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るいずととら第二章-10


ルイズは体をピクリとも動かせず、ただ見ていた。
目の前には、アルビオン皇太子ウェールズの死体が横たわっている。

腕を負傷しながらも、ここまで逃れてきた皇太子の胸を、ワルドは風の刃で貫いた。二つ名の『閃光』に恥じぬ、一瞬の早業だった。
一撃で心臓を貫かれたウェールズは、ごぼっという音を立てて口から大量の血を吐き出し、丸太のようにゴトンと音を立てて転がる。

「王族といえども、死ねばただの肉だな」

そう呟くと、ワルドは薄く笑った。だが、その目に宿る冷たい光は何の感情もうつしていなかった。憎しみも怒りもない。花を摘むように、ただ目の前の男を殺しただけとでもいったように見えた。
ルイズは何度も何度も絶叫した。しかし、口からは声一つ漏れない。目を背けることさえできない。指一本動かせない。

(助けて、助けて、助けて、助けて……!)

ルイズはただ祈った。自分の呼び出した使い魔に呼びかける。ゼロと呼ばれた自分が召喚した、黄金の使い魔に……。

「……と、……ら」

ルイズの口から聞こえた使い魔の名前に、ワルドはわずかにぎょっとしてルイズを見る。
しかし、ルイズの体が小刻みに震えながらも、金縛りにあったように動かないのを見てあざ笑うように言った。

「無駄だ、ルイズ。婢妖の支配からは逃れられない。一晩も立てば君の心は喰い尽される……そして――」

風がかすかに唸り声を上げ、ワルドはゆっくり目を転じる。

(あの使い魔が近づいている、か……ミス・シェフィールドも口ほどにないな。それとも、この俺を試すつもりか?)

「ユビキタス・デル・ウィンデ……」

ワルドは低く呪文を唱えた。呪文の完成とともに、ワルドの体が分身する。風の系統魔法、ユビキタスであった。
四人のワルドが部屋の隅に散り、手にしたマジック・アイテムをつぎつぎと地面に突き立てる。幻獣対策にと、あらかじめミス・シェフィールドから渡されていたものである。

「結界を張った。この空間では幻獣の能力は大きく制限される。そして――君の使い魔は、死ぬ。それで終わりだ」

雄叫びが大きくなっていく。壁が轟音と共に崩れ、烈風とともに金色の使い魔が飛び込んできた。


部屋に飛び込んだとらの目に、横たわるウェールズの姿が飛び込んできた。そして、傍らに剣のような杖を構えるワルド。そのワルドの左手でしっかりと捕まえられたルイズ。

「わるど……てめえの仕業かよ」

とらの言葉に、目の前の男は残酷そうに笑った。とらの鼻に婢妖のニオイがつく。間違いなく、ルイズの体からそのニオイは発せられている。
半開きになったルイズの口のなかで、婢妖の目玉がぎょろ、と光った。

血まみれになったとらの体は重い。体を引きずるようにして、結界の中に足を踏み込んでいく。

「ぐっ……!」

結界に触れた瞬間、とらの体に衝撃が走る。なるほど、四隅には独鈷が打ち込まれていた。強烈な法力を浴びたように、とらの体は血を噴出す。
ぼたぼたと血が床を染めた。ルイズの体が、ひときわ大きく、びくり、と震えた。

「動くな、使い魔。動けばルイズの命はない」

そうワルドが言い放つと、四隅に立ったワルドの分身は、さっととらに近づいた。そして、手にした短剣をとらの両手足に打ち込み、床に固定する。
とらは両手足を床に釘付けられた状態で、じっとワルドを見つめる。ワルドは残忍な笑みを浮かべた。

「なぜ一息に殺さないか疑問か? いくつか質問があるのだよ、ルイズの使い魔。と、いっても質問をするのは俺ではないがな」
『そう……問うのは我だ……』

ルイズが口を開いた。いや、口を開いたのはルイズではない。取り付いた婢妖ですらなかった。

「てめえ……白面か……」

とらの言葉に、ぎぎぎ、ときしむようにして、虚ろな目をしたルイズが答える。

『そのとおりだ……下賎な妖怪よ。なぜ、お前は我の名を知っている? なぜ、お前は我と同じニオイを持つ……?
 我は六千年の永きに渡り、人間どもが『聖地』と呼ぶこの地に封じられている……答えよ、我とお前はどこで会ったのだ……!!』
「くっくっく……」

金色の幻獣は静かに笑い始めた。

「何が可笑しい!」

ワルドが杖を引き抜いて叫ぶ。だが、ルイズの使い魔はあざ笑うことをやめない。

「くっくっく、可笑しいに決まってるだろうがよ……白面ともあろうバケモンが、小娘一人を人質にとってよ……くっくっく……
 白面、オメエはなぜそんなマネをする? ひゃっひゃっひゃ……」
『下等な妖怪が……婢妖一匹にも抗えぬ小娘を、我が恐れるとでも言うのか……?」
「……そうさ」

とらはにやりと笑いながら呟くと、ルイズに声をかける。

「おい、るいず! いつまでそこでぼっと立ってやがる。さっさと婢妖ぐらいおいださねーか!」
「……ふはは、無駄なことを言う。ルイズにそんなことが出来るものか!」

ワルドがとらをあざ笑った、その瞬間だった。
ぶるぶると、ルイズの体が震えだした。ワルドの顔色がさっと変わった。とらがからだをきしませながら声を上げる。

「るいず! オメエはただ貧弱なニンゲンじゃねぇだろうが……!」
「そんな……まさか! 今まで、そんなことができたメイジなど一人も……!!」

ワルドが杖をルイズに向け、詠唱を始める。一瞬で風の刃が作り出され、ルイズに向かって突き出される。
しかし、その刃はルイズの体に届いたかに見えた瞬間、霧のように掻き消えた。ルイズの体からおびただしい魔力が噴出し始める。
ワルドの表情が驚愕に変わった。

とらがにやりと笑う。


「お前はわしを呼び出したんだろうがよ。るいず――――」


轟ッ!!


『いぎぃあアああッ!!』

轟音と共に、ルイズの体から婢妖が叩き出された。

『人間ごときに、コノ婢妖があァああア!! 白面の御方ァああアあ!!』

ぼっ! と音を立てて婢妖は塵になっって消えた。床にひざをついたルイズが荒い息を吐きながらとらを見る。
ルイズは、ぜえぜえと息をつきながらも、そっととらに微笑んだ。


「あたりまえじゃない。あんたは、私の使い魔なんだから――」


「ば、かな……っ! くそ、分身よ!! あの使い魔に止めを刺せ!!」

びゅ、とワルドの遍在の分身がとらに飛び掛り、四本の風の刃がとらに突き立てられるかに見えた。
だが――
瞬間、とらの体から放出された雷光が、四人のワルドを消し炭に変えた。

「はっはっははぁああ!! け、貧弱だなァ! わるどォ!!」
「そんな、一撃で俺の分身がッ……ばかな、そんなことが――!!」

ワルドはとらに向かって杖を突き出した。一瞬で呪文をとなえ、魔法を放とうとする。

――そして、何も起こらなかった。

ぼと、と何かが地面に落ちた音にワルドは下を見る。やがてワルドは、ぶるぶると震えだした。

(こ、れは……俺の腕、か。いつの、まに――? あの使い魔は、動けないはず、なのに……)

ワルドの左腕は杖を握ったまま切断され、地面に転がっていた。どぱ、とワルドの腕から血が吹き出る。

「……おでれーた」

呟くデルフリンガーの声に、腕を押さえてうずくまるワルドがはっと振り返った。

「髪で剣を操る使い手なんて初めてだ。おでれーた」

デルフリンガーを操っているのは、長く伸ばされたとらの髪であった。背中に持っていたデルフリンガーを操り、一瞬でワルドの腕を切断したのだった。
とらの髪がデルフリンガーを構える。うずくまるワルドに止めを刺そうとした時――

びゅん!
風のようにワルドのグリフォンが飛び込んできた。ワルドを加えると、疾風のごとく飛び去る。

「この借りは、いつか返すぞ、使い魔よ――ッ!!」

ワルドの声が、長く尾をひいて響いた……。


ルイズはゆっくりと立ち上がった。
まだ体がふらつく。よろめきながら、ルイズは一歩一歩、とらに近づいていく。
とらはと言えば、両手足を床に縫いとめられ動くことができない。黙ってルイズを見るばかりであった。

(何て言おう……? 何て言えばいいのかしら……?)

ルイズは歯を食いしばりなから足を前にだす。血まみれのとらの姿に、じわ、と涙がにじんでくる。慌ててごしごしと拭った。

(お礼? 助けてくれて、ありがとうって言えばいいの……? それとも、それとも――)

「るいず」
「な、なななにっ!?」

いきなりとらに呼ばれて、ルイズは慌てた。訳もなく顔が真っ赤になり、そのことに気がついたルイズはさらに赤面した。
そんなルイズを、くく、ととらは笑う。

「なな、なにがおかしいのよ、とら――!」
「くっくっく……はぁっはっははっは!!」
「もう、何よ! ばかばかばか! とらのばか!」

(くっくっく……ちげぇねえ)

とらは自分の髪の毛で、ずる、と手足に刺さった短剣を引き抜き、床に捨てる。
ふむ、と泣き出しそうなルイズを見つめ、とらはにや、と笑った。



「ハラァ、へったな」



……その後のことを少し。

ルイズがとらの胸に飛び込もうとした瞬間に、さっと横からシルフィードがとらに抱きついた。

「とらさま! みつけたー!! きゅいきゅいきゅい!!」
「ばば、ばか竜! ちょっと、離れなさいッ! このっ!」

シルフィードに乗ってやってきたタバサ、キュルケ、ギーシュは、ぎゃあぎゃあと騒ぐ三人を見て苦笑した。

「やれやれ、ルイズ、本気なのかしらね……」

キュルケは呆れ顔で溜息をつく。ギーシュも思わず噴出した。タバサだけがいたってまじめな顔で、

「……古典的三角関係」
と呟いた。


翌朝……。

ごぉおぉぉぉおおおおおう……
風が強く唸る。レコン・キスタの兵士たちは、ぞくぞくとニューカッスルの城に入っていく。残党狩りであった。
どの兵士も、虚ろな目をしていた。半開きの口からは、ぎょろ、婢妖の目玉が覗く。

兵士たちは皆、婢妖に心を喰い尽された動く屍であった。
と、前方の兵士の足が止まる。ざわ、と大気が揺れた。

巨大な金色の幻獣がそこに立っていた。どこか悲しげな光を目に湛えた幻獣はぽつりと呟く。

「獣になったニンゲンたち……お前たちの魂はもう戻らねぇ……せめて――――」

ばり、ばり、と幻獣のたてがみが、雷光をまとっていく。

「せめて――わしが殺してやらぁ……ニンゲンとしてよ」

『妖怪だァあア!! 殺せェええ!!!』

兵士の体を操り、婢妖たちがいっせいに襲い掛かる。そして……巨大な雷光がはじけた。


その日、レコン・キスタの被害は二千。怪我人を合わせると、四千に上った。
その莫大な被害が、たった一匹の金色の使い魔によってもたらされた被害であると、誰が信じただろう?

『我は白面……その名のもとに、全て滅ぶべし……くくっ……金色の妖怪よ……地獄の淵で、また会おうぞ……』

白い悪魔ははるか東の地で、憎悪をたぎらせる。やがて来る復活の時を待ちながら……。


ごぉおおぉおぉおおおぉおおう……

邪悪な雲を切り裂きながら、金色の風がアルビオンの大地を駆け抜ける。
そして、少女の悲鳴がその風にのって微かに聞こえた。


「と、ら、もっと、ゆっく、りーっ!!」
「あーっ!? 聞こえねぇな、るいずよぉーっ!!」
「うそ、つきーっ! とらの、ばかーっ!」



るいずととら第二章 おわり


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