あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔 幕間-03



 通廊が揺れている様に思えた。しかしそれはもしかしたら自分のほうが揺れているのかもしれない。

 絶えなき砲撃と歩兵の突撃に晒されている今、このニューカッスルに残された300足らずの将兵を指揮するべく、この日のために用意した陣頭指揮所へ続く路を若き王子ウェールズは歩いていた。
 その胸は卑しき裏切りの手によって穿孔し、命の雫を床へ零し続けている。
 輸血技術のないハルケギニアの外科知識においては多量の出血は即、死に繋がる。
 若い命が燃え尽きようとしているウェールズの意識はしかし、傷の痛みを飲み込むほどに明瞭としていた。


 ニューカッスル城の閉じられた城門の内側に陣頭指揮所は作られていた。
 防杭を並べ、さらに城門自体を固定化や錬金で完全に閉じきった城門を見る事が出来る位置に、土壁と天幕で作られた指揮所があり、わずかな将兵への指示を飛ばしつつ、一秒でも長く抗戦し続けるように奮闘している。
 指揮所の脇には粗末ながら医療所が設置され、待機しているメイジたちが大車輪で負傷した兵の傷を塞ぎ、気付けを施していた。
 ウェールズの目には紛うことなき生ける地獄――戦場――が映っていた。

「殿下!ウェールズ殿下ーー!」
 医療所の前でウェールズを呼ぶのは、長年彼に仕えた老メイジの一人だ。
「ああ、パリーか」
「ウェールズ殿下!そのお怪我は…?!」
 パリーは一瞬、突出されたのかと背筋を凍らせた。
「何、ちょっと蚊に刺されたようなものさ」
 しかしそう言うウェールズの胸元からは止まらず血が流れ続けていた。
「と、とりあえず止血を施しますゆえ、こちらへ」
「ああ、頼む」



 医療所のメイジは突如現れた司令の負傷姿に驚いていたが、次には手早く服を剥ぎ取って傷口を見ていた。
「心臓はうまく外しておりますが、近くを通る大きな脈を傷つけております。秘薬によって止血は出来ますが、本来ならば緊急の手術が必要です」
 両手につけた絹手袋を真っ赤に染めた医療所のメイジはそう言った。
「至急、止血と縫合をしてくれ。…私はベッドの上で死ぬためにここに着たのではない」
 薬に浸した糸でもって止血された傷口が無痛で縫合され、その上から一応、固定のための包帯が巻かれたものの、ウェールズは前言のとおりベッドを嫌がり、パリーに持たせていた軍服を纏った。そのマントは王族を知らす雅な紫だ。
「行くぞ、パリー」
「はっ!」

 パリーの目に、この若き司令はまるで水晶の像のような冷厳さを感じた。それは失血からくる生気の喪失が、ウェールズより同年代の男女が持つ健康そうな空気を与えなかったからだろうか。それとも、勝機が塵ほどにも残されていないはずの戦場で、なおも戦陣に立ち、部下を鼓舞し、戦い続ける為に必要な理性の輝きを持っていたからだろうか。

 指揮所でウェールズは現状報告を聞くと、すぐさま人員の配置を変えた。
「敵軍は艦隊による密な包囲によって竜騎兵を展開出来ずにいる。我々は城門前に散開する歩兵を掃討するのだ。見張り台は包囲する艦隊に変化があれば迅速に報告せよ。それ以外の兵は歩兵戦に投入する」

 ニューカッスル城を囲む城壁の上で王党軍の攻撃が激しくなる。城を囲む堀を突破しながら城壁に取り付こうとする兵士らを、城壁の上から魔法と銃撃によって打ち払っていく。
 城に配備されている数少ない火砲は散弾を吐き出して群がる兵士を吹き飛ばした。
 しかし貴族軍がいかに練度と指揮で劣るとしても、彼らは自らの長所である5万の数に飽かせた突撃を繰り返す。長期に渡る包囲による兵糧攻めで王党軍の備蓄は底を尽いている。ならばそう長時間の抵抗は出来ないだろうという読みだ。

 しかし王党軍はこのような思惑を裏切るべく、わずかな選択肢を活用しきった。


 貴族軍の一団が城門を突破する為、後方より火薬によって威力を強めた特製の破城鎚を前線へ輸送していた。
 輸送を先導する貴族軍の将校は自らの出世を確実と見て満足していた。城門自体は何重にも植えられた防杭によって守られ人員の配備はされていない。そこをこの破城鎚で突破すれば城内一番乗りを取れる。そう踏んでいた。
 しかし、輸送部隊がニューカッスル城から少し離れた林の傍を通ろうとした時。
「がっ?!」
 馬に乗って悠々と進軍していた部隊を指揮する隊長格のメイジがうめき声を上げて落馬した。
 動揺する輸送部隊を尻目に、主に馬などに乗った隊長格の将兵が次々とうめき声を上げて落馬する。
 落馬した者に兵士が駆け寄ると、脳天を尾羽根から火をふく矢が貫いていた。

「地下路を通った奇襲班が奇襲に成功したとのこと」
「玩具でも役には立つものだな」
 指揮所で起立したままウェールズは報告を聞いた。
 輸送部隊を襲ったのはニューカッスルの地下から続く道の内、林へ抜けることが出来る路から包囲の外へでた者達だった。
 わずか数人に過ぎない奇襲部隊は、近くを無防備に移動する部隊の隊長格だけを狙撃する事で敵軍に包囲の外側へ意識を向けさせようという作戦だった。包囲が完成し援軍など絶対に来ないと思っているからこそ、この作戦は成功率が高い。
 狙撃に使用したのは本来クロスボウなどに使われる短い矢に祝宴などに使う筒状の花火を改造したものを繋げた代物で、クロスボウの消音性と炸薬によって加速を得た矢は熟練の弩兵の腕で兵士の頭蓋を深々と抉った。


 包囲外からの攻撃、との情報で貴族軍は浮き足立った。元々烏合の衆としての性格が強い勢力である。身内に寝返るものがでたのかもしれない、という疑心がその攻勢を鈍らせた。
 王党軍にとって好機であった。奇襲から帰還した部隊をそのまま城壁に配置したウェールズは、ふらりと弛緩して倒れた。
「殿下?!誰か、誰か担架を!」
「いや、待て…」
 パリーの声にこたえるようにウェールズが起き上がる。
「殿下!」
「すこし立ちくらみがしただけだ。すまない、誰か椅子を」
 指揮所の一人が後方より椅子を持ち出し、指揮所の中央に据えた。


 戦闘が始まって4時間が経過した。『正午まで猶予を与える』といいながら、実際には正午より前倒して砲撃が始まったため、未だ空に太陽は高い。
 椅子に座りながらも堂々とした佇まいのウェールズである。
「陛下はいかがされている」
「陛下は残された最後の竜騎兵と共に待機しております」
「そうか」
 残された、といってもその数わずか2騎。つまりジェームズ一世その人と、その側近一人だけである。
「敵軍が第三均衡線まで後退次第、陛下には竜騎兵による突撃を敢行してもらう。目標は、敵陣最深部、司令指揮所だ」
 アルビオンにおける戦場の華、竜騎兵による地上掃討突撃を国王に任せたのは、果たして父親への義理なのか。
 敵軍は現在第二均衡線まで後退、まもなく第三均衡線まで下がろうとした時、見張り台からの伝令が飛び込んできた。
「報告!報告!」
「どうした」
「包囲を固めていた艦隊のから……ろ、『ロイヤル・ソヴリン』が単艦で突出、こちらに向かってきております」
「なんだと…?」



「陸の連中の尻拭いをしなければならんとはな。所詮奴等はネズミに過ぎん。数だけあって力が無い」
 『ロイヤル・ソヴリン』改め『レキシントン』の館長の席に座る男、サー・ヘンリー・ボーウッドは副官にそう漏らした。
「しかし寡兵で王党軍も粘りますね。指揮官はウェールズ殿下とか」
「当然だな。あの方は若輩だが中々の戦巧者だ。緒戦の圧倒的戦力差で3年もの間王党軍が生き延びる事ができたのがその証拠だ」
 ボーウッドは貴族軍から通達された命令文書に再び目を落とした。


 『貴族連合『レコン・キスタ』所属、アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』は、アルビオン標準高1000を維持しつつニューカッスル城正面に展開。艦砲による直接砲撃により城門を突破し、陸兵の突入を支援するべし』


「艦砲による砲撃で城門を破壊しろとは、司令も無茶を言う」
 嘆息する副官にボーウッドが答えた。
「彼らはそれが無茶だとは思っていないのだよ。思ってないからやれという。出来なければ我々を平気で詰るだろう」
 そして、とボーウッドの目には、眼下のニューカッスル城が映った。
「我々は軍人だ。やれと言われればやらなければならない」


 悠々と上空を飛ぶ『レキシントン』が城門に待機する王党軍兵士らにも見える。
「かなり低いですな」
 緊張したパリーの声が漏れる。
「業を煮やした敵軍が、艦砲によって事態を突破しようと考えたのだろう。だがたとえ『ロイヤル・ソヴリン』とも言えど、上空から城門を砲撃で破壊することは困難だ。彼らからみればこちらの城門は針の穴のように小さく見えているはずだ」
 ウェールズは言うと伝令を捕まえた。
「待機する竜騎兵に命令せよ。竜騎兵は直ちに出撃、標準高2500まで上昇してから急降下で敵司令指揮所へ突撃せよ」
 伝令は命令文を復唱して指揮所を出て行った。
「残存する将兵は攻撃姿勢のまま待機。艦砲が終わればたとえ城門が破壊できなくても彼らは突撃するはずだ。艦砲の余波被害から逃れつつ待て」
 次のウェールズの命令が下り、それが指揮所を出ようとした時、耳を劈くような破撃音が指揮所まで轟いた。
「艦砲被弾!城門右側方壁面!」
「我慢比べですかな…」
「いや…」
 じわりとウェールズの額に汗が滲む。
「これは運だめしさ。僕等王軍が今も尚始祖の光明を受けているのか、もう見捨てられているのかのな」
 再び空気を割る衝撃が伝わる。近いせいか耳鳴りすらした。
「再度被弾!城門左側方壁面!」
 報告が聞こえているのか少し疑わしい。
(一斉砲撃すれば当たる確立が高まるものを。ボーウッドめ…)
 嘗て軍務の長官の一人として接していた壮年の男の顔を思い浮かべた。
「敵軍に反応あり。突撃準備をしている模様」
「次が最後だな…」
 ほんのわずかな静寂が戦場を包む。血と汗を染み込んだ大地と空は果たして。
 数拍の時間が流れる。ウェールズはふと、空を見上げた。
(彼らは無事に脱出できたのだろうか……)
 その空虚な思考を打ち砕いたのは、爆音と衝撃だった。



「報告!第三砲撃は成功。ニューカッスル城門が崩壊しました」
 おお!と『レキシントン』の艦橋に歓声が上がる。
「砲撃長、見事な腕だ」
「いいえ、まぐれですよ。しかしなぜ一斉射は許可されなさせませんのか」
 艦橋と各艦砲を指揮する砲撃長の部屋とを繋ぐ導管からやや若い青年の声がボーウッドに聞いた。
「一斉射は対艦戦術だ。城を落とすための技じゃない」
「後に指揮所から小言を言われますな」
「卿は自らの仕事に専念すればいい。そういうのは私の仕事だ」
 そういうと導管は静かになった。
「そう、これが私の仕事だ。ウェールズ殿下」
 ボーウッドの独り言を副官は強いて聞き流す。



 ウェールズの意識が戻った時、彼は椅子ごと倒れていた。
「くっ…指揮所はどうなっ……!!」
 どうにか起き上がったウェールズの目に映ったのは、地獄をさらに極めた光景だった。
 城門が艦砲によって吹き飛ばされ、それが後方の指揮所を直撃したのだ。指揮所で情報を処理していた兵士達は熱せられた土塊と木片を受けて薙ぎ倒された。さらに後方の医療所までそれは迫り、治療中のメイジや兵士達も巻き込んだ。その悉く、絶命した。

「パリー!パリー!いないのか!」
 ウェールズは副官である老メイジの名を呼んだ。
「パリー!パリー!パ…」
 パリーは思わぬほど近くにいた。倒れていたウェールズの目の前にいたのだ。痩身ながら背の高いその身はすっくと立ってウェールズの前に立ちはだかっていた。

 しかしウェールズは最初、それがパリーだとわからなかった。パリーであるはずの彼を認識する顔がなかったからだ。いや、顔だけじゃない、腕も首もない。
 パリーはウェールズの前に立ったまま、胸から上が消失していた。
 艦砲によって崩壊した指揮所の土塊からウェールズを守る為に、パリーは肉の壁となってウェールズの前でそれを受けたのだ。
 衰えたパリーの身体は小枝を折るように土塊に上部をもぎ取られたものの、彼の遺志どおり、ウェールズの身は守られたのだった。


 今、ウェールズの目に映るのは暴かれた城門の向こうより迫る兵士達だ。
 周囲にはついに一兵の味方もいない。城壁の上で待機している兵士等はまだ無事だったようだが、指揮所が崩壊した以上、有効な抗戦は望めないだろう。
「ごふっ、ごふっ…」
 咳き込めば血が混じる。さらに胸元をさすると、どうやら塞いだ傷が開きつつあるようだ。
(ここまでか…)
 ウェールズにとって、王族としての義務が終わろうとしていた。一秒でも長く、誇りある王軍として戦い続けることが彼なりの義務の全うする方法であったのだが、それはもう叶わない。
(だが、まだできることが残っている。一つだけ)
 杖を抜くウェールズ。呼吸の苦しい中、たどたどしくもルーンが紡がれていく。それはこの場に如何なるメイジがいたとしても知るものがいないであろうものだった。
(精神力を消費して、メイジは魔法を使う。精神力の根源は、生命力だ)
 ウェールズの身体に風が集まっていく。ウェールズを包む鎧のように、或いは、羽根のように。
(僕の命、お前達にくれてやる。安くはないぞ)
「おおおおおおおおおっ!!」
 ウェールズは咆哮と共に城門をまさに「風のように」飛び出した。



 貴族連合『レコン・キスタ』にとって、本来この戦場は楽なものだった。
 もっとも、それは上役方の話であり、下っ端の傭兵やそれにつく最下級のメイジ兵などにとってはいつもの戦場にちがいないはずだった。
 意気揚々と突撃する彼らの目前で、砲撃で崩壊したニューカッスルの城門から一人の男が飛び出す。たった一人がなんだと一笑しかけた彼らの目に、王族を示す紫のマントが翻って見えた。
「ウェールズがいたぞー!」
「討ち取って名を上げろー!」
 王族の首を取ったとあれば一国の領地すらもらえる。
 そう思っただろう、突出していたある傭兵部隊がその王族らしき青年に向かって手の武器を突き出そうとした矢先。


 傭兵達が、爆裂した。


 後方にいた兵士達にはそれがなんだかわからなかった。
 たった一人のメイジが前方に迫る数十人の傭兵を一瞬で殺したのだから。



 ウェールズは、駆けた。
 前方には無数の敵兵士が湧き上がってくるようだ。
 密になりすぎた風が自分の身体も傷つけて、握り締めた杖がぬるりとする。
 近づいた兵士達はウェールズの周囲3メイルまで近づくと、濃密な風の刃がウェールズより飛び出し、兵士達は体中にそれを受けて肢体を切断された。
 ウェールズは『エア・カッター』を使っているわけではない。ただある魔法を使いながら敵軍に向かって突進しているのだ。
 ただそれだけで、周囲からやってくる兵士達は五体を切り裂かれて落命していく。


 王家にのみ伝えられる秘中の魔法の中より見つけ出した風の秘術であった。
 世界の現象を精神力を費やして動かすメイジ。その精神力の根源である生命そのものを消費し、ひたすらに魔法として発現させるのである。
 その仕組みゆえにあまりにも容易く行え、暴走しやすいこの秘術は風の国と呼ばれたアルビオン王家の中に封印されていたのである。


 長槍が、弩弓が、矢玉が、剣先が、魔法の刃がウェールズに浴びせられる。
 ウェールズを包む風の壁がその殆どを弾くものの、敵は5万の数だ。その無限とも言える投擲を繰り返す。
 その為にウェールズは徐々に体に傷を追っていく。槍の先が腕に刺さり、矢玉が足を貫き、魔法の刃が肩を切り裂いた。
「どうした!そんなものか!貴族派とはそんなものなのか!」
 全身全霊の魔法と共になおもウェールズは叫ぶ。
 生命が砂時計の砂のように滑り落ちていく。命の根幹たる肉体すら、魔法へと費やされていくからだ。
 傷口は既に失血で血も流れない。その代わり溢れるのは、身体を奔流のように駆け巡る疾風である。
「うおおおおおおお!」
 体中に傷を負いながらウェールズは走った。
 その通る先にいる兵士メイジは貴賎の別なく、切り裂かれて死ぬ。
 駆けた後ろに草木一本残らない。
「これが!お前達が根絶やしにしようとした!お前達が恐れた!王家の魔法だ!」
 密に集まる風が光を帯びていく。
 ほのかな緑色の光はやがて、風の中心たるウェールズを包んでいった。
「---------!!」
 ウェールズは叫んだ。もうそれは人の声ではなかったが、叫んだ。
 叫びながら走る、飛ぶ、駆ける。ニューカッスルを包囲する敵陣を駆け巡り、包囲の後 方に陣取る敵軍の指揮所を目指していた。
(見えた!)
 命の火が最後の輝きを見せながら、ウェールズの視界前方100メイル、豪奢に構えられた司令指揮所が見えた。そこは貴族連合を示す派手な旗印を掲げている。
(あそこに!あそこに行かねば……)
 だがしかし、ウェールズの意識は薄れ始めていた。走るその足の感覚が遠く、身体を貫く痛みは弱い。
 傷を受けた肉体そのものが、風の魔法へと変わっていくのだと、ウェールズは真なる意味で理解した。。
(あそこまで持て、私の体、私の心…私の死に場所を…)
 既に身を巨大な風の弾丸となったウェールズの視界が薄らいでいく。
(ここまでなのか、私は……)
 視界が薄まり、音が遠くなり、時間が遅くなっていく。目の前に見えたはずの指揮所にたどり着きつつあるのか、体が動いて走っているのかすらもう、判らない。


 消えつつあるウェールズの意識が最期に思ったのは、遠く離れた地に住まう、恋人だった。

(アン…君は、幸せに……)


 刹那。
 ウェールズの精神は、肉体もろとも風になって拡散した。





 レコン・キスタ、前線司令指揮所には今後の利権を獲得すべく有力貴族と呼べる輩が屯していた。
 彼らは目の前で起きた現象に心の底から恐怖したのだった。

 艦砲射撃の直前、2騎の竜騎兵が上空より流星のように指揮所へ迫った。地上に配備していた竜騎兵部隊はそれらを迎撃する為に出撃したものの、敵の竜騎兵はまるで地面を舐めるように飛翔し、陣を囲んでいた貴族らの私兵を蹴散らした。
 結局突撃間近までそのような急降下攻撃が続き、最期は数で勝るこちらの竜騎兵が包囲、魔法の雨を受けて騎乗する竜ともども撃墜された。
 かと思えば、突撃が始まって暫くすると、城門から飛び出した何者かが強烈な風の魔法を振りまきながら包囲する兵士の中を駆け巡り、指揮所まであと一歩というところまで来て爆発したのだ。
 それもただの爆発ではない。あえて言うならそれは『風の爆弾』というべきものだった。
 その『何者か』が爆発したと同時に周囲30メイル四方を包む巨大な竜巻が起こり、周辺に待機していた兵士、メイジ、さらに上空の艦艇も巻き込んで粉砕したのである。
 巻き込まれた兵士という兵士、メイジというメイジは真空の斧で命を絶ち、もっとも近くにいた『レキシントン』はその船底に穴を開け、艦隊包囲に戻るのを断念して戦線を離脱してしまった。
 その奮闘に呼応するかのように、残された王党軍残党は一人残らず勇猛と戦い、5時間後、ニューカッスルがその原型を留めぬほどの砲撃によってやっと沈黙したのであった。





『ハルケギニア軍事叢書 54巻 アルビオン内乱』より抜粋
 後に『ニューカッスル攻防戦』等と呼称されるこの戦いは、貴族連合『レコン・キスタ』5万、アルビオン王党軍300で始まった。しかし最終的死傷者はレコンキスタ5万のうち、負傷者2万、死者7000を数える事となる。死者の8割、負傷者の9割がアルビオン王党軍の放った『風の爆弾』によるものであったという。
 尚、アルビオン王党軍300の将兵は総司令ウェールズ、国王ジェームズ一世を含め、全滅である。
 しかし、兵学的観点からみて、レコン・キスタの死傷者数のそれも全滅と呼ぶに値するものであり、軍事的に勝利したとは言いがたいものである。

 付記する資料ではニューカッスルを空中で包囲した艦隊が岬の影より出現した二隻の船舶を撃沈したとする資料が残されているが、真相は定かではない。今後の研究が待たれるものである。



新着情報

取得中です。