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Persona 0-11



ペルソナ0 第十一話

 何もかも白く染まる霧の中でサイトは蹲っている。
 まるで子供のように泣きながら、慟哭を地面に吸わせている。
 知られてしまった、何もかも知られてしまった。
 醜く変わった本当の己の姿を、一番知られたくない相手に知られてしまった。
 これが罰なのか、俺の犯した罪に対する罰なのか?
 嘆くサイトの前に声を投げかける者があった。
「ああそうさ、あれだけのことをしたお前にはこんな最低な罰がふさわしい」
 顔をあげると霧の向こう側に誰かがいる。
「まさか……」
 それが聞きなれた自分の声なのだと気づいたのは、しばらく時間が経ってからだった。
「もう一人の俺……」
 シャドウのなかで蹲っていた自分とは違う、自分の弱い心が生んだ自分の影。それがよりにもよってこんな時に……
 サイトは歯を噛みしめると、霧の向こうから自分のことをあざ笑う己自身を睨む。
「そうさ!俺はお前だ、見たくないと眼をそむけているお前の影さ」
 そうして影は語りだした。
「やめろ!」
 ガルムがその肩口に食らいつき牙を突き立てる、影の顔が痛みに歪むが同時に影は笑みを深めた。
「がぁぁぁぁああ!?」
「おいおい、ひでぇことするじゃねぇか」
 猛烈な痛みにのけぞるサイトの姿を見ながら、影は笑う。
「俺もお前もその犬も、お前の一部には違いねぇってわかってんだろ? だったら自分で自分を傷つければどうなるかくらいわからねぇ?」
 そしてサイトは腕を広げる、けらけらと嘲笑うその姿はあの日見たあの影を思い出させる。
「ま、所詮与えられた“ペルソナ”じゃ自分自身の影は消せないわな」
 にやにやした笑い、何もかもを見下すような笑い声、はっとサイトは気づく。
「まさか……おい、出て来い、ニャルラトホテプ!」
 サイトが叫ぶと、霧の向こうから声が返ってきた。


「なんだね、サイトくん。これでも私は忙しいのだが」
 それは何もかもを嘲笑う存在、人の心の海の中心で運命を嘲笑する白痴の塊。
 這い寄る混沌ニャルラトホテプだった。
「てめぇ、何しやがった!」
 深いため息の音、サイトはぎりりと歯を食いしばる。
「心外だな、今回私は君の願いを叶えた以外は何もしてはいないよ」
「嘘つけ!」
「嘘などではない、そもそも嘆かわしいことに私の力は日に日に衰えていっている、全く嫌な時代になったものだ。
 人の心に空いた虚無と言う名の穴が光も闇も諸共に飲み込んでいく――加えてシャドウだ、心の闇はいくつも砕片に分割され無意識の狭間をただようになった」
 ニャルラトホテプの口上が響く、その口ぶりはまるで己自身をあざ笑うかのようだった。
「そもそも我が化身たる“ニャルラトホテプ”の姿は二〇世紀のある作家によって生み出せしもの、ならばより底深き業を湛えた人の“闇”を象徴する存在が現れたなら、その姿を変えるが道理だろう?
 つまり我等は消えつつある、人の心に“フィレモン”と“ニャルラトホテプ”は不要だと他ならぬ人の心が我らを排斥しつつあるのだ」
 それならそれで仕方がない、とニャルラトホテプは腹を抱え、高々と笑い声をあげる。
「まぁ変わりつつある人の心の海の底から這い上ってくるのはいかなる醜悪な存在か? それを見届けられないのは残念だがね」
 くく、と笑ってニャルラトホテプは言った。
「まぁそんなことは関係がない。重要なのはお前が私を楽しませてくれるかどうかと言うことだ」
 そしてニャルラトホテプはもう一人のサイトを指さした。
「喜べ、そこに居るのはヒラガサイト、お前自身に他ならない。私によって汚染された醜い自分と言う幻想が生み出した、呪わしきお前自身の心の一部にすぎないのさ!」
 押し黙ったサイトを見ながらニャルラトホテプは笑う。
 それにつられるようにもう一人のサイトも哄笑をあげた。
「そうさ、第一ハルケギニアを血の海にしたのはお前じゃないか」
 もう一人のサイトは己の胸を指さすと、そのままけらけらと笑う。
「再契約の時にデルフに説明して貰ったろ? 記すことすら憚られるほどの使い魔のルーンはちょっとしたことで暴走しちまうんだって、なのにルイズを助けようと一人で突っ走って、あげくルーンを暴走させた」
 その言葉をニャルラトホテプが引き継ぐ。
「そして挙句の果てが皆殺しだ、お前の主人が使い魔のルーンを消すために身を投げてくれなければ、今頃お前はハルケギニアどころか故郷まで破壊し尽くしていただろうな、面白い面白い、実に面白い」
「黙れ!」
「おお怖い怖い、せっかく願いを叶えてやったのになんと言う言い草だ。会えただろ? 愛しのご主人様に」
「だからって、こんな形の再会を望んだ訳じゃない!」
 俯くサイトに向かって言葉を放ったのはもう一人のサイト。
「嘘だな、その証拠におまえは喜んでいる」
「――違う!」
「もう一度世界をぶっ壊しちまうかもしれないのに、またルイズを死なせるかもしれないのに、ルイズに会えたことを犬みてぇに嬉しがってる」
「違う!!」
「第一あれはルーンのせいだろう? 悪いのは作ったブリミルと、それを刻んだルイズのせいじゃ……」
 その言葉に激昂し、サイトは霧の向こうへと向かって剣を振り抜いた。
「黙れ、お前なんて……」
 言ってからしまった、と思うがもう遅い。
「ふはははは、いいぞ、いいぞ力が溢れる。闇が満ちて来る、これで俺は……」
 やめろ……と呟きながらサイトの意識が闇へと落ちる。
 その刹那、己の心の裡から響く悲しそうな犬の遠吠えを確かにサイトは耳にした。






 ガリア王都リュティス。
 無能王治下のこの都市に一つの噂が流れていた。
 曰く
「無能王は人がお変わりになられた」
 人形遊びを止め、突然人が変わったかのように政治の表舞台へと立ち現れ、綺羅星の如く多くの大事業を成功させ。
 しかも臣下への心遣いを忘れず、信賞必罰を徹底する。
 まさに魔法が使えないことだけが唯一の欠点とでも言うべき完璧な王として君臨し始めたジョゼフの姿に周囲の者たちは頭を捻ったが、しかし生活がよくなることについては文句などあろうはずがない。
 だからあくまでその話は噂のレヴェルを出ない程度に収まっていた。
 だがイザベラは、ジョゼフの娘だけは知っている。
 本当に自分の父が別人に変わってしまっているのだと。
 ベットの中で震えながらイザベラは思い返す。
 あの日、偶然父の部屋を訪れた時。
 胸を剣で貫かれながら父は高く高く笑っていた。

 ――ふはははは、まさかこの俺が俺によって殺されるとはな。

 その胸を貫いているのは、身につけた服を乾いた血で染めたもう一人の――ジョゼフの父の姿。

 ――まったく無能王には相応しい末路だ、くそったれな始祖様もなかなか皮肉な結末を俺に用意しておいたと見える!

 もう一人のジョゼフは自分を殺していると言うのになんの感動すら見せず、ただ死んで行く己の姿を無表情に見ているだけだった。
 そのことが譬えようもなくイザベラには恐ろしかった。

 ――今行くぞシャルル、もっともこの俺が行くのは奈落の底だ。死んでまでお前には会えんだろうがな……

 僅かに寂しそうにジョゼフはそう言うと、どうとその場に崩れ落ちた。
 流れ出る血が、絨毯を赤く染めていく。
 もう一人のジョゼフはその姿をしばらく見ていたがくだらなさそうに吐き捨てた。

「やはりな、自分を殺しても俺の心は震えはしないか」

 そのままもう一人のジョゼフは殺した自分の死体を抱えあげると何事か呪文を唱えて杖を一振りする。
 ジョゼフの目の前に現れた光る鏡、そこに死体を放り込むと一仕事終えたとばかりにパンパンと手を叩く。

「さて、イザベラそんなところで立っているのもなんだろう、一緒に茶でもどうだ?」

 扉の影から見ていたイザベラはびくりとその体を震わせる。
「あ、貴方は……」
 普段の勝ち気さからは想像もつかない、おそるおそると言った様子の問いかけに、ジョゼフは笑って答えた。
「どうした娘よ? 父の顔を見忘れた訳でもあるまいに」
 そうして大笑すると、ジョゼフは天を仰いだ。
「まぁいい、さてこれから忙しくなるぞ」
 一体何を、と問いかけるにイザベラに向かってジョゼフは言った。
「なぁイザベラ、久しぶりにシャルルの叔父上に会いたくないか?」
 脳裏に胸にルーンを浮かべた少年を思い返しながら、ジョゼフは笑った。





「う……」
「タバサ!」
 友人の腕のなかでタバサは目を覚ました。
 体中に張り付いた倦怠感とまるで悪い夢でも見た後のような不快な喉の渇き。
 見渡せばそこは全て乳白色の霧のなか、親友の顔さえ見えない本当の胡乱な時間。
 タバサは現れたもう一人の自分のことを考えていた。
 思い返してみればあの自分の言葉に、頷けてしまう部分がタバサにはあった。
 血塗れの自分、愛されない自分。
 それでも母を助けられるなら愛されなくとも構わないと思ってやってきた、だが……
「逃げてる、のかもしれない」
 思えば手がかりになりそうなものは片っぱしから手を出してきたが、しかしそれが僅かなりとも母を癒すきっかけとなったのか?
 いやならなかった、もし本当に母を癒すつもりならなんらかの力を手に入れてエルフと交渉する以外にない。
 だと言うのに自分は何をしてきたか?
「タバサ?」
 優しい友人たちに甘え、今は雌伏の時とただ与えられた任務をこなしていただけではなかったか?
 そんなやり方ではけっして事態を打開できはしないと思っても、それに甘んじた。
 それは“諦め”ではなかったか?
「貴女は……何?」
「わたしはシャルロット、もう一人のあなた」
 霧の向こうから声が返ってきた。
「いつか戻りたいと願う、けれど戻れないと諦めた、あなたの姿」
 その言葉が心にツキリと突き刺さる。
 そうだ、あの頃の自分には――何も知らずただ笑っていられた子供の頃には戻れない。
 父と叔父との間の因縁も、従姉が自分に対して抱いていた執着も、何も知らず王宮を駆け回っていた子供には――もどれない。
「もどれないから、私は“タバサ”になった」
 いつか帰りたい己自身、“シャルロット”を母の手の中の人形に託して。
 何もかもを捨てて、ただ目的を果たすための人形に“なった”と思っていた。
 けれど実際は違う、だって私はこんなに弱いのだから。
「私は弱い、それを認めるのが怖かった」
 霧の奥で頷く気配。
「必ず助けると誓った思いが、自分の弱さのせいで折れてしまうことが怖かった」
 帰って来た返答にタバサは頷く。
「あなたは私、ずっと“雪風”で凍えさせてきた、私の中のもう一人の私」

 >自分自身を受け入れる強い心が、“力”へと変わる…
 >タバサはもう一人の自分。
 >困難に立ち向かうための人格の鎧、ペルソナ“イーヴァルディ”を手に入れた。

 霧のなかにあってなお一層怜悧にその存在を浮かび上がらせるもう一人の自分の姿。
 氷のドレスとも鎧とも着かない服を身に纏った少女のシルエットに微笑みを浮かべ、タバサは今にも眠ってしまいそうな身体を友人に任せた。
 なぜか、今だけはキュルケの胸の中で現と夢の狭間のまどろみに浸っていたかった。

 夢の中で、もう一人の自分が笑っていた。
 ――私は優しき勇者の戦列に名を連ねし者イーヴァルディ、私が打ち破る悪竜はあなたの心に巣くった弱さならば……我が半身よあなたの道行の先駆けとなりましょう。



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