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鷲と虚無-01



雲ひとつ無い青空の下、太陽がさんさんと輝き、アフリカの大地を照らしつけていた。
直射日光とアフリカの基準でもうだる様な暑さの中、完全武装した軍隊が低いラッパの音と共に埃を巻き上げながら行進している。
彼らが向かう城壁の前には別の軍勢が布陣していた。明らかに城壁へ進む集団が数で上回っている。
城壁へ向かって進むのはメテルス・ピウス・スキピオとポルキウス・カトーら閥族派が率いている軍勢。
城壁の前に布陣しているのは、彼らの宿敵であり平民派の指導者的存在であるガイウス・ユリウス・カエサルが率いている軍勢。

ここは北アフリカ有数の大都市、タプスス。
閥族派に属するこの都市は現在カエサルに包囲されている。

カエサルが元老院の最終勧告を跳ね除けルビコン川を越えてからもう数年が過ぎている。
その間彼は勝利に勝利を重ね続けてきた。
閥族派の筆頭であるポンペイウスは既に無く、ギリシャ、小アジア、シリアと立て続けに拠点を失った閥族派はもうヒスパニアとアフリカを残すのみ。
エジプトを平定したカエサルは北アフリカに上陸し、自ら軍を率いて北アフリカの要衝タプススを包囲した。
閥族派もこれを黙って見ているつもりは無く、それを阻止する為に閥族派の指導者、スキピオとカトーが近隣の都市から兵を掻き集め出陣して来た。
カエサルはこれを真っ向から受け止めようとしている為、都市を包囲している側が城壁を背に戦うと言う滑稽な状況になっている。

城壁の前に立つ集団の中央に、一つの軍団が配置されていた。
その軍団、第13軍団はカエサルが10年以上前にガリア征服の為に作り上げた物だ。
彼らは結成以来殆どの時間をカエサルを共にしており、彼の親衛隊とも言うべき第10軍団と並んで彼の絶対的な信頼を得ていた。
カエサルがルビコン川を越えた時に率いてた軍団である事からもそれがうかがい知れる。

この軍団の最右翼に2人の兵士がいた。1人は他の兵士達と同じ格好をしているが、もう1人は兜に毛飾りをつけ、脚には青銅の脛当て、そして胸には様々なメダルをかけてある。
一目で百人隊長、それも相当上の階級だと解る出で立ちだった。
兵士はティトゥス・プッロ、百人隊長はルキウス・ウォレヌスと言う。
ガリア戦争勃発以来、常に最前線で戦い続けた第13軍団は人員の消耗が激しく、彼らは軍団設立当初から生き残ってる数少ない兵の二人だ。
ウォレヌスは第13軍団のプラエフェクトゥス・エウォカトルム(予備役長官)及びケントゥリオ・プリムス・ピルス(首位百人隊長)として勤めており、プッロは彼のオプティオ(副官)をしている。
この性格がまるで正反対の二人だが、彼らはここ数年の間、友情(と呼べるかは微妙だが)を結んでいる。
彼らの歴史についてはおいおい明らかになるだろう。

スキピオの軍は前進を停止した。
いったん止まって隊列を整えるつもりなのか。
それともカエサルが仕掛けるのを待っているのか。

これを見たウォレヌスはプッロに話しかける。
「そろそろ始まりそうだがプッロ、酔っ払ってはいないだろうな。いつかの様な様な事は御免被るぞ」
「心配しないで下さいよ、隊長。生まれてこんなに頭が冴えてることが無かった位に素面ですよ」
「お前はいつも同じ事を言うがな。兎に角何があろうとも隊列を乱すな。特に今回はだ」
「へぇ、やっぱりあんたも怖いんですか?あのゾウとか言うのが」

スキピオの切り札が両翼に配置されている、ヌミディア王ユバに提供された60頭の戦象だ。
彼の軍は確かに数では上回っているが、精鋭揃いのカエサル軍とは違い兵士の殆どが士気も錬度も乏しい徴募兵である。
まともに戦えば勝機は薄い。特にポンペイウスを破った、カエサル自身が指揮を執っているのだからなお更だ。
だがカエサルもその兵士も一度も戦象と戦った事が無い。だからそこをつけば勝機はあるというのがスキピオの考えらしい。

ウォレヌスは一瞬、ちらりと敵軍の方を見るがすぐに視線をプッロに戻す。
「全く怖くないと言えば嘘になる。ゾウはエジプトで見た事はあるが、戦うのは初めてだからな」
「それはここにいる奴ら全員がそうでしょう。でもカエサルには何かの考えがあるんでしょうねえ、いつもの様に」
「ああ、そうだろうな。それに我らの先祖はザマやマグネシアであの獣と戦って勝利したんだ。とにかく命令通りゾウが来ても絶対に隊列を崩してはならんぞ。お前が逃げ出すだなんて思ってはいないが、猛って1人でゾウと取っ組み合うなよ」
「解ってますよ、俺だって1人であんな化物と戦う気なんて毛頭ありませんよ……にしても本当に暑いですねえ、アフリカは。エジプトも酷かったがここはそれ以上だ。冗談抜きにウルカヌスの○○○並ですよこりゃ」
薄手でもこたえる暑さだと言うのに、総重量が30kgにはなるだろう鎧、盾、兜、投槍、剣を身に着けているのだ。
特に鎧は太陽の熱を吸収し、卵を載せれば目玉焼きが出来るのではないかと思う程熱せられていた。
ウォレヌスはプッロの神への冒涜とも取れる言葉に顔をしかめたが、それをたしなめる前に遠くの方で低い、ラッパの音が鳴った。それにコダマするかの様に次々にラッパがなり、程なく第13軍団にもラッパが響いた。

前進の合図である。
「どうも敵さんが動く前にこっちから仕掛けようってつもりですね」
プッロが言った。
ウォレヌスは真剣な表情になり、大隊副官であるプッロに指示を出す。
「第一大隊、前進開始。隊列は通常の間隔だ。ゾウがこちらに迫ってきたら手筈通り散開して投槍を使え!」
プッロがそれを復唱し大隊全体にそれを伝え、大隊が太鼓とラッパのリズムに合わせて前進を始める。
それとほぼ同じくして他の大隊も、他の軍団もほぼ同じくして動き出す。

カエサル軍3万5000人が太鼓とラッパの音と共に一斉に前進を開始した。
彼らの多くは数年以上に渡って戦い続けてきた歴戦の兵士であり、チェッカーボードの様に構成された戦列を全く崩さずに行進する事など造作も無い事だった。
それでも数万人の人間が歩調を合わして行進するのだ。
それによって巻き上げられる埃の量は凄まじく、前以外は何も見えない。

カエサル軍の前進を見て、スキピオ軍の戦象が動き出した。
まずは戦象をぶつけ、隊列が滅茶苦茶になった後に突撃すると言う考えの様だ。

結果から言えばスキピオとカトーの頼みの綱でありウォレヌス達を緊張させた戦象は、
カエサルの指示通りに弓兵が火矢を浴びせたら恐慌状態に陥いり、自軍の戦列に突っ込むと言う醜態だった。
それでも何頭かはカエサル軍の中央に突入したが、それを受けとめた第5軍団はよく耐え、やがて戦象は全て倒された。

切り札があっさりと倒されたスキピオとカトーは周りにもそれと解る程に動揺する。
彼らの動揺は軍全体に伝わり、戦列は浮き足立つ。もともと士気が低いヌミディア王が送った援軍に至っては逃げ出し始めてもおかしくないという体たらくだった。

それまで恐怖を隠すかのように槍を盾に叩き付け、鬨の声を盛んに挙げていたスキピオ軍とは対照的に不気味なまでに沈黙したままゆっくりと進んでいたカエサルの兵士達が、敵戦列から300歩ほどの地点に達した時、彼らは突然大声でマルスへの讃歌を歌い出した。
そして彼らは歌いながら前進し、敵戦列まで後三十歩と言う所に来て百人隊長達の「ピラ・イアケ!(投槍放て!)」の号令と共に槍を一斉に投げつけた。

ローマ兵は投槍を二本携帯し戦闘に突入する前にまずそれを投擲するのが基本だ。
だがスキピオ軍の兵士達は隊列を組んで行進するのがやっとと言う様な錬度だったので、槍を投げ返すどころでは無かった。
彼らは満足な防御も出来ずに少なくない人数が槍に貫かれ、倒れた。

そしてカエサルの軍団兵は剣を抜き、盾を構え、隊列を崩さずに疾走し、彷徨をあげながらけたたましい音をたてて閥族派の戦列に衝突した。

戦いは一方的に進んでいった。
例え数で上回ってはいても浮き足立った素人の、いわば烏合の衆と、幾多の戦場を潜り抜けてきた古強者の集団がぶつかったのだ。
勝敗は火を見るよりも明らかだった。
スキピオとカトーの兵士達はろくな抵抗も出来ないまま次々と突き崩され、切り倒されていく。
もう夕暮れ時に差し掛かっていたが、この分なら夜になるのを待たずに戦いは終わるだろう。

百人隊長は部隊の眼前に立って指揮をする。
だからその分危険が大きい。

既にウォレヌスは襲い掛かる敵兵を3人、プッロは4人斬り殺しており、彼らの体と剣は返り血でべったりだ。
自分達の眼前にたって鼓舞する指揮官に発奮した第13軍団の第1大隊は目覚しい活躍を見せている。
ウォレヌス自身、敵の余りの脆さに驚いた。
(仮にも共和国の兵士だと言うのに何と言う脆さだ…まるでマルスに見放されたかの様じゃないか)
そう考えつつも彼は隙を見せる事なく斬りかかって来た敵兵の剣を盾で受け、腹に剣を突き刺した。
腸に異物を差し込まれた敵兵は血反吐を吐き、もんどりうって地面に倒れる。
大隊は敵戦列の一段目を突破し二段目も半ば切り崩し、更に押し進もうとしていた。

だがそれゆえに危うい。
これを見たウォレヌスは囲まれるのを恐れていた。
連携を無視して一部分のみが突出して包囲され、壊滅すると言うのは珍しい話ではない。
しかもそれが他の味方に伝播して全軍が総崩れになる可能性すらある。
たとえその可能性が低かろうと指揮官としてその可能性を許す訳にはいかないのだ。

ウォレヌスは隣のプッロに命令を伝える。
「プッロ、大隊が突出しすぎだ!一旦引かせる必要がある。このままでは危険だ。ラッパ手に後退信号を鳴らさせろと連絡士官に伝えろ!」

それを聞いたプッロが声の限りに叫ぶ。
「連絡士官は負傷して後送されてます!俺が代わりに行きましょう。一旦引くってのは気にいらねえが、仕方ない。おい!ラッパ手、後退の信号を鳴らせ!」
だがラッパ手は騒音のため聞き取れなかったようで、ラッパの音は一向に鳴らなかった。
しょうがなくウォレヌスはラッパ手の隣に行けとプッロに命じ、プッロは駆け出した。

そしてラッパ手の元へと駆け出した彼の目の前に…突如光る鏡、の他に言い様が無い物体が現れた。
プッロは突然目の前に現れたこの鏡にぶつかるのを反射的に踏み止まろうとし、鏡に突っ込むのは避けられたが、バランスをとる為に突き出した右腕を鏡に突っ込んでしまった。
それを見たウォレヌスはあわてて駆け寄る。

「これは…何の神のイタズラだ?体は大丈夫なのか!」
「俺が知るわけないでしょ!それよか隊長、俺を引っ張って下さい!手が抜けねえ!なんだかわからねえが腕が吸い込まれていく!」
ウォレヌスは急いでプッロの左腕を掴み、力いっぱい引っ張った。
だがびくともしない。それどころか更にプッロの右腕は吸い込まれ、今では肘から先が完全に消失していた。
「もっと人を呼んで下さい隊長!あんた一人じゃ引っ張り出すのは無理だ!」
「解った!おい、誰かここに来るんだ!プッロをこの鏡から引きずり出せ!」
ウォレヌスの声を聞いた軍団兵数人が駆け寄ったが、もう遅すぎた。
まるで投石器から打ち出された砲丸の様に、突如プッロと彼を掴んでいたウォレヌスは鏡の中に一気に引っ張り込まれた。

そして彼らの姿は鏡もろともタプススの平原から消えた。


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