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鋼の使い魔 幕間-01



 ギュスターヴとギーシュがヴェストリ広場で繰り広げた決闘から数刻。太陽は斜陽を向かえ、双月が虚空に姿を現し始めた逢魔が時。
決闘の敗者、ギーシュ・ド・グラモンは医療室で切断された小指を繋ぎ、学生寮女子棟に続く螺旋階段を上っていた。
学院内での怪我や病気に関する治療行為に掛かる費用は学生と学院で折半される。貴族の子女の教育を謳う学院としては、
学生達の自立性の尊重という名の元に経費の削減を行っていた。
繋がれた小指の感触を確かめながら、ギーシュは一段一段と上り、モンモランシーの部屋を目指していた。指の付け根には
うっすらと繋いだ傷が見える。切断面が鋭利だったこともあって治療自体は短時間に、かつお手軽な値段で済んだのだが、実家が決して
裕福とはいえないギーシュのポケットマネーは治療に使った秘薬の代金で綺麗さっぱり消し飛んだ。予備の杖は勿論用意してあったが、
切られた造花の杖の修理にかかる費用を考えると、ギーシュは気が滅入り始めていた。
(…いけない!頭を切り替えろギーシュ。モンモランシーに自分の不徳を謝りに行くんじゃないか。杖の代金は後で考えよう)
 そう。少なくとも決闘騒ぎに絡まる三人の少女、ケティ・モンモランシー・シエスタの三人に頭を下げてから他の事はじっくり考えればいい。
これを反故にすることは出来ない。
 1つに、ルイズと貴族の誓約として約束してしまったからであり、1つにそれを大勢の生徒達の前でしてしまったこと。そしてもう一つ。
(約束を守らなかったとすれば、もしかすればまた彼の怒りを呼び覚ますかもしれない……それはご免だ!)
 ギーシュは決闘の結果、ギュスターヴに対し骨の髄まで恐怖した。序盤からの立ち回り、追い込まれてもうろたえぬ精神、
そして最後に見せた剣技と覇気は、ギーシュの延びきった鼻面を粉微塵にした。軍人の家系であるグラモンの末席として、
ドットメイジとはいえそれなりの自信があった。しかしそれは所詮井の中の蛙もいいところで、現実には屈強な平民に安々と破壊される脆弱さ、
それはすなわち自分の弱さ……。
 ぐるぐると脳内を巡る自己否定的なスパイラルが続く中、ギーシュの足は一つのドアの前で止まった。既に何度も訪れた事のある、
女子寮の一室。
 無意識に切られた指とは反対の手でドアを叩く。三回。緊張のためか間隔がやけに狭く聞こえる。数拍置いて遠くから声が聞こえた。
「どちらの方?」
 枯れそうな声をギーシュはひりだした。
「モンモランシー。僕だ。ギーシュだ。昼間のことで許してくれないかもしれないが、どうか僕を中に入れてくれないだろうか」
 もしここで返事がなければギーシュは朝までここで立っている気でいた。約束の手前もあるが、事実ギーシュは
『本命』のモンモランシーに申し開きをしないではいられない気持ちだったから。
 再び流れる無言の時間。一秒が十秒に、三十秒が十分に思えてくる。
「入って」
 耳に聞こえたモンモランシーの声、わずかに軋みをあげてドアが細く開かれた。
モンモランシーの部屋は、実はルイズの部屋と間取り自体は殆ど変わらない(寮であるのだから当然なのだが)。
しかし実家の経済力の差が、部屋を飾る文物の質に反映されている。
 特に机の隣に置かれた棚には硝子で作られたさまざまな形の瓶や管が並び、それらのいくつかには
人工的に作られたに相違ない色の液体が注がれている。
 ギーシュを招き入れたモンモランシーは、ギーシュを部屋に立たせたまま、自信は備え置きの椅子に座ってギーシュを見た。
その瞳は鋭くギーシュを刺す。
「何の御用かしら?ギーシュ。まさか逢い引きに来たなんて言うほど愚鈍でもないでしょう」
「昼間のケティとの関係の事について話にきたんだよ」
 ギーシュの声は硬い。浮気な男というのはこういう時どこまでも無防備である。対して裁判官となる女はまさに神の掌を眺めるように
冷ややかだ。もっともハルケギニア風に言えば『始祖の掌』というべきか。
「あら、ケティならここに居るわよ」
「え?」
 モンモランシーの予想外の言葉にギーシュは間抜けな声を上げる。
こっちにいらっしゃい、とモンモランシーが部屋の影に言う。陽が落ちかけて部屋全体が見通せないのだ。特に窓から遠く
物の影になるような所は。
ケティはそんな、光の届かぬ部屋影からすぅっと姿を現し、モンモランシーの隣に立った。まだ稚さが残る顔容のケティはしかし、
昼間食堂を飛び出していった時のように泣き崩れていたわけでも、モンモランシーのような冷たい目線も秘めていない。
目は開けているのに、どこかまどろんでいるような気がする。
「や、やぁケティ。ちょうどよかった。君にも話さなくちゃいけないんだ」
「はい……」
 状況に対応できずどこか軽い口調になってしまったギーシュとは対照的に、ケティは纏う雰囲気に合わせたような緩やかな返事をした。
「そういえば、平民と決闘騒ぎになって負けたと聞いたわ。本当?ギーシュ」
 一旦静かだったモンモランシーから降りかかった言葉に、ギーシュは一二もなく答える。
「ああ、負けたよ。貴族としての僕の面子は粉々さ」
 無様な僕を笑ってくれ、と断ち切られた指の傷を見せた。モンモランシーは秘薬作りに長けたメイジだ。傷口を見ればそれが
秘薬で繋ぎ直したものだとすぐに分かるだろう。それは詰まる所、彼女に対して自分の屈辱の証を捧げた様なもの。
 モンモランシーとギーシュ。二人の間に沈黙が横たわる。それを言葉なく見守るケティ。
 ふ、と声が漏れたモンモランシーをギーシュは見た。先ほどまでの冷たい目線は消え、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「しょうがないわね。そこまでしたのなら私も怒る道理が無いわ」
「そ、そうかな?」
「ええ。浮気ごとはいつもの事とは思っても、今回は許さないつもりだったけど、いいわ。
なかったことにしてあげる」
 暖かに笑いかけるモンモランシーに、ギーシュは慈愛の余りに涙が出そうだった。
 感謝します始祖ブリミル!かのごとき試練の果てに彼女への愛をお認めになられたのですね!
沸き立つ身体を押さえて始祖へ精神の限りの感謝を捧げて、今度はその浮き立つ心身をぐっと引き締めた。

モンモランシーは納得してくれた。ではケティは一体どうだろう?このやりとりを全て見ていたはずのケティが、僕への恋情を
諦めてくれるのだろうか。
「……ケティ。見ていてくれただろう。僕との事は悪い夢だったと思って、忘れて欲しい。君を玩んだことは僕の不徳の極みだ。償えるものじゃないかも、しれないけど……」
 ケティの心に届いて欲しい。そして納得して欲しい。そうでなければ僕はどうなってしまうかまるで想像もできない。

 ギーシュの心配をまるで意に介していなかったかのように、一年生の少女は年相応な可憐さを振りまく眉をわずかにひそめ、首をかしげた。
「……あの、私は、別にいいんです」
「…いい、って?」
 イエスともノーとも受け取れる曖昧な返事を返すケティにギーシュが言葉を促す。
「ギーシュ様がミス・モンモランシをお慕いなされるのも、その証に私をお捨てになることもかまいません」
 自分の発言が『捨てる』と露骨な言葉になってギーシュに跳ね返ってくる。
「ミス・モンモランシとあれからずっとお話をしていたんです。ギーシュ様のこと」
「そ、そうだったのかい」
 なんと、どうやら自分がくるまでもなく、二人の間では話し合いの結果でケティが身を引くことが了解されたらしい。



と、ギーシュは壮絶な勘違いをしていたことをそのすぐの後に二人によって突きつけられた。


 汗交じりになって言葉を紡いでは自分やケティに一喜一憂するギーシュに、モンモランシーは耐え切れなくなって噴出してしまった。
「クスクスクス……ギーシュ。あのね。貴方があのばかげた決闘騒ぎを起こしている間に、たっぷりとケティを話す事ができたわ。私はね、
順序が大事だと思ってるの」
「順序?」
 そうよ、とモンモランシーがケティを手招き、後からケティの肩に手を置く。
「つまりこうよ。私が一番、ケティが二番。私がギーシュにとって一番であることは、貴方自信認めてくれるわね?」
「勿論だよ。始祖と杖に誓う」
「嬉しいわ。でね?ケティには私からたくさん言い聞かせて自分が一番じゃないことを理解してもらったわ。でもケティはね、
別に一番でもかまわないって言うのよ」
「それってどういう……?」
「そうね、つまり……」
 ケティの肩にかけられたモンモランシーの手が、ケティの襟を開いて首元をギーシュに晒す。年若い女性独特の肌理細やかな素肌が露になる。
そしてそのケティの首には、細いなめし革で出来ているベルトのようなものが巻かれている。装飾らしいものはほとんどなく、ベルトを締める金具に小さな鈴らしきものがついているだけ。
「私もケティが2番ならいいかな、って思って。似合うでしょ、これ」
「モ、モンモランシー……君は一体何を」
「なんでもないわよ。ねぇ、ケティ」
「はい、ミス・モンモランシ。いえ……お姉様」
 ギーシュとモンモランシー、二者の視線に焼かれるように仄かに朱がさすケティ。
「そういうわけだから、ギーシュ。貴方は果報者よ。一度に二人に愛されるんだから」
 ギーシュはこの部屋に来るときに想定していたものとは全く、180度考えていなかった別種の不安と恐怖を目の前の少女に感じ始めた。
二人がじわり、じわりと足を進めて棒立ちだった自分に近づいてくる。
 ガタン、と後の音に振り向くとドアが『ロック』で閉められた。すぐさまギーシュが『アンロック』をかけるが、慣れない予備の杖であるせいか
開くことが出来ない。
「どこに行くつもりかしらギーシュ。話は終わったけど、今度は三人でお話しましょう?」
 シャ、と今度は部屋のカーテンが閉められ、部屋に置かれた燭台のローソクに火が点く。
香水と同じ紫色の光がぼやりと部屋を包む。
「大丈夫。悪いようにはしないわ。私達の愛を受けなさい……」
「受け取ってください……」
 その声はどこまでも優しい二人に、ギーシュは抗いがたい意思を感じる。徐々に部屋に置かれたベッドに追い込まれる。
「い、や、その、ちょっと待って。その手のものは……ひっ!ちょ…あ゛ぁぁぁ~~~……」





 サイレントで消された悲鳴が何を意味するのか。それは誰にも伺い知ることは出来なかったが、その日から色素の薄くなったギーシュと、肌つやのよくなったケティとモンモランシーが数日ごとに見かけられるようになったという。



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