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復活・使い魔くん千年王国 第三章 反逆地獄

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《私は甦りであり、命である。私を信じる者は、たとい死んでも生きる。
 また、生きていて私を信じる者は、いつまでも死なない。あなたはこれを信じるか》
  (新約聖書『ヨハネによる福音書』第十一章より)


アルビオンでの戦いで死に、雪の吹きすさぶ反逆地獄へ落下した松下、ルイズ、シエスタ一行。
そこで思いがけず佐藤と再会した松下は、突如現れた奇怪な『案内人』と対峙していた……。

「さあて、どっちへ行きたいんです? 上かい、それとも下かい?」
「……下、だ。ここから現世へ戻るには、さらに深淵の奥底へ向かうしかない」

案内人の問いかけに対する松下の不思議な答えに、短気なルイズは首を傾げると異論を唱えた。
「ってマツシタ、なぁんで『下』なのよ? ここは地下世界、地獄の奥底なんでしょ?
 だったら常識的に考えて、『上』に行けば地上に出られるはずよ!」
確かにそうだが、ここは現世の常識が通用しない世界なのだ。松下は静かに返答する。
「地獄というのは、不帰の国とも言って、一度死人が入ったら普通には帰れないという法則が働いているんだよ。
 特にここは反逆地獄だから、罪人を逃がさぬよう永劫の中に閉じた時空の構造になっている」

「……? いや、普通はそうでも、あんたは救世主(メシア)ってやつでしょうが。
 それにほら、私の虚無の魔法でまた門を開ければ……」
「あれだけの大魔法を使った直後だぞ。今きみは精神力をほとんど使い果たしているだろう。
 その門を開けるには、やはりこの深淵を降りて行かねばならんのだ。
 ややこしいから、道々説明するとしよう。それとも、そこの案内人が詳しく説明してくれるのかな」

松下に話を振られた案内人は、ヘラヘラと笑った。
「ええ、出口は確かに、下ということでよろしいかと。それじゃあまあ、ご説明いたしますかね。
 おっとその前に、そこのサトウさんを起こしてあげて下さい」
と言われて足元を見れば、先ほど倒れ伏して気絶した佐藤が雪に埋れかけている。

「手間のかかる奴だな。おい、起きろ佐藤、ヤモリのなりそこない」
佐藤の襟首を掴んで引き起こすが、揺さぶってもなかなか目を覚まさない。
「……さっさと起きろと言っているだろうが、この家ダニ未満。毛ジラミ、ミジンコ、ボルボックス」

ビビビビビンと珍しい松下のビンタが飛んだ。ビックリしたルイズが珍しく止めにかかる。

「まぁまぁ、あんたでもたまに怒るのね。ところでなんなのボルボックスって」
「原始的な緑藻の一種で、ミジンコの餌になる程度の下等な生き物だ。気にしなくていい」


「…………うう、メシア……」

どうやら佐藤も気がついたようだ。ハッと声をあげるや、彼は再び松下の前にひれ伏す。
「おおメシア、この佐藤の罪を許して、赦してくださいましたね」
「ぼくは裁きに来たのではなく、世を救うために来た。ぼくを拒むものは、やがておのずから裁きを受けるだろう。
 わかったか。わかったらついてこい。不浄に満ちた、悪魔の支配する世界をフンサイするために戦うのだ」
「では、千年王国戦争はまだ続くのですか」
「命があるかぎりやめられん。いや、今我々は死んでいるのだったが。
 とにかく『千年王国』を築くことは、ぼくの存在理由だ。死んでもやめられん」

臆面も無くそう言うと、松下は胸を張る。精神的奇形児、神が殺し損ねた子供である松下にとって、
それはもはや生理的欲求、本能的行動とさえ言ってよいのかも知れない。

「しかしメシア、私は死人でして、もうとっくに肉体もありませんし……」
「ついてこいと言っているだろう。少しはぼくの役に立って、罪滅ぼしをしろ。
 地上に着いたら、そこらに転がっている死体を適当に見繕って蘇生させてやる。それともヤモリがいいか?」
「……わ、わかりました。あなたについて行きます、メシア」
「よし。さあ諸君、出発するとしようか」

なんともはや、強引なメシアである。その主従の様子を見て、思わずクスクスとルイズたちは笑いを漏らした。
「ねえシエスタ。ここは地獄だけど、世の中っておもしろいわねえ」
「ほ、ほんとですねえ」


四人と占い杖が揃うと、冷たそうなぶよぶよした質感の案内人は3対の腕を広げ、上側の脚を揺らしながら挨拶を始める。
「―――ええ、それでは改めまして、この案内人から皆様にご挨拶させていただきます。
 Welcome to this crazy time、このイカレた時代へようこそ、救世主ご一行様!
 詩聖ダンテにウェルギリウスがいたように、不肖私がこの地獄の道案内、説明係となります。
 ご退屈でしょうが、しばらくお付き合い願いますね」

「たわごとはいいから、さっさと説明してよ。私たち、早いとこ地上に帰りたいのよ。
 残された肉体が腐っていて生き返れなかったら、あんたのせいだからね」
「サトウさん以外の皆様がたの肉体は、最終目的地であるアルビオンの某所に、ちゃんと匿われているようなのでご安心を。
 それにまあ、ここはいわば時間の埒外にあるからして、少々寄り道したって大丈夫ですよ」

先をせかすルイズに、案内人はハハハと笑った。どうも地獄にいるというのに緊張感がない。


「さて、一口に地獄と言っても種類はさまざま。仏教では八大地獄、八寒地獄に十六ずつの付属小地獄を説いています。
 ユダヤ・キリスト教やイスラームでは、ゲヘナ(ジャハンナム)というのがいわゆる地獄のこと。
 ここは中世イタリアの詩聖ダンテの描いた地獄の最深部、《反逆地獄》コキュトスの外縁部にあたるのです。
 では皆様、ついて来てください」

そういいながら、『案内人』はざくざくと雪を踏みしめて歩き出す。
彼につき従って尾根に近づいていくと、周囲には高さが数十メイルもある、大きな岩が数えきれないほど林立している。
どこか人間の顔や姿を思わせる凹凸、表面に刻まれた渦巻き紋様、名も知れぬ異郷の装飾。
それは轟々と吠えたけり、あるいはシュウシュウと啼き叫び、吹雪の中に傲然と立ち並んでいるのだった……。

「これらは神話の時代に地獄に落ちてきた、太古の巨人族です。神に反逆した罪で、ここにいるのです。
 あれはギリシアのタイターン族とギガス族、こちらはヘブライのネピリム族。
 遥か向こうで角笛を吹いているのは、バベルの塔を築いたニムロデ大王ですな。
 ゲルマンのヨーツン族や、ケルトのフォモール族なんかもいるそうですよ」


《人が地のおもてにふえ始めて、娘たちが彼らに生れた時、
 神の子たちは人の娘たちの美しいのを見て、自分の好む者を妻にめとった。そこで主は言われた、
 「私の霊はながく人の中にとどまらない。彼は肉にすぎないのだ。しかし、彼の年は百二十年であろう」。
 その頃、またその後にも、地にネピリムがいた。これは神の子たちが人の娘たちのところにはいって、
 娘たちに産ませたものである。彼らは昔の勇士であり、有名な人々であった》
  (旧約聖書『創世記』第六章より)


「どうです、なかなか物凄い雰囲気でしょ!
 安心してください、彼らは神の罰によって石にされた上、終わりの時が来るまで切れない鎖で縛られています。
 せいぜい吹雪を避けるのに使わせてもらいましょう」

尾根に登ると、断崖絶壁がある。
それは弧を描くように果てしなく続いていて、向こう岸は深く重く冷たい霧に霞んで見えない。
断崖の下は、測り知れないほど深く真っ黒い淵だ。
ただ、深淵の底の遥か彼方には巨大な山のようなものが聳えており、そこから上方へ吹雪が吹き出している。
高さは恐らく、数千メイルを下るまい。頂上のあたりは三つに分かれ、腕を広げた人間のようでもあった。

四人はその恐ろしげな光景に圧倒されたのか、呆然としたまま声もあげられない……。


「皆様、これが《反逆地獄》です!
 底の方はすり鉢状に落ちくぼみ、無数の罪人が沈んでいる凍りついた沼地になっています。
 目的地は、あの中心部に聳え立つ巨大な岩山ですよ」

シエスタがおずおずと、案内人に尋ねる。
「あの……あれは、あの岩山はいったい、なんなのですか? 目的地とは?」
「よくぞ聞いてくれました。あれこそが地獄の中心、大地の中心に坐す邪悪な巨人。
 造物主に反逆して敗れた太古の神々、悪魔族の王。つまり天国から落下して地獄を造った《悪魔大王》です!」

「悪魔、大王……地獄の中心……!」
ルイズが、ごくりと唾液を呑み込んだ。なんという恐ろしい響きであろう。


ここで松下が案内人に代わり、簡単な状況の説明をする。
「そうだ。地獄の構造は混沌としていて変わりやすいが、おおよそ反逆地獄を含めて九つの階層がある。
 最上部からの入り口はタルブの村にある、あの『地獄の門』なのだが……、
 我々は例の《送還》の魔法の暴走ゆえか、途中を省略して最下層の手前まで落ちてきたようだな」

「地獄っていうと、罪人を罰する悪鬼がたくさんいて、業火に包まれた場所ってイメージがあったんだけど……」
「そういう場所も、上の階層にはあるさ。
 ここはただの拷問場ではなく、神々に等しい魔王や巨人族の本体を幽閉しておく牢獄でもある。
 召喚されて地上に時々出てくる連中は、より格下の悪鬼か、せいぜいさまよい出た分霊というところだ。
 そいつら全ての総帥が、あの悪魔大王・ルキフェルだ。サタンとかディスとか様々な別名はあるがな」

「ま、そんなに恐れずとも大丈夫ですよ。我々が近づいても、とって喰われたりはしません。
 いかに悪魔大王といえども、この地獄では罪の重さに縛られて、ほとんど身動きできませんから」
なんとも気楽げな案内人の言葉に、ルイズたちもやや警戒を解いた。
「で、なんでそんな恐ろしげなところまで行かなきゃならないわけ?」

「うむ。悪魔大王は『この世の王』であり、地獄と地上に対する一時的な支配権を持つ存在だ。
 霊的には彼の体が球状の大地……《地球》の中心であり、そこは地上のあらゆる場所に通じている。
 いわば多次元のチャンネルだ。ルイズ、きみの虚無の魔法でそこに門を開き、アルビオンへ帰るとしよう」

松下の説明に、ルイズは腕組みをしてしばらく考え込んだ末、キッと顔を上げた。
「―――――………なんだかよく分からないけど、よく分かったわ。
 結局この地獄から出るには、私の魔法が必要ってわけね!」
「まぁ、そうだな。あんまり長居したい場所でもないし」

「ええと、でも、ここからあの山までは何百リーグもありそうですよ。どうやって行くのですか?」

シエスタの素朴な疑問には、案内人が再び答える。
「こちらで小さな、空を飛ぶフネを用意していますよ。風に乗ってすーっと飛んで行けば、二日もあれば着きます」
「なるほど、それなら安心ですねえ!」


「……けど、ああ、この現実離れした光景ときたら……悪い夢でも見ている気分だわ……」

ぼそりと呟いたルイズに、案内人がピクリと反応した。というか、ぬめっとした体の内側から不気味な燐光を放ち始めた。
「夢、だって? きみ、人生とは夢のようなものではないか。
 闇の中をつかの間からつかの間へ渡る光、一つの幻影に過ぎんよ」
「と、いうと………?」

急に渋い口調になると、案内人は3対の手を後ろ手に組み、どこまでも続く深淵の縁を歩きながら、哲学的な話を始めた。
「いいかね、人生とは例えて言えば、一冊の本のようなものだ。
 長い長い、静かな闇夜の世界が何万年、何億年と続いていると考えたまえ。
 その中に一冊の本が落ちている。きみたちはそれを拾い上げて読む。そして喜んだり悲しんだりする。
 ……そして読み終わる。それからまた、静かな黒い世界が何十億年と続く……。
 生きている間というのは、その本を読んでいる僅かの間だ」

名前も分からない冥土の案内人の、奇妙な諦念と厭世観に満ちた虚無的な呟きに、一行はシーンと押し黙る。
しかし松下は、いわゆる超人ではあっても、彼のようなニヒリスト、虚無主義者ではない。
「『現世は夢になり、夢は現世になる』とファウスト博士はぼくに言い遺したものだ。
 ぼくの人生の目的は、人類全てが平等に幸福になる、夢のような理想社会の実現だ。
 千年王国運動とは、いわば《永遠の世界》を現世に建設しようとする、世界革命運動なのだよ」

だが、案内人は飄々と歩きながら、ヘラヘラと松下を嘲笑うばかりだ。
「それもまた、千年もすれば元通りになってしまうんでしょう?
 どんな宗教にしたって思想にしたって、過ぎ去り滅び行くもの。今までと大した違いはありゃしませんよ。
 第一、この静かな反逆地獄では全て霊になっていますから、メシを食う必要というものがありません。
 従って、地上や他の地獄でのように働く必要もなければ、欲も争いもなく、煩わしい政治も必要としません。
 言うなれば、人間が本来の自分に立ち帰るところですね。うふふふふふふ」


《怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。
 おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ》
  (フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』より)


(つづく)


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