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虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-13


「目が覚めたかね。ミス・ヴァリエール」
ルイズが目を覚ますと、オールド・オスマンが居た。
なぜ自分の部屋にオスマンが居るのか、ルイズは辺りを見渡してその考えが間違いであることに気づく。
ここは自分の部屋ではない。
ルイズの寝ているベッドに並ぶように、3つのベッドが配置されている。
ルイズの隣のベッドにはキュルケ。そしてその隣のベッドにはタバサが居る。2人ともベッドに腰掛け、オスマンと話していたようだ。
室内の調度は質素のものばかり。棚の中にはルイズには得体の知れない壜が並んでいる。
そこは学院の医務室だった。
「大体の話はミス・タバサから聞かせてもらったわい。ご苦労じゃったの」
そう言うとオスマンは椅子から立ち上がる。そしてルイズに向けて深々と頭を下げた。
「済まない。生徒であるお主にとんでもない仕事を任せてしまったようじゃ」
オスマンのその態度にルイズは目を丸くする。
目上の者から頭を下げられることなどそうないことだ。
「あ、頭を上げてください! あれは……私から志願したことですし……」
ルイズはそう言うが、
「いや、何であろうと生徒にこんな危険な仕事を任せるべきではなかった。もしこれでお主らを死なせてしまったらと思うと、いくら頭を下げても足りんわい」
オスマンはそう言って、その態度を変えようとはしなかった。


ルイズは、あの後どうやって帰ってきたのかを思い返す。


シュラムッフェンの笑い声が納まってからも、当然火は燃え続ける。
大規模に燃え広がったら事なので、その後、必死に周りの木を切り倒していった。キュルケもタバサも魔力は底を突いてしまったので、シルフィードのブレスで倒していく。
やがてシルフィードが恨みがましい声を上げ始めたころ、空から大粒の雨が降り始めた。
モッカニアの『本』の中で、雨乞いに火を焚きあげるのには科学的な根拠があるという情報があったが、その理屈までは覚えていない。
科学というものはルイズにとっていまいち馴染みが薄く、聞いても理解できないことが多い。
自動車や飛行機などが、魔法的な力は一切関係なく、あくまで道具の延長なのだと言われても、ルイズには魔法にしか見えない。
もっとも、バントーラ図書館には魔導庁と科学庁が共同開発したという飛行機もあるので、魔法を使った飛行機がないわけではないのだが。
ともあれ、雨が降り出したことによって火は一気にその勢いを弱めた。ルイズたちも作業を止め、木立の下で一休みする。
しかし、忙しくしているうちは考えずにいられたことだが、そうでなくなると途端に思い出すことがある。
体の痛みと、心の傷み。
初めて人を殺した。
率直な感想は、「気持ち悪い」。
手に感触が残るわけでもなければ、そもそもルイズは手を下してもいない。ルイズはただ見ていただけだった。
しかし、殺すという意思はあった。その意思のもとフーケは死んだ。
「気にすることはない」
タバサがルイズとキュルケに言う。
殺さなければ死ぬのはこちらだった。フーケは悪人だった。犯罪者だった。
だからいちいち気に病むことはない。
殺さなければ殺される。しかも殺されることには正当性がなく、殺すことには正当性がある。そして殺す方法もある。
そこで殺さないのは聖人だけだ。
聖人になりたかったのなら思う存分に気に病めばいい。そうでないのなら程々にしておかないと、次に進めない。
タバサはそう言った。
結局、己の生き方として、あの状況に陥ってまで人を殺すことを許容できないのかということだ。
そしてルイズは己に非があるわけでもなく、非は相手にありような状況で、黙って殺されるのを良しとは出来ない。
ならば、フーケを殺したという行為の是非、善悪についてはいつまでも気に病んでいても仕様がない。
己の生き方と法。そのどちらにも反していないのだ。
生理的な嫌悪感は簡単に拭えなくても、その行動の是非を悩んで引きずるのは建設的ではない。
だからルイズは、事の善悪についてはもう考えまい、と思う。
ただ考えてしまうのは、殺さなければ殺される、そんな状況に陥ったのは己が弱いからではないかということ。
この場にいたのが自分ではなく、モッカニアだったなら? ハミュッツだったなら? マットアラストだったなら? イレイアだったなら? ユキゾナだったなら?
フーケを殺さずに無力化することも出来るだろう。もっとも、ハミュッツなら確実に殺しているとは思うが。
殺したくなければ強くなればいい。
だが。
だが、モッカニアは強くなってしまったが故にその心を病んだ。
自分がその気になれば周りの人間をいつでも簡単に殺せる存在なんだと自覚してしまったが故に、人と接することができなくなった。
そして、モッカニアは人と接することを避け、図書館の地下に広がる迷宮の中で暮らすようになった。
フーケを殺して、ルイズは気づいた。
自分はもう、シエスタのことなら容易く殺せるような力を持っている。そして、このまま強くなって、モッカニアの半分どころか、10分の1の力も手に入れれば、今、同じ木の下で雨をよけるキュルケもタバサも容易く殺せるようになる。
「強いって、力って、何なのかしらね」
ルイズはポツリとつぶやく。
ルイズはノロティ・マルチェのことを思い出す。
シュラムッフェンでキャベツの千切りしかできなかった司書見習い。
モッカニアと直接会話をしたことはほぼ皆無。
ただ一度、モッカニアの最後の戦いが始まる少し前に接する機会があった。モッカニアの部屋にあってはいけないストーブを持ってきたノロティが、モッカニアの部屋の触ってはいけないものに触ろうとした。それをモッカニアが追い払おうとした。
ただそれだけのやり取り。
しかし、裏を返せばほとんど会話らしい会話をしたこともないモッカニアのためにストーブを持ってきてくれたのだ。
ノロティはやはり心優しい娘なのだろう。
モッカニアは迷宮に籠ってからも他の司書たちと全く接点がなくなったわけではない。
モッカニアを気にして時々顔を見せにくる者がいる。
また、迷宮内での業務。迷宮内の書庫に『本』を配架するなどのことは迷宮内に籠るようになった後もやっているので、その時、他の司書と接することもある。
その時にどれほどの会話があるわけではないが、武装司書の一員として知っておくべき情報は報告される。もっとも。モッカニアは右から左に聞き流していたが。
ノロティのことは、司書見習いになった時点でその名は耳に入っていたが、「怪物事件」と呼ばれる戦いの顛末を聞かされた時、その人となりも聞いている。
武装司書になりたい。だが人は殺したくない。
そう言っていたそうだ。
戦うことが仕事の武装司書になれば、いずれ人を殺さなければならない時が来る。
司書養成所時代から、考えを改めないのなら武装司書を目指すのは諦めた方がいいと諭され続けてきたらしい。
それでも彼女は人を殺さずに戦いを終結させるだけの力を手に入れようと努力し続けた。
「簡単に人を殺せてしまうから」という理由で武器を持つことを拒み素手という圧倒的に不利な戦い方ながら、終には見習いの地位にまで至った。
武装司書になれてればいい。ルイズは心からそう思う。
もし彼女が人を殺すことなく、一人前の武装司書としてやっていくことができたなら。
今のルイズの思いに答えをくれるに違いない。
そしてもし、モッカニアが武装司書になる前に彼女が武装司書になっていたなら、モッカニアに道を示してくれたに違いない。
だが、それは叶わない。
ルイズはノロティと話すことなどできないし、モッカニアの人生は『本』に記されたとおりだ。
それでも、ノロティが武装司書になれていたなら、それはきっと素晴らしいことなのだ。


いつの間にか火はほとんど消えていた。
まだ所々燻っているところもあるが、まだ雨はやみそうにもないし、いずれ消えるだろう。
ルイズたちは焼け野原のちょうど中心のあたりへシルフィードで舞い降りる。
それはすぐに見つかった。
黒く焼けた人型がすぐに目に入った。そして嫌なにおいが鼻を突く。
ルイズは思わず胃の中のものを吐き出しそうになるが、必死にこらえる。
黙ってルイズは己のマントをフーケの遺体に被せた。だがそれはもともとルイズの背丈ほどもないものだった上に、傷の手当てをした時に切り裂いてしまったもの。
フーケの全身を覆うにはまるで足りない。
それを見て、キュルケも己のマントをはずしてフーケに被せる。続いてタバサもそれに倣う。
3人ともその後はなにも言葉を発さず、シュラムッフェンを回収すると、シルフィードに乗って学院に戻って行った。
シュラムッフェンは最初から最後まで、ルイズが折れている腕で抱えるようにして持っていた。
学院につくと、コルベールが慌てて飛び出してきた。
その辺りからルイズの意識は朦朧としていたが、いつの間にかやってきたオスマンにシュラムッフェンを手渡すまでは、何とか意識の手綱を離さずにいた。


そこから先の記憶はない。
オスマンの言によれば、その後すぐに医務室へと運ばれ治療が施されたそうだ。
キュルケもルイズが意識を失ったすぐ後に、同じように意識を失ったらしい。
タバサだけは最後まで意識を失わず、また、ルイズとキュルケの治療が終わるまで自分に人手を割く必要はないと言って、治療を受けずにいたらしい。
そして、その間にオスマンに事の顛末を説明したという。
言われるまでは気づかなかったが、すでに丸一日が経過していた。
昨日のうちにフーケの遺体は回収したらしい。
今日の昼ごろには官憲がフーケの遺体回収と、事情を聴きに来たそうだが、これもタバサとオスマンで応対した。
本来なら、ルイズたちからも事情を聞くところだが、身元もしっかりしているので、何か新しい事実がない限りは特に日を改めて聴取する必要はないとのこと。
官憲には、シュラムッフェンの力のことは言わなかったそうだ。
今は戦いの翌日の夕暮れ時である。
キュルケはルイズが目覚める1時間程度前に目を覚ましたらしい。
そして、オスマンから謝罪といくつかの質問を受けていたところにルイズが目を覚ました。


「ミス・ロ……フーケの部屋からの、いろいろ見つかっての。宝物庫の目録を作るため……にしては多すぎる宝物の資料などな。お主らの行動の正当性は間違いなく証明されるじゃろうからその辺りは気にする必要はない」
オスマンが言うと、ルイズの表情が陰鬱なものになる。
「私が殺しました。……私がもっと強ければ生きて捕まえることもできたのに……」
ルイズの言葉にオスマンの表情もいっそう神妙なものになる。
「すまないのう。生徒に辛い仕事をさせてしまった……」
「それで、まだ傷も癒えぬうちに悪いんじゃがのう。お主が一番蜘蛛の魔剣、シュラムッフェンと言うたか、について詳しい、というよりもお主だけが蜘蛛の魔剣のことを知っていたということで、いくつか聞きたいことがあるんじゃが」
オスマンが話題を変える。
だがそれは、ルイズにとっては別の意味で辛い話題。
「オールド・オスマン。アレは今どこに?」
ルイズが尋ねる。
「宝物庫に戻しておいたが?」
オスマンが、ルイズの言葉の意図を尋ねる。
「アレを処分することはできませんか?」
「ふむ?」
「アレは幾らなんでも簡単に人を殺せ過ぎます。……あってはならない物だと思います」
「確かにのう……」
オスマンが頷く。タバサから聞いたシュラムッフェンの力は、弱点もいくつかあるがそれでも強すぎる。
「しかしのう……知っていると思うが、一応所有権は王室にあるんじゃ。わしの一存で破棄することなどできんのじゃ」
「ならば……」
ルイズは考える。
「ならば、誰も使うことのないように今まで以上に、厳重に保管していただけますか」
まだオスマンたちに説明していないことだが、蜘蛛の魔剣は破壊することはできない。追憶の戦器と呼ばれるモッカニアの世界の創造神が創ったものには常世の呪いが掛かっており、それを破壊するにはその神を超える力が必要となる。
破壊できないからといってどこか人の立ち入らない場所に捨てたとしても、誰かが見つけてしまうかもしれない。ならば、厳重に管理しておいた方が良いかもしれない。
「厳重に……か。実際に盗まれてしまった今言っても虚しいだけじゃが、今よりより厳重となるとのう……」
「宝物庫をより強固なものにするのが不可能なら、違うものを強化すればいいじゃないですか」
「違うものとな」
「箱です。シュラムッフェンを泥にでも沈めて、泥ごと鋼鉄にでも錬金してください。それが箱です。そしてそれに宝物庫の壁と同等の固定化と、さらに硬化でもかけましょう」
ルイズの提案。それは事実上シュラムッフェンの封印だった。
「学院の宝物庫に入ってさえいれば体裁はつくのです。誰にも使わせないのならそれでいいじゃないですか」

オスマンは結局その申し出を飲んだ。
大げさすぎやしないかとも思ったが、目の前でその猛威を見た者の意見は無視できない。キュルケとタバサは少し惜しそうにしていたが、それだけ厳重に扱う必要があるという点には異論はないようだ。
オスマンとしても、元より使ってよいものだとは思っていなかったため、ルイズの意見を承認した。
それはさておき、とオスマンは頭を切り替える。
「ところでのう。お主はどこでアレの情報を手に入れたんじゃ?」
きたか。ルイズは誰にも聞こえないような舌打ちをする。
あの時、シュラムッフェンを使ってしまった以上、聞かれることは避けられない。
しかし、だからと言って適当な嘘は許されない。
30年間のうちどれほどの期間費やしたかは知らないが、オスマンも蜘蛛の魔剣のことを知らべたはずだ。適当な誤魔化しはむしろ追及を呼ぶ。
「さあ? 覚えておりませんわ」
だからしらばっくれる。
「覚えてない、じゃと?」
「ええ。本で読んだのかもしれませんし、もしかしたら夢ででも見たのかもしれませんわ」
勿論、そんなものをオスマンが信じるわけはないだろう。
これは拒絶の意思の表明。
話すつもりはない。
そもそもルイズが何かを知っているからといってそれを報告する義務があるわけではない。
蜘蛛の魔剣は一度も王室の手に渡ることなく学院の宝物庫に納められた。その成り行きから、王室は蜘蛛の魔剣に対する調査をどこにも命じていないのだ。
だから話さない。
いくらオスマンが話せと言ったところで、それはオスマンの私的な命令でしかないのだ。
そもそも、オスマンは危険すぎるという理由でシュラムッフェンを王室に引き渡さなかったのだ。
ルイズはシュラムッフェンの封印を進言した。ならば、この拒絶もシュラムッフェンを世に出さない為。そう受け取ることもできる。
シュラムッフェンの力を欲しいと思う人間でなければ、拒絶するルイズに無理に言わせようとは思わぬだろう。
「ふむ。夢なら他の誰にも知られることはない。そう考えてよいかの?」
その言葉の裏で、ルイズが黙ってさえいれば他に情報を得ることはないと思っていいのかと聞いている。
「ええ。人の見た夢の話なんてどうでもいい話の筆頭ではありませんか。今後そんな話題だけは人にしないように気をつけようと思いますわ」
ルイズは慇懃に言った。
「うむ。怪我人にこれ以上話に付き合わせるわけにはいかんの。儂はここらで退散するとしようかの」
オスマンはそう言って立ち上がった。
「魔法で骨はつないだし、傷は塞いだとはいえ暫くは安静にしておくように。秘薬代は当然学院もちじゃから心配はいらんぞ」
オスマンは言いながら扉へと向かう。
そしてドアノブに手をかけたところで、ふと気がついたように、物のついでのように言った。
「そう言えばミス・ヴァリエール。その夢はいつごろから見るようになったのかのう。使い魔を召喚したあたりだったりせんかい?」
ルイズは言葉に詰まった。
少し詰まった挙句、
「覚えていませんわ」
そう答える。
「いや。使い魔と視界を共有するように夢に使い魔の思考が流れ込んだり、っつう話も聴いたことがあるでのう。ちょっと思いついただけじゃ。覚えてないならそれでかまわん」
オスマンはそう言うと部屋を後にした。

「不意討ちには弱いようじゃの」
オスマンは廊下で独りごつ。
先程のルイズは、殆ど「そうだ」と言っているようなものだ。
使い魔に関して、何か隠し事をしているのは間違いないだろう。
使い魔の召喚によってシュラムッフェンの知識を得た。それが何を意味しているのか。
オスマンはそれこそガンダールヴの証左ではないかと考えていた。
過去のガンダールヴが使った武器の情報が、ルーンを通じて流れ込んできたのではないか。そう仮定すれば筋は通る。
神の左手ガンダールヴ。またの名を神の盾。
あの自動防御こそブリミルを守ったという力なのかもしれない。
しかし、あの使い魔がガンダールヴだという前提に引きずられた考えという感も拭えない。
そんなことを思いつつ歩いていると、前方からコルベールがやってきた。
「ただいま戻りました。オールド・オスマン」
コルベールはオスマンの命で、ロングビルとフーケの繋がりを調べていた。
学院の仕事ではないが、出来るなら王宮に先んじて情報を得ておきたい。
「ミス・ロングビルと思しき人物が、かなりの額をアルビオンの方面へ送金していたという情報を得ました。しかも、学院の秘書になる前。酒場の給仕でしかなかったころから」
コルベールがそう報告する。
ルイズたちの言葉を疑っていたわけではないが、やはりロングビルがフーケに間違いないようだ。
自分が秘書として招きいれ、そして仕事も優秀だっただけに、なんとも言えない気持ちになる。
オスマンは何も言わずに歩を進める。コルベールがその後ろについていく。
「のうミスタ。聞いてくれんかね」
不意にオスマンが口を開く。コルベールのほうを見返ることもなく、前を向いたまま。
「あの娘たち。3人が3人とも『自分がフーケを殺した』なんて言いおる……」
コルベールから表情は窺うことはできないが、その背中はどこか悲しげだ。
「あんな娘っ子にそんなことを言わせてしまうなんてのう……。儂は教育者失格じゃわい」
「いや、私こそ……、私が行っていれば……」
コルベールが言うが、
「いや、お主には戦いの為に火を使わないという誓いがある。その誓いは大切にせい」
オスマンはコルベールを諌める諌める。
「兎角この世はままならぬのう」


そのころデルフリンガーは、一人ルイズの部屋にいた。
「なんかどこかで俺の地位が脅かされてる気がするな……」
その呟きを聞くものは誰もいなかった。
「暇だな」


オスマンが出て行くと部屋の中は沈黙に包まれた。
ルイズはキュルケとタバサを見る。
いまいち居心地が悪い。
そもそもキュルケのことは今まで敵としか見ていなかったし、タバサに至っては殆ど接点などなかった。
それが協力し合い、おなじ死線を潜り抜けた。
学院の医務室という場所は、フーケと戦った森のような非日常ではないが、自室や教室といった学院のほかの場所に比べると日常とは言いがたい。
任務中のテンションを引きずるのも不自然だし、だからといって普段通り振る舞うのもおかしな塩梅だ。
「例の粉挽きの遺書……あれには大きな嘘があるのよね」
ルイズは黙考の末、そんな話題をキュルケたちに振る。
それは長く続いた非日常を締めくくるための話題。
「嘘?」
キュルケが聞き返す。
「ええ。村一つ全滅させる。シュラムッフェンの力をどう開放したところで、そんなこと不可能だもの」
キュルケはその言葉の意味を考える。そして理解する。
「確かにそうね。斬りたいものを斬るか、攻撃してくるものを斬るか。だものね。村人全員を斬りたいと思っていたか、村人全員が襲い掛かってこない限り、全滅は有り得ないわね」
「でもね、自動防御じゃ皆殺しは起こらないのよ。周りがばたばた死んでいく中、誰も逃げ出さないなんて有り得ないもの」
ルイズはそう言うと言葉を切り、少しの間をおく。
「……始まりは自動防御だったかもしれない。でもその後、粉挽きは明確な殺意を持ってシュラムッフェンを振ったのよ。逃げる村人を追いかけて。そうでないと皆殺しは起こらない」
ルイズはそう締めくくった。
それが30年前の、事の発端の真相。
遺書にはシュラムッフェンが暴走したように記されていたが、真実は粉挽きの殺意が暴走したのだ。
所詮シュラムッフェンは剣に過ぎない。剣とは力。力を持っていてもどう使うかはまた別の話。
力がなければ出来ないこと、起きないこと。しかし、力があってもその力を使わないことも出来る。
粉挽きは使ったのだ。俄かに手に入れてしまったその力を。
「でも、村全員を殺したいほど憎むなんて、その村と粉挽きの間に何があったのかしらね?」
キュルケがそんな疑問を口にする。
「昔、本で読んだけど、粉挽きって仕事はどうしても村から嫌われてしまう仕事なんだそうよ」
ルイズが言う。
「何の本よ、それ。村の中で粉挽きがいじめられる話?」
「そんなひどい話読まないわよ! ……なんか、行商人が人間に化けた狼と旅する話」
ルイズは学院に入る前に読んだその本を思い出す。
「変な話ねぇ。面白いの?」
キュルケが尋ねるが、それに答えたのはルイズではなかった。
「……面白い。わっちも昔読んだ」
タバサが答えた。読んだことがあるらしい。
「わっち?」
キュルケが首を傾げる。
「わっち」
タバサが少し顔を赤くしながら言う。
「わっち」
ルイズもそう言うと、少し楽しそうに笑った。


ルイズは、非日常を締めくくり、今まで通りの日常に戻るために、事の発端の真相の話をした。
その話で非日常はおしまい。少しずつ、今までの日常が戻ってくるはずだった。
しかし、ルイズは思い違いをしていた。
今まで通りになるはずなどなかった。
死線を潜り抜けた前と後で、同じ場所に戻ってくるわけがなかった。
ともに死線を潜り抜けた者を、敵としか見ないなどできるわけもないし、ろくに会話もしないただのクラスメイトに戻るわけもなかった。 
学院に通い始めて1年。
ルイズに初めて貴族の友人が出来た。



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