あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔-18


 夕日が差し込む練兵場跡地。
 タバサとギュスターヴの二人だけがその場所にいた。タバサはレイピアを抜いて構えから素振りを繰り返し、ギュスターヴはそれを見守っている。
初めは剣を持ち歩くのすらたどたどしいものだったタバサだが、熱心な修練によりやっと剣の稽古らしい稽古が出来るようになった。といっても形にはなっているものの、
体躯とのバランスで剣の振り終わりに体がぐらつく。タバサの体とのバランスで見るとどうしても今のレイピアは長すぎるのだった。
懐紙で短剣を拭きながらギュスターヴがタバサを止めた。
「出先だから軽くでいいぞ。教えておきたい事があるから」
「何?」
 剣を振るのをやめたタバサの声に、期待がわずかに滲んでいる。
「そんな期待することじゃないぞ。……そうだな、今から教えるのは『技』じゃない。戦闘中、特に一対一でなければ使えない。そんな限定的なものだ」
 言うとギュスターヴはタバサの前に立って短剣を緩く構えた。
「打ち込んでみろ。好きなように」
 言われたタバサも剣を構える。ギュスターヴはタバサが打ち込みやすいように剣を少し下げると、タバサが大きく振りかぶって切り込んでくる。
ギュスターヴはそれをよく見てから、半歩踏み込む。そして短剣を振った。
短剣とレイピアが交差する。レイピアの切っ先がギュスターヴの胸元をわずかにかすめ、タバサのわき腹にギュスターヴは短剣の腹を優しく押し当てた。
「!!」
 直後、切り込んだはずのタバサの体が後方へ大きく吹き飛んだ。
3.4メイル程は弾かれたタバサの体がとさりと地面に落ちる。
「っと、…すまん。怪我はないか?」
「いい…大丈夫」
 腰から落ちたタバサはすぐに立ち上がった。軽くしりもちをついただけで怪我らしい怪我はない。
「今のは?」
「うん。相手と自分の攻撃が極めて近いタイミングで重なる時、相手の攻撃を受けつつもさらに踏み込んで自分の攻撃を倍加させて相手に与える。一種の
カウンター効果だな」
 言われてタバサは短剣を当てられたわき腹を撫でさすった。軽く押し当てただけで体が飛んだのだ。全力で振り切っていたらタバサなど木の葉を切るように
真っ二つになっていたかもしれない。
「今のを『相抜け』という。利点は相手の出方が判ればこちらから意図的に『相抜け』による攻撃が可能な事。欠点は出方が判らなければ使えないし、
多人数が相手じゃこんなことをしている余裕はないだろう」
「使えない?」
「かもな」
 指摘されてギュスターヴがばつ悪そうに頭をかく。
「でも覚えておいて損はないだろう。剣以外でも同じ効果が狙える」
「魔法でも?」
「多分な」
 そう言って植え込みの下までギュスターヴが下がり、短剣を収めた。
「じゃ、今のを覚えつつ各構えから素振りを100本」
「わかった」
 タバサは脳内で今のやり取りを反芻しながら、黙々と剣を振るのだった。



『襲来!土くれのフーケ』



「まぁーったく。主人ほったらかしてなーにやってるんだか……」
宿つきのバーでかっぱかっぱと水割りワインを飲んで管巻いているのは勿論ルイズである。ワルドは今日朝早くから何処かへ出かけ、タバサはギュスターヴとともに
練兵場で稽古をしている。仕方無しに酒場で酒でも飲みながらぼんやりと過していた。
「あら。婚約者の前で照れ照れしてたくせにそういうことを言うのね」
「ワルドは関係ないでしょ!」
 近くのテーブルで花の砂糖漬けを舐めていたキュルケの言葉を砕くようにどん!と手のジョッキを叩きつける。
「関係ないと、本当にそう思ってるの?」
「当然じゃない。ギュスターヴと私は使い魔と主人よ。使い魔なら主人の機嫌くらいとって見せるべきだわ」
「…ルイズ。貴女って前から馬鹿だと思ってたけど、相当あの髭の殿方にほだされてるみたいね」
「何ですって!」
 コーティングの溶けた花びらをパクリ、と口に入れたキュルケ。
「ギュスは貴女が思ってるより考えが深くてよ。使い魔だからとか、そういう目で見てると、失望されるわよきっと。…それって、貴女にとっても
あまりよろしくないんじゃないかしら」
「ツ、ツ、ツェルプストーの分際でぇ、わ、わ、私に意見しようってぇ言うの?!」
 酒気も帯びているせいか微妙に舌の回らないルイズを見て、キュルケは緩く息を吐いて席を立つ。
「逃げるつもり?」
「今の貴女じゃ相手しても詰まらないから。ちょっと出かけてくるわ」
 そしてそのままキュルケは宿を出て町へと出かけてしまった。
ルイズは空のジョッキをバーテンに渡して突っ伏す。
「……それくらい、わかってるわよぉ。バカァ……」

ルイズは、ゼロのままでも必要としてくれているワルドに甘えていたのだ。それはとても甘美で、苦力して疲れているルイズには抗いがたかった。
同時に自分を見捨てずに見守ってくれてきたギュスターヴに対して、裏切りのような暗い気持ちを抱きつつある事も。
「どうしろって、いうのよ……」



夜。
 ルイズは部屋でひとりぼんやりと外を眺めていた。月が一昨日よりも重なってなお、明るい。
「どうして、今頃ワルドに会ってしまったんだろう…」
「ワルドがどうかしたのか?」
 振り返ると、ギュスターヴがバスケット片手に部屋に入ってきていた。
 テーブルにバスケットを置く。
「何しに来たのよ」
「何しにって…そうだな。ここしばらく相手して差し上げなかった主人の機嫌をとりに、かな」
「馬鹿にしないでよ。私が淋しがっているように見えた?残念でした。私には愛しいワルドという人が居て、彼は私を必要としてくれているのよ。使いでのない
中年使い魔なんて、置く場所が無いんだから…」
 まくし立ててから、ルイズは一層に暗い気持ちを自分に打ち付けてしまった。なんて意地汚い娘なんだ、自分は、と。
 そんなルイズを悟ったのかどうか判らないが、ギュスターヴは困ったように少し笑った。
「…それは要らぬ節介だったな。……そうか。ワルドはルイズを必要だといっているのか」
「…ええ」
 バスケットからワインボトルを取り出し、二つのグラスのうち一方に注ぐ。
「…何故だろうな」
「え?」
 持ったグラスを揺らしながら話すギュスターヴ。グラスに残る涙を通してルイズを見ているように。
「男と女なら、好いた惚れたは上等。貴族子女の結婚なら、それが無い場合もある。ないならないで、それは割りとはっきりと見せるものだ。よほどがなければな」
「…何が言いたいのよ」
 ギュスターヴは空のままのグラスをルイズに渡した。
「…ワルドはルイズが好きだといってくれたのか?」

「えっ?……そ、そうよ」
 ルイズは自信がなかった。ワルドと再会してこの旅の途中、幾度と言葉は交わしたけれど、好きだと言われたわけではない。ただそれらしい言葉を
返してくれただけだからだ。
「…そうか。なら、いいじゃないか。婚約者なら、いずれ結婚するんだろう?」
「多分ね…」
「その時は、俺が祝福するよ。花嫁の使い魔らしくな」
 そう言われた時、ルイズの心は淋しくなった。冷たい風が吹き込むように悲しい、冷めた気持ちが広がっていく。
 これは、何…?


 それが深くて涙が出そうになる瞬間、ふと窓から入っていた月明かりが陰った。
「…何?」
 窓を覗いたルイズの視界に、巨大な、巨大な人影が写る。縮尺が可笑しいかのように見えるごつごつとした人影。それは宿の正面からどすどすと地響きを立てて
向かってくる岩のゴーレムだ。その足元にはお世辞にも綺麗といえない格好の男立ちが率いられている。
ゴーレムの肩には、仁王立ちでこちらを見据える女性がいた。その視線がルイズと交わる。
「まさか……『土くれのフーケ』?!」



宿を目指して足元にたむろする傭兵を従えて進むゴーレム。
 その肩に当たる部分にはまさしく土くれのフーケが立っていた。その手に杖は、ない。
「あそこを襲えばいいんだろう?」
「そうだ。できるだけ騒げ」
 答えるのは『フライ』でフーケの隣を浮遊している仮面の男だ。
彼は昨日、フーケに雇わせた傭兵の残りを率いて『女神の杵』亭を襲うことを決めたのだった。
「あまり荒事は好きじゃないんだけど、この足の分は働く約束だしね。それに…」
「なんだ?」
「あの貴族の小娘どものせいで、こんなはめになったんだ。お礼参りくらいはさせてもらっても罰はあたらないさ」
「ふん。好きにしろ」



急いで階下のバーに下りたギュスターヴとルイズだが、一階には既に矢玉が飛び込んで大騒ぎになっていた。
 傭兵達が打ち込む矢をかわすためにテーブルを倒して盾にし、矢のお返しとばかりに魔法を放っているワルド、キュルケ、タバサ。
他の客も中には同じように応戦をしているメイジもいたが、多くはテーブルの影にうずくまって震えている。バーテンもカウンターの下に引っ込んでいた。
「ルイズ、ギュス!」
「皆無事みたいね」
 身を低くしてテーブルの裏に集まった。
「この前の夜盗の残りかしら」
「さぁな。しかし率いているのはフーケだ」
「フーケ?!牢獄に居るはずじゃないの」
「誰かが逃がしたらしいな。となると、狙いは俺達だろう」
「諸君、ここは二手に分かれた方がいいだろう」
 ワルドが羽帽子を押さえながら答える。
「僕らは急ぎアルビオンに向かわなきゃいけない。ここで囮になるものが必要だ」
「じゃ、私達がやらせてもらおうかしら、ね。タバサ」
 頷くタバサ。
「キュルケ。あんた…」
「誤解しちゃ駄目よルイズ。ここらであのうるさい年増とも決着をつけたいだけよ。『破壊の杖』の時は、ギュスが相手してくれたしね。だからさっさと
アルビオンでやることやって、帰ってきなさい」
「わ、わかったわよ…」
 ワルド、ルイズ、ギュスターヴの三人は、その場にキュルケとタバサを残し、バーから裏手の厨房へ抜け、厨房の裏口から外へと脱出した。
 月明かりの中、先頭を切るワルドを追うように走るルイズとギュスターヴ。
 振り向けば、『女神の杵』亭から煙と爆発音が沸きあがった。
「始まったみたいね…」
「急ぐぞ、ルイズ」
 ギュスターヴの声で、ルイズは前を向いて走った。



無事に脱出できたらしい三人を見送ったキュルケとタバサは、再び矢玉が飛び込んでくる出入り口を見た。
「さて、どうしようかしら?タバサ」
「待ってて」
 言うとタバサは這ってテーブルの影を進み、カウンターの下でうずくまっていたバーテンに話しかけた。
「ここで一番強いお酒は何?」
「へ?!あ、あの。ご注文ですかい?」
「いいから持ってきて。今、必要だから」
 有無を言わさぬタバサにバーテンは半べそをかきながら地下の酒庫扉を開けて潜り、暫くしてなにやらラベルの剥げかけたタルを押して持ってきた。
「うちで一番強い、ブランデーの50年ものでさ。ゲルマニアの北方で飲まれるやつで、産地でも真冬じゃこれ一口で一晩暖かく過せる代物ですよ」
 商売人らしくこんな時でも商品説明をするバーテンを無視して、タバサはタルを持ってテーブルの影に戻った。
「これを使う」
「あら、ちょっと勿体無いわね」
 タバサが戻ってくるまで、なんとキュルケは化粧を直していた。
 持ち出されたタルの栓を開け、栓に染み付いた芳香に頬を緩めるキュルケ。
 タバサは栓の開いたままのタルを『レビテーション』でふわり、と浮かせた。
「それじゃ、無粋な盗賊と殿方たちに、一口おすそ分けねっ!」
 浮いたタルがボールを投げるように弧を描いて傭兵が詰め寄る出入り口に投げ込まれ、空かさず『エア・カッター』を繰り出して宙を舞うタルを切り裂いた。
箍が切れて中の酒をばら撒くタルに向かって、キュルケが『フレイム・ボール』をぶつけると、火のついた酒が炎の波となって傭兵達を飲み込んだ。
頭から炎を被った傭兵達は悲鳴を上げながら外へ飛び出していく。
「ふふふ。お口に合わなかったみたいね」
 出入り口や外へ向かって燃え広がった炎に照らされるキュルケ。火に炙られてその瞳が一層に潤いを湛えている。


 外はゴーレムの上で傭兵達をけしかけていたフーケだが、鋒鋩の体で傭兵が逃げてしまうと舌を鳴らして顔をゆがめた。
「けっ!所詮傭兵なんてこんなものか」
「俺は逃げた連中を追う」
「好きにしな」
 いうと仮面の男は『フライ』で飛び上がり、何処かへと消えてしまった。
 フーケが眼下の宿を睨むように見下ろす。
「さー…あの端正な顔をぐちゃぐちゃにしてやるよ!」
 フーケの一声でゴーレムが振り上げた足を宿屋の出入り口へ踏み下ろした。


キュルケとタバサの視界に出入り口を粉砕した巨大なゴーレムの足が広がっている。
「さて、次はあのおばさんをどうにかしなくちゃね」
 そう言っている間にもゴーレムの足が揺れ動いて宿屋を削るように壊していくのだ。
タバサは散乱するバーを見渡すと、捨て置かれた木の丸テーブルに手をかけて外に向かって転がした。
 タバサの目を見たキュルケは、転がっていくテーブルの影に入って店の外へ抜ける。
「逃げるんじゃないよ!」
 それを見逃すフーケではない。ゴーレムの拳が振り下ろされ様とした時、宿の脇から飛び出したシルフィードが視界を遮った。
「この、またこのドラゴンか!」
 きゅい、きゅいぃー!と鳴きながら、時たま拙いブレスを吐いてゴーレムの動きをけん制するシルフィード。
 ゴーレムの腕がシルフィードを捉えようと空を掻いていると、ヒュン、とフーケの足元を何かが掠めた。
 キュルケと同じく外へ脱出したタバサの『エア・カッター』である。
「ちぃ!」
 足元のタバサをゴーレムで踏み潰そうと足を上げた、その時。
「上がお留守よ、オバサマ?」
 キュルケが遥か上空から「落下しながら」フレイム・ボールでフーケを狙った。

キュルケはタバサとシルフィードがフーケの注意を引いている間、少し離れた場所から『フライ』で上空へと上がったのだ。
 通常『フライ』で昇れる高度は精々30メイルから50メイルの間である。それは上昇速度などの兼ね合いからであるが、今回キュルケは時間をかけて高度100メイルまで
『フライ』で上昇したのだ。
 上昇してから『フライ』をやめて『フレイム・ボール』の詠唱に切り替えると、当然地面へと落下してしまうが、地面に着くまでにわずかであるが時間が出来る。
その時間と落下による加速を利用した作戦だった。

 落下加速がついた大火球は寸分たがわず真上からフーケに命中し、足を上げていたゴーレムは糸が切れたように膝を落とした。
 すぐさまタバサの指笛でシルフィードが落下するキュルケを掬い取った。
「ふー、ありがとう、シルフィード」
 きゅいーと一鳴くシルフィード。そしてタバサの傍へと降り立つ。
「これでもう大丈夫よね、タバサ」
「多分」
「もう、心配性なんだか…ら…?」
 二人の目の前で徐々に形を崩すゴーレムだった岩の山。その頂で燃えている人型は、よろよろとよろめきながらも『立っている』
そしてよろめく火の玉は、一度腰を落とすと岩の上から跳び、身体を反転させて飛び込んできた。
「究極!サウスゴータキィィック!!」

 フーケの叫びとともに火の尾を引くフーケがとび蹴りを放って吶喊してきたのを、キュルケとタバサは『偶然』かわすことが出来た。
 地面に到達したフーケの蹴りは大地をがりがりと数メイルに渡って削り取り、やがて止まった。
体から煙を上げながらも両足で地面に降り立つフーケの顔は、荒ぶるドラゴンのように烈としている。
「い、生きてる?!」
「こんな事で私は死にはしないんだよ!」
 一足でキュルケの懐にフーケが飛び込んできた、そして繰り出された蹴りがキュルケの手元から杖を弾く。
「きゃ!」
「さっきはよくもやってくれたねぇ。お陰で大事な一張羅が台無しだ」
 怒りで顔をゆがめるフーケ。煤に塗れたローブを脱ぎ捨てると、胴着のようになっている衣服が現れる。その両手にも、懐の如何なる部分にも杖らしきものはない。
「貴方…杖を持っていない?」
「それがどうしたのさ?貴族のお嬢さん!」
 後ずさっていたキュルケに迫るフーケ。その中段蹴りがキュルケの鳩尾にめり込んだ。
「あぐっ!」
 しなやかなキュルケの腹部を蹴り抜いて。肉のメリメリという音が聞こえる。
蹴り飛ばされたキュルケは4.5メイルは吹き飛んで地面に落ちて、気を失った。

「さて、次はおまえだよ…」
 その殺意の篭る目でタバサを見るフーケ。
 タバサは杖を振って『エア・カッター』を繰り出す。
「無駄だよ!」
 言うとフーケの前に地面から壁がせり出して『エア・カッター』を弾いた。そして壁はまた地面へと沈んでいった。
「『岩壁』【ロック・ウォール】…魔法を使っている?」
「不思議かい?青いおちびさん…お前も蹴り殺してやるよ!」
 ダッシュして間合いをつめるフーケ。その上段蹴りがタバサの頭部を狙うが、とっさにタバサは杖の頭で側頭部に迫るフーケの足を受け止めた。
ピンと蹴り足を伸ばしたまま感心するフーケ。
「ほぅ…ちょっとは持ちこたえられそうだね。でも、まだまだだよ!」
 風を切るように素早く繰り出されるフーケの連続蹴りを杖で受け捌くタバサ。しかし体格差によって徐々に追い込まれる。そんな
タバサを見かねたシルフィードが低空で二人の間に割って入ろうと飛び掛っていく。
「邪魔するんじゃないよ!」
 また地面から今度は円錐状の岩が飛び出し、シルフィードの進路を塞ぐ。シルフィードは急上昇してそれをかわしたが、岩の先を柔らかなお腹を掠めた。
タバサがその隙に間合いを取って構える。
「『石槍』【グレイブ】…貴方はどこかに杖を持っている」
「それがわかったとして、どうするんだね」
 間合いが取られて対峙する二人。
タバサははっと何かに気付いたように目を開くと、背中から剣を抜いて、握る。
「おやおや…今度はその剣で勝負するつもりかい?」
 左に杖、右に剣を持ったタバサに、フーケがじりじりと間合いを詰めていく。

 徐々に距離を殺していたフーケに、タバサが杖を捨てて飛び掛った。
 フーケも水平に飛んで中段蹴りを放つ。
タバサはそれを見てからレイピアを横なぎに振るった。二人の攻撃点が重なる。剣先が滑る様に動いて、フーケの右脛に食い込んでいく。
「っ!!」
 タバサの鳩尾にフーケの足が食い込む。もとより軽いタバサの体が弾き飛んだ。
 しかしタバサの剣は振り切られている。その剣先はフーケの右足を両断し、足先をなくしたフーケは蹴りの着地が出来ず無様に倒れこんだ。
「あうっ!…足!足ぃ!私の足がぁっ…」
 フーケの切られた足からは、血の一滴も流れていなかった。
 倒れたフーケは残りの足と両腕で這うように動き、なくした片足を捜している。切り落とされた足先には魔法の杖に使われる木材の光沢が見受けられた。
土くれのフーケと呼ばれた女盗賊の両足はその実、巧妙に作られた魔法の義足に成り代わっていたのである。

「ちっ…今日の所は、この辺が潮時か…」
苦い顔をして拾った足を断面に『繋ぎ』、『フライ』で逃げるようにフーケが遁走した。
 上空で旋回していたシルフィードは降下してタバサの前に下りる。舌先で倒れたタバサの頬を舐めた。
「……シルフィード…?」
 か細いタバサの声にきゅい!と鳴く。
 タバサはよろよろと起き上がると剣と杖を拾い、遠く倒れているキュルケに駆け寄った。
 倒れたキュルケは動かない。タバサは険しい顔でキュルケの肩を揺すった。
「…キュルケ、キュルケ」
「……タバサ?」
 キュルケは腹部の痛みに顔を引きつらせながら目を覚まし、ゆっくりと身体を起こした。
「大丈夫?」
「馬鹿ね。貴女もボロボロじゃない…」
「私は平気……いつものことだから」
「そんなこと、言っちゃ駄目よ…」
小さなタバサに肩を借り、近くに落ちている杖を月明かりの中で拾う。
「とりあえず…囮にはなれたかしらね」
「多分」
 宿を襲った傭兵もフーケも退散し、何事かと周囲から人が集まっている。
「まず、宿に戻りましょ…頑張りなさい、ルイズ。それと」
 見捨ててあげないでね、ギュス。
 言葉を呑んでタバサとともに歩いていくキュルケだった。



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