あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのエンジェル-04


「ふあああ……よく寝た。あれ、ルイズちゃん?」

はて、これは一体どうしたことか。
藁という不便な寝床から目覚めを果たした北野君は自問していた。
目覚めてみれば昨日知り合ったばかりの桃色の髪の少女が床の上で寝ているではないか。
しかも年頃の少女にしてはだらしのない、仰向け大の字の格好で。
確か彼女は昨日ベッドで眠りについたはずだった。
可愛らしい外見に反して実は滅茶苦茶寝相が悪いのだろうか?

(人は見かけによらないものなんだなぁ。手には鞭まで持ってるし、乗馬する夢でも見てたのかな?)

自分に最も当てはまる感想を抱きつつ、北野君はとりあえず床に転がっているルイズを抱え、ベッドへと移動させる。
その手つきはかなり丁寧かつ慎重だった。
いくら見た目年下といえども相手は立派な女の子だ。
迂闊な部分を触ったら失礼に当たるし、自分としても恥ずかしい。
勿論、極薄のネグリジェとその下に見える下着からは意図的に目をそらす。
北野君は年頃の男の子にあるまじき紳士スキルを発揮してルイズを丁重に寝かせた。
なお、当の運ばれている本人はうなされているのか眉を眉間に寄せてうんうんと唸っていたりする。

(嫌な夢でも見てるのかな? まあ、ぼくが見た夢もあんまり良くない夢だったけど)

北野君が見た夢は転校初日の風景だった。
勿論、実際には転校を果たす前に召喚されたのでそれは彼の想像に過ぎないものだったが…

(下校までは普通だったのにね)

僅かに眉根を寄せる。
クラスで自己紹介をし、新たな仲間としてクラスメートたちに受け入れられる。
そのまま授業をこなし、休み時間には転校生恒例の質問攻めにあい、幸先の良いスタートを切って帰宅。
そこで終われば良い夢だった。
しかし、実際の夢は帰宅途中まで続き、そこで自分は犬に追いかけられたのだ。
思わず悲鳴を上げてしまったところで目が覚めたが、オチがオチだけに釈然としないものが残る。
とはいえ、夢は夢である。
今日からは新生活が始まるのだ。
いつまでもくよくよしてはいられない。
そう気分を切り替えた北野君は昨日のことを思い出していた。
そう、自分が置かれた状況を理解した時の事を。

(まさか、ここが異世界だなんて。まだ信じられないよ…)
ルイズやコルベールの説明を受け、北野君はようやく現在自分がいる場所が地球でないことを知った。
最初はドッキリか何かと疑ってはいたのだが、目に見える風景は明らかに地球のそれとは違う。
彼らが自分をだましているようには見えなかったし、月が二つあるのを見てしまえばもう疑う余地すらない。
見た目はともかく、中身は一般庶民に過ぎない北野君は当然困惑した。
それはそうだ、召喚儀式か何かは知らないが、これは立派な拉致で誘拐である。
しかもその上、使い魔、つまり奴隷のようなものになれというのだからもう洒落ではすまない。
トドメに地球に帰る方法はないと言われる始末だ。
しかし、北野君はそんな現状に対して怒りを覚えることはなかった。
不慮の事故を多分に含んでいる上、涙ながらに謝罪しつつ(殺されると思って涙腺が決壊してただけ)説明する少女を怒ることなどできなかったのだ。
そして結局、北野君は使い魔になることを了承した。
使い魔だ奴隷だといってもそれは建前で、実際のところは使用人やボディーガードの真似事をするだけだと楽観的に解釈した部分も大きい。
だが、一番大きかった理由は。
彼の信念―――女の子は男が守るもの、優しくするもの。
それが影響していたのはいうまでもなかった。

(けどとんでもないことになっちゃったなぁ…)

さあ新生活を始めるぞと意気込んだ矢先に異世界で使い魔ライフの開始。
新生活は新生活でも想定していたものと違いすぎるにも程があるというものだ。
ルイズは地球への帰還方法を調べてくれるとは言ったが、あまり期待できないのは彼女の顔色を見ていればよくわかる。
地球に帰りたいという気持ちは勿論ある。
だが、了承してしまった以上はもう後には引けない。
いつ地球に帰れるかはわからないが、とにかく今は立派に少女の使い魔を務め上げよう。
誓いを胸に、北野君は気合を入れる。

「……あれ?」

はた、とそこで北野君は気がついた。
目がよく見える。
寝る前にコンタクトは外していた、つまり今はつけていないのにも関わらずだ。
ここで説明しておくと、北野君は目が悪いため普段はコンタクトレンズをつけている。
ちなみに彼は眼鏡をかけようと思ったことはない。
何故なら、眼鏡をかけると悪人顔になってしまうと自覚していたからだ(かけなくても立派な悪人顔だということはあまり理解していない)
閑話休題。
突如の視力回復に北野君は困惑した。
否、回復なんてものではなかった。
彼の目は窓の外を飛ぶ小鳥の羽の一枚一枚までを正確に捉えていたのだ。

(ど、どういうことだろう?)

困惑する北野君。
そういえば、と思い出す。
昨夜のルイズの説明の中に、使い魔の特徴で主人は使い魔の視界を共有することができると言うものがあった。
何故か自分にはその能力は付与されなかったと言ってはいたが…
もしやこれはそのことが関係しているのだろうか。
昨日の説明でこの世界に魔法という概念があるのは一応頭にはあるが、所詮自分は地球人である。
魔法でできること、できないこと、そんなものがわかるはずがない。

(まあ、悪いことじゃないし、いいんだけどね)

ノー天気に北野君はそう結論を下した。
別に視力がよくなったからといって困ることがあるわけではない。
むしろコンタクトレンズや洗浄液が手元にワンセットしかないことを考えると歓迎するべき事態だった。

(あ、そういえば…)

ふと『朝の日課』を思い出した北野君は部屋備え付けの鏡の前に立つ。
そこに映ったのは、ハリネズミのように逆立っている自分の髪。

(あちゃあ。やっぱり凄い寝癖になってるよ…視力がよくなったからって寝癖は治らないんだな。当たり前だけど)

自分でも何故こうなるのかわからない寝癖はそのままという事実に少しガッカリしながら北野君はポケットからポマードを取り出す。
何時ポマードが落ちてしまうかわからないため、北野君はポマードを常に携帯しているのだ。
手元にあるのは買ったばかりの新品なのだが、数日も使えば当然すぐに中身はなくなる。
この世界にポマードはあるのだろうか。
そんな心配をしながら北野君はとりあえず量を使いすぎないようにポマードで髪をセットする。

「これでよし」

いつもの髪型を整えた北野君は満足気に微笑むとチラリとベッドに転がるルイズを見つめた。
彼女が学生だということは聞いている。
今日が授業がある日ならば起こさないのはまずいのではないか…そんな心配が頭をよぎる。
しかし今日が休日であるならば起こすのは悪いし、また授業があるにしても地球のそれとは違い遅い時間から始まるのかもしれない。
こんなことならもっと詳しいことを聞いておけば…
そう後悔する北野君は唐突にポンと手を叩いた。
そうだ、わからないならわかる人に聞いてみればいいじゃないか。

(確かここは寮のようなものらしいし、部屋を出れば誰かいるよね)

善は急げとばかりに北野君はルイズの部屋から出て。
そして彼はそう時間もたたないうちに、赤い髪の少女と遭遇した。
燃えるような赤い髪、そしてどれだけ焼いたのかと問いたくなるほどの黒い肌。
同年代では間違いなくトップクラスに該当するであろう美貌とスタイル。
そんな特徴的な外見を持つ女生徒と遭遇した北野君はこちらを見て絶句した相手と同じく沈黙を保っていた。

(す、凄い派手な人だなぁ)

あまりの外見インパクトに北野君は質問も挨拶も忘れてしまっていた。
とりあえず相手を観察してみる。
赤い髪の少女は眼を見開いてこちらを凝視していた。
余程ビックリしたのだろうか、あんぐりとあいた口はその大人びた外見に反して可愛らしいものに見える。
何かしゃべらなければ、そう思って口を開きかける。
すると、少女の背後でのそりと何かが動いた。

(と、とかげ?)

少女の後ろから現れたにはトラほどもある大きさのとかげだった。
ゴツゴツした体格に赤い表皮、尻尾には火が燃え盛っていると明らかに地球には存在し得ない生物。
昨日見た数々の生物たちが着ぐるみでない事は既に承知の上だが、こうして近くで実物を見ると流石に異世界の存在を改めて自覚してしまう。
とはいえ、目の前の生物が珍しいことには変わりはなく、北野君は興味津々に観察しようとし。
その矢先、少女の声に動きを止められた。

「あたしのフレイムに興味があるのかしら?」
「え?」
「火トカゲは初めて?」

今までの沈黙が嘘のように突然話しかけてきた少女に北野君は困惑する。
フレンドリーな話し方からして警戒されてはいないようだ。
だが、北野君は少女を直視することができなかった。
別に彼女を無視してまで火トカゲを観察したかったわけではない。
ただ、恥ずかしかったのだ。
何せ相手はド派手、美人、爆発的スタイルと日本では滅多にお目にかかれないタイプの女性。
しかも彼女はこちらに見せ付けるように胸を開いた服装で、その隙間からは谷間がチラチラと見えるのだ。
どちらかといえば異性には淡白な性質の北野君だが、流石にこのセクシャルアピールには動揺するほかなかったのである。

(……あっ)

どう返事を返したものか、と悩む北野君の視界に揺らめく陽炎―――燃え盛るフレイムの尻尾が映った。
火トカゲはよく見てみると何故か嬉しそうにこちらを見ている。
尻尾をパタパタと振り、今にも飛びついてきそうな気配だ。
(み、右手が…?)

チリ、と右手の甲がうずく感覚に北野君は顔を僅かに顰める。
見ればうっすらと右手の甲に刻まれたルーンが光っているではないか。
と同時に、その光に共鳴するようにフレイムの尻尾がメトロノームのように規則正しく大きく機嫌良さそうに振られていく。

(うわっ…ちょっと、あれは危ないんじゃないかな?)

振られた尻尾の先端で燃え盛る炎が主人であろう少女の髪を掠めようとしていた。
実際は当たったところで引火したりはしないのだが、北野君は勿論そのことは知らない。
となると当然、その状況が心配になってくるのが北野誠一郎という少年だった。
どうする? 危ないですよと少女に言うべきか?
しかしそれを言ってしまえばこの火トカゲは少女から叱責を受けるかもしれない、それは可哀想だ。
だが放っておくわけにもいかない、一体どうしたら…
一見無表情に見える表情の下で北野君は懸命に考える。

(そうだ…!)

その時、唐突に彼はそれを思いついた。
そう、少女ではなく直接この火トカゲに注意をすればいいのだと。
普通こういう場合言葉が通じるはずはないと思うのが常識である。
だが、この時北野君は不思議とそうは思わなかった。
何故かは自分でもわからない、しかし自分の意思は絶対に通じるという確信があった。
既に尻尾はギリギリのところまで振られていた。
最早一刻の猶予もない。
北野君はフレイムに注意するべく、視線を合わせようとしゃがみこみ。
その瞬間、彼の頭があった場所を氷の塊が高速で通過し。
―――そしてそれは赤い髪の少女に直撃した。

「ちょっとどうし―――はべっ!?」
「へ?」

バッキィィンッ!
頭上で何かが割れるような音を聞いた北野君は次の瞬間眼を見開いて驚愕した。
なんと、目の前で黒肌の少女が目を回しながら床に崩れ落ちていくではないか。
突然の事態に呆然とするものの、少女の容態を見た北野君はすぐさま自分の為すべきことを理解した。
助けを呼ばなければ!
誰かいないのかと周囲に目を這わせる。
見つけたのは廊下の角に佇む一つの影。
そこにいたのは、倒れた少女と対を成すような青いショートカットの髪の少女だった。
(見つかった…!)

北野君に見つかった少女こと、雪風のタバサは己の為した行動の予想外の結果に動揺する。
遡ること数分前。
使い魔のシルフィードに餌をやり終えた彼女はたまたま親友であるキュルケを発見した。
別に声をかけるつもりなどはなかった。
だが、その足は彼女を視界に入れた瞬間に氷のように固まって動かなくなっていた。
正確に言えば彼女を目にしたからではない。
彼女の前に立つ人影、その存在に見入ってしまったのだ。

(あれは、ルイズの…)

昨日目にした光景を思い出し、ブルブルと怯えるように縮こまる。
爆音と煙幕の中から現れた悪魔の姿は、タバサにとって既にトラウマレベルの恐怖だった。
昨夜など一人で眠れないが故に恥を忍んでキュルケの部屋で寝させてもらったくらいなのだから。
自分の使い魔であるシルフィードは彼のことを「いい人に違いない」と力説していたが到底信じられる話ではない。
あんな外見をした奴がいい人などなんの冗談だ。
まだゼロのルイズの正体が虚無の担い手だというほうが現実性があるというものだ。

(いざとなったら、私が止めないと…)

何故か相対したまま話すこともしない二人を廊下の影から見つめながらタバサは杖を構える。
あの悪魔がいつキュルケに襲い掛かるかわからないのだ。
つー、と頬に汗をたらしながらタバサは油断なく詠唱を開始し、いつでも魔法を放てる体勢を作る。

(―――ッ!)

瞬間、悪魔の気配が変わった。
まるで何かを決意したかのように動く予兆を見せる悪魔。
親友が危機! タバサは唱えておいた魔法を解放した。
ウィンディアイシクル―――ただし、殺傷性を抑えたバージョンである。
本来この魔法は複数の氷の矢が目標を串刺しにするのが主目的なのだが、今回に限っては氷は矢ではなく球体となっていた。
これは、一応相手は他人の使い魔だからということをタバサが考慮した……わけではなかった。
単に、グロテスク(タバサの想像上では串刺しになった北野君の身体から緑色の血が噴出しています)な光景を見たくなかったのだ。

(当たった―――!?)

はたして、解き放たれた氷の弾丸は狙い通りに北野君の頭へと向かっていた。
しかし、着弾の瞬間。
なんと彼はまるで後頭部に目があるかのようにギリギリのタイミングで身をしゃがませてウィンディアイシクルを回避したのだ!
(そんな……!)

何もなくなった空間を通過した氷の弾丸が親友を直撃する場面をタバサは悪い夢を見ている気分で見つめていた。
だが、親友を攻撃してしまったことに罪悪感を抱く暇はない。
己を攻撃してきた存在を探すべく悪魔が周囲を見回し、そして自分を見つけてしまったのだ。

(見つかった…!)

まずい、このままでは殺される!
生存本能からか、タバサは瞬間的にキュルケのことをも忘れて逃走体勢に入る。
いや、正確には入ろうとした。
実際には彼女の足は、身体は全く動いていなかったのである。
青の少女は北野君に睨みつけられた瞬間、まるで金縛りにあったかのように射竦められてしまったのだ。

(足が…動かない…)

じいい…と穴が開くほどこちらを見つめてくる悪魔にタバサは震えることしかできない。
これまで自分は数々の修羅場を潜ってきた。
命を落としそうになったことはある。
敵を怖いと思ったこともある。
だが、今自分が感じているのは。
悪魔の眼光から得ているのは。
今までの経験がまるで役に立たないとしか言いようがない絶対的な恐怖だった。

(…駄目!)

だが、恐怖に飲み込まれようとしていたその瞬間、頭に母の姿が浮かんだ。
毒によって狂ってしまった母。
そうだ、ここで自分が死んだら誰が母を救うのだ。
タバサは勇気を振り絞って身体を動かす。
力強く前を向き、敵を睨みつける。
もう一度魔法を―――!

「そきひきぇ~~! このひとがいきなりたきえっきえぇ~っ!!(訳:そこの人! この人がいきなり倒れちゃって…助けてください!)」
「…………っ?!?!」

だが、そこまでだった。
悪魔が物凄い形相でこちらに手を広げて駆け寄って来るのを見た瞬間。
タバサは自分の思考が恐怖という名の色で真っ白に塗りつぶされていくのをただ為す術もなく感じるほかなかった……


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