あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ベルセルク・ゼロ-18-1


 ルイズ達はアルビオンへの玄関口『港町ラ・ロシェール』を目指して快調に旅を進めていた。
 高く空を舞うグリフォンから振り落とされないように、ワルドはルイズを後ろから抱きしめるようにしっかりと手を回す。
「怖くないかいルイズ?」
「え、えぇ…大丈夫よワルド」
 随分と積極的なワルドに、ルイズは少々困惑する。
 ワルドは自分のことを婚約者と呼んでいたが、まさか本気なのだろうか。
 確かに、父を交えてそんな話をしたことはある。だが、それは10年ほども昔の話。ルイズなんかはまだ6、7歳だった。
 当時はそれなりに本気だったのかもしれないが、言わばそれはおままごとのようなもので、ルイズ自身、そんな約束などアンリエッタが学院を訪問したときに彼の姿を目にするまで忘れていた。
 それを、ワルドは10年もの間忘れずにいたというのだろうか。
 そんな風に思って肩越しにワルドの顔を覗き込むと、思いっきり目が合ってしまった。
 にっこりと微笑むワルド。ルイズは思わず目をそらす。顔が赤くなるのがわかった。
「照れているのかいルイズ?」
「ワルド、こんな状況、女の子なら誰だって照れてしまうと思うわ」
 なにしろお互いの体が近すぎる。背中には否が応にもワルドの温もりを感じてしまう。意識するなというのが無理な話だった。
 ワルドはというと、少し元気がないように見えるルイズの様子が気になっていた。
 会話している時などはわりと元気良く振舞っているのだが、ふとしたときにため息をついていたりする。
 そんなことを考えている間にも、ルイズは眼下の景色を眺めながらほう、とため息をついた。
「元気がないみたいだね。何かあったのかい?」
「そんなことないわ。私はいつも通りよワルド」
 そんなわけがない。その証拠にいつも通りと語るルイズの顔には笑顔が無い。これが本当にいつも通りだというのならそれはそれで問題だ。
 今のルイズは中庭の池のボートに隠れていたあの頃に戻ってしまったようで、放っておけるものではなかった。
 何とかルイズを元気付けようとワルドは話題を探す。
「そういえばルイズ。姫殿下から伺ったよ。君はあの『土くれ』のフーケを捕まえたそうじゃないか」
 ワルドはルイズが『魔法を使えない自分』にコンプレックスを持っていることを知っていた。
 そんな彼女があのトリステイン中の貴族を悩ませたフーケを捕らえたという大金星を、ここぞとばかりに褒めちぎる。
 それでも、ルイズの反応は薄い。
 話している内に、ワルドはおや?と首をかしげた。
「ルイズ、そういえば君の使い魔はどうしたんだ? 身の丈を超える大剣を軽々と振り回す常識離れした剣士だと聞いたが……」
 ルイズが眉をひそめるのがわかった。それから、口をへの字に曲げるのも。
「学院に残ってるわ。でもいいの。あんな奴の力なんて必要ないわ。私たちだけで十分よ」
 声に刺々しさがある。ワルドはなるほど、と笑った。
「ケンカでもしたのかい?」
「そんなんじゃないわ」
「君はその『彼』のことが好きなのかな?」
 ブッ! とルイズは思わず吹き出した。
「そ、そんなわけないじゃない! ど、どこの世界に使い魔に惚れるメイジがいるってのよ!!」
 ぐりんとワルドの方を向いて声を荒げる。ワルドはそんなルイズを見て苦笑を浮かべている。
 む~、とルイズは唇を曲げた。ど~もなにやら勘違いしているっぽい。
 前に向き直るとルイズはふん、と鼻を鳴らす。
 少し落ち着いて景色に目を移すと、遠く広がる青空の下で群青色の山々が霧に霞んでいた。

 ルイズはまたふぅ、と思わずため息をついていた。
(好きとか……そういうのじゃ、ない―――)
 バタバタと黒いマントをはためかせ、巨大なゴーレムの前に立ちはだかるその姿。
 どこまでも力強いその背中が目に焼き付いている。
「ルイズ」
 ワルドに呼ばれて我に返る。
 振り返るとワルドが先程までの微笑みを消して、真っ直ぐにこちらを見つめていた。
 どこまでも真剣なワルドの様子に、ルイズは狼狽してしまう。
「君との間で交わされた婚約。僕は本気だよ」
「え……?」
「この旅の間に、必ず君を振り向かせてみせる」
 そう言って、ワルドはルイズに微笑みかける。元々が他に類を見ないほどの美男子なのだ。そんな仕草がどうしようもなく様になる。
 ルイズはすぐに前に向き直った。
 どうしようもなく頬が熱くなるのを止められなかったからだ。
 気を落ち着けるために再び景色に目を移す。
 広がる青空。風に揺れる大平原。うん、絶景かな絶景かな。
 高まった鼓動が次第に落ち着いてくる。
「……んん?」
 そこでルイズは違和感を覚えた。眼下に広がる大平原。そこには何かが足りないのではないかと。
「あッ!!」
 違和感の正体に気づいてルイズは大声を上げる。
 ワルドの方を見ると、ワルドは「アチャー」と舌を出していた。


 ギーシュは信じられないといった面持ちで空を見上げていた。
 といっても、空にはぷかぷかと雲が浮かぶだけで特に目に付くものは何も無い。
 その『何も無い』ということがギーシュには信じられなかった。
「……嘘だろう?」
 呆然として呟く。
 ルイズとワルドが乗るグリフォンに置いていかれたのだ。
 別にギーシュが特別遅れていたというわけではない。
 その証拠に彼は汗だくだ。必死に馬をおっていたのが見て取れる。
 そりゃあ、あまりに暇だったので馬をおいながらも物思いに耽ることはあった。その時に多少スピードが落ちていたかもしれない。
 この任務が急を要するものだということもわかっている。
 だからといって置いて行くことはないだろう。
 ギーシュはギリギリと奥歯をかみ締めた。
 こんな大失態、姫様に何と報告すればいいのか。
 ギーシュの脳裏に嫌なイメージがよぎる。
「ありがとうございます。あなたたちのおかげで国は救われました」
 アンリエッタの前にかしずくルイズ、ワルド、ギーシュの三人。

「ありがとうルイズ。あなたという友人を持てて私はとても幸せです」
「ありがとうワルド子爵。あなたを選んだ私の目に狂いは無かったわ」
「あら、あなたは誰?」

「うわぁああぁあぁぁああああ!!!!!!」
 頭をブンブンと振って恐ろしいイメージを振り払う。
「ひ、姫様にそんなことを言われたら僕は耐えられないぞ……! 急いで追いつかなくては……!!」
 鞭を取り出し、馬を打つ。馬は迷惑そうに声を上げた。
 そのまましばらく走っていると、ギーシュの駆る馬の物とは違う蹄の音が聞こえてきた。
 それも一頭や二頭ではない。少なくとも十頭くらいの足音が重なって聞こえてくる。
 ギーシュは顔を上げて辺りを見回した。
 左前方に纏まった影が見える。どうやら音の発信源はそこのようだ。
 時間が経つにつれ足音は大きくなってくる。その一団はどんどんこちらに近づいてきていた。

「うげ……!」
 その姿が視認できる距離まで近づいてきたところで、ギーシュは思わず声を漏らした。
 近づいてきていたのは一目でソレとわかる、盗賊団だった。
 貴族であるならば決して身に着けないであろう粗末な鎧を思い思いに身に纏い、その手には銘もないであろう剣や斧などを握っている。
 こっちに来るなというギーシュの願いも空しく、盗賊団はギーシュの進行方向に躍り出た。
 どうやらこの盗賊団は最初からギーシュを狙って近づいてきていたらしい。
 ギーシュは手綱を引き、馬を止めざるをえなかった。
「何の用だ!」
 ギーシュは馬上から気丈に声を上げる。
「盗賊が貴族様を取り囲んで要求するものなんて一つだろう」
 団のちょうど中央辺りにいた金髪の男が笑いながら答える。おそらくその男がリーダー格なのだろう。他の連中とは明らかに毛並みが違っていた。
 その厚い胸板と剥き出しになった太い腕が、男が暴力を生業にして生きてきたことを雄弁に物語っている。金髪の男は、体格だけならガッツにも引けをとらぬほどであった。
 金髪の男の冷たい眼差しがギーシュを射抜く。
 ギーシュはごくりと唾を飲んだ。
「か、金ならないぞ!」
 男は―――『鉄屑』のグリズネフはにやりと笑う。
「理解が早くて助かる。だが、金の有る無しはこっちで判断することさ」
 グリズネフの言葉と同時に、ギーシュは何か、右足に奇妙な圧迫感を覚えた。
 ぎょっとしてギーシュがそちらに目を向けると、地面から伸びた土の腕がギーシュの右足を掴んでいた。
 ぐん! とギーシュの体がその腕に引っ張られる。
「うわぁ!!」
 そのままギーシュは馬上から引きずり落とされ、地面で強かに顔を打ちつけた。
(この男……メイジか!!)
 グリズネフが腰に差している杖を目にしてギーシュは確信する。
 ギーシュの右足を掴んでいた腕は、今度は大きく広がってギーシュの背中に圧し掛かり、ギーシュの動きを拘束した。
 何人かの盗賊が馬を下り、駆け寄ってきてギーシュの荷物を漁り始める。
「けっ、これっぽっちか。しけてやがんなぁ」
 ギーシュの財布の中身を覗いた盗賊が声を漏らす。
 必要最小限の路銀しか持って来ていなかったのが幸いした。
 グリズネフも馬を下り、ギーシュに歩み寄るとその目の前にしゃがみこんだ。
 乱暴にギーシュの髪を掴む。
 グリズネフの青い瞳が冷たくギーシュを見据えた。
「坊主、他に隠してねえか?」
「な……ない」
 グリズネフに至近距離から目を覗き込まれ、ギーシュは息も絶え絶えに答える。
 嘘をつけば即座に殺されるような気がした。ギーシュは初めて感じる本物の『殺気』に、体の震えを抑えることが出来ずにいた。
「ま、はなっから大して期待しちゃいなかったがな」
 グリズネフの空いた手がごそごそと腰元を探る。
「運が悪かったなぁ小僧」
 ギーシュはただならぬ気配を感じてグリズネフの動きを注視する。
 グリズネフは腰から刃渡り20サント程のナイフを取り出すと、笑いながらギーシュの喉に当てた。
「じゃあな」
 ギーシュの全身から汗が噴き出した。
 咄嗟にギーシュは己の胸元を探る。土に拘束された状態でも、何とかポケットに入れていた薔薇の造花に手を触れることができた。
 グリズネフの握るナイフがゆっくりと動く。その鈍く光る刃がギーシュの喉を裂く―――その刹那。
「ワルキューレェェェエエエエ!!!!!!!」
 即座に錬成された青銅の戦乙女がグリズネフを吹き飛ばした。


 ワルキューレの持つスピアがギーシュの体を拘束していた土を払う。
 吹き飛ばされたグリズネフはその巨躯に似合わぬほど軽やかに体勢を整えた。
 さあ、どんな殺意が向けられてくるかとギーシュの体に緊張が走る。
 だが、ギーシュの意に反してこちらに向けたグリズネフの顔には笑みが浮かんでいた。
「ハハッ! そうか! お前『土』のメイジだったのか!!」
 嬉しそうにグリズネフは笑う。ギーシュは困惑した。
「訂正するぜ、運がよかったな小僧! 同じ土メイジのよしみだ。見逃してやるよ」
 ギーシュはぽかんとしてグリズネフを見た。油断させてこちらを襲ってくる、といったつもりでもないようだ。
 それでもギーシュはワルキューレにその身を守らせ、グリズネフから目を離さない。
 そんなギーシュの視線などどこ吹く風でグリズネフは自らの馬に跨る。
 最後にギーシュを軽く一瞥すると、グリズネフは軽く馬の腹を蹴り、馬を歩かせ始めた。方角的にどうやら彼らもラ・ロシェールに向かうつもりらしい。
(た、助かったのか……?)
 他の者たちもグリズネフの後に続く。どうやら本当に見逃してもらえるようだ。
(よ、よかった………)
 肩を下ろし、一息つこうとしたギーシュの動きが止まる。そしてその目が大きくその目が見開かれた。
 見た。
 気付いてしまった。
 ある男の馬の後ろに、一人の少女が座らされている。元々は煌びやかなものであったのであろうドレスはボロボロに破れ、泥に濡れていた。
 力任せに破られたのであろうことは簡単にわかる。わかってしまう。
 ぼろぼろのドレスはもはや衣服としての役割を果たしているとは言いがたく、露出している肌の部分の方が多いくらいだ。
 少女の瞳からは一切の感情が欠落してしまっているかのように、光が消えている。
 美しく束ねられていたのであろう亜麻色の髪は乱れ、そこにも泥が付着してしまっている。
 『少女が何をされたのか』。『これから何をされるのか』。
 それらのことが、あまりにも容易に想像がついてしまう。
 目の前の景色がぐらつく。
 全身の血液が沸騰したようだった。
 ギーシュの中で、グリズネフに対して感じていた恐怖が、怒りによって塗りつぶされていく。
「止まれ!!」
 ギーシュの怒声がグリズネフの背中を叩く。
 グリズネフ達は思わず馬を止め、振り返った。
 ギーシュは己の杖としている薔薇の造花を抜き放ち、グリズネフに向かって突きつける。
「その子を………解放しろッ!!!!」
 少女が伏せていた顔を上げる。
 一瞬、きょとんとしたグリズネフだったが、ギーシュの言葉の意味することに思い至り、声を上げて笑う。
「くっはははは……! 小僧……運はいいが、頭が悪いな!!」
 心底楽しそうにグリズネフは笑う。

 グリズネフの部下たちがその手に武器を取り、次々と馬を下りだした。
 その数は11人。11人が、ギーシュを中心として扇形を描くように展開する。
 ギーシュの前には先程錬成したワルキューレが一体いるだけだ。
 5人の盗賊が一斉にギーシュに向かって駆け出した。
「たった一体でどうしようってんだ馬鹿が!!」
 ギーシュのワルキューレも突進する。ワルキューレの振るったスピアが二人の盗賊を足止めする。
 だが、残りの三人はその脇を潜り抜け、ギーシュに迫る。
 ギーシュの目の前に薔薇の花びらが舞った。
「なら………」
 ギーシュが呪文を紡ぐ。舞い散る花びらが光を放つ。

「七体ならどうだッ!!!!」

 ギーシュの叫びと同時に六体のワルキューレが現れた。
 新たに錬成された六体のワルキューレは迫ってきていた三人の盗賊に同時にスピアを突き出す。
 盗賊たちは突然の事態に対応できず、突進した自らの勢いをもってスピアに貫かれた。
「ぐわあああああ!!!!」
「ぎゃぁあああああああ!!!!」
 そのまま吹き飛ばされた盗賊たちは、急所を外して命こそ永らえたものの、足やわき腹などを貫かれた激痛に悶え転がる。
 動揺する盗賊たちの脇を駆け抜け、一体のワルキューレがグリズネフに突進する。
 グリズネフは既に馬から下りていた。
 突進してくるワルキューレに、顔色ひとつ変えず悠然と佇んでいる。
「いけえ!!」
 ギーシュの号令と共にワルキューレはその手に持つスピアを突き出した。
 ガキン! と『金属音』が鳴り響く。

「駄目……逃げて………!」

 聞こえてきた悲痛な叫びは少女のもの。
 ギーシュは目を見開いた。
 グリズネフはワルキューレのスピアの切っ先をその右手で受け止めていた。
 その手のひらは奇妙なことに金属の光沢を放っている。
 やがてその光沢は右手の拳全体を覆った。
 杖を持った左手で、グリズネフは人差し指をチッチと振った。
「青銅じゃあ、『鉄』は砕けねえよ」
 スピアを握りつぶして、そのまま鉄を纏った右拳でワルキューレを殴り飛ばす。
 顔面をひしゃげさせ、ワルキューレはギーシュの目の前まで吹き飛び、転がった。
 ギーシュの背中を冷たい汗が伝う。
「その年で七体のゴーレムを同時に操るとは大したもんだ、小僧。お前ラインか? トライアングルか?」
「……ドットだ」
「マジか!? お前才能あるぜ!」
 ギーシュの言葉にグリズネフは目を丸くした。
 どうやら本当に驚いているらしい。
 グリズネフはその場で少し屈んで土を拾い上げた。右手を覆っていた鉄は既に消えている。
 拾い上げられた土は、グリズネフの手のひらで小さな山を作るほどの量だ。

「ただな、お前無駄が多いよ。ゴーレムに立派な鎧も兜も必要ねえ。人を殺すにゃあ手と足があって、武器が持てりゃあ十分だ」
 確かに、ギーシュのワルキューレは無駄に凝っている。頭部や鎧には細かな装飾までなされているのだ。外観に凝れば凝るほど錬成する際のイメージを強く持たなければならない。それは確かに精神力の浪費に繋がっているだろう。
 しかし―――――
「な、何でそんなことをお前に言われなければならない!!」
「年長者の言うことは素直に聞いておくもんだぜ? ま、あえて理由を言うならお前のことが気に入ったからだ。圧倒的不利を知りながら俺達に挑むクソ度胸! それも見知らぬ女のためなんていう馬鹿さ加減!! 最高だぜお前……名前はなんてんだ?」
「ギーシュ……ギーシュ・ド・グラモンだ!」
「俺はグリズネフ。『鉄屑』のグリズネフだ」
 グリズネフが杖を振る。すると、右手にあった土が、その通り名を示すように数多の鉄の塊へと変化した。
 特に形が整えられているわけでもなく、所々鋭利に尖っていたりもするそれらはまさに『鉄クズ』と呼ぶにふさわしい。
「ギーシュ。俺の仲間にならねえか?」
「お頭!?」
 グリズネフの提案に部下たちから不満の声が上がる。特に、ワルキューレによって攻撃を受けた5人からすれば到底認められる提案ではない。
 ギーシュはまったく予想もしていなかったグリズネフの言葉に困惑していた。
「悪い提案じゃないだろう? お前はどうやらこの女にご執心らしいが、俺達の仲間になれば好きに『使わせて』やるぜ?」
 少女の肩がびくりと震える。少女は怯えた眼差しでギーシュを見つめていた。
 ギーシュの中で再びグリズネフに対する怒りが燃え上がる。
「この……下衆どもめ……!!」
 ギーシュの眼差しを受けてグリズネフは唇を歪めて笑った。
「つまり交渉決裂か」
「当たり前だ!!」
 六体のワルキューレが再びスピアを構えて戦闘態勢を取る。先程吹き飛ばされた一体も、よろよろと立ち上がるとスピアを構えた。
 グリズネフは笑う。おかしくてしょうがないという風に。
「相対したメイジの力量が測れねえか。そこら辺はやっぱり『ドット』だな、ギーシュ」
 グリズネフは右手に錬成した『鉄クズ』をぎしりと握りこむ。
 同時に左手は杖を掴み、その口はルーンを紡ぐ。
 ルーンの完成はすぐだった。グリズネフは握りこんだ右手を大きく振りかぶり―――爆発的な勢いをもって投げ放った。
「―――ッ!!」
 背筋に稲妻が走ったかのような危機感。
 ギーシュはワルキューレを目の前に集結させ、壁を作った。
 凶悪な勢いでもって飛来する鉄のつぶて。
 放たれた数多の鉄の弾丸は易々とワルキューレの装甲を穿ち、貫き、吹き飛ばす。
 全身に弾丸を受けた一体はぼろぼろにひしゃげて崩れ、またある一体は右半身をもぎ取られ、ある一体は下半身が消失した。
「ぎゃあぁあぁぁぁぁあぁぁあああ!!!!!!!」
 飛び散る鮮血と、響き渡る断末魔。ギーシュは己の目を疑った。
 ―――巻き込まれている。
 グリズネフの攻撃は、先程ワルキューレのスピアによって貫かれ、地面に伏していた者達まで吹き飛ばしていた。
 全身を鉄の塊で貫かれて生きていられる道理はない。
「お頭ぁッ!! 何をっ!?」
「わりいわりい。わざとじゃねえよ。巻き添えになりたくなけりゃ下がってろ」
 悪びれたそぶりも見せず、グリズネフは再び土を拾い上げる。手のひらの土は再び鉄の弾丸へと姿を変えた。

 ギーシュの顔が青ざめる。
 グリズネフは右手で錬成した鉄の塊を弄ぶ。じゃりじゃりと不快な音がした。
「俺は『散弾<ショット>』と呼んでいる。つっても、錬成した鉄を風に乗せてぶん投げてるだけのもんだ。さて、ギーシュ……」
 グリズネフが顎で周囲を指す。全身を鉄の塊に貫かれた三つの死体が転がり、ワルキューレも、無残な姿になった三体が地に伏している。
 吹き飛んだワルキューレの左手が、かなり遠くに飛ばされているのが目に入った。
 グリズネフの『散弾』の威力がうかがい知れる。
「この状況をふまえてもう一度聞くぜ。仲間になるか?」
「断る!」
 それでもギーシュは即答した。
 恐怖がないわけではない。ギーシュの足は震えてしまっている。
 しかし、目の前の男に屈服することだけは到底許容できなかった。
 ぞくぞく、とグリズネフの体が狂喜に震えた。
「いいねえ、やはりお前はいい!! ただ殺すなんてもったいねえよ! ……そうだギーシュ、ゲームをしようぜ。楽しい楽しいゲームだ」
 グリズネフは少女の腕を掴むと乱暴に馬から引き摺り下ろした。
 女の子を物の様に扱うグリズネフの態度が、またギーシュを刺激する。
 出来るだけグリズネフから距離をとろうとする少女の肩を、おかまいなしにグリズネフは抱き寄せる。
「さて……ギーシュ、お前はこの女をどうしても助けたいという。絶体絶命のこの状況で……『騎士道精神』ってやつか? 素晴らしい、本当に尊敬するぜ!」
 馬鹿にしやがって―――ギーシュはぎり、と奥歯をかみ締めた。
「そんなお前に俺は報いたいと思う。ゲームの賞品はこの女だ! お前が今からやるゲームに勝利したら遠慮はいらねえ、この女を持っていきな!」
 グリズネフはぬらりと己の唇を舌で濡らす。
「さぁギーシュ……このゲーム、乗るか?」
 ギーシュは考える。これまでの言動で、グリズネフという男がどういった人間なのかは大体想像がつく。
 そんな男が持ち出したゲームだ。どれほど自分に不利なのか、また、どれだけふざけた内容になるのか。
 だが、断れば―――あの『散弾』とやらを2、3発放たれて、それで終わりだ。
 こちらに了承を投げかけてはいるが、ギーシュに選択権はないのだ。
「ゲームの説明をしろ」
 グリズネフはにやりと笑う。
「ルールは簡単だ。俺が『鉄』の錬成を得意とすることはもうわかるな? 俺はそれなりに魔法のレベルも高くてな、こういうことも出来る」
 グリズネフの手がぽん、と少女の頭に乗せられる。びくり、と少女の体が震えた。
「何を…!?」
 ギーシュが口を開くのと同時に、少女の体が輝く。
 光が消え、しかし一見少女の体には何の変化も見られない。
 一瞬、沈黙がその場を支配する。
「嫌ぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」
 静寂を破ったのは少女の悲鳴だった。


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