あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔はメイド-04


 その日最後の授業が終わると、ルイズは軽く伸びをしてからすぐさま席を立った。
 夕食までは、まだまだ時間がある。
 その間生徒たちのすることは、各人バラバラであった。
 異性に粉をかけたり、カードゲームに興じたり、くだらないおしゃべりをしたり。
 中には真っ先に自室に戻り、予習復習をびっちりと行う勤勉な者もいる。
 ルイズもそんなうちの一人だった。
 これで魔法が使えないという点がなければ、絵に描いたような優等生の出来上がりだ。
 それは入学当初から、使い魔を召喚し、二年へと進級した今も変わらない。
 ゼロと呼ばれて馬鹿にされ、友人がいないこともそれに拍車をかけていたかもしれなかった。
 部屋に戻ると、
 「お帰りなさいませ」
 控えめな笑みと共に、若いというより幼いメイドがルイズを出迎えた。
 ルイズが召喚した使い魔・シャーリー。
 「お茶、いれてくれる」
 ルイズはマントを脱ぐのを手伝ってもらいながら、シャーリーに言った。
 「はい。ただ今」
 パタパタと響くメイドの足音を聞きながら、ルイズは椅子の上で息をついていた。
 やはり、自分の部屋は落ちつく。
 当人にはわからないが、その顔は非常にリラックスしていたものだった。
 いつもの高飛車とも、あるいは驕慢とも言える険が消えたその顔は、ルイズという少女が生来持っている美貌をぐんと引きたてている。
 魔法が使えぬコンプレックスをひた隠しにするように、貴族たらんと虚勢をはる普段からはまず想像もできない顔だった。
 何故、こんな風になれるのかと言えば、その理由はシャーリーである。
 今までルイズが接してきた平民というのは、多くがヴァリエール家の使用人だ。
 名家であり、優秀なメイジを輩出するエリートであるヴァリエール家は、その一族のみならず、その使用人たちにも一種の自負があった。
 そのため、ヴァリエールの人間でありながら、魔法の使えないルイズには少なからぬ蔑視が向けられていた。
 無論、表だってそれを出すわけではないが、繊細な少女の心は敏感にそれらを感じ取っていた。
 だから、ルイズは貴族であることにこだわり、高圧的な態度に出ることが多かった。
 自身の心を防御するために。
 それはこの学院においても同じことだった。
 けれど、シャーリーに対してはそんなことはない。
 する必要がなかった。
 彼女は頭からルイズに従順であったし、十三という年齢ながら家事全般が器用にこなすし、気もきく。
 それに、勤勉だった。
 何よりも、シャーリーは他の平民たちのような、服従の中に蔑みをこめた、あの嫌な眼をしていなかった。
 それはひとえに、異邦人であるシャーリーには貴族=魔法使いという認識がないせいであろう。
 魔法が絶対という感覚を持たない少女にとっては、ハンデを持ちながら決して卑屈にならないルイズの姿は決して蔑むようなものではなかった。
 むしろ尊敬の念さえ感じられるものであったのだ。
 年齢が近いということもプラスに作用したのかもしれない。
 熱い紅茶が用意され、豊潤な香りがルイズの口や鼻を潤した。
 紅茶を堪能し、ほっと息をついてから、
 「明日はでかけるから、今日は早めに休みなさいよ」
 「おでかけですか」
 間を置いて、シャーリーがたずねる。
 「城下町へ買い物に行くのよ」
 「街……ですか」
 この世界にきてからそこそこ日数がたっているが、シャーリーはまだ学院内のことしか知らなかった。
 一体、この魔法の国の街というのはどんなものか。
 不安がなくはないが、少女の好奇心はくすぐられた。
 「そう、馬で……」
 ルイズは言いかけたが、すぐに黙ってしまった。
 「――?」
 主人の態度を、シャーリーは奇異に感じた。
 「あなた、馬に乗れる?」
 ルイズは少しばかり困った顔で言った。
 「いえ、乗馬の経験は……」
 シャーリーは申し訳なさそうに首を振った。
 「そうかあ。困ったわね……」
 ルイズは、人指し指をこめかみに当てながら言った。
 「馬でいってもけっこう距離があるし……。まさか、歩いていくわけにもいかないし……。かといって、馬車だと時間がかかりすぎるし……」
 と、思案に暮れだした。
 「あの、なんでしたら、お留守番を――」
 シャーリーが言いかけた。
 「ダメよ、そんなの」
 ルイズはすぐNOを突きつけてしてしまう。
 かなり強い口調だった。
 「そ、その…。あなたに社会見学をさせるためでもあるんだから、いなかったら意味ないでしょ?」
 ルイズはそう言ったものの、どこか言い訳じみていた。
 シャーリー自身はあまりそのあたりはわかっていなかったが。
 ただ、どきまぎしつつあれやこれやと考えるルイズを見つめるばかりだった。
 「もっと早く行ければ……たとえば、こう空を飛んで……。空、空を飛ぶ……か」
 空と何度も言った後、ルイズははたと気づいたような顔になったが、すぐにまた考え込んでしまった。
 「といっても、主人はあいつだし……そもそもアレは……」
 (何を考えてるんだろ……?)
 シャーリーがルイズを見ていると、ふっと部屋に影がさした。
 窓の外を、何か大きなものが横切ったのだ。
 「あ……」
 「あ!」
 シャーリーとルイズ、二人の少女は同時に、その大きなものを見た。
 それは、いかにも狂暴そうな、大型のワイバーンである。
 肉食性で知られるその狂暴な生き物は、すいっと学院内の敷地に降り立った。
 ワイバーンの背中には、青く長い髪をした少女が乗っていた。
 ひらりと飛び降りた少女は、さげていた革袋から骨付き肉を取り出し、無造作に後ろへ放った。
 ワイバーンはそれを口でキャッチして、ばりばりと骨ごと肉を食ってしまった。
 「考えてたら……か。相変わらず品のない連中ね」
 ルイズはげんなりとした顔で、青い髪の少女とワイバーンを見た。
 シャーリーもそっと様子をうかがう。
 少女のほうはせいぜい顔を知っている程度だが、ワイバーンのほうはわりと顔なじみだ。
 というか、ほぼ毎日顔を合わせている仲だった。
 ワイバーンの名は、モード。
 学院の生徒によって召喚され、使い魔となった、いわばシャーリーの『同業者』だ。
 性別もシャーリーと同じ。
 すなわち、雌だった。
 使用人たちの話によると、この春に召喚された使い魔の中では最大の大物らしい。
 さすがに風竜や火竜などと比べれば見劣りはするものの、ワイバーン属の中でも最大の大きさを誇る種で、下手なメイジよりもずっと危険で恐ろしい。
 と、シャーリーは聞いていた。
 マルトーによると、学院長のオールド・オスマンは若い時ワイバーンに襲われ、あやうく食われかけたことがあるとか。
 噂に違わず、その性格は狂暴で、ルーンの効果か人間を襲うことはないけれど、主人以外にはまったく懐かない。
 元々が、人間が容易く飼いならせるような生き物ではないのだから、仕方ないが。
 他の使い魔たちは、下手をすればおやつにされかねないのでみんなモードを避けていた。
 まったくもって賢明な選択だろう。
 しかし、シャーリーにはその恐ろしさというのは、今ひとつわからなかった。
 確かに巨体で恐ろしい外見だが、シャーリーからすればどちらかというとおとなしく思えた。
 ワイバーンのモードは愛想いいわけでないけれど、シャーリーには牙をむいて威嚇することはなかった。
 そんなわけで、いつの間にかモードの餌はシャーリーがやるようになっていたのだ。
 ワイバーンに続き、主のほうに視線を送る。
 長い青髪に、広い額をした美少女だった。
 ただし、その雰囲気は深窓の令嬢というにはほど遠く、全体に粗野で、獣性すら感じさせるものだった。
 名前は、確か。
 (エザリア? いや、エリザベート? いえ、イザベラ……だったかな?)
 「言うだけ無駄よね、あのガリアの、意地悪おでこ魔女なんかには……」
 ルイズが、諦めたようにため息をついた。
 窓から下を見ると、イザベラは赤い髪をした少女と何か話しているようだった。
 様子からして、友人同士なのだろう。
 こちらはシャーリーもよく知っている。
 キュルケという、ルイズとは仲の良くない少女だ。
 ルイズが一方的に嫌っているようにも見えるが、それは深く言及すべきではないだろう。
 (空を飛ぶ……か)
 シャーリーは先ほどルイズのつぶやいていた言葉を思い返しながら、モードを見た。
 巨大な翼。
 大の大人でも、四、五人は楽々と乗せられるであろう広くたくましい背中。
 こんな生物が襲ってきたらさぞかし恐ろしいだろうが、従順な使い魔であるならさぞ頼もしいだろう。
 (空を飛ぶって、どんな気持ちだろう?)
 憧れをこめた目で、シャーリーはワイバーンの翼を見つめた。


 それから。
 「あの、シャーリー? またお願いできない?」
 空になったティーポットを載せたトレイを厨房まで運ぶ途中、シャーリーはメイド仲間の一人にそう声をかけられた。
 こう言われると頼みごとの内容はすぐにわかった。
 イザベラのワイバーンに餌をやってくれというのだ。
 「いつもいつも悪いんだけど……あのワイバーンに近づいて平気なの、あなただけなのよね」
 「わかりました」
 シャーリーはすぐに承知し、少し早足で歩き出した。
 ティーポットを厨房に運んだ後、すぐに餌をワイバーンのもとへ持っていく。
 餌は、日によって異なるが、大抵は羊か、豚。あるいは牛肉だった。
 その総量、シャーリーのような少女に抱えられるようなものではないが、ワイバーンの巨体を考えると、少量とすら言えた。
 シャーリーが専用の手押し車に乗せて肉を運んでいくと、ワイバーンのそばで主人のメイジが何事かしていた。
 何か長いものを磨いてるようだが。
 (魔法の杖、かな?)
 一口に魔法の杖といっても、わりと個人差があることをシャーリーが知ったのは最近のことだ。
 ルイズの持つタクトのようなタイプが多いが、長い木を削りだしたようものから、青銅製の造花などけっこうバラエティーに富んでいる。
 ワイバーンはシャーリーが近づくと、かすかに首を持ち上げて低く鳴いた。
 「なんだ、メイドかい?」
 使い魔の反応で、気づいたのだろう。
 主人のイザベラも顔を上げた。
 「あの、使い魔の食事を持ってまいりました」
 シャーリーが頭を下げると、
 「ん、ご苦労」
 イザベラはそれだけ言って、また杖?を磨き始めた。
 シャーリーはワイバーンに餌を与えると、帰る前の挨拶をとイザベラのほうを向いたが、
 (……っ)
 イザベラの手の中にあるものをはっきりと見て、驚いた。
 杖ではなかった。
 それは、どう見ても銃である。
 多分ライフル銃の類ではないだろうか。
 銃器などとは無縁の生活をしてきたシャーリーだが、まず見間違えではない。
 それとも、彼女の杖はこういう形のもの、なのか。
 しばしシャーリーは銃に釘付けになったままだった。
 イザベラはシャーリーの視線に気づくと、わずかに表情を歪める。
 「あんだよ、メイジが銃を持ってちゃいけないのかい?」
 「し、失礼いたしました!」
 シャーリーは頭を下げながら、
 (やっぱりアレ、銃なんだ……)
 なんとも不思議な気分になっていた。
 この魔法の世界で、まさか銃にお目にかかろうとは。
 (やっぱり、魔法の銃なのかなあ……)
 密かに考えながら、シャーリーは手押し車を押しながら早々に退散する。
 しかし、
 「ちょっと、待ちな」
 イザベラが急に呼び止めた。
 「は、はい」
 咎められるのでは、とびくびくしながら、シャーリーは振り返る。
 イザベラはじろりとシャーリーを、特にブルネットの髪に注視していた。
 「お前、身内にバンクスとかいうやつはいるかい?」
 しかし、イザベラが聞いてきたのは実に意外なことだった。
 バンクス。
 どうも誰かの名字らしいが、特にシャーリーの記憶に残るものはない。
 「――いいえ。ございません」
 「ふん、そうかい。もう用はないよ、いきな」
 イザベラはひらひらと手を振った。
 シャーリーは訝しく感じながらも、ほっと安心して戻っていった。
 「……なーんか、あの女に雰囲気似てたんだがね。気のせいかな?」
 イザベラはかすかに空を見上げて、つぶやく。
 ぐるる、とワイバーンが鳴いた。


 翌日になって。
 ルイズとシャーリーは、馬を駆って一路城下町を目指していた。
 颯爽と馬を走らせるルイズの後ろを、馬にしがみつくようにしてシャーリーが追う。
 いや、というよりも。
 どう見たってシャーリーは馬に乗っているだけで精一杯だった。
 乗馬などしたことがないので当然なのだが。
 にも関わらず、ぴったりとルイズの馬についてくる。
 (……不思議な子よねえ?)
 ルイズはちらりとそれを振り返りながら思った。
 学院の馬はきちんと訓練されたものばかりだが、それでもまったく経験のない人間が自由に乗りこなせるわけではない。
 なのに、シャーリーはそれができている。
 できているというか、馬が自ら積極的に動いているようだった。
 まるで姫に忠誠を誓う騎士のように。
 もしかすると、この異国の少女には動物を魅了し、従えさせる力があるのかもしれない。
 (……そういえば、どっかでそんな不思議な力のある人間の話を聞いたことがあるような……)
 ヴィ……なんとかだったろうか?
 確か古い本でそんな名前の存在をちらりと目のした記憶がある。
 あらゆる獣を自在に使役する力を持った人間について――
 (でも、まさかねえ?)
 シャーリーは、とてもそんなことをしているようには見えない。
 確かに動物になつかれやすいタイプなのかもしれないが、それはあくまで好意を持たれるということで、自由に操るなどほど遠い。
 「シャーリー、大丈夫? 無理しないで」
 ルイズが声をかけると、
 「は、はいっ」
 必死な表情ながら、シャーリーは返答をした。
 その必死さがどうにも可愛くて、悪いとは思いながら、ルイズはついつい笑ってしまった。


 虚無の曜日。
 魔法学院の生徒はその日をヴァカンス、あるいは勉学や鍛錬に用いる。
 しかし、中には何もせずに部屋の中でじっとしている者もいる。
 イザベラもその一人だった。
 もっとも彼女の場合、平日の授業を勝手に休んで遊びに行く、要するにサボることは日常茶飯事だったが。
 イザベラは机の上で、黒光りする短銃を手入れしていた。
 メイジが銃を熱心に扱うことは珍しい。
 その威力や精度において、銃はメイジの攻撃魔法と比較すれば取るに足らないものだから。
 少なくとも、一般に流通しているものは――
 ゆえに剣と同じく、メイジからすれば蔑視の対象でしかなかった。
 「イザベラ、いる?」
 いきなりノックもなく、ドアが開かれた。
 入ってきたのは、キュルケだった。
 「留守だよ」
 イザベラは手入れを中断することなく、さめた声で言った。
 「ちょっとあなたの使い魔の手を借りたいのよ、お願い」
 キュルケはイザベラの発言をスルーして、手を合わせた。
 「今からじゃ、ちょっと追いつけないの」
 「また新しい男かい? そのうち人に言えない病気もらうぞ?」
 イザベラはうんざりした顔で、銃に弾をこめる。
 その銃は、他の短銃と異なり、レンコンのような弾倉があった。
 弾丸も鉄の玉ではなく、リップスティックを思わせる形状をしていた。
 「違う、違う」
 毒舌を受けてもキュルケは平然としたままで、手を振った。
 慣れているのだろう。
 「ヴァリエールの後を追いかけたいのよ」
 「あ? お前がそっちの趣味に目覚めたって噂はマジなのかい? やだねえー……」
 「興味があるのは、ヴァリエールじゃなくって、その使い魔のほうよ」
 「使い魔ぁ? あいつに使い魔なんかいたか?」
 手入れの終わった銃を懐にしまい、イザベラはようやくキュルケに顔を向けた。
 「そりゃいるに決まってるじゃない。でなけりゃ進級できないわよ」
 「……そうだったね。で、珍しい猫か何かか、その使い魔は?」
 「人間よ。人間の女の子」
 それを聞くなり、イザベラの表情は変わった。
 「人間だと? そいつはマジかい?」
 「もちろんよ。使い魔っていっても、ほとんどメイドみたいなものだけど」
 「……」
 イザベラは無言になった。
 しかし、すぐに立ち上がり、長い髪を後ろで束ね始めた。
 「人間の使い魔か。面白そうだ。いっちょ見学としゃれこもうかね」
 「ありがとう! 手を貸してくれるのね!」
 キュルケはにっこりとしてイザベラに抱きついた。
 「暑苦しい。その無駄にでかい乳、押しつけんじゃないよ」
 イザベラは苦い顔をして、キュルケを押しのけた。 
 キュルケは、
 「あらん、冷たくしないでよ」
 と、笑っている。

 それからすぐに、学院から二人の少女を乗せたワイバーンが飛び立った。



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