「な、なんなの一体!?」
雨音のみが響いていた船内に突如鳴り響いた隊員の叫びと
爆発音にルイズ達に緊張が走る。
爆発音にルイズ達に緊張が走る。
「エレオノール様!」
ドアを開け放ち一人の隊員が興奮した面持ちで叫んだ。
「見つけたのね?」
「ええ、貨物室です。二人殺られましたが一人が時間を稼いでいます。お急ぎを!」
「ええ、貨物室です。二人殺られましたが一人が時間を稼いでいます。お急ぎを!」
隊員の報告を聞くとエレオノールはテファニアの方を振り向く。
「行くわよ。覚悟は出来てるわね?」
「はい……」
「はい……」
テファニアは頷くとエレオノールの方へと歩み寄る。
その表情は依然、不安に覆われたままだ。
その表情は依然、不安に覆われたままだ。
「待って姉さま!私も……」
部屋を出ようとする一行にルイズが駆け寄った。
しかし、
しかし、
「あなたはここに残りなさい」
エレオノールは厳しい口調で言い放った。
「でも、でも!あいつは私が召還した……」
ルイズが尚も食い下がろうとした時、乾いた音が室内に鳴り響いた。
エレオノールの平手打ちがルイズの頬を叩いたのだ。
エレオノールの平手打ちがルイズの頬を叩いたのだ。
「あなたが来ても何の役にも立たないのよ!」
突然の平手打ちにルイズは半ば呆然とした表情を浮かべた。
「……おとなしくここで待っていなさい」
呆然と立ち尽くすルイズを一瞥するとエレオノール達は部屋を出て行った。
テファニアはルイズを憐れむような眼で見ながらも、一同の後に続いていった。
テファニアはルイズを憐れむような眼で見ながらも、一同の後に続いていった。
部屋に待機していた隊員も全員エレオノールの後へと続き
部屋に残されたのはルイズと子供達だけとなった。
部屋に残されたのはルイズと子供達だけとなった。
ルイズの小さな手が赤く腫れた頬を触る。自然と涙が流れた。
肉体的な痛みからでは無い。
肉体的な痛みからでは無い。
―自分は何も出来ないのか―
その情けなさが彼女に涙を流させたのだった。
エレオノール一行は貨物室へと急いでいた。
隊員たちは取り囲むようにテファニアの周りを固めている。
テファニアは自分よりも頭一つ以上はありそうな屈強な隊員たちに
囲まれながら必死に走っていた。胸にはあの琴を抱えながら。
隊員たちは取り囲むようにテファニアの周りを固めている。
テファニアは自分よりも頭一つ以上はありそうな屈強な隊員たちに
囲まれながら必死に走っていた。胸にはあの琴を抱えながら。
「本当にアイツは貨物室に居るのね!?」
先頭を走る隊員にエレオノールが問いかける。
「ええ。あいつは殺したやつの血を被りました。だから姿も……グッ!?」
不意に隊員の体が宙に浮かんだ。思いもよらぬ急停止を強いられテファニアは前方の隊員の背にぶつかってしまった。
エレオノールは突如浮かび上がった隊員の頭部を見て驚愕した。何と天井を貫き隊員の頭を血塗れの手が掴んでいるのだ。
エレオノールは突如浮かび上がった隊員の頭部を見て驚愕した。何と天井を貫き隊員の頭を血塗れの手が掴んでいるのだ。
血塗れの手は空中でもがく隊員を力ずくで上へと引っ張り上げ、隊員の体は天井にめり込むように引き上げられた。
木製の天井がバキバキと派手な音を立て砕ける。
木製の天井がバキバキと派手な音を立て砕ける。
「グワァァアッッ!!」
間髪入れずに刃物で肉と骨を絶つ鈍い音とともに、天井裏からつんざくような悲鳴が轟く。
同時に天井にめり込んだ隊員から血が大量に滴り落ちた。
同時に天井にめり込んだ隊員から血が大量に滴り落ちた。
「ちくしょう、バケモノが!!」
隊員の一人が天井に向かいエア・ニードルを打ち込んでいく。
打ち込むたびに天井にニードルと同じ大きさの風穴が開いていった。
それから逃れるように天井裏から足音が響く。
打ち込むたびに天井にニードルと同じ大きさの風穴が開いていった。
それから逃れるように天井裏から足音が響く。
「逃がすか!」
足音を隊員が追いかけて行ったその時、爆発音とともに一瞬薄暗い通路が青白い光に包まれた。
眩しさに一瞬眼を瞑った残りの一同が眼を開ける。そこには天井と床とに大穴が開いていた。
眩しさに一瞬眼を瞑った残りの一同が眼を開ける。そこには天井と床とに大穴が開いていた。
息を呑む一行の前には吹き飛ばされた腕が落ちていた。足音を追った隊員の物だ。
天井に空いた穴から重い着地音を響かせ大穴を開けた張本人が降り立った。
天井に空いた穴から重い着地音を響かせ大穴を開けた張本人が降り立った。
透明な全身に返り血を纏ったその異様な姿にテファニアの顔から見る見る血の気が引いていく。
そしてエレオノールは亜人のある一点を凝視していた。亜人の肩部に装着された『破壊の銃』を。
そしてエレオノールは亜人のある一点を凝視していた。亜人の肩部に装着された『破壊の銃』を。
爆発音はルイズたちの部屋にも響いた。子供たちが眼を瞑り身を震わせる。
皆今にも泣き出してしまいそうだ。
皆今にも泣き出してしまいそうだ。
「始まったな」
ルイズの後方、テーブルからの声にルイズは振り向いた。
あのインテリジェンスソードだ。
あのインテリジェンスソードだ。
「あの姉ちゃんからぶんどった銃がねえから妙に思ってたんだが、相棒が隠し持ってたか」
「フーケから『破壊の銃』を奪ったのはやっぱりあんた達だったのね……」
「そういやそんな名前名乗ってたなあの姉ちゃん」
「フーケから『破壊の銃』を奪ったのはやっぱりあんた達だったのね……」
「そういやそんな名前名乗ってたなあの姉ちゃん」
ルイズの言葉に剣は飄々とした口調で答える。
「悪いけど多分、勝ち目はねーぞ。相棒はトライアングルクラス数人じゃあ取れるタマじゃねえ」
剣の言葉にルイズは考え込んだ。あの亜人の強さは自分自身で目にしてきた。確かにあの銃もっているとなれば現在の戦力で到底勝てる相手では無い。
ルイズはしばしの沈黙の後、急に意志を固めたように顔を上げるとテーブルの上に手を伸ばした。
ルイズが手にした物、それはグリップの両端に半楕円形の物体が取り付けられた装置だった。半楕円形の物体には鋭い槍の穂先のような物が装着されているのが見える。
ルイズが手にした物、それはグリップの両端に半楕円形の物体が取り付けられた装置だった。半楕円形の物体には鋭い槍の穂先のような物が装着されているのが見える。
「おいおい、オメーさん。馬鹿なことはやめとけって。大体使い方が分かるのかそんなモン」
剣がなだめるようにルイズに言う。
「あいつの持ってる武器なら、あいつにだって効くはずだわ!」
ルイズはそう言うと部屋を飛び出して行った。子供たちはそんなルイズを呆然と見送った。
「はあ、どうなんのかね全く」
剣はテーブルの上でヤレヤレとばかりに呟いた。
亜人が両手を広げ咆哮を上げる。
同時に隊員たちも杖を構え、エレオノールはテファニアの方を向いた。
同時に隊員たちも杖を構え、エレオノールはテファニアの方を向いた。
「やりなさい、早く!」
その言葉にテファニアの細い指が琴にかかる。
しかしあまりの恐怖にからか、指が震え上手くいかない。
しかしあまりの恐怖にからか、指が震え上手くいかない。
「何をしてるの!?」
「す、すいません!」
「す、すいません!」
その時だった。彼女らの真横を青白い光弾が横切った。
彼女らが振り向く。その先には光弾で上半身を吹き飛ばされた隊員が下半身だけでそこに立っていた。
彼女らが振り向く。その先には光弾で上半身を吹き飛ばされた隊員が下半身だけでそこに立っていた。
「ああ、ああ……」
テファニアの手から琴が滑り落ちた。
残りの隊員とエレオノールにも死相が浮かぶ。
残りの隊員とエレオノールにも死相が浮かぶ。
亜人がゆっくりと一同に歩み寄ろうとしたその時、亜人の後方で物音がした。
小さな足音が。
小さな足音が。
亜人が振り向き、エレオノールたちもその先を凝視した。
「ルイズ!?」
自身の妹の姿を確認し、エレオノールが驚嘆の声を上げる。
「何をしてるの!逃げなさい早く!」
「私だって、私だって戦える!」
「私だって、私だって戦える!」
エレオノールの言葉にルイズが言い返す。
その時、亜人の眼はある一つの物を凝視していた。
ルイズの手に持たれた物体。自身の装備していた武器を。
ルイズの手に持たれた物体。自身の装備していた武器を。
亜人が肩を震わせると一気にルイズへと駆け出した。
「ルイズ!」
「ヒッ!?」
「ヒッ!?」
エレオノールが再び叫ぶ。迫り来る亜人にルイズが反射的に手に持った装置を振った。
その時、ドンッ、という弾けるような音が響いた。それと同時にルイズの手にした装置から、一本の穂先が猛スピードで発射された。
その時、ドンッ、という弾けるような音が響いた。それと同時にルイズの手にした装置から、一本の穂先が猛スピードで発射された。
穂先は迫り来ていた亜人の腹部に命中するとその巨体を浮かび上がらせ、後方へと吹き飛ばした。
亜人の体は凄まじい勢いでエレオノールたちをも通りすぎ、通路の先、あの貨物室まで飛んでいった。
亜人の体は凄まじい勢いでエレオノールたちをも通りすぎ、通路の先、あの貨物室まで飛んでいった。
エレオノールやテファニアが呆然と亜人の飛んで行った先を見つめる。
ルイズ自身、起きた結果に呆然としていた。装置を振った瞬間に何らかのスイッチを押してしまったのか、
あるいは暴発的な物だったのか、それは分からない。
あるいは暴発的な物だったのか、それは分からない。
亜人の腹部からの返り血が全身にかかり、一部は口に入ったがそれすらにも気がつかなかった。