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タバサの場合~或いは彼女を取り巻くフクザツなカンケイについて~

「……」
朝方、まだ学院の指定する起床推奨時刻より三十分は早い時間。
まだ大人たちや使用人しか活動を始めていない時間に、蒼髪の女子生徒は目を覚ます。
タバサ――シャルロット・エレーヌ・オルレアンである。

彼女は夜毎、夢を見る。
彼女がまだ幸せだったころの夢を。
そして、幸せが奪われた時の夢を。
そうしていつも、涙を流すのだ。

彼女は起床すると、まず窓を開け、朝の静謐な空気を吸う。
そして、夢の中で流していたのであろう涙を拭うと、
跡が残っていては親友に心配されてしまうので、顔を洗いに洗面所へ向かう。
こんな時間に起床するのは、今日が特別な日だからというわけではない。
彼女はいつもこうなのである。

雪風のタバサの朝は早い。
特殊な事情により夜中や明け方に眠る事も少なくない彼女だが、それでも毎日この時間には起きている。
何故か。
実はこの習慣、彼女の飽くなき欲望によって支えられているのである。
つまりは読書欲と、食欲だ。

当たり前だが、寝起きではおなかいっぱいに食べることはできない。
そして、それでは授業中におなかが空くし、彼女の本懐にも支障が出る。
空腹に耐えつつ退屈な授業を受けるという拷問が嫌ならば、何らかの対抗策を打つしかないのだ。
しかし、何もせずに早起きするというのは苦痛である。というか、そもそも不可能だ。
二度寝という悪魔に連れ去られてしまうのがオチである。
そこで、彼女は読書欲で睡魔に対抗することにした。
するとどうだろう。
もともと活字欲と好奇心にあふれる彼女に、この目論見は大成功だった。
おかげでいつもハシバミ草のサラダを思う存分食べることができる。

まあ、本に熱中しすぎて遅刻しそうになったり、
寝不足+おなかいっぱい=睡眠の方程式が授業中に証明されたりもしたが、
そもそも初めから起床から朝食までをギリギリの時間で組んでいるようなのよりはマシだ。
某公爵家の三女には見習わせたいくらいである。

閑話休題。

ともあれ、いつも通りの一日となりそうだと櫛を通し終えたタバサが思い始めたころ、それは来た。
いつの世でも、予想というのは裏切られるためにあるのである。
――手紙を持った小鳥が、窓を叩いていたのだった。


草原を、影が走っていた。
影は黒い風となり、矢のように走って行く。
高く茂った草を薙ぎ払いながら奔るその影には、しかし一点、鮮烈な蒼が彩られていた。
蒼と黒の影が、驀地に走る。
それは、怨敵へと突き立てられる一本の剣のようにも見えた。
切っ先が向く先には、ガリア王都、リュティス。
――そして、その東端にある、ヴェルサルテイル。
影は魔法使いタバサとその使い魔、人狼のハンス・ギュンシュ大尉だ。

何人も追従させはしない、とばかりに駆ける二人だったが、しかしヴェルサルテイルに着く少々前、
不意に騎乗のタバサが速度を落とせと要求した。
ある程度速度が落ちると、大尉の背中に顔をうずめ、唇を動かさぬよう、小声で呟く。
「……城に着いたら、いつも通り、その姿で待っていて」
それは、人狼だと知られないため。
速度を落とさせたのも、力を隠すためである。
巨躯の凶暴そうな狼だ、と思われれば、それで納得されれば、タバサの勝ちだ。
立派な狼、というだけでも誇っていい結果だが、それでも人狼とただの大きな狼では、雲泥の差なのである。
こういった小細工が、いざというときに役に立つはず。
少なくとも、タバサはそう考えていた。

ヴェルサルテイルへと着く。
しっかりと地を踏みしめ、杖を握り、行ってくる、と頭を撫でる。
そして、
      ジョーカー
「あなたは、私の鬼札だから」

…だから、期待している。
そう言い残し、タバサは大尉を置いてプチ・トロワへと向かった。

さて、時間は少し戻って、タバサと大尉が黒い風となっている頃。
二人の目指す先、プチ・トロワでは、とある少女が柳眉を釣り上げていた。
いや、釣り上げて見せていた。
「……ガーゴイルはまだ来ないのかい」
ガリア王女、イザベラである。
せっかくの美人を粗野な仕草で台無しにする王女は、パチン、と扇を机に叩きつけて、
いつも通りの台詞を呟いていた。

三度目となるこの発言。
ピリピリとした空気を感じ取って、侍女たちが慌て始める。
……とはいえ、何が出来るわけでもない。
タバサ――シャルロットが来なければいつまでもこの不機嫌は続くわけだし、
常識的に考えれば、トリステインの魔法学院からこのプチ・トロワまで、まだ半刻ほどはかかるのだ。
(ああ、もう、……あの子は何をしているんだい)
順調に行けば、今はガリアの森の中。
それも、トロル鬼が出る危険な地域である。

くい、とブドウから作った飲料をあおり、溜息をつく。
なお、言うまでもなく地球で言うワインではない。一種のブドウジュースだ。
真昼間の公務時に飲んでいられるほどイザベラは豪胆な性格ではない。
そんなに強くないので、アルコールで判断を誤ると大変だ、というのがその理由だ。
もちろん、そのまま正直に話すのは恥ずかしいので「酒臭い息が嫌いなんだよ私は」と主張しているが。
結構バレバレである。
そして、実はそういう点では周りからの評価も悪くない。
本人は全く気付いていないが。

「シャ……北花壇騎士七号様は、まだお見えになっていません」
「そうかい」
分かり切った答え。
シャルロット、と言わなかったのは、学習の成果か。
なるほど、ガーゴイルと言うのは避けつつ、自分の機嫌を損ねないように配慮したわけだ。
ふん、と息を吐き、ふと思い至る。
いいかげんただ待つのに飽きが来た。
少なくとも、周りからはそう見られたはずだ。今の返答で。
それに、あと半刻ほど――ちょうどいい時間。
ならば、歓迎の準備をしなければならないだろう。
シャルロット・エレーヌ・オルレアンを疎むイザベラ王女として。

さて、今回はどんな趣向を?
あの子はどんなことをされたら腹が立つだろうか?
母親関係――は、真っ先に却下。
そんなことをしたら折れてしまう。
怪我をさせるようなこと――以ての外だ。
それが原因で死んでしまっては何の意味もないではないか。
精神的肉体的に、苦痛ではなく――そして自分のことを嫌うような。
そんな趣向というのは、案外少ないものである。
なんでこんなことをせねばならないのか、と、イザベラはもう一度嘆息した。

ああ、早くあの子に……


――あの子に、殺されてしまいたい。



この、「ともだち」の資格を失った愚かな女を。
早く断罪してほしい。
他ならぬ、あの子によって。
しかし、それは逃げだ、という事も分かっている。
自分はさっさと殺されていいような、そんな軽い罪しか背負わぬ咎人ではない。
苦しんで、苦しみぬいて死ななければならない。
何より、自分を殺してあの子が幸せになれなければ意味がない。
そう、たとえばシャルロットが自分に弓引いた時、誰もが自分ではなくシャルロットに味方するような。
そして、シャルロットが無事にその本懐を全て成し遂げられるような。
そんな死に方でなければいけないのだ。
だから私は仮面を被る。いつもの仮面を。
厭味ったらしい、無能な王女という仮面を。

…しかし、イザベラは気づいているだろうか?
いつも、何だかんだと言ってタバサを待ち焦がれる自分を、侍女たちが見ていることに。
タバサが去った後、妙にさびしそうな表情の自分の様子を、近衛たちが窺っていることに。
そして、振る舞いの割に大事な部分で存外と自分に甘い、とタバサが見切っていることに。


タバサを取り巻く複雑な事情は、今もこじれている途中のようである。




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