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マジシャン ザ ルイズ 3章 (38)

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マジシャン ザ ルイズ 3章 (38)女王の粛正

「おい、起きろ」
まどろみの向こうから、覚えのある女性の声が聞こえた。
眠気の海の中から、ふっと意識が浮上しかかるが、思い直して再び沈む。
眠い、眠いのだ、眠いのである。
ならば二度寝だ。タバサは内なる全タバサの賛成多数により再び夢へと旅出

「起きろって言ってるのが聞こえないのか!この愚図!」

て無かった。

タバサが目を覚ましたとき、彼女は馬乗りになったイザベラに頬を叩かれていた。
しかも『ぺちぺち』という、可愛らしいものではなく、『ばちんばちん』といった風味の、ほどよく手首のスナップを効かせたものである。
「ちっ、起きたか」
何がちっなのか聞きたかったが、それを口に出すのも面倒だったので聞かないことにした。
のろのろとした動作で手を動かして、気をつけないと容易く落ちてしまいそうな重い瞼をごしごし擦る。
眠いのは変わらないが、とりあえず起きる意志だけ表明しておく。
そうしてゆっくりと開いた目に映ったのは、明るく差し込む日の光、手の込んだ装飾が施された天蓋、馬乗りに跨った素っ裸の姉、胸先の桜色が可愛らしい。
「愚図め。あたしより先に起きろって何度言ったら分かるんだい」
そう言うと、一糸まとわぬ姿のイザベラは立ち上がって、近くのテーブルまで歩いていき、何かを手にとってまた戻ってきた。
「そら、さっさと着替えな。一日は短いんだ、のろのろやってたら直ぐに婆さんになるよ」
ぽいと手の中に放り込まれたのは、綺麗に畳まれた洋服一式。
タバサはそれをぼーっとした眼差しで眺めてから、コクリと一度頷いて、ゆっくりとベットから降りると、やはり亀のような緩慢な動きで着替えを始めた。
まずは身につけたシルクで出来た薄手のネグリジェを脱ぎにかかる。
手をかけて、引き上げて、めくり上げて、おへそが見えた辺りで指が外れてすとんと落ちる、今度は襟首に手をかけて、引き上げて
と、そこでベットの横にある椅子に座って、品無く貧乏揺すりをしていたイザベラがキレた。
「だあぁっ! 遅い! 遅すぎる! 着替えくらいさっさと済ませな!」
イザベラはそう叫んでタバサの服に手をかけると、迅雷の早さで脱がせにかかった。
「そらそら!」
「手を上げろ!」
「お次は右足だ!」
「次!」
「左足だ! 何でもう一度右を上げる!?」
「折角着せたのに脱ぐな馬鹿!」
「ボタンを掛け違えてる! そっちじゃない! 違う! こっちだ!」
「眼鏡が落ちるぞ! 愚図が!」
下着、上着、スカート、靴下とイザベラは手際よく小柄なタバサを着せ替えていく。
そうして大騒ぎの着替えが終わると、そこにはぴしっと服を着こなしたタバサが立っていた。
「上出来だね。自分を褒めてやりたい気持ちってやつだ」
言って優雅に手扇を開いて扇ぐ女王陛下。その所作も格好が裸のために威厳の欠片も感じられないが。
『私は自分の部屋にいる間は裸で過ごすって決めてるんだよ』とは、事件の翌日にイザベラがタバサに語って聞かせた言葉である。


二人はあの事件から、既に三度目の夜明けを迎えていた。
《ヒドゥン・スペクター》を圧倒的な力で殲滅したタバサは、直ぐさまとって返してイザベラに水の魔法の治療を施した。その結果、彼女は危ういところで一命を取り留めることに成功した。
本来治療魔法がそれほど得意ではないタバサであったが、本職の施療師でもたじろぐようなその重傷を、彼女は難なく塞ぐことができた。
自分自身でも訳が分からず首をかしげるタバサだったのだが、そのことについてはカステルモールが、トライアングルからスクウェアへとクラスアップした為だと教えてくれた。
つまり、本人にはその実感が全く無いものの、今のタバサはスクウェア・クラスのメイジということなのである。


着替えを済ませたタバサが身につけているのは、仕立ての良い下ろしたての一着である。
「ふふん。馬子にも衣装、よく似合ってるじゃないか」
その服は一見するとトリステイン魔法学院の制服によく似ていた。
だが、細かなデザインが違ったり、全体的に拵えが丁寧になっていたりと、正確には別物である。
「気に入ったか? いや、気に入れ。私が特別に用意させた制服さ。これでお前は正式に私の近衛、『北青薔薇花壇騎士』ってことになる」
均等の美しさを持つ、形の良い胸を張ってイザベラはそう言った。

花壇騎士団、正式な名前はガリア花壇警護騎士団。
それはヴェルサルテイル宮殿に点在する花壇を王を守る騎士になぞらえた、ガリア王国が誇る国家騎士団である。
元々宮殿には「東」、「南」、「西」の三つの花壇が存在し、そこに植えられた花を冠した「南薔薇騎士団」や「東百合騎士団」といった騎士団が存在していた。
それにこの度、公式に「北青薔薇騎士団」が新たに加えられたのだ。
元来、ヴェルサルテイル宮殿には「北」花壇というものは存在していなかった。
しかし、その存在しなかった花壇の名前を冠した「北花壇騎士」という非公式の汚れ仕事を扱う花壇騎士達は確かに存在していた。
けれど、そこに所属していた騎士達は、タバサを除いて全員が死亡しており、団長であったイザベラが女王となった今、騎士団自体は事実上消滅したに等しい。
その「北花壇騎士団」が何故、公式なものとして認められ、しかも女王の近衛騎士団となったかと言えば、それは昨日の二人のやりとりに起因する。


昨日、二人が昼食を食べているとイザベラが唐突に切り出した。
『そう言えば、お前を私の妹っていうことにするのは異存ないが、私は女王だ、ってことはお前は私の部下ってことになる』
『………』
『つまり騎士だな。しかし女王の妹だ、騎士団長くらいの肩書きはないと私の評判にも影響する』
『………』
『……おいシャルロット。草ばっかり食べてないでお前も何か言え』
ハシバミ草のサラダを食べながら軽やかに聞き流していたタバサが、その言葉に初めて顔を上げてイザベラを見た。
『……北花壇騎士でいい』
タバサからすれば、イザベラの側にいるなら役職など気にしないという意志の現れだったのだが、イザベラはそうは受け取らなかった。
『ふぅむ、北、北か……いいな、それは。歴史に名を残す私の第一歩としては相応しい。うん、そうしよう。よし、それじゃシャルロット、一時間後に大臣達を北の門の前へ呼べ』
そう言ってイザベラは、大急ぎで昼食を飲み込むと放たれた矢のようにどこかへ飛び出していってしまった。
呆然としながらその様子を見送ったタバサ(それでもきっちり昼食は食べた)が、一時間後に捕まえた大臣達を連れてくると、そこには手足とドレスを泥で汚した、唇を挑戦的に吊り上げたイザベラが待っていた。

『おい、いいか。今からそこにいるシャルロットを『北青薔薇花壇騎士』の団長に据える。文句は無いな?』

彼女は開口一番そんなことを言った。
無論、文句が出ないはずがない。
ガリアの騎士団は「東」、「南」、「西」の三つ、それが伝統である。歴史あるガリア王国の大臣達は前例のない女王の決定に猛反対した。
だが、それに彼女は
『うるさい、花壇ならそこにあるぞ』
と切り返したのである。
イザベラが指さしたそこには……青い薔薇が一輪植えられたみすぼらしい花壇、らしきものがあった。
『父上の薔薇園から取ってきた。これで文句は無いな? あぁん?』
無茶苦茶である。


「くくくっ、あの時の大臣達の顔といったら……全くもって傑作だったわね。あれが見られただけでも価値があったわ。ついでに歴代の王がやらなかったことを、私自らが行ったと、後の歴史家には書かせてやる」
タバサが昨日のことを思い出しながらハシバミ草のサラダをもしゃもしゃしていると、イザベラも同じく昨日のことを思い出していたのか、目を細めて意地悪く笑っていた。
「はん。既成事実さえ作ってやれば、あいつらは文句は言わないだろうさ。その為にお抱えの仕立屋に、一晩で作らせたんだからね」
そう言ってイザベラは、タバサの姿を上から下までをまじまじと見ると、納得したかのようにうんうんと頷いた。
つられてタバサも自分の着た服を見回した。すると、タバサは胸のところにある、青い薔薇を象った文様に目がとまった。
これもイザベラの意匠だろうかと見ていると、そのことに気づいたのかイザベラもそこを見た。
「ははん。やはりそんなすました顔してても、自分の胸の薄さはやっぱり気になるのかい?」
いや、違うしと思う間もなくイザベラはタバサの胸に右手を当てて、そこをぴたぴたと叩いていた。
「ふふん。悲しいくらいのぺたぺた具合だねぇ。草ばっかり食べてるからそうなるのさ、肉食いな肉を」
そういって、イザベラはほどよく発育した乳房を誇示するようにふんぞり返った。

「………」
「大体、ハシバミ草なんて、あんなものただ苦いだけじゃないのさ」
「………」
「牛馬じゃあるまいし、人間様はやはり肉に限るよ」
「………」
はっはっはとからから笑うイザベラに、タバサがぽつりと一つ、言葉を漏らした。
「だっこちゃん」

空気が凍る。

「………あん?」
意味が分からず聞き返すと、タバサがイザベラを指さしてもう一度言った。

「だっこちゃん」

「だっこちゃん?」
「そう、だっこちゃん」
「どういう意味だ?」
「……寝てるときに、抱きついてくる癖がある」
その指摘に自分を指さして「私が?」というジェスチャーをするイザベラ。
タバサが寝ていたその部屋は、今はタバサとイザベラが二人で使っている部屋である。
ベットは当然一つしかない。

イザベラは直ぐに気を取り直して皮肉げに笑い、
「はーん、ふーん、ほへーん。だから何だってのさ、心の広いこの女王イザベラ様はね、そんなことじゃ動じたりしないんだよ」
と寛大な態度で余裕の微笑みを見せた。
「さ、お次は……」
そしてイザベラはテーブルの上にある『とあるもの』、を手に取るために後ろを向いた。

次の瞬間
「だらっしゃあぁ!!」

遠心力を乗せた杖が、タバサの頭の直ぐ前を一直線に薙いでいった。
「避けるな!」
その心、全く持って広くなかった。

「だっこちゃん……だっこちゃん……だっこちゃん……だっこちゃん(ドップラー)」
不意打ちの一撃を回避したタバサは、いつの間に唱えていたのか『浮遊』の呪文を使って、器用にイザベラの方を向いて指さしながら彼女から遠ざかっていく。
顔を真っ赤にして、杖一つで怒濤の勢いをもってそれを追いかけるイザベラ。
「うおおおお、その記憶無くせえぇぇぇ!!」

「じょ、女王陛下……?」
侍女が扉から顔を半分だけ出して、声をかけたのはそんなタイミングだった。
「そろそろ会議の、お時間ですが……」
タバサがちらりとそちらを見ると、声をかけたのはイザベラが王女だった時代から仕えていた侍女の一人だった。
裸で杖を振り回す女王の狂態に戦きつつ、それでも職務を放棄しない生真面目さは美徳と言えよう。
「ちっ、もうそんな時間か」
イザベラが足を止めて悪態を一つついた。
改めて扉の方を見てみると、既に侍女の姿は消えていた。
諦めたのか、彼女はベットに杖を放り投げてため息をついた。
「それじゃシャッロット、私に服を着せろ」
自分で着ればいいのに、とは思っても言わないタバサであった。

――人の身体的特徴を、あげつらうのは、良くないことです。




謁見の間、そこには数名の男達が集められていた。
立派な服装に身を包み、手にはそれぞれ役職や位を表す精巧見事な杖を持っている。
彼らは皆、名のある名門の貴族達である。
「女王は我々をこんなところに集めて、一体どんな用事があるというのでしょうな」
背の低い頭のはげ上がった年配の男が言った。
「この忙しい時期に呼び出すなど、余程の用件なのでしょう」
憮然とした面持ちで、腰に軍杖を指したまるまると太った男が言う。
彼等は何故自分たちが呼び出されたのか、一切を知らされていなかった。
この場に集められた者達は、国の重要な役職に就いている者も多いが、基本的に年齢・役職・家柄、どれをとっても共通のものはない。
それだけに、彼らは自分たちが何故集められたかの見当がつかないのである。

男達がざわめいていると、良く通る女性の声で、女王の到来が告げられた。
「女王陛下の、おなぁぁぁぁぁぁりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
彼等はその声を聞いて直ぐさま膝を突いて頭を垂れて、臣下の礼を取る。
そして、貴族達の前方にある扉が開き、タバサを連れたイザベラがその姿を現した。
身にまとったのはプリンセスラインの青いドレス。生地は光沢あるシルクのサテン織り。
肩から全体へとフリルで飾り付けをされた豪華なもので、バックはクロスラインのVカット、その胸元は下品にならない程度の大胆さで開いている。
全体的な印象は、フォーマルであるが圧迫感や堅苦しさは無く、彼女の気性によく合っていると言えよう。
左手には王杖、右手にはワインの注がれたグラスを持っている。
そしてイザベラは、タバサを横に立たせたままで、ずんずんと王座へと悠然と歩み寄ると、どっかと腰を下ろした。
本来なら王の間を使うべきなのだが、先日の事件の際にタバサが呪文で滅茶苦茶に破壊してしまったために、その補修がまだ完了していないのである。

「面(おもて)を上げて良いぞ」
ぞんざいな口ぶりでイザベラが言い放ち、男達が一斉に顔を上げた。
そのうちの何人かが、横に立つタバサの姿を見て心底驚いたような顔をした。
ガリア王国は一枚岩の国ではない。
イザベラの父である先王ジョゼフ一世に不満をもったも多く、彼に殺された弟のシャルルと彼の忘れ形見であるシャルロットこそが真の主人であると考えるオルレアン派と呼ばれる一派がそこかしこにいるというのは、ヴェルサルテイル宮殿にいる者なら誰でも知っていることである。
そのオルレアン派の旗頭であるはずの、シャルロット・エレーヌ・オルレアンが女王と和解(もしくは服従)し、イザベラの側にあるという情報は、未だ一部の者だけが知るところのことであった。

「お前達に集まってもらったのは他でもない、私自らの口で伝えることがあったからだ」
そう言ってイザベラは、唇をグラスの縁に当てて一口中身を嚥下する。
前口上も挨拶もない。いきなり本題に入る彼女に、貴族達は顔を見合わせた。
「お前達はこれまで国によく尽くしてくれた。その功績を鑑み、相応の褒美を取らせようと思う」
イザベラが口にしたその一言、『褒美』の言葉に、男達は口にこそ出さないものの、色めき立った。
その反応を見て、頬杖をついて満足そうにイザベラは頷いた。
「嬉しいか?」
誰にともなく問いかける。
誰に問うたかわからぬその言葉に男達は口を開かない。不興を買わぬように、主人の機嫌を損なわぬ為に。
「……嬉しいかと聞いている、誰でもいい、答えろ」
繰り返された言葉に、仕方なく声が返される。最前列で頭を垂れる笑顔が顔に張りつているような印象を受ける鷲面の男である。
「光栄の極みであります」
「ふふん」
その言葉に、まるで何かを窺うように、イザベラは目を眇める。

「まあいい。さあ、褒美だ、存分に受け取れ」
男達の期待が満ちたことを見て取ってから、イザベラはにっと笑ってタバサへと目配せをした。

「永遠の休息を楽しめ」

その言葉と同時、タバサが杖を掲げて呪文を結んだ。
男達に感じられたのは、よそ風のような小さな風の流れまでだった。

刹那、謁見の間に、文字通りの血の雨が降り注いだ。

タバサが唱えたその呪文、『カッター・トルネード』。
竜巻に鋭い刃と化した真空を挟み込むという、凶悪な風のスクウェア・スペルである。
その風が竜巻となってその場にいた男達全員を巻き込んだのだ。

悲鳴もなく血と肉片となって撒き散らされる、元人間達。
彼等は先王ジョゼフの頃からよく仕えた者達である。
だが、同時にジョゼフが暗殺されてからは、その矛先をかえてアルビオンへと通じた者達であった。
つまり、彼等こそが傀儡の女王、イザベラを祭り上げた張本人達だったのだ。

「ははは、……ははははっ、……あははははははっ!!」
一面が朱に染まった謁見の間。
すでに風は止んでいる。
そこではただ一人、イザベラだけが声を上げて笑っていた。
「あはははははははははははははははははははははははっ!!」
狂ったように血まみれの姿で哄笑する女王。
「はははははははははははははははははははははははっ!!」
その青いドレスをどす黒く染めて笑う姿は、狂気の美とも言うべき美しさがあった。

そして彼女は血とワインが混ざりあったグラスの中身を、一気に呷った。
しかし、すぐさまそれをぺっと床へと吐き捨てる。

「……不味い」
彼女はそう呟くと、手の中のグラスを床に叩き付けたのだった。


                        彼女達が後世、どのように語られるか。私にはそこまでは分からない。
                        すべては歴史が決めることだ。
                        ――――バッソ・カステルモール「氷の姉妹」末尾の言葉


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