あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔-23


 泣き腫らした瞼が、風に当たってひやりとする。
 ルイズがそんな感想を抱きながらも、背中の問答を特に気にもしないシルフィードは悠々と空を飛び、眼下には馴染みの魔法学院が見える。
 シルフィードはいつものように、手近な広場に下りようと旋回を始めた瞬間、翼の端に『何か』が当たったと思った。
 その『何か』は今度は当たった翼の端から伸びてシルフィードの頭に影を作るように覆いかぶさってくるようだった。
 シルフィードは焦った。このあたりで自分と同じ高さを飛べるものはそれほど居ないはず。
動転した幼生竜は背中の主人達を一瞬忘れて、大きく傾斜して旋回し、自分に当たりそうになった『何か』から逃れようとした。
 疲れで気が抜けていた背中の四人は、急な動きを見せるシルフィードに驚き、傾いていく竜の背中から落とされないように手近い背びれに捕まる。
 キュルケはびっくりしてぎゅっと、目の前のこりこりとした触感のひれを抱きしめ、ギュスターヴは少しざらつくうろことひれの前のこぶを掴んで踏ん張った。
タバサもシルフィードの首根元に抱きつき、急に動き出した使い魔を叱咤しようと考えていた。
 そしてルイズは………泣き疲れていたせいか、三人よりも反応が遅かった。
 シルフィードの背中の何処にも捕まる事ができなかった。
「あ……」
 遠心力に流れるように自分が竜の背中から引き剥がされた時、ルイズは浮遊感の中で一瞬愉しんだ。しかし次の瞬間、落下する感覚と風の音に恐怖した。
「あーーーーーー!!」
「ルイズーー!」
 いち早く気付いたギュスターヴが手を伸ばすも、指はルイズに届かない。
 どんどんと加速する落下速度がルイズに死の恐怖を与えつつあった次の瞬間、ルイズの体に掛かっていた落下加速が落ち、地面に近づくほどに落下が緩やかになる。
 地面に付いた時、ルイズはぺたん、と尻をついただけで傷一つ負わなかったが、流石に腰が抜け、全身から脱力してへたり込んだ。
「は……はぇ……」
 へたったルイズに近寄るのは、後退した壮年の男性。
「大丈夫ですかな?ミス・ヴァリエール」
 コルベールその人だった。彼は広場に出ており、片手には糸を巻いた棒のようなものを握り、もう一方の手には魔法を使うための杖を持っていた。


 落ち着いたシルフィードが広場に下りると、背中の三人は腰が抜けたままのルイズに駆け寄った。
「大丈夫なのルイズ?」
「も…もう落ちるのはいや……」
 アルビオンから脱出した時もかなりの高度から落下したため、今のルイズは落下浮遊にかなり敏感になっているようだ。
 ギュスターヴに手を引いてもらいどうにかこうにか、小鹿のような足取りで立ち上がったルイズに、コルベールは緩く頭を垂れた。
「いやぁ、申し訳ありませんミス・ヴァリエール。実験中のカイトが風に流れてしまって。ミス・タバサの風竜を驚かせてしまったようですね」
 どうやらコルベールは空にカイト(凧)を飛ばしてなにやら実験をしていたらしい。そそくさと糸を巻き取り始めると、鳥のように左右に羽を広げた形のカイトが降りてきて、
器用に地面に落下させる。
「一体何の実験をしていらしたんですの?」
「え?…それは…まだ、ナイショですぞ」
 コルベールはばつが悪そうに笑った。
 カイトを回収したコルベールは咳払いを一つしてならぶルイズ、キュルケ、タバサを見た。
「しかし、ミス・ツェルプストーとミス・タバサはともかく、ミス・ヴァリエール。貴方は今まで何処へ行っていたのです?」
「え?…それはその…」
 ルイズは密命ということで早急ぎ、楽員に休む旨の知らせをせずに学校を起った為、ここ数日は無断欠席の扱いになっていたのである。
 もちろん、ここで密命をうけていたことを話すわけにはいかない。
「…い、今からオールド・オスマンへ報告してきますわ!では失礼!…行くわよ、ギュスターヴ」
 まだ足腰がはっきりしないルイズがぐいぐいとギュスターヴの腕を引く姿は、遠めに見てもおかしなものだった。



 『百貨店 建設』



 それより3日後、トリステイン内にアンリエッタ王女殿下と帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世との婚約、それにあわせて両国の軍事協約を結んだ事が発表された。
 さらにその翌日、アルビオン貴族連合『レコン・キスタ』はアルビオンの『統一』を宣言、国号を『神聖アルビオン共和国』と改名し、その初代皇帝としてレコン・キスタの首魁
オリヴァー・クロムウェルが新設された貴族統一議会の満場一致で就任した。
 クロムウェルは皇帝として就任すると、アルビオン新政府は瞬く間にアルビオン国内の騒乱を鎮圧し、最も近いトリステインとゲルマニアに対し『不可侵条約』を打診した。
 王政を打破して士気が上がっているはずのアルビオンからの打診に両国はそれを受諾する旨を共同して発表。トリステイン・ゲルマニア軍事協約が発効する翌月
ニューイの5日までには不可侵条約に関する三国共同の文書を作成する確約をとった。
 各国の首脳陣はそれらの折衝に追われる日々を過すのだが、国に暮す人々にとっては概ね平和な時間が流れることになった。

 勿論それは、トリステイン魔法学院の中も例外ではなかった。



 アルビオンから帰還して数日経ったある日の夜のことである。
 ギュスターヴは相変わらずルイズの部屋で寝泊りしていた。ルイズ本人も何も言わないから余人がとやかく言うことも出来なかった。
とはいえ、多少の住環境の改善がされているらしく、始めの頃毛布一枚だった寝床が、ルイズのベッドと並べられるようにマットが置かれるようになった。
「なぁルイズ」
「なによ」
 ルイズは寝間着で机に向かって本を読んでいた。振り向けばギュスターヴは、見慣れない真新しい帳面を広げている。
「商売を始めたいんだが…」
「そう……?…商売?!」
「ああ」
 一瞬聞き流しかけたルイズだが、ぐっと抑える。
「どうしたのよいきなり」
 ギュスターヴも佇まいを少し直し、ルイズを見て話した。
「ルイズの使い魔をやり続けるにしても帰る道筋を探すにしても、色々と資金が居るだろうと思ってな」
「……やっぱり、帰りたいんだ…」
 ルイズの声色がよろしくない、と思いながらも、ギュスターヴは包み隠さず話した。
「そりゃあ、帰りたくないといえば嘘になる。此処には俺を本当に知っているものは誰も居ないんだから…」

 ギュスターヴの言葉にルイズはくしゃ、と顔を崩す。そしておもむろに立ち上がって、ベッドに身を投げた。
「勝手にすればいいんだわ。どうせ私は使い魔も御せないだめなメイジなんだもん。使い魔に相応しいメイジじゃ、ないんだもん…」
 綺麗に敷かれたシーツに顔をぐりぐりとしているルイズは稚い。
「そんなことを言うなよ。…少なくとも、こうやってルイズ、お前の隣に居るのは嫌いじゃあないんだ」
 ギュスターヴは、そんなルイズの頭を撫でてやった。年の割に発育の悪いルイズは、そうされていると幼児のようにも見えるのだった。
「……じゃあ、どうしてよ。どうして帰るかも知れないなんていうの。ずっと居るって言ってくれないの…」
 自分が甘えているという自覚を持ちつつもルイズは聞かずに居られない。
 寝物語を聞かせるように、ギュスターヴは優しく話した。
「…俺はサンダイルで、過分にも色々と人の上に立って人生を過してきた。俺が居なくなってもう、一月以上になるだろう。
俺が居なくなった後、サンダイルがどうなったのか興味があるのさ」


 ギュスターヴの脳裏に、アルビオンで死地に赴いていったウェールズの姿がよぎる。
 あれは俺だ。ルイズに呼ばれなかった時の俺だ…。
 ウェールズは自分が死んでも何かが誰かに託されるだろうことを願って、戦場に逝った。
 サンダイルの覇王ギュスターヴもまた、あの砦の炎の中で死んだのだ。
 ならば、俺が社会に投げ込んだ鉄鋼は、どうなっていくだろう?誰かが引き継いでいってくれるものなのだろうか?


 優しく撫でられていたルイズは、まどろみを感じながらぶちぶちしている。
「…皆魔法が使える中で、魔法の使えないあんたがどうして人の上に立てるのよ…嘘ばっかり…本当はこんなところからさっさと逃げ出したいんでしょう……」
 重くなっていく瞼に抗えない。
「本当…嫌になっちゃう…商売がしたいんなら……勝手に……やりなさい……よ……」
「ありがとうルイズ。……おやすみ」
 寝付いたらしいルイズからギュスターヴが離れる。
「でも……っちゃ……や…ん……」
「ん?」
 ルイズが何か言っているかとギュスターヴは振り向くが、既にルイズの意識は落ちて静かな寝息に変わっていた。



 ギュスターヴはルイズの許可をもらうと、フーケ捕縛時やモット伯告発で得た資金を元手に、まず最も近場である王都トリスタニアの経済状況を調べた。
 しかし、そこで困ったことが判る。トリスタニアを中心とする首都経済圏の規模が、ギュスターヴの予想のそれを下回っていたのだ。
 トリスタニア『を含めた』周辺の村や町を含めて23,000人程度の経済圏では個人の起業参入の選択肢がかなり限定される。
(因みにサンダイルのハン・ノヴァは1260年代で40万人弱の人口に膨らんでいた)
 ギュスターヴは以前トリスタニアを歩いた時に見た光景を思い出した。大小の商店が店を構える中、その軒先を露天商が有料で借り受けて商売をしていた。
 露天商とはいえやはり商売人なら立派な店を持ちたいのが人情だろう。

 ギュスターヴの発想。それはそのような露天商達を相手に商売をすることだった。
 まず、ブリトンネ街等を始めとする商店街の一角に数階建ての建物を用意する。次に露天商を勧誘し、そこで店を開いてもらう。
張れて店もちになった商人達には売り上げの一部を場所代として支払ってもらうのだ。

 この案を現実にするにはいくつかの問題があった。まずトリスタニアの商工ギルドの許可がいる。
これについてはコルベールやマルトーといった知己の協力を得て事なきを得た。
 次に、露天商が招けるような建物の取得である。これが一番の問題で、結局取得できた物件を大幅に改装して用意する事になった。
 後は建物に呼べる露天商と、常在できないギュスターヴの変わりに管理をしてくれる人間の手配である。
この問題ではなんとシエスタから意外な援助をもらうことが出来た。
「王都には親戚の親子がお店を持ってるんですよ。お手伝いになるか判りませんけど、紹介の手紙を書いておきますね」

 シエスタの手紙と簡単な地図を手に王都に出かけた折、ギュスターヴは『魅惑の妖精』亭を訪ねた。
「そうね。そのお店でうちの店の宣伝とかもできるし、優先的になにか利用させてくれるなら全然オッケーよ」
 『魅惑の妖精』亭オーナー、ミ・マドモワゼルことスカロン氏は独特な風貌であったが悪人ではなさそうだ。
「露天商の誘致と管理が出来る人間ね。ちょうど良い子がいるわよ」
 そう言って奥のドアから現れ、紹介されたのはスカロン氏の娘ジェシカ嬢であった。
「この子もそろそろ商売人として独り立ちさせたかったし、人の使い方も巧いわよ。ジェシカ。あんたこの仕事できそう?」
 言われて計画を書いた書類をまじまじと見たジェシカはにっと笑って答えた。
「面白そうだね、お父さん。ギュスターヴさん、だったっけ。このお店の開店までの手配、私に任せてみてくれないっかなっ?」
 どうにょろ?と言いたげなジェシカの眼を見て、ギュスターヴは応と答えた。

 それからの行動は殆どジェシカの独壇場だった。商店街から腕利きの露天商を引っ張り込み、店舗の改装にも着手。あれよあれよという間にブリトンネ街の一角には
地上3階建て、半地下の一階、内3階に計6人の店主が店を構える驚異の新商店が誕生する事になった。



 それから後日、或る日のコルベール研究塔にギュスターヴはルイズを訪ねた。
 ぼわん、と開けられた出入り口から砂埃を吐き出して、埃にまみれたルイズとギーシュが出てくる。
「げっほ、げっほ…ミスタ・コルベール!持ってきて欲しいものってこれですか?」
 ギーシュとルイズは二人がかりで埃塗れの布に包まれた謎の物体を引っ張り出していたのだ。
「ギーシュ、あんた『レビテーション』で持って行きなさいよ」
「こんなかさばるもの一人で『レビテーション』かけても持っていけるわけないじゃないか」
「まったく、なんで私がこんな目に…」
 二人に呼ばれていたコルベールは、自分の研究塔の脇に設営した大きな天幕から姿を現す。
「いやいや、ご苦労様でしたミスタ・グラモン、ミス・ヴァリエール。手が離せなかったもので」
「なんなんですかこれは?」
 目の前に置かれた物体の布を剥ぐ。それは黒塗りにされ、一方から取っ手の付いた棒が張り出した『箱』だった。
「以前ゲルマニアに行った時に買ったきりで放置してたものです」
 一応状態を確かめたコルベールは、二人係りで引っ張り出してきたものを軽々と引き上げる。
「これを取り付ければ…」
 そういって大きく開けられた天幕に箱を引き込む。天幕の中にはレンガや土壁で出来た人一人入れるようなドーム状の建物のようなものが作られていた。
コルベールは箱を立て、建物のようなものの脇にくっつけた。
「ふむ。これで完成ですぞ」
「ミスタ・コルベール。これは一体…」
 いぶかしむギーシュにコルベールは自慢げに答えた。
「これはですね。ミスタ・ギュスより伝授していただいた製鉄法を用いた溶鉱炉なのです」
「「溶鉱炉?」」
 声を揃えるルイズとギーシュ。
「二人に持ってきていただいたのは箱型のふいごですよ。火入れはまだですが、これが使えればトリステイン産の鋼材よりも質の高い錬鉄が作れるようになります」
「しかしなんでまた自前の溶鉱炉なんて作るんですか?」
「今私のやっている実験は色々と複雑な要素が絡んでおりましてな…詳しくはまだ、秘密です」
 なんとなく不満気なルイズとギーシュであった。



「でも最初に聞いた時は驚いたね。露天商にわざわざ店自体を貸して営業させるなんて」
 天幕の外に簡易なデッキセットが置かれ、そこでギーシュが葡萄水を飲んでいた。
 彼はルイズ達が留守にしている間、ちゃっかりコルベールの助手として居座っていた。モンモランシーやケティから逃げるにも体が良いからだ。
 シエスタはこまごまと給仕をして回っている。
「店の名前はどうするんだい?」
「ん?…そういえばまだ決めてなかったな…」
 手の手紙を弄びながら答えるギュスターヴ。
 手紙には店舗の準備、商人の手配が出来たこと、4日後に控えた開店には顔を出して欲しい旨が書かれていた。
「開店直前まで店の名前が決まってないって、どういうことよ」
「でもこういうお店って何屋さんっていうべきなんでしょう?」
 手紙には誘致した商人が主に扱っている商品についても書かれていた。日用品、食料、アクセサリー、などなど。変わったところでは
床屋と香水の計り売りなんてものも名前の中に入っていた。
「ギュスターヴ、ちゃっちゃと決めなさいよ」
「そうだなぁ……『百貨店』、なんていうのはどうだろう」
「「「ひゃっかてん?」」」
 コルベールを除く三人が聞き直す。
「いろいろな物を置いているって感じがするだろう?」
「ま、いいんじゃない?」
「いいですね」
「うーん、僕なら『七色の薔薇園、五色の敷石、三色の川の流れる場所』とか名づけるなぁ」
 まるで『明日の天気は晴かな』くらいの気軽さで言ったギーシュの言葉に、シエスタとルイズは冷たい声で答えた。
「それはないわ、ギーシュ」
「ないですね」
「えぇ?!ひどいなぁ」
「略すと七五三だな」
「なんだかもっと馬鹿にされている気がする?!」
 そう言ったギュスターヴも特に他意のあるコメントではなかったりする。



 そんな風に談笑がされるコルベール塔前に、風鳴りをして一体の竜が降りてくる。青い鱗のその竜に、蒼紅の二色の髪が風にはためいていた。
「ハァイ?お元気」
「ミス・ツェルプストー!」
 シエスタはキュルケを認めると、サッと輪の中から一歩下がってみせたが、キュルケは手を振って制止した。
「あら、大丈夫よ?今日は談笑したいところだけど、ちょっと用事が違うの」
「用事?」
「私の用というか、タバサがね…」
 キュルケが振り返ると、タバサはシルフィードから降りて談笑の輪に近づいていった。その手にはいつも持っている、身の丈を越える長い杖が、ない。
「貴方に」
「僕?」
 声をかけたのはルイズでもギュスターヴでもなく、ギーシュだった。
「貴方に決闘を申し込む」
 悠長にグラスに葡萄水をかっくらっていたギーシュは、貴族の息子らしくなく含んでいたものを盛大に噴出した。


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