに使えるのはやめて俺の船で皿洗いでもやらねえか?」
空賊の頭が下卑た笑い声を上げてアンリエッタのあごに手をかけ、さらになめ回すような視線で彼女の顔を見る。
アンリエッタは空賊の頭を睨みつけていたが、平気だったわけではない。
アンリエッタも不安だったのだ。
それが彼女の手をずっと握っていたルイズにもはっきりと伝わった時、ルイズの心臓はさらに高鳴り血を頭まで上らせた。
「下郎!その汚い手を今すぐ離しなさい!!」
アンリエッタのあごを持つ空賊の頭の手が止まる。
マリー・ガラント号の甲板に一瞬だけ沈黙ができた。
「こいつは驚いた。下郎ときたもんだ」
空賊の頭が大声で笑い出す。
空賊達もそれに合わせて笑い出したが、今のルイズにはそんなものお構いなしだ。
「あんた、そのお方を誰だか心得ているんでしょうね」
「だれって、ただのメイドじゃねえか」
ルイズはあきれ果てた自分をことさら大きくアピールして、肩をすくめ首を横に大きく振る。
これもベルに言われたことだ。
「それがわからないあんたにもう用はないわ。上の人間を呼んできなさい」
「なに言ってやがる。俺が頭だ。おれ以上の人間はいねえ!」
男はがなり立てるが、その表情はわずかに引き締まった。
ただし、それがわかったのはベルとワルドぐらいだったが。
「そのお方が誰かもわからない下っ端が一番上なわけないと言っているのよ」
「なにぃ?」
今度は男がはっきりとうろたえる。
こうなったらルイズの口はもう止まらない。
止めたら何かに潰されてしまう。
その思いがルイズの口をさらに加速させた。
「今なら無礼を許すと言っているのよ、アルビオン王立空軍の艦長!」
「なに言ってやがル!それにその女は何だって言うんだよ!」


空賊船の船内に続く扉の向こうには青年がいた。
拿捕した船の制圧に思いの外時間がかかっている。
彼は船長には全幅の信頼を置いていたが、何事もにも不測の事態はあり得る。
それを確かめるためにここに来た青年は耳を澄ませた。
外からの声が青年の耳に届く。
かなり若い女性の声だ。
そんなことより、その内容に青年は自分の立場を忘れた。

「このお方こそトリステイン王国第一王位継承者アンリエッタ・ド・トリステイン王女、その人よ!」
空賊の頭はまず、大口を開けて呆然とした。
次に口を締め、それから顔をしかめる。
そのあとは手で顔を覆い、さらにはその手で顔をごしごし擦った。
そして顔をにやりとゆがめ再び大声で笑い出そうとしたが、その前に空賊船から叫ぶ声がした。
「アンリエッタだって!」
その声を聞いたアンリエッタの震えは止まる。
突如空賊船の甲板に現れた青年に向けた視線を釘付けにし、涙を一筋流したあと、ルイズの手を離して空賊船に向かって走り出した。
「その声、ウェールズ様」
そのあと起こった事態には誰もが目を見張った。
走り出したアンリエッタはルイズの制止も聞かず船縁に足をかけ、空賊船に向かってダイブを敢行したのだ。
出すのももどかしいとばかりに魔法を使うための杖すらもその手に持たずに、だ。
「あーーーっ」
空賊、船員区別無く誰もが叫ぶ。
ワルドですら杖を抜こうとした手が一瞬鈍ったほどだ。
「アンリエッタ!」
いち早く動いたのはウェールズと呼ばれた青年の杖だ。
彼の呪文と杖は風を呼び、アンリエッタの体をふわりと持ち上げる。
そしてアンリエッタはウェールズの広げた手の中に、文字通り飛び込んでいった。
「ウェールズ様、ウェールズ様、やっとお会いできました」
胸の中で泣くアンリエッタの肩にウェールズはためらいながらを手を置いた。
「アンリエッタ……なぜここに?こんなところに?」
「ウェールズ様にお会いするため、ただそれだけのためにです」
ウェールズは手に力を込め、今度はしっかりとアンリエッタを抱きしめた。


「あのお姫様、思ってたよりずっと思い切ったことするわね」
「今思い返したら、昔からかなりすごいことしてたと思う」
「まあ、離ればなれになっていた二人。しかも、片方は戦地で命を散らそうとしてたんだ。ここは大目にようじゃないか」
「本気でそう思ってる?」
「……いや、かなり怖かった」


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