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ゼロのエルクゥ閑話6


 ニューカッスル城の決戦は、数時間の戦いとも言えぬ戦いの後、王党派の勝利で幕を閉じた。
 まさに、始祖ブリミルのお導きとしか言えない、思いもかけずもたらされた勝利に、王党派軍の貴族達は狂喜の歌を歌いながらニューカッスルに凱旋したのだった。

「すると、ヴァリエール嬢は彼女らに連れられていったというのだね?」
「はい。同じ学院の制服を着ていましたし、正直、今以上の治療は、ここでは無理でしたもので……」
「いや、いいよ。このままここに置いておくよりは安全だろうからね。ご苦労だった。水メイジの皆には、ゆっくり休んでくれるよう伝えてくれ」
「は、はいっ。失礼しますっ」

 負傷したルイズの世話係につけておいた水のラインメイジの女性の報告を聞いて、ウェールズは静かに胸を撫で下ろした。
 先の吶喊に失敗した場合、非戦闘員を乗せて脱出するマリー・ガラント号に同乗させる予定だった。
 これ以上ない勝利を収めた今、とりあえず脱出船を出す必要はなくなったが、まだ内乱が終わったわけではない。彼自身の心情としては、ルイズ一人だけでも乗せて送り返したいところだったが……状況がそれを許さなかった。
 王党派唯一の艦船だったイーグル号を焼き討ち船にしてしまったので、マリー・ガラント号を手放すわけにはいかないのだ。
 女性メイジの報告は、言い方は悪いが―――渡りに船、というところだった。
 ちなみに、マリー・ガラント号とその船員は、王党派に雇われる形になっていた。首都の王城、ハヴィランド宮殿が陥落する際に持ち出した財宝は、硫黄の代金を補って余りあった。

「さて、頭を失った彼らがどう出るか……」
「人形が影武者でなければよいのですがなぁ」
「祝宴中に不吉な事を言わないでくれよ、パリー」

 出陣前の最後の晩餐であったパーティの用意は、勝利を祝う宴へと看板を替え、盛大に実施されていた。
 勝利の熱狂に酒精が振る舞われる中、伝令の兵士が息を急ききってその場に飛び込んでくる。

「ほ、報告致します! レコン・キスタ軍旗艦『レキシントン』号、サー・ヘンリ・ポーウッド艦長より入電! 『我ら『レキシントン』以下、レコン・キスタ艦隊全艦艇、王党派に降伏の意を示す』『レキシントン』号は砲門を閉じ、白旗を掲げています!」
「しゅ、首都ロンディニウムよりの風竜便!? 『我ら裏切りの事実無し。陛下に変わらぬ忠誠を』!?」
「シティオブサウスゴータからの報告!」
「こちらはロサイスからです!」

 そして、勝利に沸くニューカッスル城に次々ともたらされる報告は……2年に渡るアルビオン内乱の終結を意味していた。

「それらの報告、間違いないのだね?」
「はっ! ロンディニウムに置かれていたレコン・キスタ首脳部は高官がすべて原因不明で気絶し機能を喪失。シティオブサウスゴータ、ヤーマス、ロサイス、スカボロー、ハリッジ、ハートルプール等、各主要都市も同じ状況のようで、次々と恭順の意を示してきています」

 祝宴から一転、緊急の軍議が開かれる。舞い込む報告の山に、居並ぶ貴族達は微妙な表情をしていた。
 反乱軍総司令官オリヴァー=クロムウェル討たれるの報が島中を駆け巡ると同時に、各都市、各艦に待機していた司令官達がばたばたと倒れたというのだ。


「……パリー。偽りの白旗である可能性は?」
「低いでしょうな。負けた場合に仕込んでおいた、と考えられなくもないですが……此度の戦いにすらそんな場合を想定しておくような策謀を持つ軍師がレコン・キスタにいるのならば、自分らはとっくの昔に始祖の元に召されておるか、叛徒どもを蹴散らしておる事でしょう」
「違いない」

 そしてロンディニウムに使者を送れば、報告が事実であったのみならず、さらに異常な事が次々と発覚する。
 その気絶した高官達全てが、内乱の蜂起時からのメンバーや、ここ一番という戦いで貴族派に寝返った将であり……そして、目覚めた時にはそれらの事を覚えておらず、ある一定の時からの記憶がないと言うのだ。
 それは例外なく、彼らがクロムウェルと対面した時からであった。
 蜂起時のメンバーである一人の領主などは、自らの記憶から2年が経っていると聞いて冗談を言うなと笑い飛ばし、その後に成長した娘の姿を見て驚愕の余りもう一度気を失ったという。
 何らかの精神操作の術で、この反乱は『起こされた』のだ。

「……そういうカラクリか。ガリア王ジョゼフ、なんと卑劣な……!」
「アルビオン騎士の精強さ、教育してやる必要がありそうですな」
「ああ!」

 クロムウェルのスキルニル、その最後の言葉を聞いていたウェールズはそう結論付け、それらの証言を全て信用し、咎めをなしにするという英断を下した。
 それにより、アルビオンの内乱は速やかに収まっていったのだった。

§

 ガリア王国とトリステイン王国の国境にその水を湛えるラグドリアン湖の畔には、二つの家が存在する。
 一つはトリステイン側、先代までラグドリアン湖に住む水の精霊と王家との交渉役を任されていたモンモランシ家がある。失態を犯した今はその役から外され、湖畔部だけは別の家の土地となってしまっているが、国替えとまでは至らなかった。
 そしてガリア側は、ガリア王家の直轄領となっていた。畔から少し離れた森の中、世を忍ぶようにひっそりと、一つの屋敷が建っている。
 掲げる家門は、交差した二本の杖。ガリア王家の紋章である。
 しかしその紋章には、赤くバツの字が描かれていた。不名誉印と言い、王族でありながら、相続権を失った証であった。

「失礼、ここはオルレアン王弟家でよろしかったでしょうか?」
「……その通りですが。失礼ながら、どなた様でしたかな」

 その屋敷の門を訪問者が叩くのは、非常に珍しい事であった。
 緑色の司祭服に身を包んだ、冴えない中年の司教といった風情の男だった。この屋敷に唯一仕える従僕の老人は、怪訝な顔を隠せないままに応対する。

「オリヴァー・クロムウェルと申すしがない司教です。……サイト・ヒラガ殿の使いにより参りました」

 司教が答えると、老執事が目を剥いた。
 瞬時に、彼から言い含められていた言葉を思い出す。

「……『えいちえむえっくすとぅえるぶ』とは?」
「『まるち』……でよろしかったですかな」

 老執事の口にした暗号のような問いに、司教―――クロムウェルが答えると、老執事は喜色を満面に浮かべた。

「おお、おお! それは確かにサイト様が残した合言葉! 大変失礼致しました。私、この家に仕える執事、ペルスランと申します。不明をお許しください」
「事情は概ね聞いております。気にしてはおりませぬ」

 一礼し、門をくぐるクロムウェルの右手には、深い藍色の石を載せた指輪が静かに光を湛えていた。

§

「サイト!? あんた、アルビオンに行ってたはずじゃ……?」
「ちと野暮用でね」

 ガリア王国の王城、ヴェルサルテイル宮殿は、王国首都リュティスの郊外に位置する。
 今も各地から集められた職人達の手によって拡張を続けているその宮殿の中心、青いレンガで作られた巨大な王城『グラン・トロワ』が、王の居城である。
 そして、そのヴェルサルテイル宮殿の端。桃色のレンガで作られた離宮『プチ・トロワ』の主、王女イザベラは、座っていた椅子の裏に突然現れた訪問者に目を丸くした後、どこか安堵したかのようにその表情を緩めた。

「はン、私に会いにくるのが野暮だってのかい? 使い魔サマは随分と偉くなったもんだねえ」
「そ、そういうわけじゃねえよ」

 王女の座る謁見用の椅子の裏に出現した怪しいローブ姿の男を見ても、傍付きの侍女は驚く素振りも見せなかった。
 いや、それどころか……男に向かってツンとした態度を取る王女に、どこか微笑ましいものを見るように―――例えるならそれは、初々しく手を繋いで頬を染め合う学生カップルを見かけた時のような―――顔を綻ばせてさえいる。

「それで? ホントにただ会いに来ただけって訳じゃないんだろ?」
「ああ。実はな―――」

 ―――ローブ姿の彼、サイト・ヒラガ……日本人、平賀才人がこのハルケギニアに召喚されたのは、今から4年か、5年ほど前の事になる。

§

 その日才人は、両親と温泉旅行に出かけていた。まだ元気印の中学生だった彼はその名前まで知らなかったが、北陸地方のどこかだったとはおぼろげに覚えている。
 温泉街の中心にあるとんでもなく大きなホテルにチェックインし、その豪奢さに目を輝かせながら、さて観光地巡りだと街に繰り出す。
 そして、お土産選びに夢中の両親から少し離れ、自動販売機でジュースを買おうとした時だった。
 手を滑らせて、お金を落としてしまう。そのまま、ころころと転がっていく100円硬貨。
 中学生にとって、自由に使える100円はとても貴重である。
 いつもはケチんぼな両親も旅行となればさすがに財布の紐は緩くなるのか、才人は特別にお小遣いを貰ってはいたが、だからといって目の前で100円がなくなるのを黙って見ているほど才人はセレブな感性を持ち合わせていなかった。
 才人は、転がっていく100円玉を慌てて追いかける。その時だった。

「あらあら。はい、どうぞ」

 と、自らの足元に転がってきた硬貨を拾い上げ、才人に差し出してくる人影。

「…………」

 才人は、思わず見とれてしまった。それが、とんでもなく綺麗なお姉さんだったからだ。
 才人より少し年上の、高校生ぐらいだろうか。整った顔立ちは薄く微笑みを浮かべ、まっすぐに伸ばされた鴉の濡れ羽色の髪がセーラー服の襟に掛かって、そよそよと風に揺れている。

「あれ、あなたのじゃなかったかしら?」
「あ、は、はいっ。お、俺のっす!」

 慌ててその手から100円玉を受け取った。真っ白で綺麗な指が微かに触れて、才人の心臓は大きく跳ね上がった。

「ど、どうもありがとうございましたっ!」
「うふふ。元気な子ね。はい、どういたしまして」

 にっこり、と笑いかけてくれる。
 かーっと顔が熱くなった。才人は恥ずかしくて地面を向いてしまう。

「千鶴姉ーっ。何してんのさーっ」
「ああ、今行くわよ梓。それじゃあね」

 ばいばい、とそのお姉さんは才人に向かって軽く手を振り、妹達なのだろうか、近くにいた彼女より歳下らしい女の子達の輪に戻っていく。
 顔を上げ、ぎこちなく手を振り返しながらぼーっとそれを見ていた才人だったが、次の瞬間、その顔が驚きに歪んだ。
 お姉さんの歩いていく先に、突然、光り輝く大きな鏡のようなものが現れたのだ。
 向こうに歩いていきながらこちらに向かって手を振っているお姉さんは、それに気付かない。

「お姉さん、危ないっ!」
「えっ!?」

 才人は、考える前に飛び出していた。
 どんっ、とお姉さんを横に突き飛ばし、謎の物体との衝突を避けた―――まではよかった。

「うわわわわわわっ!?」

 問題は、考えなしに飛び出したためにその勢いを殺しきれず、才人自らがその物体に突進してしまった事であった。
 来るべき衝突の衝撃に目を閉じる才人。だがそれは訪れなかった。
 あれ? と首を傾げて目を開けた時、視界に入ってきたのは、その鏡がまるでスライムか何かのようにてろりとその形を変え、才人を中に飲み込もうとするところだった。
 辺りが真っ白な光に包まれ、いつの間にか気が遠くなっていき……。

「ほう。貴様が俺の運命とやらか」
「へ? へ?」

 気が付いたら、まるでドラクエかFFかというような大広間の玉座に、王様が座っていた。
 いや、服装こそ王様でおっさんだけど、顔はなんだか……タチの悪い近所のガキ大将みたいだ、と、混乱する頭で才人は思った。
 ……そのすぐ後、そのおっさんに無理矢理ファーストキスを奪われてしまったのは、恐らく才人にとって一生のトラウマだ。
 そして、その悪夢のようなマウストゥマウスから解放された直後、才人の頭に割れるような痛みが走る。
 息も絶え絶えにそれが収まった時―――彼は、神の頭脳を得たのだった。

§

「―――まあそんなわけでね。その変な怪物のせいでアルビオンが負けちゃったんで、帰ってきたトコ」
「そうか。まあ、お父様の思う通りに事が運ばなくって良かったってぇところだが」

 アルビオンで自らが行っていた事について話し終わった才人は、やれやれと肩を竦めた。

「一応仕込みはしといたから、すぐに元に戻ると思うけど……」
「しばらく混乱は免れないだろうな。わかった、それはこっちでなんとかしておくよ。その怪物ってのも調べとこう」
「ああ。ありがとう、イザベラ」
「フン。とってつけたような礼なんて言うんじゃないよ、気持ち悪い」

 ぷいっと顔を背ける蒼い髪の少女の頬は、微かに赤くなっている。侍女達の含み笑いが少しだけ強くなった。

「……なあ、サイト」
「なんだ?」
「何とか、なりそうなのか?」
「ああ、何とかしてみせるさ。この間いいものも見つけたしな」
「そう、か……」

 二人以外にはわからない、秘め事めいた会話を交わすと、イザベラは表情を曇らせて俯いてしまう。

「俺に任せなって。タバサの母さんの方は何とかなったんだ。絶対、あいつを元の優しいお父さんに戻してやるからさ。な?」
「うん……」
「ははっ。いつもそうやって神妙にしてりゃ可愛いのに」
「……っ! 馬鹿ばっか言ってないで、用が済んだらさっさと行きなッ!」
「おう。じゃあなー」

 笑いながらフードを目深に被ると、サイトは風景に溶けるようにして消えてしまった。

「……ったく、あいつは……っ!」

 腹立たしげに椅子に座り直したイザベラの表情がどこか嬉しそうだったのは、侍女達だけの秘密である。

§

「……貸し出せし秘宝、確かに返してもらった」
「精霊のお慈悲に感謝致します」
「よい、単なる者よ。『サイト』『クロムウェル』のお前達二個体は、我との約束を守った。我がそれに応えるのは当然の事」

 ラグドリアン湖の水面からにょっきりと人の形―――それは、サイトにそっくりの、全裸の少年姿だった―――に生えていた水が、その手の中に乗せられた藍色の指輪と共に、ちゅぽん、と水の中に沈むように消え去っていった。
 それは、水の精霊と呼ばれる、古き水の魔法の力を今に伝える全能の存在であった。

「やァれやれ。これで一仕事終了、だな」
「地下水君は、どうするんだい?」

 湖畔に跪いていた緑色の司教服を来た男、クロムウェルが立ち上がり、膝についた砂を軽く払った。
 その手に持たれた短剣から、気だるそうな声が聞こえてくる。

「あいつも言ってただろ? 適当なチンピラにでも渡してくれれば、勝手に帰るさ。ったくめんどくせぇ。なぁにが、『きちんと仕事してる人を操ったらその人の家族が心配するから、取り付く奴は選べ』だ」
「はは。でも、その通りだと思うよ。急に人が変わったり、どこかに行ったりしてしまったら、本人も周囲の人も困ってしまうからね」

 空を見上げる。ラグドリアン湖は、今日も変わらず、その風光を明媚に保っていた。

「サイトくん、どうか無事に生きてくれよ」

 すっかり忘れてしまっていた始祖に対する祈りの礼式を思い出し、湖に向かってそれを行うと、クロムウェルは静かにその場を立ち去っていった。

§

「それは事実なのですね? ユーヤ」
「ああ。間違いはない」

 その部屋は、まるで図書室か、魔法アカデミーの研究員の部屋のようであった。
 様々な本や書類の類が、机や床にまで雑然と詰まれている。一目見せられただけでは、とてもここが―――宗教皇国ロマリアの中心部、ロマリア大聖堂の教皇謁見室だとは思わないだろう。

「俺以外のエルクゥが、この世界に現れた」

 部屋に立つ二人の男のうち、ユーヤと呼ばれた、ハルケギニアではあまりに奇妙な服―――それは、彼の世界では背広と呼ばれるフォーマルスーツである―――を着た黒髪の、がっしりとした体つきをした男は、静かに言い放った。

「そうですか……虚無が、胎動し始めたのですね」
「お前が言うのなら、そうなのだろうな」

 もう一人、こちらはどこか線の細い印象を受ける、流れるような金の髪を長く伸ばした男だった。
 彼―――ロマリア宗教庁教皇、聖エイジス三十二世、ヴィットーリオ・セレヴァレは、手に本を広げ、薄く微笑みを浮かべたまま、男の話を聞いている。

「あなたは、どうするのですか? ユーヤ」
「……どうもしない。お前が決めた事に従おう」
「良いのですか? 同じ世界の、仲間なのでしょう?」
「顔を少々見知っているだけさ。一方的にな。それに―――」

 黒髪の男―――柳川裕也は、不思議な紋様の刻まれた右手を掲げ、自嘲気味に笑う。

「―――どうせ、お前に拾われなければ、エルクゥに押し潰されていた存在だ。お前の好きに使うといい」

 ゆっくりと、その右手の紋様が光を放ち、明滅する。それは―――彼の体内の猛獣が、完璧に制御されている事を示していた。

「わかりました。ありがとうございます」

 ヴィットーリオは、静かな―――人が浮かべるにしては静か過ぎる、どこか狂気さえ感じられる微笑みを、崩さないままだった。

「きょ、教皇猊下! ほ、報告致します!」
「それほど慌てて、どうかしたのですか。落ち着きなさい」

 そこに、息せき切った様子で、純白の鎧に身を包んだ聖堂騎士が飛び込んできた。

「せ、"聖地"への密偵からの急便です! "聖地"に、巨大な山が現れた、と!」

 ―――教皇の微笑みが、微かに深くなった。


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