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虚無と狼の牙-11


虚無と狼の牙 第十一話

 デルフリンガーの愚痴に付き合ったウルフウッドが宿に戻ると、ギーシュはまだ気持ちよさそうに眠っていた。
「ほんまに気楽な奴やの、お前は」
 あきれ返るように呟くと、ウルフウッドはベッドに腰を下ろした。
 出発は明日の朝。それまで時間はたっぷりとある。
「け、あのクソアホンダラ。ワイの一張羅が泥だらけやないけ」
 そうぼやくと、乱暴に身体をベッドに投げ出した。

 その日の夜、ウルフウッドたちは宿の一階の酒場にいた。
「あら、ダーリン、ルイズは?」
「知らん。お前らがてっきり呼びに行ってるもんやと思たんやけどな」
 ウルフウッドはギーシュと共に二階から降りてくる途中でキュルケに声を掛けられた。キュルケの横ではタバサがあいかわらず本を読んでいる。
「まぁ、別にいいわ。あつーい二人の時間を邪魔しちゃ悪いし」
「あのなぁ」
 ため息を付きながらウルフウッドはキュルケの隣に座った。
「あら、ダーリン、その手に持っているものは何? 私へのプレゼント?」
「ちゃう。暇つぶしに、そこらへんにあった木屑を彫って作ったんや」
 そう言ってウルフウッドは右手に持った木彫りの鳥をテーブルの上に置いた。
「見たことない鳥ね」
「そうか」
「うん」
 不思議そうに鳥を眺めるキュルケ。さっきまで本を読んでいたタバサも興味深そうに首を突っ込んできた。
 ワシの存在をしらない彼らを見て、ウルフウッドは改めて自分が異世界に来たことを感じ取る。
 ちなみにこれは刃物らしい扱いを要求したデルフリンガーで暇つぶしに彫ったものである。
「おいおい、そんな鳥の話なんかどうでもいいから、早く注文をしよう。僕は今日は何も食べていないからもうお腹ペコペコさ」
「お前は夕方までヨダレたらしながら寝とっただけやろが」
 ウルフウッドは軽くギーシュの頭をはたいた。

「かんぱーい!」
 楽しそうに酒をたしなむキュルケたちの隣で、ウルフウッドは椅子に深く身を預けてため息を付いていた。
「どうしたのダーリン? なんか元気ないわね」
「大丈夫や。別になんでもない。ただ、なんかちょっと変な気分がしてな」
「なに、私の魅力にやられちゃったわけ?」
「あほか」
 そう言って笑うウルフウッド。
――なんで、オレはこんなところでこいつらと酒なんか飲んでるんやろな。
 不思議な気分だった。この世界に来て、ルイズやキュルケたちと知り合って、こうしてみんなで酒を飲む。
昔だったら考えられなかったことだし、経験したこともなかった。不思議な心地よさが彼を包んだ。
「あら、ダーリン、もう部屋に戻るの?」
 不意に立ち上がったウルフウッドを不思議そうにキュルケは見つめる。
「あぁ。なんかな、こういうのは……慣れてへんねん、ワイ」
 キュルケはウルフウッドを引きとめようとした。しかし、彼の浮かべたどこか空虚な笑顔にその手は途中で止まった。


「調子狂うで、ホンマ」
 ベッドの上に寝転がって、ウルフウッドは天井を見つめていた。
 孤児院を出てから彼はずっと独りで生きてきた。いや、一人で生きようとしてきた。だれにも頼らず、誰も信じず、そして誰も巻き込まないために。
――変わってきているのだろうか、自分は。
 そう思った直後、ウルフウッドは上半身をはね起こした。窓から見える松明の光。辺りを包む気配。
――囲まれてもうたな。

「だからさぁ、そこで僕は言ってやったんだ!」
「はいはい」
 興味なさげに酔っ払ったギーシュの自慢話に相槌を打つキュルケ。彼女はウルフウッドが退出してしまったせいで退屈だったが、かといって部屋に戻ってもやることもないので、しかたなくまだ酒を飲んでいた。
「だから、聞いてる? キュルケぇ?」
 はいはい、うっとおしい酔っ払いだね、そう心の中で呟いたキュルケが酒のつまみを取ろうとしたとき、ガラスが砕けるような音がした。
「来る」
 タバサが本から目を離してそう呟いた時、破られた扉から彼らに向かって矢が降り注いできた。
 タバサはすばやく杖を取ると、呪文を唱えた。彼らの周りで風が起こり、矢が吹き飛ばされる。
 同じように食事を取っていた宿泊客たちから悲鳴が上がった。
 キュルケはすばやく辺りを見回すと、身を屈めた。
「やるじゃない、タバサ」
「だめ、囲まれている」
 肩を叩いたキュルケにタバサは冷静に事実を告げた。
「囲まれているって? まさか」
「私たちが狙われている」
 タバサは身を屈めた。ギーシュは一気に酔いのさめた顔になって「な、なんなんだ」と状況が飲み込めないままに身を縮めている。
「なんで、私たちが狙われるのよ」
「わからない」
「けど、どうやらメイジは相手にはいないようね。矢くらいだったら、あんたの魔法で簡単に防げるわ」
「……そうもいかない」
「え?」
「来る。次は投石」
「え、ええ! ちょ、そんなの防げない――」
 タバサの言葉とほぼ同時に今度は直径五十センチほどの大きさの石がドアと窓を破って彼女たちの元へと向かってきた。
 タバサは小さく唇を噛んだ。先ほどの矢とは根本的に質量が違う。今、風の魔法唱えてもこの石を防ぐには間に合わない。キュルケにしても同じだ。
炎では石を防げない。土のメイジであるギーシュが防壁でも作れればいいのだが、それも間に合わない。
――万事休す。
 タバサがそう観念したとき、ゴオンという巨大な音と共に、二階から巨大な木の丸テーブルが降って来た。その落ちた衝撃の振動に彼ら三人の身体が小さく宙に浮いた。
 それは彼らを守るように石と彼女たちの間に立ちはだかる。しかし、木のテーブルで投石を防げるはずもない。
テーブルは石があたるとグシャアと音を立てて、木屑を撒き散らしながら砕けた。
 そして、砕け散ったテーブルの影、そこにパニッシャーを盾のように構えたウルフウッドがいた。
「大丈夫か、じょうちゃんたち!」
 ウルフウッドは投石の方向を一睨みすると、タバサたちに声を掛けた。タバサは無言のまま頷く。ウルフウッドは三人が揃っているのを確認すると、
「ここじゃ的になるだけや! あそこのテーブルの影に飛び込め!」
 ウルフウッドの指示にすばやくテーブルの影に飛び込むタバサとキュルケ。その後ろにへっぴり腰のギーシュが続く。
 三人がテーブルの影に入ったのを確認したウルフウッドは、パニッシャーを担いだまま一足飛びに自分もその影に飛び込み、テーブルの足を折ってそれを盾にした。

「ウルフウッド! これはいったいどういうことなの?」
「知るか。とにかく、この様子やと昨日崖で襲われたんも、どうやら偶然というわけではなさそうやな」
 テーブルを背にしたままキュルケの質問に答えながら、ウルフウッドはテーブルの影から辺りを見回した。暗がりのせいで相手の数は大まかにしか把握できないが、数十人は間違いなくいる。
「戦い慣れとるな。傭兵か」
 ウルフウッドがそう呟いたとき、今度は矢の第二波が飛んできた。タバサが無言で杖を構える。しかし、その矢は彼女が呪文を唱える前に全て風に吹き飛ばされた。
 風の呪文――この場でその呪文を唱えるもう一人の人間は彼しかいない。
「大丈夫か?」
 見上げると二階からワルドが杖を構えたままウルフウッドたちを見下ろしている。ワルドの隣には驚いた顔でこの狂騒を見つめるルイズがいる。
 ワルドはルイズを抱えると、二階からウルフウッドたちの隣に飛び降りた。
「これはまさか、僕たちの行動がレコン・キスタにばれていたということか?」
「順当に考えるなら、そうなるな」
 周りの様子を窺いながら、ウルフウッドは相槌を打った。他の宿泊客たちは部屋の隅へ非難している。
そして、相手の攻撃は部屋の真ん中にあるテーブルに隠れた自分たちに集中していた。狙われているのは明らかだった。
 ワルドは声をひそめて言った。
「このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ、成功とされる」
「……何が言いたい」
 ウルフウッドが上目遣いにワルドを見据える。
「二手に分かれよう。一つはここで応戦、もう一つは桟橋へ向かう。それが確実だ」
「船は明日にならんと出えへんのちごたか?」
「そこは僕がなんとかするさ」
 そして、ワルドはウルフウッドたちを見回した。キュルケは興味なさげに髪をかきあげた。
「桟橋組は僕とルイズは決定だ。使い魔君、君はどうする?」
 そのワルドの言葉に不安そうにウルフウッドを見つめるギーシュ。ウルフウッドはギーシュをちらりと見ると、
「……このガキ共ほっとくわけにはいかんやろ。ワイはここに残る」
 目を閉じながら、そう静かに言い放った。
 その様子を見たルイズは不安そうな目で何かをウルフウッドに言おうとした。しかし、それをワルドが遮る。
「そうだな。その編成がもっとも戦力バランスが取れているだろう。ルイズは僕に任せておいてくれたまえ」
 ウルフウッドはふん、と鼻を鳴らすと
「そうと決まったらはよ行け。こんなところでちんたらしとるわけにはいかへんやろ」


「行ったな」
「行っちゃったわね」
「さてと、これで何の気兼ねもなく大暴れできるな」
 ワルドとルイズが出て行った裏口を眺めがならそう呟くと、ウルフウッドは服に付いた埃を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。
「おいこら、小僧。そろそろ酔いも醒めたやろ」
「え。あぁ、うん」
 ウルフウッドはまだ呆然としているギーシュの頬を軽くはたいた。口を開けたままウルフウッドを見上げるギーシュ。
「例のセンセから預かった荷物が俺らの部屋にある。お前はそれを取ってきてくれ。んで、大きいじょうちゃんとちっこいじょうちゃんには魔法で後方支援を頼むわ」
「で、ダーリンはどうするわけ?」
「囲まれたまま防戦しても埒が明かへんからな。ワイが突破口を開く」
 ウルフウッドは犬歯をむき出しにして笑った。
 そして、右手でパニッシャーのベルトの止め具を外した。小気味のよい金属音を立てて、ベルトの止め具が外れていく。パニッシャーを覆う白い布がひらりと落ちて、その姿が露になった。
ウルフウッドはパニッシャーを一瞥すると、ゴウンと風を切る音と共にパニッシャーを軽々と肩に担いだ。
「ほな、試し撃ちといこか」
 ウルフウッドは振り回すようにパニッシャーを右肩に載せ、銃口を先ほど矢の飛んできた入り口へと向けると、引き金を引いた。
 キュルケたちは何かが連続的にはじけるような大きな音を聞いた。そして、その直後――ウルフウッドが銃口を向けた先が弾け飛び、埃を舞い上げる。
一瞬にして、建物の形を変えてしまうほどの破壊力。その先からいくつもの悲鳴が聞こえた。
「ほな、行くで」
 ウルフウッドは硝煙の匂いのする空気の中立っていた。そして、パニッシャーを低く構えると入り口に向かって身を屈めたまま走り出す。
ハルケギニアの常識では理解不能な破壊力の前に、宿を取り囲んだ傭兵たちは混乱し一気にその統制を失っていた。
その混乱する集団の中へ、まるで牙のようにウルフウッドが食い込んでいく。
「ひ、ひい!」
「な、なんだ! 撃たれた? 何に? 銃?」
 悲鳴を上げる傭兵たちのど真ん中を切り裂いていくウルフウッド。突然の侵入者に傭兵たちは慌てて手に持った剣を目の前の黒服の男めがけて振り回そうとした。
しかし、ウルフウッドは右足を踏みしめて、その場に止まると、傭兵たちの動きよりもすばやく敵陣のど真ん中でパニッシャーを振り回す。
「ぐげぇ!」
 左手を地面に付け、パニッシャーを一回転振り回し、辺りをなぎ払った。鈍い音共にウルフウッドの回りにいた十人ばかりの身体が木の葉のように宙に舞う。
「は、離れろ。距離をとって囲め!」
 地面に叩きつけられた仲間の姿を前に、血の気をなくした表情の傭兵のリーダーらしき男が指示を出す。
慌てて宿を囲んでいた傭兵たちがウルフウッドのまわりに人垣を作った。しかし、ウルフウッドはかまうことなくゆっくりと体勢を持ち上げる。
「おおきに。撃ちやすうて、ええな」
 ウルフウッドはにやりと笑うと、パニッシャーを右脇に挟み、上半身を大きく逸らし回転しながら撃った。地面を叩き割るような銃声が辺りに響く。
そして、それに遅れて数多くの悲鳴が重なった。あっという間に腕や足を打ちぬかれる傭兵たち。
 数秒の後、痛みでうずくまる傭兵たちのど真ん中に悠然とウルフウッドは立っていた。
「し、信じられん。俺たちがたった一人にこんなにあっけなく……」
 倒れこんだままの傭兵の一人が呆然と呟く。ウルフウッドを囲んだ傭兵たちは何もすることが出来ず、みな腕や足を打たれてその場に死屍累々の様を呈していた。
「すまんな。お前らに恨みはないけど、お互い様いうことや」
 ウルフウッドはパニッシャーを地面に突き刺すように立てると、どうでもよさそうにそう一言だけ呟いた。

「なんていう戦闘力なの? っていうか、あの大きいのって銃? っていうかウルフウッド強すぎ? あれだけの傭兵を一瞬で」
 目の前で起きたことが信じられないキュルケは、うわごとのようなセリフを繰り返していた。
 一応後方支援と言われたが、そんなことは全く必要となかった。
ほとんどの傭兵はウルフウッドに襲い掛かって返り討ちにされていたし、その状況に混乱した一部の傭兵がキュルケたちを人質にしようと襲い掛かってきたが、そんなものはもののかずではなかった。
 その様子を同じように無言で見つめていたタバサは、ウルフウッドが傭兵を一蹴するのを見届けると、もう終わりとばかりに再び読書に戻った。
「……タバサ、あんたあんなものを見て、よくそんな風に平然としていられるわねえ」
 あきれ返るようなキュルケの声をタバサは聞き流した。

 ウルフウッドは辺りに転がっている傭兵たちを一瞥して、彼らにもう戦闘力がないことを知ると、そのうちの一人に話しかけた。
「おい」
「な、なんだよ……化け物」
「お前らの雇い主は何もんや? これは誰の差し金や? なぜオレたちを狙うた?」
 冷たい表情でパニッシャーを突きつけるウルフウッド。相手の傭兵は額に大汗をかいている。
「わ、若い女だ。それと仮面の男。オレたちはあんたらを襲えと言われただけで、どういう目的かは知らない……」
 無言でウルフウッドはパニッシャーの銃口で傭兵の頭を小突いた。
「ほ、本当だって! 俺らはただ雇われていただけで、何も知らない!」
 これ以上は訊いても無駄やな、ウルフウッドがそう判断してパニッシャーの銃口を降ろした直後、視線の先の岩陰から飛び立つ一つの人影が見えた。
――まずい。あいつは桟橋に向かっている。
 ウルフウッドはすばやくパニッシャーを構えて、空を飛ぶ男に照準を合わせようとする。仮面をつけた男がちらりとウルフウッドの様子を見た。
おそらく、この男がさっき傭兵の言った仮面の男で間違いない。
 しかし、相手を捉えたウルフウッドが引き金を引こうとした刹那――仮面の男の姿がふっと闇に溶け込むようにして消え去った。
「なんやと!」
 人が消えた。予想外の出来事にウルフウッドは戸惑う。しかし、ウルフウッドには戸惑っている時間は与えられなかった。
 ウルフウッドは自分の身体に大きな影がかぶさってきたことに気が付いた。視線を男の消えた場所から右に逸らす。そこには巨大な土で出来た拳。それが今まさに彼を潰そうと降りかかってきていた。
「くっ」
 納得の行かないまま、ウルフウッドはすばやく身を後ろに退いた。目の前で土煙を上げながら、巨大な拳が地面にめり込む。
 目の前にあるのは見覚えのある光景。ウルフウッドはうっとおしそうに舌打ちをした。頭の中で、彼が出発する前にコルベールから聞いた言葉が蘇る。

「お久しぶりね、使い魔君」
「おんどれはまた性懲りもなく……」
 ウルフウッドはゴーレムを見据えたまま吐き捨てるように呟く。
ウルフウッドのパニッシャーを警戒したのか、フーケはその姿を見せず声だけが響いていた。
「全く、役に立たない連中だねえ。足止めすら満足に出来ないじゃないのさ」
「お前らの目的はオレらの足止めか?」
「まぁね。本当は殺しても構わないと言われていたんだけどね。しかし、すごい火力だねえ、あんたの銃は。
傭兵なんかじゃ足止めすら出来るわけもないか」
 しかし、その言葉とは裏腹に楽観的にくくっとフーケは笑った。
「けど、それじゃああたしのゴーレムは壊せないよ。あんたがゴーレムを壊すよりも再生のほうが早いからね!」
 その言葉と共にゴーレムは右足を持ち上げて、ウルフウッドを踏み潰そうとしてくる。
 ウルフウッドはパニッシャーを担ぎ上げると、残った左足を払うように横なぎに砲火した。
土煙と共にゴーレムの軸足を引きちぎる。そのままゴーレムはバランスを崩して倒れたが――
「無駄だって言っているのに」
 というフーケの言葉と共に、地面に切れた左足をくっつけると、そこから引き抜くように新たな左足を再生した。
「なるほど。こら、このままやってもジリ貧やな」
 ゴーレムの再生能力に感心したように呟くウルフウッド。
「残念だったねぇ。ここには破壊の杖はない。じっくりといたぶらせてもらうよ」
 体勢を低くしながらウルフウッドは考える。
 おそらくランチャーを使えば、一発でこのゴーレムは仕留められるだろう。
しかし、補給のあてのあるライフル弾はともかく、ここでランチャーを消費するのは痛い。となれば、やはりあの方法を使うか――
「小僧、二階の窓からさっきオレの言うたヤツをゴーレムに向かって投げつけろ!」
 ウルフウッドは宿に向かって大声で叫んだ。
「……まだ、なんか悪あがきをするつもりかい?」
「さあな」
 不敵に笑うウルフウッド。その態度が気に入らなかったのかフーケはゴーレムにパンチを繰り出させた。
しかし、ウルフウッドは軽く横飛びしてそれをかわす。
「ちょこまか逃げ回ってんじゃないよ!」
「ほうか。なら、こっちからいかせてもらうわ」
 ウルフウッドは宿の二階を見上げた。窓から顔を覗かせているギーシュを見つける。
「小僧、そいつを元に戻してこいつの頭からぶっかけたれ!」
 ウルフウッドの言葉にギーシュは刻々と頷くと、大きな黒い塊をゴーレムに向かって投げつけた。そして、彼のバラの杖を振る。
「そんなものをぶつけて何をしよう――」
 フーケの言葉も終わらないうちに、その黒い塊は透明な液体になり、ゴーレムの全身を濡らした。あたりに独特の刺激臭が立ち込める。
 フーケがその正体に気が付いたときにはもう遅かった。
「コルベールセンセ特製や。よう燃えるで」
 ウルフウッドはパニッシャーを横に払うようにして弾丸を一発。そして、その一発で十分だった。ゴーレムはたちまち炎に包まれた。

 ゴーレムが炎に包まれて朽ち果てるのを見たフーケはその場から逃げ出そうとした。
しかし、逃げようと振り返った彼女の目の前にあったのはパニッシャーの銃口。そして、それを構えたままフーケを見下ろすウルフウッド。
「……あたしの居場所もお見通しだったってわけかい? 本当に怖い男だねえ、あんたは」
「なぜ、オレらを襲った? オレらがおんどれを捕まえたことに対する逆恨みか?」
 フーケの言葉にウルフウッドは耳を貸さずに質問をした。
「……それもなかったとはいわないけどね。ただ、わかるだろ? なんの目的もなくあたしを脱獄させてくれる慈善業者がいると思うかい?」
「お前を脱獄させたのは――例のレコン・キスタやな?」
「ご名答。っていっても、あたしもそれくらいしか知らないんだけどね。悪いけれども、拷問されてもそれ以上の情報は吐けないよ」
 フーケはやけくそのように笑う。
「どうする? 魔法力の尽きたメイジなんて、あんたならどうにでもできるだろう? 殺すかい?」
 笑っていない目でフーケはウルフウッドをにらみつける。
「去ね。そして、二度とオレらの前に現れるな」
 ウルフウッドは冷たくそう言い放つと、パニッシャーの銃口を下ろした。
「……いいのかい? あたしはあんたたちを殺そうとしたんだよ」
「別にオレにはお前を殺さなあかん理由はない。お前をとっつかまえたんもただの成り行きや。それの逆恨みやったら、これでチャラにしてもらうで」
「……甘いね。あんた」
「じゃかあしい。そんな危ない橋ばっか渡っとったら、ワイが手えださんでもじきにお前もおっ死ぬわ」
 フーケはウルフウッドの言葉にため息を付くと、瞳から敵意を消失させた。
「じゃあ、今回はありがたく生きながらえさせてもらうわ。一応、あたしもこんなところで野垂れ死ぬわけにはいかなかったりするんでね」
「口上はええから、はよ行け。ボケ」
 フーケはウルフウッドの言葉を聞き流して、ウルフウッドから目を逸らすと、小さな声で喋り始めた。
「……アルビオンに行くなら一つ頼みがあるんだけど」
「なんやねん」
「出来れば、関係のない人間には手を出さないでもらえないかい? 向こうにいる人間のほとんどは今回のクーデターには何の関係もない一般市民さ。やるなら、そういう連中同士でやっとくれ」
「……外道は外道同士、仲良うお互いの血肉を喰らいおうたるわ」
 ウルフウッドの悪態にフーケは軽く右手を振ると、ゆっくりと歩き始めた。
 遠ざかっていくフーケの背中を見つめるウルフウッド。
「甘なってもうたもんやな、ワイも」
 そのままウルフウッドは空を見上げた。
「調子狂うわ。どっかのクソトンガリ頭のせいやで、全く」
 そして、ポツリとそう呟いた。


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