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復活・使い魔くん千年王国 第四章 虚無への供物

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《主は我が牧者なり、われ乏しきことあらじ。主はわれを緑の野に伏させ、憩いの水際に伴いたもう。
 主は我が魂を生かし、御名のゆえをもて、われを正しき路に導きたもう。
 たといわれ死の陰の谷を歩むとも、災いを恐れじ。汝われとともにいませばなり》
  (旧約聖書『詩篇』第二十三章より)


反逆地獄へ落ちた松下たちを待っていたのは、妙にニヒリストでシニカルな案内人。
彼に案内されて、一行は地獄の中心からアルビオンへ帰還する、復活への旅路を歩み出した。

「なーによマツシタ、こいつにもう少し言い返してやらないの?
 あんたの生きる理由ってやつが、とっても冷ややかに嘲笑われたのに」
「彼の言うことにも一理はある。別に腹も立たんね。
 ここのような、時間のない永劫の場所から見れば、地上での千年や六千年や一万年など、ほんの一瞬と変わらんよ。
 それに、ぼくのすべきことは、やたらに他人と言い争うことではなく、現在苦しむ人々を救うことなのだからね」

松下が相変わらずマイペースなので、ルイズは少々期待が外れて不満そうだ。
……ふと、ある疑問が彼女の頭に浮かぶ。
「そういえばさぁ、あんたって私に召喚される40年以上前に、一度死んでいるじゃないの。
 その間は何やっていたのよ。死にっぱなしで寝ていたわけ?」

「いや。ぼくはあの時、すでに『死んでも生きる方法』を発見していたのでね……。
 つまり、霊体に魔力を纏わせて肉体とし、霊界で復活する秘術のことだ」
「!?」
何を淡々とトンデモないことを言い出すのだ、このガキは。
「そのまま死の世界へ降りていって、10年ほどかけて悪魔どもと戦い、乱れた地獄を統一していた。
 そして地獄の魔物を率いて地上へ攻めあがって行って、日本の首都を再占領したんだが、すぐ天界に拉致されてね。
 まだ時が満ちていなかったんだろう。それから30年ばかりは、勉学と修行と瞑想だよ。
 霊界は時間の流れが現世とは異なるから、あまり成長はしていないが」
「宇宙規模で迷惑なガキなのね、あんたって……やれやれ」

どうにもこいつは、生きていようが死んでいようが尋常ではない。
ルイズはいつものように、額を押さえて溜息をついた。どこぞの雑用係みたいに「やれやれ」が口癖になったらどうする。
よく考えたら、8歳で死んでから44年ということは、普通に生きていれば今年で50歳過ぎ。
自分の両親と同い年ぐらいではないか、確かにそんな貫禄はあるが。
いやに老けた子供というべきか、幼い容姿の壮年というべきか。……やっぱり悪魔か。


くっくっ、とその後ろで忍び笑いがした。松下が振り向く。
「何がおかしいんだ、佐藤」
「スミマセン。いやあ、メシアのそばにこんな美少女が二人も付き添っているなんて、と思ってしまいましてねえ」
「あらいやですわサトウさん、私が美少女だなんて! うふふ」
シエスタがなんだかオバサンくさく照れる。

「まあ、以前の十二使徒は、変な連中ばかりだったからなぁ。女性と言っても、フクロウや中年魔女や幽霊とかだったし」
「あんたが一番変なのよ。『類は友を呼ぶ』って言うじゃないの!」
「じゃあ、ぼくを呼び寄せたきみも相当変な奴ということだな。人のことが言えるか御主人サマ、『ゼロのルイズ』」
「ななななな、ナニヌネノ……!!」

あっさりと松下にあしらわれ、言葉のカウンターを食らって、ギリギリとルイズは歯軋りした。
死んでもある意味明るい連中である。
「でも、メシア。この佐藤が生きていた頃は、メシアが地獄から攻め寄せてきたなんて大事件は、
 少なくとも東京では起きていませんでしたが……」
「じゃあ、お前の存在しない異世界の東京に攻め込んだのかな。それとも天界側が人間界の記憶操作でもしたか」

しばらく歩くが、案内人はまだ立ち止まらない。この深淵を渡るフネが用意してあるとのことだが、本当だろうか。
「ところでルイズ。今気がついたことなんだが」
「あによ」
「ぼくの右手のルーンが消えている」

タハッ、とルイズが変な声を出してつんのめった。さっきから驚いてばかりだ。
「…………え、ええええええ!?」
「使い魔と主人の契約というのは、『どちらかが死ねば外れる』ものだったよな。
 なにしろ、今は両方とも死んでいるからなぁ。肉体が死ねばルーンも外れるんだろう」
「ど、どーすんのよ」
こんな悪魔人間を縛り付ける契約のルーンが外れたら、自分は、世の中はどうなってしまうのだ?

「獣を操る能力も便利ではあるし、《虚無の使い魔》ということで箔がついてはいたが……。
 ここは動物もいそうにないし、今のところヴィンダールヴはいらないな。
 復活したら再契約に挑戦してみるか? いくら腐れ縁とはいえ、すっぱり縁が切れては少々寂しいじゃないか」
「使い魔召喚のゲートは、基本的にアトランダムに開くのよ。召喚するのもされるのも運命としか言えないわ。
 異世界の人間が召喚されるなんて、いままで聞いたこともなかったし」

「なるほど、じゃあぼく以外の者が使い魔として召喚される可能性も充分あるわけだ。
 そこを歩いている虚無主義の案内人とかどうだい。右手が三本もあるぜ」
「ふんだ、次はもうちょっとマトモな人格の使い魔を召喚してやるわよ!」


《私はまた、ほかの獣(反キリスト)が地から上って来るのを見た。
 それには小羊(メシア)のような角が二つあって、龍(サタン)のように物を言った。
 そして、先の獣(皇帝)の持つすべての権力をその前で働かせた。
 …また、小さき者にも、大いなる者にも、富める者にも、貧しき者にも、自由人にも、奴隷にも、
 すべての人々に、その右の手あるいは額に刻印を押させ、
 この刻印のない者はみな、物を買うことも売ることもできないようにした。
 この刻印は、その獣の名、その名の数字のことである。ここに知恵が必要である。
 思慮ある者は獣の数字を解くがよい、これは人間を指している。その数字は六百六十六である》
  (新約聖書『ヨハネによる黙示録』第十三章より)


なんだかんだで仲間には面倒見のいいマツシタだ、使い魔でなくなっても元の主人を守ってはくれるだろう。
こんな薄気味悪い子供に守ってもらうのも、なんだか腹が立つが。
――――いや、そもそもマツシタは、このルイズ・フランソワーズを必要としてくれているのか?
恋愛とか人類愛とか、そういう意味でなく。もうちょっと頼りにして、認めてくれたっていいんじゃなかろうか。

「あのう、なんですかシエスタさん、ヴィンダールヴって」
「メシアと第一使徒が契約を結んだとき、メシアの右手に浮かび上がってきたルーンです。
 伝説の『虚無の使い魔』の印で、あらゆる動物を操ることができるのですよ」
「ははぁ……しかし、メシアを使い魔にするなんて、前代未聞ですなぁ。ははは」
「猫撫で声でひそひそ話をしても、ぼくには聞こえているぞ佐藤」


「さ、皆様お待たせしました。渡し場に着きましたよ」
案内人の声に、一行は喋るのをやめて立ち止まる。
なるほど、深淵の縁になにやら桟橋のようなものと、ねじくれたデザインの白っぽい巨大なフネがあるではないか。

「なんなのよ、このでかくて気味の悪いフネは」
「冥土の渡し舟、ナグルファルですよ。きちんと埋葬されなかった死人から切り取られた、無数の爪でできています。
 終わりの日が来ると、深淵からこうしたフネが無数に浮かび上がり、地獄の軍勢が地上へと進撃するのです!」
「お、終わりの日って……その」

案内人は、怯えるルイズを怖がらせるように、顔もないのにニタニタと笑った。
「古い世界の終末の時です。ハルマゲドン、ラグナロク、神々の黄昏というやつですね。
 さあて、このフネに乗れば、目的地まで地上の時間で言えば二日ほどです。
 ま、ゆっくりと英気を養ってください」



時間は少し遡り、場面は現世に変わって、アルビオン大陸のスカボロー港。
ここに、トリステイン軍の敗残兵2万人弱が集結し、総司令部の指揮の下、母国への一時撤退の準備を行っていた……。

「おーい、フネはまだ出ねえのかっ」
「このままじゃ俺たちゃ、ゲルマニアの蛮人どもに殺されちまうじゃねえかっ」
殺気立つ兵士たちに、将校も怖気づいて説得につとめる。
「い、いや諸君、フネはあるんだ。あるにはあるが、風石が足りん。
 このまま出港しては海に落下してしまう! だから今周辺の港からも掻き集めて……」

「なんだって! それじゃあ逃げられ、もとい転進できねえじゃねえか」
「ふざけんじゃねえ、誰が指揮をとってんだ! 司令官閣下を出せっ」
「まさか司令部だけ脱出しようってんじゃあるまいな」
「なんならお前らの首を手土産にして、降伏したっていいんだぜ」
「そ、その方がマシだ! ただの傭兵に名誉なんかいらねえっ。戦争が終われば盗賊に戻るだけだ」
生き残るために傭兵たちが暴動を起こし、将校に襲い掛かる。阿鼻叫喚の醜悪な争いが始まった。

さて一方、士官候補生の少年貴族たちは、そこからやや離れた臨時総司令部に集められていた。
「……どうもあっちは騒がしいですねぇ」
「風邪っぴきのマリコルヌ、おめえ何をノンキにしてやがんだ。敗戦なんだぞ」
先輩に叱られた太っちょの少年は、不貞腐れた様に唇を尖らせる。
「だって、今更アルビオンやゲルマニアに降伏なんてできませんよ。まがりなりにも僕ら、貴族の子弟じゃないですか。
 こうなりゃもうフネが出るかどうか、運を天に任せましょう」
「貴族も平民も奴隷もねぇよ、戦場ってのは平等に死が襲ってくるところだぜ」

そこへ、別の貴族がひそひそ声で参加する。
「でも、貴族だったら捕虜になっても、身代金を払えば釈放してくれますよ。
 人間の生き死には平等だなんて大ウソです! まだ遅くないから、今のうちに投降しちゃいましょう。
 ほら、こんなビラも撒かれていましたし。本土ももう危ないって話ですもんね」
「けど、俺の実家は貧乏貴族で、払えるカネがねえからなぁ。あるのは借金だけだ……ははは」

なんともはや、戦意のかけらもない。彼らの無駄口を聞きつけた将校が激怒する。
「ばかーっ、誇り高いトリステイン王国の貴族がなんてこと言うんだーっ。
 生きて虜囚の辱めを受けず、杖をひっさげて玉砕し、少しでも敵に損害を与えてこそだなァ」
「だったら閣下がお手本を見せて、華と散ってくださいよ。こんなとこまで逃げ込まなくたって」
「ばか者ーっ、上官に口答えするなーっ(ビビビビビン)。ボヤボヤしてないで、外で哨戒でもやっとれっ」

仕方なく、一同はぞろぞろと部屋から出て行った。
「ああ、戦争さえなけりゃあ、この島国は天国みたいなところなんだがなァ……」
「天国だって? 料理や酒はまずいし、ねーちゃんはキツいぜ。天国より祖国を思えよ、祖国をよう」


なにしろスカボローへたどり着くまでに、1万人ほどの人間がゲルマニア軍に降伏してしまったのだ。
今ここに集まっているのは、焦って逃げてきて降伏のタイミングを逃したか、
必死の戦闘も降伏もしたくないというような連中ばかり。
それもあらかたが王軍直属の貴族と傭兵だ。輜重部隊の平民は大多数が捕虜になったため、助かってはいる。

「そういやあ今、タルブ伯爵の私兵団が、ギーシュ・ド・グラモンと一緒に殿軍をやっているそうですねえ。
 しかし七万からが相手じゃあ、どうせ全滅ですよ」
「我々が態勢を整えて、転進する時を稼ぐ程度の役には立ってくれているだろう。彼らの死を無駄にはせん」

そうこうするうちに、上空にカラスを飛ばしていた見張りが何かを発見する。
「……おい、でっかいやつが正面から来あがったぜ」
「ええっ」「あ、ほんとだ」

見覚えのある十数隻の艦隊が港の外の空中に現れた。旗は青地に白百合、トリステイン王国の旗だ。
スカボローの司令部は喜びに沸き返る。
「おお、あれは我がトリステインの軍艦だ! ロサイスから脱出して、生き残っていたか!」
「そうだ、もう助けが来るころだと思っていた! 万歳、始祖ブリミル万歳!!」
「これで帰れるぞ! アンリエッタ女王陛下万歳!!」
「おーい、ここだ! ここだ! 助けてくれーっ!」

しかし、するするとトリステインの旗は降ろされ、代わってアルビオン共和国の三色旗と帝政ゲルマニア国旗、
それに『鉤十字(ハーケンクロイツ)』の旗が掲げられる。将軍や兵士たちの表情が、凍りついた。
数十隻に増えた艦隊は揃って横腹を向けると、火砲の口を港に向けて、一斉に砲弾を放った。

ズドドン、ドーン!と炸裂する砲弾。
ドドドドド、バババババと降り注ぐ鉄の雨。
バリバリバリ、ドカーンと鳴り響く落雷のような爆音。
スカボロー港に集結していた敗残兵は、たちまち港湾施設ごと粉々にされてしまう。

「よおーし、上陸開始ーっ。さっさと制圧してロンディニウムへ進撃するぞーっ。
 身代金がとれそうな、身なりのいい奴は捕虜にしていいが、あとは皆殺しだーっ」

艦砲射撃が終わると、数隻の軍艦が港に接岸し、上陸用のスロープを降ろす。
わらわらと機銃で武装したゲルマニア兵が出てくる。さらに鉄でできた砲亀兵のような、異様なモノも数台降りてきた。
異世界からやってきた超兵器のひとつ、《ティーガー戦車》だ。キュラキュラキュラとキャタピラの音を鳴らしている。
実戦での威力を試すために投入されたようである。

「目標前方の建物、88ミリメイル砲、うてーーっ!!」

ずどん!! という轟音が、マリコルヌの意識を刈り取った。


《…軍隊というものが、そもそも人類にとって最も病的な存在なのです。
 本来のあるべき人類の姿じゃないのです。
 澄み渡る空や、囀る鳥や、島の住人のような健全さはどこにもありません》


やがて悪夢のような数時間が過ぎる……。
マリコルヌは、弾丸の破片で穴の空いた頬にハエが卵を生みつけたので、ハッと気がついた……。
あたりには大量の血と肉片が飛び散り、死屍累々たる有様だ。死体に埋れていたおかげで生きていたのだろう。
「みぃんな死んじまったあ……ひるぅはしおれーて夜にさくぅ、か……ケケケケ」

全身ズタボロになったマリコルヌは、よろよろと立ち上がりながら、気が触れたように笑い出した。
さっきから幻聴だろうか、誰かの激昂したような声が、頭の中にガンガン鳴り響いている。


《生きるのは神の、自然の意志ですよ!
 虫けらでもなんでも、生きとし生けるものが生きるのは宇宙の意思です。
 それをさえぎるものはなんだろうと悪ですよ、制度だってなんだって悪ですよ》


―――ああ、そうだろうとも。まさにその通りだ。
僕は、このマリコルヌは、まだまだ生きたい。まだ女の子と付き合ったことさえないんだ。つまり童貞だ。
祖国も女王も名誉もあったものか、自分の生命こそどんな宝にも勝る。生きる、俺は生きるぞ。
ああ、しかし一節、小唄を歌わせてくれ。けけけけけ。

  私はくるわに 散る花よ 昼はしおれーて 夜にさく
  いやなお客も きらはれず 鬼の主人の きげんとり
  わたーしはー なーああんで こーのよーうな つらーいつとめーを せーにゃなあらぬ
  これもぜひない 親のため

かすれる声で小唄を歌い、けけけけ、と哄笑するマリコルヌに、当然ながらゲルマニア兵が気づき、銃を撃つ。
「うう う ……」
あっけなく腹部を撃たれ、彼はどうっと再び倒れた。もう、二度と立ち上がれない。


 (ああ……みんな、こんな気持ちで死んで行ったんだなあ……。
  誰に見られることもなく、誰に語ることもできず……ただ忘れ去られるだけ……)


『風上』のマリコルヌ・ド・グランドプレは、かくして異国の土となった。


(つづく)


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