あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの赤ずきん-12


日が没する時間となり、屋内も徐々に闇に包み込まれる時分、学院のとある一室の片隅で座り込み膝を抱えている者がいた。
その人物は、ミス・ロングビルもとい、盗賊『土くれ』のフーケであった。
フーケは、城からの衛士が、その身柄を引き取りに来るまでの間、学院内の一室で軟禁されていた。
だが、来るべきはずの衛士たちは一向に来る気配をみせない。
何故、来ないのか。フーケ自身にはわかっていた。ある者が己が目的のため、衛士たちが来るのを阻害しているのだと。
フーケの右腕が恐怖で小刻みに震えている。その震える手をもう片方の手で必死に押さえつけた。だが震えは止まらない。
震える右手は、とある人物に握られていたほうの手であった。

「やっぱりダメなもんはダメだったってことかい……。これしか手段がなかったっていうのに。
 まだ城の連中に捕まってたほうが、逃げ出せる可能性があったんだからね。それに賭けてたってのに……。それも終わり」

部屋の扉が開錠された音が、フーケの耳に響く。フーケは観念したように、そして恨めしげにゆっくりと開かれる扉に目をやった。
フーケには、わかっていた。扉を開け部屋に入ってくる者が、城からの衛士でないことが。
あらゆる恐怖を携えた存在は、開け放たれた扉の間から顔だけをひょっこりとだして、笑顔で手を振り、フーケに語りかけた。

「はぁーい♪元気にしてるぅ?フーケおねぇちゃん!バレッタが遊びにきたよ」

フーケは自嘲ともとれる歪んだ笑みを浮かべる羽目になった。
「この死神め……」
部屋の隅に座り込んでいるフーケにバレッタは弾むような足取りで、つかつかと詰め寄った。
「んもうっ!随分な言い草ねぇ!いたいけな少女にそんなこと言っちゃっ、メッなんだからね?
 ……まぁそれは別にいーんだけどさぉ。その様子だとぉ、わざわざ、わたしがここに何をしにきたかわかってるみたいねっ?」
バレッタから目を背けたまま、フーケは静かに言った。
「まあ……わかってるつもりだよ。ホント意地悪いわね、アンタ」
その言葉を耳にしたバレッタは、ふふっと笑った。
「うんうんっ、そうなのね。じゃあ宝物庫で降参したことも、その先どうなるかを読んでの行動だったわけね。
 腑に落ちなかったのよぉ、何で降参したかってね。もうちょっと諦めが悪いと思っていたんだもの♪」
フーケは苦笑した。どの口がそんなことをほざいているのか、そんなことを言いたげな表情であった。

「よくいうよ……あの時、あの宝物庫で私を殺すつもりだったくせに」

バレッタは、まるで期待していたものが到来したかのように、嬉しそうに口の端をつりあげ、笑みを作った。
フーケはその笑みから、努めて目線をそらし、続けて言った。

「あの時、私以外の誰が、杖を取り出す様を見て、私が素直に杖を渡すか、
 それとも戦い抵抗するため、魔法を唱えようとして杖を出したのか、それをいったい誰が見分けることができたんだろうね。
 ……そうさ、誰もわからない。全員、急転し続ける事態を理解するだけで精一杯だったし」


「あんたはそれを見越して、どんな理由であっても、杖を取り出そうとしたら、その瞬間殺すつもりだった。そうじゃないのかい?
 目を見てわかったよ……。まあ、大抵のやつは気付かないだろうけどね。
 ……殺したことに関しての言い訳は“フーケは魔法を使うつもりだった。やらなければ、こちらがやられていた”
 つまりは自己防衛のためってことで始末をつけたことにする。誰も批判はできない。生命の危機の問題だしね
 それに、犯人である証拠となりうる『破壊の杖』も押さえてあるときたもんだ。どうとでも言い逃れられる」

バレッタはフーケの考察に本当に感心したのか、パチパチと拍手をした。
「スッゴーい!そこまでわかってたのねぇ。予想してた以上よ。ゆーしゅー♪ゆーしゅー♪
 でね?そんな優秀なあなたをとっても評価してるの。だから、何故わたしがわざわざここに訪ねにきたか言ってみて?」

「……私にそれを言わせるのかい。全く度し難いね。……殺し損ねたやつのところに来て何をするなんて、誰にでもわかるよ」

大きく息を吸い込んで、フーケは自らに死刑宣告を下すような面持でゆっくりと口を開いた。

「……私を殺しに来たんでしょ?もういいさ……」
言い終わると観念したように眼を閉じ、自分に繋がりがある者たち、そして守ろうとした者たちに心の中で別れを告げた。
そして『ゴメン』と消え入るような声で、漏らすようにつぶやいた。フーケはまさに己の人生がここまでだと悟った瞬間であった。
バレッタはフーケに歩み寄る。
靴の音が一つ響くたびに、フーケの体は強張ってゆく。抵抗するすべはない。確実な死が待っているはずだった。
だが、事態は眼前まで迫ったバレッタの一言で、急転した。

「ブッブー!は・ず・れ♪実はぁー、殺りに来たんじゃないのっ」

その言葉に、思わず呆けた声をあげてフーケは驚き、目を剥いた。
「ふぇっ!?はっ……?」
そのフーケの反応に満足なのか、バレッタは実に上機嫌にしゃべり始めた。
「アハハハっ、バレッタね?あなたをね、逃がしに来たのよ?」

「はぁああああ!?なんで!?あんたが私のことを捕まえた張本人じゃないか!?それに殺そうと思ってたんじゃ!?」

「そうよ。フーケおねぇちゃんの予想通り、宝物庫で殺す予定だったの。それはあなたが敵だとケッコー危ないと判断したから。
 あの大きいゴーレムは、わたしでも正面からじゃろくに戦えないし、『錬金』に関しても厄介どころの話じゃないしね。
 生かしておくのは、得策じゃないと思ったのよ。でも、見事にかわされて、仕留め損ねたの」

「だ、だから、今私を殺しに来たんじゃないのかい?」

「ううん。仕留め損ねてねぇ、逆に生かしておいたほうが益があるかなって思ったのよ。
 優秀な判断能力があるんだもの。バレッタのお願い聞いてくれるよね?賢いフーケおねぇちゃん?」

「つまり……、逃がす代わりに、そっちが出す条件を呑めってかい。
 ひたすらにいい予感がしないんだけど……。私にいったい何を望むってんだい」

思慮外の提案に戸惑いこそあれど、普段の鋭敏な思考能力は働いていた。
この目の前の相手が、決して甘っちょろい性格の持ち主でないこと、
ましてや、捕まえた盗賊を逃がそうとする、悪党まがいのことをする人間であることも、しっかり理解していた。
それに、命と引き換えの条件であるが故に、どんな無茶が押し付けられるのがわからないことも……。

王宮に、忍び込んで宝を盗んで来いとか?いや、王女を連れ去ってこいとか?それとも、盗んだ盗品を横流ししろとか?
はたまた、馬車馬のように働き、下僕として使えろとか?……冗談じゃない、命がいくつあっても足りやしない。

まったくもって、楽観視できなかった。それに、受け答え次第では、即刻殺される可能性すらあると、フーケは考えていた。
フーケは息をのんでバレッタの言葉を待った。
顔の前に人差し指をまっすぐ立て、バレッタは朗らかな口調で条件を示した。

「条件はぁ、たったひとつっ!『これから先、二度とわたしの敵にならないこと』♪」

言葉自体は、きちんと耳に届いたが、頭では、いまいち処理できなかった。
「へ……?それだけ?たったそれだけ?」

口をすぼめ、ぶうたれた様子のバレッタは素っ頓狂な声を上げた。
「えぇーー!?不満なの?じゃーあ♪……もうひとつオマケつけてあーげるっ!」
フーケは慌てふためき、バレッタの言葉に否定の意を表そうとする。
「い、いや、待っておくれよ!不満じゃないよ!さっきの条件だけで頼むよ!」

「ダーメッ!もう決まっちゃったの。まー安心して。すぐに済むことだろうし、そんなに難しくないと思うのよ」
バレッタはオマケの条件に関して話した。
それを聞いたフーケの頭の中では未だに、この状況を把握しきれていなかった。
「それだけ?その条件だって、いくらなんでも安すぎるさね……。
 なんで?それに杖を取り戻した瞬間あんたに逆襲するかもだよ?」

そう言った瞬間、フーケは周りの空気が凍てつくように張りつめたのがわかった。
バレッタの顔に影が落ちている。その影の中に先ほどまでの陽気な少女の目は存在しなかった。

「テメェ……わたしにケンカ売る気あるのかよ……」

フーケは上体をのけぞらし、自分以外にもわかるぐらい音をたてて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
闇の住人、何故かは知らないが、そんな単語が頭によぎる。

「な、ないよ……。で、できることなら、金輪際かかわりたくないね……。わかったわよ、その条件を呑むわよ」

「うん。それでこそよー。相手をちゃんと見極められるならじょーとー♪心配ないわ」

「……まったく、盗賊やってくのも楽じゃないね。しばらく、盗賊業から手をひいて大人しくしてようかしらね」

「あー、バレッタはね、今まで通り、ガンガン盗賊業を続けてほしーなっておもってるんだけどぉー」
犯罪を続けろ宣言に、目を見開いてフーケは驚いた。
「は?どういうことだい?」

「平和は、わたしにとって、金儲けできないから困るものなの」

その言葉にフーケは愕然とした。どう聞いても悪人側の台詞。

フーケは理解できた。なぜ自分を逃がすのか。
平和は、度を超えた暴力装置の存在を容認しない。
バレッタがハルケギニア来る前の人間界でも、魔物達に人間が脅かされる世界であったからこそ仕事が成立していた。

……多少世の中が乱れているほうがこの手の人間にとっては都合がいいってかい。
おそらく私を逃がすのも、私に莫大な懸賞金がかかるのを期待してるってのもあるのかもしれないね。
そして期が訪れたらまた狩るつもりだ。
捕まえた魚を、キャッチ&リリースとか言って、釣り糸と針をつけたまま水の中に放してるのと、なにも変わりゃしない。
堅気の連中だって、私だっていい迷惑だよ。なんでそんなことに振り回されなきゃいけないのさ。
この赤ずきんには、世間一般で言う正義なんてのは存在しない。
だからこそ利さえあれば、自分で捕まえた罪人を逃がすことさえ躊躇がない。無論、自分の害悪となりうるなら殺す。
敵でも、味方だとしても、傍にいたら一番危険なタイプ。
そういや、こいつって使い魔だったわよね。……ご愁傷さまとしか言いようがないわ、その主人ヴァリエールの嬢ちゃん。

「……とりあえずー。ここから出ましょっ?そろそろ誰かが異変に気がついて来るかもしれないしねぇ」
不信感は拭えないものの、フーケは到来した、ある意味奇跡ともいえる機会を逃す愚だけはしなかった。
バレッタとフーケは誰にも気が付かれないように、そろりと部屋を出た。
フーケの脱走から、およそ一時間後、フーケ脱走の事実を朝を迎えるまで知らない学院の人間達は、
アルヴィーズの食堂の上の階にある大きなホールで、フリッグの舞踏会を催していた。
生徒も、教師も含めて皆着飾り、テーブルの上にはこぼれ落ちんばかりの豪勢な料理で彩られている。
そして、その周りで人々は歓談していた。

一仕事終えたバレッタはその様子を、壁にもたれて眺めていた。元々バレッタに舞踏会へ来るつもりなどは存在しなかった。
しかし、今現在この場に身を置いているのは、ひとつ気になることがあったからだった。
その気になることとは、勿論ルイズのこと。

あのフーケ襲撃の夜に至るまで、バレッタにとってルイズは眼中になかった存在であった。
からかって遊んだり、便利に使うことはあれども、ルイズに対して特別何かを考えた覚えはない。
加えて、ルイズ自身が何をしようと、自分に対して何か影響を及ぼす可能性はないものと判断していた。
だが、それは認識の甘さと認めざるをえないほど、意外性を帯びた態度とったルイズの姿を、垣間見た瞬間、崩れ去った。
つまりは、バレッタは自分にとって『厄介な存在』なりうる可能性があるとルイズをみたのだ。
だから、バレッタは、ルイズという一個人を、改めて見極めねばならなかった。バレッタは、そのために来た。

ふと、ホールの入口辺りが一際騒がしくなった。どうやら、この舞踏会の主賓が現れたせいであるようだった。
群がる男をかき分け、その人物はバレッタに近寄ってきた。
その人物とは、ルイズであった。パーティドレスに身を包み、普段とは、また質の違う高貴さを露わにしていた。
その姿は、美貌も兼ね備えており、普段、ゼロのルイズと、からかっていたはずの男達ですら魅了するものがある。
しかし、ルイズは男たちの誘いをすべて断り、バレッタに喋りかけてきた。
「どう?傷の後とか残ってないかしら?一応治癒の魔法をかけてもらったんだけど」
どこか気恥ずかしそうに、当たり障りのないことを手始めにルイズは言った。
その態度にバレッタの表情はわずかに険しくなった。
「別にー。見たところ大丈夫みたいよ。……それより、要件ってのは?」
ルイズは目をつぶり、小さくため息をついた。
「せっかちね。……とりあえず私の話を聞いてくれない?」
バレッタは答えなかった。それをルイズは肯定の意だと受け取った。

「アンタがフーケを追っかけて闇に消えていった昨日の夜。部屋に戻ってから一人、
 いろいろ、自分なりに振り返ってみたのよ。アンタを使い魔として喚んだときから、今までことを……ね」
「へーえぇー」
バレッタは一見興味なさげに、反応した。
「ホント、ろくでもないことばっかりだったわ。私が生きてきた人生の中でアンタと過ごした日々が一番屈辱に塗れてたわ」

「でも昨日、改めて振り返って考えてみたら、少し様相が違ったの。
 なんというか見えていなかったものが垣間見えたというか。ああ、そう。わかったことが一つあったわ。
  前に、私が魔法に失敗してめちゃくちゃにした教室を、片づけてた時があったでしょう?
 あの時はね、何でアンタがあんな態度をとったのかわからなかったのよ。あの厭味ったらしい態度ね。
 でも、今は何となくだけどわかるの。そう……アンタは、あの時、もし自分が、私の立場だったらって考えてたのよ。
 そうだと仮定したとき、アンタは……メイジである貴族なら出来て当然である魔法が使えなかったら、
 そのことで私みたいに嘆いて悔しがるのかなって思ったのよ….…。
 でも、それはないって、すぐに答えがでた。アンタなら“使えないことすら利用する”じゃないかなってね……。
 ……私のこと気に食わないはずよね。アンタの辞書には『諦観』なんて言葉載ってないんだもの。
 アンタの目には、あの時の私の姿は、さぞかし馬鹿馬鹿しく映ったでしょうね」

そんな話はどうでもいいと言わんばかりに、バレッタは鼻であしらった。
「とりあえずぅ。用件だけ、ちゃっちゃと言ってくれない?」

「……そうね、それもそうね。じゃあ言うわね」

喋っている間に、気分が高ぶらないように、ルイズは、目をつぶり一度大きく深呼吸した。
「バレッタ。……アンタとの使い魔契約を取り消すわ」

ルイズとバレッタの後ろでグラスが床に落ちて割れる音がした。

「ど、どどういうことよ!ルイズ!」

その声の主はルイズと同じく綺麗なドレスに身を包んだキュルケであった。
そばには料理が盛られた皿を携えたタバサもおり、目線をルイズ達に向けていた。

「別にいいけど、聴き耳たててたのね。……どうもこうも、メイジと使い魔との間にある主従の関係を解くってことよ。
 ……そもそも私たちの間に、そんなもの存在してた覚えなんてこれっぽっちもないけど」

キュルケは驚きのあまり言葉を失っていた。
ルイズは、バレッタに向きなおり、続きを喋り始めた。

「ちゃんと公的にも書面を用意して取り決めておくから、わかったわね?バレッタ。
 私が直接関わりを持った場合を除いて、私、それにヴァリエール家は、
 今後一切アンタがすること、起こすことに関知しない、だから無論、責任も負わないわ。
 手に刻まれたルーンは消し方がわからないから、そのままにするしかないけど、
 だけど実質的に、晴れて私とアンタは何の関係もなくなる、別にアンタにとっては今までと、さして変化はないでしょうけど」

キュルケは言い寄ってくる男達をのけやるように扱うと、ルイズに掴みかからんばかりに詰め寄った。
「あなたわかってるの!?主人と一心同体であるはずの使い魔を、自ら捨てるって言ってるのよ!
 それがメイジとしてどんなことか理解できないほどバカでもないでしょ!?」

「わかってる、わかってるわ、キュルケ。十分すぎるほどわかってるつもりよ。でも十分すぎるほど考えた上でことなの。
 逆に一つ聞くけど、私がバレッタを繋ぎとめることに、どれほどの意味があるのかしら?」

そう言われてキュルケは言葉に詰まった。
ルイズの言う通りだった。バレッタは使い魔としては絶対働かない。なのに、そのことに固執し続けても何の意味もない。
天を仰ぐようにルイズは顔をあげた。

「私は、終に意味を見いだせなかった……。ホント、今まで、何を必死に繋ぎとめようとしてたのかしら。
 むしろよ、使い魔として従わせることに執着しつづけたら、いずれ身を滅ぼす結果になるに違いないわ。
 バレッタは大人しく人に従うようなタマじゃないもの。
 たとえ、従ったように見せても、相手の喉笛を食いちぎる用意をいつでもしてるんだから……ホント危険極まりないっていうか。
 それにね、私は、他人から私の立場やお金だけ、一方的に利用されるのだけの存在になるのは勘弁ならないわ。
 だから使い魔としての縁を切ることに決めたのよ。なによりも自分自身が後悔しないために……」
「へぇ……なるほどねぇ」
今まで黙って聞いていたバレッタが、感心した様子で応えた。しかしルイズ達からみても明らかなほど、殺気立っている。
その眼はまるで、敵を見据えているかのような眼であった。
ルイズはその眼に真っ向から挑んだ。結果として、二人はにらみ合うような形になる。
その様子を心配そうにキュルケは見ていた。もしもルイズがバレッタの怒りを買ったらただで済まないことを知っているからだ。
「だ、大丈夫なのかしら……」
しばらく、ルイズとバレッタはお互いをにらみ合った。いまや、お互いの息がかかるほど、顔を近づけあっている。
いくらか時がたった後、ルイズの方が、先に口を開いた。
「バレッタ。言っとくけどこれは『諦め』じゃないわ。私が、私自身が前に進むためよ。
 それと、アンタが今まで通り私の部屋に居たいのであれば、『居させてあげる』
 アンタが占領してるベッドも、元々半分貸すだけの約束だったから、『貸してあげる』
 私から巻き上げた金も授業料だと思って、『取り返さないでおいてあげる』
 ……私は諦めないわよ。魔法を使うことも、周りを見返すことも、何もかも。まだ諦めるには早すぎるもの。
 それを邪魔するようなら、たとえ相手がアンタでも、私は『戦う』わ」

バレッタが殊更に眉間にしわをよせすごんでみせた。地獄の番犬でも素足で逃げ出すであろうほどの凄まじい形相。
だが、ルイズはひるまず、一歩もひかない。
バレッタはドスを利かせた声で喋った。

「上等じゃねぇーの。わたしと戦りあって勝てるってか?」

「勝てないわ、絶対に」

ルイスは表情を変えずに、きっぱり言い切った。

「だけど、絶対に対抗しうるだけの力をつけるわ。絶対に。それに、今、手を出されたって後悔だけはさせてやるわ」

不敵な笑みを浮かべてルイズはそう言った。
バレッタは目を細めた。目指すべき目標を定め、腹をくくった人間特有の光がルイズの目には宿っていた。
経験からこの手の人間は実力に関係なく厄介であることを、バレッタは知っていた。それが今、目の前にいる。
正確にいえば、現れた、である。少なくとも昨日のあの時まではいなかった。

「それと……これだけは言っておくわ。バレッタ」

バレッタから一歩離れ、両手の拳を自分の腰に当て、胸を張り、ルイズは言った。

「私っ、アンタのこと大っ嫌いよ」

放たれた言葉の内容とは裏腹に、ルイズの顔には爽やかで、柔らかい笑みがあった。
その言葉に応えるように、バレッタは平然と述べた。

「安心して、ルイズおねぇちゃん。わたしもルイズおねえちゃんのこと大っっ嫌いよ」

バレッタの言葉を聞くと、ルイズは体をくの字に曲げ腹を抱えて笑いだした。
バレッタは訝しげに眉を曲げてその様子をみている。
「アハハハハッ、ッハ!ちょ、ちょっと息がっ……!く、苦しいっ!可笑しすぎて笑いが止まらないわ……!」
憎しみ合うとまではいかないが、二人とも本心でお互いを嫌い合っている。
使い魔と主人は本来強い絆で結ばれ、分かつことができないほど、親密な関係にあるはずであるのに。
この、奇妙な関係が、どうしようもなくルイズにとってオカシかったのだ。
なんとか、笑いを抑えることができたルイズは、顔を上げて、一息ついた。

「……ふう。……これもまた、一つの形なのかしらね。まあ、明日にでも、敵同士になってるかもしれないけど」

言い終わると、ルイズは、バレッタの方へ、すっと手を伸ばした。
「でも今日ぐらいは……」
一瞬バレッタが警戒し、身構えるが、次のルイズの一言で不意を突かれた。

「ちょっと私と一緒に踊りなさい、バレッタ」
「はっ?」

予想外の出来事で、バレッタは不覚にも腕を掴まれ、ホールの真ん中まで引きずられるように連れて行かれることとなった。

「ルイズおねぇちゃん、ちょっと!イタい、イタいよ!……イテぇッって言ってんだろがぁ!!放せっっ!オラァ!!」

バレッタが激しく慟哭するが、ルイズはそれを無視してバレッタの手をとり強引に踊り始めた。

「アンタ、こういうとこで踊った経験とかある?わからなかったら、私に合わせなさい」

「話を聞けっつーの!ちょっと待ちなさいよっ!こちとら昨日から一睡もしてないってのに!ああチクショウッ!」

「いいじゃない、少しぐらい付き合いなさいよ!バレッタ」
楽士達が、テンポの良い曲を奏でているが、バレッタがルイズから逃れようと抵抗しているので、
見事といっていいぐらい、ちぐはぐで、リズムもへったくれもない、なんとも珍妙な踊りになっていた。
酔っ払ったもの同士が、肩を組み、千鳥足でふらついて歩いている様と、程度しての差異はなかった。
周りで踊っていた生徒たちは、その場で足を止め、ルイズとバレッタに注目している。
あまりに、滑稽な踊りなのでホールにいる全員の目を集めていたのだ。
ふと、辺りから、ぽつぽつと嘲笑が沸く。次第に、それは次第に大きくなり、口々に罵りの言葉を叫んでいる生徒まで出る始末。
しかしルイズは気にしない、気にする必要がないと思っているのだった。
踊りは続いた。

そんな様子を見て、先ほどまで、胸が締め付けられるような思いで二人を目の当たりにしていたキュルケは、こそりと呟いた。
「……驚いたわ!まさか、あのバレッタを!ねえ見てタバサ!」
タバサがコクリと頷く、表情にはっきり出ているわけではないが、驚いている様子であった。

あの使い魔に振り回されるだけだったルイズが、今はそのバレッタを振り回しているのだから。

ルイズのことが心配であったキュルケは胸を撫で下ろすような気持ちであった。

「もう、あたしが心配することはないのかも、……ねえ、ルイズ」

その夜、フリッグの舞踏会は、珍妙な踊りをする二人組によって、異様な盛り上りをみせた。


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