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毒の爪の使い魔-02


「…う…うう……」
苦しげな声を上げながら、彼は目を覚ました。上体を起こすと身体に痛みが走る。
まだ霞む両目を手の甲で擦り、ボーっとする頭を必死に働かせ周囲を見回す。
そこはありふれた感じの…多少豪華だが、至って普通の部屋だった。
一つある窓からは明るい日差しが差し込んで――日差し!?
彼の意識が急速に覚醒していく。何せ、彼が最後に居た所は月……こんな日差しを経験する事などは不可能だからだ。
そして、彼がもう一つ気になった事がある。それは…
「何で……俺は生きてるんだ…?」
彼は意識を失う直前、敵対する少年との勝負に敗れた。
命乞いの後に奇襲を掛けたが失敗、少年の持つ親の形見のハンドライフルに右胸を打ち抜かれ、クレバスへと落下した。
あの状況で助かる可能性は万に一つも無かったはずだ。
誰が自分を助けた…?どうやって…?何の目的で…?
悩んでも答えが出るはずも無く、取り敢えず彼は現状の把握に努める事にした。
「ここは…地球なのか?」
耳を澄ませば鳥のさえずりまで聞こえてくる…まず間違いない。
次に彼は自分の体を見た。帽子やコートは脱がされており、イスの背もたれに纏めて掛けてあった。
そして、体には包帯が巻かれている。
まだ右胸に痛みが走るが、治療の仕方が良かったのか”ある程度はマシ”なレベルにはなっている。
と、何となく見た左手の甲に見慣れない文字のような物があった。
「なんだぁ…?」
刺青のようだが、そうではなさそうだ。――誰がこんな物を?
その時、扉が音を立てて開き、彼は弾かれる様にそちらへと向き直った。

「あ、良かった…気が付かれたんですね?三日三晩も眠り続けていたので、心配だったんです」
入って来たのはメイド姿の少女だった。
手には銀色のトレイを持っており、湯気を立てるシチューの盛られた皿と水の入ったコップが乗っている。
少女はトレイをテーブルに置き、彼に向かって微笑んだ。
「…誰だ、お前?」
「あ、申し送れました。私はここ、トリステイン魔法学院で給仕をさせてもらっておりますシエスタと申します」
「トリステイン?」
聞かない名に怪訝な表情を浮かべる。ボルクにもジャグケトルにも、そんな名前の場所は無いはずだ。
まあ、それは兎も角として――
「なぁ…聞きたいんだがよ…」
「はい?」
「俺は……何だってこんな所に居る。…月のクレバスに落ちたはずなんだがよ?」
まずはこれを聞きたかった。
気を失うまでの出来事が紛れもない事実である事は身体の傷が物語っている。
ならば”どうやって助かった”のか?彼はその事をシエスタに尋ねた。
すると彼女は驚きの表情を浮かべ…
「月ノクレバス…?え、貴方は月から召喚されたんですか?」
召喚――また聞きなれない単語が出てきた…。
いや、少女の言い方から言葉の意味はある程度理解できた。(彼の悪友に一人そういう事を簡単にやってのけていた奴がいたからではあるが…)
つまり、自分は地球の何処かにいた”誰かさん”に呼び出されたおかげで、一命を取り留めたという事なのだろうか?
彼は溜息混じりに呟く。
「――だとしたら……余計な事をしたもんだな…」
「はい?」
「何でもねぇ…こっちの話だ…」
彼はそう言い、ベッドから降りようと身体を動かす。途端、右胸に酷い痛みが走った。
呻き声を上げて右胸を抑えた彼の身体をシエスタが慌てて支える。
「あ、だめです無理をなされては…。まだ、怪我は治りきっていないんですよ?」
「チッ…」
彼は苦々しい表情で舌打をする。と、良い匂いが彼の鼻孔をくすぐった。
それがシエスタの持ってきたシチューの匂いだと気付いた途端、彼の腹の虫がそれを求めて鳴き声を上げた。
彼女は優しく微笑むとトレイからシチューの皿と木のスプーンを手に取る。
シチューをスプーンで掬い、息を掛けて冷まして彼の口元へと差し出す。
「…自分で食えるんだがよ…?」
「まだ無理はなさらないでください。…それに、こういう事をするのが私の仕事ですし」
「はぁ…」
小さく溜息を吐き、彼は意を決してシチューを口にした。

「…ごちそうさん」
「ふふ、お口に合ったようでよかったです」
空になった皿をトレイに戻し、今度は水の入ったコップを差し出す。
彼はそれに口を付けて水を飲む。水が無くなり、シエスタは空になったコップをトレイに戻す。
「三日三晩か…。世話んなったな、お前にもよ…?」
彼は礼をシエスタに言う。しかし、彼女は首を振る。
「いえ…私はただ食事を持ってきただけでして、貴方の看病をなさっていたのは、あちらのミス・ヴァリエールです」
「あん…?」
彼女が顔を向けた方を見る。
最初は気付かなかったが鏡台にうつ伏せになるようにして、マントを羽織った一人の桃色髪の少女が眠っている。
可愛らしい寝息を立てながら、幸せそうな寝顔を晒すその姿は実に愛らしい。
「ッ!?」
そんな彼女の寝顔が一瞬、別の少女がダブって見えた。

――頭痛がする

――息が荒くなる

――苛立ちが込み上げる

彼は慌てて頭を振る。
そしてもう一度少女を見た。この少女が自分を看病していたのか?
「はんっ…お節介好きな奴だな…」
「使い魔の面倒を見るのはメイジの役目だと…ミス・ヴァリエールは仰られておりましたから」
「…ちょっとまて?」
「はい?」
「使い魔ってのは…何だ?」
「ああ…それはですね――」
「うう、ん…?」
シエスタが彼に説明をしようとした時、別の誰かの声が聞こえてきた。…と、言っても一人しかいない訳だが…
「う~~~ん!よく寝た…」
目を覚ました少女=ルイズは大きく伸びをする。
そんな彼女にシエスタは声を掛けた。
「おはようございます、ミス・ヴァリエール」
「ん…?あ、シエスタおはよ――って!?あーーーーーーっっっ!!?」
シエスタに返事をしようとしたルイズは起き上がっている彼=使い魔を見るや大声を上げた。
彼の傍へと歩み寄ると、威圧感たっぷりの目で睨み付ける。
「……なんだ?」
「『なんだ?』――じゃないわよ!この馬鹿猫ぉぉぉぉぉ!!!」
耳元で叫ばれ、彼はキーンと鳴る耳を手で押さえる。
「うるせぇ…、いきなり怒鳴るんじゃねぇよ?」
「あんたねぇ…いったいどれだけ眠りこけてたと思うの?三日よ、三日!!召喚されてから三日間も眠りこけて、
主人の手を煩わせる使い魔なんて聞いた事ないわよ!?」
「…おい?今こいつからも聞こうとしてたんだが……その”使い魔”ってのは何だ?」
「あっ…そう言えばあんたは召喚した時から気絶していたから、知らないわよね?」
ルイズは彼に使い魔としての役目(と、三日三晩の苦労の愚痴)を聞かせた。
話し終えると、ルイズは再度彼を睨み付けた。
「どう?これで貴方が如何にご主人様である私に迷惑掛けたか解ったでしょう!?」
「全然」
「はぁ~…」
ルイズは深い溜息を吐いた。
「最初は当たりだと思ったのに…こんな怠け者で、バカっぽそうな奴だったなんて……最悪」
大きく項垂れる。無理もない、亜人を召喚してようやく魔法を上手く使えたと喜んだ矢先、
呼んだ使い魔が死に掛けで…三日三晩、面倒を見る羽目になったのだから…。
もっとも…一方的に捲し立てられた挙句、侮辱された彼にしてみればえらい迷惑ではあったのだが…。
「…勝手に呼び出しといて、随分な言い草だな…?」
「う、うるさいわね!私だってあんたみたいな馬鹿猫、好きで呼び出したりしないわよ!?」
「まぁ、それは兎も角としてだ…」
彼は話題を変えるべく、一旦言葉を切った。
そして、ルイズとシエスタの顔を順見比べる。
「なによ?」
「いや…、お前等が至って普通なんでな…」
「どういう事?」
「解んねぇかよ…?月の基地から発せられた”悪夢の電波”でこの星の連中は全員、悪夢の眠りについてたんだぜ?
それがこうして普通に起きて、普通に話しているんだ……気になるのも当然だろう?奴の演説も流れただろうが…。
まぁ…あのガキ共が何とかしちまったんだろうがな…」
彼が最後に記憶していた状況では、計画の中心人物が星中に演説を大々的に流し、悪夢の電波による光の靄は星の大半を覆っていた。
ここがどこかは未だに解らないが、無事で済んでいたとは考え辛い。そうであったとしても、例の演説は知ってるはずだ。
――しかし、返ってきた答えは彼の予想に反した物だった。
「悪夢の電波?月の基地?…あんた、何言ってるの?」
……一瞬、彼は少女の言葉が理解できなかった。
――知らないだと?あの事を全て?
「おい、何の冗談だ?」
「それはこっちの台詞。月って…あんた”あの”月から来たって言うんじゃないでしょうね?」
「…ああ、そうだぜ?俺は月で死に掛けてた所をお前に呼ばれたんだよ」
ルイズはあからさまに呆れた表情で溜息を吐いた。
「…怪我の所為で頭が混乱してるみたいね…。はぁ~、折角高価な薬も使ったってのに…最悪」
「オイッ!?お前……何か物凄い俺を侮辱した考えを抱いてねぇか!?月から来た事も端から信じてねぇって顔しやがって!」
「あたりまえでしょ!?だって月よ、月?あんな所に何かが住んでるわけないでしょうが!?」
「月面人は居たがな…。俺はここの出身だ」
「尚更嘘ね」
「なんでだよ!?」
「月までどうやっていくのよ?魔法を使ったって、無理な事よ」
「ボルクの軍が造った月ロケットを使って行ったんだよ」
「ボルクって何?月ロケットって何?」
「んな事も知らねぇのか?…お前、どこの田舎のガキ――だっ!?」
頭に衝撃が走る。ルイズが拳を叩き付けたのだ。
「つつ…テメェ、何しやがる!?」
「ご主人様に向かってガキって何よ、ガキって!?アンタこそ、ある事ない事空想してるだけじゃないの?」
「……」
彼は考えた…。目の前の少女はあの事件を知らない、それどころか…ボルクや月ロケットの事も知らないと言っている。
ドが付く田舎で過ごしているような奴だったとしても、余りに情報に疎すぎる。
…それに、目の前の少女が嘘を吐いている様にも見えない。自分がそれを得意としているだけによく解る。
――ふと、彼の頭にとんでもなく”馬鹿げた考え”が浮かんだ。
そんな事あり得るのか?と思ったが、自分が追い求めていた力の事などを考えると、否定しきれないのも事実だ。
半信半疑――彼は少女に向かって尋ねた。

「なぁ……ここは地球だよな?」

「チキュウ…?何処の地名…それ?」

――その言葉は彼の”馬鹿げた考え”=”異世界への転移”を決定付ける物となった――


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