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ゼロのエンジェル-07


「おーい、シエスタ! そこに置いてある皿を裏の奴らに持っていってくれ!」
「はーい!」

昼前のアルヴィーズ食堂は戦場だった。
料理人も使用人も世話しなく動き回り、各人が己の仕事をまっとうしていた。
そんな中、メイド服を着た一人の少女が料理長の指示を受けて食堂の裏手へと歩みを進める。
少女はおかっぱ状にした黒い髪をなびかせながら裏手の広場の一角に皿を置く。
すると、リスや小鳥といった小動物が皿に群がって食事を始めた。
そんな光景を微笑ましげに見つめるメイド少女。

「ふふっ、可愛い…」

少女――シエスタは愛らしい動物たちの姿に心癒されながら、周囲を見回した。
食堂の裏手は使い魔たちの食事場だった。
基本的にここにいる動物たち―――使い魔たちの食事は学園の平民が世話をしている。
勿論、肉食の動物や人よりも大きい使い魔は流石に怖いので規定の位置に餌を置いたらすぐに退散するのが常なのだが。

(…あら?)

シエスタは使い魔たちが食事をするといういつもの光景の中に、異物を見つけた。
広場の一角に使い魔たちが密集している。
記憶が確かならば、そこは餌置き場ではないにもかかわらず、だ。

(なにかあったのかしら)

興味半分、義務半分でシエスタはその方向へと目を細める。
ドラゴンの影でよく見えないが、密集地の中心に人影が見えた。
自分と同じ黒い髪に黒い服装。
体格を見た感じだと自分と同じくらいの年頃の男の子だろうか?
こちらから見ると後ろを向いているため顔はわからないが、メイジには見えない。
もしや自分と同じ平民が使い魔たちに絡まれているのでは…?
その想像に顔を真っ青にするシエスタ。
だが、その懸念はすぐに払拭された。
少し近づいてみると、それは危害を加えられるという意味での絡まれるではなく、懐かれているという意味でのものだったのだ。
大小様々な使い魔たちに身体を擦り付けられ、舌で舐められている少年が目に映る。

(凄い…)

メイジの使い魔は基本的に主人にしか懐かない。
にも関わらず、彼は複数の使い魔たちに懐かれ、親しまれているではないか。
「わあ…」

感動と羨望の入り混じった声がメイド少女の唇から漏れる。
少年はリスや小鳥といった小動物はおろか、狼やグリフォンといった肉食かつ獰猛なタイプの動物にすら懐かれていた。
終いには使い魔としては滅多にお目にかかれないドラゴンにまで顔を舐められて親しまれている。
なんて凄い人なのだろう。
きっと彼は、天使のような心を持っているに違いない。
だからこそ、使い魔の動物たちは競うように黒衣の少年を慕っているのだ。
シエスタは最早少年に畏敬の念すら抱いていた。

(でも、あれじゃあベタベタになっちゃうんじゃ…)

いつまでも見ていたい光景ではあったが、延々と少年が舐められているのを見ていると流石に不憫に思えてくる。
別に放置していても構わなかったが、シエスタとしては彼と話をしてみたかった。
彼は一体何者で、どんな人なのだろうか。
その好奇心に突き動かされてメイド少女は小走りに少年の方へと向かっていく。

「―――のね」
「く、くすぐったいよ」

近づいてみると少年の声が聞こえてくる。
人間は少年しかいないはずなのに、何故か女性の声が聞こえた気がしたが…
とりあえずシエスタは空耳だろうと自分の耳を疑っておいた。
少年まであと数メイル。
そこで少年と向かい合っていた青い竜がこちらに気がついたのか目を丸くして視線を向けてきた。
足が止まる。
思えば、少年には懐いていても自分までがそうであるというわけではない。

(か、かじられちゃう!?)

自分の数秒先に恐怖するシエスタ。
だが青いドラゴンは何故か慌てたように口を閉じると大急ぎといった風体で空へと舞い上がり、そのままその場を去っていった。
意外な展開にポカンとする。
だが、シエスタとしてはそれは好都合だった。
本来の目的を果たすべく、気を取り直したメイド少女は自分と同じく呆然としている少年の後姿に声をかけた。

「あの…このハンカチ、使ってください」

びくっ、と軽く反応する少年の背中。
驚かせてしまったかな、と反省しながらもシエスタは少年がゆっくりと振り向くのをドキドキしながら眺めた。
「あ、どうもありがとうございます」

少年がこちらに振り向いた。
手渡しで握られるハンカチ。
と同時にシエスタの動きが眉毛一本に至るまで制止する。

「―――え?」

考えてみて欲しい。
北野君の容貌は極悪な三白眼、薄い眉毛、クマを目の下に携えてポマードでビッシリ固めたオールバックの髪だ。
その上、服装は黒のガクランとハルケギニア人からすれば黒一色のいでたち。
この時点で夜道で出会えば幼子を泣かし、老人をポックリ逝かせるに不足ない外見である。
にも関わらず、今の彼には更なる恐怖オプションが加わっていた。
そう、それは動物たちの唾液だった。
手と顔は唾液によってベットリと濡れ、ぬらぬらと不気味に光り輝いている。
こんな外見の少年をいきなり前情報なく至近距離で直視してしまった女の子はどういう反応をとるのが普通だろうか?
気絶する? 泣き喚く? 腰を抜かす?

「き―――」

シエスタがとった反応は、悲鳴を上げる。
そして、同時に家族から仕込まれた防衛反応を発動させる、だった。

「きゃああああああっ!!」
「うわっ!?」

ぶんっ!
ともすれば虫の一匹すらも殺せないような少女が突如繰り出す回し蹴りを北野君はかろうじてかわす。
が、シエスタはそれを気にする様子もなく、すぐさま右足を前に踏み込ませると腰の捻りで左の拳を突き出した。
いわゆる、逆突きである。
ひゅん、と空気を切り裂く音と共に繰り出される少女の拳。
だがこの一撃も北野君はバックステップで回避する。
しかしシエスタの攻撃はそれで終わらなかった。
前傾姿勢のまま軽くしゃがみこみ、タメを作るとそのままバネを活かしてアッパー気味の拳を突き上げる!

「小磯流古武術奥義―――悪魔封殺滅却拳!」

ここで断っておくとそんな奥義はシエスタの使う流派にはない。
単に彼女がノリで叫んでいるだけだった。
ある歴史においては北野君は彼女のはとこの父親から同じ技をくらう羽目になるのだが、それは余談である。
それはさておき。
渾身の力と共に繰り出された拳は確かに北野君の身体を捉えた。
手ごたえあり――!
軽い興奮状態の中、シエスタは何を相手にしているか、何でこうなったのかすらも忘れて会心の手応えに顔をほころばせる。

「び…びっくりしたぁ…」
「そんな…!?」

しかし、シエスタの一撃は北野君にダメージを与えてはいなかった。
シエスタの一撃で後方に吹き飛んだ北野君だったが、紙一重で回避に成功していたのだ。
代償として一番上の学生ボタンが吹き飛んでしまったのだが。

(こ、この人いきなりどうしたんだろう? ハンカチを貸してくれるいい人だと思ったのに…)

狼狽するシエスタと同じく、北野君も突然の状況に狼狽していた。
大人しそうなメイド少女がいきなり襲い掛かってきたのだから無理もない。
しかし北野君からすれば、自分の顔が怖いから条件反射で襲い掛かられたという事実は想像の範疇にはなかった。
だからこそ、彼は考えた。
自分が襲われるに足る理由を。

(どうしよう。つい手を出しちゃった…でも謝ってすむはずないし…ひいおじいちゃん、助けて!)

一方、奥義をかわされたメイド少女は混乱の極致だった。
思わず自分が会得した武術の開祖である曾祖父に祈ってしまう。
つい先程まで少年のことを天使のようだと考えていたことなど完璧に忘却の彼方である。
今の彼女の思考は突如現れた悪魔をどうするか、その一点に絞られてしまっていた。

「あ、あ、あなたは一体誰なんですか!? こんなところでメイジ様達の使い魔を手懐けて、何を企んでいるんですか!?」

魔法を使ってこないところを見ると、メイジではないのだろうが、この容貌である。
一体どんな悪事を企んでこの場にいるのか。
無力だとわかっていながらもシエスタは聞かずにはいられなかった。
第三者視点で考えれば、おいおいそりゃ流石に北野君に対して失礼じゃね? と思う場面ではある。
だが仕方がないのだ、北野君の容貌は誤解されて当たり前のものなのだから。

「食べ……」

目の前の怪異が悩むそぶりを見せて僅かに俯く。
そしてその口が開き、その言葉を聞いた瞬間。
シエスタは迷わず前へと足を踏み込ませた。
「ものをわけ……てって、わーっ!?」
「やぁっ!」

食べる、食べるといったのだ、目の前の存在は。
一体何を? そんなのは推理するまでもない。
ここにいる使い魔達を、そして自分達をだ!
恐怖と生存本能に突き動かされ、シエスタの足が跳ね上がる。
ふわっとロングスカートが舞い上がり、その下から白い肌の細足が露出するが少女は気にしなかった。
内心では逃げ出すよりも先に攻撃するという風に自分を仕込んだ家族達に恨み言を吐きながらシエスタは持ち上げた足を北野君へと差し向ける。
相手がメイジであれば勿論こんなことはしないが、今目の前にいるのは悪魔なのだ。
遠慮など今の彼女にはなかった。

「わ、たたた…」

スウェー気味に蹴りをかわす北野君にシエスタは更なる踏み込みと共に攻撃を繰り出す!

「破邪伐折羅正拳突きー!」
「わ!」
「十字切り踵落とし!」
「わっ!」
「九字護身呪法ラリアート!」
「わあ!」

くれぐれも注意しておくが、これらの技もシエスタの独断による捏造技である。
あくまでこれらは曾祖父から伝わった意味不明な単語の数々を組み合わせて勝手に作り出した技名なのだ、と注意書きしておく。

「ブリミル様―――スマッシュ!」
「!」

その時、北野君の足が草にとられて彼の身体がガクンと崩れ落ちる。
思い切りからぶったシエスタはそのまま体勢を崩し、地面へと倒れこんだ。

「あいたたた…」
「あ、大丈夫ですか…?」
「っっっっっ?!?!」

慌てて立ち上がろうとしたシエスタは絶句した。
目の前には自分へと手を伸ばしている悪魔がいる。
それどころか、先程まで彼に懐いていた使い魔たちが背後に控えている!
数十の瞳に見つめられてシエスタの身体が硬直した。
こ、殺される―――シエスタは本気で己の愚かさを後悔した。
所詮平民である自分が悪魔にかなうはずなどなかったのだ。
しかし、予想に反して彼は自分に襲い掛かる気配を見せない。
無表情に(実際は心配そうに)こちらを見つめてくるだけだった。
もしや自分は助かるのだろうか?
突如湧いた儚い希望に光明を見るシエスタ。
そうだ、全ては自分の誤解かもしれないではないか。
そもそも彼は使い魔や自分に危害を加えようとはしていなかったし、今もこちらを見ているだけだ。
観察、あるいはもっと美味くなるのを待っているだけかもしれないが、そうではなく、彼は良い悪魔なのかもしれない。
彼はメイジではないはず。
ならば話が通じるかも、こちらの無礼さえ謝れば―――
根本的な誤解をそのままにしてシエスタは口を開こうとする。
と、右手から僅かな痛みが伝わってくる。
見れば転んだ拍子に擦り傷を作ってしまったようだった。
別に大した怪我ではないからいいか。
そう思ったその時。
こちらをじっと見つめていた悪魔が吠えた。

「きええええええええええっ!(訳:血がーっ!)」
「きゃあああああああああっ!」

必死の形相で自分に迫ってくる悪魔が視界に入る。
シエスタは無意識のうちに足を動かしていた。
ここで腰を抜かさなかったのはひとえに武術を習っていたおかげだろう。
始祖ブリミルと曾祖父に感謝を捧げつつ、シエスタはその場を逃げ出した。

「ま、待っ…」

当然北野君は彼女を追おうとする。
が、同族のメスとのじゃれあいが終わったと見た使い魔たちが再び北野君にじゃれつくべく彼の身体を押し潰していく。

「い、いっちゃった…」

使い魔たちに押し倒されたまま、北野君は呆然と呟いた。
手にはメイドの少女から手渡されたハンカチがある。

「どうしよう」

ぽつん、と呟く北野君に答えるものはいなかった。
こうして、同じ日本人の血を引く者同士の初邂逅は終わりを告げるのだった。


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