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最『恐』の使い魔-03


  あらすじ

 これは北野誠一郎くんが召喚してまだ日がなかった頃のお話。

登場人物
 ルイズ:北野誠一郎の召喚者(マスター)。今回はあんまり出番がない。

 北野誠一郎:ルイズに召喚された使い魔(サーヴァント)悪魔のような顔と天使のような
純粋な心を持った男子高校生。

 タバサ:ルイズたちと同じ学院に通う女子生徒。基本的に大人しい性格だが、その実力
は…。

  プロローグ

 昼下がりの魔法学院。
「こことこの文章が繋がる」
「なかなか複雑だね」
「慣れれば大したことはない」
 青い髪をした少女が、悪魔のような顔をした少年に本を見せつつ文字の
読み方を教えているようだった。
 その様子を少し離れた場所から見つめている桃色の長い髪の少女。誠一郎
のマスターでもある彼女、ルイズ・フランソワーズは隣にいた褐色の肌の女子
生徒につぶやく。
「タバサと誠一郎って、あんなに仲が良かったっけ?キュルケ…」
「そうねえ、なんかいつの間にか仲良くなってたっていうか」キュルケと呼ばれる少女
は、ルイズと同じように二人の様子を眺めながら言った。
「タバサのことだから、最初から誠一郎の本質を見抜いていたんじゃないの?」
「そんなことないわよ」
「え…?」
「少なくとも誠一郎がこの世界に来たばかりの頃は、かなり警戒してたわ」
「警戒?そんな風には見えなかったけど…」
「私、あのコとは付き合い長いからわかるの。アンタは誠一郎につきっきりで気付かな
かったでしょうけど」
「そうなんだ」
「なんか、きっかけがあったのかしらね」空を見上げながら、何か独り言のように呟くキュ
ルケ。
「きっかけか…」
 ルイズは、キュルケと同じように空を見上げた。


   最「恐」の使い魔3
   ~氷の中の少女~


 暗がりの中で囲まれた。人数は六人、いや八人か。手には槍や剣、それに弓矢などの武器
を持った者ばかりだ。
 何日か前、魔法使い(メイジ)含む複数人の盗賊が出没するとの報告を受けたガリア王宮政
府がタバサをこの場所に派遣した。たった一人。でもタバサにはそれで十分だった。むしろチー
ムワークなどという面倒なことはいらないと彼女は常々思う。彼女の実力に合わせられる戦士
は、少ないからだ。
「ふざけやがって、こんな子供に何ができるってんだ?」
「バカ野郎、こいつはガリアのメイジだぜ。警戒しろ!」
「撃て!撃て!」

 一見するとまるで普通の少女のような外見のタバサに対して、盗賊どもは一斉に矢を放
つ。よく見ると光を帯びたその矢は、明らかに魔法がかかっている。矢の軌道をすべて見
きったタバサは、身を翻してそれをかわすと、素早く呪文の詠唱にうつる。
「魔法を出させるな!一気に潰…」盗賊の一人がそう言おうとした瞬間、彼の両足は凍って
おり、バランスを崩したそいつは転倒した。
「化け物か…」次々に倒されていく盗賊の仲間を見ながらリーダー各の男がつぶやき、そし
て自身も詠唱に入る。
 貴族崩れの下衆。タバサはそう心の中でつぶやくと素早く氷の矢を放った。
「ふぐっ!」間一髪のところで炎の壁を作ったその盗賊の頭目は素早く反撃のための魔法
を繰り出そうとするも、タバサはその前に攻撃魔法をねじ込んでその動きを封じた。戦う相
手の考えや動きは、手に取るようにわかる。それが彼女の自信にもなった。

   *

「悪魔だあああ、ルイズが悪魔を召喚したぞおお!」
 タバサの平穏が乱されたのは、留学先のトリステイン魔法学院で二年生の春に行われる
使い魔召喚の儀式からであった。タバサはここで、見たこともない生物に出会うことになる。
 同じ学校で学ぶヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズが召喚した使い魔(サー
ヴァント)。北野誠一郎と名乗るその使い魔は彼女がこれまで見たこともないような生物、いや、
生物であるかどうかすら疑わしい外見。
 彼女はこれまで大抵のメイジや戦士たちの戦闘力をその眼力で見抜くことができた。何度も
戦闘を経験してきたけれども、その眼力には絶対的な自信があった。故に彼女はこれまでも
生きてこれたのである。
 しかしあの使い魔、北野誠一郎に対してだけはその眼力が通用しなかった。
わからない。あの使い魔の実力がわからない…。タバサは一度気になりだすとそれを確かめ
ずにはいられない性質であった。一見大人しそうな外見は何事にも興味のないような雰囲気を
持っているけれども、それは抑えきれないほどの探究心から自身を守るためにほどこした壁の
一つである。
 彼女は密かに北野誠一郎の観察をはじめた。誠一郎のマスターであるルイズは、「彼は普通
の人間なの」と言っていたが信じられるものか。私は自分の確かめたこと以外は信じない。タバ
サは常にそう思っていた。


 ある日、彼女は学院の廊下で北野誠一郎とすれ違う機会を得た。間近で誠一郎を観察する機会
はあまりないので、このさいだからじっくり見てやろう、と思いよそ見をするふりをしながら彼の動き
に全神経を集中させた。魔力を持っているようには見えない。しかしなぜか人を寄せ付けないオーラ
のようなものは感じる。でも強いのか?体は特別に鍛えているようには見えないし、脚なんかも細い。
今、体重の乗っているほうの脚を払えば簡単に…。
 次の瞬間、北野誠一郎はタバサの顔のすぐ前で拳を握っていた。
「危なかった、もう少しでやられてしまうところだったよ…」誠一郎はそうつぶやくと、またどこかへ歩い
ていった。
 私の殺気を感じた…?
 確かにその時タバサは、自分が北野誠一郎を攻撃するとどうなるだろう、と考えていた。けれども
それは、相手に反撃されることを前提とした考えだ。にもかかわらず、彼女は誠一郎の動きに反応
できていなかった。
 あの拳が止まっていなければ、私はやられていた…。愕然とするタバサ。今までどんな多くの敵と
対峙しても恐れることのなかった彼女がはじめて感じる恐怖。恐怖はあの時から、自分の感情を捨て
てただ強くなろうと決意したあの日から忘れていると思っていた。しかし違った。
脚が、震えている。

心の蔵の音が耳元で鳴り響く。妙に汗も出る。
この学院では、教師たちを除けば自分に勝てる者は一人もいないと思っていた。事実彼女
の魔法の実力はずば抜けたものがある。にもかかわらず、正体不明の使い魔に対して
彼女は恐怖していた。
恐怖は無知からくるものが大半。真実を見てしまえば解消する。タバサは大きく息を吸い、
心の中で自分にそう言い聞かせた。
確かめなければ、北野誠一郎の実力を…。


   *


 廊下で数少ない知り合いに会った北野誠一郎は、声をかけた。
「ねえねえ、ギーシュくん」
「は、はい。なんっすか北野さん」やや緊張した面持ちでギーシュが答える。
「そこの窓、ちょっと開けてほしいんだ」
「はい」ギーシュは素早く窓を開けた。
 すると誠一郎は窓から手を出し、握っていた右拳をゆっくりと開いた。掌から大きな蜂が飛び
立っていった。
「蜂、ですか」
「うん、今さっき女子生徒の目の前を飛んでたんでね。危ないから捕まえたんだよ」
「素手でつかんであぶなくないっすか?」
「え?夢中だったんで気がつかなかったよ」
「蜂なんてその場で殺しちゃえばよかったのに」
「そんな事をしたらかわいそうでしょう?」
 北野さんって、残忍そうに見えるけど実は、自然とか生き物を大切にする魔王なんだな。と
ギーシュは思った。


   *


 北野誠一郎は常にマスターのルイズ・フランソワーズと行動をしている。マスターとサーヴァ
ントなのだからそれは当然なのかもしれないがしかし、誠一郎の実力を調べるためにはマス
ターの存在は邪魔であった。決闘は一応禁止されている。タバサは入学以来、不良性と相手
に数々の決闘をこなしてきたけれども、それは学校側に見つからないように密かにやった行為
であり、相手側もそれで納得しているから通報されることもない。
 もちろんわざわざ決闘をする必要はない。ただ北野誠一郎の実力がわかればそれでよいの
だ。タバサは自分にそう言い聞かせて機会を待った。彼が、誠一郎が一人になったとき攻撃を
しかけてみる。実際に魔法に対する反応を見たら、その実力もわかるはずだ。
 そんな機会は、意外にも早く訪れた。
 北野誠一郎は毎朝マスターの服や下着などを洗濯する。早朝なら目撃者も少ないだろうから、
攻撃するにはうってつけだ、とタバサは考えた。そして翌日、いつもより早く起床したタバサは、
攻撃用の杖を持ち北野誠一郎の出現を待った。
 足音もなく歩く北野誠一郎。まったく気配を感じさせないその動きは、まるで幽鬼がただよって
いるようでもあった。手には洗濯物を入れた桶を持っている。
 彼女は前日に、誠一郎の通りそうな場所を予想して魔法地雷を仕掛けておいた。といっても、
戦場で敵の手足を吹き飛ばすような正規のものではなく踏めば強い光が出る程度の魔法である。
それでも牽制には十分だ。
 しかしなぜか、誠一郎は魔法地雷のある場所を踏まない。絶妙なバランスで中庭を横切る彼の
動きは、まるでこちらの仕掛けた魔法を見抜いているようでもあった。
 やはり並の悪魔ではなかったか…。そう心の中でつぶやいたタバサは、杖を強く握った。
 こうなったら実力行使しかない。
 タバサは素早く攻撃魔法の詠唱に入った。相手の実力がわからない以上、並の魔法を使えば
こちらがやられる。実戦の中で学んだ教訓を胸に、タバサは特別強力な氷魔法を放つ。

「あれ?なんだこれは」
 不意に間の抜けた声がしたと思ったら、誠一郎は身をかがめる。
 なに!?
 誠一郎の体のすぐ上を複数の氷の槍が通りすぎていく。
 私の魔法を、かわした…?
ショックを受ける間もなく、タバサは次の戦闘態勢を整えなければならなかったが、悪魔
はこちらの動きに気がついたようだ。
「やはりこの程度の不意打ち、あなたは見抜いていたようね」タバサは誠一郎の前に歩み
出ると、そう言った。
「・・・」無言でこちらを見つめる悪魔。
「こうなったら正々堂々とやりましょう」そう言って彼女が杖を構えたとき、
「誠一郎、こっちの下着もついでに…、きょえええええ!!!」
「は!」
 北野誠一郎のマスター、ルイズ・フランソワーズが中庭に仕掛けておいた魔法地雷を踏ん
だらしい。
 しまった、地雷を解除するのを忘れていた。しかも強い光だけを出すつもりだったのに、
少し爆発している。でもまあいいか、ルイズだし。そう思ったタバサは誠一郎に向けて言う。
「邪魔が入った。この決着はいずれつける」そう言うとタバサは素早くその場から立ち去った。
 誰も見えなくなったところでタバサは大きく息を吸った。そして変な汗をかいてしまったので、
ポケットに入れていたハンカチーフを取り出し、汗を拭こうとしたものの、そのハンカチーフは
なかった。
 変だな。昨日入れたはずなのに…。

   *

「なんなのよこれは…」軽い爆発ではあったが大きな怪我をしなかったのは、いつも自分の
魔法で爆発には慣れているためか。そう思いつつルイズは立ち上がる。
「ルイズちゃん、大丈夫?」
「平気よ誠一郎、このくらい。それより、この洗濯物もお願い」彼女の右手にはボロボロになった
下着らしきものがあった。
「うん、わかったよ」
「あれ?その手に持っているもの何?」ルイズは誠一郎の手に持っているものを指さして言う。
「あ、ハンカチのようだね。さっき落ちてたの拾ったんだ」
「それあなたの?私、そんなの持ってないわよ」
「うーん、僕のじゃないよ。誰かが落としたのかな」

   *

 その日の夕刻、タバサは親友のキュルケに頼んでルイズを別の場所に連れて行ってもらい、
北野誠一郎を一人にさせた。
「ああ、私もそんなことやってたわねえ」などとニヤニヤしながら言う親友の言葉は、何か別の
ことを考えているようでもあったけれど、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「北野誠一郎…」
「は、はい」
 中庭に一人たたずむ彼の前にタバサは立った。夕日に写る誠一郎の顔は、一段と怖さを増し
ているようにも見える。
「ちょっと、付き合ってほしい」タバサがそう言うと、彼女の背後に彼女の使い魔である風竜の
シルフィードが砂塵を舞い上げながら降り立った。

 森の中に少し開けた場所がある。そこには木々や草がなく、広さもちょうど良い。何よ
り人に見られないというのが好都合だ。
「朝は邪魔が入った。ここで決着をつける…」そう静かに言い放つタバサ。
「決着…?」
 とぼけた声を出す悪魔にタバサは苛立ちをおぼえた。いい加減に本性を現してほしい。
「そっちが行かないならこちらからいく」そう言うとタバサは杖をかかげた。
「うわ!なに?」
 複数の光の玉が誠一郎の周りで爆発する。
 タバサ自身、爆発の魔法はあまり好きではないのだが確実に葬り去るには爆発ものが
一番であることを悪魔のマスターであるルイズから学んだ。
「きええええええ!」
 走って逃げようとする悪魔の前に氷の壁を作る。ここで逃がしてなるものか。この男が
実力を出すまでは逃がさない。
「さあ!あなたの実力を見せて頂戴」
「実力って…、なに?」
「まだとぼけるの?」
 タバサは氷を混ぜた竜巻を起こして誠一郎にぶつけた。しかし間一髪のところでそれを
かわす悪魔。
 やはりタダものではない。
 魔法の命中率には自信のあったタバサだが、こう簡単にかわされてしまう事態に彼女の
プライドはえらく傷ついた。
「くっ…!」
 彼女はこれまでよりも一段レベルの高い魔法を繰り出す。誘導魔法。どこまでも敵を
追いかける魔法だ。敵の殺気に反応するその魔法は、非常に難易度が高い。
「スネークアロー!!」蛇のように素早く、そしてしつこく追いかけまわるその魔法を放つ。
「きえええええええええ!!!!」
 再び怪鳥のような声が森に響き渡り鳥たちが一斉に飛び立った。
「これで、終わりね」タバサが誘導魔法にさらに魔力を注入した。
 しかしその時、魔法を避けようとした誠一郎がこちらに向かってきているのが見えた。
「きええええええええええ!!」
 彼の背後には、タバサが自分で放った魔法の矢が複数追いかけてきていた。
 しまった…!
 誘導魔法は相手の殺気に反応する。つまり、自分自身にも反応するリスクをも伴っている
のだ。
 まずい。タバサは素早く防御魔法の詠唱に入ったが、それよりも早く目の前に北野誠一郎
の姿があった。
 間に合わない!!
 タバサは基本的に接近戦を苦手としていた。杖も接近戦に合わせたコンパクトなものでは
なく長いものを使用している。ただし、並の相手なら彼女に近づく前にやられてしまうだろう。

 そう、並の相手ならば。

 次の瞬間、タバサは誠一郎の肩越しに自分の放った光の矢を見た。そして、その矢は森
の木々を次々になぎ倒してどこかへ飛んで行ったようである。
「…は!」
 冷静になって状況を把握してみると、今自分は北野誠一郎に両腕で強く抱きしめられて
いる状況であることに気がついた。まずい、これはまずい。いつの間にか杖が手から離れて
いたので、魔法も使えない。
「ご、ごめん…!」なぜか急に体を離した悪魔は、懐から何かを取り出した。
「…!」タバサは相手から目を離さずに素早く自分の杖を取ろうとしたが、杖は離れた場所に
転がっていた。
 まずいまずいまずい…!
 目の前が真っ暗になった気がした。
 お母様。救ってあげられなくてごめん…。
 そう思い目をつぶろうとした時、彼の、北野誠一郎の手には見覚えのあるものがあるのに気
がつく。
「これは…」
タバサが母親からもらったお気に入りのハンカチーフ。今朝なくしていたものだった。
「中庭で拾ったんだ。君、僕がこれを盗んだと思ったのかい?」
北野誠一郎は、こちらをまっすぐ見つめてそう言った。
「私の…」
「君のだったんだね。返すよ、ほら」
 そう言って誠一郎はタバサの手にハンカチーフを握らせた。
「あなた…」
「ん、なに?」
「本当に普通の人だったの…?」
「…そうだよ」



 その後、タバサは少しの間誠一郎のことを聞く。誠一郎、というよりも他人とこうやってじっくり話し
合ったことなど久し振りだとタバサは思う。
 彼の元いた世界のこと、家族のこと、好きな食べ物、趣味。こうして話を聞いていると、違う世界
の住民ということだけで本当に普通の少年だった。彼の戦闘力が推し量れなかったのは当然で
ある。彼には戦う意思がないのだから。しかも彼は、勘違いで攻撃をしかけてきた自分の浅はかな
行動を笑って許してくれた。その優しさはもはや天使としかいいようがない。人が良すぎる。これで
は悪いやつに騙されてしまうかもしれない。
 ああ、そうか。だからこそ彼のマスターであるルイズは、彼の世話を焼くのか。
 タバサは自分の中にある氷が解けるような気がして少し嬉しくなった。
 日も陰り始めた森の中、そろそろ帰ろうと思った時…、
「危ない!」
 無意識のうちにタバサの体が動いた。
「タバサちゃん!?」
 誠一郎を庇おうとしてタバサの左肩に矢が刺さった。それもただの矢ではない。
 ぐっ…、毒か。
 矢には毒が塗られていた。それも特別なもの。そう、魔法の力を弱めるための毒だ。解毒の魔法は
使用可能だが時間がかかる。何より解毒をしている最中に無防備になってしまう。しかしそれより何
より…。タバサは誠一郎の顔を見た。明らかに動揺している。それはそうだろう。目の前で人が矢に射ら
れて驚かない者はいない。
 敵の殺気が近づく。少なくとも十人はいる。
 今まで誠一郎に気を取られていて、周囲の警戒を怠っていた自分を激しく悔いた。
 せめて彼だけでも。
 混濁しはじめる意識の中で、タバサは立ち上がる。
「だ、ダメだよタバサちゃん!矢が刺さったままだよ!」
「大丈夫。この程度の矢、平気」
 余計心配させると思い毒のことは口に出さなかった。

「くる…!」
「ザマないな。『雪風』」
 皮の鎧を着た男。盗賊の類か。見覚えはないが、その声は明らかに自分を知っているよ
うな口ぶりだった。
「以前、俺の仲間が世話になったらしいな」
 かつてガリアで退治した盗賊一味か。
「兄貴の仇を討とうとトリステインまで来てみたが、好都合だった。こんな場所で男と密会し
てくれるとはな」
「ぐ…」
「効くだろう?メイジ殺しのために開発された毒薬。お前には賞金がかかってるからな、すぐ
には殺さねえよ」
 気がつくとすでに囲まれていた。すぐに脱出したかったが毒がまわって上手く動けない。
何より、誠一郎をおいて逃げるわけにはいかない。
「ほう、この毒矢をくらってまだ立てるか。だが立っているだけが限界のようだな。撃て!」
リーダーらしい男がそう言うと、タバサと誠一郎に向かって一斉に矢が射られた。
「ふんっ」タバサは杖を振って風を起こし、すべての矢をなぎ払った。
「まだそんな力が残っていたのか。だが時間の問題だ。顔色が悪いぜ」
 手に剣や槍を持ちじりじりと距離を詰める男たち。
 遠くに避難させておいたシルフィードを呼ぶ間もない。
 でもせめて誠一郎だけでも…。
「きえええええええええええええ!!!!」
「ぬわああ!なんだこいつは」
「落ち着け!そいつは顔が怖いだけで普通の…うわああああ」
「おい!今人が飛んだぞ」
「こいつメイジか」
「バカな!こんな魔法見たことねええ」
「こっちくるな…」
「うわ!逃げ…」
「ああ」
 薄れゆく意識の中で、タバサには数人の盗賊が空に浮き上がっている姿が見えた。
 あんな風に人が吹き飛ぶなんてありえない。
 ああ、そうか。私は死ぬのだ…。そう思いつつタバサは瞼を閉じた。


 死というものを怖いと感じたことはなかった。
 むしろどこかで死を望んでいたのかもしれない。今のこの状態から解放されるならば、いっそ
死んだ方が…。
 とても暖かい気持ち。かつて、まだ母親が元気だったころに感じた気持ち。こんなに心地よい
のなら、死も悪くないのでは…。
 そう思った瞬間目が覚めた。
「ここは…。痛っ!」左肩にはまだ痛みが残っている。そうだ、自分は盗賊の放つ毒矢に射られた
うえに、意識を失っていたのだ。布でまかれた応急処置がなされている自分の肩を見つめながら、
もうすっかり暗くなっている森の道を歩く誠一郎の背中。
 背中…?
 ぼやけていた世界がはっきりしていく。
「気がついた」
「う、うん」
 タバサは誠一郎の背中に背負われていたのだ。

「応急処置、あんまりうまくできなかったけど」
「盗賊は」
「逃げたみたい」
「誠一郎が倒したの?」
「いや、僕が倒したっていうか…」言葉を濁す誠一郎。
「私、ほとんど覚えてないんだけど。あなたが戦っていたことは、なんとなくわかった」
「う、うん。本当は好きじゃないんだけど。人を傷つけるってこと…」
「強いのね、あなた」
「いや、全然。僕なんて」
「強い。私よりもずっと…」
 そう言ってタバサは目を細めた。
 彼の背中。なぜ安心するんだろう。
「僕はその、戦うとかあんまり好きじゃなくて」
「でもあいつらと戦ってくれた」
「それは、キミを守らなくちゃって思ったから」
「え…」
 人に守ってもらう。それはタバサにとっては初めての経験であった。いや、正確に言う
と強くなってからはじめてと言った方がいいか。昔は父や母によく守ってもらっていた。
魔法の力に覚醒してからは、特にその必要はなくなったけれども、同時に誰かを守ると
いう行為もしてはいなかった。守るのは常に自分自身。たった一人で戦っていた彼女に
は当然ともいえる。しかし、戦うことが嫌いだと言うその少年が戦った理由。
 それは守るべきものがあるから。
 本来戦いとはそうあるべきものなのに、自分はなんと浅い考えをしていたのか。盗賊ごとき
の不意打ちにやられるのも当然かもしれない。タバサはそう思い唇を強く噛んだ。
「誠一郎…」
「なに」
「その…、ごめん」
「どうして?」
「え、だって」
「タバサちゃんは、フラフラになりながらも僕を守るために魔法を使って助けてくれたじゃ
ない?」
「…うん」
「だから僕もキミを守るために、できる限りのことをしようって、思っただけだよ」
「でも私、あなたに酷いことをした」
「あんなの慣れっこだよ。誤解されるのも日常茶飯事だし」
「誠一郎、まるであなたは…」
「なに?」
「天使のようね」
「そんな、僕なんて全然」
「ありがとう」
 タバサは誠一郎の体をほんの少し強く抱きしめた。
 シルフィードを呼べばすぐに魔法学院に帰れるのだけど、もう少しのままでいたかったから、
しばらく何も言わないでおいた。



   おしまい



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