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笑顔が好きだから-05


「ミスタ・しいね。ちょっとよろしいですかな?」

 コルベール先生がしいねちゃんに声をかけたのは、わたしが二番目の質問に答えようとしたときだった。
「その“世界地図帳”をちょっと見せていただけませんか?」
 そう言ったコルベール先生は、大人のくせにキラキラした子供みたいな目をしていた。 やばい。これはアレだ。授業中に変な発明品を披露しては脱線する、あの時の目。新しいおもちゃを貰った子供の目だ。

「ええ、いいで」「駄目よ」

 年齢だけは中年の子供に大事な物を渡そうとするしいねちゃんをわたしは止めた。

「駄目。そういう珍しいものをコルベール先生に渡しちゃ駄目」

「???」

 目をパチクリとさせているしいねちゃん。

「このおじさんはね、見た目は中年のおじさんだけど、中身は子供なのよ。こんな珍しいもの渡したら、ボロボロになるまで弄り回されて、ばらばらになるまで返ってこないわよ」
「そうなんですか?」

「ええ、そうよ」

 わたしは頷いた。
 前に魔法の実技のことを相談しにコルベール先生の部屋を訪れたときのことを思い出す。
 狭くはないはずの教員用の寮の部屋は、わけの分らないガラクタでいっぱいだった。わたしにはゴミの山にしか見えないガラクタも、コルベール先生にとっては宝物みたいで『勝手に弄らないでくださいね。何処に何があるのか分からなくなってしまいますから。』ってしきりに気にしていた。大半はもう10年くらい触ってないんじゃないかいうくらい、分厚く埃が積もっているっていうのに。
 しいねちゃんの地図帳を、あのガラクタに仲間入りさせるわけにはいかない。
 はははっと、子供中年は笑った。

「どうも私は信用がないようですな。でも、大丈夫。ほんのちょっとだけ見せてもらえればいいんです」

 子供中年は、真面目腐った顔を作る。
 でも、駄目よ騙されちゃ。あれは嘘つきの顔なんだから。

「ルイズ、おれのだったらコルなんとか先生に見せてあげてもいいぞ」

 そんな声に振り返ると、リーヤが、いかにもなんにも考えてなさそうな、いい顔でニコニコしていた。

「コルベールです。ミスタ・リーヤ」

 コルベール先生はコホンと咳払いをした。

「よろしいんですか?」

「うん、いいぞ!」

 そんなリーヤとコルベール先生と、落書きだらけのリーヤの地図帳を見比べる。
 リーヤに落書きされるのとコルベール先生にバラバラにされるのと、この地図帳にとって、どっちが幸せなんだろう?

「リーヤ、本当にいいの?」

「うん」

 リーヤがそう言うなら、ま、いいか。
 わたしはコルベール先生にリーヤの地図帳を渡した。

「ふむ」

 地図帳を受け取ったコルベール先生はもっともらしく頷く。

「表紙は、革のように見えますがこれは紙ですね。全体が緑色に塗られいるようですが、手にべたつく感じは無い。ミスタ・しいね、この塗料について何か御存知ですか?」

「塗料?」

 しいねちゃんは、自分の地図帳を改めてっていう感じで眺めた。

「表紙は、もともとそういう色の紙ですよ」

「もともと、こういう色の紙?」

 コルベール先生が驚いた顔をした。
 ハルケギニアで紙っていったら、クリーム色っていうか、黄ばんだ白に近い色をしてるはずだから。

「はい、詳しい作り方とかはぼくも良く知らないですけど、文房具屋さんにいくといろんな種類の紙が売ってますよ。この紙みたいに厚くて凸凹してるのとか、ちょっとザラザラしてたりツルツルしてるのとか、色も普通は白ですけど黒、赤、青、緑、黄色なんかもあるし。あと、図面やグラフを描くために最初から縦横の罫線が入ってるのとか、図面やなんかをなぞって書き写すための向こう側が透けて見える紙なんかもあります」

 うわ~。なにそれ。
 わたしは、ケロッとした顔ですごいことを言うしいねちゃんを見る。
 地図帳っていう実物がなかったら、この子頭がおかしいんじゃないかしらって疑うところだけど、確かに、地図帳の前半はつるつるした紙だったし、後半は物すごく薄かったけれどざらざらしてちょっと黄ばんだ、ハルケギニアの紙みたいな紙だった。

「いやはや」

 コルベール先生は、驚いたような、呆れたような顔をした。

「それで、表紙に何か書いてるのはミスタ・しいねの国の文字ですね」

「ええと、そのミスタっていうのはやめて貰えますか?なんだかくすぐったいです」

「それは、失礼。では、しいねちゃん」

 そんなしいねちゃんを見て、チャチャとリーヤがクスクスと笑う。

「はい」

 しいねちゃんは、そんなチャチャとリーヤをバツの悪そうに見て、コルベール先生に向き直って返事をした。

「ええ、ぼく達の国の文字で、うらら学園中等部社会科副読本世界地図帳2008年度版ってかいてあります」

「ふむ……」

 コルベール先生は、何か納得したように頷いて、地図帳を開いた。
 わたしもコルベール先生のように、改めて地図帳を開く。
 最初のページは、つるつるてかてかした紙に印刷された綺麗な絵だった。
 全体が真っ黒で、その中央には明るい水色の円がある。水色の円の内側は白や赤茶色で複雑な模様が描かれている。
 初めて見るのになんだか懐かしい、綺麗で不思議な絵。

「これは?」

「ああ、それはジンコーエーセーから写したチキューのシャシンですよ」

 ?ジンコーエーセー?チキュー?シャシン?

「『ジンコーエーセーから写したチキューのシャシン』?」

「あ、そうか。人工衛星とか写真とか、分らないですよね。うーん、と、そうですね。地面から500キロメートルくらい上から見下ろしたぼく達が住んでる世界の、精密な絵です」

「500キロメートル?」

「あ、そっか、度量衡の単位も違うんですよね」

 しいねちゃんは、鞄の中から30サントくらいの薄くて細長い、透明な何かを取り出した。
 んー、なんだろう。太陽の光を受けてピカピカ光ってる。水晶?ガラス?なんだろう。
「ものすごく失礼な聞き方になりますけど」

 しいねちゃんが、本当に言い辛そうな顔をする。

「物差しって分りますか?」

「ええ、もちろん」

 コルベール先生が頷く。

「ああ、良かった」

 しいねちゃんはほっと息を吐き出した。

「この物差しなんですけど」

 しいねちゃんが、薄くて細長くて透明な……物差しをコルベール先生に渡した。

「これはガラス……では無いですね。素材はなんですか?」

「アクリル……って言っても分らないですよね、ええと、そうそう、人工的に作った透明な琥珀みたいな物だと思って下さい」

「人工的な琥珀、ですか。う~む」

 何回目だろう、コルベール先生が感心したようにため息をつく。
 琥珀って、確か木の樹液が固まったものよね。そんなものを人工的に作るって、どういう意味があるんだろう。

「で、この一番細かいメモリが1ミリメートル。メモリが10個で1センチメートル、この物差し全体で30センチメートルなんですけど、こちらではどうですか」

「ふむ。そうですね」

 コルベール先生は、ポケットから定規を取り出した。この人、なんで定規なんか持ち歩いてるのかしら。

「単位は違いますが、メモリの幅は同じですね。しいねちゃんの定規の一番小さなメモリ10個分が1サントですから、この物差しは30サントの物差しとして使えますな」

「そうすると。ぼく達の世界では、100センチで1メートルなんですけど、そういうのって、ありますか?」

「100サントが1メイル、1000メイルが1リーグです」

「ぼく達の世界では1000メートルで1キロメートルです」

「ふむ、そうすると長さに関しては数字だけ気をつければ混乱することは無さそうですな」

「そうですね。で、さっきの写真ですけど、こちらの単位で言うと、だいたい上空500リーグから地面を見下ろしたときの絵です」

「500リーグ、ですか」

 コルベール先生はそう言ったっきり、黙り込んでしまった。

 それはそうだろう。
 わたしの身長は153サント。コルベール先生は180サントくらいあるだろうか。たった30サント違うだけだけれど、わたしが見ている世界とコルベール先生がみている世界は全然違うはずなのに。
 魔法学院の主塔の高さが約30メイル。お母様のマンティコアに乗せてもらった時が大体100メイル。アルビオンだって3000メイル。リーグにしたらたったの3リーグしかない。
 地面から500リーグ、アルビオンの170倍の高さから見たら、ハルケギニアもこんな風に見えるんだろうか。

「ありがとう、ミスタ・リーヤ」

 そう言って、地図帳をリーヤに返す。

「おれのことも、リーヤでいいぞ」

「そうですか。なかなか面白い物を見せてくれてありがとう。リーヤ君」

「おう!」

 リーヤは、にぱって笑って片手を挙げた。

 ざわざわざわざわ。
 クラスの連中のざわめきがなんだか大きくなってきた。
 それはそうだろうとわたしも思う。
 連中は、こちらの状況が分からないのだから。
 そもそも、使い魔召喚の儀式は、使い魔になる生き物を呼び出すサモン・サーヴァントと、呼び出した生き物と使い魔の契約をするコントラクト・サーヴァントがセットだ。
 それを監督しているコルベール先生は、本当なら、わたしが失敗に次ぐ失敗、爆発に次ぐ爆発の末に召喚した3人の子供、しいねちゃん、リーヤ、チャチャと、無理やりにでも契約させるのが役目のはず。
 そのコルベール先生が、嬉々としてその3人の子供とお喋りしてるんだから、クラスの連中も戸惑うはずだ。

「さて」

 コルベール先生は、本当に楽しそうにニコニコ笑う。このおっさん、もしかして、本当に仕事を忘れてるんじゃない?

「お三人は、リーヤが狼男で、しいねちゃんとミス・チャチャがメイジだということですが……」

「ねぇ、しいねちゃん、メイジってなに?」

 チャチャがしいねちゃんに小声で話しかける。

「ああ、魔法使いのことですよ。魔法王国だと、魔法を使う人はみんな魔法使いですけど、ソーサラーとかプリーストとか、魔法使いにも色々呼び方があるじゃないですか。ここでは多分、魔法使いはメイジって呼ばれてるんじゃないですか」

 しいねちゃんも小声で答える。

「ふーん」

 チャチャは納得できたのか出来なかったのか、良く分からない顔でうなずいた。

「……皆さんを疑うわけではないのですが、」

 コルベール先生の話は続く。

「後学のために、なにか見せていただけませんか?」

「後学のため?」

 コルベール先生の言葉に、しいねちゃんが答える。

「ええ」

 コルベール先生はいたずら小僧の顔をして笑った。

「例えば、リーヤ君」

 中年のいたずら小僧に名前を呼ばれて、リーヤは身体をピクリと震わせた。

「リーヤ君は狼男だそうですが、狼男ということは、人間になったり狼になったり出来るのですよね?」

「う、うん」

 リーヤが答えると、チャチャが横からリーヤをつっついた。そして小声で

「うん、じゃなくて、“はい”でしょ」

 そういわれたリーヤは「はい、なのだ」と言いなおした。

「ここハルケギニアにも人狼という、人間になったり狼になったり出来る人達がいるんですけど、彼らは普段は人里から離れた深い森の中に住んでいて、滅多に人間の街や村には出てこないんですよ」

 滅多に人間の街や村には出てこないって……人狼が人間の街や村に出てきたら大変な騒ぎになっちゃうもんね、
人狼はリーヤと違って、身体は人間と一緒だけど頭は狼だから……って、あ、そうか。
 コルベール先生は、リーヤやしいねちゃん、チャチャが言ってることが本当かどうか確かめてるんだ。なんだかんだいって、一応、ちゃんと先生の仕事してるんだなぁ。
 うん、そうよね。
 しいねちゃんは嘘をつくようには見えないし、チャチャやリーヤはそもそも嘘がつけるようには見えない。
 でも、なんでさっきは、チャチャとしいねちゃんがメイジで、リーヤが狼男だって、簡単に信じてしまったんだろう。

「ですから、私も実は狼男の人や人狼の人が変身するところって見たこと無いんですよ。ですから、変身するところを是非、見せていただけませんか?」

 コルベール先生は、今まで以上にキラキラした目でリーヤを見ている。
 ありゃりゃ。
 だめだこの人、本当に自分の興味だけで変身するところを見たいんだ。
 ……見直して損した。

「それにしいねちゃんとミス・チャチャ。お二人は、外国の、異世界の魔法に興味はありませんか?」

「え…あの?」「いやぁ、そのぉ」

 突然話を振られて、チャチャとしいねちゃんがおろおろする。

「私は、大変に興味があるんですよ。今まで40年ほど生きてきましたが、残念ながらハルケギニアから出て外の世界の魔法に触れる機会が無かったのです。それが、今日、偶然とはいえ、しいねちゃんたち、ミス・チャチャという異国のメイジと出会うことが出来た。これが始祖ブリミルのお導きでなかったらなんだというのでしょう!」

「あのお……」「ちょっと?」「???」

 うわぁ、しいねちゃんとチャチャ、リーヤ、引きまくってる。

「なんたらかんたら、うーたらあーたら。あーだ、こーだ、どーだ、そーだ」

 一人で盛り上がって、どこかへ行ってしまったコルベール先生を見ながら、しいねちゃんがわたしに声をかけてきた。

「コルベール先生って、いつもああいう感じなんですか?」

 いつものコルベール先生……うん、怪しい発明品を持ってきて授業を潰すときはあんな感じだ。
 不安げにわたしを見るしいねちゃんに、わたしは無言で頷いた。

「リーヤ、とりあえず変身して見せてやれよ」

 一人で異様に盛り上がってるコルベール先生に何を言っても無駄だって思ったんだろう、リーヤの脇を突っついた。

「う、うん」
 リーヤが、なんとなく嫌そうに頷いて、コルベール先生のそばに歩いていく。

「コルベール先生」

 そして、あっちに逝っちゃってるコルベール先生のわき腹の辺りを突っついた。
「おっ、おお、これはリーヤ君」

 すると、コルベール先生は、どこかから帰ってきた。

「これから変身するから良く見てるのだ」

「なんと!変身してくれますか。ありがとう!」

「じゃ、いくぞ!えいっ!」

 しゅぽん!

 リーヤが「えい!」って言った瞬間、リーヤがいた場所で爆発が起きた!
 嘘っ!なんで!
 クラスの連中のざわめきが大きくなる。

「まさか、ヴァリエールの奴……平民の子供を召喚しちゃったのが気に入らないからって……」
「いや、いくらなんでもそれは無いだろ……いや、でも……」

 そんな声が聞こえてきた。
 ぐぐぐぐっ!

「ちょっと、あんた達!この私がそんなことする訳ないでしょう!」

 わたしは思わず叫んだ。
 でも、わたしの叫び声は、ふざけた事をぬかしたカボチャ頭には届かなかった。
 何故なら……。

「きゅいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

っていう、甲高い悲鳴に似た声にかき消されてしまったから。
 わたしは、思わず声がした方を見てしまった。
 突然の爆発に巻き込まれたリーヤがどうなったのかを確かめなければいけないというのに!

「きゅいきゅい!きゅいきゅいきゅい!」

 悲鳴みたいな声の正体は、一頭の風竜の鳴き声だった。
 あれは、そう、ツエルプストーの友達、ガリアからの留学生タバサが召喚、契約した風竜だ。

「きゅいっ!きゅいきゅいきゅいっ!きゅい!」

 広げると6メイルくらいはありそうな翼をばさばさと激しく動かし、短い手というか前脚をブンブン振り回して、タバサの風竜はわたしのことをちらちら見ながら、ご主人様に必死に何かを訴えかけているみたいだった。
 だけど、いつものように本を読んでいるタバサはぜんぜん風竜の声に応えようとしない。煩くて本を読むのに邪魔なんだろう、応えるどころか、タバサの身長よりも長いんじゃないかっていう杖で、風竜の頭をこつんと叩いたりしてる。
 それでも、タバサの風竜は、タバサとわたしを交互に見ながら……って、そうだ!リーヤ!

 わたしは、慌てて振り返る。
 爆発の跡には、傷だらけでぐったりと横たわるリーヤ…………は、いなかった。
 その代わり、そこにはタバサの風竜の声にびっくりして目をパチクリさせている、仔犬?がいた。犬にしては4本の脚がやけにしっかりしてるけど……。
 まさか、狼の子供!?

「あなた……リーヤ…なの?」

 恐る恐る声をかけると、その仔犬ははついさっきリーヤがそうしたように、にぱって笑って右手を、っていう
か右の前脚を上げた。

「おう!そうだぞ!」

 喋った!犬が喋ったぁ!?
 コントラクト・サーバントを済ませて使い魔になった動物が喋るようになったっていう話は良く聞くけど、まだ契約もしてない仔犬が喋る……じゃなくて!

「ね?」

 チャチャがニコニコしながら、仔犬を抱き上げた。

「人間のリーヤも強くて格好いいけど、狼のリーヤも、とってもふわふわのもこもこで格好いいでしょう?」

「は……い?」

 わたしは多分、この日二回目のとっても間抜けな顔をしてたと思う。
 あの時のわたしに出来たことと言えば、狼男の変身シーンを間近でみた感激に打ち震えるコルベール先生と、

「あっ!馬鹿犬!チャチャさんにくっつくな!」って言いながら、チャチャの腕から仔犬……リーヤを引き剥がそうとするしいねちゃん。
 そんなしいねちゃんに、「おれとチャチャは恋人同士なんだからくっついててもいいのだ!」って言ってしいねちゃんの顔を前脚で蹴飛ばすリーヤ。
「リーヤ、可愛い!」って言いながら、仔犬リーヤをぎゅうっと抱きしめるチャチャ。
 そんな4人を。
「きゅい!きゅい!きゅい!きゅい!」って大声で鳴き、タバサに何かを訴え続ける風竜の声をバックに、そんな4人の姿を呆然と見つめることだけだった。



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