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未来の大魔女候補2人-02b


未来の大魔女候補2人 ~Judy & Louise~

第2話後編『ジュディと老爺の関係』


「ミスタ・コルベール」
「おや? ミス・タバサ、丁度此方も探そうとしていた所です」

 コルベールが学院長室から退出すると、ドアの横に蒼髪の少女が待っていた。
 タバサは言葉少なに声を掛けて、小さくペコリと頭を下げる。

「赫々然々」
「成るほど。コレコレウマウマと言うわけですね」

 タバサは医務室で女の子に起こった異変と、ルイズを運んできたキュルケに2人の看病を頼んだことを手短に伝え、コルベールは言葉少なに語られた内容を正確に把握する。

「ワザワザ伝えに来てくれたのですね? 有難う御座います。
 しかし、これでまた1つ問題が増えましたな。
 女の子に現れたルーンらしき痣、確りと究明せねば彼女の親御さんに申し訳が立ちませぬ」
「…………」

 タバサは小さく頷きを返す。
 道中それ以上の会話はなく、2人は並んで階段を下りて水の塔に在る医務室へと歩を進める。
 特筆に価する出来事は何も起こらず、あっさりと医務室へと辿り着く。あえて語る事があるならば、医務室の向こうの角に金の巻き髪が揺れるのを見た事くらいだ。

 医務室の外には3メイル程ある火蜥蜴と、それより一回り小さい巨大蛙が居た。キュルケとルイズの使い魔である。
 寝ていた火蜥蜴は、2人の接近に気がついて顔を上げるが、巨大蛙の方は、相変わらず表情の読めない顔で鎮座している。
 部屋の中からは、何やら物音が聞こえてくるが、きっとルイズとキュルケが喧嘩をしているのだろう思い、コルベールは気にせずドアノブに手を掛けた。
 まったく喧嘩するほど仲が良いというが、TPOを弁えて喧嘩して欲しいものだとコルベールは思いながら、ドアノブを捻る。ガチャリとラッチが内側に引き込まれる音が響き、抵抗のなくなったドアが蝶番を軋ませて開かれた。

 医務室特有の臭いが鼻を刺す。開かれたドアの先で2人が見たものは、ベッドにキュルケを押し倒しているルイズの姿であった。
 それだけならば、取っ組み合いの喧嘩をしていたと解釈するのだが、それでは顔の上気したキュルケの説明が付かない。
 と、成れば、コルベールは自分の評価が間違っていたと考える。
 つまり、2人の仲は『喧嘩するほど仲が良い』と言うレベルではなく、唯為らない関係であると認識するには十分であった。
 ならば、何時も喧嘩していたのは、周りの目を欺くためだったのか? 成程、2人の家は仇敵同士であると言う事実を踏まえれば、関係を知られたくないと思うのは当たり前だ。
 未来ある若者の為に、自分は何も見なかった。1時間ほどしてから、また来よう。そうコルベールが判断を下すのに要した時間は、僅か5秒足らず。

「ごゆるりと……」
「…………」

 コルベールは平静を装って踵を返す。タバサは何も言わないが、小さく頷いてからコルベールを倣って回れ右をする。

「待って下さい、ミスタ・コルベール! 何か勘違いしていらっしゃらないですか!?」
「大丈夫です。このことは誰にも言いません。私の胸の中に仕舞って置きますから安心を」
「絶っ対、盛大な勘違いをしてらっしゃいます! ただ喧嘩をしていただけです。お願いですから仲裁するなり、説教をするなりして下さい!」
「判っています。判っていますぞ。このコルベール、伊達に年を重ねている訳では有りません。この位の空気を読むことは造作もないことです。
 ですから、言い訳はしなくても宜しい。誰も医務室には近づけさせません」
「お願いですから話を聞いて下さい! 誤解なんですってば!」

 コルベールの襟元を掴んで、必死に誤解を解こうとするルイズだが、コルベールは悟りきった表情で優しい言葉を掛けてくる。髪も無ければ、取り付く島も全く無いコルベールであった。
 暫らく呆けていたキュルケだが、ルイズに遅れること数瞬、事の重大さに気が付き、自分の親友にヨロヨロと近づいて声を掛ける。タバサは眼鏡の奥から、平静な瞳を返す。

「ねえ、タバサ? 貴女は判ってくれるわよねえ?
 これは事故なのよ。お願いだから先生を説得するのに協力して」
「…………」

 その懇願にタバサは『判っているから何も言わないで。どんな事になっても私は貴女の友達で味方だから』とでも言うかのように、サムズアップを返す。

「タバサぁ~ お願いだから私の言う事を信じて!」
「誤解なんです、ミスタ! 私とコレは仲良しなんかじゃありません!」
「…………」
「う~む……」

 ルイズとキュルケは、それぞれコルベールとタバサに縋り付いてガクガク体を揺らしながら訴える。
 余りにも必死な様子にコルベールは、もしかしたら勘違いだったのでは? と、いう疑念が浮かんでくる。
 改めて話を聞こうと耳を傾けようとした時、4人の中の誰でもない声が聞こえてきた。

「う~ん……
 ここ、ドコ?」

 ルイズが寝ていたベッドの隣。白いカーテンで区切られているベッドから、女の子の声が聞こえる。 
 その声を聞いて、コルベールは此処に来た目的をはたと思い出す。
 取り合えず、ルイズとキュルケには、勘違いしていた事を後で謝っておこう。そう考えながら、襟元を掴んでいるルイズの腕をやんわりと解いて部屋の中にはいっていく。
 それでも、しつこく追い縋って来るルイズをチョップで引き剥がして、閉じているカーテンに手を掛ける。
 カーテンを引くと、医務室の簡易ベッドの上で上半身を起こしている金髪の女の子が此方を伺っていた。不安を与えないように極めて優しい声で話し掛ける。

「目が覚めたようだね。
 何処か痛い所は在りますかな?」
「えっと……
 少し頭が、ぼや~ってなってるけど、ダイジョウブです」
「そうですか。それは良かった。
 それでは、貴女のお名前を教えて頂けますかな? 私の名前はジャン・コルベールと申します。
 後ろに居るピンクの髪の子がミス・ヴァリエール。蒼髪の子がミス・タバサ。赤髪の子がミス・ツェルプストーです」
「ハイ。わたしの名前はジュディスです。でもみんなからは、ジュディって呼ばれています。
 コルベールさん、ココはドコですか?」

 ジュディと名乗った女の子の質問に、コルベールは丁寧に答える。

「ここは、トリステイン魔法学院です。分かりますかな?」
「トリステイン? ドコですか?」
「トリステインを知らないなんて、一体どんな田舎から来たのよ?」

 クエスチョンマークを頭の上に乗せて首を傾げるジュディに、コルベールの後ろからルイズが口を挿む。レディとしてはしたない行為だが、ハルケギニアで最古の伝統を誇るトリステインを知らない者が居るとは、とても信じられなかったからだ。

「フム…… 聞きたい事はまだ在りますが、学院長がお呼びですから続きは学院長室で話しましょう。
 ミス・ジュディス、私の後に付いて来て下さい。ミス・ヴァリエールとミス・タバサにもご同行願います」
「はーい。でもコルベールさん、わたしのことはジュディで良いですよ?」
「それではジュディさん、行きましょうか」
「あの~ ミスタ・コルベール、私もなんですか?」
「当然です。この子を召喚した張本人なのですから、つべこべ言わずに付いて来なさい」

 コルベールは不本意な表情を浮かべるルイズに、ジュディとは打って変わって厳しい言葉を掛ける。
 その強気な態度にルイズは鼻白んでしまう。
 一方ジュディは、危なげ無くベッドから降りてブーツに足を通す。荷物掛けからネクタイを手に取り、手馴れた様子で締める。
 そして、白いブラウスの上に赤い魔道着を纏い、更にその上に紫のローブを羽織ってバッグを逆袈裟に掛ける。仕上げに、大きな紫の尖がり帽子を被って着替えは完了した。
 ジュディが荷物を持って出発しようとした時、何とかタバサの説得に成功したキュルケが声を掛ける。

「ミスタ・コルベール、私も同行しても宜しいでしょうか?」
「却下します」
「ええっと……」

 即決で答えが返ってくる。取り付く島も無いコルベールに、キュルケは鼻白み言葉が閊える。
 その隙にコルベールは3人を連れて、さっさと医務室から出て行ってしまった。


 ジュディが医務室を出ると、巨大な蛙が近寄ってきた。

「あれぇ? ポセイドン、如何して実体化してるの?」
「ひぃぃぃっ!」

 ジュディは不思議に思う。今まで寝ていたのだから、巨大蛙-ポセイドン-は非実体化しているはずだ。もしかして、寝ぼけて実体化させてしまったのだろうか? と、首を捻る。
 取り合えず非実体化させようと、ジュディは意識を集中させる。だが、幾ら集中しても、自分の中に在るはずのポセイドンの存在が感じられない。
 他の2体のファミリアの存在は、感じる事ができるのに、如何いう訳かポセイドンの存在がぽっかりと抜け落ちて、別の何かに置き換わっているのを感じる。
 取り合えず、ポセイドンの背に腰掛けて、代わりに置き換わった何かに意識を集中させる。

「ちょっと! 誰に断って人の使い魔に乗っかってんのよっ!」

 その怒鳴り声にジュディは驚き、顔を上げる。声の聞こえてきた方向に眼を向けると、そこにはコルベールの姿が在り、その隣にはタバサが立っている。
 しかし、先程響いた声は女性のものだ。ジュディはタバサの方を見やるが、タバサは湖面の様に静かな視線を返してくるだけだ。

「聞いてるの!? さっさとソレから降りなさいっ!」

 その声は、確かにコルベールの方から聞こえてくるのだが、明らかにコルベールの声ではない。
 眼を点にしているジュディに、タバサが後ろだと指を指して教える。

「ミス・ヴァリエール…… 言いたいことがあるなら、せめて私の背中から顔を出しなさい」

 呆れてルイズに話しかけるコルベールの様子から、ジュディは成程と納得する。つまり、ルイズがコルベールを盾にしてジュディに文句を言っていたのだ。

「言いたい事があるなら、きちんと顔を見せなさい」
「いゃ…… んーっ、ん――っ モガモガ……」

 今までの様子から埒が明かないと判断したコルベールは、無理矢理ルイズを背中から引き剥がし口を塞いでからジュディの前に立たせる。
 矢面に立たされたルイズは、暫らくもがいていたが、やがて痙攣して大人しくなった。

「ミス・ヴァリエール、落ち着きましたか? 使い魔を見る度に叫んでいては話が先に進みませんぞ。先ずは、為るべく見ない様にしてみなさい」
「は、はい……」
「あの~? ヴァリエールさん、ポセイドンが使い魔って如何いう事ですか?」

 ルイズは眼を合わせずに、ジュディのジュディの質問に答える。逃げ出そうにも、肩はガッチリとコルベールに抑えられている。

「言葉の意味どおりよ! ソレは私が召喚して、私の使い魔になったのよ! だ、だからソレはもう貴女のペットじゃないの!」
「えっ! それって、どういう意味!? ポセイドンは、ペットじゃなくてわたしのファミリアだよ。
 どうやってわたしのファミリアを、ヴァリエールさんのファミリアに出来たんですか?」
「どうやってって…… コントラクト・サーヴァントで契約したのよ。
 ……契約した記憶は無いけど、そうですよねミスタ・コルベール? 所で、ファミリアってなによ?」
「確かにミス・ヴァリエールは、コントラクト・サーヴァントを成功させて、そのポセイドン君を使い魔にしました。そして、その証拠が左前足に刻まれたルーンです。
 ですが……」

 コルベールはルイズの言葉に肯定を返すが、ジュディの言動から得られた推測に、額に汗を滲ませる。
 固い唾を飲み込む音が、辺りに小さく響く。

「ジュディさん、お1つ聞きたいのですが、そのファミリアというのはもしかして、使い魔と同義語ですか?」
「そうですよ? 知らないんですか?」
「なんと……っ! また1つ問題が増えてしまいましたか……」
「どう言う事ですかミスタ・コルベール!? アレは使い魔じゃないって言ってたじゃないですかっ!」

 ポセイドンに刻まれたルーンを確認していたジュディは、当たり前の事を聞かれてキョトンとする。
 ルイズとコルベールは、愕然とし、泡を食ったかのような表情になる。
 難しい顔をしているコルベールをルイズが非難するが、この状況を動かし得るものではない。予想外の出来事に、コルベールの頭皮は、確実に大ダメージを受けている。
 流石のタバサも、この事態に眼を大きくさせて驚いている。

「うむむ…… 何にせよ、これ以上此処で話をしている訳には行きません。早く学院長室に行きましょう。話しはそれからです」
「あの~、ミスタ? 私は如何すれば?」

 急ぐコルベールに話しかけるのは、先程袖にされたキュルケだ。

「むっ? 今の話を聞きましたね?」
「はっ? はい聞きましたが、それが何か?」
「ならば、余計な事を言いふらさないように連行します。答えは聞きません」
「ご、強引ですのね…… まあ、宜しいですわ。行くわよフレイム」
「わっ! おっきなトカゲさん!」

 不本意な形ではあったが、同行を許されたキュルケは、自分の使い魔を呼ぶ。その呼びかけに、ジュディの背後に居た火蜥蜴がのっそりと歩み出る。
 フレイムと呼ばれた火蜥蜴は、キュルケの足に体をこすり付けて友愛を表す。
 その存在に気が付いていなかったジュディは、初めて見た生き物にビックリする。それに気を良くしたキュルケは、上機嫌に自慢を始める。

「うふふ。もしかして火蜥蜴を見るのは初めて? この子は火竜山みゃ……」
「お喋りは後にしなさい。
 時間は一滴の水の秘薬よりも貴重なり、です。学院長室へ急ぎますぞ!」
「……はい」
「待って下さい、ミスタ・コルベール。少し早いです」
「追いかけてポセイドン」

 コルベールは無駄話を切り上げさせて早足で歩き出す。文句の1つも言いたいキュルケなのだが、置いて行かれるのは嫌なので後を追いかける。
 一行は水の塔を出て、本塔へと続く石造りの通路を急ぐ。コルベールはあくまで早歩きなのだが、ルイズ、タバサ、キュルケは殆ど走っているのと変わらない。
 その後をポセイドンに乗ったジュディとフレイムが追いかける。
 建物の中でポセイドンに乗るのは礼儀に外れるのだが、ジュディ自身が小柄であるのと重い荷物を持っているのが相まって、走っていては置いて行かれてしまうのでやむなしの行為である。

 本塔に入ってもコルベールの足が鈍る事は無く、相変わらずの姿勢で歩き続ける。止まる事無く一気に最上階まで上りきり、5人と2体は学院長室の前に到着した。
 ジュディはポセイドンに乗っていたため疲れはないが、ルイズとキュルケは肩を大きく上下させて息を整えている。それとは対照的に、コルベールとタバサには、さしたる疲労は見受けられない。
 コルベールは二人の息が静まるのを待ってから、学院長室の両開きの扉をノックして来訪を告げる。

「オールド・オスマン、例の件でお話があります」
「……うむ、入ってきたまえ」
「それでは、失礼いたします」
「しつれいします」
「「し、失礼いたします」」
「…………」

 コルベールを先頭に、ジュディとポセイドン、ルイズとキュルケ、タバサの順番で入室していく。
 その際、コルベールは模範的な、ジュディはポセイドンから降り、帽子を脱いでからコルベールの仕草を真似て、ルイズとキュルケは些か慌てて、タバサは静かに、一礼をする。
 最後に入室したタバサが後ろ手で扉を閉め、フレイムは廊下に取り残される。慌てて扉を前足で叩くが、誰も気づかない。
 机に両肘を突き、手を口の前で組んだオスマンが、5人と1体を出迎える。秘書机で仕事をしていたロングビルは、ポセイドンを見て顔が引きつっている。

「思ったより早かったのう」
「そんな事より、大変なことが起きました! 鼻毛を抜いたり、セクハラをしている場合ではないですぞ!」
「な、なにを言っているんだね、君?」
「そんな事はどうでも良いのです! 先ずは彼女の話を聞いてからです。
 さっ、先ずは自己紹介を」

 何時にないコルベールの強気な態度に、さしものオスマンもたじろぐ。

「始めまして。わたし、ジュディです」
「ほう~ ジュディちゃんと言うのか、可愛いのう。
 ワシはこの学院の長、オスマン。人はオールド・オスマンと呼ぶ。そちらの女性は、ワシの秘書をしてくれておるミス・ロングビルじゃ」
「えへへ アリガトウございます、オスマンさん。
 ロングビルさんもよろしくお願いします」

 オスマンの言葉にジュディは素直にお礼を返すが、他の人間は少し白い目でオスマンを見ている。まさしく、日頃からの言動の賜物であろう。
 その視線に気が付いたオスマンは、ゴホンと咳払いをして誤魔化す。

「それでは、どの様な状況になっとるのか説明してくれい」
「はい。ではミス・ヴァリエール、前へ」
「は、はい。では説明します……」


「成程。召喚の儀式でその巨大蛙とジュディちゃんを呼び出して、その蛙を使い魔にしたら、それはジュディちゃんの使い魔だったと言う訳じゃな?
 ミスタ・コルベール、君はディティクトマジックを使ってルーンの有無を調べたといったね? 本当に無かったんじゃろうな?」
「勿論です。目視でも調べてみましたが、ルーンは左前足のモノのみです」
「ふーむ…… まっ、取り合えず下がりなさい」

 オスマンは顎に指を当てて唸る。
 召喚でジュディを呼び出されたのは、不幸な事故であったと言うしかない。
 しかし、他人の使い魔に契約出来たと言うのが腑に落ちない。
 試したという前例は無いが、そもそも他人の使い魔にコントラクト・サーヴァントが効くはずが無いのだ。と、言うことは、あの巨大蛙はジュディの使い魔ではないと言うことになるのだが、ジュディがそんな嘘を付く理由が判らない。
 オスマンは、一人で考え込んでいても埒は明かない、と思考を中断して、ジュディに事情を聞くために話しかける。

「ジュディちゃんや、此処に来る前はどうしておったのか爺に教えてくれるかのう?」
「はい、わかりました。うちにオジイチャンの古い友達がたずねてきて……」


「そうか、そうか。つまり、ジュディちゃんの家はサドボスという町で魔法屋を営んでおったんじゃな。
 そして、クライドという魔道士にジュディちゃんの祖父が鏡に閉じ込められて、その時に発動した防衛術とやらで家族が離ればなれになってしまった。
 それで、ジュディちゃんが家族を探す旅に出たところでサモン・サーヴァントのゲートが開き、召喚された。そう言うわけじゃな?」
「そのとおりです。だから、早く家族を探しに行かないとダメなんです」
「まあ、慌てる事は無い。ワシもお手伝いして上げるから、大船に乗った気で居なさい」
「本当ですか? アリガトウございますっ!」
「ふぉっふぉっふぉ、礼などいらぬよ。小さなレディを手助けするのは、年寄りの責務じゃて。
 さて、使い魔の件じゃが……」
「オールド・オスマン、その前にもう1つ問題が発生しました」
「……なんじゃね?」

 話を中断されてオスマンは、不機嫌な声で続きを促す。これだけでも十分なのに、まだ問題があると言う理由も少なからずあるだろう。
 コルベールはタバサを手招きして前に出る。

「これはミス・タバサが気が付いた異変です。ミス・タバサ説明を」
「彼女の左手の甲に、ルーンらしき痣が現れました。原因不明」
「左手? ……ホントだ、痣が出来てる」

 今、指摘されて初めてジュディは左手の痣に気が付き、驚きの声を上げる。
 これまた、厄介な問題を突きつけられたオスマンの心労は如何ほどか。オスマンは表情には出さないが、心の中では大汗をかいている。

「……ルーンらしき痣? ジュディちゃんや、こっちに来て見せてもらえるかのう? ディティクト・マジックも掛けるがかまわんかね?」
「はーい、どうぞ」
「ちなみにこれが、ポセイドン君に刻まれたルーンです。見比べてみましょう」

 ジュディは机の上に身を乗り出して、左手の甲をオスマンに差し出す。それと同時に、ポセイドンに刻まれたルーンをスケッチしたノートも差し出される。
 オスマンは、机に身を乗り出して軽くジュディの手を取って杖を振るう。輝く粒子が小さな手を駆け巡り、情報をオスマンに伝える。

「ポセイドン? ああ、その巨大蛙の名前か。
 ふむ、確かにルーンのように見える痣じゃのう」
「何かの手掛かりになると思いましたが、ポセイドン君のルーンと見比べても全く違いますね」
「あのー、これ何なんですか?」
「すまんのうジュディちゃん、もう手を引っ込めて良いよ。その痣の事じゃが、何か体に異常を感じたりはしておらんかの?」

 オスマンの質問に、ジュディは小さく眉を寄せて考え込む。

「んー? そうだ、ポセイドンが居たところに、何か変なモノがある様に感じます」
「ポセイドンの居たところ? ジュディちゃん、ポセイドンは君の使い魔だった証拠はあるかね?」
「証拠? 眼に見えるようなのは有りません。だけど、ポセイドンの存在が全然感じられなくなってます」
「つまり、五感の共有が出来なくなったと?」
「そうです。他の子の存在は感じられるのに、ポセイドンだけ居なくなっちゃってるんです」

 オスマンはジュディの言葉に引っ掛かりを覚える。ジュディは今、他の子と言った。それは他に使い魔が居るという意味に聞こえる。
 だがしかし、使い魔は1人1体というのが原則である。使い魔を2体以上召喚しようとしてもサモン・サーヴァントは絶対に成功しない。

「ジュディちゃん、他の子と言うのは他の使い魔という意味かね? 君は何体も使い魔を連れているのかね?」
「? そうですよ。あと残っているイアペトスとアストライオスが、わたしのファミリアです。見せましょうか?」

 あっけらかんとジュディは答える。次の瞬間、ジュディの隣にポセイドンと同じくらいの大きさがある狛犬の様な動物が出現した。
 突然の出来事に、ジュディ以外の全員が度肝を抜かれる。

「そ、それはなんじゃね!?」
「いきなり出てきましたぞ!?」
「紹介します。わたしのファミリアのアストライオスです」

 ジュディは、何故そんなに驚くのか不思議に思いながら、自分のファミリアを紹介する。
 オスマンとコルベールは驚きの声を発するが、他の4人は言葉を失っている。タバサだけは、驚いているのかいないのか良く判らないが、キュルケには凄く驚いていると判った。
 オスマンの脳裏には1つの仮説が浮かび上がる。そして、その仮説は限りなく真実に近いと感じるが、早合点はしてはいけないと言い聞かせて、ジュディに説明を求める。

「もうその使い魔、いやファミリアか、は仕舞ってほしい。
 そしてジュディちゃん、そのファミリアについての定義を教えて欲しい。
 君も奇妙に感じているかも知れぬが、如何やらワシ等の間には、認識の齟齬があるようじゃ」
「はーい、わかりました。
 ファミリアと言うのは、術者の五行要素を抜き出して形を与えられた術者の分身のようなものです。
 ファミリアは五行の力と術者の魔力の塊で、術の行使を助ける役目を持っています」
「術者の分身……? そうか、ならば……
 ジュディちゃん、その五行と言うのは何かね?」
「五行と言うのは木、火、土、金、水の世界の理を司る力のことです。
 それぞれが強めあったり弱めあったりして、五行は世界を循環させているんです」
「つまりそれは、精霊……」
「ミスタ・コルベール! この話はこれでお終いじゃ。他の者も他言無用じゃぞ」

 仮説を立てようとするコルベールをオスマンは、強い声で制止する。そして、他の者にも言及を封じ、強引に話を切り上げる。
 今の説明から、ジュディは四系統魔法とは異なる魔法の使い手と言うことになる。そしてそれは、エルフ等が使う先住魔法にも似た理論を持つ魔法系統である。
 平和の安寧の中にあって、多少のトラブルを望みはしたオスマンだったが、今更ながら平和の有難さが身に染みる。
 若い頃は平和の有難さなど判っておらず、老いぶれてから平和の有難さを判った気でいた自分の愚かさに呆れかえる。

「それで、その痣の件じゃが予想が付いた。
 コントラクト・サーヴァントは、サモン・サーヴァントで呼び出された生物を使い魔にする魔法じゃ。
 しかるに、ファミリアが術者の分身なのならば契約可能なのじゃろう。
 そして、ファミリアと術者が繋がっているが故に、ジュディちゃんにも契約の影響が出た、という訳じゃな。なんせ、術者の一部を乗っ取った訳じゃからのう」
「じゃあわたし、ヴァリエールさんの使い魔さんになっちゃったの?」
「いや、それは無かろう。何せこれは痣にしか見えんし、ルーンとしては認められぬものじゃて」

 ルーンとは力在るシンボル。オスマンがディティクト・マジックで調べてみても、痣からは魔力を感じられなかった。ゆえにこれは、使い魔のルーン足り得ないと言うのがオスマンの見解だ。

「そして、既に刻まれたルーンは、使い魔の死によってしか解除されん。ジュディちゃんには悪いが、ポセイドンの事は諦めて欲しい」
「え~? ポセイドンを諦めなくちゃいけないの?」
「すまんのう。コントラクト・サーヴァントを解除する方法はソレしかないんじゃよ。
 こちらで調べてはみるが、余り期待せんでくれよ」
「ううぅ~」

 あからさまに落胆するジュディをみて、部屋に居る者は多かれ少なかれの罪悪感を感じる。自分の使い魔を他人に奪われたショックは、いかばかりだろうか。
 オスマンはすかさずフォローを行うが、さしたる効果は見られず慌てて話を切り替える。

「そうじゃ! ジュディちゃん、家族の居る位置がわかる水晶を持っていると言ったね?
 ソレを使って居場所を探ってみたらどうじゃ?」
「うぅ…… 
 そうですね! 先ずは家族を探さなきゃ!」
「ジュディさん大丈夫ですか?」
「ダイジョウブです!
 水晶さん、皆がいる方向を教えて下さいな?」

 気丈に振舞うジュディをコルベールが心配するが、ジュディは前向きに家族を探す事を考える。
 ジュディは肩に掛けているバッグから水光晶輪を取り出し、家族のいる方向を探す。
 だが、方角を示すはずの赤い光点は、水光晶輪の中をグルグル回り続けて一向に方向が定まらない。

「あれ~? どうしちゃったの? 水晶さん」
「どうしたんじゃ?」
「水晶さんが教えてくれないの。何処にいるのか判らないみたい」
「ふーむ、ソレを貸してみてくれんかの?」
「はーい、ドウゾ」

 オスマンは杖を振るい、手渡された水光晶輪にディティクト・マジックを掛けて良く観察する。円環状の水晶には見慣れぬ記号の羅列が4つ、等間隔で並び、光の赤点は方向を示さずにフラフラと揺らいでいる。
 深知の魔法が伝える情報に、やはりと呟く。水光晶輪には魔力を感じるが、それがどう作用するのかが判らない。
 そのことは、四系統魔法とも先住魔法とも違う魔法体系の産物である事を示している。先住魔法とはエルフや吸血鬼、そして既に絶滅した韻竜等が使う精霊の力を借りる魔法体系であり、人間には使う事は出来ない。
 齢が300を超えると、まことしやかに囁かれるこの老魔法使いは、実際に先住魔法を見たことが何度もあり、どういった物かも理解している。だが、この水晶に使われている魔法技術は、そんな長い人生の中で培った知識を持ってしてもわからない代物であった。
 水光晶輪が作用しない原因として、オスマンに1つ考えが浮かぶ。

「ジュディちゃんや、君はサドボスという所に住んでいたといったね? そして、君は旅に出るところだった。
 ならば、地図は持っているかね? 持っていたら見せて欲しい」
「持っていますよ、ちょっと待って下さいね……

 はいドウゾ、世界地図です」

 ジュディは旅行カバンを開き、羊皮紙で作られた地図を取り出す。何枚か在る地図の中でも広範囲を記したもの、つまり世界地図をオスマンに渡す。
 手渡された地図を見てオスマンは驚く。海岸線が詳細に描かれ、主要な都市と街道が記されている。此処まで詳細な地図は、中々お目にかかることが出来ない。
 そしてなにより、それはハルケギニアの地図ではなかった。見知った地形がひとつも無く、幾つかの大陸が描かれている。そして、水晶にあった記号と似通ったものが要所要所に書かれており、文字だと推測できる。

「ジュディちゃん…… よく聞いて欲しい。そして皆も、今から話す事は決して言いふらさず、胸の内に留めて欲しい。
 ……よいな?
 結論から述べよう。ジュディちゃんは、ハルケギニアとは違う場所から呼び出されたようだ」
「ハルケギニアではない? ならば東方?」
「其れは判らぬ。だがワシは、東方ですらないと考える」
「東方ですらない……?」
「そうじゃ。この地図には幾つかの大陸が記されておる。そしてそれらの大陸は、詳細に記されてはおらん部分がある。
 これは世界地図だといったね?」
「そうです」
「つまり、まだ未開の地があるという訳だ。
 そこからワシは、ハルケギニアや東方もそういった大陸の1つであると考える」
「つまり、彼女は別大陸から来たと?」
「うむ。 そして水晶は、余りにも距離がかけ離れているが故に探知範囲外となり、正しく動作しなかったのじゃろう」

 オスマンは余りにも大胆な仮説を述べる。
 突拍子も無い話に、ジュディ以下5人は眼を白黒させて困惑している。辛うじてコルベールだけが、話しについて行けている状態だ。
 オスマンは片手を挙げて落ち着くように、と言う。

「まあ、これはあくまでも仮説じゃ。
 本当の事はまだ何も分かっておらんのじゃから、心に留めておくだけでよい。
 それよりも重要な事は、ジュディちゃんの処遇じゃ。行くべき方向も、帰るべき手段もサッパリ分からんのじゃからのう」
「ホントウだ、どうしよう……?」

 不安げに身を捩るジュディを見て、成り行きを見守っていたルイズの罪悪感が膨れ上がる。
 呼び出してしまったのは自分なのだから、自分が責任を取らなくては。と、決心して進言しようとする。
 だが、ソレよりも一足早くコルベールが発言する。

「如何するのです、オールド・オスマン?
 と、取り敢えずは聞いておきましょう。その顔は、もうとっくに如何するかは決めているのでしょう?」
「面白くないのう、お主。まあ如何するのかはもう決まっておる。
 ジュディちゃんや、さっきも言ったがワシが何とかして上げよう。帰る方法が見つかるまでこの学院に留まればよろしい」
「でも…… そんな事してご迷惑じゃないですか?」
「子供が遠慮するもんじゃない。爺に任せておきなさい。
 なんなら、此処に居る間は生徒になってみるかね?」
「オールド・オスマン、彼女は話を聞く限り平民です。此処は伝統ある魔法学院ではないのですか? それに彼女の使うファミリアの件もあります」

 発言をしたのは秘書のロングビル。オスマンの不用意な発言を諫めるために、キツイ言葉を浴びせる。
 だがオスマンは、風に靡く柳のように言葉を軽やかに受け流す。

「お堅いのう、じゃから逝き遅れるんじゃ。平民だと知っているのは此処にいる者だけじゃし、ワシが身元保障人となれば何も問題は無い。
 ファミリアに関してもそうじゃ、黙っとりゃ分かりゃせん」
「しかし、彼女がこちらの魔法を使える様に成るかは分かりません」
「見学する位なら大丈夫じゃよ、本当に生徒になるかどうかは後で決めりゃ良い。
 さて、長話も此処までにしよう。今日はもう休めば宜しい。急いで全部決める必要は無いじゃろ」

 山の向こう側に夕日が沈んでいくのが見える。
 夕映えは、森を鮮やかな朱に染め、燃え盛る炎の如く見せている。窓から差し込んでくる斜陽で部屋の明暗が深まり、夕刻が過ぎ去ろうとしているのを告げている。
 突拍子の無い事の連続で、大人しく立っているしかなかった3人は、漸く話が終わった事に胸を撫で下ろした。
 ジュディはまだ少し不安そうに俯いていたが、不安を振り切るかのように頭を振る。

「おっと、そうじゃ。まだ決める事があったわい。
 ジュディちゃんをドコに泊まらせるかじゃ。寮に部屋は余っておったかのう?」
「そういえばそうですね、失念していました。ミス・ロングビル、寮に部屋が余っているかどうか分かりますか?」
「男子寮なら空いていますが、女子寮は既に満室と成っています」
「そうか…… ならミス・ロングビル、君の部屋に……」
「待って下さい! オールド・オスマン!」
「いきなりどうしたの? ルイズ?」
「私の部屋に泊まらせます。その子を召喚したのは私の責任です。ですから、その位の責任は取らせて下さい。
 何から何まで学院に責任を取ってもらう訳には行きません!」

 ルイズの申し立てにオスマンは、何か眩しいものを見るかのように眼を細める。
 僅かに沈黙が降り、ルイズに一筋の冷や汗が流れる。それも束の間、すぐにオスマンは破顔一笑する。

「ソレだけで責任を果たしたと考えるのは、お門違いじゃぞ?
 だが、良い覚悟じゃミス・ヴァリエール、流石は公爵家の令嬢だと褒めておこう。その心を忘れるでないぞ?
 ジュディちゃん、彼女が部屋に泊めてくれるそうじゃ。お礼を言っておきなさい」
「アリガトウございます、ヴァリエールさん。ヨロシクおねがいします」
「え、ええ…… これは私の責任の取り方なんだから、お礼なんて要らないのよ」
「決まりじゃな。ミス・ロングビル、彼女達を送っていってあげなさい。そうしたら、今日はもうあがってヨロシイ」
「分かりました」

 6つの長い影法師が学院長室から出て行き、扉がバタンと閉まる。 
 残ったコルベールとオスマンは互いに何も喋らず、暫し部屋に静寂が訪れる。
 おもむろにオスマンはコルベールに話しかけた。

「のう、ミスタ・コルベール、君は五行の説明を聞いてどう思った?」
「はっ、言っても宜しいので?」
「此処にはワシと君しかおらん。そしてワシは君の意見が聞きたい」
「わかりました、私の考えを述べましょう……」



 今回の成長。
 ルイズは、立ち直りL1を手に入れました。
 ジュディは、アストライオスがL2に成長しました。


 第2話 -了-



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