あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ご立派な使い魔-07


武器を買いに行く。
ルイズが唐突にそう言い出したのは、虚無の曜日の朝だった。

「武器よ。武器が必要なのよ」
「ほう、小娘。随分唐突じゃな」
「……唐突でもなんでも武器が必要なのよ」

マーラをじと目で睨みながら、ルイズは続ける。

「早急に武器を買わないといけないわ。だから今日、早速武器屋にいかなきゃいけないの」
「まあ、小娘が行きたいというんならそれもよいわな」
「……マーラ。あんたもついてくるのよ」
「ほうほう」
「そうよ、武器よ……武器なのよ……」

別に誘惑の霧をかけられた訳でもないのに、ルイズの目つきは危ない。
ただこれは、連日の睡眠不足とストレスによるものなので、シエスタのそれとは違っているが。
いずれにせよ、ルイズはそのまま外に出て、馬に乗ろうとした。と、そこで。

「そんなもんに乗る必要なぞあるまいて」
「え?」
「ワシに乗ればよかろう。馬なんぞより速いぞ」

速いと言われても。
乗れって?

「のののの乗れる訳ないでしょ。何言ってるのよ?」
「乗り心地は悪くないと評判なんじゃぞ。リリムあたりとかにのう」
「い、いや……乗り心地とかそういう問題じゃ……」

モノがにじりよってくる。
ルイズは後ろに下がるが、たちまち壁に行き当たった。

「ちょ、やめ……」
「グワッハッハッハ! 相変わらず遠慮しよるわ、小娘め!」
「ち……違っ……やめてってばぁぁぁぁ!?」

本当に乗り心地は悪くなかった。
しかもスピードは馬を相手にしないほど速かった。
揺れもなかったし、快適極まりない旅だった、が……

「何人くらい……見られたのかしら……」
「ワシが数えていた限りでは、238人くらいじゃの」
「か、数えるなぁぁぁ!」

学院から城下町まで。
マーラにまたがって爆走する魔法使いを目撃した人数、実に238人である。
これが何を意味するかというと、まあ、考える必要すらない。

「も、もう、もうおしまいよ。何度おしまいになったかわからないけど。
 あ、あんたに乗った姿なんて……ど、どう見ても痴女じゃない……」
「グワッハッハ。悪くあるまい!」
「悪いわよ!」

しかも現在進行形で嫌なのが、こうしてマーラと街を歩いているとやたらに拝む連中がいるというものだ。
いつも混雑しているはずの通りが、何故か今日に限って広々と空いている。
かといって人がいないのかというとそうではない。
通りの脇や、路地。建物の窓など、あらゆる場所からルイズとマーラを注視しているのだ。
そして時折、手を合わせて祈るようなポーズをとっている者までいる始末だから恐ろしい。

「なんというご立派……一目見ただけで確信した、あのご立派は間違いなく霊験あらたか」
「ありがたや、ありがたや」
「あれが噂の『ご立派なルイズ』か……」

ここにまで名前が広がっているらしい。

「やめて見ないでそんな有難い視線を注がないで……あああああああ、もう……」
「どう見ても賞賛と畏敬の視線ばかりではないか。嫌がることなどあるまいに」
「喜べるか!」

治安の悪い通りのはずだったのだが、この辺りは。
それがこんなにも広々として。札付きの悪党どもまで、ルイズに尊敬の視線を注いでいる。
それが、ああ、それが……こんなにも破滅的な気分を醸し出すものとは。ルイズは知らなかった。

「やめてぇぇぇぇ……もうほんと、見ないでぇぇぇ……」

そしてようやく武器屋に辿り着く頃には、またしてもルイズは疲れきっていた。
今まで、侮蔑と冷笑の視線は浴びなれてきたと思っていたルイズである。
が、その逆の憧れの視線がこんなにも辛いものとは、知らなかったことだ。

「しかしのう。そういえば、小娘よ」
「何よ」
「何故に武器を欲しがるのかね。メイジは武器なぞ持たぬものじゃろうに」
「理由は……すぐに教えてあげるわ」

それでも目的地には辿り着けたのだ。
こうなれば目的を果たすまでだと、ルイズは気合を入れ直す。
入れ直して、武器屋に突入した。
当然、マーラも一緒についてくる。
その気配を感じ取った主人が顔をあげて、ルイズとマーラを見るや否や。

「申し訳ありやせん! そちらの旦那以上に立派な武器はうちに一本もありませんや!」

直立不動で立ち上がり、そんなことを言うのだ。

「だ……誰もそんなの聞いてないわよ!」
「へ? それじゃあ、どんなご用件で?」

一応、ルイズが貴族だということにも気づいたらしい。
それなりにへつらっている、が、その視線はマーラに向いていた。
武器を扱うものとして、この姿からは目が離せないようだ。

「いやしかし、旦那ときたら実にご立派ですなぁ。
 うちも長いこと剣を売っていやすがね。いや……まったく惚れ惚れとしまさぁ」
「そっちはいいから! 用件があるのは、私!」
「はあ……で、どんなご用件で?」
「こやつを殺せる武器を頂戴」

指でマーラを示す。示されたマーラは、そう言われてもいつも通りのままだ。

「小娘は照れ屋じゃからのう」
「誰も照れてないって何度言ったらわかるのよ」

それで。

「はあ……まあそりゃあ、用立てられるってんならうちは何でも売りますがね。
 ですがそちらの旦那……こりゃあ無理でさ。うちの武器じゃ足元にも届きませんや」
「どういうことよ」

そう問われた店主は、一度奥に引っ込んで、しばらく何かごそごそとやっている。
そして戻ってくると、その腕の中に恐ろしく無骨で凶悪そうな剣を抱いていた。

「装飾なんか気にかけず、徹底的に破壊力にこだわって作られた一本なんですがね」
「へえ……見た目は悪いけど、なかなか強そうじゃない」
「しかしねえ、若奥さま。確かにこいつは、一見すると強そうでさ。
 だがそちらの旦那と並べて御覧なさい」

言われた通りに、その剣をマーラと並べてみる。
すると、たちまち違いが明らかになった。
大きくて太い剣だから、これなら……と思っていたルイズも、いささか戸惑う。

「ご覧の通り。旦那と比べたら……いやはや、お恥ずかしい限りでさ」
「そこらの剣なんぞでワシに並ぼうとは、片腹痛いわな」
「いやまったく! 旦那にゃあ敵わねえや!」

店主とマーラは声を揃えて笑う。
なんというか、マーラと比べてしまうと、大きくて太い剣も貧相で粗末なモノにしか見えない。

「笑わないで! ……も、もっと大きくて太いのはないの?」
「へえ、まあ、純粋に値段だけなら高いのは何本かありやすがね。
 ですが大きさ太さ硬度となるとこれは……こいつが、旦那には及びもしなかったこいつが一番の業物なんでさ」
「そう。……やっぱりね」

落胆の色を隠せないルイズであったが、しかし同時に当然だろうとも思う。
まがりなりにもメイジであるギーシュを打ち破ったマーラなのだ。
こんな武器屋に売っている程度の武器で倒せるなら、苦労などしない。
それでもひょっとしたら、という思いで来てみたものの、やはり予想を覆すことは出来なかったらしい。

「期待はしてなかったからいいけど。でもこうなると道中のあの恥ずかしさが全部無駄になっちゃったわ……」

結局無駄足だったという事実がますますルイズの気持ちを落ち込ませる。
対して店主はマーラをうっとりと眺め続けているようだ。

「それにしても、こうして旦那を拝めるだけで若返った気分になりますな。
 どうでしょう、旦那。旦那に比べちゃ貧相なモノしかありませんがね、うちのをお一ついかがで」
「折角じゃがな、ワシは武器なぞ使わぬ。己のモノだけで勝負するわな」
「でしょうねえ……旦那ほどとなると、それが何よりでしょうからねえ……」

なんだかその光景が不愉快で、ルイズはさっさとここを引き払おうと決めた。
くるりと振り向いて、出て行こうと歩き始めたその瞬間。
思わず、乱雑に積まれた剣にぶつかってしまう。

「きゃっ」
「あでっ」

床に、ぶちまけられた剣が広がる。
が、今確かに、その剣の中から妙な音が聞こえたように思えた。

「え? 今悲鳴が……」
「ああ。そういや今日は妙に静かだな……おいデル公、珍しいじゃねえか」

店主がその剣に向かって声をかける。
どうしたんだろう、とルイズは見守ってみる。

「おいデル公。おい。おいってんだよ!
 ……ったく、どうしたってんだ。いつもならあんなにうるせえのに」

店主は、その剣の一本を拾い上げると、難しい顔で見つめた。
錆の浮いている、あまりよい剣とも見えないモノだが。

「ほほう。面白い剣じゃのう、店主」
「へ!? ああ、お分かりになりますかい、旦那。流石ですな」
「な、な、何? その剣、どうしたの?」
「へえ、若奥さま。こいつはですね、インテリジェンスソードなんでさ。
 まあやかましいだけでろくに売れもしねえ……デル公! おい! 聞いてんのか!
 まったく……黙り込みやがって」
「喋るの? その剣」
「喋るはずなんですがねえ。どうしちまったんだ? こいつは」

不審げにその剣をぶんぶんと振り回す店主である。しかしやはり、剣はうんともすんとも言わない。

「どれ、ならばワシが使こうてみせようかの」
「お、旦那、やってみますかい?」

そう言って、マーラがにじり寄ろうとする。……すると。

「や、やめて……さ、触らんで、頼むから」

本当に喋った。だが、妙に弱弱しいのが気にかかる。

「何言ってやがんでえ。こちらのご立派な旦那が、お前みたいなのを使ってくれようってんだぞ」
「ば、バカ野郎。ご立派って、そりゃどう見ても……」
「どう見てもなんだよ」
「い、言えるか! んなこと!」

この剣。どうやら、マーラの姿に怯んでいるようだ。
そのやりとりを聞いて、ルイズはじっと剣を見つめる。

「グワッハッハ。奥ゆかしい剣じゃのう」
「へえ、まったく、剣の分際で妙に恥ずかしがりやがって……」
「構わんわな。どれ、握り心地を試してみようではないか」
「や、やめろ! 触るな! 俺に近寄るなってんだよ!」

あの態度。今まで誰からもご立派ご立派と言われ、うんざりしていたルイズだったが……
こういう反応をする人、この場合は剣か……それは、意外と新しいんじゃないだろうか。

「なに、嫌よ嫌よも好きのうちというてな。ワシの手にかかれば最終的には同じことよ」
「いやぁご立派だ!」
「な、納得するなこの野郎! やめろ! やめてくれ! その……アレで俺に触るな! やめ……
 やめっ……やめろ、やめ……いやああああああ!」

マーラがしっかりとその剣を握り締めた。
しばらく剣は悲鳴をあげていたが、やがてぐったりしたように言葉を無くす。

「汚された……俺、汚されちまったよ……もう、綺麗な身体じゃねえよ……」
「握りは悪くないわな。じゃがやはりワシが使うものではないわ」
「ま、そうでしょうな。しかしデル公め、生娘でもねえってのにみっともねえ」

しくしくと泣いている剣を、店主はマーラから受け取る。
そのまま元の山に戻そうとするが、そこに。

「待って。その剣、私が買うわ」
「若奥さまが……ですかい?」
「そうよ。おいくら?」
「新金貨100……あ、いや。ここはご立派な旦那のご主人ですから、ただで構いませんや」

それは、正直なところ助かるルイズである。
剣というのはこれで結構高いから、無料というのは嬉しい。
それに、この剣なら。今の自分の境遇だって、わかってくれるはず。

「娘ッ子……もう俺は清い体じゃなくなっちまったよ。それを買うってのかい……?」
「ええ。私だって、もう……」
「そっか。娘ッ子、おめえもか……」

この瞬間、確かにルイズと剣の心は通じ合った。

「貴方、名前は?」
「デルフリンガー。娘ッ子……おめえは?」
「ルイズよ」

ルイズは、その剣、デルフリンガーを胸に抱きしめた。
あの使い魔を呼び出した時から狂ったようなこの世界の中で、唯一信じられるモノを見つけた気分だった。

「仲良きことは美しきかな。グワッハッハッハ」
「なんだか知らねえがまったくですなぁ」


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