結局、とらには何も訊けなかった。昼食を食べながら、ルイズは溜息をつく。
なんとなく、あの夢に出てきた男は、とらが変化した姿だったような気がした。とらが散歩から帰ってくるのをまって、問いただそうとしたのだが。
なんとなく、あの夢に出てきた男は、とらが変化した姿だったような気がした。とらが散歩から帰ってくるのをまって、問いただそうとしたのだが。
(もし、あれがとらだとして……ううん、やっぱり、訊けるわけないじゃない)
夢に出てきた、右肩のない男……何本もの矢に貫かれながらも、子供の遺体を抱き叫び声をあげる姿。
ルイズの胸が締め付けられるように痛くなる。ルイズはぎゅっと胸を押さえた。
ルイズの胸が締め付けられるように痛くなる。ルイズはぎゅっと胸を押さえた。
「るいず、どうした?」
「な、なんでもないわ」
「そうかよ」
「な、なんでもないわ」
「そうかよ」
ルイズの頭の上に乗ったとらが、ルイズの顔を覗き込んでいた。最近では、肩や頭の上にとらが乗っかるのが定位置である。不思議と重さはない。
もっとも、とらが壁をすり抜けたり姿を消したりするのを見慣れたルイズにとっては、さほど驚きではなくなっていた。
もっとも、とらが壁をすり抜けたり姿を消したりするのを見慣れたルイズにとっては、さほど驚きではなくなっていた。
「あー、それじゃあな、伝えとくぜ」
とらが『テロヤキバッカ』を食べながら呟く。とらから何かを言ってくるのは珍しい。一体なんだろう、ルイズは不信に思った。
「中庭でどっかの野郎が外法を使ったぜ……どうやら、『ごうれむ』ってやつを作る外法だな」
「ごご、ゴーレム!?」
「ごご、ゴーレム!?」
ルイズが驚いて立ち上がるのと、巨大な衝撃音が学院に鳴り響くのが、同時であった。
中庭では、『土くれ』のフーケが、巨大な土ゴーレムを操り、宝物庫の壁を攻撃していた。
(くっ……物理攻撃でしか破壊できないなら、これしか方法がないけど……っ。まずいわね……いったん出直そうかしら)
宝物庫の壁を破るには物理攻撃しかない。しかし、いかにフーケの巨大な土ゴーレムといえど、どうやら宝物庫の壁を破るには不十分であった。
学院の教師たちの主力は、所用で王宮に出向いているはずであるが、あまり長くここにいるわけにはいかない。
後に残った教師たちももちろんそれなりのメイジである。集まればフーケといえど苦戦するかもしれなかった。
学院の教師たちの主力は、所用で王宮に出向いているはずであるが、あまり長くここにいるわけにはいかない。
後に残った教師たちももちろんそれなりのメイジである。集まればフーケといえど苦戦するかもしれなかった。
このとき、フーケの頭の中に、生徒とその使い魔についての意識がなかったことは致命的であった。
特に、一人の魔法を使えない少女と、その少女が呼び出した幻獣について、フーケは忘れていたのであった。
特に、一人の魔法を使えない少女と、その少女が呼び出した幻獣について、フーケは忘れていたのであった。
「おぉおぉおおぉおぉお!!!」
土ゴーレムに押し寄せる金色の風が、巨大な雄叫びをあげた。
「……土ゴーレム!! 大きい……30メイルはあるわ!」
風を切り裂いて飛ぶとらの背中で、ゴーレムを見たルイズは叫んだ。
これだけの大きさのゴーレムを操れるとは、トライアングル・クラス以上のメイジであることは間違いない。
これだけの大きさのゴーレムを操れるとは、トライアングル・クラス以上のメイジであることは間違いない。
(最近、王都を騒がす怪盗について、噂を聞いたけど……まさか……)
「ひゃっひゃっひゃ、壊しがいがあらぁ! おい、るいず! わしの背中にしっかりつかまってろ!!」
「え? ちょ、まって――きゃああああ!!」
「え? ちょ、まって――きゃああああ!!」
ルイズの言葉を待たず、とらのたてがみからパリパリと電気がほとばしる。巨大な雷が土ゴーレムに放たれた。
ゴン!
爆発音と共に、雷がゴーレムの頭部を吹き飛ばし、後ろの壁に穴を開ける……まさに、ゴーレムが壊そうとしていたその場所であった。
一瞬、ゴーレムの肩にのって呆然としていた黒いローブを着た人物は、あわててひらりと穴に飛び込む。
一瞬、ゴーレムの肩にのって呆然としていた黒いローブを着た人物は、あわててひらりと穴に飛び込む。
(えええええ!? ああああそこ、ひょっとして宝物庫だったりして……)
一方、立ちはだかる土ゴーレムは、周囲の土を吸い取りながら、頭を再生させた。どうやら、一撃で粉々にでもしない限り再生できるらしい。
(動きはとろくせえが、やっかいだな……術者を殺せば止まるだろうがよ)
とらが放つ巨大な雷は、ゴーレムの頭、手、肩と吹き飛ばすが、再生速度が速く、ゴーレムを打ち倒すには足りない。ち、ととらは舌打ちする。
「るいず、術者はどこだ? そいつをぶっ殺ししたら――」
とらがそう声を上げたとき、大きな音を立ててゴーレムが崩れていった。土の塊に戻ったゴーレムのかわりに、もうもうと土煙が舞い上がり、視界をさえぎっていく。
どうやら、土ゴーレムを操るのをやめ、侵入者は逃げ出したようだった。土煙は逃亡のための煙幕だろう。
どうやら、土ゴーレムを操るのをやめ、侵入者は逃げ出したようだった。土煙は逃亡のための煙幕だろう。
「ち、逃げたかよ……」
びゅうぅうぅうううっ!!
とらが風を起こし、土煙を吹き飛ばしたとき――
宝物庫には、すでに誰も居なかった。壁に魔法で刻まれた文字が、そこに侵入した盗賊の名を高らかに宣言していた。
宝物庫には、すでに誰も居なかった。壁に魔法で刻まれた文字が、そこに侵入した盗賊の名を高らかに宣言していた。
『破壊の剣、たしかに領収いたしました。土くれのフーケ』