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鋼の使い魔-24


 コルベールの研究塔前にて、屹立するタバサ。抜けるような空の下で、彼女は平素と変わらない静かな風情でギーシュに正対していた。
 しかしながら対峙するギーシュには、目の錯覚であろうことを承知の上で、目の前の華奢な少女から陽炎のように沸き立っている『戦う意志』を浴びるように感じ取り、
腰を下ろしていながら竦み上がっていた。
「ま、ままま、待ってくれ。どうして君と僕が決闘をしなくちゃいけないんだい?!」
 噂に聞くに彼女はシュバリエだというではないか。楽天家なギーシュでも流石に戦って一本取れるような相手ではないことくらいすぐにわかっていたから、
手を振って今にも飛び掛ってきそうな――実際、それは只の妄想なのだが――タバサを静止した。
「と、というか…ミス・タバサ。学生同士の決闘は校則で禁止ですぞ」
 場に居合わせた唯一の教諭であるコルベールは、タバサの見せる並々ならない意欲に、額に汗を浮かべていた。
「そ、そうだとも!決闘はいけない!」
「あんたが言うと説得力ないわねー…。あ、シエスタ。クックベリーパイおかわり」
 我関せずという姿勢を崩さないルイズは空になった皿をシエスタに渡していた。
「それは困る」
「ど、どうして」
「稽古の成果がわからないから」
 どもったり汗を浮かばせたりするギーシュをはじめ、その場に居合わせたものたちに、口数少なくもタバサは話し始めた。合間にキュルケも口を挟みながら…。


 タバサはこの一週間ほど、ギュスターヴが事業を始めるために忙殺されている間に、キュルケの協力を得ながら、一人剣の稽古と、
これからの課題について時間を費やしていた。
 ラ・ロシェールでの一件の折、フーケが最後格闘戦を仕掛けてきたことを教訓に、タバサは剣と魔法を同時に、かつ、効果的に組み合わせて使う方法を考えていた。
 例えば先述のフーケは、両足が杖の効果を持つ義足になっており、杖を振るモーションを省略していくつかの魔法を使って見せたように。
 同じくフーケと戦ったキュルケを抱き込んで、ギュスターヴに習った剣技を生かしつつ、魔法も効果的に使うことが出来る方法を考案したのである。
 今度はそれが実戦でどの程度の効果が出せるかを実験しなくてはいけない。しかし、キュルケでは相手にすることが出来ない。キュルケは魔法で攻撃できるが、
格闘に対応できないからである。
 そこで、ゴーレムで攻撃しつつ、ゴーレムを軸に魔法で戦う事が可能なギーシュに白羽の矢が立った、というわけである。


「…と、いうわけなんですけど、ご許可いただけますかしら。ミスタ・コルベール」
 途中から殆どキュルケがしゃべっていたために、コルベールはキュルケに答えるべきか、タバサに答えるべきか、一瞬迷ってから、タバサに向かいなおした。
「いや、しかし…向学心のある様子は理解しましたが、やはり学友を的にするようなやり方は了承できませんな…」
 努力する人間が好きなコルベールは苦しい表情で答えた。
「俺じゃ駄目なのか?」
 ギュスターヴの質問に首を振るタバサ。
「そりゃ駄目だろうな。相棒の場合魔法だろうとなんだろうとなぎ倒しちまうだろう?」
 一振りで樹木を両断してしまうギュスターヴでは飛び掛る【エア・ハンマー】だろうと【エア・カッター】だろうと剣圧で消し捌いてしまう。
デルフが持つ魔法吸収効果があれば尚更のことであった。
 かくしてどうしたものか、逡巡するコルベールやタバサの話を聞きながら、ギーシュはどこか上の空でぶつぶつとつぶやいていた。
「…ミスタ・コルベール」
「なんですかな」
「やらせてもらってはくれないでしょうか」
 つぶやかれた言葉が場の人間を一瞬、固める。
「い、いや、しかしですな…」
「これは決闘というより、組み手のようなものでしょう。そうであれば本来の決闘ほど身の危険はないはずです」
 さっきまで竦んでいたギーシュは、今度はなぜか妙に乗り気になっていて、キュルケやルイズは訝しげに話を聞いていた。
「といっても、僕は所詮ドットメイジ。組み手であってもトライアングルのタバサとじゃ釣り合わない。だから…」
「だから?」
「3日、時間をくれないか。3日で君との組み手に相応しい手立てを準備する」
 ギーシュの声色は真剣だった。やがて数拍し、タバサは頷いた。

 用件は終わったとばかりに、タバサはシルフィードに乗って自分の部屋へと戻っていき、キュルケも同乗してその場を去っていった。
「ミスタ・グラモン。本当にミス・タバサと…組み手をするつもり、ですか?」
「…はい。仮にも僕はグラモンです。仕合組み手の類とて承ったからにはやらせていただきます」
 覚悟を決めた表情でギーシュは言い切る。
「でもたった三日で準備なんて出来るの?言っちゃ悪いけどギーシュ。あんたとタバサじゃドラゴンとモグラ位差があるわよ」
 うんうん、とギュスターヴとシエスタは頷いていたが、ギーシュは不敵に、ふ、と笑う。
「…実はね、ここでコルベール師の助手をしながら新しいワルキューレのアイデアを練っていたんだ。あと3日でそれを使えるものにしてみせるさ」
 ほー、とコルベールを除いた三者が関心の声を上げた。
「…まぁ、それでタバサと互角にはならないだろうけど。今のワルキューレじゃ案山子もいいところだし」
 ギーシュもただ闇雲に引き受けたわけではなかったと見て、コルベールは少しばかり、安心と興味を抱く事ができた。
「いいでしょう。…ただし、ミスタ・グラモン。3日後の組み手に私は立ち合わせていただきます。それが条件ですぞ」



 『挑む若者、伏する男、携える女』



 アルビオンのとある岬に建設されたニューカッスル城は、今より十数日前にこの世から消え去った。
 嘗ての名城は内乱の最後、王党軍と貴族連合軍の戦闘の舞台に選ばれ、結果立て篭っていた王党軍の寡兵を撃滅する為に、アルビオンが誇る空船艦隊による
包囲砲撃を豪雨のように受け、崩壊した。
 今あるのは大地にこびりつくように残った城壁の一部と、地盤に建物を留め置く為に張られた基礎、そしてその上に積まれた嘗て城だった石と土の山である。

 既に内乱も終わり、新政府も立ち上げられたものの、ニューカッスル城跡には今も人の気配が多い。
 王党派が残した隠し財宝があるのではないか、と睨みをつけてた者や、今頃やってきてうち棄てられた屍から金になるようなものを剥ぎ取っていくような者たちである。
 悪漢・盗賊・傭兵崩れが屯し、身に着けるものを剥ぎ取られた名も無き死体の園に、一人の男が立っていた。
 その背格好はアルビオンでは平素、見ることが出来ないものだ。兵隊が使う丈の長くキルティングされたマントはともかく、つばの広くとられ、羽飾りの付いた帽子、
そしてマントを止めるブローチは、トリステイン王国の紋章である白百合にグリフィンをあしらったデザインが用いられている。
 少々疲れた顔つきの男だった。左腕を通すはずの袖は絞られ、余った布地が揺らめいている。


 砲撃の始まったあの日のニューカッスル城から、満身創痍でレコン・キスタにやってきたワルドは、前もって手に入れた符丁やいくつかのトリステイン軍の情報を渡し、
後方の医療施設に収容された。
 本来ならばウェールズの首とトリステイン王室上の瑕疵であるアンリエッタの手紙を持ってくることで、何らかの地位を得ることが出来るはずだった。
 だが現実は、ウェールズを殺しきれず、左腕を落とされ、グリフィンをも失っての完全なる敗走だった。


 だが、受けた治療の礼をするためにオリヴァー・クロムウェルを尋ねた折、彼は煙たがるような素振りを欠片も見せず、朗らかに笑って答えた。
「子爵よ。卿は確かに我々の作戦行動や功績に寄与することは叶わなかったかもしれない。しかしだ。卿が我々に参加したことを知ったからこそ、トリステインと
ゲルマニアは我々の打診した不可侵条約に惹かれたのだ。これは一種の譲歩だ。であるなら、これは卿の功績であると私は考える。どうかね」
「勿体無きお言葉でございます」
 クロムウェルはワルドに一杯の杯を勧め、自身もグラスを傾けた。
「……しかしながら、返す返すもウェールズには苦戦した。後の結果をみれば、かのものは最後魔法の力にて爆散し、多大な犠牲を我々に強いた。
私にとって死者は友人であるが、死体すらないものでは同情するばかりだ」
「…左様でございますか」
 ワルドはこの目で見たわけではないが、目の前の男が伝説に伝え聞く『虚無の魔法』を操るのだと知っていた。だからこそ、ものの数年で一国を落とすほどの大組織を
作り出せたのだということも。
 クロムウェルの『死者は友人』というのも聞いている。聞くに、クロムウェルの『虚無』の威光は、敗れた敵を現世に呼び戻し、精強なる兵士とすることが出来る…と。
 ならば、爆散したというウェールズも、本来ならその骸を兵士としたかったのだろう。
「確かにウェールズほどの男、そうは世におりません。閣下の『虚無』の威光で我らの陣営に加えて頂きたかったものです」
「ふむ。そこで卿に頼みたいことがある」
「なんでございましょうか?」
 クロムウェルは指に嵌めている指輪を撫でながらワルドを見ていた。
「ニューカッスルに赴き、『ウェールズだったもの』を集めるのだ。何、血の一滴、髪の一本でもかまわん。指の一本でも見つかれば、私としては卿を賞賛したくなるほどだ」
 ワルドの脳裏で考えが乱舞する。クロムウェルは恐らく、近々にトリステインへ侵攻することだろう。ならば、今此処で何らかの功績を挙げることで、
トリステインを併呑した後の地位を手に入れることができるかもしれない。そう、例えばトリステインを取り仕切る総督などに叙してもらえるやもしれない…。
「その希望、このワルドめが叶えてみせましょう」
 深く頭を下げてワルドは答えた。


 かくしてワルドは再びこのニューカッスルを訪れたわけであるが、捜索を始めて判った事は、目標の余りの拙さであった。
 基本的に、ハルケギニアの戦場で死体を回収する事はない。例えば王侯貴族、ないしそれらに絶大に貢献したメイジであったりするのならともかく、末端の兵士など、
髪の一房でも生き残った人間の好意でもなければ届かないのだ。
 だから今、ワルドが睥睨として見渡す古戦場には数え切れぬほどの死体が転がっている。
 それも五体が残っているわけではなく、頭が無いもの、腕が無いもの、足が無いもの…。
 ましてや探すのはウェールズだ。その体は爆散したために、まともな形で残っていないことは明白だった。
 とりあえず、爆散した中心を基点に、【偏在】も動員した捜索を始めたが、それらしいものはいまだ見当たらない。
 捜索範囲を広げてはみたものの、手に入ったのは瓦礫の下から見つかったウェールズの礼服一つのみ。
 死臭立ち込めるニューカッスルは、そこに居るだけで生きている人間の生気を奪うようで、まだ全快ではないワルドの身を苦しめた。
「やはり死後数日が経っていると無理か…死体があるならともかく、爆散してバラバラになったとあればな…」
 額の汗を拭おうとして、一瞬左腕を動かそうする時の虚しさに苛立ち、近くの大きな瓦礫に腰を下ろす。
 ぼんやりと空を見つめる。残された右手は自然と、首にかけられたペンダントに向かっていた。
 すると、林の方に向かわせた偏在の一体が、なにやら薄汚れた布包みを持って戻ってきた。
 偏在はワルドの前に包みを置くと、役目を果たしたというばかりにその場で掻き消えた。
「なんだこれは?……?!」
 ワルドが片腕でどうにか包みを開く。
 それは血と泥で汚れ、半分ほどを鳥に啄まれて骨が露出した『首』だ。それも下顎の骨がなく、後頭部に当たる部分が欠け落ちていた。
 しかし残った顔面の顔立ちと、頭部の髪から、それがウェールズだというのがワルドには一目瞭然だった。



 後日のロンディウムの宮殿に、幼児ほどもある小包を持ったワルドがやってきた。
 クロムウェルは、傍にローブを着込んだ者を侍らせてワルドを出迎えた。その者は、物腰からどうやら女性であるらしいことをワルドは察した。
「閣下の所望する品。無事手に入りましてございます」
 傅いて報告したワルドに、クロムウェルは手を叩いて喜んだ。
「おお!そうか!いや、すまないな子爵よ。随分と苦労したんじゃないのかね」
「お恥ずかしながら、かなり手こずりました。しかしながら、お陰で閣下のご満足する成果となったと自負しております」
「うむ。ミス・シェフィールドよ」
 シェフィールドと呼ばれた傍らの女性は、ワルドから包みを受け取ると、クロムウェルの前に台座を用意し、そこで包みを開いた。

 それは傍目には挽肉の失敗作とも言うような代物だった。部位不明の肉片に、汚れた骨の欠片がちらほらとしている。見つけたウェールズの首と礼服の一部も
含まれていた。
「どうかね、ミス」
 シェフィールドの視線は、ローブのフードで窺い知れないが、わずかに見える口元が綻んだ。
「少々時間が掛かるものと思われますが、問題ないかと」
「そうか!ではかく話したように」
「はい」
 満足げなクロムウェルはシェフィールドに包みを預けると、シェフィールドは静かに部屋の奥へ入っていった。
「…閣下。失礼ながらあのようなものをどうするおつもりで」
「子爵。私の『虚無』が死者を呼び戻すことは知っているだろう?」
「ですか前に言っていたではありませんか。死体すらないもの、と…」
 言葉を続けようと視線を上げた時にみたクロムウェルの表情を見て、ワルドは鼻白んだ。
 その目は自分を高みから見下ろしている。そのなんと穏やかな事か。
 まるで自分を無知で哀れだといわんばかりに…。
 だがクロムウェルは次の瞬間、普段の柔和な表情を作って語り始めた。
「『虚無』とて無限ではない、が、時間をかけることで肉片からでも人間は復活するのだよ」
 こともなげにそう言うので、ワルドは頷かざるを得なかった。
「…左様でございますか」

「さて、子爵よ。卿にはこの功績にふさわしい品をこちらで用意してある。ひとまずは受け取りたまえ」
「はっ」
 すると先ほど奥へ下がったはずのシェフィールドが、棒状の包みを持って戻り、ワルドにそれを手渡した。
「この場であけるといい。卿が『今一番欲しい物』を用意したつもりだ」
「は。…では、失礼して…」
 ワルドは膝の上に包みを乗せ、残った右腕で包みの結びを開いた。開かれた包みの隙間からきらきらと輝きが漏れてワルドの目を打った。
「ぅ……?!こ、これは…!」
「ふはははは…よく、出来ているだろう?その『腕』は」
 そう、包まれていたのは『腕』であった。
 それもただの腕ではない、まるで鋳型で作ったように精巧に作られており、皺の一本、指紋の一つさえありそうなほど忠実に作られている。
 何よりも見るべきは、その明かりを反射するまばゆい光沢だった。
「銀色の義手でございますか…!」
 ハルケギニアをくまなく探しても二つとないだろう、銀に輝く義手であった。
「それがあれば卿も存分に力が揮えるだろう。付けたまえ、子爵」
 礼をしたワルドはそよぐ左袖をまくり上げた。切り落とされた上腕は、今はふさがれて肉とに覆われている。
 銀色の義手の根元はすり鉢状にされており、ワルドは切断面と義手の根元を重ね当てた。
 すると義手の根元がぐにゃりと崩れた。それにワルドは一瞬気を散らしたが、それを待っていたように技手の根元から蔦のように銀色の触手が伸びて絡みついた。
「ぐぅっ?!」
「言い忘れていたが、それは古代の戦士が使ったマジック・アイテムの一種だ。欠けた四肢を補い、元のそれと同じように動かす事ができる。
ただしそれは本来のものにすこし改良を加えた代物でね、なに、『始めは』痛むだろうが時期に馴染む」
「はっ…はぁっ、……ありがたき、幸せにございます……」
 触手が食い込み、食いついた義手が『繋がった』ワルドは、息をつきながら鬼気迫る笑顔で答えるのだった。



 タバサの決闘という名の組み手申込みからきっかり3日後、場所は3日前とおなじ、コルベール研究塔前の開けた場所だった。
 3日前の申し合わせのとおり、タバサは3日を待ち、ギーシュは3日待たせて己の持ちうる最高の準備をして対峙した。
 それを見物する為に、コルベールをはじめギュスターヴ、ルイズ、キュルケの三人が遠巻きに二人を眺めていた。
「準備はいい?」
「ああ…かかってきたまえ」
 そして二人は杖を構えた。



 学院の敷地の一角でそのような事が行われていることとは、一件無関係なように学院長執務室ではオスマンともう一人の間で時間が流れていた。
「お久しぶりでございます。オールド・オスマン」
 来室者は女性だった。しかし彼女は学院の人間ではない。
 凛とした声に振りまく冷ややかな空気、豊かなブロンドの髪を揺らして、眼鏡をかけていた。
「何年ぶりになるかのぅ。ミス・ヴァリエール…いや、エレオノール君」
 一度ミス・ヴァリエールと呼ばれたエレオノールという女性は、にこりともせずに答える。
「大体、9年ぶりくらいになるかと」
「ほっほっほ。月日がたつのは早い者じゃ。当時から優秀じゃったおぬしも今はアカデミーの正研究員じゃからな」
「あの時は推薦状を書いていただき感謝しておりますわ」
 彼女は嘗てこの魔法学院で学生として籍を置き、そして平穏無事に旅立って行った一人だった。
「して、今日はどのようなご用件かの」
「在籍しているルイズへ、殿下より言付かっているものがございます」
 彼女はルイズの姉だった。10歳以上離れた姉妹だが、比べ見ると振りまく雰囲気がよく似ている。
「ほぅ…と、いうことは」
「はい。殿下のご婚儀での巫女に選ばれました」
「慶事じゃな。ヴァリエール公も鼻が高いじゃろうて。では巫女というのであれば例の物も?」
「はい。こちらに…」
 催促されたエレオノールは腰の鞄から一冊の本を取り出して見せた。その装丁はくすみ、長い年月を過したことがわかる。
「婚儀までの間、あの子にはこれを持っていただかねばなりません」



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