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トルネコの大冒険・不思議な使い魔-03



学園の人間がトルネコに対して抱く印象は大きく偏りがあった。
 大部分は、トルネコをただの商人、平民だととらえている。教師と生徒の大部分は、『あの』ルイズが呼び出した使い魔が平民だという事実に失笑を浮かべるか同情を覚えた。
 学園で働く平民は、そのほとんどがトルネコに対して同情した。弱者である平民たちから見ても、トルネコの立場はさらに低いものだったからだ。
 そしてごく一部の人間が、トルネコの特異性に気づいていた。

 キュルケはトルネコが『旅の武器商人』であるという事実に着目した。
 平民が強い国の出だからこそ気がついた。常識的に考えて、そのような職業は成立のしようがないのだ。
 武器・防具というのは極めて需要が限られる商品だ。売買や所持について国が制限をかけることも珍しくない。製造から販売にいたるほぼ全ての過程ががっちりと囲い込まれ、よそ者が付け入る隙など普通はない。
 トルネコが旅の武器商人であるということは、彼が嘘をついているか、とてつもないやり手か、相当の有力者の支援があるか、
 ――それともそんな商売が成り立ってしまうほど武器の需要が多い地域、つまり治安の悪い地域で生活していたことを意味している。
 そして、最後の可能性が示すのは、トルネコがそのような治安の悪い地域を一人旅できる、自衛できるだけの実力を持っていることを意味している。

 キュルケの友人のタバサは、まったく違う道筋でキュルケと同じ答えに達していた。
 彼女は単純にトルネコの戦闘力に気がついた。
 召喚の際、トルネコは自身の倍はあるかばんを背負っていた。そこに詰め込まれているのが武器・防具であるというのはトルネコの主張と、かばんの生地にうかぶ影から知れた。
 つまり、トルネコは、自分の倍ほどの容量のかばんに金属製品をたっぷりと詰め込み、確かな足取りで歩けるような人間なのだ。
 それに気がついたタバサはトルネコを見る目を変えた。そしてすぐに、身のこなしと、ごつごつとした大きな手に気がついた。
 あの手は、とタバサは思った。武器を扱うことに、それも本来の用途で扱うことに慣れた手だ。

 オスマンはトルネコの交渉のしかたから彼が只者ではないことに気がついた。
 トルネコは召喚後すぐに、コルベールとの話し合いで最低限必要な情報を集めていた。
 そして、自分が召喚されたのが異常事態であることを把握し、コルベールが友好的な雰囲気に油断しているところに大きな衝撃を与えて正常な判断力を奪っていた。
 端的に言ってしまえば、トルネコがオスマンとの交渉で主張したのは、『舐めるな』ということに尽きる。
 本来が無茶なのだ。証明できない有力者とのつながりを主張し、責任者と顔を合わせる。
 そして責任者――オスマンが無視できない程度の主張をしつつ、オスマンが強硬手段に出ない程度には譲歩してみせる。
 実際、オスマンにしてみればトルネコの主張を嘘と断じて強硬手段に出るのは簡単なのだ。
 だが、そうしたところでオスマンに何の得があるのか。
 強硬手段の結果は、生徒と使い魔の関係を著しく悪くするか、最悪生徒から使い魔を奪うことになる。
 そして問題の生徒はあのルイズなのだ。彼女が使い魔召喚の儀式に再度挑戦して成功するという保証はない。
 つまりあの交渉において、トルネコの最初の主張はただの口実にすぎなかったのだ。
 そしてオスマンはそのことに気がついており、トルネコは気づかれていることに気づいている。
 さらに言えば、トルネコは交渉相手が短絡的で強硬手段に訴えたとしても、それを退けるだけの自信があったのだ。でなければあんな主張ができるはずがない。
 さて、その自信はどこから来るのか。オスマンはその点に注目していた。

   ***

 ルイズにして見れば、トルネコの存在はまだ自分の中で確かな答えが出ない難問だった。
 ゼロだった自分が始めて成功した魔法の成果。ただの平民の癖に、貴族に対して臆した態度を見せない大人。そして何よりも、ルイズのことを、心の奥底ではどう思っているのだろうという不安。

 最初の印象こそひどかったが、立場が落ち着いて以降のトルネコは本来の明るく朗らかな性格を見せ、かいがいしくルイズの世話を焼いていた。
 朝には眠っているルイズを起こし、半分眠っているルイズをきちんと着替えさせ、笑顔で彼女を送り出す。
 食事は学園の使用人とともに取る。旅先での話を面白おかしく話すトルネコはすぐに使用人たちの間に居場所を作ることに成功した。
 女ばかりの国での人質生活と、牢屋番の女兵士とのやりとりに、メイドたちが黄色い声を上げマルトーをはじめとする男連中が品のない笑いを上げる。

 ルイズはトルネコとの生活が嫌いではないことを認めざるを得なかった。だが、最初の印象のためになかなか素直になることができないでいる。
 教室での爆発騒ぎのときもそうだ。何も言わないトルネコの態度が不安で、内心馬鹿にしているのだろうと理不尽な怒りをぶつけてしまった。
 だが、トルネコはルイズがどんなにきつい態度をとろうと、辛抱強く聞き役に徹して、最後はきちんというべきことをいう。
 ルイズは、自分が優しいおじに世話される、すねた子供になったような気分になっていた。

   ***

「決闘だ!」
 という声が食堂に響いたときも、ルイズはスープをかき回しながらトルネコのことを考えていた。
 そして決闘がギーシュという生徒と自分の使い魔のあいだで行われると知り、椅子をけるような勢いで立ち上がった。

 シエスタというメイドが香水のビンを拾ったのが発端だった。
 そこからギーシュが複数の女性と付き合っていたことが発覚し、ギーシュがシエスタに当り散らした。
 そして、シエスタをかばおうとしたトルネコに対し、ギーシュが決闘を申し入れたのだ。
 野次馬を掻き分けてヴェストリの広場の中央に出るまでの間に、ルイズが耳にした話を総合するとそういうことになる。
 信じられない、とルイズは思う。ルイズの知る限り、トルネコは最初の交渉以降自分から厄介ごとに近づくようなまねはけしてしなかったからだ。

「おお、これはルイズ様!」
 いつものようにルイズを迎えたトルネコは、鎖帷子を身にまとい、銅の剣と木の盾を持ち、まびさしをあげた傷だらけの兜を被っていた。
 突き出した腹を鎖帷子が覆う様子は、どこか田舎の祭りの仮装のようだ。実際、広場のあちこちからクスクスという失笑の声が聞こえる。
「何を考えているの!」
 ルイズは怒鳴った。
「わ、私に何も言わずに、勝手に! だいたい平民がメイジに勝てるわけないじゃない!」
「ルイズ」
 振り返ったルイズは、そこにキュルケが申し訳なさそうに立っているのに気がついた。

「ごめんなさい、ギーシュの態度があまりだったから、からかってやったんだけど」
 キュルケが経緯を説明した。
 食堂でのギーシュの行動ははたから見ていても気持ちのいいものではなかった。
 シエスタと、シエスタをかばいただひたすら頭を下げるトルネコに気がついたキュルケは、ギーシュの失敗を自業自得と指摘し、大げさにため息をついてみせ、周囲の人間とともにギーシュを嗤った。
 プライドを傷つけられたギーシュがキュルケに決闘を申し入れようとしたのはある意味当然のことだった。
 だが、キュルケが学園の規則で決闘ができないことをいうと、ギーシュはかなり品のない罵倒をキュルケに浴びせたのだという。
「それを聞いて、トルネコがかわりに決闘を受けるといって」
「いえ、もともとは私の問題でしたから」
 トルネコがなんでもないというように言う。傍らで、シエスタが不安そうにトルネコの様子を伺っていた。
「それに、うれしかったのですよ。キュルケ様は、私たちを庇ってくれた。なかなかできることではありません」
 もうひとつ、とトルネコは付け加えた。
「キュルケ様を見て、古い友人のことを思い出しまして。彼女たちだったらば、誇りのために戦うのをよしとするだろうと思ったのですよ」
 トルネコの脳裏に浮かんだのは、父親をなくした二人の姉妹。踊り子の姉と、占い師の妹。

   ***

 野次馬がはやし立てる中で、トルネコは広場の中央へと歩いていった。
「よく来たな、逃げ出さなかったことは褒めてやる!」
 薔薇の杖を持ったギーシュが言う。
 トルネコがぺこり、と頭を下げると、その道化じみたしぐさにまたしても大きな笑い声が起きた。
 ギーシュがにやり、と笑っていう。
「僕の二つ名は《青銅》、《青銅のギーシュ》だ。君に僕のワルキューレが倒せるかな?」
 現れた青銅製のゴーレムにトルネコは驚いた表情を浮かべたが、すぐに気を取り直したかのように剣を構えた。
「では」
 トルネコがまびさしに手を当てて言う。
「正々堂々とした戦いを」
 ばちん、と音を立ててまびさしが下がった。

 顔が完全に隠れたとたん、田舎祭りの仮装戦士は、歴戦の戦士へとその雰囲気を一変させた。

   ***

 いきなり、トルネコが駆け出した。その巨体からは想像できないほどの踏み込みの早さだ。大上段に振りかぶった銅製の剣が一直線に相手を切り下ろしにかかる。
 その相手――ギーシュはかろうじて振り下ろされた剣をかわすことに成功した。ギーシュの顔色が変わる。あんな剣をまともに受けたら、まともな防具も身に着けていないギーシュはどうなるか。

 トルネコにしてみれば簡単な計算だった。相手が複数いた場合、弱いものからつぶしにかかる。敵を減らしたぶんだけ相手の手数が減るのだからそれが当然だと思っていた。
 もちろん、銅の剣でギーシュを倒すのが危険であることはわかっている。
 最悪の場合は一枚だけ持ち込んだ世界樹の葉を使うことになるかもしれない。
 後ろから襲い掛かってきたワルキューレの剣を盾で受け、攻撃を流しながらゴーレムに一撃を加えて距離をとる。
 やはり、銅の剣では攻撃力が低すぎるのか、ワルキューレの表面を削るだけに終わってしまう。

「ワルキューレ!」
 背後でギーシュが叫んでいた。次々と呼び出される新たなゴーレム。七体のワルキューレがそろうにいたり、トルネコは先の一撃でギーシュを殺せなかったことを後悔した。

   ***

 トルネコがギーシュを狙ったことに驚いた野次馬たちも、七体のワルキューレにトルネコが防戦一方になったのを見て品のない野次を再開した。
 むしろ、圧倒的に有利と思われていたメイジのギーシュを危険にさらしたために、トルネコをけなす言が目立ち始めている。
「ルイズ様、キュルケ様、この決闘を止めてください! このままではトルネコさんが」
 シエスタが必死の表情で二人に言う。

 ギーシュのゴーレム操作は巧みだった。三体のワルキューレが前後からトルネコを攻め立て、その間に他の四体が位置取りをしてトルネコを追い詰めていく。
 攻め手と位置取りが柔軟に入れ替わり、トルネコには息を整える暇もない。
 二体のワルキューレが、トルネコの死角から頭とひざ裏を同時に刈りに来た。
 トルネコはほとんど超人的な身のこなしでひざに来た剣をかわし、頭に来た剣を首をひねることで兜のもっとも丈夫な部分を用いて受け流した。
 うなり声を上げると、渾身の力で正面のワルキューレに体当たりをし、やっとの思いで包囲を抜けた。追撃に備えて振り返る。
 追撃は来なかった。ゆっくりとギーシュの周囲に集まるワルキューレたち。ギーシュの表情を見て歯を食いしばる。勝利を確信し、トルネコをなぶっているのだ。

「息を整えたまえよ、平民くん」
 ギーシュが明らかな蔑みをこめて言う。
「よくがんばったといっておこう。だが、メイジに逆らったのが運のつきだね。次で終わりにしてあげよう」
「おお! ありがたい言葉です」
 トルネコがいつもの調子で返事をする。
「では、仕切りなおしということで私も別の武器を使わせていただきましょう」
「武器を変えたぐらいで」
 ギーシュが嗤おうとしてとめた。
 トルネコはそれまで使っていた銅の剣をその場に突き立てると、腰から一束の鎖をとって両手で構えた。鎖の両端には、それぞれ鋭い鎌と分銅がついている。
「ほう、距離をとって戦おうということか。少しは考えているみたいだね」
「恐縮です」
 では、とトルネコは言った。
「決闘を再開しましょうか」

   ***

 トルネコがその全身を使って鎖鎌を振り回し始めた。頭上で円を描き、周囲の土をはじきながら高速で鎖がうなる。
 裂帛の気合とともに、トルネコが鎌のついた先端をギーシュめがけて走らせた。
 蛇のように地を蹴りながら迫る鎖鎌に、ギーシュはワルキューレを盾とすることでこたえようとした。
 だが、トルネコがその巨体をひねるたびに蛇の頭は向きを変え、ワルキューレの間を縫うようにしてギーシュを目指す。
 何とか鎖の先端を避けたギーシュは、鎖の端を持つトルネコがさらに複雑な動きをしていることに気がついた。
 伸びていた鎖がワルキューレを横なぎにしようと動く。
「よけろ、ワルキューレ!」
 だが、数体のワルキューレが足元をすくわれ、逃げ遅れた一体がまともに鎖を受けてしまう。鎖はそのワルキューレに幾重にも巻きつき、身動きを取れなくした。
 トルネコがいきおいよく鎖を引いた。金属と金属がこすれる不快な音と、飛び散る火花。
 鎖により表面を削られたワルキューレが崩れ落ちて動かなくなった。
 すぐに第二撃が放たれた。今度は鞭のようにうなりながら飛んでくる鎖鎌を、ワルキューレたちはすばやく左右に散って逃れた。
 と、引き戻された鎌がワルキューレの一体を引っ掛け、そのまま空中へと跳ね上げる。
 空中で身動きの取れないワルキューレを、一直線に伸びる鎖分銅が貫いた。



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