あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Persona 0  第一話


 此処はどこだろう?
 彼女はぼんやりとした頭で考える。
 蒼い、部屋。
 自然光でもない魔法の明かりでもない奇妙な青い光に満たされた部屋に、彼女は一人で立っていた。
「ようこそ、ベルベットルームへ」
 振り返るとそこにはぎょろりとした眼の老人が腰を下ろしていた。
 その隣では青い服の少女が無表情に控えており、その背後では布で顔を覆った男がピアノをかき鳴らしている。
 此処は一体どこなのだろう、再び彼女は考える。
「私の名はイゴール、お初にお目に掛かります」
 老人と言ったが彼女にはとてもその人物が人間には思えなかった。
 まるで童話の妖精のように長い鼻と皺の一つもなく着こなした黒い衣服、そして何より身に纏う雰囲気がまるでこの世界の住人ではないかのよう。
「ご心配めさるな。此処は夢と現実、精神と物質の狭間にある場所――現実のあなたはまだ深い眠りのなかにおいでです」
 彼女はどういうことかと聞こうとしたが、しかしまるで金縛りにあったように声が出ない。
「さてまずはお名前をお聞かせ願えますかな?」
 彼女は喉を震わせる、だがこれまで当たり前に親しんできたその名前を紡ぐことは終ぞできなかった。
「なんと、己の名を見失った方がお客人とは。珍しいこともあるものだ」
 イゴールは驚いたように小首を傾げる。
「此処は本来何らかの契約を果たされた方のみ訪れる部屋、此処に来られたと言うことは貴女には近くそうした未来が待ち受けているのかもしれません」
 なんだそれは、いったいどういうことだ? 聞こうとしてもやはり声は出ないまま。
 耳をくすぐるピアノの旋律にまるで酔っぱらったようにくらくらとする。
「おっとご紹介が遅れましたな、こちらピアノ弾きのナナシと……」
「ご案内を務めさせて頂きます、エリザベスでございます」
 蒼い少女が頭を下げる。
「詳しくは追々に致しましょう、それではその時まで」
「ごきげんよう、でございます」




 むくりとルイズは身を起こした。
「変な夢見たわ……」
 貴族の嗜みとして欠伸を噛み殺しながら、人でも殺しそうなほど不機嫌な様子でベットから立ち上がる。
 とっとと制服へと着替え、そして昨日の事を思い出した。
「これも夢だったら良かったのに」
 部屋の床には奇妙なものが置かれている。
 どんな材質でできているのかも分からないそれは、一見して窓を窓枠ごと切り取ってきたかのような形状をしている。
 もっとも硝子が嵌っていると言うのにその硝子は真っ黒に曇っていて反対側は見通せない。
 一体何に使うのか? 使い道も使い方もまるっきり分からない。
 コルベール先生がデティクトマジックで探知してもまるで反応がないところを見るとマジックアイテムの類ではないのだろう。
 ならば前衛芸術の類だろうか? しかしそれにしてもここまで装飾も何もない芸術品もないだろう。
「なんなのよ、これは……」
 つまりはそれがルイズの偽らざる感想であった。
「なんでサモン・サーヴァントでこんな訳の分からないものが出てくるのよ!」
 同級生の誰もこんな訳の分からないものを召喚した人物はいない、いやそもそも器物を召喚した者すらいないのだ。
 これはきっと自分が「ゼロ」だから、魔法の使えないメイジだから……
「なんでよ、なんで、なのよ……!」
 だからそれは八つ当たりだ、己の不甲斐なさが悔しくて悔しくて、つい己の無能の象徴である対象にきつく当たってしまっただけのこと。
「あんた私の使い魔なんでしょう! だったら何か言ってみなさいよ!」
 そう言いながらがつんとその前面が硝子張りされた箱を蹴り上げ――一体何に反応したのか? ルーンが光を放つ。
「こちらスネーク、潜入に成功した」
「――!?」
 突如箱から聞こえてきた声にルイズは思わず後ろに飛びずさった。
「大佐、指示を頼む」
 見れば先ほど真っ暗だった画面に何やら奇妙な格好をした男が映し出されており、男は手に持った黒い直方体に向かって何やら喋りかけていた。
「な、なによ貴方は!?」
 ルイズは画面のなかの男に詰め寄ったが、しかし男はルイズの事など気がついていないかのように奥の通路からルイズに向かって全力で走ってきた。
 その手に抱えているのは、奇妙な形をしているが銃……だろう。
「ちょ、ちょっと待って、待ってって言ってるでしょう、待っ、ひっ!?」
 目の前に男の顔が迫る、画面の向こう側から男が飛び出してくるのではないか? そんな恐怖にルイズは身を竦め……
 爆音が部屋を劈いた。
「い、い痛た……」
 耳を押さえ画面を見ると、無傷で瓦礫のなかを走り抜けていく男とその周囲で倒れ伏した無数の人の残骸。
 思わず気分が悪くなったがそれと同時に理解する。
 これはこの場所ではないどこか遥か遠くで起こった出来事が映し出されているのだと。
「これって遠見の鏡、みたいなものなのかな?」
 知識のなかにあるマジックアイテムの名前を挙げてみる。
 実物が動いているところを見たことは、血の滲むほどの努力を重ねてきたルイズは知識だけならそのへんの教師など及びもつかないほどに持っていた。
 分かると同時にびっくりさせられたことへの怒りがふつふつと湧いてくる。
 なんだこいつは、無機物のくせに私を馬鹿にするのか。
 私の使い魔だと言うのに!
「私を馬鹿にするんじゃないわよ!」




「さぁーてどうしようかしら」
 キュルケはルイズの部屋の前で思案していた。
 お題は昨日の使い魔召喚の儀式である、自分は幸いすぐ傍に控えるフレイム――火竜山脈のサラマンダー……を召喚して使い魔に出来たが、ルイズが呼び出したのはそもそも生き物ですらなかったのだ。
 メイジと使い魔はどちらかの寿命が尽きるまで共に歩む者、それが生き物ですらないと言うのはルイズにはさぞ堪えただろう。
 宿敵であるヴァリエールが凹んでいるのは詰らないし、何よりからかいがいのあるルイズが拗ねているのは面白くない。
 だからキュルケはルイズが起きてきたらどうやって発破を掛けてやろうかと、さまざまな策を考えてきたのだ。
 そんな折、ルイズの部屋から聞こえてきた爆音。
「ちょっと!? どうしたのよヴァリエール」
 まさかとは思ったが、万一を考えてキュルケはアンロックで扉をこじ開け。
 ――絶句した。
「なによこれっ!?」
 そこにあったのはルイズが自分が召喚した箱のなかに飲み込まれようとしている光景だった。
 黒い硝子張りのその表面が波打ちながらルイズの体を咥え込み、ルイズは両腕に力を込めてなんとか落ちないように踏ん張っている。
「ツェ、ツェルプストー」
「なによ、いったい何やってるのよあんた」
「それが分かれば苦労しないわよ!」
 こんな危機的状況にあっても口喧嘩をやめないのは血がなせる技か。
「とにかく引っ張りあげてあげるから、掴まりなさいな」
「だ、誰がツェルプストーの施しなんて……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
 そう言ってキュルケは手を伸ばし……
「あっ、ダメ、もう……げんっ、かい……」
「な、ちょっと、きゃぁぁぁあ!?」
 諸共に箱のなかに落ちて行った。
 テレビと言う名の箱のなかへ。


「いたたた……」
「もぉ、なんなのよぉ一体」
 臀部を擦りながら二人は立ち上がった。
「此処って……」
 二人して周囲を見回す、淀んだ空気に満ち満ちたそこは奇妙な世界だった。
 ルイズは一瞬先ほどの映像が映っていた場所へと飛ばされたのかとも思ったが、しかし先ほどの男が戦って場所とはまるで雰囲気が違う。
 人の形をした白線、周囲に立ち並ぶ黄色い壁、その傍に立ち並ぶ何に使うのか分からない機材の数々。
 もし此処に本来彼女の使い魔となるべき少年が居たならば、“テレビのスタジオ”とここのことを称したかもしれない。
「此処、何処……?」
 不安の為にふと呟いてしまった言葉に返事が返ってきた。
「何処って、あの箱のなかなんじゃないの?」
 腰を押さえながらこちらを視線を送ってくるキュルケを睨みつけると、ルイズは言った。
「そんなこと分かってるわよ!」
「分かってるなら言うんじゃないわよ!」
 そこまで言ってからキュルケは深くため息を着いた。
「やめましょう、此処で口論してても無駄もいいとこ」
「あなたが突っかかってきたんじゃない!」
「はいはい、それでどうするの?」
「どうするって、何がよ?」
「どうやって帰るのかって話」
 その一言にルイズは凍りついた。
 そうだ自分たちは相当高い場所から落ちてきた、ならば戻るのならばもう一度あの場所に行くしかない。
 ならばレビテーションの使えるキュルケはともかく「ゼロ」の自分は絶対にたどり着けないだろう、いやそもそも同じ場所に出口があると言う保障もない。
 そうなれば自分は憎っきツェルプストーと一緒にここで朽ち果てるのを待つだけだ。
「ど、どうしよう……」
 そのことにようやく思い至ったルイズは赤く染めていた顔を真っ青にする、それでもなんとか取り乱さずに済んだのは母から躾けられた貴族としての嗜み故か。
「とにかくあたしは上を見てくるわ」
「ちょ、ちょっとツェルプストー!?」
 そのままレビテーションで飛び上がったキュルケに向かって声を掛けようとして、ルイズは自分の言葉を飲み込んだ。
 心細いなどと思ってしまった自分があまりにも情けなく思えたのだ。
「全く、私ったら……」
「情けないったらありゃしないわよね」
 ふと聞こえてきた声に振り返る。
「誰っ!?」
 ――そこには誰もいない。
 だがそこには赤と黒に光る回廊の入口がまるで洞窟のようにぽっかりと口をあけていた。
 こんなものさっきあったっけ?
「ひょっとして出口!?」
 そう思って回廊を覗きこんだルイズは悲鳴を上げる。
「此処って……!」
 遠くに立つ立派な屋敷は昔から慣れ親しんだヴァリエールの屋敷だ。
 目の前に広がる小さな池にも見覚えがある。
 違うのは晴れ渡った赤と黒に波打つ不気味な空と、自分がいるはずだった池の小舟のなかに一人の少女が立っていると言うこと。 
「本当は心細いくせに、素直になれない」
 船のなかに立っていた少女は桃色の髪を翻し、笑う。
「だっ、誰。誰なのあんた!?」
 馬鹿な問いかけだと言うことは他ならぬルイズが一番分かっていた、そこに居たのはルイズがよく見知った相手だったのだから。
 いや見知りすぎていると言うべきか。
 緩くウェーブを描く桃色のブロンドも。
 吊りあがり気味の眼元と幼さの残る顔立ちも。
 隆起の全くないその体も。
「誰って、わかってるんでしょう?」
 毎日鏡の中で対面している相手。
「私は、あんたよ」
 そう言ってもう一人のルイズは肩を竦めると、船から降りてゆっくりとルイズの方へと近づいてくる。
 赤と黒の回廊を渡り、黄色い床に書かれた白線を踏み越え、そこだけがルイズと違う金色の瞳を輝かせながら。
 気がつけばルイズは叫んでいた。
「ふざけないで!」
 その背中を押した感情は――恐怖
 自分と同じ顔をした相手の言葉の一切を拒絶しようとするかのように、急き立てられるように声を張り上げる。
「一体―――「一体どこの誰?」
 その悲鳴にも似た言葉をもう一人のルイズは奪いとった。
「フェイスチェンジなんか使ってその程度私が見破れないと思ってるの?」
 そのままルイズが言おうとしていた言葉をすらすらとその可憐な唇から紡ぎだす。
「私が“ゼロ”だからって馬鹿にして」
「――!?」
 言葉を奪い取られ、絶句するルイズにもう一人のルイズは卑屈な目でくつくつと笑った。
「私は影、あなたの影。私はあなたであなたは私。だからなぁんでもお見通し」
 認めてしまったら折れてしまう。
 貴族の誇りも将来の夢も、これまで必至で守り続けてきたものが。
「いつまで意地張ってるの? 本当は魔法の才能なんかないって、“ゼロ”だってとっくの昔に分かっているんでしょう?」
 もう一人のルイズの言葉と共に、ざわめきのような言葉がさざめきのように聞こえてくる。

 ――公爵さまと奥方さまは素晴らしい才能をお持ちだと言うのに、あの三女様ときたら。
 ――ねぇねぇ知ってます?なんであの方が魔法を使えないか?
 ――ああ、平民との間に出来た不義の子って噂だろ? ここに働く者なら誰だってそう思っているさ、だが大きな声では言うなよな。
 ――まさかねぇ、あの奥方様が

「やめてっ!」
「魔法が使えないなら貴族なんかじゃない、貴族じゃなければヴァリエールじゃない。まったく誉れ高いヴァリエール家にとってあなたは最大の汚点ね」
「違う、違う、わたしは!」
「本当はわかっている、けど認められない」
 そしてもう一人のルイズは高々とルイズのことをあざ笑う。
「なんて高慢な女、なんて嫌な女、分かっているのに認めない、認めようとしない」
 くすくすとくすくすとルイズはルイズをあざ笑う。
「ただ癇癪に任せてぼかんぼかん爆発させて周囲を傷つけることしか出来ない出来そこない、そんなのは貴族どころか平民以下の価値しかない」
「違う!」
「だから否定する、必要以上に貴族に拘って周りから笑われても自分は貴族だって言い続けて――ああおかしい、滑稽で滑稽でしょうがないわ!」
「そんなこと、ない……」
 ルイズは必死に否定するが、その言葉すら弱々しかった。
 心のどころかで、その言葉が正しいと認めてしまっている部分がある。
「ほらいい加減受け入れなさい、自分に何の価値もないんだって、生まれてきたことそのものが」
「黙れ!」
 ルイズは杖を振りかぶり、禁忌の言葉を、呟いた。
「お前なんか、私じゃない!」
 ニヤリと影が笑う。



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