あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Persona 0-05



 Persona 0  第五話

 まっすぐにギーシュに向かって杖を突きつけルイズはそう宣言する。
 ギーシュはもはや瀕死、だがルイズにはもうペルソナの魔法を使うだけの精神力は残されていなかった。
 使えるのは系統魔法、いや系統魔法ですらない失敗魔法だけ。
 対して、盾のなかでギーシュは苦しそうに喘いでいるがそれを構える戦乙女は未だ健在。
 その青銅の剣の一撃はペルソナでガード出来ない今の状態では当たり所によっては十分致命傷に成り得る。
 敵に対峙した状態でルイズはふと考える。
 なぜこんなに傷だらけになり、友人と己の命を天秤に掛けてまでこんな場所で決闘まがいのことをしているのか?
 心の奥を探ってみれば答えはすぐに見つかった。
「助けられるの私たちしかいないじゃない」
 ただの女たらしのクラスメートだが、なにも死ぬことはないと思った。
 ふと心によぎるのは次から次へと動物たちを助ける二番目の姉の姿。
 傷ついて動けなくなった雲雀を抱き上げながら、カトレアはこう言ったのだ。
『この子を助けてあげられるのは私だけだもの、だったらその状態で助けてあげないのは私がこの子を殺すのと変わらないわ』
 助けられるのに助けないのは自分が殺すのと変わらない。
 今、ギーシュを止めずにギーシュが死んだらきっと自分はずっと後悔する。
 だからそれが理由。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが貴族としての誇りを賭けるに足る戦場。
 だが同時にルイズは思う、もししくじれば死ぬのは自分だけでは済まない。自分の足元で横たわっているキュルケまで道連れにすることになる。
 決闘と言ったのはその為の保険である、腐ってもギーシュも貴族だ。いくらおかしくなっていようとただの決闘ならばキュルケ無抵抗な相手にまで手を出しはしないだろう。
 そう信じた、いや信じたかったかのしれない。
 いくら心の底の闇を曝け出したとて、貴族であるならば貴族としての最低限の矜持は持ち合わせているはずだと言うことを。
「――行くわよ!」
「はは、はははは、ははははは!」
 ルイズは黙し、ただまっすぐ杖を構える。
 ギーシュは笑い、平面のなかで杖を構える。

 だがそんな二人のことなど知ったことではないと言うように、戦乙女は右手の剣を腰だめに構えた。
 その剣身を盾で覆い隠すのはおそらくリーチの長さを見せないため。
 互いに一撃で勝利が決する状態では、いかに相手より先に攻撃を当てるかが要となる。
 ならばこそ『錬金』で剣身の長さを作り変えると言うのは恐ろしく有効な手であろうとルイズには思えた、長くすれば避けたつもりでも胴を抜かれ、短くすれば予想もしない速さで首を飛ばされるであろう。
 だがルイズには恐れはない、しかし体が震えるのはこれが世に言う武者震いと言うものなのだろうか?
 ルイズは息を一度だけ短く吐き出し、覚悟を決めた。
 盾のなかで悶えるギーシュに向かってまっすぐに駆け出していく。
 僅かに遅れて戦乙女も足を踏み出す、青銅のスカートを舞いあげ、重心を落とし、バイザー状になった仮面の下からルイズにを睨み据えの突進。
 身を低くし初撃の疾さにかける様はまるで獲物を狙うマンティコアのようである。
 相対する両者はともに守りをすて攻撃のみにそのすべて賭す、かつてトリステインの貴族たちがその杖を互いの血で染めたが如く。
 だが巨大な青銅の乙女とただの少女ではリーチが全く違う。
 先にその一撃を振り抜いたのは戦乙女のほうであった――絶対当たるし絶対死ぬ……そう思えるような致命的な一撃。
「甘いわっ!」
 だがルイズはそれを読んでいた。
 自分程度では絶対に防げない攻撃が来る事などルイズには分かって当たり前だ。
 ならばその一撃で自分が死ななければそれでいい。
「ペルソナ!」
 現れるのは限界まで力を酷使した林檎の乙女。
 目の前に呼び出したイドゥンを足場にしてルイズは駆け上がる、何度も繰り返したシャドウたちとの戦闘が眠っていたルイズの才覚を目覚めさせたのか。枝の上をひた走る彼女の姿はトリステインの伝説に名を残す烈風のようだ。
 ルイズの狙いに気づいたギーシュは戦乙女に剣の軌道を変えさせようとしたが、結局それは叶わなかった。
 剣が貫いたのは最後の精神力を使い切って消えてゆくペルソナの残像だけ。
 それでも己の分身を切り裂かれたルイズの体には切り裂かれた場所と同じ場所に激痛が走り、体を真っ二つにされたと言う幻の感覚に心が折れそうになる。
 だがルイズはそれに耐えた。
 一人ではおそらく耐えきれずに気を失っていたに違いない、だがその杖が握っているのは自分だけの命ではないと言う事実が最後の一線を踏みとどまらせる。
 ルイズは剣を振るった体勢のままの戦乙女の胸元へと身を踊らせる。
 唱えた魔法は『フレイムボール』
 キュルケが好んで使う“火”の属性の魔法、何度使っても全くコントロールが効かずいつも癇癪を起してしまうこの魔法もこの距離でなら絶対に外さない。
「ま、参った、降参……」
 ギーシュの言葉を皆まで聞かずルイズは盾を爆砕した。


 おかしいな?
 私は決闘に勝ったはずなのに、ギーシュを助けて今頃キュルケと一緒に帰り支度をしているはずなのに。
 どうして私の体に剣が突き刺さっているんだろう?

 ルイズは呆然と自分の体を貫く青銅の剣を見た、足元に散らばる砕けた盾の欠片を見た、そして最後に爆発で砕けた戦乙女の仮面を見た。
 いくつも罅が入った仮面が砕けて割れる。
 その下から現れたのはギーシュの顔。
 ひたすら無表情で無慈悲な顔をしたギーシュが、無感動にこちらを見てきている。
 ルイズは知らない。
 この戦乙女こそギーシュがおどけた表層の下に眠らせていた、自分自身ですら知り得なかった苛烈さと勇敢さと冷酷さの象徴。
 故に“もし”があり得たならば、ギーシュは己より遥かに強大な相手に臆しながらも全力で立ち向かっていただろう。
 だがそんな機会は訪れなかった、だからこそギーシュのその心の一部は仮面の下で眠り続けていたのだ。
 ペルソナとは自分、神のような悪魔のような、或いは死神のような、心の奥に眠る自分自身の一面に他ならない。
 自身の影よりもなお深い、無意識の海に近い場所に存在するソレを呼び覚ましたのはやはり……

「げほっ」
 口の端から血が零れ、視界がゆっくりと暗くなっていく。
 悔しくて悔しくて堪らなくて、目の端から涙が零れた。
 自分は死ぬのだ。
 この場所で誰も救えず、ただ無意味に死んで行くのだ。
「い、や…………」
 いくつもの顔が脳裏に満ち、そして消えていく。
 お父さま、お母さま、ちぃ姉さま、エレオノール姉さま。
「死にたく、ない……」
、アンリエッタ姫さま、キュルケ……そして、そして…………
「……けて」
 血と共に吐き出されたその言葉は命乞いではなかった。
「たすけて」
 始祖ブリミルに対する祈りの言葉でもなかった。
 霧のようにぼんやりとした記憶の向こう側、その向こう側に向かって呼びかける声だった。
 アイツは、アイツは……
「サイト! 助けて!」

 ――ガギンッ!

 鉄が何か固いものを打ち抜くような音が響く。
 あり得ない記憶、繋がってはいけない線が繋がり、そして霧の向こう側から彼は現われた。
 彼は右手に持った銃の弾倉に一発だけ弾を込めると、その弾倉を手で叩き勢い良く回転させる。
 たった一発の銃弾、それがどこに入っているか分からないようにしてから彼は自らの頭に銃口を突きつけ引き金を……

「ペルソナァァァァァァァァ!」

 ――引いた。



 ぼんやりとした意識の向こう側でルイズは見る。
 誰かが誰かと闘っている。
 剣と剣が打ち合う音、巨大な犬の吠え声と、一撃でその胴を真っ二つにされ倒れ伏す戦乙女。
 そして自分の体を癒す暖かな感触。
 彼が誰なのか自分は知らない、だが自分は知っているような気がする。
 果たしてそれが誰だったのか、確かめようとしたが急速に眠りに向かって落ちていく意識ではそれは叶わない。
 届かない心を胸に、ルイズは気を失った。



 彼は包帯を巻いた手で桃色の髪を掻きあげる。
 その下にある穏やかな寝顔を見て、彼はふっとその張りつめた顔を緩めた。
 だがそれも一瞬のこと、次の瞬間には彼の顔は悲しみと寂しさを覗かせる色へと曇り、そしてすぐに張りつめたものへと変わる。
 敵意と憎悪、彼に似つかわしくないその感情をぶつける相手は彼のすぐ隣にいた。

 ――ズゥゥゥゥゥ、イイィィィズゥゥゥゥ!

 小さな小さな窓。
 まるで鉄格子の向こうから一人だけ死刑を免れた仲間を見るように、黒い怪物はその黄金の瞳を覗かせていた。
 眼ひとつですら窮屈だと言うのになんとかこちら側に入ろうとしているのか、指を突っ込んで無理やり枠を広げようとしているらしいがしかしそれも無駄な努力だ。
 世界を繋ぐ枠は小さく、彼ですら通り抜けられるかどうかと言ったところなのに怪物が通れるはずがない。
 それでも執拗に指を突っ込もうとする怪物の姿は、届かぬ月と言う宝石に手を伸ばす赤ん坊みたいでどこか物悲しい。
「やっぱ“あそこ”からしか出入りできねぇみてぇだな」
 そう言うと彼は戦乙女が手に持っていた剣を拾い上げ、

 ――オオオオオオオオオオオオオオオォォォ!?

 黄金の瞳に向かって、力の限り突き立てた。




「ふわぁぁ、あ、あれ……?」
 目を覚ますと見知らぬ場所にいた、咲き乱れる薔薇、薔薇、薔薇、うん、素晴らしい場所だけどこんな場所近場にあったっけ?
 そうして周囲を見れば横で安らかな寝息を立てるルイズとキュルケ。
「あれ、あれれ……」
 一体全体どうしたのか? ともう一度周りを見て血の気が引いた。
「きっ、君は……」
 そこには亀甲縛りをした姿のもう一人自分が、静かにこちらに視線を送っていた。
 そうしてギーシュは思い出す。
 もう一人の自分を否定してルイズと決闘になったこと。
 その最中急に視界が切り替わり、ふつふつと燃えるのような激情に囚われルイズと串刺しにしてしまったこと。
 後悔する間もなく、突如として現われた青い服装の誰かによって滅多打ちにされたこと。
 ショックだった。
 薔薇を自称する自分が女の子を傷つけたことも、見知らぬ誰かどころか“ゼロ”のルイズにさえ負けるほど自分が弱いことも、そして同時に影が言っていたことに納得できる自分がいると言うことも。
「確かに、そうかもしれないな……」
 自嘲するようにギーシュは言った。
「僕は、逃げていたのかもしれない」
 そう言ってギーシュは一歩もう一人の自分へと近づいた。
「答えを先延ばしにして、決定的な答えが返ってくるのを恐れていたのかもしれない」
 もう一人のギーシュはどこか卑屈な笑みで微笑みかけたが、どこかそれは演技臭くギーシュには思えた。
 ――モンモランシーやケティの前で、僕もこんな貌をしていたんだろうか?
 そう思うとどこかおかしく、ギーシュは笑った。
「それは結局最後は女の子を悲しませるってことになるって、わかっていた筈なのに……」
 見ないふりをしていた心の奥底を突き出され、苦笑しながらギーシュは受け入れた。
「残念だけど図星だね、君は僕、僕は君だよ」
 その言葉にもう一人のギーシュは頷き、その姿が変わる。
 右手に構えた輝く剣と、薔薇の文様で装飾された滑らかな白の甲冑、兜はバイザー状になっておりその表情は分からない、だが何より特徴的なのはその飽いた左手に白い翼を生やした女性を抱きかかえていることだろう。

 >自分自身と向き合える強い心が、“力”へと変わる…
 >ギーシュはもう一人の自分。
 >困難に立ち向かうための人格の鎧、ペルソナ“シグルズ”を手に入れた。 

「ぐっ」
 猛烈な疲労感にギーシュは膝をついた、だがこのまま眠ってしまう訳にもいかない。
 すぐ傍には意識を失って安らかな寝顔を見せる女性が二人もいるのだから。
「まったくこんだけ辛くても格好を付けたいだなんて、全く損な性分だな」
 そうしてギーシュは残された力でワルキューレを作り出す、普段からすれば作りも荒く造形もいい加減だが今の状態なら会心の出来だろう。
 そのワルキューレにキュルケを担がせると、ギーシュはルイズを御姫様だっこして歩きだす。
「けどそんなところも僕なんだけどね」
 よたよたと右に左にとふらつく足取りで歩きながら、ギーシュは一人苦笑した。



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