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創世の使い魔-02



創世の使い魔
第2章 ―召喚―


「やった……」
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは歓喜のあまり声を上げた。
 トリステイン魔法学校の恒例行事、晴れて二年生になった者達が行う『使い魔召喚の儀』。
 サモン・サーヴァントに失敗すること数えて十七回、その度に爆発を振りまいた所為で
体が少し埃まみれになっている事すら今の彼女には眼中にない。
「とうとうやったわ!」
 万感を込めた叫びと共に、淑女あるまじきガッツポーズ。
 普段のルイズならば思ってもしないであろうそのしぐさも、今の彼女には自重という言葉すら浮かばない。
 誰かが叫んだ「ぜ、ゼロのルイズが成功させやがった!」と言う言葉も、右から左に聞き流していた。
 それほどまでに彼女は――いわゆる、最高にハイという奴だった。

 太陽光を燦然と反射させながら、後頭部近くまでつるりと禿げ上がった男がルイズにやさしく声をかけた。
「おめでとう、ミス・ヴァリエール」
「あ、有り難う御座います! ミスタ・コルベール!」
 コルベールと呼ばれた、教師然としている男は鷹揚そうにうなずく。
 彼にとっても、ルイズが成功した事は我が事のようにうれしかった。
 魔法が使えず『ゼロのルイズ』などという蔑称で彼女が呼ばれているのを彼は知っていた。そして、その汚名を払拭するために
死に物狂いで勉強していることも彼は知っていた。
 その彼女がようやく魔法を成功させたのだ、うれしくないわけがない。
「さ、儀式の続きを。
「はい!」
 ルイズは『それ』のそばまで近づき、そっとやさしく抱きかかえる。
 真っ白の――いや、土埃で少々茶色く斑がかった『それ』はまさしく『鳥』だった。

 「――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

 歌うように呪文が紡がれる。
 間違えるはずも無い、何度も練習したのだから。

「五つの力を司る ペンタゴン――」

 優しく持ち上げ、その美しいくちばし(ルイズ主観)に―――

「この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

――そっと唇をつけた。


 そして両手に抱えた鳥がふるふると震えているのに気づくと、ルイズはほんの少しだけ力を込めて抱きしめた。
 使い魔のルーンが刻まれるときには激痛を伴う。それはどんな使い魔であろうと例外は無い。
「ごめんね。大丈夫、すぐ収まるから」
 このとき正常な判断力がルイズに少しでもあれば、泣き声ひとつあげないことをいぶかしく思ったことだろう。
 だが、今の彼女にそんな余裕は無い。
 ただひたすら、「大丈夫、大丈夫」と優しくその背中をなでるだけだった。
 震えが止まり、ルーンが刻まれたであろう事を見計らって、コルベールは正式に使い魔になったであろう鳥の体をさっと見渡す。
「サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできたようだね」
 左足に小さなルーンが刻まれているのを確認したコルベールは満足げな笑顔をうかべる。
「それにしても……ふむ、珍しい形のルーンだな」
 珍しい? どこにでもいそうな何の変哲も無い鳥なのに。
 ルイズが疑問符を浮かべる中、コルベールはさらさらとそのルーンを紙に書き取っていく。
 何か分かったらおしえますよ、とルイズに一言告げてコルベールは他の生徒のほうを向いた。
「さて、それでは皆さん。学園に戻りましょう」
 その言葉を聞いて見物気分で群がっていた生徒たちが三々五々、≪フライ≫の魔法で飛び上がっていく。
 次いでクラスメート達から発せられたルイズを揶揄する言葉を聞いてルイズは思わず歯噛みをした。
 売り言葉に買い言葉。ルイズはいつものように罵声を上げようとしてふと口をつぐんだ。
 ……いや、ちょっと待てよ。
「ゼロのルイズ、お前には地べたがお似合いだ!」
 どう見ても豚にしか見えない物体が何かのたまった気がした。
 気のせいに違いない。豚がしゃべるなんてありえない。例え空を飛んでも豚は豚だ。
 ちゃっちゃと頭の外に押し出すと、ルイズは思考の海へと埋没する。

 サモン・サーヴァントは一応だが成功した。
 コントラクト・サーヴァントに至っては一発で成功した。
 だから……もしかして……ひょっとしたら――――。
 その考えが完結するよりも先に、ルイズは杖を振った。
「イル・フル・デラ・ソル・ウェンデ!」

 ――ズズンッ

 森の向こう、遥か彼方で爆発の華が咲いた。
 遠くかすかに見えたのは地面に向かって急降下していく真っ黒い塊と、「マリコルヌぅぅぅぅぅぅっ!」という誰かの叫び声。
「あっ」
 ルイズの頬に汗が一筋つるりと落ちる。
「………あ~、まぁそのうちなんとかなるわよ!」
 興奮冷めやらぬルイズは、普段の彼女からみれば考えられないほどプラス思考だった。
 無論、そのプラス思考の中には『マズイものを見なかったことにする』も含まれていたりする。
 喜びは人を楽天的にさせるのだ。
 地面と再開を果たしたソレに他の生徒が集まっているところから眼をそらすように、両手に収まっている鳥を見やる。
 ショージキなところ、ドラゴンやグリフォンを召喚して周りの連中を見返してやりたいという気持ちも無くは無かったが、それはそれ。
 この際、平民あたりが召喚されなかっただけ破格と言うものだ。
 ――無論、彼女自身は知る由も無い事だが、彼女が望んでいたような使い魔を召喚しても、良い結果がもたらされるかと言えばそうでもない。
 もしそんなモノが呼び出されてしまえば家柄ゆえのプライドの高さから彼女は増長し、魔法が使えない事も相まって周りの反感をよりいっそう買うことは日の目を見るよりも明らかだ。
 それこそ貴族ではない平民が使い魔になれば、彼女が生来持つ性質……癇癪が大爆発する事は誰もが予想しえることだろう。
 可も無く不可も無く、ごく普通の使い魔であった事が彼女の持つ気の強さを良い塩梅で抑えていたのだった。
「それに……」
 ルイズはさらに思考をめぐらせる。
 鳥が召喚されたと言うことは、ひょっとしたら自分の魔法の属性は『風』なのかもしれない。
 『風』の魔法――奇しくも偉大なメイジであった母と同じ属性。
 期待するな、と言うほうが酷というものだ。
 皮算用とはいえ、未来に明るい見通しが出てきた事ににんまりと笑みを浮かべ――思い出したように己の使い魔に声をかけた。
「まずはあんたを綺麗にしてあげなくっちゃね」








 残りの授業は使い魔との交流を深める時間に当てられたため、実質自習になっていたのが幸いした。
 だがそれもあくまで時間的に、である。
「ったく、なんでわざわざサモン・サーヴァントするのにあんな遠くまで行かなきゃいけないのよ」
 使い魔を片腕に抱え、老人くさいとは分かりつつも太ももと腰をトントンと叩く。
「運動不足かしらね……」
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、御年十六歳、年の頃から言えばまだまだ健康盛りである。
「これじゃあまるでエレオノール姉さ……」
 そこまで言いかけて、ルイズは考えるのをやめた。
 オーク鬼の居ぬ間に…とはよくある言葉だが、やはり性根の奥底まで植えつけられた恐怖は根強い。
 ハルケギニアにおける結婚適正年齢を大きく越え、そろそろ『行かず後家』と呼ばれてもおかしくない長姉の笑顔にも似た形相を思い浮かべて
ルイズは一瞬、身を振るわせた。
「そ、そんな事よりまずはこの子を……って、あっ!」
 そうだ、使い魔のお風呂どころではない。
「わたしもお風呂はいらなきゃ……」
 自分の体を見下ろし、嘆息する。
 率直に言ってしまえば、ひどい有様だった。
 十数回にも及ぶ失敗と爆発の所為で、服も髪も肌も埃だらけ。
 使い魔の身づくろいを心配するより、まず自分の事を考えなければ。
「だけど、ね……」
 運動不足も手伝って足はパンパン、お風呂へ行ったあとこの子を洗うような元気も無い。
 もちろん使い魔と一緒にお風呂に入る気は無いし、そもそも校則で禁止されている。
 となれば、手は一つしかない。
「まっ、これぐらいなら始祖ブリミルもお目こぼしして下さるでしょ――シエスタ!」
 視界の遠く、校舎の影で洗濯物を干していたメイドに声をかける。
 シエスタ、と呼ばれたメイドは辺りを見回し、ルイズの姿を見つけるとユッサユッサとたわわに実ったバストを揺らしながら走りよってきた。
 このとき、ルイズの表情が一瞬引きつったのはいうまでも無い。
「はい。何か御用でしょうか、ミス・ヴァリエール」
 丁寧な言葉と共にシエスタはルイズに向けて深々とお辞儀をする。
「ええ、シエスタ。一つ頼みたい事があるの」
「何なりと」
 シエスタはお辞儀の姿勢を崩さず応える。
 本来、貴族は使用人の名前など覚えない。平民の名前など覚えるだけで誇りに傷が付くなどという輩もいる。
 しかし貴族にそういう考えがあるのと同様に、平民にも似たような考えを持つものも少なからずいる。
 ――魔法の使えない、親の名前だけで貴族をやってる娘っ子に下げる頭なんて無い。
 無論、本当に頭を下げないわけではないが態度に出てしまっているような奴は少なくない。
 そういう意味で、ルイズにとってのシエスタは別格だった。
 平民にも貴族にも『ゼロのルイズ』と蔑まれてきた彼女だからこそ分かる微妙な悪意を、彼女は持っていなかった。
 お人よしなのかもしれない、お頭が弱いのかもしれない。だが、ルイズにとってはどちらでもよかった。
 シエスタは私を蔑まない。ルイズがシエスタの名前を覚えたのは至極当然の事だった。
「たいした用じゃないわ。この子を綺麗にしてあげてほしいの」
「この子?」
 ようやく顔を上げたシエスタはルイズの胸元にいる小さな遣い魔をみて、あっと声を上げた。
「遣い魔を召喚なされたのですね、おめでとうございます!」
 我が事のように顔を綻ばせるシエスタの表情を見て、ルイズの表情も思わず緩む。
 この笑顔は和むわ~。
「かわいらしい使い魔さんですね」
 使い魔に向かって、よろしくお願いしますねと声をかけるシエスタ。
「本当なら私が洗ってあげるべきなんでしょうけどね」
 苦笑いしながら軽く肩をすくめるルイズ。
 本来の彼女ならばシエスタの前といえどそんなしぐさはしなかっただろうが、使い魔を召喚できた事も手伝ってか
いつもよりもオープンな気持ちになっていた。
「はい、わかりました。この子は私が責任を持ってお預かりします」
「よろしく頼むわね」
 ルイズから手渡された使い魔を両腕で抱き込むとシエスタは再びお辞儀をし、洗い場のある方向へと歩いていった。
 ちなみにシエスタが使い魔にその豊かな胸元が押しあてられていたを見て、ルイズは再び顔を引きつらせた。






 入浴を終え、自室まで使い魔を連れてきたシエスタに髪を梳かせながら、ルイズは思いだしたように口にした。
「この子の名前、どうしようかしら」
「あら、まだお決めになっていなかったのですか?」
「お風呂に入りながら考えはしたんだけどね。『ブラン』とか『オワゾー』とかじゃあ味気ないでしょ」
「あ、あはは……」
 それはそうだろう、『白』と『鳥』ではそのまんまでしかない。
「いいのよ。ネーミングセンスが無いって自分でも分かってるから――そうだわ」
 妙案とばかりにポンっとルイズは拍手を打った。
「シエスタ、あなたもこの子の名前を決めるのに協力してちょうだい」
 毛布の敷き詰められたバスケットにちょこんと座る使い魔を見ながら言う。
「そ、そんな! 恐れ多いです!」
 自分で言っておいてなんだが、シエスタがそう思うのは無理もないとルイズも思った。
 使い魔とはメイジにとって文字通り手足となるもの。主人が愛情を込めて名付けるのが普通であり、平民に意見を聞くなど
本来ならばありえない。
「いいのよ。わたしもこの子にとびっきり良い名前を付けてあげたいし。なんてったってルイズ・フランソワーズ・ヴァリエールの
使い魔なんですもの。平々凡々な名前なんて付けられるわけが無いわ」
 おどけながら言ってみせると、それが伝わったのかシエスタはクスリと笑うのが分かった。
「私などで宜しければ、よろこんで」
「そう、よかったわ。で、早速だけどなにか思いつかない?」
「えぇと…………『ヨシェナヴェ』なんて如何でしょうか?」
ブッと思わずルイズは噴き出した。
「……あたし、知ってるのよ。それってアンタの故郷の名物料理じゃない」
「し、失礼しました。では、『ペットショップ』……」
「却下ね。よくは分からないけど鳥にはつけちゃいけない名前のような気がするわ」
 彼女達は知らない。その名を持つ鳥が『殺戮追跡機械』と呼ばれた事を。


「う~ん……」
「とりあえず、アンタのネーミングセンスがあたしと似たり寄ったりだって事は分かったわ…」
 堂々巡りもいいところだった。
 髪を梳かし終え、シエスタの対面にルイズが座る形に変わって十数分。
 悩みに悩んで悩みきったそのとき、天恵が降りたかのごとくシエスタが、あっと声を上げた。
「―――ゼファー」
「ぜふぁー?」
 シエスタは笑顔を浮かべながら、行商人の方から教えていただいたのですけど、と前置く。
「『春をもたらす西風』という意味だそうでして、転じて『新しいモノを呼び込む風』という意味もあるそうですよ」
「ふ~ん、ゼファーね」
 ゼファー、ゼファーと口の中で何度か繰り返す。
 語呂も良く、意味も良い。加えてどこか高貴な響きすらある。
「いいじゃない、気に入ったわ。今からこの子の名前は『ゼファー』ね」
 膝の上に伏せながら寝息を立ててる使い魔に「いいわね、ゼファー」と優しく囁きかける。
「たいへん宜しゅうございますよ、ミス・ヴァリエール。よかったですね、ゼファー……」
 ルイズと同じように、優しげな笑みを浮かべながらゼファーを見つめるシエスタ。
 よし決めた。学園を卒業するときになったら、ヴァリエール家にこの子を召し抱えて自分の専従としよう。ルイズはそう固く誓う。
「―――それでは、私は失礼させていただきます」
そうとなれば……。
「ちょっと待った」
「はい?」
 怪訝そうにシエスタは小首をかしげる。
 その様子にニンマリと笑い、わざとらしく咳払いをして尊大そうな口調でルイズは言った。
「タルブのシエスタ。今後はわたしの事を名前で呼ぶ事を許します」
 使用人は貴族を名前で呼ぶ事は許されていない。家名で呼ぶのが世の倣いだ。
 『名前で呼ぶ事を許す』、それは即ちその使用人を信頼したという証である。
 それを聞いたシエスタは何を言っているのか分からないといった風に、ポカーンと口を開けるだけだった。
 ちょっとしたイタズラの成功にルイズがクスクス笑うと、途端にシエスタは満面の笑みを浮かべた。
「はい! かしこまりました、ルイズ様!」
 こうしてルイズはその日、親しい使用人と愛しい使い魔の両方を得た。

 ――その片方はあまり長く続かなかったが…………。




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