あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ナイトメイジ-15


風をはらむ帆を広げ船は行く。
舷側にもたれかかる銀髪少女は金の両目を空に浮かぶ大地に向けていた。
それこそが浮遊大陸アルビオンである。
少女はフネの外に出した手でアルビオンを隠し、かすかかに笑う。
それを見た者たちは少女が旅に心躍らせていると思っていた。


銀髪金眼の少女ベール・ゼファーの手に光が灯る。
その光は彼女は手に合わせて、フネのそばで踊っていた。
それを見る者はいない。
当然だ。ベルはそれをここにいる者には見せていないのだから。
見ているのか見ていないのかもわからない誰かに見せているのだ。
光はこの先に起こるかもしれない何かを想像するベルの心のままに、飽きもせず踊り続けていた。


「あーーーっ、いた。こんなところにいた!」
小さい体とは不釣り合いに、風にも負けず雨にも負けそうにない声でルイズは自分の使い魔に叫んだ。
その声を当然ながら聞きつけたベルは風になぶられて目に入りそうになた髪をかき上げながら振り向いた。


ベール・ゼファーは振り返りながら踊る光を捕まえ、手の中に握りしめる。
「見てくれてたらいいんだけど」
彼女が手の中で光が粉々に砕け散り、それもすぐに空に溶けて消えた。
果たしてそれは彼女が見せたかった誰かに届いたのだろうか。


「後で何かあったら教えなさいって言ったでしょ!それに、フネが出てもちっとも部屋に来ないし。こっちはずっと心配してたのよ」
「へえ、ルイズが私の心配してたんだ」
「あ・た・り・ま・えでしょー」
ただしベルの身を案じるの半分、ベルが何か想像外のむちゃくちゃをやらかさないかの心配半分と言ったところだ。
「あなたのワルド様には聞かなかったの?」
「え?」
「わかってるみたいだったけど」
ぱたぱたと足音が風の中に混じって聞こえてくる。
スカートをちょっと持ち上げたメイド姿のアンリエッタと、それを護衛するために後ろに控えるワルドがルイズに追いついてきていた。
「もう、ルイズ。いきなり走り出して」
「あ、はい。あの、ワルド様。もしかしてベルが残った理由を知っていたのですか?」
「ん……まあね」
ワルドは風上に動き、マントを少し広げた。
この高度の風はいささか冷たく体には良くない。
彼の体とマントがそれを遮り、ルイズとアンリエッタを守った。
「得体の知れない仮面をつけた男が僕たちを追って階段を上ってきていた。だから君の使い魔はあそこに残ったみたいだね」
「え……で、どうなったのよ」
「どうなってもいないわ。つまらない男だったから軽く追い払ってやったの。ギーシュを使って」
──ああ、そういえば
確かギーシュもベルと一緒に残っていたはずだ。
今の今まですっかり忘れていたけど。
「そのギーシュはどこに行ったのよ」
「ああ、ギーシュなら……」
言いよどむベルは、まるでラ・ロシェールの桟橋を見るようにフネの後ろをみる。
そして、指を目頭にやりそっとぬぐった。
「まさか、ギーシュ・ド・グラモンは……」
おびえて口を両手で覆うアンリエッタにベルはけろっとした顔で言った。
「生きてるわよ。階段の手すり壊して落ちていったけど。フライの呪文が聞こえたし生きてるでしょ」
「あんたねぇーーー」
アンリエッタと同様に最悪の事態を考えていたルイズの反動は激しいものだった。
ベルの襟元をつかんで怒鳴り散らす。
「紛らわしいことしないでよ!こっちは本気にしたのよ」

「私はまだ何も言ってないわよ」
「ルイズ落ち着いて」
危機を感じたアンリエッタが慌てて止める。
詰め寄るルイズはベルごと船縁から落っこちそうになっていたのだ。
「あの男を追い払ったとは、ね。君はつまらない男と言ったが、あの男の腕は悪くはないはずだが。私は階段の隙間から見えた姿から判断するしかないのだがね」
「そんなの関係ないわ。腕が立とうが立つまいがつまらない男はつまらない。相手にする気にならなかった。それだけ」
ベルとワルドの間の距離は約三歩。
それだけを空け、ワルドはベルを見下ろしていた。
「これは失敗したかな」
「あら、何かしら」
「早めに申し込んでおけば、と思ってね」
その言葉をルイズは逃さずに反応する。
「申し込むって何をですか?」
──ま、ま、ま、まさか!!
と言うわけだ。
「手合わせ、あるいは試合だよ。
 君たちがフーケを追い返したというのは聞いていた。
 そのときからルイズが召喚した使い魔に興味を持っていたんだ。
 だが、あってみればこの通り細腕の少女だ。
 何か策を使ったと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。
 アルビオンまではまだかかる。甲板で一つどうだろう」
その申し出に驚いたのはベルではなく、ルイズとアンリエッタだ。
当のベルはそれがなんでもないことのように表情一つ変えず周りの景色をぐるり眺める。
「そうね……やめておきましょう。結果のわかっている勝負なんて面白くないわ」
「当然よ!」
その返答にルイズはほっとしていた。
尊敬する婚約者の申し出とはいえ、あまりにばかばかしいものだ。
「ワルド様はね。風のスクエアのメイジなの。ベルなんかに勝ち目があるわけないじゃない」
「スクエアって事は、最高峰のメイジって事よね」
「そうよ」
ベルは再び周りの景色に視線を巡らした後、金の視線をワルドに向けた。
「なら、やっぱり勝敗は決まっているわね」
「そうそう。当然ワルド様が勝つに決まっているわ」
「あら、何を的外れなことを言っているの?」
くすり。
風の強いフネの上でもベルのそんな笑い声が聞こえたような気がした。
「偉大なる存在となるルイズ・フランソワーズの召喚した使い魔、ベール・ゼファーの勝利に決まっているじゃない」
「な……」
この使い魔は時に二の句の継げないことを言ってルイズを困らせる。
今がまさにそのときだ。
「な、な、なにいってんのよ」
「なるほど……だが、ルイズはそれを信じてないようだね」
「当然です。ワルド様が負けるわけありません」
「それは困った」
「え?」
「僕の君を見る目を信用してもらっていないという事じゃないか。これは……困ったぞ。婚約者としては大問題だ」
「え?え?え?え?え?え?」
うろたえまくるルイズはどうしたらいいかわからない。
ワルドとベルは何か面白そうにルイズを見ているだけだ。
それを見るとルイズはさらに慌てる。
そんなルイズをみて、アンリエッタはため息混じりに口を挟んだ。
「ワルド子爵、それにベール・ゼファー様。お願いですから、ルイズをそんなにからかわないでください」
それを合図にワルドとベルは同時に笑い出す。
しばらくかかってやっと状況が読み取れたルイズがふくれっ面をした頃に、ベルは船縁の外に手を出し、遠くの何かを指さした。
「それに、もう手合わせなんてやってる暇はなさそうよ」
その何かは徐々に姿を明確にしていく。
それは一隻の黒いフネ。
しかも戦いのためのフネだった。

マリー・ガラント号に近づきつつある黒いフネの上で舵を握る男は獲物を狙う鷹のような目をさらに細めた。
「こういうのを僥倖というのだろうな」
戦いのために作られたこのフネは輸送船であるマリー・ガラントより速度に勝る。
追いつくのはさして難しいことではない。
だが、
「既に、時間の少ないこのときに見つかるとはな」
たとえ航路がわかっていたとしても広い空の上で獲物を見つけるのは難しい。
時間の限られている今はなおさらだ。
「してみると、あの光……ブリミルの導きだったのかもしれん」
今から少し前のことだ。
獲物を探す彼らの見張りは雲の中に見慣れぬ光を見つけた。
なんの光かはわからなかったが、時間のない彼らには選択の余地はなかった。
なんとしても今日獲物を捕らえなければならないのだ。
光を目指して船を進めた彼らはそこに獲物たるフネを見つけたのだ。
故に彼らは感謝した。
今は既に見えないが、光をもって彼らを導いたブリミルに。


「うまく見つけてくれたみたい。まるで炎に近づく虫ね。さあ、盛り上げましょう」


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