あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第7話


 第7話

 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵という青年に抱いた第一印象は、決して悪いものではなかった。べつに良くもなかったけれど。
 今はと問われると最悪だと私は答えるだろう。
 朝に学院を出た私たちは、夜半現在ラ・ロシェールという港町の入り口に着いていた。
 アルビオンへの玄関と言われるここへは、本来早馬で二日かかるとのことで、私たちが一日でたどり着いたのは、走らせすぎて潰れた馬を乗り換えるとき以外、ずっと馬に乗っていたからだ。
 もちろん、これは私の意志ではない。前にいたワルド子爵が一度もグリフォンの足を止めなかったからだ。
 常に私たちの前方200メートル、この世界の単位はメイルだったか、の距離を保ち、距離を縮めようとスピードを上げれば同じように加速して、こちらがスピードを落とそうとしても、かまわずに先に進む。
 ようするに、彼には私たちを共に連れて行こうという意思がないのだと私は判断する。途中、ギーシュが馬を交換する事を教えてくれてなかったら、私は潰れた馬と共に置き去りにされていただろう。

 ラ・ロシェールは港町だと聞いていたけれど、ここはどう見ても峡谷に挟まれた山道である。どういうことかと、私同様に疲れきった様子のギーシュに尋ねると呆れかえった声が返ってきた。
「きみは、アルビオンを知らないのか?」
 知るわけがない。私がこの世界で知っているのは学院と、学院から馬で三時間の距離にある街だけである。
 そんな事を考えていると、私たちの馬の前に松明が投げ込まれた。
 それは突然の事で、私には何が起こったのかを理解することもできなくて、気がついたら馬から放り出されていた。
「奇襲だ!」
 ギーシュの叫びに我を取り戻した私は、崖の上から矢を射掛けられていることに気づき、松明も同じように崖から投げ込まれたものだと理解した。
 松明に照らされただけの、夜闇の中から射掛けられる矢は、しかし半ば<<鬼>>である私には必殺に程遠い。
 だけど、私には崖の上の相手に反撃する術がなく、今の状態では身を守ることができないでいるギーシュを見捨てるわけにもいかない。
 もう駄目かと思ったとき、私たちの前に小さな竜巻が生まれ、飛んでくる矢を全て弾き飛ばしていた。

「大丈夫か!」
 呼びかける声に、その竜巻がワルド子爵の魔法だと知った私は、礼を言って剣を抜く。
「相棒、寂しかったぜ……。鞘に入れっぱなしはひでえや」
 デルフリンガーの軽口と共にルーンの力が私の肉体を強化し、デルフの<<剣>>としての力が活力をくれる。
 こうなると私は弓矢を眼で見て空中で受け止める事さえ可能になる。けれど、依然として私には崖の上にいる何者かに攻撃する術がない。
 どうすればいい? 自問していると、崖の上からバサリと羽音が聞こえ、次いで悲鳴が聞こえた。
 何が起こったのだろうかと、目を凝らし見ていると、崖の上にいた男たちが天に矢を放ち始め、しかしその矢は風に蹴散らされた。
「おや、『風』の呪文じゃないか」
 ワルド子爵の呟きの後、弓を射ていた男たちが崖から転がり落ちてきた。
 魔法を打ち込まれ崖から落ちた男たちには、もう動くこともできない様子で、そうして月を背に見覚えのある幻獣が地上に降りてくる。
「おまたせ」
 シルフィードという名のその風竜から、キュルケが飛び降りて髪をかきあげた。
「お待たせじゃないわよッ! 何しにきたのよ!」
 何か対抗意識でも刺激されたのか、ルイズもグリフォンから飛び降りて怒鳴りつける。
「助けにきてあげたんじゃないの。朝がた、窓から見てたらあんたたちが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」
 キュルケが指差した風竜の上にはタバサがいて、着替える時間も貰えなかったらしくパジャマのままで、しかしそのことを気にすることなく本を読んでいる。
「ツェルプトー。あのねえ、これはお忍びなのよ?」
「お忍び? だったら、そう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじゃない。とにかく、感謝しなさいよね。あなたたちを襲った連中を、捕まえたんだから」
 キュルケが指差した先では、ギーシュが倒れた男たちを相手に尋問を始めている。以外に役に立つって思ったら失礼かな? ギーシュ。
「それに、勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの。ねえ?」
 腕を組んで睨みつけてくるルイズになど興味はないと、ワルド子爵ににじり寄る。そういえば、王女一行が学院に来たときにキュルケもルイズと同じような顔で子爵を見てたわね。
「おひげが素敵よ。あなた、情熱はご存知?」
「助けは嬉しいが、これ以上近づかないでくれたまえ」
 少しも嬉しそうでない、とりつく島のない返答。
「なんで? どうして? あたしが好きって言ってるのに!」
「婚約者が誤解するといけないのでね」
 そう言ってルイズを見つめるワルド子爵を見るキュルケの目が、急速に冷めていくのがわかった。
「なあに? あなたの婚約者だったの?」
 つまらなそうに言うと、キュルケは風竜に乗りなおす。
「タバサ。帰りましょ」
 こくりと頷くタバサには、ここまで連れてこさせられたことへの不満はないらしい。なんにしろ、私はこの2人に助けられたわけで。
「2人ともありがとう。今度、はしばみ草をごちそうするわ」
 礼を言うとタバサは無表情で頷き、キュルケは苦い顔をした。ちなみに私ははしばみ草を食べたことがない。
「じゃあね。気をつけていきなさいよショウコ」
 そうして2人は、ルイズに「ホントに何しに来たのよ」なんて言われながら、風竜に乗って帰り。私たちは、港町に入った。
 襲ってきた男たちは、ただの物盗りだったと後でギーシュに聞いた。



 その夜、私たちが泊まることになったのは、『女神の杵』亭というラ・ロシェールで一番上等な宿である。
 ルイズとワルド子爵が桟橋への乗船の手続きに行っている間、私とギーシュは休憩をとっていた。
 一日中馬に乗っていたせいで疲れきっていたからというのもあるが、考えておきたいこともあった。
「魔法衛視隊の隊長か……。」
 そう呟いたとき、二人が帰ってきた。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに……」
 ワルド子爵の困ったような言葉にかぶせるように、ルイズが不満を口にした。
 天気が悪いわけでもないのに、何故船が出ないのだろうか。不思議に思い聞いてみると。
「明日の夜は月が重なるだろう? 『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近づく」
 そういわれても意味が分からない。けれど、分かることもある。
 月の位置でそんなことが分かるのなら、ここに来る前から予測できたのではないのか。
 その考えが形になる前に、ワルド子爵はテーブルに鍵束を置いた。
「今日はもう寝よう。部屋を取った。ギーシュとショウコには1人部屋を2つ取ってある。僕とルイズは同室だ。婚約者だからな。当然だろう?」
 なにが当然なのだろう? 旅行じゃないんだから、男同士女同士で相部屋を2つ取るべきだろうに。
 ルイズも、まだ結婚してるわけじゃないのだからとワルド子爵に反論するけど、大事な話があるから2人だけで話したいと言われ、二階に上がっていってしまった。

 何の話なのか少しだけ気になったが、私には他に気になっていることがあった。だから、ギーシュに尋ねてみることにした。
「ギーシュは、ワルド子爵のことをどう思う?」
「どうって、すごい人だね。魔法衛視隊は全貴族の憧れの的だっていうのに、三人しかいない隊長の1人だっていうんだから」
「そうじゃなくて、信用できる人間かってこと」
「どういうことだい?」

 なんでも、魔法衛視隊とは選りすぐりの貴族で構成され強力な魔法を操る精鋭であり全貴族の畏怖と憧れの象徴であるという。
 つまり、ワルド子爵は王国で最高の実力を持ったメイジの1人だということになる。
 ここで疑問が生じる。
 そんな実力者から見れば私たちは足手まといにしか見えないだろう。私もギーシュも、そしてルイズも。そう考えれば私たちを、置いていこうと思う気持ちも分かる。
 だけど、子爵はルイズだけは手元に置こうとしている。自分の乗るグリフォンに騎乗させ、今も2人だけで行動している。まるで、どうにかして私たちと引き離そうとしているように。
 婚約者だから大切に扱っているだけとも思ったのだけど、大切な相手なら、そもそも王女の命令だからといって戦争をしている所に連れて行こうとするだろうか?
 アルビオンの皇太子の持っている手紙を渡してもらうだけの任務だ。ルイズを連れて行かなければならない理由はなく、この町に置いて1人で行っても問題はない。
 ルイズの性格なら、そういって納得するはずはないのだから、意地になって勝手に行動されるくらいなら一緒に連れて自分が守ったほうがマシなのだろうけれど。
 それなら、私たちと引き離そうとする理由が分からない。ルイズの安全だけを考えるのなら、私やギーシュにルイズを守らせるべきなのではないだろうか。

 そんな私の疑心は、考えすぎだとギーシュに一蹴された。
 王女殿下がが選んでつけてくれた同行者なのだから、間違いはないのだと。
 その根拠はどうなんだろうと思ったのだけど、私にもワルド子爵を疑いきるに足る論拠はなかったので、この話はここで終わりにすることにした。
 メイドの朝は早い。と言っても、旅先であり、しかも今日一日はすることがないとくれば寝ていてもいいのだろうけれど、身についた習慣は簡単には変わらない。
 学院に戻ったときの事を考えれば、変わってもらっても困るのだけれど。
 どこかで素振りでもしてこようかと考えたところで、扉がノックされたので開けると、ワルド子爵がいた。
「おはよう。使い魔くん」
「おはようございます。なにか御用ですか?」
 心中の少しの不信を隠して言うと、子爵はにっこりと笑う。
「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろう?」
 いきなりなにを言い出すのか、この男は。
 真意がつかめずに黙っていると、自分でも唐突すぎたと自覚したのか慌てて、語を繋ぐ。
「……その、あれだ、ルイズに聞いてね。きみは異世界からやってきたそうじゃないか。おまけに伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうだね」
「らしいですね」
 学院長には黙って置くように言われているが、ルイズが話してしまったのでは、隠そうとしても無駄な事だ。
「僕は歴史と兵に興味があってね。伝説にうたわれる『ガンダールヴ』の腕がどれぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」
 なるほど。伝説の戦士なんてものに会えば、腕試しをして見たいという気持ちは分からなくもない。私に、自分がそんな大層な者だという自覚はないのだけれど。
「かまいませんが、どこでやるんですか?」
「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったんだよ。中庭に練兵場があるんだ」
 なるほどと頷き、私はギーシュを起こしに行った。

「なんで、ぼくがここに?」
 疑問を口にするギーシュに、剣を用意してもらうためだと答え、剣を錬金してもらう。
「背中の長剣は使わないのかね?」
 当然の質問に私は答える。
「この長さの剣には慣れてないんです」
 私が慣れた長さは三尺八寸の竹刀、115サント。150サントあるデルフはさすがに長い。

 かつては練兵場だったという中庭で、私とワルド子爵は向かい合う。
「昔……、といってもきみにはわからんだろうが、かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘したものさ。
 古きよき時代、王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った時代……、貴族が貴族らしかった時代……、名誉と、誇りをかけて僕たち貴族は魔法を唱えあった。
 でも、実際はくだらないことで杖を抜きあったものさ。そう、例えば女を取り合ったりね」
 ただの独り言なのだろう言葉に、そうですかと私は剣を構える。左手のルーンが輝き力が溢れるのを感じる。
 けれど子爵は、待てと言うように左手で制する。
「立会いには、それなりの作法というものがある。介添え人がいなくてはね」
「介添え人?」
 ギーシュではダメなのだろうか?
 問うと、子爵は別の人間を呼んであると答えほどなくしてルイズがやってきた。
「ワルド、来いって言うから、来てみれば、何をする気なの?」
「彼女の実力を、ちょっと試したくなってね」
 貴族というものは、強いか弱いか気になると、どうにもなくなるのだと子爵は笑う。
 しかし、ルイズは納得しない。今はそんなことをしていていいときではないと、私に止めるように命令する。
 これが、決闘ならルイズの言うとおりなのだろうけれど。
「ただの手合わせよ」
 ちょっとした腕試しだ。子爵の、そしてルーンの力を借りた私の実力を測っておくのは必要な事のはずなのだ。
「では、介添え人も来たことだし、始めるか」
 子爵は腰に刺してあった細い杖を抜き、フェンシングのような構えをとる。
「全力で来たまえ」
「いきます」
 宣言と共に踏み出し、上段から振りおろした剣を子爵は受け止める。何かの魔法でもかかっているのかもしれない。ギーシュのワルキューレを容易く切り倒す剣は、細い杖にがっちりと受け止められていた。
 そのまま後ろに下がろうとするのを追って、繰り出す横薙ぎの剣もまた受けられる。
 固いなと私は感心する。純粋に速度だけで見れば、間違いなく私の方が速いのに、全てが止められる。
 傍から見れば子爵は防ぐのがやっとに見えるだろうし、私にも子爵に反撃の余裕がないことが分かる。けれど、子爵は剣士ではない。
「魔法衛視隊のメイジは、ただ魔法を唱えるわけじゃないんだ。詠唱さえ、戦いに特化されている。杖を構える仕草、突き出す動作……、杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」
 子爵は、一定のリズムで私の剣を防ぎ、同時に呪文の詠唱を始める。
 私に魔法の知識があり、杖の動くリズムがわかれば、それを邪魔する形での攻撃ができるのだろうが、そんなものはなく。
 呪文の詠唱のあと発動した不可視の空気の槌に殴られ、私は吹き飛ばされていた。
「勝負あり、だ」
 ワルド子爵の宣言に、そのとおりだな。と私は納得する。ルーンで高められた身体能力を全開まで使わなかったからだとか、子爵が魔法を使ったからだとかは、言い訳にしかならない。
 ルーンは私自身の力ではなく、子爵が魔法を使ってくることを私は予期していたのだから。
 だけど、続く言葉には納得のできないものだった。
「わかったろうルイズ。彼女ではきみを守れない」
「……だって、だってあなたはあの魔法衛視隊の隊長じゃない! 陛下を守る護衛隊。強くて当たり前じゃないの!」
「そうだよ。でも、アルビオンに行っても敵を選ぶつもりかい? 強力な敵に囲まれたとき、きみはこう言うつもりかい? わたしたちは弱いです。だから、杖を収めてくださいって」
 黙り込んだルイズの手を取って、子爵はその場を去り。後には、倒れたまま放置された私と、ギーシュが残された。

「ええと、大丈夫かい? ショウコ」
「ありがとう」
 ギーシュの手を借りて立ち上がりながら私は思っていた。
 なぜ、ああいう結論になるのだろう?
 子爵の論理で言うと、ルイズを守るには、この世界で最強の力の持ち主でなくてはならないことになる。例えば、アルビオンの軍隊を1人で打ち倒せるような。
 そんな力、個人が持てるはずがない。私はもちろん子爵にだってあるはずがないのだ。
 誰かを守りたいのなら、個人が強い力を持つより、多くの人の助けを借りるべきだと私は思うのだから。


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