あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔-14


 その日は朝食をもらいに厨房に行ったところ、いつもより人手が少なく感じた。
不審に思ったギュスターヴはマルトーに聞く。マルトーは厨房の弟子達をどやし付けながら答えてくれた。
「いやぁ、なんでもよ、今日は学院にアンリエッタ王女殿下が行幸しにくるってんで、式典に人手を取られちまってよ。
お陰で貴族向けの食事に手一杯で賄が適当になっちまったぜ」
「そう言うなよ、十分旨いぞ。…そうか、王女が来るのか」
「おうよ。なんと言ってもアンリエッタ王女といえば、トリステインに咲いた一輪の白百合!その美貌は一流貴族から底辺這い付く乞食まで明るく照らす、なんて言うんだぜ。
教師方もてんやわんやよ」
 空言のようにギュスターヴには聞こえてくる。恐らくマルトーにとっては、雲の上の人のことより今日明日の仕事の方が大事なのだろう。


朝食後。ギュスターヴは時折、ルイズについて授業を見学するのだが、今日もそのつもりでルイズに合流し、廊下を歩きながらマルトーから聞いた話をした。
「王女が来ると聞いたけど、本当か?」
「ええ。アンリエッタ王女殿下が起こしになるから、今日の授業は半分で済むのよ。その代わり、生徒全員で式典に参加してお出迎えしなくちゃいけないのよ」
 どうやら知らなかったのは周りで自分ひとりだったらしいと、ギュスターヴは心の内で自嘲しながら、噂から聞いた疑問を投げかける。
「王女は先王の娘だと聞いたけど、今の王は誰なんだ?」
「アンリエッタ殿下の母上であらせられる、マリアンヌ女王陛下よ。…といっても、政務の殆どは宰相のマザリーニ枢機卿が執っていると聞いてるわ」
「へぇ…」
 一言発してから静かになったギュスターヴを、ルイズは覗き見る。その顔はいつだったか、剣を買いに行ったときに見せた鋭いものだった。
(前にもこんな顔してたわねこいつ。…何考えているのかしら)
 質問されっきりで放置されてルイズは少し不愉快だったが、ギュスターヴの見せる顔は普段の温かいものとは違った、研ぎ澄まされた宝剣のような美しさを感じてしまう。
(い、嫌だわ!私ったら…。使い魔に見とれるなんて、まるでギーシュみたいじゃないの!)
 尚、引き合いに出されたギーシュは最近、女性関係に疲れて使い魔のヴェルダンテに癒しを求め始めたともっぱらの噂なのだった。
 さて、そんなルイズの視線をよそに、ギュスターヴは思考の中で情報を整理するのに真剣だった。
(女王が殆ど政務を執らず、宰相が執っているというのは…女王に政務を取り仕切る能力がないのか?)
 平時ではそれでも良いのだろう。しかし動乱激しいサンダイルで育ったギュスターヴにとって、それは少し危ういように思えるのだった。



『舞台、その裏は…』





そのように黙考をめぐらせながらやってきた教室の隅にギュスターヴは陣取り、なるべく授業の邪魔にならないようにと努める。
使い魔お披露目以外の時でも、教室に使い魔を入れるのは概ね了解されているため、教師も、他の生徒達も、とりあえずはギュスターヴが居ても放っておくのだ。
たまにギュスターヴにちょっかいを出す者、或いは、ギュスターヴを攻める形で間接的にルイズを罵るような輩もいるが、余程大騒ぎしない限り、ギュスターヴもルイズも
無視するようになった。
ギュスターヴはより多くこの世界の情報に接したかったし、ルイズは自分を磨くという目的に専心できるようになったからだ。特にルイズは座学では元から優秀だった為、
学科の授業ではそれは顕著だった。

徐々に時計が回ってゆき、教室に人が入って温まってきた頃、出入り口の一つから教師が入ってくる。彼は教壇の前に立って机に座る生徒達を見渡して言い放った。
「諸君。知ってるとは思うが、私の二つ名は『疾風』、疾風のギトーだ。今日は四属性の性質について、あらましながら触れたいと思う。さて…」
 ギトーと名乗った教師は、細く吊りあがるような目で教室を見て、一角に座っていた赤髪の女生徒に焦点を絞った。
「ミス・ツェルプストー。質問に答えてもらえるかね」
「なんでしょうか。ミスタ・ギトー」
「この世に存在する魔法属性の中で、最も強大なものはなんだと思うかね」
 問われたキュルケは、一呼吸置いて答えた。
「虚無ではありませんか?」
「私は伝説の話をしているのではない」
 ギトーはキュルケの答えに鼻で笑う。その振る舞いがキュルケには不快だった。
「では、火だと思いますわ」
「ほぅ。それはなぜかね」
「火はあらゆるものを燃やす、破壊と情熱の力ですもの」
 髪を掻き揚げて胸を張るキュルケ。ちょっとした意趣返しのつもりである。
「ふむ。なるほど。その答えには一定の真実が含まれている。では」
 言葉を切ると、ギトーは腰から杖を抜いて構えた。
「私を火の魔法で傷つけることが出来るかね?ミス・ツェルプストー」
 教室が俄にざわりと震える。問われたキュルケも驚いた。
「…本気で仰いまして?ミスタ」
「無論だ。君の得意な火の魔法を私に放ちたまえ。君が火を最強と言うのであればな」
(遊ばれている…)
 いちいち物言いが不愉快な教師である。キュルケは胸元から杖を抜いて立ち上がり、構えた。
杖先に意識が集中される。火花のような種火が上がり、それは風船に息を吹き込むように膨らんでゆく。
 膨らみきった火球は、直径1メイルはあるだろう大火球となってキュルケの杖先に出現した。
 その熱気を恐れて周囲の生徒が避難を始める。
「『フレイム・ボール』!」
 杖を振って火球がギトーに向かって飛ぶ。通る道の空気を焼き焦がしながら飛ぶ小太陽に向かって、ギトーはルーンを唱えてから、サッと杖を振った。
火球はギトーの胸元まで迫らんか、という時。見えない壁に遮られたようにその進行を止めてしまった。
火球はギトーの目前で轟々と燃え続けていたが、やがて徐々にその勢いを弱めて小さくなり、最後には消えた。
ギトーはその様を満足げに確認してから、視線を教室全体へ移す。
「諸君。ご覧のとおりだ。強大な破壊力を秘めた火の魔法でも、私が操る風の前にはその力が及ばなかった事を覚えて置いていただきたい」
 キュルケは鼻白んだ。なんという教師だ。生徒を己のダシに使うとは!
 対して一騒動終わったようだ、と避難した生徒達が席に戻っていく。
「勿論、あらゆる真理を押しのけて風が最強だ、とは言わぬ。しかし、風は大気ある限り普く作用することができる、という点で他の属性を凌駕できる。
火は水の中では燃えぬ、土は大地から離れては使えぬ、というように。同様の点で水の属性もまた、広い領域に作用する魔法である。メイジの中には
風と水を混ぜて氷の作用を起こし、これを操るものが多い」
 ピクリ、とキュルケの近くの席に座って授業を受けていたタバサが反応した。

しかし、とギトーは続ける。
「残念ながら、氷の変化に頼るメイジは、二流と言わざるをえない。なぜならば、風の属性には、その性質ゆえに他の属性には決して真似できぬ技術が存在するからだ。
今からそれをお見せしよう」
 そう言うとギトーは、再び杖を構える。今度は先ほどより強く集中しているのが雰囲気にもわかる。
「ユビキタス・デル・ウィンデ…」
 ルーンが完成しつつあった瞬間、外側から誰かが教室の扉をドンドンを激しく叩いている。
 ギトーは神経を散らしたらしく杖を収めた。
「…どなたかね」
 不機嫌そうなギトーの声を聞いて開かれた扉から入ってきたのは、コルベールだった。
しかし、その格好は普段とは大きくかけ離れている。普段のそれよりも上質のローブを纏い、それの襟には細やかなレースが付いている。何より印象を大きく変えるのは、
不釣合いなほど立派な金髪ロールの鬘だ。普段の彼を知るものから見れば冗談にしか見えないようなゴージャスなロールヘアである。
 開口一番、コルベールはギトーと生徒全体に聞かせる。
「皆さん、授業は中止ですぞ!至急生徒と教師一同は装いを改めて正門前に整列、王女殿下をお出迎えしますぞ」
「ミスタ・コルベール。式典までまだ時間があるかと思いますが…」
 ギトーは懐の時計を見る。まだいくばくかの時間があるはずだった。
 コルベールは重たい鬘に頭を振り回されながら答える。
「いえ、それがゲルマニアを予定より早く起たれたとの事で、学院への到着も早まると伝書が届いたのです。良いですか皆さん。殿下の御覚えよろしくなれるよう、
杖を磨いて準備するように!」




 さて、そんな具合に徐々に学院が慌しくなってゆく頃、学院へと続く長く引かれた街道を、とある一団が進んでいた。
ユニコーン四頭で引かれた、豪奢な馬車が一台。さらにその後に重種馬二頭引きの馬車が進み、その前後を猛々しい幻獣に乗った兵士数人が囲んでいる。
 馬車の側面と正面には、磁器で作られたような滑らかな光沢を放つ、ユニコーンと白百合をあしらったレリーフが誂えていた。
王女の紋章である。

街道を揺れる馬車の中で、一人の女性がため息をついた。揺れに任せる深紫の髪が憂いの表情を彩る。その姿は上質のドレスを纏いながらも、そこから
あふれ出るような高貴を放つ。血筋の良さと温和な精神とが生み出す円やかな美しさであった。
「また、ため息をつかれますか」
 そんな絶世の美女に同席するのは、一人の壮年の男だ。この男も女性と同じように上質の布を用いた服を着ている。その姿から
高位の官職を受けた人間であることがわかるが、女性と違い、つや肌や振る舞いに品位がにじむ、というものではない。むしろ消耗し、生気が枯れ始めたような
雰囲気さえある。
「ため息も出ますわ」

 何を隠そう、この二人こそ学院の人間達が狂騒して待っているトリステイン王女、アンリエッタ殿下と、トリステイン王国の屋台骨を支える宰相マザリーニ枢機卿である。
「それほどまでに嫁がれるのがお嫌と見ますな」
「ええ。このトリステインの王侯貴族の中に、好き好んでゲルマニアと縁を繋ごう、というものがおりますか」

この王女殿下・宰相一向は先日、隣接する大国ゲルマニアとの会談と一定の政治的合意を得て帰国したのだ。

それはつまり、『アンリエッタ王女と、ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世との婚約』並びに『トリステイン・ゲルマニア間の互助軍事防衛同盟』である。


「あのような成り上がりの男の妻になれだなどと、よくも言えますわね」
「殿下。失礼ながら我がトリステインには他に選ぶ選択がございませぬことを、ご存知でしょう」
「存じてますわ。私達には剣が足りませぬ。そしてゲルマニアのあの男には高貴な血筋が足らぬのです。ですから今回の盟約が成るのでしょう」
 既に旅すがら王女を説得すべく話し続けたマザリーニの言葉である。アンリエッタはうんざりしながら諳んじて見せた。
「アルビオンの内乱が進み、王軍が倒れようとしている。反乱軍は『レコン・キスタ』を名乗り、アルビオンを併呑の後には、トリステインを始め諸外国への侵攻も
仄めかしている。あろう事か『始祖への信仰』を謳って」
 始祖が与えた三つの王権の一つ、アルビオン王国は、数年前から続く内乱に見舞われていた。反乱軍は『レコン・キスタ』を名乗る貴族同盟であり、彼らは
現在ある始祖の三王国に対して『現在の王権は聖地の奪還を忘れ腐敗しきっている』と声高に宣言した。
「アルビオンが落ちれば地理的にいえば第一に狙われるのが我が国です。しかしながら強大なアルビオンの軍勢と対するには我が国はあまりにも脆弱なのですよ」
「でも、何度聞いても要領を得ないのです。始祖から授かりし王権と王家が潰えるなどありうるのでしょうか」
 マザリーニに向かって真顔で答えるアンリエッタ。彼女は幼い頃より帝王学の指導を受けなかったせいか、政治的素養が弱い。これは現女王マリアンヌの方針であった。
(ああ、先帝陛下がご存命であれば、もう少し策もあったものを…)
 マザリーニの懊悩は深い。

 先帝はあまりに若く、かつ急な崩御を迎えた。国内はその死に混乱したが、マザリーニは情勢を安定させるために喪に服していたマリアンヌ王妃を強引に玉座に据えた。
形式としても玉座が空のままでは国を傾ける、と考えた為である。
しかしマリアンヌは先帝が英邁であったためか政治的感性も興味もまるで持たなかった人だった。玉座を埋めたこの3年間も、マザリーニ他宮廷の高官達の
説得や讒言に応じず、ただ玉座を暖めて過すのみ。これでは国難を乗り切ることはとても出来ない。それで今回の盟約となったのだ。

国難を退く一手の期待を負う羽目になったアンリエッタは気の晴れない表情のまま終始している。マザリーニは窓を隠すカーテンを開けて併走する幻獣騎兵を手招いた。
体躯の張り詰めた逞しいグリフィンにまたがる兵士は、唾の広い羽帽子を被っている。
「お呼びでしょうか。猊下」
「殿下のお気が優れぬ。何か気晴らしをさせて見せよ」
 兵士は一礼して列を少し離れ、軍隊式の杖を構えて振る。鋭く伸びたつむじ風が、陽気に向けて開かれた野花達を摘み取って戻ってくる。兵士は
シルクのハンケチーフを取り出して、即席の花束を作って見せた。
馬車の反対側に回ると、カーテンを開けたその向こう側に、美しいトリステインの白百合が手を伸ばしていた。
「殿下御自らのお手で受けられるとは。恐縮でございます」
 渡された花束が馬車の中に消えて、再び伸ばされた手に兵士は恭しく口付けて見せた。
「お名前は?」
「魔法衛士大隊、グリフォン中隊長。ワルド子爵と申します」
 憂いながらもワルドと名乗った兵に向かって視線を垂れる王女。その姿は透けるような美がある。

「貴方は貴族の鑑ね」
「殿下の卑しき僕にございます」
「…貴方のような忠誠深き臣下ばかりなら、トリステインも大安であったのですがね」
「悲しき時代でございますな、殿下」
「貴方の忠誠と行動に期待しますわ」
「勿体無きお言葉を…」
 礼をして再び警護の中にワルドは戻っていく。カーテンが閉められ、アンリエッタの視線がマザリーニへ移る。
「彼は信用できるのですか?」
「あの者は衛士大隊でも指折りの猛者でございます。『閃光』の二つ名を以って呼ばれ、アルビオンの竜騎士大隊兵らにも劣らぬ男にございますが」
「ワルドと名乗っていましたね。聞き覚えがあるのですが…」
「ラ・ヴァリエール領に近い所ですな」
「ヴァリエール…」
 アンリエッタの思考が遠くへ耽っていく。その素振りがマザリーニには奇妙だった。
「……何か」
「いえ…なんでもありませんわ」
「……そうですな。たしか先日のシュバリエ申請の書類に、ヴァリエール公の御息女の名がありましたな」
 埒も無い話が漏れて、再び記憶を手繰り寄せるアンリエッタ。そう、以前裁務の代行を務めた時、書類の中に一つ。
盗賊を捕まえるのに尽力したとして名前が挙がっていた。
それは幼き日々に忘れていたような懐かしい名前であった。
「…殿下」
「…なんでしょうか」
 三度、過去想いに耽っていたアンリエッタを、マザリーニは諌める声で現実に引き寄せた。
「近頃宮廷内でも『レコン・キスタ』に組しようと暗躍する一派がおります。付け込まれぬようお願いしますぞ」
「判っておりますわ……」
「その言葉、信じますぞ」
「嘘は申しません。私は王女ですもの」
 目を細めてマザリーニがアンリエッタを見る。
 アンリエッタは手に持つ花束を見た。生きた土の匂いが染み付いている。
(ウェールズ様……)
 花は馬車の揺れに合せてゆらゆらと動いていた。


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