あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の鍛聖-03


虚無の鍛聖  第3夜 決闘の昼のその前に  (クリュウ)

起きたら、やっぱり月が2つ。シュガレットはまだ寝ていて起こそうかどうしようか迷った挙句、やめた。
リィンバウムにいた時寝る前で、こっちに来たら昼間で、頭がごちゃごちゃしてワケが分からないままに寝たけれどどれだけ寝たのかよく分からない。

(――――寝不足じゃないだけいいのかな。何もされて無いし荷物も無事だし。なんとかなるかな……まだみんな寝てるし、でもちょっとお腹減ったなぁ…)

こっちの世界はどんな食習慣か分からない。調味料も何があるか分からない。分からない以上は安全な物を食べるしかないんだけど……何を食べればいいのか。
そこらの動物捕まえて食べるにも毒とかあるかもしれない。多分無いけど在ったら怖い。
決闘前にお腹壊しました、なんてどう見ても聞いても言い訳だよね。駄目だ駄目だ、こうなったら昼まで我慢して…(この間13秒)…ごめん無理。
とりあえず水だけでも飲まなきゃ。身体が動かない事にはどうしようもない。
そう思って井戸に行くと、ばったり。

「きゅい♪」(おはよう!)
「……………………おやすみ」

土埃に塗れた蒼い髪の小さい………     名前なんだったっけ?
あの赤い髪の(赤髪の人はボクの苦手なタイプが多いので覚えやすい)浅黒いコと一緒にいたコ。
起き抜けだから、眠くてお腹が減っていて良く思い出せない。朝に弱いのは鍛冶師として致命的らしいけど、こればっかりはどうしようもないよね?
眠くてお腹が減ってるのは向こうも同じみたいだ。シルフィードは元気いっぱいみたいだから危険だったのかどうかはともかく彼女も疲れてるだけかな。
それでも睨まれてる。サクロさんの「信用されるには信用しろ」だけど、この状況でもやっぱりそうすべきかな。

「あ、ちょっと待ってタバサ…さん、ルイズさんの部屋ってどこ?」
「………呼び捨てで良い。彼女は貴方を認めていない。……先生の誰かに言われたとしても行かない方がいい」
それを言い終えると彼女の身体が浮いて窓の1つに吸い込まれるように――――――――――がつっ…ごっ……がすっ…
………アレ、やばくないかな?

「君のご主人様大丈夫?」
「きゅい!」(もちろんなのね!)
まかせとけ!!って感じに元気に声を張り上げるシルフィード。この子、ちゃんと現状把握してるのかな?タバサさん怪我してないといいけど。
あんな状態で魔法を使える彼女も凄いと褒めるべきだったかもしれないけど、何となく口には出せなかった。
―――――――――つんつん。…ぐいっ!!
「何?うわっ!?ちょっと何するのシルフィード!?」
「くー!!くぅー!!」(んー!人間の割に重いのー!)
「ボクは食べられないってば。キミが肉食だったとしても、このまま食べたらお腹壊すよ?」
シルフィードは確かに大きいけどボクを丸ごと飲み込めそうなほどには大きくない。…と、待てよ?この子普段どこに住んでるんだ?
「きゅぅ!!」(てりゃっ)
「うわっ…と!」
気合い一発、すぽーん、と上空にすっ飛ばされて空に向かって堕ちていく。どんな勢いなんだか。    これ位の高さなら何度も堕ちてるんだけどね。
ぺこ、とちょっと情けない音を出して思ったより柔らかいウロコの上に受け止められた。

「きゅい!!きゅいきゅい♪」(成功したのねっ!!どう?どう?)
「楽しいかって?うん、空を飛ぶのは初めてだから。でも良かったの?タバサに怒られたりしない?」
「………」(あ…………)

中庭に戻るとタバサが待っていて コンッ! と音を立ててシルフィードをお仕置きするとそのまま近くの階段に座ったまま眠り始めた。
そして…

「――――――――――――随分と楽しい空中散歩だったみたいですね、クリュウ様♪」(にっこり♪)


朝っぱらから最強魔法のラピッズバーストを至近距離で撃つのはどうなんですかシュガレットさん。貴女は一体どこの言ってる事が説得力皆無の白い魔導師ですか?


「ようクリュウ、朝っぱらからびしょ濡れで水も滴るいい男ってか?」
「…水に濡れていい男になれるなら溺死すればいい事になりませんか?分かってて言ってるでしょマルトーさん。それにそれを言うなら女性に対してですよ」
「細かい事きにすんな、さあ食え食え。お前さんはこれからが大変なんだろ」

ワハハハと豪快に笑うマルトーさん。どこの世界でも親方みたいな立場にある人はこんな風になっちゃうんだろうか。
昨日のキッチンナイフの代金分は食事で払うという事で、賄い料理の具沢山のスープとサラダを貰った。鶏肉は全部シュガレットに取られた。
そんな様子をシエスタにまで苦笑いされた。ボクは悪くないよね?何もしてないよね…?

平民の人達が貴族の人達よりも先に食事をする理由はマルトーさんに曰く「良い物は早い者勝ち」だから。
実際には朝早くから働くからそれくらいに食べないとやっていられないって事なんだろうな。「勤勉かつ真直ぐ務めに励む者こそ国の主たるべし」って感じでいいかな?
これも書いておこう。

「この後どうするつもりだ?お前さん、あのヴァリエールのお嬢様には大層嫌われたらしいじゃないか」
「何で知ってるんですか。あそこには誰も平民の人達はいませんでしたよ?」
「知ってるも何も、貴族の坊ちゃん連中やらお嬢様達が五月蠅いくらいに騒いでたんだ。あれじゃあ外回りの連中にだって聞こえたかもな」
「それは…参ったなぁ。この後彼女に付き合って授業も一緒にいなきゃいけないらしいんですよ」
「あーあ……そりゃ難儀なこったな」
「その上、お昼には先生方とルイズさんがそれぞれ選んだ決闘相手と戦わなくちゃいけないんですよ。ねえクリュウ様」

まだ怒ってらっしゃいますか。だから何故そうなるのか教えてよ。ヴァリラもサナレもラジィもハリオもへリオも母さん達も溜め息吐くだけで教えてくれないし。
一体何の事なのやら。

「クリュウさん、お昼の配膳手伝ってくださいませんか?よろしければ、シュガレット様にも手伝ってもらえないかなぁ、なんて……」
「私は構いません。で決闘がありますからクリュウ様は正午までしかできませんよ?それから、様付けされるほど私は偉くありませんよ、シエスタさん」
「ですが、精霊をそんな風に軽々しく扱うなんて事は…」
「人間であれ獣や草花であれ悪魔であれ…神であってさえ、命は等しく平等に尊い物なんです。それを態々貶める様な言い方をしてはいけませんよ。ごちそうさまでした」
「んぐっ!?……っ、ごちそうさまでしたっ!!」
「え、あ、いってらっしゃい……お気をつけて」
いつの間にか食べ終えていたシュガレットが立ちあがったので慌てて食べ終えて後を追いかけた。


「おはようございますルイズさん。お目覚めですか?あらためて、本日より貴女にお仕えする事になりましたのでお迎えにあがりました」

メッチャ事務口調ですねシュガレットさん。これは相当に昨日の事頭に来てるんだろうなぁ……。サプレスの上位の人達はプライド高い人(?)達多いんだよね。

「……そういえばそうだったわね。まあいいわ、着替えさせなさい。それからシーツ片づけて昨日の服洗濯しておいてくれる?」
「ええ分かりました。それではクリュウ様はルイズさんをお願いします」

シュガレットさん、不機嫌ゲージ増大。笑顔の端っこが固くなってきてる。眉がぴくぴく動いてる。現在20%って感じ……って、ボクさ、脇役っぽくなってない?
そういえば食堂の人達以外で男性に会った事無いや。
……あ、校長先生とコルベール先生も男性だったっけ。


私の目覚めはあまり良くは無かったが無事に目が覚めた事と2年生になれた事に満足しよう。
そうしないと嫌な事を思い出して仕方がない。ともかく2年生になって最初の日。しっかり学生と貴族の本分を果たしに行こう。

「授業って初めてなんだよねー。つまらないって聞くけど新しい事を聞くのがつまんないワケないのにな」

どう見ても私より数歳年上の男のセリフには思えない。肩より伸びた灰色の髪が声に合わせて軽く揺れるのさえ腹立たしいがガマンしよう。
私は貴族なのだから、些細な事にいちいち口を出していてはキリがない。精霊を連れた男が些細な事しか引き起こせないのも何か納得いかないけど。

「あ、おはようクリュウ。…あら、ルイズもおはよう」
「おはよう。ええと…キュルケさん、だったよね?」

私がついでみたいな扱いなのはいつも通りとして、この平民も平民で何平然と挨拶してるのよ。

「朝から随分な挨拶じゃない、キュルケ。そんな平民に挨拶するだなんてよっぽど余裕がないのね」
「余裕と胸が無いのはそっちでしょう?私の様に召喚を成功したわけでもないのに。ねえフレイム」

暑い…違う、熱い。何か重い物を引きずるような音と一緒に紅い塊がのっそりと出てきた。…これって

「火竜山脈産のサラマンダーよ。元気も良くて、そこらのレッサーワイバーン程度に負けないくらいに強いんだから」
「ふんっ、どうせたまたま大きいだけじゃない。お先に」


立ち去ろうとした途端、間の抜けた声が背中に当たって足を止めさせられた。

「へー…本当にシッポが炎なんだ。ボディガードにもぴったりだね。触っていい?」
「いいけど、火傷しちゃうわよ。私みたいに♪」
「女の子のそういう言葉には慣れてるし痛い目見てるよ。……ボクはホントに何もしてないのにさ……何でだよ……。フレイム、今日からよろしくね」
「……………」
「大丈夫だよ。君をケガさせたりなんかしないから。良い子だね…大人だったらごめん」

じーっと見つめるサラマンダーの目が単なる好奇心だけに見えないのは私が人間でメイジだからだろう。
って…

「ちょっと、触ったりなんかしたら…!!」
「平気平気。鍛冶師の手袋は溶けた鉄に触る事だってあるんだから。……熱いのに硬い鱗かぁ…みっちり詰まってるのは断熱性を高める為なのか逆なのか…良い鱗だね」
「良い手袋ね、譲ってくれないかしら?言い値で構わないわよ」
「良いよ、まだ代わりがあるから。その代わり決闘の後でボクの頼み事を聞いてもらうけどいい?そんなに無理は言わないつもりだから」
「喜んで。フレイム、これであなたに触ってあげられるわね」

パチパチと鋲を外すとあっさり外して手渡す。

「決闘?何の事?」
「あー、やっぱりその事は……ってさ、2人とも授業はいいの?」


あ。



私が辿り着いた時にはすでに授業は始まっていました。ドアが開いていなかったので、はしたないですが仕方なく窓から入る事にしました。
教室は石造りの巨大な会議室を2つに割った大きな空間、その前の中心に教師が立って教える、と言う感じの場所でした。
あちこちに私の知らない生き物達が沢山います。それらの生き物達の力を観る限りは全てがこの世界の中に生まれ出てきた命だという事が感じ取れます。
お話の中では知っている生き物達も沢山いて、それらが楽しそうに話しあっているのは多分人間には聞こえてはいないでしょう。
あるいは、主従契約とやらを結んでいる関係なら別なのかもしれませんが。

「クリュウ様、ルイズさん、遅れて申し訳ありません。先生にも授業の途中で入ってしまった事をお詫びします」
「話は聞いています。あなたが精霊のシュガレットね。使い魔達と一緒にいてくださるとありがたいわ。さて授業に戻りますよ、みなさん、静かになさい」
この世界では精霊は余程珍しい存在の様で、私を下に置く事をしようとしない人が大半です。魔法や精霊とて、たかが世界のルールや存在の1つに過ぎないというのに。

「待って下さい先生、精霊と仰いましたが彼女は本当に精霊なのですか?もしそうだとしたらむぐ!?」
「だからと言って授業を疎かにするなど許されません。貴方はそのままで授業を受けなさい。良いですね、ミスタ・マリコルヌ」
彼と同じようにざわついていた生徒さん達の口に赤い粘土がへばりついて教室があっという間に静かになりました。
クリュウ様はといえば、階段状になっている通路で何か腕を動かして書いている。……多分日記でも書いてらっしゃるんだと思いますが何をしているのやら。
見渡せば、皆さん1人残らず短い棒を持っていらっしゃいます。昨日も見かけましたが、この世界では魔法の発動に必須な発動体の様ですね。

「では『錬金』の魔法を覚えてもらいます。1年生で覚えた人もいるでしょうが、基本に忠実にもう一度覚えてもらいましょう。いきますよ」
呟いて杖を振るうと、机の上の石が眩く輝く鉱石に…あー、でもあれは…あー…
多分素人さんには分からないでしょうけど、やはりと言うか何と言うか。先生も人間で女性と言う事なんでしょうね。
「お、黄金ですかミス・シュヴルーズ!?」「真鍮だよ」
身を乗り出して驚いたキュルケさんにクリュウ様が間髪入れずに言いました。…言ってしまったと言うべきですよねこの場合。

「……その通り、これは真鍮ですよ。『土』系統の魔法は―――――――――――――」
すみません先生。クリュウ様は悪くないんです。ただ場の空気を読む事が苦手なだけなんです。
やや気落ちしてしまったシュヴルーズ先生の話が長かったので後ろの方にいた髪を縦に螺旋状にしたお嬢様の(全員貴族である以上は以下略ですが)子に要約してもらうと
  • 魔法には土水火風の4つの系統があり、始祖ブリミル以来使われた事の無い『虚無』という系統の魔法の系統によって魔法が確立している事。
  • 土系統は物体の組成や変化に最も関わるモノであり、ゴーレム等を始めとして建築や農業など社会や生活の基盤に関わる
  • 水系統は水そのものを操る他に生物の体内に作用して病気やケガを癒したりと生命に深く関わり、自分も水系統を学ぶメイジだと言う事。
  • 風系統は風を操るだけに限らず、速度を強化させたり、分身を作りだしたりと風自体よりそちらの発展形を用いるメイジが多いのだと言う事。
  • 火系統は戦いに向いた系統であり、何かを作り出す事は出来ないモノであり、ほぼ炎を扱う事に終始していると言う事。
  • 幾つ系統を扱えるのかによりメイジとしての強さが決定すると言う事。系統を足す事によって魔法を強化出来るのがその主な理由。
  • 1つの系統ならドット、2つならライン、3つならトライアングル、4つならスクウェア。虚無を使える人はいないのでペンタゴンはいない。


私にとって最も気になったのはやはり土の系統でした。リィンバウムでしか手に入らない鉱物ならともかく、それ以外なら作り放題というのはイコール元手タダという事。
何て言うか、詐欺ですよね。実力でやる事ですから加工や品質はその人次第である事は理解できますけど…
そういう能力って生まれで大差がつく事もあるじゃないですか。後から努力したんだーとか言った所でオンリーワンがナンバーワンに勝てる理由にはなりませんし。

そういうの、私は嫌いです。どれだけの精霊が許しても、神が望もうが魔王がそれで世界を満たそうが、私はそれを望みません。
たとえそれをクリュウ様が望もうと。…無論その様な意志が無いからこそクリュウ様と護衛獣として契約したわけですが。
初めから力を持つ者など、全ての世界において不要なはず。  
そんな世界が存在しなければならないとすれば、それは創造主が元々創造主足り得るだけの格の無い出来損ないである事以外に理由はあり得ません。

と。私を使い魔である生き物達がギョッとした目で見ているのに気付きました。……ちょっと本性の姿が見えかけてしまっていたみたいです
私の2つ名は妖姫。聖と魔、どちらかと言うまでもなく魔の側に属するモノであって、そう見られてしまうのも仕方ない事なのですがちょっとショックです。
話しを聞き終えた私は教室を見渡せる後方の吹き抜けの窓に腰かけて授業を見る事にしました。これならクリュウ様の行動も見ていられます。

「―――――――――待ってくださいミス・シュヴルーズ!!彼女は!!」
「何ですミス・ツェルプストー。静かにしていなさい」

キュルケさんが少し慌てた様子で叫んで先生にたしなめられました。
何だか嫌な予感がします。 生徒のみなさんが机の下に潜ってます。でも地震が起きるような場所には見え―――――――――――――――――――――?



―――――――――――ごがっ!!!!

爆発があった。爆音もあったはずなんだけどそんなものは聞こえなかった。耳には届いたんだろうけど頭には届かなかった。
先生の後ろの壁が爆風を受けて吹っ飛んだせいでその破片が飛んできたんだ、と気付いた瞬間思わず身体が反応してた。

ボクの体重の5倍はあるだろう重さの瓦礫の塊が向かって来た途端、瞬間的に左手で腰の剣を抜いてしまっていた。
自分に驚く間も無く跳躍して生徒達に当たらないように瓦礫を斬って蹴り上げたり弾いたりを繰り返した。我ながら人間やめてるよね。どうしてこんなになったんだろ?
自分としては初めて地下迷宮に潜った時から取り立てて特別な事をしてるつもりなんて欠片も無いのに。まあ、ちょっと危ない事も多かったのは認めるけど。
爆発が1発で済んだせいかそれで気を抜いてしまっていた。

「荒れ狂い、そよぎ、巡るままに、吾の言霊と共に渦巻け――――――――ウインドストームッ!!!!」

聞き慣れているはずなのに、聞き惚れてしまうような研ぎ澄まされた水晶よりも澄んだ鋭い声。
その声と共に粉塵と瓦礫が翠色の巨大な螺旋に一纏めにされて壁の大穴へと飛び出していく。竜でさえ引き下がらせてしまう魔法なのだからそれくらいは容易い。
爆発の中心地には爆風で吹き飛んだせいで気絶したらしいちょっと焦げたルイズさんと壁にぶつかってやっぱり気絶中のシュ…ナントカ先生。

「ごめん、シュガレット。そっちの子達にはケガはない?」
「まったく、気を抜いちゃ駄目じゃないですか。「大技よりも怖いのは小技」ってクリュウ様が自分で言ってる事ですよ?こっちの子達には何もありません、大丈夫ですよ」
「そっか、良かった。ルイズさーん、先生ー、大丈夫ですかー?」
「……完全に気絶しちゃってるみたいですね。普通の人間なら耐えられるものでもありませんし」
苦笑するシュガレットを机の下から這って出てきた生徒達が見上げてた。何て言うか、憧れと言うよりも神様に祈るみたいなみっともない情けない顔で。
口々に何か言ってるけど、聞く気になんかなれない。ああいう顔した人間が言う事は大抵決まってるんだから。

旅に出てからああいう顔をした人間を何度も見たけど、1人もロクな人間なんていなかった。中には人殺しな上に罪の意識を感じてない人間までいた。
勇者や英雄、聖女に聖人、魔王だの悪魔だの言われる人間がいるのは別に構わない。本人達がそうしたかったからなのかどうかも別に知った事じゃない。
けど、それを勝手に評価する周囲の人間やそれを聞いて勝手に囃し立てる人間は好きになれない。無責任どころか彼らの責任までその人達に被せられるのが許せないから。
唯一正しい正義なんか無い。犯罪者を捕える方だって相手の希望と人生奪うんだから同罪なんだ。勝手なルールでその人達を排除したいだけじゃないか。
英雄何て呼ばれてる連中が自分のやり方を正しいなんて思っていたら…もしそんな人間がいたなら迷いなく斬り捨てる。そうするのがその人の為でもあるって思うから。
考えを変えていくから人間なんだ。変えない想いがあったとしても、その人間は変わっていかなくちゃ、って言うのがボクの考え方。
だからこの考え方も変わっては行くだろうけど、でも多分この子達がしている様な醜い憧憬の顔は―――――――――きっと死ぬまで好きにはなれない。



「助かったわ。カッコ良かったわよ、クリュウ!!」

いきなりパン!と肩を叩かれた。背の高い綺麗な長い赤毛と短くて青くて小さい背丈。
キュルケさんは興奮しているのか顔の色が髪の色に近い色になってる。タバサは逆に変わらずに涼しい顔のまま本を読んでた。

「すごいじゃない、あんなの風のメイジにだって出来るのは少ないわよ?それにあっちの子だってあんな魔法ラインのメイジにもそうそう出せないわよ?」
「シュガレットがすごいのは認めるけど、ボクはそんな凄い事なんてしてないよ。2人ともケガは無かった?使い魔の子達は大丈夫?」
「ええ!!…そんな顔しないで。この世界では精霊が特別に見られるのは仕方ない事なのよ。トリステインもメイジ至上主義だものね」

…そうじゃないんだけどな。

…ボクも汚くなったな、って思う。曖昧に笑ってごまかすなんて、友達同士や分かり合ってる相手にしか、しなかったじゃないか。
ルべーテさんの気持ちが今なら少しだけ分かる。…自分の思うがままに心のままに振る舞う為にはチカラが必要なんだって事だ。偉くなって力を入れて、何が欲しい?
―――――――――結局、自由が欲しいんだ。呆れかえるほどのお金や食べ物に豪華な生き方。そんな物、意味の無いただのオマケでしかないんだ。
自由に生きたいという気持ちを満足させたい。それは我儘で汚くて卑怯で卑劣で………でも何より人間らしい純粋な気持ちなんだ。それは否定なんてしちゃいけない。
だから争いは起こってしまう。全ての人が、生き物が幸せに生きる事なんてそれこそ絶対に無理なんだ。そう感じる世界があるとしたらそんなの狂ってる。
だけど、それはそれぞれの命が求めるものなんだ。何かに頼っても意味なんか無い。大勢でやったとしても…そんなの幻だ。
そうして気付いていても止められなかったのが過去のリィンバウムで起きた戦争。どの世界でも人間の様な心を持つ生き物がいる限り起きる戦争なんだ。
……あれ?考えがずれてきちゃったみたいだ。……やだなぁ、もう。大人になるって事がこういう事なんだとしたら本当に生きる事って試練なんだね。

「クリュウ?」
「え?あ…うん。ちょっと考えちゃった。ボクも学校に通ってたら色々考える時間があったのかな、なんてね。…あーあ、どうしよう、これ」
「………。瓦礫は殆ど飛んでいったから、ルイズが説教されて終わりでしょうね。それはそうと講義が潰れたし、お昼を一緒にどうかしら?」
「気持ちは嬉しいんだけど、ごめん。マルトーさんにみんなの昼食の手伝いするように頼まれてるし」
「……決闘がある」
ボソリと呟いてすぐに本に目を戻すタバサ。そんなに本が好きなのかな?…って以前なら思えたのに。

「先生達にそう言われちゃったから断りようが無くって。ルイズさんに認めてもらう為にもそうするべきだし、逃げても逃げ切れないだろうから」
「帰る方法なんてすぐに見つかるわよ。逃げるとか考えず気楽にしてたらいいのに」

今の彼女みたいな、こんな優しいウソばかりならいいのに。


「シエスタさん、お手伝いに来ましたよー!」
「約束通り来たよー!!」

2人の声が同時に厨房に響くと2人にとっては馴染みのある、この国にしては珍しい黒髪の少女が出てきた。背はそこそこなのに発育がかなり良い。
…が、

普段から露出が多いのに発育を遂げてきているパートナーのシュガレット。
ちょっとだけクリュウより年上で姉譲りのスタイルの良さになった赤い髪のサナレ。
姉妹揃って美人でスタイルも文句無しのクリュウの前でのみ伊達メガネを外す双子のハリオ(姉)とへリオ(妹)。
数年前には考えられなかった有り得ない胸や腰の発育(byサナレ)を遂げたクリュウを兄と慕う小麦色の肌の少女のラジィ。

…以下省略。

そんな周囲が存在する中で(彼としては一切恋愛感情抜きに)過ごして来たクリュウにとってシエスタは「可愛い給仕服を着た女の子」という位置づけでしかない。
付け加えると「可愛い給仕服」であって「給仕服を着た」「可愛い女の子」ではない。
どうやら数年前のとある一件で彼の中で「給仕服=可愛い」とイメージ付けがなされたらしい。同様に他の件とも合わせ「ギャップ萌え」という嗜好にもなったらしい。
女性と言うのは恐ろしい物で、あっという間にそれは彼の与り知らぬ所で共通認識となり激しい鬩ぎ合いがあったのだ。
シエスタがそんな理由を知らぬが為にシュガレットも彼女を敵視したりせず良好な関係を築きつつある事をクリュウは知らない。
閑話休題。

「正午までまだ時間がありますからよろしくお願いしますね。クリュウさんは食堂で食べ終わった方々のお皿の片づけをお願いしていいですか?
私とシュガレットさんはデザートを食堂に出すという仕事になるのですが……いいでしょうか?」
「何遠慮してるんですか。任せて下さいシエスタさん!きっちり仕事を終えて正午までに終わらせましょう!!」
「そうですね、頑張りましょう!!」
そんなわけで、やたらと気合いの入った女性2人と

「じゃ、頑張るかな」
それとは対照的に長期休暇の課題をやる学生が如く諦め半分な表情(残り半分は今になって睡眠不足の影響が出たせいで眠くなってきた顔)の青年
それぞれがそれぞれの用途のカートを掴むと食堂へと出て行った。
なお、ルイズとシュヴルーズの2人はまだ医務室で香ばしい匂いをさせたままである事を述べておく。決して忘れていたわけでは無い。          一応。

しゃかしゃかじゃかしゃかしゃかしゃか…
「量があると大変だよねー」
つまらなそうにざかざかと皿を積み上げてはカートに入れていく。元々凝り性なのだ、彼は。作業的に何かを延々とする行為は彼にとって退屈でしかなかった。

彼にとって「は」。

「何なのアレ……さっきの男の人よね?」
食後の紅茶を楽しみながらボンヤリと優雅な空気を味わっていた縦ドリルことモンモランシ―は高速で動くカチャカチャ音に目を向けた。
何か動いてる。高速で皿が積み上がってはカートに乗せられる事が繰り返される。
空腹を満たした胃に血が行ったせいか、あまり考える気になれなかったので考えない事にした。

その彼の向こうにギーシュがいたのだが、モンモランシ―は騒ぎが起きるまで意識を向ける事なく紅茶を飲み続けた。
相変わらず自分の知らない女の子を引っかけているらしい彼の頭をどうやって冷やしてやろうかとボンヤリ考えながら。

【ツヅク…】


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