あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔-19


 月明かりを背に、ワルド、ルイズ、ギュスターヴの三人が走る。
 その足は少し登った丘に立つ巨木へ向かっていた。
 ギュスターヴは先行するワルドを追いかけつつ、傍を走るルイズに聞いた。
「ルイズ。『桟橋』とは言ったが何処なんだ?……というか、何で船に乗るのに山の中なんだ?」
 ギュスターヴの質問にルイズが答えぬまま、三人は丘の上の巨木の前にたどり着いた。
 それは巨木、と一言で言うには足らぬほどの巨大な樹木だ。幹周りが何百メイルもある一本の樹。
 町より続く道が樹木まで続き、それは樹木に明けられた巨大な洞に通じていた。
 見上げれば樹から四方に伸びる、これまた巨大な枝先には、魚のひれのように上下左右に
帆を持った見慣れぬ船が繋がれている。
「ここが『桟橋』よ。船へは枝を伝って乗るの」
「あれが船か?……なんであんなところに」
「なんでって、アルビオンは空の上だもの。風石船に乗らなきゃ行けないじゃない」
 当たり前のようにルイズが言う。まだまだこの世界は分からない事だらけだな、とギュスターヴが
感心しつつ、三人は洞より樹木の中へ入る。
 樹木の内側は完全に人の手が入れられ、内壁を螺旋に切って階段が作られていた。階段の途中途中
の壁は穴があり、そこから枝へ移って船に乗るらしかった。
 延々とつづく螺旋階段を三人は登って行く。
 枝にはいる穴を4つは通り過ぎた頃、最後尾を行くギュスターヴの背後に人の気配を感じた。
 ギュスターヴはそれを培われた勘で味方ではないと判断した。
「先に行け、ルイズ」
「ギュスターヴ?!」
 振り返るルイズの視界には、デルフを抜いたギュスターヴと、その先の階段に立つ白い仮面を
つけた謎の男が杖を抜いて構える姿が見えた。
 仮面の男が杖を振って『エア・ハンマー』を放つが、ギュスターヴはそれをかわしながら接近、
デルフを振り込んだ。
 デルフと男の杖が交差する。踏み込んで一閃、二閃とギュスターヴが剣を振るうと、男はそれを
杖で捌きながら距離をとる。
 ギュスターヴが再び距離を詰めるべく踏み込もうとしたとき、男が今までとは違う杖の構えをしていた。
「やばい、避けろ相棒!」
「?!」
 デルフの声で踏み留まったギュスターヴは男を見た。
 仮面の男の杖先がバチバチを何かが爆ぜる音をさせている。そして次の瞬間、男の杖先から光が
ほどばしりギュスターヴを貫いた。
「ぐぅっ!」
 空気を吐き出せない感覚と左腕を引き裂くような痛撃を受けたギュスターヴの体がはじけるように
宙を舞った。
 ギュスターヴの体は階段を何段と飛び越えてルイズの前に落下した。
「がふっ」
「ギュスターヴ!」
「おのれ族め!」
 ルイズを背後に隠していたワルドが杖を振って『エア・カッター』を放つ。
 仮面の男はそれをかわせず胴体にまともに受ける。身体をくの字に曲げ、階段の手すりをへし折る。
 声も上げない謎の男は夜闇深き床へ向かって落ち、見えなくなった…。
 倒れたギュスターヴにルイズとワルドが駆け寄った。
「大丈夫?ギュスターヴ」
「大丈夫かね、使い魔君。あれは風の魔法『ライトニング・クラウド』だな。まともに食らえば即死も
免れない魔法だが…」
 その言葉とは裏腹に、よろよろとだがギュスターヴは身体を起こす。
「なに、わりと身体は頑丈なんでね。…っつ!」
 魔法を受けた左腕が痙攣する。ために握ったままだったデルフを床に落としてしまう。
 ワルドは床に落ちたデルフを拾うと、しげしげとそれを眺めた。
「剣が盾代わりになったのだろう。ただの剣ではないようだが」
「しらねーな」
 デルフの言葉に持っていたワルドの目が見開かれる。
「……驚いた。インテリジェンス・ソードとは」
 ギュスターヴはワルドからデルフを受け取って鞘に収める。
「ひとまず敵は退けた。船に急ごう」
 言うと再びワルドを先頭に一行は階段を上った。



 『ウェールズ邂逅』



 ハルケギニア数字で『七番』と書かれていた枝には一隻の船が停泊していた。
 全長約50メイル。乗員20名ほどの貨客貨物船である。
 タラップから船に乗り込んだ三人は甲板で寝泊りしている船員の一人を起こし、船室で寝ているらしい
船長に取り次いでもらう。
 暫くして船員に率いられて船長らしき身なりの比較的綺麗な男性が姿を見せる。
「なんだいあんたら、こんな真夜中に。悪いけどアルビオン行きなら日が昇ってからだぜ」
「すまないが今から出航してもらいたいんだ。金なら払おう」
「そうは言いますがね。風石の量がスヴェルの最短行路分しか積んでませんで。今から出たら途中で落ちますぜ」
「なら、足りない浮力は僕が賄おう。僕は風の『スクウェア』だ。それくらいはできる」
「へ、へぇ。…料金は弾んでもらいますぜ」
「ふん。僕らは王族の命で動いている。請求はトリステインにしてくれよ」
 ワルドと船長が交渉を進めている間、ギュスターヴとルイズは甲板の上に座り、船上の色々な物を眺めていた。
「…積荷は、硫黄か」
 ぽつりとギュスターヴがつぶやく。傍にいた船員は頷いた。
「へい。アルビオンの貴族派は羽振りがいいもんで、火薬の材料になる硫黄は同じ重さの黄金と同じ値段で
買い取ってくれるんでさ」
「賊軍にしては資金が潤沢なんだな」
「今じゃ王党派が賊軍みたいなもんですよ。前に行った時はニューカッスルを残して拠点は全部貴族派が
落としてしまっていたし、もう5日ともたないんじゃないかって言うのがもっぱらの噂ですよ」
「…そんなに、追い詰められているのね」
 ルイズは自分達に与えられた時間があまりないということに心を暗くした。隣のギュスターヴを見上げる。
「…ところでギュスターヴ。どうして積荷が硫黄だってわかったの?ここには積荷が何処にも置いて
ないけど」
「ん?床に摺ったような黄色い粉が残っていたし、それを嗅ぎ取れば臭いですぐにわかるさ。
…船員の人、悪いけど水と包帯もらえるかな。やけどに効く薬があればそれも」
 先程まで船長と交渉していたはずのワルドが、ピーっと指笛を吹く。
 すると町の方に残していたグリフォンがやがて飛んできて、甲板に着地した。
「よく躾けてあるのだな」
「魔法衛士大隊の幻獣騎士にとって、身を任せる幻獣は兄弟みたいなものさ。生憎ここから
アルビオンまで飛べるほど足は長くないがね」
 乗客となった三人を除いて徐々に甲板の上が騒がしくなる。ロープが外され、四方のマストが呻りを上げて動く。
 桟橋から切り離された船は徐々に上昇していき、遠くラ・ロシェールの町明かりが見える。
 ギュスターヴは持ってきてもらった包帯と水を腕に当てながら、それらを眺めていた。



 船は夜を通して飛び続け、途中からワルドは船底に潜って風石の変わりに船を浮かすべく、魔法を使い続けた。
 ギュスターヴとルイズは貨客用の一室に通され、そこで夜を明かした。

 陽も上がって暫く。ギュスターヴは甲板から外を眺めていた。
 視界には、巨大な大地が雲を纏って浮かぶ光景が広がっている。
「…何度みても、奇異だな」
「サンダイルにはこういうのはないのかしら?」
 気が付けば、隣にルイズが立っていた。
「…ないな。第一『空を飛ぶ』というのが珍しい行為だ。幼いワイバーンや魔物なんかを手なずけて
空を飛ぶ、なんていう輩も居なくはないがな」
「ふーん」
 言いながら、違和感が残る左腕の包帯を撫でる。
「…まだ、痛むの?」
「薬と包帯はもらったし、痙攣はおさまった。やけどの腫れが引けば問題はない」
「……そう」
 そうしていると、船の内部に通じる階段からワルドが出てきて身体を解している。
「いやぁ…、やっとアルビオンの浮力圏内までついたね。もう僕の魔法は空っぽだよ。暫くはそよ風も出せないね」
「浮力圏?」
「アルビオンの国土周囲5リーグはね、風石がなくても舟艇を浮遊させる力場が存在するのだよ。
なぜかは誰も知らないがね」
 再び感心しているギュスターヴを尻目に、ルイズはアルビオン大陸の下部、白くけぶっている雲の中に影を見た。
 それは徐々に雲の中から姿を現してこちらに向かってくる。
 遠目に見てもそれは船であった。しかし、こちらの船よりも2回りほど大きいように見える。
「船がいるわ……貴族派の船かしら」
「船長に聞いてこよう」
 ワルドは甲板から船長室へ歩いていった。


 船長室では見張り台へ続く導管に向かって怒鳴りつけていた。
「いいからやるんだよ!この辺りをうろついてるんだから貴族派の船に間違いないだろうが。
いいか、『当方ハ商船、スカボロー港マデ行路ヲトル』だ」
 雲から出てきた船は識別旗を上げずに接近してくるのである。こちらとしては敵意等が無いことを
見せて進行を遮らないように伝えるしかない。
 暫くして見張り台から声が返ってくる。
「船長、向こうから返答です。『停船セヨ、シカラザレバ砲撃ス』と!」
「あんだって?!」
 そうしている間にも謎の船は見る見る近づいてくる。タールを塗られた黒い船体が日光で光沢を放っていた。
 相手の船は舷側にずらりと砲を並べ、その数24門。こちらは申し訳程度に数門が移動式で用意されているに過ぎない。
 どうすればいいのかと逡巡していると、相手船の大砲の一つから砲撃が走る。
 空気を割るような音がして、砲弾は商船の進路上数十メイルの位置をすり抜けた。
「再度向こうから『停船セヨ、シカラザレバ砲撃ス』と」
 見張り台の報告とほぼ同時に船長室へワルドが入ってきた。
「船長、どうしたのだね。あの船は一体何だい?」
「いや、その…停船しなければ砲撃すると向こうから」
「ふむ。…仕方ない。停船を」
「しかしですねー…」
「僕らもここで死にたくはないんだ。頼むよ」
「は、はい…」


 停止した商船に黒い船は舷側をぴったりとつけ、黒い船から武器を持った男たちが乗り込んできた。
「空賊だ!抵抗するな!」
「空賊?!」
 驚くルイズや船員を尻目に続々と乗り込んでくる男達。その手には短銃身の銃、クロスボウ、曲刀や斧を持っている。
 最後に薄汚れた派手な格好をしている一人の男が荒々しく降り立つ。
「船長はどこでぇ」
「私だ」
 船長室から空賊たちに前後を挟まれ拘束されるように船長が姿を見せた。
「船名と積荷を言いな」
「トリステイン船籍『マリー・ガランド』号。積荷は硫黄が1000リーブルだ」
 おお、と空賊たちから声が上がる。空賊の頭らしき派手な男は、にやりと笑う。
「よっし。船ごと積荷はもらうぞ。代金はてめぇらの命だ。ありがたく受け取りな」
 悔しい顔の船長を横目に、空賊頭は甲板にいる船員らしからぬ姿の三人を見つけた。
「ほぅ。この船は貴族も積荷に入ってるみたいだな。…連れて行け!」
「へい」
 頭の一声で空賊たちに拘束される三人。ギュスターヴとワルドは押し黙ったまま杖と剣を取り上げられた。
「ちょ、離しなさい!下郎が」
「威勢がいいな!おっと杖は預からせてもらうぜ」
 突っかかっていくルイズをギュスターヴが引き止める。
「ギュスターヴ」
「ここは大人しく捕まっておけ」
「でも…」
「おらぁ!きりきり歩け!」
 前後を空賊に挟まれて、三人は空賊船の中へと連れて行かれた。




 三人が入れられたのは空賊船の中にある空き部屋らしかった。荷物が雑然と置かれ、はめ殺しの窓から
陽光が残酷なまでに部屋を明るくしている。脇に置かれた古ぼけた机にはなんだかよく分からない
小物がゴチャゴチャと詰め込まれていた。
「もう!どうして止めるのよ!」
 軋みを上げる椅子に座って地団駄を踏んでいるルイズである。
「あそこで暴れたってしょうがないじゃないか。いざとなれば船を砲撃して沈めてしまえばいい分、
あの場は不利だった」
「ふむ。おそらく空賊たちは僕らを貴族と見て、身代金なりを取れると思ったんだろうね」
「でも、不甲斐ないわ…手紙と指輪は手元にあるけど、これじゃ任務をすすめられないじゃない。
ニューカッスルの王党派はもう長くないっていうんだから」
 さて、これからどうしてくれようかと三人が膝つき合わせていたその時。部屋の扉が空けられ、
見張りらしき男が入ってくる。その手にトレイを持ち、スープとパンが乗っている。
「食事だ」
 受け取ろうと手を伸ばしたギュスターヴ。しかし男はトレイを渡さずにギュスターヴの手を払った。
「質問に答えてもらおう」
 ルイズが立ち上がる。
「言ってみなさい」
「今のアルビオンに何の用があってきた?」
「旅行よ」
「冗談を言うな、アルビオンは内乱中だぞ。もっとも、最近は貴族派が勝ちに勝っているがな。
王党派につくような酔狂な奴は、もう殆どいねぇ。そんな奴がいたらとっ捕まえて
貴族派に引き渡すとたんまり礼金がもらえるのさ」
 ニヤニヤと男がルイズを見下ろす。男は船乗りらしい焼けた肌と筋肉の張り詰まった
身体をしている。
「この船を無傷で出たいなら、貴族派に突く奴だって船長に口利きしてやるぜ。でなけりゃお前さん
たちは王党派の連中ってことで貴族派に突き出す」
 ルイズはハッとして、次にぎりりと歯噛んで叫んだ。
「ふざけないで。始祖の王権をないがしろにする貴族連合に組するつもりはないわ。
私達はニューカッスルのアルビオン王家に用があるのよ」
「なんだと?!」
 次の瞬間、ギュスターヴが飛び上がって男に組み付く。声を出さないように口を押さえ、部屋に
あったロープで手足を縛った。
「さて、叫ばれないように口にも布をかませておかないとな……。しかしなぁ、ルイズ」
「何よ」
 鮮やかに男を捕らえたギュスターヴの声が呆れている。
「無理な物言いかもしれないが、もう少し駆け引きをするべきだったな。もうちょっと情報を
引き出して欲しかった」
 それを聞いて朗らかにワルドが笑った。
「それは無理な注文だよ使い魔君。ルイズのような乙女に切った貼ったの男達と交渉させるのは難しい。
今ので十分だよ、ルイズ」
「…そう」
 ワルドの慰めのようなそうでないような物言いに釈然としないルイズだった。
 それを脇に、ギュスターヴは捕らえた男の持ち物を探っている。船を脱出するなり何なりするにしても道具がいるからだ。
「ん…なんだこれは」
 口を封じられてもがもがと男が呻くが無視する。
「どうしたの」
「首から何かを下げているな。アクセサリの類じゃなさそうだ」
 麻らしき首のひもを引きちぎって取り出した。それは手のひらに収まる程度の小さな金属の
板切れ。穴を開けてくび首を通していた。
「銅板だな。彫り物がしてある」
「見せなさい。…『アルビオン近衛艦隊 少尉 レオニード』……近衛兵の認識票じゃない」
「それだけじゃないな。衣服は汚れ物だが、小物が小奇麗過ぎる…」
 男の持っている道具に杖はなかったが、持っていたナイフは拵えに象牙が仕込まれた美麗なもの。
とても空賊のような人間が持っているものではないとすぐにわかる。
「少し調べてみる必要がありそうだな」
 持ち物を見ていたワルドが捕まえた男を見る。男は先程と違い、黙ったままこちらを見ている。
「いくつか質問をする。首を振って答えるんだ」
 ワルドの言葉にも男は反応を示さない。
「この認識票はお前のものか」
 首を振らない男。
「この持ち物はすべてお前のものか」
 やはり首を振らない。
「応えたほうが身のためだと思うぞ」
「変わりなさい!」
 ワルドを押しのけてルイズが男に迫った。
「あんた!この認識票とナイフはどこで盗んだのかしら!?栄えあるアルビオンの近衛兵の持ち物でしょ。
こんな薄汚れた空賊風情がもつものじゃないわ。さぁ、これを何処で手に入れたか教えなさい!」
 肩を使うんで男を揺さぶるルイズ。しかし応えない男。その内ルイズの方が息切れして手を離してしまう。
「ハァ、ハァ…答えなさいって言ってるでしょーがー!」
「落ち着け、ルイズ」
 ギャアギャア言い始めたルイズを宥めたギュスターヴ。その手には部屋の机の中から発見した
虫眼鏡と釣り針が握られている。

「さて、残念だがお前に拷問をしてみる」
 ギュスターヴが冷淡な声で男に語りかけた。男はわずかに身を固めたが、静かだ。
「まず瞼にこの釣り針を通し吊り上げる。釣りあがった瞼は閉じる事ができないな。
その上で開いたままの眼球に、虫眼鏡で集めた光を当て続ける。今はいい時間で日が高い。
じっくり時間をかければ目玉が焼けるぞ」
 表情のないギュスターヴが淡々と『拷問』について説明した。焼けた眼球がどうなるのかを
とくとくと語る様は、傍で聞いているルイズやワルドの背筋を寒くする。
「さて…」
 にじり寄るギュスを見て男が暴れだす。
「しゃべるか?」
 男は首を横に振る。
「よし」
 暴れる男を押さえ込んだギュスターヴは目をつぶっている男の左まぶたを指で摘み、片手の
釣り針を押し付ける。男が悲鳴を上げているかのようにふさがれた口で叫んでいる。
「しゃべるか?」
 今度は男の首が縦に振れた。
「君も結構、なんというか…」
 流石のワルドも顔が引きつっている。
「さ、流石私の使い魔ね」
「いいのかい?あれで」
 ルイズの声が震えていて、ワルドは本気で心配になりそうだった。
 さて、そんな二人を置いて、ギュスターヴは捕まえた男の口をゆっくり解いた。
「わ、我々はアルビオン王直属の近衛部隊だ。空軍司令と共に貴族派への撹乱工作をしている」
「王直属?!」
 その言葉にルイズが沸き立つ。
「そうだ。我々は残された空軍戦力を動員し、貴族派へ物資を輸送する船籍があればこれを捕縛し、
物資を奪うのだ。これは補給線を絶たれた我々の貴重な物資補給手段でもあるのだ」
 男の言葉はにごりが無い。官給を受けて生活する人間独特の堅さが含まれている。
 ニッ、と笑ったギュスターヴは男に言った。
「さっきも言ったが、俺達はアルビオン王党軍に用がある。船の責任者に会わせてくれ」



 アルビオン軍人であると名乗った男の拘束を解くと、男の先導に依って部屋を脱出した三人は
一つの部屋の前で暫く待たされ、暫くしてその部屋に招かれた。
 そこにはあの派手な格好の空賊頭がいたが、鬘と付け髭、そして眼帯を外した姿である。
 その姿は王族らしい気品と、若者らしい瑞々しさをもった青年が座っていた。
「ようこそお客人。先だっては無礼な振る舞いをしたことをここでわびよう。私はアルビオン
空軍司令、ウェールズ・テューダーだ」
 威風堂々としたたたずまいでウェールズと名乗る男は三人を出迎えた。
 二人より一歩前に出てルイズは恭しく頭を下げた。
「トリステインはアンリエッタ王女殿下より、ウェールズ王太子へ密書を託ってまいりました」
「ふむ。…すまないが、それらを証明する事はできるかね?つまり、君達がアンリエッタの使者であることを」
 そう聞くと、ルイズは懐から託された指輪を出した。
「これを見せればよいかと」
「!…それはトリステイン王家秘宝『水のルビー』に間違いない。…なるほどアンリエッタの使者らしいことは認めよう」
 含むように笑うウェールズに、困惑する声でルイズが聞いた。
「あ、あの」
「なにかな大使殿」
「本当にウェールズ王太子なのでしょうか」
「ふむ…。これで十分かな」
 言うとウェールズは引き出しから水のルビーに良く似た作りの指輪を取り出して、指にはめて見せた。
「これはアルビオン王家に伝わる『風のルビー』だ。始祖から続く四国に相伝わる秘宝のなかで、トリステインの
『水のルビー』と対になるとされる」
 二つの指輪の間には魔法の作用なのか、朧気な虹が浮かぶ。
「大変失礼をばしました」
「いやいや、立派な心がけだ。では密書を」
 ルイズが懐に大事に抱えていた手紙をウェールズへ渡す。
 ウェールズはそれを開き、静かに読んだ。一度は素早く。そして二度読むと、風のルビーとともに
机の中へとしまいこんだ。
「…そうか。アンリエッタは結婚するのだね。僕の可愛い…従妹は」
 穏やかに微笑んで話すウェールズ。しかしの顔にはわずかに影が差しているように、ルイズは思えた。
「残念だがこの場には所望の手紙は持ってきていない。このまま我々の本陣までご同行願おう」
 片目を瞑って笑うウェールズ。それは年相応の茶目っ気が滲んでいる。
「少々、面倒だがね」



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