あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

未来の大魔女候補2人-03



あらすじ

 ゼロと呼ばれる魔法劣等生ルイズは、春の使い魔召喚の儀式において1人の平民の男を呼び出しました。
 何度も失敗した後の成功に最初は喜ぶルイズでしたが、呼び出したのが平民だと分かった途端落胆し、その平民に当り散らします。
 男は、口元と顎に髭を生やして鉄斧を持っていました。
 樵を召喚してしまったと思い、やり直しを要求するルイズですが、儀式を取り仕切る教師コルベールは、頑なにやり直しを認めようとはしません。

「ミス・ヴァリエール、これは神聖なる儀式です。呼び出したモノと好む、好まないに関わらず、契約するのが伝統であり例外は許されません。
 ソレとも何だね? 君は、伝統を蔑ろにして貴族を名乗るのかね? ぅん~?」
「……氏ね、コッパゲ。
 我が名は、ル(中略)ル。 5つの力を司るペンタゴン! 以下省略!」
「や、やった!」
「俺達に出来ない事を(ry」

 分厚い鉄の扉をハンマーでブッ叩いた様な鈍い音を響かせて、契約は完了しました。
 コルベールは『すごくいい』とか言いながら、男の左手に浮かび上がったルーンを夢中で書き写していきます。これにて儀式は完了です。
 ルイズが帰路につこうとした時、今まで呆然としていた男がポツリと聞き逃せない事を呟いたのです。

「…お父さん、いったい誰なんだろう?」
「えっ…… まさか、召喚したときに頭を打って記憶喪失に?」
「…お父さん、君のお父さんなのかな?」
「そんな訳無いでしょっ! ミスタ・コルベール、カムバァッ――クッ!」

 草原には、頭を抱える少女と、しきりに頭を捻る男が取り残されるのでした。



記憶ゼロの使い魔 第3話『愛を取り戻せ』

※嘘です



未来の大魔女候補2人 ~Judy & Louise~

第3話『2人の魔女と2つの月』


 時は夕刻。西の山の向こう側に太陽が半分沈み、東の空から夜の色に塗り替えられていっている。
 広大な草原の中に、五亡星になぞらえられた5つの塔と、それと一体化した城壁に囲まれた一際高い塔がある。それこそがトリステイン魔法学院の本塔であり、5つの塔は始祖より賜った5つの系統を象徴している。
 その由緒有る学院の一番高い場所に学院長室はある。そしていま、その部屋の扉が開いて6つの影法師が廊下へと出現した。
 6つの影法師の内5つは女性のものである。眼鏡をかけて緑の長髪を後ろで纏めた美女を先頭に、蒼、赤、桃、金髪の少女が4人、続けて出てくる。そして、金髪の少女の後を、3つ目の巨大なカエルがついてきている。
 廊下には既にランプの火が灯り、窓から入射してくる真紅の光と、淡い橙色の光が合わさり黄昏時を演出している。
 扉が開いたのに反応して、廊下で寝ていた火蜥蜴が、赤髪の少女に擦り寄ってくる。

「フレイム~ 良い子にしてた?
 ごめんね、学院長室に肉食の使い魔は連れて入れないの。ネズミを食べちゃうから駄目なんだって」

 背中を撫でられて、フレイムと呼ばれた火蜥蜴は気持ち良さそうに眼を細める。敵意など全く無く、全てを主人に委ねているようだ。
 キュルケは周りに見せ付けるかのように、使い魔を猫可愛がりする。

「話は長いし、立ちっぱなしだしで疲れちゃったわ。
 ねえルイズ、貴女も大人しくしてた使い魔を褒めてあげたら?」

 からかいを含んだ顔で、桃色の髪の少女に微笑みかける。

「な、な、な、なによ、そ、そんなこと言われなくても、ほ、ほ、褒めるわよ。
 よ、よく、大人しくしてたわね、ポセイドン。え、え、え、偉かったわよ」
「ちゃんと顔を向けて言えば? 撫でてあげれば喜ぶんじゃない?」

 ロングビルの背に隠れて、決してポセイドンを見ようとはしないルイズを見て、キュルケは更にからかって挑発する。ロングビルは、ルイズに背中をグイグイ押されて迷惑そうだ。
 そんなやり取りを不思議そうな眼で見ていたジュディが、疑問を口にする。

「もしかして、ヴァリエールさんはカエルが苦手なの?」
「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そんな訳ないでしょ! わ、わ、私が両生類如きを怖がるとでも思ってるの!?」
「そうよねー、天下のヴァリエールがカエルを怖がるなんて、ある訳ないわよねー」
「ギ、ギ、ギ……」
「…………?」

 さも面白そうにからかうキュルケと、悔しそうに歯ぎしりをするルイズを交互に見て、ジュディは首を捻る。

「ヴァリエールさんとツェルプストーさんは友達じゃないの?」
「「違うわ」」
「いいことジュディ。あたしとヴァリエールは、犬猿の仲で仇敵同士なのよ」
「そうよ。こんなのと友達じゃないわ! 考えただけでも虫唾が走る……っ!」

 示し合わせていたかのように、2人同時に言い放つ。 
 暫らく、お互いの家がどれだけ仲が悪いかを延々とジュディに説明する。
 要約すれば、ルイズの先祖はキュルケの先祖に恋人や婚約者、果ては夫や妻までも奪われ続け、そして戦争の度に殺し合いをしてきた間柄だという事だった。

「「だから間違っても、友達同士じゃないの。わかった!?」」

 2人が同時に、ジュディに言い含める。一語一句違える事無く、しかも発音に至るまで全く同じであった。
 色々腑に落ちないモノを感じるジュディだが、取り敢えず頷く。

「うん、わかった。ヴァリエールさんとツェルプストーさんは、仲良しじゃないんだね?」
「……ルイズよ」
「えっ?」
「ルイズでいいわ。これから一緒の部屋で寝起きするんだから、ルイズでいいわ」
「うんっ。ヨロシクね、ルイズさん!」

 少し顔を赤らめているルイズに、ジュディは元気よく笑顔を返す。その笑顔を受けて、ルイズは益々顔を赤らめて、そっぽを向いてしまう。
 そんな様子を他の3人は、微笑ましいものを見る目で見守っていた。

 既に陽は落ちて、空には星が疎らに煌いている。西の山の周りだけが赤く染まっているが、それも直ぐに夜の色に塗り替わる。
 ランプの柔らかい光が薄暗い廊下を彩り、影が揺らめく。
 夜となった窓の外を眺めながら、ロングビルが誰ともなしに話し掛ける。

「少し長話がすぎたようですね。もう、陽が沈んでしまいましたし、早く寮へ帰りましょうか」

 皆はそれに口々に同意して、階段へと歩を進める。
 ロングビルを先頭に、軽い雑談をしながら一行は階段を下りていく。階段の窓からは双月が姿を覗かせ、踊り場には淡い月光が射し込んでいる。
 そんな中、ルイズはどこか虚ろな目をしていた。
 ジュディはそんなルイズを、横目でチラチラと盗み見ていたが、それもやがて、体をくねらせて危なげ無く階段を下りていくフレイムの尻尾に興味は移っていった。
 ジュディとルイズは、肩を並べて階段を下りていく。その後方からは、ピタンピタンという音がついてくるのであった。



◆◆◆



「行ったかね?」
「行ったようですな」
「やれやれ、なんとも姦しい事じゃな」

 扉の向こう側からの話し声が遠ざかっていくのを見計らい、オスマンとコルベールは互いに顔を見合わせた。
 どうやら2人とも、ルイズ達の長話が終わるのを、辛抱強く待っていたようだ。
 オスマンは、糖蜜で固められた煙草がチャコールで燻されるのを待ちながら嘆息する。

「さて、これでゆっくりと話すことが出来そうじゃの。
 ミスタ・コルベール、君はさっきの話を聞いて如何思った?」

 オスマンは、顎をしゃくってコルベールに問いかける。
 顎に指を当てて考える振りをして、コルベールは話しはじめた。

「そうですね……
 ジュディさんが居た場所はハルケギニアではない。これは確実でしょう。
 しかし、東方ですらないと言うのは些か飛躍し過ぎなのではないでしょうか?」

 コルベールは、ジュディが別大陸から来たという説には些か懐疑的なようだ。
 東方とは、帝政ゲルマニアの東にある砂漠を越えた先、聖地の遥か向こう側の総称であり、ある理由から交流が長らく途絶えている地域である。
 そんなわけだから、東方がどんな場所なのかは誰も知らず、貴重品や珍品が東方産という名目で出回っている。その事が原因で、各人が持つ東方のイメージは、1つとして同じものが無い位だ。
 それ故に、東方ではない場所から来たと言われても、いまいち釈然としないのであった。
 さもありなんといった表情でオスマンは頷き、水煙管から伸びたホースに手を伸ばす。そして、ホースの先についているマウスピースを咥えて、ゆっくりと煙を吸う。
 水煙管の中は、チャコールで燻された煙草から出た煙で満たされている。ホースを吸うと、ボコボコと音を立てて、煙が煙管内の水を通過する。

「ふ――…
 ミス・ロングビルが居ると、中々吸わせてくれんのでの」

 オスマンは、肺一杯に吸い込んだ煙を一気に吐き出す。水煙草の煙は、一度水の中を通過しているのと、糖蜜で香り付けをされているのとで、紙巻き煙草のような不快感は軽減されている。
 甘い香りの煙を吹きかけられたコルベールは、平手で煙を散らして顔を顰めている。

「如何じゃね? 君も吸うかね?」
「いいえ、結構です」
「なんじゃ? 付き合いが悪い奴じゃのう」

 煙をプカプカと吹かせながらオスマンは、面白くないような顔をして話を続ける。

「まああれは、あくまでも仮説に過ぎん。真実はもっとブッ飛んでいるやもしれぬぞ?」
「何の根拠も無く、あんな仮説を立てたのですか?」
「まさか、そんなわけ無いじゃろうが。あんな事を言ったのには、ちゃーんと理由がある。聞きたい? ねえねえ、聞きたい?」
「いいえ、結構です。こんなあやふやな問題を長々と話していても、益体も無いでしょう。
 それよりも、さしあたっての問題があるでしょう、オールド・ワン」
「オスマンじゃよ。つーか、文字数も当っとらんじゃないか。
 ……で、その問題はアレかね? ソレかね?」

 全くコルベールが乗ってこないので、オスマンは面白くないようだ。ヒラヒラと手を振って、投げやりな口調であやふやに問い掛ける。
 コルベールは、いちいち気にしていてもしょうがない事を今までの経験で分かっているので、特に何も文句は言わずに話を進める。

「アレの事も気に成りますが、さしあたっての問題は左手のルーンらしき痣です。
 コレを如何にかしない事には、帰すことも儘なりませぬ」
「ソレかね。
 まあ妥当に考えるのならば、使い魔のルーンの成り損ない。と、言ったところじゃろうな。
 じゃが、ルーンを解除するには、使役者か使い魔が死んだときだけ。それ以外でルーンが消えたという例は聞いたことが無い」
「ですが、成り損ないのルーンならば、なにかしらの可能性が在るのではないでしょうか?」
「ふーむ…… どうじゃかのう?」

 オスマンは片肘をついて煙を吐き出す。見る者が見れば物憂げに見えるのだろうが、あいにくコルベールには、やる気が無いようにしか見えない。

「ジュディさんには、大船に乗った気でいろとか言っていたではないですか。 あれはただ、格好を付けただけですか、オールド・ファッション?」
「そんな訳無いじゃろ。ジュディちゃんに言った事は本当じゃ。じゃが、余り乱暴な手段は取る訳にはいかんから、こうやって考えとるんじゃろうが。
 焦って事を仕損じては不味いからのう。やるならば、完璧を期さねばならん。
 あと、オスマンじゃよ。そんな、サクサクしたドーナツみたいな名前ではないわい」
「……なるほど。確かに焦ってはいけませんな」

 コルベールは、オスマンの説得を聞き入れる。そして、気持ちを落ち着かせるためか、こめかみと眉間を揉み解す。
 そんなコルベールにオスマンは、畳み掛けるようにして言い放つ。

「そうじゃろう、そうじゃろう。焦っても何にもならん。腰を据えて確実にやらんとな。
 ちゅー訳で、これから飲みに行かんか? そこでじっくりと、今後の事を話し合おうではないか」
「良いですね。それならば良い店を知っています。きわどい格好をした若い女性が、酌をしてくれるという店です」
「いいのう、いいのう。早速街へ繰り出そうか。それにしても君も好き者じゃな、ミスタ・コパ」
「コルベールです、オールド・オスマン。
 ですが、そんな事はどうでも良いですな。行きましょうか」

 真面目な空気から一変。お互い、だらしがない顔で笑いあう。
 オスマンは目を瞑り、鼻の下を伸ばして想像の翼を全力ではためかせている。先ほどまでジュディに見せていたような好々爺な雰囲気は見られず、なんともまあ、唯のエロ爺である。
 コルベールはコルベールで、研究の成果を見せびらかす時にも見せないような、いい笑顔を浮かべている。
 もし、ロングビルがこの場所に居たならば、汚物を見るような眼をしていることだろう。
 2人はにこやかな表情を浮かべて、歩き出す。

「それで君。そのきわどい格好というのは、どれ位のレベルなのかね?」
「ははは。心臓麻痺を起さないで下さいよ?」
「なんと! それはそれは…… 楽しみじゃのぅ」

 まるで話し合う気配が感じられない会話をしながら、2人は学院長室から出て行った。
 主が出て行き無人と成った学院長室で、呆れたような鼠の鳴き声が、小さく響くのであった。



◆◆◆



 既に夜の帳は下り、穏やかな空気が学院全体を包み込む。
 昼間、太陽で温められていた学院の石壁は、少しずつ熱を手放して空気を暖め、気だるい心地よさを与えている。
 トリステイン魔法学院は全寮制の学院である。学院の敷地内には3つの寮があり、その内の1つ、女子寮にジュディは居た。ちなみに、あとの2つは男子寮と教師用の寮である。
 女子寮の3階にあるルイズの部屋の入口で、ジュディは立ち尽くしていた。
 ジュディが部屋の入り口から中を見回すと、右手には豪奢な天蓋の付いた大きなベッドがあり、左手には精緻な彫り物が施された大きなクローゼットが置かれている。
 そして、奥に視線を向けると、豪華なカーテンのかかった広い窓から夜の景色が見える。
 床には分厚い絨毯が敷かれており、ジュディの体重を優しく押し返してくる。
 部屋を飾る調度品も高級品揃いで、中央にはシッカリした作りのテーブルが置かれている。ジュディは初めて見る光景に、目をまん丸に見開いてしばし見とれていた。

「ほら、ぼーっとしてないで、早く部屋に入って荷物を置きなさいよ」

 入口で呆然としているジュディにルイズが声を掛ける。
 感極まった様子でジュディは感嘆の声を上げた。

「すごーい。こんな広い部屋初めて!」
「ほら早く、ドアを閉めて入ってきなさい」
「はーい」

 素直に頷いてドアを閉める。
 ちなみに部屋には2人しかいない。ポセイドンは、ルイズきっての希望により廊下で待機している。

「ねえルイズさん。やっぱりカエルが嫌いなんじゃないの?」
「そ、そ、そ、そんにゃ訳無いでしょ!
 カ、カエルなんだから、湿ってるでしょ? 部屋に、か、か、か、カビが生えちゃうじゃない!」
「確かにポセイドンは湿ってるかも? でもヒンヤリ、スベスベしてて気持ちいいよ?」
「と、と、兎に角ダメなの! 水場辺りに放しとけばいいでしょ!」

 断固としてルイズは、ポセイドンの入室を許可しようとはしない。
 そんなルイズを見て、ジュディは思う。

『やっぱりルイズさん、カエルが苦手なんだ。
 でも知られたくないみたいだし、言わないほうがいいのかな?』

 そんな風に考えるジュディに、ルイズが躊躇いがちに話しかけてくる。

「ねえ、ジュディ? 聞きたい事があるんだけど、いい?」
「なんですか?」
「ポセイドンのことなんだけど、消したりすることは出来ないの?
 さっきファミリアを、何もない所から出したり、何処かへ消したりしてたじゃない。
 あれは出来ないの?」
「えっと、ポセイドンとの繋がりが消えてるからわたしには出来ないけど、ルイズさんなら出来るかも?」
「どうやるの!?」
「わっ」

 ルイズがジュディに詰め寄る。両手でジュディの小さな肩を抱いて、必死に問い詰めてくる。

「どうやってやるの?! お願い教えて!」
「落ち着いて、ルイズさん。
 まずはね、心の中でポセイドンの事を思い浮かべるの」
「うっ…… しょうがないわね」

 ルイズは一瞬嫌な顔をするが、背に腹は代えられず渋々目を閉じて集中する。

「お、思い浮かべたわ。次はどうするの?」
「次は、心でポセイドンを感じ取るの」
「感じ取る? ご、五感の共有をするっていうこと?」
「うん、そんな感じ」
「うぅ…… 出来るかしら……?」

 ルイズは固く目を瞑って、さらに深く集中する。
 ジュディは、そんなルイズを見守っていたが、すぐに異変に気づく。ルイズの息は荒くなり、大量の汗をかいて小刻みに震え始めたのだ。

「ルイズさん、ダイジョウブ?」
「目が、オレンジ色の目がっ! いっ、いやぁっ! らめぇ、堪忍してぇ!」

 ルイズは目を見開いて叫びながら、椅子や机にぶつかるのにも構わず床を転げまわる。
 左右に何度か転げ回った後、ピタリとルイズは急停止した。溜息をついてゆっくりと立ち上がり、落ち着いた様子で服に付いた埃を払う。

「スコシトリミダシテシマッタヨウネ。モウダイジョウブヨ」
「本当にダイジョウブ? ルイズさん」

 ルイズは仕草こそ落ち着いてはいるが、平坦な声で感情が感じられない。
 尋常ではない様子のルイズを心配するジュディだったが、部屋に乾いた音が響きそちらに振り向く。どうやら、誰かが扉をノックしているようだ。
 ルイズも心配だが、お客を待たせてはいけないと考え、扉を開ける。

「はーい。どなたですか?」

 扉を開けるとジュディの視界には、胸元の大きく開いたブラウスをはち切らんばかりに隆起させている胸が飛び込んで来た。
 そのボリュームに圧倒されるジュディだが、そこから視線を上向けると、健康的な褐色の肌と燃える赤髪が目に入る。

「あっ、ツェルプストーさん。それと……タバサさん」

 訪ねて来たのは、キュルケであった。その後ろには、タバサが本を読みながら静かに立っている。
 キュルケは気さくにジュディに声を掛けてくる。

「ハイ、ジュディ。ヴァリエールに虐められてない?」
「わわわ私が、そ、そ、そんなことする訳ないでしょっ! そ、それに、一体何の用よ、ツェルプストー!」

 何時の間にか立ち直ったルイズが、怒りを露わにしてキュルケに抗議する。
 激昂するルイズとは対照的に、キュルケは泰然自若としたもので余裕の態度を崩さない。

「もうすぐ夕食だから、呼びにきたのよ」
「そんなの、アンタに言われなくたって分かってるわよ!」
「別に貴女じゃなくて、ジュディを誘いに来たんだけどね。
 ねえ、本当に虐められてない?」
「だ・か・ら! そんなことする筈ないでしょう! 私を何だと思ってんのよ!」

 焼けた鉄よりも顔を赤くさせて、ルイズは怒り心頭といった具合だ。
 そんなやり取りをする2人に、ジュディはおずおずと割って入る。

「ねえツェルプストーさん、虐められたりしてないよ?
 ルイズさんは優しくしてくれてるよ」
「あら、そう?
 良かったわね、ルイズ。庇ってもらえて」
「キィ――ッ!
 全然信じてないわね!」
「あっはっは」

 ジュディの発言も焼け石に水で、2人の口喧嘩?は収まることはない。
 喧々諤々とじゃれあう2人から視線を外して、我関せずを貫いているタバサに話しかける。

「ねえねえ、タバサさん。何時もこんな感じなの?」
「…………」

 問いかけを受けてタバサは、本から視線をだけを外してジュディを見やる。そして『何時もこうだから、気にするだけ無駄。放って置くしかない』と、いったニュアンスを込めて頷く。
 タバサの頷きを、半分も理解出来なかったジュディだが、手の付けようがない事だけは伝わったらしく、それ以上何も言わなかった。

『ルイズさんの後ろにポセイドンが居るけど気付いて無いのかな?
 あっ、フレイムが欠伸した。可愛い~』
『ユニーク……』

 肩を並べて待つ2人は、各々別の事をして喧嘩が終わるまでの暇を潰すのであった。



◆◆◆



 トリステイン王国の城下町は、夜になっても活気に溢れている。魔法の街灯が幾つも灯り、夜の街を昼さながらに照らし出している。
 いかがわしい酒場や賭博場などが立ち並び、決して健全と言えない雰囲気を持つチクトンネ街。城下町の裏の顔ともいえる街である。
 街ゆく人々には、酔っ払いが多く見受けられる。そして通りの死角では、香水臭い商売女たちが鎬を削りあっている。
 そんな喧騒の満ちる街で、歓楽街の帝王を名乗る男の経営する酒場に、迷惑な客が2人、管を巻いていた。

「あんな小さな子が、家族と離れ離れになるなんて可哀想だと思わんかね!?
 老人のサガとしては、手を差し伸ばさざるを得ないのだ。君ぃ、分かるかね?」

 老人が、乱暴に手をテーブルに叩きつけて力説する。

「ええ、分かりますともっ! あの水晶に使われていた未知の魔法、ものすごく興味をそそられます!」

 老人の対面に座っている頭髪の乏しい男が、ギラギラしたものを宿した目を見開いて力の限り頷く。

「そうか、そうか! 分かってくれるか!
 行き成り知らない場所に放り出されたというのに、あの健気で素直な態度! 何処かの馬鹿貴族共に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいぢゃ! くぅ~、泣かせるのぅ」
「ええ、全くのその通りですね! きっと東方には、素晴らしい技術や文化が溢れているのでしょうなぁ。
 ところで、今研究中のカラクリに、予算の追加をお願いしたいのですが……」
「わかっとる、わかっとるわい。あの子を生徒にしたいと言うのぢゃろう? あんな素直な生徒を受け持つのは、教師冥利に尽きる事ぢゃろうて。
 では早速、ジュディたんのサイズに合った制服を拵えんとな!」

 全く噛み合っていない会話を繰り広げているのは、オスマンとコルベールである。
 2人とも顔は真っ赤に染まって、頭が左右にフラフラと揺れている。まごう事なき酔っぱらいであった。
 テーブルの上には、ワインの空瓶が何本も転がり、皿が幾つも重ねられている。
 周りを気にせず大声で喚いている2人を、店の女給達は遠巻きに見ている。
 実はこの2人、最初は女給達の際どい格好に、黄色い声をあげて喜んでいたのだが、酒が入るにつれ議論?が白熱し、それに夢中になっていったのであった。
 しかも、議論?に夢中になる余り、女給達を追い払ってしまい、女給達は注文を取る時にしか寄り付かなくなっている。
 チップの払いが悪い2人は煙たがられているが、酒や料理の注文は多いので、店側は追い出す訳にもいかない。全くもって、厄介な客であった。

「ああ、もし帰る方法が見つからんかったら、ワシの養子にしたいのぅ。
 ああいう子に『お爺ちゃん』なんて呼ばれたら、もう辛抱たまらん!」
「嗚呼…… 東方に行くならば、やはりフネが必要でしょうな。
 しかし、問題なのは航続距離です。ガリア上空の飛行許可が取れたとしても、サハラとその先にある聖地を飛び越えるには、既存のフネでは全くの力不足です!
 大量に風石を積むよりも、如何にかして風石の消費を抑える工夫をした方が賢明でしょう。
 今、研究中のからくりを応用すれば…… いや、今のままでは力の変換効率が…… 翼を取り付けて、持ち上がる力を利用すればあるいは?」

 オスマンは至福の表情で身悶え、コルベールは顔を伏せて難しい顔をしながらブツブツと考えこんでいる。

 …………

「やはり、何の説明もなくあのカラクリを見せて、ヘビ君がぴょこぴょこ飛び出すのを見せれば…… ふふふ、拍手喝采間違いないで御座るな……」
「んがー…zzz」

 どれだけ時間が経ったであろうか。オスマンはテーブルに突っ伏して鼾をかいて眠りこけ、コルベールはワインをチビチビやりながらブツブツ言っている。
 注文が止まり、酒に手を伸ばす頻度が減ったのを見計らい、歓楽街の帝王は2人にお暇して貰おうとテーブルに赴く。
 そんなこんなで、夜は更けていくのであった。



◆◆◆



 既に、夜の帳が落ちて数刻が経つ。
 天には赤と青の双月と無数の星々が煌き、地には人が灯した人工の明かりが儚く揺れている。
 寝間着に着替えたジュディは、ルイズの部屋の窓を開けて夜空を見上げていた。ルイズは鏡台の前に座って髪を梳かしている。
 ジュディが耳を澄ますと、学院の隣にある森から木々のざわめきが、夜風に乗って聞こえてくる。
 梟の鳴く声、草花を揺らす穏やかな風、それら全てがジュディに故郷を思い起こさせる。

「ラズリアとエローゼは何処から見ても変わらないんだ……」

 寄り添う双月を見上げて、ジュディはポツリと呟く。

「ジュディ、どうしたの? 鏡台、空いたわよ」
「あっ、はーい……」

 ジュディはそれに返事をして、鏡台の前に座る。その声には、昼間のような元気良さは無い。
 気落ちした様な声に気がついたルイズは、髪を梳かすジュディの背中に声を掛ける。

「ねえ、さっき何を見てたの? ラズなんとかって聞こえたけど」
「えっ? お月様を眺めてたの」
「月を?」
「うん。ココから見る月も、サドボスから見た時と一緒ね」
「そっか、どんなに離れていても月は同じなのね。櫛、貸しなさい。やってあげるわ」

 ルイズはジュディの背後に立ち、櫛を受け取る。
 ルイズがヴァリエールの屋敷にいた頃は、下の姉カトレアに優しく髪を梳いてもらったものだ。その時の事を思い出しながら、ジュディの髪を優しく梳いていく。

「それで、ラズなんとかって言うのは?」
「それは月の名前よ。陰の月ラズリアと、陽の月エローゼ」
「陰? 陽? どっちがどっちなの?」
「えっとね、青い方がラズリアで赤い方がエローゼ。こっちでは何ていうの?」
「へー、そうなんだ。こっちでは単純に、赤の月、青の月って言うわね」

 ジュディの髪を梳かす手を休めずに話し掛ける。

「ジュディは私達とは違う魔法を使うみたいだけど、どんなのが使えるの?」
「んー? わたし、まだ自力じゃ魔法が使えないの。
 術具かファミリアの力を借りないとダメなの」
「そうなの? ファミリアは分かるけど、術具って言うのは?」
「五行の力が宿った杖とか腕輪に、魔法の術式が組み込まれた道具よ。
 それなら誰でも簡単に、術を使う事が出来るの」
「それ持ってるの?」
「うん。見せようか?」
「……今はいいわ」

 ルイズは髪を梳く手を止めて少し考えるが、直ぐに首を振る。そして、また優しく髪を梳かしていく。
 しばらく取り留めもない話を続ける。

「……はい。出来たわよ」
「えへへ。アリガトウ、ルイズさん」
「どういたしまして」

 ルイズは櫛を手渡して、ジュディと正面から向き合う。 
 神妙な面持ちでジュディの瞳を覗きこむ。
 真正面から見詰められているジュディは、何かむず痒いものを感じ、小さく身じろぎする。

「ルイズさん、どうしたの?」
「ねえジュディ、よく聞いて。
 私が責任をもって、必ず元の場所に帰る方法を見つけるから、それまで辛抱して頂戴」
「アリガトウ、ルイズさん」
「いいのよ、お礼なんて。これは、私が通すべき筋なんだから……
 さっ、もう寝ましょう。色んな事があって今日は疲れたわ」

 そう約束すると、ルイズはジュディから目を逸らし、足早に窓際へと近寄る。そこから空を見上げると、2つの月が寄り添うようにして冷たい光を放っている。
 しばしそれを見つめてから、窓を閉めてカーテンを引く。それから、ベッドの縁に腰掛けてソファーに座っているジュディに手招きする。

「こっちに来なさい。ほら、半分使っていいから」
「いいの? 狭くないかな?」
「いいからこっちに来なさい。別に狭くなんてないわよ」

 ルイズは、自分の枕の横に小さめのクッションを置いて枕代わりとする。
 ベッドは、2人が並んで寝ても窮屈に感じることはなく、柔らかい布団が2人を包み込む。
 ルイズが指を鳴らすと、ランプの明かりが消え、カーテンの隙間から洩れてくる月光だけが光源となる。
 真っ暗になった部屋で、2人は1つのベッドに横になる。
 ルイズは目を閉じて、すぐ横で寝ているジュディの様子を窺う。ジュディは落ち着かないように、忙しなく体を捩っている。

「ジュディ…… 眠れないの?」
「ゴメンナサイ、なんだか眠れないの……」
「……そう、かまわないわ。私も何だか眠れないし」

 謝ってくるジュディに、ルイズは無理もないと思う。
 ジュディは家族と離れ離れになり、家族を捜す旅に出ようとした矢先に召喚されてしまったのだ。故郷から遠く離れた異郷の地に、行き成り放り出され、帰る方法すら分からない。
 こんな状況で、よく泣き出さないものだと感心する。
 もし、自分だったらどうだっただろうと、ルイズは考える。1年前、この学院へ入学したばかりの頃を思い起こす。
 その時は、最初の1ヶ月が辛かったと憶えている。ゼロと揶揄される度に、姉(優しい方)を思い出して枕を濡らし、1人で生活する事に不安を覚えたものだ。
 だがしかし、行き成り放り出された訳でもなかったし、家に帰ろうと思えば帰れた。
 ましてや、ジュディはまだ10歳だ。あの時の自分の比ではないだろう。

「ぐすっ……」

 鼻を啜る音が聞こえる。ジュディが泣いているようだ。
 声を殺してすすり泣く声を聞き、ルイズは居た堪れなくなる。何か、自分に出来ることはないかと考える。
 しかし、ジュディを呼び出した張本人である自分が、下手に言葉を掛けても逆効果にしかならないだろう。如何すればいいのか分からない。
 グルグルと思考が渦巻き、堂々巡りを繰り返す。そんなことを繰り返した末に、ルイズは閃いた。
 それは、幼い時の記憶。魔法を失敗し、母から叱られた時や、1人で寝るのが寂しい時は、姉(優しい方)のベッドに潜り込んだものだ。
 そして、そんな自分を、姉(優しい方)は優しく抱きしめて慰めてくれた。
 それと同じ事をすればいい。姉(優しい方)がしてくれた事を、そのままジュディにしてやれば良いのだと考えつく。
 少しの間逡巡するが、思い切ってジュディを抱き寄せる。しかし、姉(優しい方)のようにはいかず、乱暴な手付きになってしまう。
 ジュディの顔を、薄い胸へと押し付け、ギュッと抱きしめる。
 行き成りの出来事に、ジュディは驚き、問いかけてくる。

「ルイズさん……?」
「…………」
「ドウしたの……?」
「……いいから」
「えっ?」
「いえ、その……
 そう、枕よ! 枕を抱いてないと眠れないのよ! あんたは、枕代わりになってれば良いの!
 だから…… ええっと……
 おやすみなさい」
「……うん。オヤスミナサイ」

 抱きしめられて困惑するジュディに、ルイズは無理矢理な言い訳をする。不器用な慰めだったが、ジュディには伝わった様だ。
 ジュディはそれ以上何も言わず、ルイズのなすままに、身を任せている。
 ルイズは、ホッと安堵のため息をつく。
 今、自分にジュディを慰められる言葉は無く、この行動も姉(優しい方)からの借り物だ。けれど、これでジュディを慰められたのならば、それで構わないとルイズは思う。
 いつかきっと、誰かの借り物ではなく、自分の行動で慰められる様に成りたいと願い、ルイズはそっと目を閉じる。
 やがて、ルイズの部屋は、2つの小さな吐息で満たされていった。
 双月の光は煌々と学院を照らし、風が囁いている。こうして、穏やかな夜は深まっていくのであった。



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 今回の成長。
 ルイズは、ツンデレL2を破棄して鋼の精神L2のスキルパネルを手に入れました。
 ジュディは、適応能力L1のスキルパネルを手に入れました。



 第3話 -了-



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