トリステイン魔法学院、春の召喚儀式。
その日、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは本当の恐怖というものを味わった。
その日、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは本当の恐怖というものを味わった。
「やったわ! ついに……!?」
何度やっても成功しなかった魔法。
いくら頑張っても爆発しかしなかった魔法。
それがついに成功の目を見た。
本来ならば喜ぶべきところである。
否、最初は喜んだ。
確かな手ごたえと共に生まれた爆音と煙幕の中に一つの影を見た。
その時のルイズの歓喜はいかほどのものだったのか、それを観察していたキュルケにはよくわかっていた。
煙の中の影が微かに蠢く。
動くということはそれは生物。
つまり、コントラクト・サーヴァントによって呼び出された何かが。
自分の使い魔になるべき何かがそこにいる。
そう確信したルイズは目を皿のようにして煙の中を凝視する。
永遠とも感じるような長い長い数秒。
やがて、ゆっくりと煙が晴れていく。
己の使い魔の姿を見るべくルイズは一歩踏み込む。
周囲の者たちも興味津々に視線を集中させる。
そしてその瞬間、突風が吹いた。
いくら頑張っても爆発しかしなかった魔法。
それがついに成功の目を見た。
本来ならば喜ぶべきところである。
否、最初は喜んだ。
確かな手ごたえと共に生まれた爆音と煙幕の中に一つの影を見た。
その時のルイズの歓喜はいかほどのものだったのか、それを観察していたキュルケにはよくわかっていた。
煙の中の影が微かに蠢く。
動くということはそれは生物。
つまり、コントラクト・サーヴァントによって呼び出された何かが。
自分の使い魔になるべき何かがそこにいる。
そう確信したルイズは目を皿のようにして煙の中を凝視する。
永遠とも感じるような長い長い数秒。
やがて、ゆっくりと煙が晴れていく。
己の使い魔の姿を見るべくルイズは一歩踏み込む。
周囲の者たちも興味津々に視線を集中させる。
そしてその瞬間、突風が吹いた。
『へっ―――』
その場にいた全ての人間がその姿を目にし、そして一斉に唱和した。
突風がまるで煙幕を嵐のように一纏めにし、上空へと吹き上げる。
その中から現れたのは、人影だった。
突風がまるで煙幕を嵐のように一纏めにし、上空へと吹き上げる。
その中から現れたのは、人影だった。
「な、なななななな……」
ルイズの声にならない動揺が周囲へと響く。
そこにいたのはピッチリとした黒い衣に身を包んだ一人の人間だった。
否、その者を人間と定義したのは『彼』の後ろにいた者だけだった。
彼らはゼロのルイズが平民を召喚したことを察し、嘲りの声を上げようとする。
そこにいたのはピッチリとした黒い衣に身を包んだ一人の人間だった。
否、その者を人間と定義したのは『彼』の後ろにいた者だけだった。
彼らはゼロのルイズが平民を召喚したことを察し、嘲りの声を上げようとする。
しかし、その声はついに音としてあがることはなかった。
何故なら、見てしまったのだ。
『彼』の顔を。
ゆっくりと周囲を見回す……まるで獲物を物色するように目を走らせる『悪魔』の姿を!
何故なら、見てしまったのだ。
『彼』の顔を。
ゆっくりと周囲を見回す……まるで獲物を物色するように目を走らせる『悪魔』の姿を!
「う、うわああああああああ!!」
「ゼロのルイズが悪魔を召喚したぞーっ!」
「に、逃げろー!」
「喰われるぞぉぉぉぉ!」
「ゼロのルイズが悪魔を召喚したぞーっ!」
「に、逃げろー!」
「喰われるぞぉぉぉぉ!」
脱兎のように『彼』の姿を見た生徒たちが我先にと四散していく。
ある者はフライで飛行をし、ある者は自らの足で。
十秒後、その場に残っていた人間は―――
教師としての矜持と責任感、そして今まで送ってきた人生で培ってきた恐怖への耐性故に踏みとどまった教師コルベール。
あまりの恐怖に漏らしてしまい、なおかつ腰が抜けて歩くところか立ち上がることもできないモンモランシー。
そんな彼女を見捨てるに見捨てられず、かといってゴーレムを作ってその場を離脱することすら思いつかずにおろおろするギーシュ。
あまりの意外な展開に、恐怖よりも先に呆然としてしまったキュルケ。
一見、微動だにせず冷静さを保っているように見えるが立ったまま気絶しているタバサ。
『彼』を至近距離で正面から直視してしまったが故に逃げる機会を逸したルイズ。
そして、一通り周囲を見回した後、ルイズに焦点を定めた『彼』。
以上の七名だった。
ある者はフライで飛行をし、ある者は自らの足で。
十秒後、その場に残っていた人間は―――
教師としての矜持と責任感、そして今まで送ってきた人生で培ってきた恐怖への耐性故に踏みとどまった教師コルベール。
あまりの恐怖に漏らしてしまい、なおかつ腰が抜けて歩くところか立ち上がることもできないモンモランシー。
そんな彼女を見捨てるに見捨てられず、かといってゴーレムを作ってその場を離脱することすら思いつかずにおろおろするギーシュ。
あまりの意外な展開に、恐怖よりも先に呆然としてしまったキュルケ。
一見、微動だにせず冷静さを保っているように見えるが立ったまま気絶しているタバサ。
『彼』を至近距離で正面から直視してしまったが故に逃げる機会を逸したルイズ。
そして、一通り周囲を見回した後、ルイズに焦点を定めた『彼』。
以上の七名だった。
「……ミス・ヴァリエール」
「は、はははははははい!」
「コントラクト・サーヴァントを」
「ええええええーっ!?」
「は、はははははははい!」
「コントラクト・サーヴァントを」
「ええええええーっ!?」
何事もなかったかのように冷静に。
否、一応その何もない頭から滝のような汗を流しながらとんでもない言葉を言い放った教師に対し、ルイズは淑女らしからぬ声を上げてしまう。
だがそれも当然だった。
何せ相手は普通の生物ではない。
ドラゴンやオーガならまだいい。
人間の平民でも我慢はしよう。
しかし、今目の前にいるのは
ビッシリ固められた黒髪に物凄く薄い眉毛、悪魔の様な三白眼。
その下には濃いクマが浮かんでいてその表情はピクリとも動かないという、まるで、否、悪魔としかいいようがない容貌の生物なのだ。
しかも、服装も黒一色とこれで彼が悪魔であることを否定するほうが難しい。
こんな奴にコントラクト・サーヴァントを、キスをしてしまったら魂を取られるのではないか。
そう考えてしまったルイズの足は一歩も動かない。
否、一応その何もない頭から滝のような汗を流しながらとんでもない言葉を言い放った教師に対し、ルイズは淑女らしからぬ声を上げてしまう。
だがそれも当然だった。
何せ相手は普通の生物ではない。
ドラゴンやオーガならまだいい。
人間の平民でも我慢はしよう。
しかし、今目の前にいるのは
ビッシリ固められた黒髪に物凄く薄い眉毛、悪魔の様な三白眼。
その下には濃いクマが浮かんでいてその表情はピクリとも動かないという、まるで、否、悪魔としかいいようがない容貌の生物なのだ。
しかも、服装も黒一色とこれで彼が悪魔であることを否定するほうが難しい。
こんな奴にコントラクト・サーヴァントを、キスをしてしまったら魂を取られるのではないか。
そう考えてしまったルイズの足は一歩も動かない。
目の前の悪魔に動きはなかった。
突然の召喚に混乱しているのか、はたまた自分を品定めしているのか。
その細く小さい瞳からは何も読み取れない。
ルイズは魂を鷲づかみされているような気分だった。
しかし、しかしである。
この悪魔を召喚してしまったのは自分なのだ。
召喚してしまった以上は召喚者である自分に全ての責任がある。
この場を逃げ出してこの悪魔に好き勝手動かれたらトリステインは、この世界はどうなるのだ。
自分を親友と呼んでくれる姫様は首から生き血を吸われて干乾び死んでしまうかもしれない。
病弱なのにも関わらず、女性として豊満な肢体を持つ一つ上の優しい姉は丸ごと食べられてしまうかもしれない。
婚約者のワルドが、母親である烈風のカリンが決死の覚悟で立ち向かうが、あえなく返り討ちにされて殺されてしまうかもしれない。
それだけは防がなければならない。
幸い、悪魔に動きはない。
チャンスは今だけだった。
いかに目の前の悪魔が強大な力を秘めていたとしても、コントラクト・サーヴァントの前には無力なはずだ。
何せ始祖ブリミルの魔法なのだ、たかが一介の悪魔ごときがかなうはずがない。
そう、自分はこの悪魔を従えることができるのだ、できるはずなのだ。
……できるはずですよね? ブリミル様!
突然の召喚に混乱しているのか、はたまた自分を品定めしているのか。
その細く小さい瞳からは何も読み取れない。
ルイズは魂を鷲づかみされているような気分だった。
しかし、しかしである。
この悪魔を召喚してしまったのは自分なのだ。
召喚してしまった以上は召喚者である自分に全ての責任がある。
この場を逃げ出してこの悪魔に好き勝手動かれたらトリステインは、この世界はどうなるのだ。
自分を親友と呼んでくれる姫様は首から生き血を吸われて干乾び死んでしまうかもしれない。
病弱なのにも関わらず、女性として豊満な肢体を持つ一つ上の優しい姉は丸ごと食べられてしまうかもしれない。
婚約者のワルドが、母親である烈風のカリンが決死の覚悟で立ち向かうが、あえなく返り討ちにされて殺されてしまうかもしれない。
それだけは防がなければならない。
幸い、悪魔に動きはない。
チャンスは今だけだった。
いかに目の前の悪魔が強大な力を秘めていたとしても、コントラクト・サーヴァントの前には無力なはずだ。
何せ始祖ブリミルの魔法なのだ、たかが一介の悪魔ごときがかなうはずがない。
そう、自分はこの悪魔を従えることができるのだ、できるはずなのだ。
……できるはずですよね? ブリミル様!
「わ、わわわわわわわ我が名は」
微妙に始祖への信仰を揺らがせながらルイズは決死の覚悟で悪魔の両頬を掴んだ。
ひんやりとして人間のものとは思えない体温が手に伝わってくる。
その感覚に更なる恐怖を覚えながらもルイズは必死に噛みそうになる口をどうにか動かした。
ひんやりとして人間のものとは思えない体温が手に伝わってくる。
その感覚に更なる恐怖を覚えながらもルイズは必死に噛みそうになる口をどうにか動かした。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせぇっ!」
「!!」
「!!」
半分ヤケクソ気味に詠唱をしながらルイズは目を瞑って『彼』の唇に自分のそれを落とした。
驚愕に眼を見開く『彼』の表情は彼女には見えない。
清水の舞台から飛び降りている真っ最中の一少女にそんな余裕があるはずがない。
驚愕に眼を見開く『彼』の表情は彼女には見えない。
清水の舞台から飛び降りている真っ最中の一少女にそんな余裕があるはずがない。
「――ぷはぁっ!!」
キスの間、というよりも詠唱後からひたすら息を止めていたルイズは儀式を終えると脱兎の勢いで身体ごと顔を離す。
その視界に眼を見開いたままの悪魔の顔が映る。
怒らせてしまっただろうか?
そんな不安を感じながらもルイズは自分の身体をペタペタと触る。
悪魔に何かを吸い取られてしまった可能性を捨て切れなかったのだ。
その視界に眼を見開いたままの悪魔の顔が映る。
怒らせてしまっただろうか?
そんな不安を感じながらもルイズは自分の身体をペタペタと触る。
悪魔に何かを吸い取られてしまった可能性を捨て切れなかったのだ。
(手、足、顔、胴体……うん、全部ちゃんとあるわね。声もちゃんと出るし。ってああ!? むむむむ胸がなくなってるー!?)
驚愕に眼を見開くルイズ。
手に伝わってくる寂しい感触が自分の胸の悲惨さを伝えてくる。
なんということだろう、悪魔は命の代わりにとんでもないものを奪ってしまった。
悲嘆にくれるルイズ、だがそれはぶっちゃけ現実逃避にすぎなかった。
最初から彼女の胸はないのだから。
その瞬間。
ルイズの視界の片隅で『彼』が動いた。
半座りだった『彼』はゆらり、と陽炎のような動きでゆっくりと立ち上がろうとしていた。
その動きにコルベールは反射的とも言える反応で杖を構える。
ルイズにも、残って意識を保っていた面々にも緊張が走る。
手に伝わってくる寂しい感触が自分の胸の悲惨さを伝えてくる。
なんということだろう、悪魔は命の代わりにとんでもないものを奪ってしまった。
悲嘆にくれるルイズ、だがそれはぶっちゃけ現実逃避にすぎなかった。
最初から彼女の胸はないのだから。
その瞬間。
ルイズの視界の片隅で『彼』が動いた。
半座りだった『彼』はゆらり、と陽炎のような動きでゆっくりと立ち上がろうとしていた。
その動きにコルベールは反射的とも言える反応で杖を構える。
ルイズにも、残って意識を保っていた面々にも緊張が走る。
(そ、そうだわ。ルーンは…)
使い魔の証であるルーンを確認しようとルイズは視線を走らせた。
コントラクト・サーヴァントが成功していれば仮にこの悪魔が今から暴れだそうとも止められるはずなのだ。
きっと、多分、そうだといいな。
そんな風に思いつつルイズは恐る恐る己の使い魔(仮)の全身に目を向ける。
と、その時。
『彼』の体が震えだした。
見れば『彼』の両手が微かに発光しているように見える。
コントラクト・サーヴァントが成功していれば仮にこの悪魔が今から暴れだそうとも止められるはずなのだ。
きっと、多分、そうだといいな。
そんな風に思いつつルイズは恐る恐る己の使い魔(仮)の全身に目を向ける。
と、その時。
『彼』の体が震えだした。
見れば『彼』の両手が微かに発光しているように見える。
「え?」
「む、むうっ!?」
「ヒィーッ!?」
「む、むうっ!?」
「ヒィーッ!?」
突如発生した異常事態に各々はそれぞれの反応を見せる。
『彼』は足を一瞬たわませたかと思うと一気に立ち上がり―――そして、両手を天に突き上げた!
『彼』は足を一瞬たわませたかと思うと一気に立ち上がり―――そして、両手を天に突き上げた!
「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
『わああああああああああっ!?』
『わああああああああああっ!?』
それは正に悪魔の咆哮だった。
トリステイン、いや、ハルケギニア全土に響きわたりそうなその声にルイズを初めとするその場にいた人間は全員恐怖に身を竦ませてしまう。
彼らの目に映っているのは禍々しく、それでいてどこか神々しさを兼ね備えた一人の少年の姿だった。
両手に刻まれたルーンを天に見せ付けるように振り上げている『彼』の名は北野誠一郎。
天使の心と悪魔の顔を持つ―――ただの人間の少年であった。
トリステイン、いや、ハルケギニア全土に響きわたりそうなその声にルイズを初めとするその場にいた人間は全員恐怖に身を竦ませてしまう。
彼らの目に映っているのは禍々しく、それでいてどこか神々しさを兼ね備えた一人の少年の姿だった。
両手に刻まれたルーンを天に見せ付けるように振り上げている『彼』の名は北野誠一郎。
天使の心と悪魔の顔を持つ―――ただの人間の少年であった。