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絶望の街の魔王、降臨 - 04



「よく逃げずに……」
 ぱあん、と、破裂音。ギーシュの口上と、頬の皮膚を切り裂いて、鉛弾は壁に突き刺さった。
「油断大敵」
 ギーシュの顔に冷や汗が浮かぶ。
「尻尾を巻いて逃げるなら、許さないでもないわ」
「な、舐めおって……」
 その冷や汗も、怒りで吹き飛んだ。
 卑怯者、と沈黙していたギャラリーからも野次が飛ぶ。
「そうね、ちょっと大人げないわね。たかがお遊び、しかも子供相手に銃は過激すぎるわね」
 愛用のベレッタとタクティカルベストをルイズに預ける。
「すぐ終わるわ」
 わざとギーシュに聞こえる様に言う。
「舐、め、お、っ、てえええ……」
 怒り心頭のギーシュ。
「さて、始めましょ。勝敗はどうするの?」
 その言葉に、少しだけ落ち着きを取り戻す。
「……すー、はー、僕としたことが、下らん挑発に乗ってしまったな。ルールは三つ。降参したら負け。僕は杖を手放したら負け。貴様は死んだら負け」
「破格の条件ね。死ぬまで負けさせてくれないなんて、太っ腹」
「ふん、言っていられるのも今の内だ!始めるぞ!」
 ギーシュは薔薇の造花を振る。あれが杖か、と確認したジルは、それを見ながら手袋をはめていた。
「出でよ!ワルキューレ!」
 薔薇の花弁が一つ、地面に落ちる。そこから、鎧われた人の形がせりあがる。
「僕はメイジだ。よって魔法で戦う。文句はないな!」
「木偶の影で震えるがいいわ、坊や」
 完全に余裕をかましている。ワルキューレに対し半身に立ったまま動かない。
「減らず口ををを……行け、ワルキューレ!」
 ギーシュの号令と共に、ワルキューレが駆ける。そしてジルに殴りかかった。



 タバサはその光景をじっと見つめていた。キュルケに引きずられるまま連れてこられたが、これはなかなか興味深かった。ルイズの使い魔の平民、彼女は初めて見た時から異質な匂いがした。大爆発した教室での異様なオーラ、騎士の自分より絶対に強い。直感で、そう感じた。
「ねえ、タバサ。どうなると思う?」
 キュルケに訊ねられる。愚問だ、ギーシュごとき素手でも相手にならない。
「ギーシュ、生きてたら幸運」
「は?」
「負ける」
「そう。何でそう思うの?」
「彼女は歴戦の戦士」
 ギーシュと相対している凛々しい女性と、ピンクの髪の少女の方向に視線をやり、呟いた。



「フッ」
 緊急回避。空振りしたワルキューレはバランスを崩し、ジルに無防備な背を晒す。
「フンッ!」
 その背を蹴り、ワルキューレは倒れる。そこに拳を叩きつける。
 バキャッと粉砕されたワルキューレの背。その穴を広げる様に殴り、上半身と下半身を泣き別れにした。ネメシスを突き落としマグナムリボルバーを片手で撃つ腕力×サンドナックル=弱い金属なら砕く威力。ワルキューレなど木の板の様なものだ。
「青銅?脆いわ。薄いし、論外ね」
 事前にルイズに聞いていた通り、ギーシュは指揮官タイプのメイジだった。青銅のゴーレムを操り、戦う。その時点で彼女の戦闘スタイルは決まった。サンドナックルとコンバットナイフで、砕き切り刻む。
 最初の挑発は、冷静を失わせる為の作戦だ。今までロクな情報も無くバイオハザードに身を投じていた彼女に、久し振りにブリーフィングもどきをしてくれたルイズに、少しだけの感謝していた。
「舐めおってェェェ!」
 三度目の咆哮。素手で青銅を粉砕した事実は完全に頭の中から消えていた。杖から花弁が飛ぶ。六枚のそれは地面に落ち、六体のワルキューレとなる。
 一つ溜息を吐いたジルは、ベルトのシースから新たにナイフを抜く。そこで違和感を覚える。
 左手が熱を持っている。妙に躯が軽い。
 しかしそれは戦闘に不利になるものでもない。むしろ有利ですらある。それを頭に入れ、自分を囲む様に走るワルキューレの一体に向けて走り出す。
 予想外の速度、そしてその速度についていける思考。ロックフォード島・南極基地の報告書にあったウェスカーもこんな感じだったのだろうか。
「ハッ」
 青銅の人形を切り刻む。四肢を奪い、動けなくする。それにやっと反応するワルキューレ群。遅い。
 背後に回ろうとした三体目を刻む。何百何千と人間(だったもの)や化物を切り刻んだナイフ。硬い甲殻を持つクリーチャーや、巨人の頑強な骨すら切り刻み、今もなお切れ味は落ちていない。
 合衆国では一般的なコンバットナイフだ。ジルがラクーンシティ時代から愛用している武器も、カスタム品以外は外観は一般
的な物と変わらない。だが、R.P.D.に、特にS.T.A.R.S.に回される官給品の武器の質は異常だった。ナイフはそれが特に顕著に
現れた例だ。どんなに酷使しても、切れ味は鈍らない。たとえ、青銅を切り裂いたとしても。
「遅い」
 四体目、足払いをかけて倒し、片脚を踏み潰す。残った脚を掴み、寄ってきた五体目に叩きつけ、壊す。
「フッ」
 背後から何かがくる感覚に反応して、無意識の緊急回避。前転の後にクイックターン。視界には、青銅の剣を持ったワルキューレ。
「へぇ、そんな事もできるの?」
「い、今までは油断していただけだ!貴様など、このワルキューレ二人で充分だ!」
 もう一体は長槍を持っていた。
「そう。なら私も……」
 サイドパックに手を入れる。そこから取り出したのは────
「これを使わせてもらうわ」
 四つの穴が前面に開いている、濃緑色に塗られた四角い箱。その大きさは、常識ならサイドパックに入る筈はない。
「はっ!何だそれは?」
 しかしその事実のに疑問を抱けるほどの余裕はギーシュにはない。笑うギーシュを無視し、ジルは箱を肩に担ぎ上げ、箱から突き出た棒を握る。
 ギーシュの疑問に、それは答えた。何かがその箱から放たれ、ワルキューレの一体に向かって飛翔し────爆発した。
 ギーシュの頭に何かがコツンと当たり、地面に落ちる。それに眼を向け、そして爆発した場所に視線を戻し、数秒の後、何が起きたのかを理解した。
 ギーシュの前には、指が幾つか欠けた、ワルキューレの手。爆発した場所には何も無い。
 ────ああ、そうか。
 トドメと言わんばかりに、最後のワルキューレも爆散する。
 ────壊れたのか。
 ジルはM66をサイドパックに仕舞い、残されたギーシュに向き直る。
 口を開けたまま呆けていた。ただただ空虚な顔で、眼の前に広がる惨状を見ていた。バラバラにされ、炎に包まれるワルキューレ。その炎を背景に、悠然と歩むジルは、生徒達には魔王に見えた。
「これで終わり?呆気ないわね」
 ナイフをシースに戻し、サンドナックルを外す。
「指揮官なら、奥の手を隠していると思ったけど……それすらないなら、貴方は無能よ。挑発に乗って冷静さを失い、自身を過信して、相手を侮って、少ない兵力を失い孤立する。まるでどこかの雑魚悪役の幹部ね」
 腕を振り上げ、平手打ちを食らわせる。気持ちがいいほどにいい音が響き、綺麗な跡がギーシュの頬につく。
「貴族?薔薇?笑わせないで。二股かけて、女の子を泣かして、関係無い弱者に八つ当たりして、挙げ句の果てに決闘?貴方には貴族を名乗るに相応しくないわ」
 情けなく倒れたギーシュに、容赦無く言い放つ。
「貴族で在りたいなら、よく考える事ね。貴方が真っ先にするべき事を」
 もう話す事は無いと言わんばかりに、ギーシュに背を向け、ルイズの元に向かう。既に炎は燻っていた。



「勝ちましたね……」
「そうじゃな……」
 信じられない、といった表情を浮かべている中年と老人。勝つ事自体は信じられる。慢心した貴族など、恐るるに足らず。二人はそれを知っている。
 信じられないのは彼女の行為と武器だった。
「あれは……なんでしょう?」
「ワシに訊くな。君の専門分野じゃろう?」
「そうですが……」
 ああ、厄介事が増えたわい。そう呟いて、オスマンはコルベールにジルを調べる事を命じた。



「勝ったわよ」
 誰が見ても完璧な勝利だった。ワルキューレが全滅した時点で終わったも同然だったが、平手打ちでギーシュが杖を手放して確実となった。
「凄いじゃない!」
 ルイズははしゃぐ。ギーシュはドットメイジだが、戦闘魔法に関してはそれなりの成績を残している。それなりに強いのだ。
「凄くないわ。私の仕事場だったら、助ける暇もなく死ぬわよ、彼」
 アークレイ山地の洋館、ラクーンシティをはじめとするあらゆるバイオハザード発生地域を生き残った彼女は、経験からその評価を下した。
「仕事場?」
「そう、仕事場。街中を死んでいる筈の人間が歩き回り、化物がうろつき回り、生きた人間を襲って喰らう……」
 その顔には、一瞬だけ計り知れない感情の渦が垣間見えた。憎悪と憤怒と悲哀と……ほんの僅かな希望。
「無駄に疲れたわね。授業が終わったら、さっさと部屋に戻って休みましょう」
 平民。なのに貴族より凛々しく誇り高い使い魔の歩く姿は、ルイズの考えの幾つかを変えた。
 貴族と平民の差。
 魔法と貴族が中心の社会の在り方。
 全て失敗し爆発する自分の魔法。
 ルイズの全てが根本から覆される。この使い魔の女性は、この世界をあらゆる方向から変えていく。そんな予感がした。



 その夜。
 ルイズの予感を一層強くする出来事が起きた。
 ギーシュがジルに謝りにきたのだ。




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