あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-10


「おはよーございまーす」
「…ああ、人修羅かあ。今準備するからちょっと待ってくれ」
「はーい」

朝、いつものようにルイズを起こして着替えさせ、身だしなみを整える。
その後すぐ人修羅とルイズの二人は並んで歩き、朝食を食べに行く。
ルイズは食堂へ、人修羅は厨房へ。
いつもの朝、いつもの朝食、いつも気を遣ってくれるシエスタに挨拶される。
……ところが、今日はシエスタの姿が見えなかった。


「マルトーさん、シエスタが居ないみたいだけど、どうしたの?」
食事を終えた人修羅が、マルトーに質問すると、マルトーは包丁を手入れしつつ答えた。
「いや、ちょっと風邪ひいちまったみたいなんだ」
「風邪?」
「厨房で風邪を流行らせるわけには、いかねえからなあ、しばらくシエスタはお休みだ」
「そうですか…お大事にと伝えてください」
「おう」

勝手口から本塔の外に出たところで、ふと気づく。
「そういえば今日は、みんな元気ないな…後でシエスタのお見舞いにでも行くか」



朝食を終えた人修羅は、用事があるとルイズに言って、学院長室への長い階段を上がっていった。
昨日、ルイズの魔法について少しだけ話をしたが、その時は後日改めて研究をするという事で話がまとまったので、それについて具体的な話を聞こうと思っていたのだ。

「あら?人修羅さん、学院長室に何かご用ですか?」
階段を上る途中で、学院長の秘書ロングビルに声をかけられた。
「あ、ロングビルさん、おはようございます。ちょっとルイズさんの魔法について方針とか聞いていなかったんで、聞きに行こうと思ってたんですよ」
「そうでしたか、実は今日、朝からオールド・オスマンは外出しているんですよ」
「え、そうでしたか…じゃあ仕方ないですね。授業にでも出ることにします」

踵を返し、階段を下りようとしたところで、後ろからロングビルに声をかけられた。
「人修羅さん、折角ですから、少しお話でもしませんか?」
「へ?」
気の抜けた返事をする人修羅を見て、ロングビルはついつい微笑みを漏らした。


■■■


人修羅とロングビルはアウストリの広場に移動すると、適当なベンチを見つけてそこに座った。
「人修羅さんはミスタ・コルベールと協力してマジックアイテムを開発していると聞きましたが、トリステインで見かけるアイテムと大きく異なるとか…」
「アイテムっすか…ううん、まあ見て貰った方が早いかな…」
そう言いつつポケットから宝石のようなものを取り出し、ロングビルに渡す、それは透明度の高い水色の結晶体で、大きさは小豆ほどであったが、手にしてみるとその異質さが伝わってきた。

水色の結晶体に触れているだけで、まるで落雷を目の当たりにしたかのような驚きがわき上がってきた。
「こ、これは?」
「ナルカミから生まれた放電体の結晶です。偶然作れただけなんで、威力はそれほどでもないんですけど」
「放電体?」
「カミナリですよ」
「なるほど…これはどうやって使うものなのですか?」
「うーん、昔アギの石は…ああ、アギっていうのは炎の魔法なんですけど、魔法が結晶化したアイテムがあるんです。それを使うときは燃やす範囲を念じて投げつけるだけで発動してました」
「へえ…それはまた凄いですわね。でも、暴発してしまうことは無いんですか?」
「その結晶はマカラカーンといって、魔法を反射する魔法を応用して封じてあるんですよ。敵意とか攻撃意図を鍵にして解放されるんで、暴発はほとんど無いはずです」
「そんな魔法もあるんですか…って、ちょっと待ってください、魔法を反射…って、弾くのとは違うのですか?」
人修羅のさりげない説明にとんでもない言葉が混じっていたのに気づき、ロングビルは額に冷や汗を流しつつ質問した。
「……この世界には無いんですか?魔法とか、物理攻撃の反射って」

ロングビルは手に持った結晶と人修羅の顔を交互に見ると、小声で呟いた。
「風や水で障壁を作ったり、練金で防御壁を作り出すことはありますけど……跳ね返してしまうなんて聞いたこともありませんわ」

人修羅は天を見上げ、そうだったのかーと呟いて顔を手で覆う。
「さっきの話、まだオスマン先生にも言って無いんで、他の人にも言わないで貰えますか……」
「え、ええ。それにしても、人修羅さんのいた国ではとんでもない魔法が使われているんですね」
「一般の人はそんな魔法が存在すること自体知らないですよ。僕ぁたまたま知っちゃっただけですし」
「それでもこういったアイテムを作れるのですから、凄いと思いますよ」
にっこりと笑うロングビルを見て、人修羅はちょっとだけ頬が熱くなる気がした。
ここで大僧正がいたら『煩悩即菩提じゃ』とか言い出すに違いない。
人修羅はふと思い立つと、ポケットの中をまさぐって緑色の結晶体を出し、ロングビルの持っている水色の結晶体と取り替えた。

「これは?」
ロングビルが結晶を見つめながら質問した、結晶はサファイヤのように鈍く透き通っており、陽光に照らされ光を反射している。
「ホントはメディアラハンを入れたかったけど……魔法を付与する技術がまだよく分からないんで効果はディア数回分しか無いと思います。杖の代わりにこの結晶を握って、適当なルーンを唱えると、多少の怪我ならすぐに治りますよ」
「怪我を?治す?……この結晶でですか?」
「ええ。使い切るとただの結晶に戻っちゃいますけどね。片腕を切断したぐらいなら五回は治療できると思いますよ」

さりげなく出てきた”片腕を切断”という言葉に、ロングビルは背筋を震わせた。
人修羅は他人に危害を加えるのをよしとしない、それはここ数日間の監視でなんとなく感じていた事だが、その割にはその能力や、想定している”危機”が危険すぎる気がした。
「…あの、失礼ですが、人修羅さんはいままでどんな生き方を…いえ、どんな戦いをしていたんですか?」
好奇心、怖い物見たさを押さえきれなかったロングビルに、人修羅は困ったような、どこか寂しそうな笑みを返した。
「………数え切れないぐらい戦って、大怪我することもあったけど…。仲魔に助けられてどうにか生きていられたんです」
「仲間ですか」
「ええ、頼もしい連中でしたよ」
そう呟く人修羅の笑みは、どこか寂しそうで、しかし今までで一番のいい笑顔だった。
ロングビルはふと考える、人修羅の力をすべて知っているわけではないが、数々の魔法に、火竜を上回るブレス、そして魔法の反射など、とてもハルケギニアの常識では考えられない能力を持っている。
そんな人修羅に頼りにされる仲間達とはいったいどんな存在なのだろうか。

「シエスタ?」
考え込んでいたロングビルの隣で、人修羅が声を上げた。
ふと顔を上げると、シエスタらしき人物が正門前の馬車に乗り込もうとしていた。
シエスタの服装は魔法学院で見かけるメイド服ではなく、白いシャツに長いスカートの私服姿で、しかも乗り込もうとしている馬車は平民の使うものとは思えない程重厚感のある黒塗りの馬車だった。
ちらりと人修羅の方を見たシエスタは、そのまま顔をうつむかせて、まるで逃げるように馬車の中に入っていった。

「…風邪じゃなかったのかな」
人修羅が呟く。
「風邪?」
「朝、マルトーさんが、シエスタは風邪で休んでるとか言ってたんですけど…あんな馬車に乗って、どうしたんだろう」
「ああ、そういうことですか……そういえばあの馬車の紋章はモット伯のものですわね」
「モット伯?」
「ええ、この間、王宮の勅使として魔法学院に来訪されたのですけど…でも生徒と一緒に授業を受けていたら、ご存じないのも仕方ありませんよね」
「そりゃそうですけど、どうしてシエスタが…?何かあったのかな」

人修羅が腕を組んで考え込んでいると、ロングビルが小声で囁くように、その疑問に答えた。
「…実は、モット伯が来訪されたときに、あのシエスタというメイドが配膳を担当したのですけど…その時、粗相をしてしまったんです」
「粗相って…食器を割ったとか?」
「ええ、その時は気にしないと言っていましたが……その後でモット伯の部下が、メイドにちゃんとした接客を教えるからシエスタ数日差し出すようにと、料理長に言ったそうです」


「…なんだって」


周囲の空気が、一瞬で下がったような気がした。
人修羅の顔を見たロングビルは、その青白い瞳が一瞬だけ金色に見えたような気がしたが、人修羅が馬車の方を向いたので確認はできない。
人修羅とロングビルの目の前で、がらがらがらと音を鳴らして馬車が遠ざかっていく。

ふわりとロングビルの隣で風が動いた、いつの間にか座っていたはずの人修羅の姿が無い。
驚いて周囲を見渡すと、本塔の入り口から中へと入っていく人修羅の姿が見えた。
「いつのまに…!」
ロングビルは躓きそうになりながらも、あわてて人修羅の後を追った。


■■■


食堂では、既に昼食の準備が始まっていた、フォーク、ナイフ、スプーン、小皿などがメイドやボーイ達の手で並べられていく。
人修羅は奥の給仕口から厨房の中を見た、厨房ではコック達が昼食の準備に忙しそうだ。
厨房の奥を見ると、ソースの味を確認しているマルトーの姿があった、人修羅は声をかけるべきかどうか迷ったが、マルトーの方が人修羅の姿に気づいたらしく手招きをしてきた。
マルトーは調味料の並ぶ棚の前に移動すると、人修羅を見てただならぬ気配を感じたのか、体をぶるっと震わせた。

「時間を取らせちゃいますけど、いいんですか」
「ああ、俺が確認するところは一応済ませたからな…ところで、どうしたんだ」
「シエスタは、どうしたんですか」
「あ、ああ、シエスタは風邪で…」
「馬車に乗って、出かけていったのに?」
「うっ……」
返答に詰まるマルトーを見て、人修羅は悲しそうに目を細めた。
それだけでマルトーの心に深い罪悪感が生まれる、人修羅に隠し事をしていいはずがないと、心理的な圧迫感を感じた。

「口止め、されてるのか…いや、されてるんですか」
「…すまん、シエスタに頼まれただけじゃない。おまえさんには知られたくなかったんだ」
「いったい、どうして?」

マルトーは観念したのか、シエスタの身に何が起こったのかを小声で喋り始めた。
シエスタが連れて行かれた理由はロングビルの説明と差はなかった、しかしモット伯という人物の評判に話が及ぶと、マルトーは心底から申し訳なさそうに顔に皺を寄せた。

「……それで、モット伯爵ってヤツなんだが、これが、平民の女を囲うのが趣味だって言われててな…」
「囲うって…マルトーさん、そんな所にシエスタを行かせたのか…!?」
「俺だって逆らったさ!だけど俺は平民だ、魔法学院の中だけならオールド・オスマンが便宜を図ってくれる。
でもそれ以外の場所じゃ俺たちの命なんてあって無いようなもんなんだ! それに、シエスタも俺たちに迷惑をかけまいとして、一人でさっさとモット伯の別荘に行くと約束をしちまった。どうしょうもねぇんだ…」

人修羅とマルトーは顔をうつむかせた、マルトーの両手は力強く握りしめられるのでもなく、力なくぶら下がるのでもなく、やり場のない怒りが彼の手を震えさせるのみであった。
「オールド・オスマンは、このことを知ってるのか?」
「知ってる。今日は王宮に呼ばれてるんで、旧知の学者連中に会って、モット伯を小突く算段を取り付けてやるとか言ってくれたが……それが効を奏するには三日はかかるだろうってな……」
「そうか…」

思わず両手に力が入る、人修羅はキッと顔をあげると、無言のまま早足で勝手口から外へと出て行った。


■■■


「あら? 人修羅ったら、居ないと思ったらあんな所に…」
午前中の授業を終えたルイズは、一度寮塔に戻って人修羅を呼ぼうとした、しかし寮の中にも居ないので、どこにいったのかしらと首をかしげた。
外に出て本塔に向かうと、魔法学院の正門に立つ人修羅の後ろ姿が見えた、ルイズ早歩きで人修羅の近くに寄ると、少しきつめに声をかけた。
「人修羅! 何やってるのよこんな所で」
「…あ、ああ。ルイズさんか、いや、ちょっとね」
「ちょっと何よ。何か珍しい物でも見つけたの?勉強熱心なのはいいけど、あまり物珍しそうにしないでよね、田舎物だと思われるわよ」
「ああ…ごめん。ちょっと考えることがあってさ。昼食、俺はいいから、先に行ってよ」
いつもと違い、どこか遠くを気にするような人修羅の仕草、それが何かを隠しているのだとルイズには感じられた。
しかし、それを今追求する気にはなれない、ホームシックにでもかかっているのだろうかと無理矢理結論づけて、昼食を食べに本塔へと戻っていった。

しかし人修羅は、ルイズが昼食を食べ終わってもまだ正門の前に立ち、外を見続けていた。



「ねえ、彼はどうしたのよ」
ルイズが昼食を食べ終わり、席を立とうとしたところキュルケに声をかけられた。
離れた席に座っていたはずのキュルケが、わざわざルイズの側に来るなんてロクでもないことに決まっている、そう思いこんで不機嫌な態度のまま返事をした。
「何の事よ、ツェルプストー」
「さっきからフレイムが人修羅の側にいるのよ、学院の正門前よ。他の使い間も集まってるみたいだけど……あんたご飯抜きにでもしたの?」
「へっ? どういうことよ、それ」
「直接見てくればいいじゃない。ずっと正門前にいるわよ」
「………」

ルイズもさすがに何かおかしいと感じ取ったのか、少々乱暴に立ち上がると、そそくさと食堂から出て行った。
「それにしても、人修羅って不思議よねえ、使い魔にまで心配されるなんて」


正門前に走り寄るルイズを迎えたのは、キュルケのフレイムやタバサのシルフィードをはじめとする使い魔達だった。
「なっ、なんなのよこれー!」
驚いたルイズがたまらず声をあげると、使い間達と人修羅が一斉にルイズの方を向いた。
「あれ?ルイズさん、どうしたの?」
「何のんきにしてるのよ!」
「いや別にのんきにしてるわけじゃ…」
人修羅に詰め寄ろうとしたルイズは、おろおろと両手を前に突き出した人修羅を見て、はぁーとため息をついた。
「なんでこんなに沢山使い魔が集まってるのよ」
「あー……なんか心配してくれたみたいで、追い返すのも悪いかなあと思ってさ」
「心配? …やっぱりあんた何か隠してるんじゃないの」
「ううんけっしてぜったいほんとうにそんなことはないよ」
「棒読みよ」
「…」

ルイズは一呼吸置いてから、ぐっと胸を張り人修羅を見上げた。
周囲の使い魔達の視線に負けぬよう体に力を入れ、両手を腰に当てて精一杯体を大きく見せる。
「私はねっ、あなたのご主人様なのよ!メイジと使い魔は一心同体なの!だから困ったことがあるなら私に言いなさいよ!……それとも、私が頼りないって言いたいの?」
拗ねたような目で人修羅を見る、すると人修羅は困ったように頭をかいて、ごめん、と頭を下げた。
「ごめん。確かにその通りだ。ルイズさんにはちゃんと話すべきだった。…悩みがあるんだ、聞いてもらえるかい?」

「さ、最初からそう言えばいいのよ。でもここじゃ落ち着かないわね。部屋に戻りましょ」
「午後の授業は?」
「使い魔の世話もメイジの大事な役目よ。だからちょっとぐらい大丈夫……だと思うわ」ルイズは人修羅の手を取って、寮塔へと歩き出した。
人修羅は後ろを振り向いて、自分を気遣ってくれた使い魔達に手を振り、小声でありがとうと礼を言う、すると使い魔達はそれぞれが小さな声で鳴き、いつもの寝床へと戻っていった。


■■■


「シエスタって…あのメイドね。彼女がモット伯の別荘に連れて行かれたって言うのね」
「ああ。ルイズさんもモット伯の評判は聞いてるの?」
「それは、少しは聞いてるけど……良い評判なんて無いわよ」

ルイズは、午後の授業を欠席して人修羅の話を聞いていた。
人修羅はマルトーとロングビルから聞いた話をルイズに伝えた、シエスタが粗相をしたのを理由にして
、平民の女を囲うことで有名なモット伯の別荘に連れて行かれてしまったと言ったとことで、ルイズの表情に嫌悪感と悲壮感が浮かんだ。

「ねえ…どうしてそんなにシエスタのことを気にかけるの?」
ルイズは、心のどこかで嫉妬のようなものを感じ、思わずこんな質問をしてしまった。
それに自分で気づいているのか、少し罪悪感めいたものを感じてしまったが、口から言葉が出てしまった以上は覆せない。

しばらくの沈黙の後、人修羅が呟いた。
「…何十年も前に、俺の居た世界で戦争があった。物資の不足は略奪や強姦、奴隷売買も公然のものとされた。そんな中で率先して体を売り、強姦の被害を減らそうとした女達が居たんだ」
「………」
ごくり、とルイズがつばを飲み込んだ。

「ある人はそれを尊いと言い、ある人は彼女らの名誉のため口をつぐんだ。だがある人は汚いと言って女達を蔑んだ。
……仲魔の一人にシヴァって奴がいた、そいつは破壊を司る司祭でね(ホントは神様だけど)。
体を売らなければ生きられない人、自分の手足を切り落として哀れみを誘い恵みを乞う人にも、この現状を、世界の仕組みを破壊してくれと信仰されていたって聞いたよ」

「またある国では娼婦が格上の男を狙って、魅力や教養を高め、自分の地位を向上させようと躍起になっていた。
その中には慈愛に満ちた人もいれば、権力欲に取り憑かれ毒殺を繰り返す人もいた」

「ある人は自信の誇りにかけて身を犠牲にし、ある人はよいよい生活のために体を道具として使いこなす。
……以前、ルイズさんは貴族について、魔法が使えるか否かでなく、生き方とかが貴族を現すとか、そんな話をしてくれたよね?
シエスタは立派だと思う。ある意味、貴族でなくても貴族を手本にして、立派に生きてる」

ルイズの向かい側に座る人修羅の瞳が、黄金色に輝く。
「ルイズさん、俺は厨房の皆に、特にシエスタにも世話になった。だから俺はシエスタを助け出したい。
……でも俺は破壊することしかできない、トリスタニアなら5分とかけずに焦土にできると思っている。
モット伯の別荘がどれほどの規模か知らないが、跡形もなく吹き飛ばす自信もある。
またはその力を使ってモット伯を脅迫してもいい。
けれどもそれをしたら、ルイズさんにもシエスタにも、よくしてくれた人達全員に迷惑がかかる!俺はどうしたらいいんだ!?
もしかして身を売る事なんてよくあることで、俺の考えていることは場違いなお節介なのか?
それとも平民の扱いなんてそういうものだとして、納得すればいいのか!俺は!」

ぶわりと周囲に風が舞う、人修羅の体から放出された魔力が赤黒い風となる。

「きょ、脅迫なんて駄目だけど、人修羅の考えは間違ってないわよ、私だって、そんな横暴は許したくないわよ!」
恐ろしいまでの力に気圧されながらも、ルイズは必死に腹に力を入れて、人修羅に言い返した。
「……すまん。いや、ごめん。八つ当たりになっちまった…」
人修羅はテーブルに肘を突いて、俯かせた顔を両手で隠した。
その様子を見て少し落ち着いたのか、ルイズは自分の心臓がバクバクと大きな音を立てているのに気づいた。
あまりの緊張で忘れていた呼吸を再開し、息を整えると、顔を隠したままじっと動かない人修羅を見つめた。

「ねえ、人修羅。ねえってば」
人修羅は手を下ろし、ルイズの顔を見つめた。
「今からモット伯の別荘に行くわよ。シエスタは私が個人的に雇う約束をしてる、変な手出しをしたら許さないわ」
「え…」
これには人修羅も絶句した、シエスタを雇うなんて話は聞いたこともない、ましてやルイズがそこまでしてシエスタを助ける義理など無いはずだ。
なぜ?という疑問が顔に出たのか、ルイズは驚いている人修羅の顔を見て、ふんと鼻を鳴らし顔を背けた。

「べ、べつにあんたのためじゃないわよ、あんたに執事をやらせるのに、先生が必要でしょ!ああもう、とっとと行くわよ!馬を借りるわ!」

勢いよく立ち上がってそう宣言すると、ルイズは一目散に部屋から飛び出ていった。
人修羅は驚きと、悦びの混じった表情で呆気にとられていたが、すぐに気を取り直し、出遅れた時間を取り戻そうと、窓から飛び降りてルイズの後を追った。


■■■


……さてそんな気合いを入れた二人は、番兵から別荘の位置を聞き、馬を走らせ、あれよあれよという間にモット伯の別荘に到着してしまった。
ルイズはモット伯について、いくつかの噂を聞いている。
その中でも特に印象に残ったのが、長女エレオノール姉の結婚相手としてモット伯の名前が出た時のことだ。
母は『みっともない』と言い、父は『……』無言で顔をしかめ、エレオノールは『最低だ』と掃いて捨てた。
魔法学院に来てからも何度か噂を耳にしたが、そのどれもが『女好き』とか『平民に手を出し過ぎる』といった内容だった。

二人がモット伯の別荘にたどり着き、驚くほどすんなりと中に通されると、その噂が的を射ていたと嫌と言うほど納得できた。
別荘の外を警護するのは、無骨なプレートメイルに身を包み、槍を持った衛兵、そして犬型のガーゴイル。
しかし中に入ってみれば、案内役のメイドさんは胸元が大きく開いた服を着ており、スカートもギリギリまで短い。
応接間に通されると、給仕のメイドはレースのタイツをはいて、両脇に大きなスリットの入ったスカートを着用していた。
人修羅はそれを見て「チャ、チャイナドレス…」と言っていたが、ルイズには何のことだかさっぱり分からない。

しばらく待っていると、応接室の扉が開かれ、右手と頭に包帯を巻いたシエスタが姿を現した。

「シエスタ!?どうしたんだ、いや、大丈夫だったのか?」
人修羅が立ち上がり、シエスタに近づく。
「は、はい、私は大丈夫です…あの、お二人とも、どうしてこちらに…?」
「あなたを連れ戻しに来たんだけど……」
「えっ、では、迎えに来てくださったんですか」
「そうなんだけど…」

ルイズがどうしたものかと困っていると、扉からもう一人の人物が応接間へと入ってきた。
「やあこれは公爵家のご息女ではございませんか、わざわざこのような田舎の別荘にまでお越しいただけるとは、幸いですなあ」
微妙に先端がカールした口ひげ、整髪剤で整えられたてかてかの髪、姿を現したのはモット伯その人だった。
「わざわざこのメイドを迎えに来たそうですが…?」
「え、ええ。そのメイドは私が個人的に雇う約束をしておりましたの。それなのに突然モット伯の別荘に向かったと聞いて驚きましたわ」

人修羅はいつもと違うルイズの口調に驚きつつ、シエスタの手を引いてモット伯から距離を取った。
「そうでしたか!いやあこれは大変なことをしました、実は別荘に来るまでの間、馬車が暴れ牛に衝突したようなのです。
その衝撃でこのメイド…ええとシエスタでしたな。
彼女は頭と手を打ち付けてしまいまして。これから魔法学院に送り返すところだったのですよ!」
「はあ」

「いやまったく残念ですが、怪我した少女をいたぶるような趣味はありませんからなあ、それにヴァリエール家で雇われるのでしたら私が手出しするのもちと厄介です」
「はあ…」

ルイズはモット伯の饒舌さに驚き、呆れていた。
一念発起してシエスタを助けに来たのはいいが、なぜか肩すかしを食らった気がする。

そんなルイズを無視して、モット伯は人修羅とシエスタに向き直った。
「おお、ところで…気絶したシエスタが、ヒトシュラとか呼んでいましたが、先ほどから手を繋いでいるのを見ると君がヒトシュラですかな」
「えっ、はい、そうですけど」
指摘され、慌ててシエスタの手を離した人修羅だが、シエスタはどこか残念そうな視線を、ルイズはちょっと不機嫌そうな視線を向けてくるので、微妙に居心地が悪い。

「なんと!魔法学院で変わった使い魔が召還されたと聞きましたが、まさか君がそうなのかね!」
「ええ、まあ一応…」
モット伯のテンションについていけない人修羅は、ほんのちょっと後ずさりつつ答えた。
「なるほど、亜人か東方の人間かと噂になっていたが、ミス・ヴァリエールの従者を務めるとは、これは驚かされた! 友好の証に握手を!」
そう言うとモット伯は手を差し出した、人修羅も仕方なく手を差し出すと、モット伯は人修羅の手を両手でがしっと掴み込む、政治家らしく迫力のある握手の仕方だった。

「何!東方の交易品には私も興味があるのでな、何かおもしろいものがあれば教えてくたまえ!ハハハ!」

モット伯は最後までテンションの高いまま、応接室を出て行った。
後に残された人修羅と、シエスタと、ルイズの三人は交互に顔を見合わせる。

「……帰りましょう」
ルイズが力なく呟いた。


■■■


モット伯の別荘、その二階の窓からは、魔法学院に帰ろうとする三人の姿が見下ろせた。
シエスタとルイズがそれぞれ馬に乗り、人修羅がシエスタの乗る馬を引く、シエスタの怪我を案じてのことだろう。
時刻はもう夕方にさしかかっており、魔法学院に到着する頃には夜になるだろうが、人修羅という存在が近くにいれば誰も手を出せないはずだ。
モット伯はそれを見届けるとカーテンを閉じ、振り返る、するとそこには王宮に向かったはずのオールド・オスマンがメイドに囲まれてにこにこと微笑んでいた。
そのすぐ隣のソファには、ロングビルがやたら露出度の高い服を着たメイドにお酌をされ、少し戸惑ったような表情を見せている。

「モット君。『水』のトライアングルとして、政治屋としても意見を聞きたい。人修羅君はどうかね」
グラスを片手にオールド・オスマンが呟くと、モット伯はオスマンの向かいの席に座り、メイドからグラスを手渡されつつ返答した。
「握手して水の流れを探ってみましたが、深すぎる。ラグドリアン湖のように透明ですがいかんせん深すぎて全貌を探れません。
ディティクト・マジックを使って探ろうとすれば、かえってその深さに飲み込まれるでしょう。味方なら守護神、敵ならばまさしく悪魔ですな」
きっぱりと言い切るモット伯の眼光は、先程とは違って鋭く、そして獣じみている。
「それほどかね」
「それほどです。政治家としては……そうですな、王宮の者達にしてみれば東方の話題など与太話に過ぎません。
必要最低限の報告をするのみで、後は伏せておきましょう、事が起こってからでは遅すぎると非難する者などいやしませんよ。
あるとすれば、そういったヤジの得意な者達がよけいな事を起こすのです。
こちらから何もしなければ、人修羅君も王宮も特に動こうとはしないでしょう」

オールド・オスマンはひげを撫でつつ、ふむとうなった。
そもそも今回の騒動は、オールド・オスマンがモット伯と共に計画した、自作自演の劇であった。
シエスタが粗相をしたというのも、実は魔法を使っている、その時点からシエスタ誘拐騒動は始まっていたのだ。
途中、馬車を転ばせるというのはやりすぎだと思ったが、シエスタに何の手出しもせず魔法学院に返すのは不自然過ぎる。
そのた、なるべく怪我をしないように転ばせたのだが、その調節にはとても苦労した。

「そうじゃのう。モートソグニルが人修羅君とミス・ヴァリエールの会話を聞いていたが、人修羅君は争いを必要以上に恐れておる。
自分と周囲に危害が及べば、なりふりかまわず動くじゃろうが…その時が来ないとも限らん。
彼に必要なのは友人じゃな、仲間のため、友のため、恩のため。
そういった価値観が彼の大部分を占めておるのじゃろう、ミス・ロングビルや、君の見立てではどうかな」
いきなり話を振られれたロングビルは、え…と困り顔になったが、気を取り直してオスマンに向き直り口を開いた。
「危険はないと思いますわ。料理長のマルトーに詰め寄った時も暴力的ではありませんでしたし、むしろ自分の無力を嘆いているような気がします」
「うむ…ミス・ロングビル。君さえ良ければ、これからも彼らの力になってやってくれんか?
君は貴族の立場を剥奪された、じゃからこそ貴族の傲慢さをよく知っておるじゃろう、彼らを無用の争いに巻き込まぬためにも、悪意のない第三者になってはくれんか」
「…いつまで魔法学院にいられるか分かりませんが、可能な限り助力致しますわ。その代わりセクハラは止めてくださいね」
「つれないのう」

ロングビルとオスマンのやりとりを聞いてたモット伯は、ハハハと笑い出した。
手近な所にいたメイドを抱き寄せると、隣に座らせて髪の毛を撫でる。
「オスマン先生は未だにセクハラ癖が抜けませんか!さすがですな、女は後腐れ無く買うに限ると言っていたのに、その反面スリルを求めてセクハラを止めぬとは、流石は我が恩師!」

ロングビルがハァ?とでも言いたげな顔でオスマンとモット伯を見比べる、どうやらこの二人にはただのコネではなく、深い繋がりがあるらしい。
「オールド・オスマン。どういうことですか?」
「い、いや……ちょっと説明しづらいんじゃが」

「ならば私の口からご説明致しましょう。私もあの頃は魔法学院の、一介の学生に過ぎませんでした。ところがある日私は同級生の手によって悪名をとどろかせる羽目になったのです。
曰く、『寝小便のモット』と!!これには参りました、確かに私は寝小便でハルケギニア全図を書き上げておりましたがが故意ではありません、しかもそれを二つ名にされるなどあまりにも屈辱的!
私は寮塔に引きこもり授業に出ぬ日が続きました……しかし、そこにオールド・オスマンが現れて私にこう助言して下さったのです!『逆に考えるんだ、本気の寝小便などこの程度ではない』と!
それを聞いた私の心に、雷のような衝撃が走りました、そして私は決意したのです!『波涛のモット』と名乗ることを!
それからは世界が180度変わりました、寝小便で作り上げた水の鞭を操り決闘に挑み、50戦50勝39不戦勝を誇るに至りました!!
しかし強すぎる存在は皆から敬遠されるもの……私の周りには女性など誰も近づきませんでした、そこで私はオールド・オスマンに習い、平民も貴族も分け隔て無く、綺麗な女性ならオールオッケーな態度でエロに挑んだのです!
その結果私は平民の女を囲っていると噂されましたが、何そんなものは気になりません。私は彼女らの奉仕を受ける代わりに教育を施します、もう何人もが卒業して、ゲルマニアやガリアの商業地域で働いております。
田舎で子供達に文字を教えているという手紙も届きます、それもこれもエロのおかげ!エロはすばらしい!MOTTOMOTTO!」


演説を続けるモット伯から目をそらし、ロングビルはオールド・オスマンを睨み付けた。
「最低…」
「そ、そんな目で見んでくれ。ワシだってモット君がこんなになるなんて予想してなかったんだもん…」

ふと、モット伯の隣にいるメイドを見る、彼女は嬉しそうな笑顔でモット伯に身を寄せている。
後ろに控える猫耳をつけたメイドやウサギ耳をつけたメイドも『また病気が始まりましたわ』とか『いつものことですから』とか、苦笑いを浮かべている。
だが誰一人として嫌そうな気配は無い、モット伯という人物は、方法こそアレだが、ちゃんとメイド達から慕われているらしい。


(…化け物じみたお人好しの使い魔、王宮の勅使は変態。こんなので大丈夫かね、トリステインは)
口から飛び出しそうな呟きを、ロングビルはワインと共に飲み込んだ。


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