あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロな提督-27 c


 ラ・ロシェールから遠く離れた空に、アルビオン艦隊が滞空していた。戦列艦だけでな
く、地上へ降下し占領活動を行う地上部隊を乗せたガレオン船などの輸送艦も列をなして
いる。
 旗艦『レキシントン』号にも竜騎士20騎と多数の陸戦隊が待機している。が、ラ・ロ
シェールやトリスタニアのような大きな街を占領するとなると、相応の人数がいる。それ
ら全てを戦列艦に載せる事は出来ない。なので輸送船が上空で待機していた。

 旗艦の艦橋にはワルドの報告を受けるボーウッドがいる。
「アンリエッタ姫への治療は終わりました。ですが傷による錯乱が激しいため、現在は『眠
りの雲』で休んで頂いております」
「そうか、ご苦労だった」
 報告を受けるボーウッド艦長の隣には、艦隊司令長官及び貴族議会議員である政治家、
そして真っ青な顔で汗を拭くのに忙しいサー・ジョンストンの姿があった。彼は中央広場
の騒ぎに乗じて逃亡、途中でワルドの風竜と合流したのだ。

 ワルドがすいっと頭を下げた。
「アンリエッタ姫に重傷を負わせてしまった件、私の未熟ゆえです」
 その言葉に、司令長官はさしたる感情を示さなかった。
「まぁ、その件は閣下へ報告するしかない。でも命に別状はないし、これだけの危険な任
務だ。さすがに無傷は期待出来ないと、閣下も分かって下さるよ」
「寛大なお言葉、感謝致します」
 元グリフォン隊隊長はひょいと頭を上げる。

「それにしても…」
 ボーウッドは艦隊最後尾、アンリエッタとウェールズがいる『ホバート』号の方へ視線
を向ける。
「正直、まさか、あんな手が成功するとは思いませんでした。閣下の知謀には舌を巻きま
すな」
 汗をようやく拭き終えたジョンストンが、興奮しきりで口を開いた。
「姫の人となりを良く知ればこそ成り立つ策だ。レコン・キスタの情報力が勝利を導いた
のだよ。即ち、ワルド君のもたらした情報の力だね」
「なに、私の力など微々たるものです。むしろ、司令長官の冷静な判断による当初の奇襲
攻撃撤回があってこそでしょう」
 二人はのんびりと語り合い、互いの健闘と力量を褒め称える。
 そんな彼等をボーウッドは退屈そうに眺めていた。


 彼等の余裕は当然のものだ。何しろアンリエッタ姫を手にしたのだから。政治的には完
全勝利に近い。
 ボーウッドは別段レコン・キスタに賛同していない。政へ口を出さない事を信条とする
だけだ。ゆえに、当初の奇襲作戦を『卑劣な条約破り』と評しつつも、作戦に従った。だ
がその彼にも、これから行うラ・ロシェールへの奇襲攻撃に反感は少ない。アンリエッタ
の有する王権を使えば、政治的にはどうとでも処理出来る。恥じ入るべき点は何も無くな
るからだ。
 意に沿わぬ政略結婚を強要した枢機卿とトリステイン王宮を討伐する、不可侵条約を結
んだ『友好国』であるゲルマニアとトリステイン両国の紛争を武力介入で仲裁する…政治
とは無縁な立場を貫いてきた職業軍人であるボーウッドですら、大義名分は即座に幾つも
考えつける。
 結論として、トリステインは既に政治的敗北を喫したのだ。あとは軍事的に勝利して、
ハルケギニアにアルビオンの勝利を分かりやすく知らしめるだけのこと。それも、ラ・ロ
シェールでのんびり停泊している両国艦隊を砲撃して沈めるだけ。気にするのは、桟橋で
ある世界樹の枯れ木が使用不能になったりしないよう気をつける事くらいだ。


「とはいえ、長官。念のためトリステイン艦隊にはお気を付け下さい」
 ワルドは艦長へ注意を促す。
「もしかしたら、城から急報を受けた艦隊が慌てて向かってくるやもしれません」
 その言葉に、ジョンストンはニヤリと笑う。
「もし城から急報を受けていたら、それこそ好都合だよ。トリステイン艦隊は大混乱に陥
り、反撃どころじゃなくなるからね。その上…」
 長官の笑みは、思い切り意地の悪いものに変化する。
「本当に両艦隊がアンリエッタ亡命の報を受けたら、やつら、ラ・ロシェールの街で大喧
嘩を始めるよ!我々が出向くまでもなく、共倒れで全滅だ!」
 二人はその言葉に爆笑してしまう。
 艦橋にいた他の士官達まで加わり、艦内に笑い声が響き渡った。
 そんな中でもボーウッドは不機嫌そうな顔を崩さなかった。

 ひとしきり大笑いしたジョンストンは、ようやく呼吸を整えてワルドに向き直った。
「それでは、任務ご苦労だった。君は『ホバート』号で皇太子達と共に、アルビオンへ向
かってくれ」
 その命に、ワルドは少々不服そうな顔をする。
「いえ、私が元トリステインの魔法衛士隊だったことを気にする必要はありません。レコ
ン・キスタの一員として占領行動に参加致します」
「おっと、君は殿下と姫をここまで連れてくるまでに、かなり精神力を消費したはずだ。
無理はせず、このままお二人をアルビオンに着くまで護衛の任を続けて欲しい」
 その言葉に、ワルドは頭を下げる。
 アンリエッタを中央広場で回収するために遍在等の各種魔法を一気に使用していたのは
事実だ。それに、皇太子を守り姫を亡命させた以上、もはや戦功としては十分すぎる。ア
ンリエッタの右腕は失われたが、それでも命に別状はない。政治的には、それで十分なの
だ。
 確かに彼には無理をする必要はなかった。



 アルビオン艦隊からワルドと王族二名を乗せた『ホバート』号が離れ、アルビオンの方
向へ去っていくのを確認した長官は、全艦艇へ指令を下した。
「全戦列艦は、ラ・ロシェールへ向けて降下開始。目標、トリステイン・ゲルマニア両艦
隊。桟橋への被害は最小限に抑えるよう心がけよ。
 輸送艦隊と竜騎士隊はタルブ草原へ降下し、占領行動に入れ」

 その命にボーウッドは少し驚き、口を挟んだ。


「サー、まだ敵艦隊を沈めていない段階で陸戦隊を降ろすのは危険です。それに、竜騎士
隊まで地上部隊の支援に向かわせるのですか?」
 艦長の言葉にジョンストンは少し気分を害した。
「何を言っているのかね?姫亡命の報が届いていないなら、敵艦隊は桟橋に停泊中。届い
ていれば、大急ぎで出航しても士気は地に堕ち大混乱。もう我等に警戒すべきものは何も
ない。
 それより、もうすぐ日が沈む。時間が勿体ない。急いで地上拠点を築き、全陸戦隊の進
軍を開始しよう。あと竜騎士だけど、竜のブレスで桟橋が焼けたら困る。地上部隊の援護
に回した方が良いだろう?」
「…そう、ですな。陸戦隊を載せた船の風石も勿体ないですし。第一、主立った貴族は既
にトリスタニアへ行ってるので、もぬけの殻ですな」
「そういう事だよ。ああ、それとね…」
 司令長官は、似合わないウィンクをする。
「是非、閣下にタルブのワインを献上したいんだ。それも、最高級品をね」
「承知しました。陸戦隊と竜騎士隊には、その旨伝えておきましょう」
 些か兵の運用として難はあるが、確かにジョンストンの言う事にも一理ある。艦長は異
論をそれ以上口にしなかった。
 アルビオン艦隊は旗艦『レキシントン』号に付き従い、ラ・ロシェールへと進路を取っ
た。そして輸送艦隊と竜騎士20騎は戦艦列を離れ、すぐ近くのタルブ村へ降下を開始す
る。




 夕陽が赤く染める山肌には、広大なタルブのワイン畑がある。
 ブドウの木の間から、作業をしていた二人、女性と子供の頭が見え隠れする。
 二人のうち、子供の方が顔を上げた。
「ま…ま、マリー!」
「何よジュリアン、いきなり大声を出して」
 ジュリアンが空を指さす。
 そこには急速に高度を下げてくる何隻もの船が、そして地上へ急降下を開始した竜騎士
達の姿があった。村へ向かって真っ直ぐに降りてくる火竜の群れだ。
「た、た!大変だよぉっ!!」
 二人は手に持っていたカゴを投げ出し、村へ向けて斜面を駆け下りる。村への襲撃を知
らせるために。

 だが、彼等が危険を知らせるまでもなく、村にいる人々も異変に気付いた。
 次々に空を見上げ、そこかしこから悲鳴が上がり、四方八方へ駆け出す。

 ほどなくして、先行する火竜の群れがタルブ直上へ飛来した。
 地上近くまで降下した火竜が巨大な牙をむき、ブレスを吐き出そうと赤い口を開いた。
村で一番大きく立派な家、村長の家へ向けて。




 ジョンストンは、目を見張った。
 茜色に染まる眼下には山あいの町ラ・ロシェールと、丘の上の桟橋イグドラシルの枯れ
木がある。
 だが、桟橋には一隻の船も停泊していなかった。高度を下げてハッキリ目視出来る距離
になっても、トリステインもゲルマニアも、両艦隊の姿は影も形も無かったのだ。
「どうやら、姫亡命の報が届いていたようですな」
 ボーウッドは冷静に予想を語る。
「ふむ、そのようだが…やつら、どこへ行った?」
 司令長官はブリッジから見える範囲を見渡す。
 そこには山並みと、丘の上の巨大な枯れ木、そして港町ラ・ロシェールがあるだけだ。
 周りの空を軽く見渡すが、空と地上の間には雲があるのみ。


 ボーウッドも地上の様子をよく確認してみる。
 街には何の異常も見られない。山の間をぬう街道も平静そのもの。
 桟橋周囲にも山々にも、火の手はおろか煙の一筋も上がっていない。

 全く平和な山間部から、艦隊だけが消えた。

 瞬間、ボーウッドの心臓は猛禽類の爪に握られたかのように痙攣した。
 全身を脂汗が流れ落ちる。
「全艦離脱!最大戦速だっ!逃げろぉっ!!」
 いきなり真横で想像外の命令、というより叫び声を聞いたジョンストンが仰天した。
「い、いきなり何を言うのかね!?」
「説明は後です!早くこの空域を離れるんですっ!」
 叫び続ける艦長の元へ、慌てふためいた士官も駆けてきた。
「敵艦隊を発見しました!我が艦隊の右舷上方です!雲の間から現れ、一直線に向かって
きています!」
 さらにもう一人の士官も駆けつけた。
「敵艦隊です!左舷上方、雲に隠れていた艦隊が、こっちへ向かってきています!!」
「ななっ!なんだとお!?」
 ジョンストンは天国から地獄へ一気に突き落とされたかのように絶望の悲鳴を上げた。
 ボーウッドは慌てて左右上方を確認する。


―――右舷上方、トリステイン艦隊
 旗艦『メルカトール』号の艦橋では、艦隊司令長官のラ・ラメー伯爵が怒声を張り上げ
ていた。
「おのれ恥知らず共めっ!アンリエッタ姫を拐かし、条約を破って奇襲をかけようなどと
は!」
 艦長フェヴィスの口ひげも怒りに震えている。
「まったく!なんて懲りない連中でしょうな!?昨日、奇襲作戦が失敗したばかりだとい
うのに!あまつさえ姫を誘拐してアルビオンに連行するなどっ!!」


―――左舷上方、ゲルマニア艦隊
 艦隊旗艦の後甲板でも、角付き鉄兜にカイゼル髯の貴族が、怒りに燃える目でアルビオ
ン艦隊を睨んでいた。
「よし、マザリーニ殿の手紙に書いてあった予想通りだ!やつらを上方から挟み込んだ
ぞ!」
 隣に立つ恰幅の良い貴族が腕を力の限りに振り回す。
「さぁ、ハルデンベルグ侯爵!総攻撃のご指示を!」
「言われるまでもない!全艦、右舷砲撃戦準備だ!!」
 旗艦のマストに旗流信号が翻り、憤怒に満たされ士気上がる戦艦列が疾走する。



 ヤンが立案した策の一つ、対アルビオン艦隊戦。
 それは時間との勝負、ある種の賭だった。
 トリスタニアで発生したアンリエッタ姫亡命の報、そしてアルビオン艦隊の奇襲。これ
られがラ・ロシェールに着く前に、マザリーニの密書を届ける。
 密書は以下の内容だ。
「レコン・キスタがアンリエッタ姫を誘拐、アルビオンへと連行した。
 アルビオン艦隊が早々にラ・ロシェールへ奇襲をかける。
 トリステイン・ゲルマニア両艦隊は急ぎラ・ロシェールを離れよ。
 しかるのち、ラ・ロシェール直上へ高度を下げたアルビオン艦隊へ奇襲せよ」

 ヤンの策はいたって単純。いまだ事情を知らない両艦隊に偽情報を元にした迎撃司令を
出す、というものだ。
 真実の情報が先に届けば、両艦隊は大混乱になる。最悪、両艦隊間での戦闘になる。
 だがマザリーニの手紙が先に届けば、奇襲を回避するため両艦隊は街を離れ、真実の情
報が届かなくなる。アルビオン艦隊へ逆に奇襲を仕掛ける事が出来る。


 ゲルマニアの大使が城でなく、ラ・ロシェールの艦隊にいた幸運。
 ワルドは速やかにアンリエッタをアルビオンへ連れて行かねばならず、姫亡命の報を宣
伝して回れないという事情。
 トリステインに政治的勝利を得て、悠々と奇襲をかけるアルビオン艦隊の油断。
 ラ・ロシェールまでは早馬で二日、馬を取り替えて走り続けても半日以上、飛行可能な
幻獣や使い魔でも数時間という距離から生じる情報の差。

 ヤンは、この点を利用した。


 そしてアルビオン艦隊は逆に奇襲を受ける立場となった。
 ジョンストンは再び顔色が蒼白になり、噴きだす汗が雫になってしたたり落ちる。被っ
た帽子を床に叩き付けた。
「ふざけるなッ!冗談も休み休みに言えッ!」
 すっと手を出して、素早く冷静さを取り戻したボーウッドが咎める。
「兵の前でそのように取り乱しては、士気に関わりますぞ。司令長官殿」
 激昂したジョンストンは、怒りの矛先をボーウッドに向けた。
「何を申すか!艦長、貴様のせいだぞ!貴様の稚拙な指揮が、逆に奇襲される失態を招い
たのだ!このことはクロムウェル閣下に報告する!報告するぞ!」
 ジョンストンはわめきながら掴みかかってくる。ボーウッドは杖を引き抜き、ジョンス
トンの腹めがけて叩き込んだ。白目をむいて、ジョンストンが倒れる。気絶したジョンス
トンを運ぶように、従兵に命じた。
 初めから眠っていてもらえばよかったな、ワルドも余計な奴を回収してきたものだ、と
彼は思う。

 心配そうに自分を見つめる伝令に向かって、ボーウッドは落ち着き払った声で言った。
「奴等は確かに我等の上方をとり、挟撃しつつある。
 だが、やつらは急ごしらえの同盟だ。連携は拙く、付け入る隙は十分にある。それに、
我等にはこの旗艦『レキシントン』号がある。射程はやつらの1.5倍、大砲の数も舷側の
厚さも奴等の比ではない。
 諸君等は安心して、勤務に励むがよい」

 二大国に挟撃されるという事態にあって、冷静に現状を分析した者がいる。危機を逆に
好機へと変えた者がいる。変えられぬはずの流れを変えた者がいるのだ。
「生き残れたら、是非会いたいものだ」
 そんな独り言は聞く者も無く宙に消える。
 彼の視線は既に左舷艦列、ゲルマニア艦隊へ向けられていた。
「さて、先制を受けるのはやむを得んが、その後はどうかな?
 艦隊前進、取り舵。左砲戦準備。まずは左舷艦隊へ集中砲火を加えるぞ。右舷艦隊は後
回しだ」

 ラ・ロシェールの夕暮れ空。
 血のように朱く染まる三国の艦隊は、急速に相互の距離を縮めつつある。
 町はずれの林の中、疲れ果てて動けない風竜の口元に水を運ぶギンヌメールが、不安げ
に空を見上げていた。

                 第27話    挟撃     END





新着情報

取得中です。