あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第5話


 第5話

 二つの月の一つ、赤の月が照らす屋敷の中庭を、わたしは逃げ回っていた。
「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの? ルイズ! まだお説教は終わってませんよ!」
 迷宮のような植え込みの陰に隠れている時に聞こえてきた追っ手の声に、これは夢なのだと私、小山内梢子は理解する。
「ルイズお嬢様は難儀だねえ」
「まったくだ。上の2人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」
 心無い言葉に歯噛みし、使用人たちが植え込みを捜し始めたので、わたしはそこから逃げ出した。
 そうしてたどり着いたのは、うらぶれた中庭にある池に浮かぶ一艘の小船。
 わたしは、小船の中に忍び込むと用意してあった毛布に潜り込む。その途中、水面に映ったわたしの姿は、やはりルイズで、今より幼かった。
 そうしているうちに、中庭の島にかかる霧の中から、つばの広い羽根つき帽子を被りマントを羽織った少年が現れた。
「泣いているのかい? ルイズ」
 優しい声にわたしは胸を熱くする。
「子爵さま、いらしてたの?」
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」
 子爵の言葉にわたしは頬を染めて俯く。
「まあ! いけない人ですわ。子爵さま……」
「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」
 芝居がかった言葉に、わたしは首をふって、まだ幼い自分にはよくわからないのだと答えた。
 そんなわたしに、子爵は帽子の下でにこりと笑い手を差し伸べてくる。
「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」
「でも……」
「また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう」
 島の岸辺から小船に差し伸べられた大きな手に、わたしは頷き立ち上がり……。

「人の初恋なんて体感するものじゃないわよね」
 ぼそりと呟いた自分の声に目を覚ました私は、上体を起こし窓から射し込む二つの月の光を見て。
「寝なおそう」
 もう一度、布団に潜り込んだ。
 けれど、一度覚めた頭は、なかなか眠りが訪れなくて、ようやくうとうとし始めた頃にドタドタと廊下を走る音がして、ルイズが部屋に駆け込んできた。
「なんで、あんたなのよ!」
「はあ?」
「なんで、あんたがでてくるのよ!」
 なんのことだか分からない私にルイズは説明もなく怒り続けて、その声を子守唄に私はもう一度眠りに落ちた。

 私がこの世界に来て三週間もの日々が過ぎていた。
 それだけいれば、ここの生活にも慣れるわけで、今ではメイド仕事をしながら使い魔としてルイズに付き従うこともできるようになっていた。
 どちらかというと、ルイズが私について回っていたような気もするけど、口にするとルイズが怒る。
 もちろん。まだまだ元の世界に帰ることをあきらめてはいないのだけど、その辺りは学院長に任せてある。
 そんなわけで、授業を受けるルイズに付いて教室に入るわけだけど。
 直前までメイド仕事をしていた私は着替えていなくて、常にデルフを携帯しているものだから、背の低い少女に付き従う、身長ほどもある長剣を背負ったメイドという図が出来上がってしまう。
 何故か『メイドさんと大きな剣』という言葉が頭に浮かんだ。意味はわからないけれど。
 今日はギトーという長髪で黒いマントを羽織った、すぐに怒る人気のない教師の授業だった。
 大人気もないようで、自分が得意とする風の系統魔法こそが最強であると主張し、火が最強だろうと答えるキュルケに魔法を使わせ、その魔法ごとキュルケを吹き飛ばしさえした。
 更に、風が最強であると証明しようとギトー氏が何かの呪文を唱えようとしたところで、教室の扉を開けてコルベール先生が入ってきた。
 最初、私はその人がコルベール先生だとはわからなかった。
 頭には、ロールした金髪のカツラをかぶりローブはレースの飾りや刺繍。仮装?
「あややや、ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ!」
「授業中です」
 ギトー氏が睨むけど、コルベール先生は意に介さない。
「おっほん。今日の授業はすべて中止であります!」
 重々しい調子で告げる話によると、この国のお姫様が他の国に訪問した帰りに学院に寄るので、歓迎式典の準備をするから今日の授業は中止にするらしい。
 その話の間にコルベール先生のカツラがとれたりタバサが先生の頭禿げ上がった頭を指差して「滑りやすい」と指摘して教室を笑いの渦に巻き込んだけど、その辺りの話はしなくていいだろう。
 私も一緒に笑ってしまった事を誤魔化そうと思っているとかは関係なく。
 私から見て右手側の敵が上段から振り下ろした木剣を、手にした木刀で受ける。左手側の敵がその隙を狙って突いてくる、槍に見立てた木棍を、剣を受け流しながら後ろに下がることで避けた。
 二対一のそれは、一対一が原則の剣道に慣れた私には、相性の悪い戦いであり、楽に勝てた事のない試合なのだけれど。
「動きが鈍い!」
 一息に踏み込み、まだ剣を振り下ろしたままの右手側の敵の胴を薙ぎ、慌てて突いてくる左手側の相手の棍を木刀で逸らし、返す刀で面を打つ。
 これで、おしまい。私の勝利だけど、そこに高揚などなく。
「ちょっと、真面目にやってよ! ギーシュ」
 叫んだ先には、心ここにあらずといった感じで、ぼんやりとこちらを見ている金髪の少年が1人。
 三週間もいれば交友関係も広がるし、欲しい物もいくつかは手に入る。ちなみに『我らのメイド』とは呼ばれていない。意味は無いけど。
 私は、一週間ほど前からギーシュに鍛錬に付き合ってもらっている。フーケのときのような事件はもう二度とごめんだけど、ないとは限らない。
 だから、一応は顔見知りであるギーシュに頼み、彼の方もゴーレムのコントロールの修練の必要があるという理由で快く受け入れてくれた。代わりに、モンモラシーと、よりを戻すのに協力してほしいと頼まれたけど。
 私が真剣を使わないのは、ただでさえ<<鬼>>の身体能力を持つ私がガンダールヴのルーンが発動させてしまうと、ギーシュのゴーレム『ワルキューレ』では七体同時に相手をしてもらっても練習にならないからで、
『ワルキューレ』に木剣を持ってもらっているのは、この身の何割かが<<鬼>>だとはいえ青銅の拳で殴られたりしたら私の体がもたないからだ。
 最初の日はデルフリンガー以外にルーンが反応するとは思わなくて、木刀ではなくギーシュの作った剣を使ってみて、『ワルキューレ』七体がまるで相手にならなくて困ったのだけど、それはさておき。
 この一週間の戦績は、一対一なら私の全勝。二対一なら今日で五勝二敗で勝ち越している。とはいえ楽勝とは言えない。<<鬼>>の身体能力がなければ二対一での勝利は一度もなかっただろう。
 だけど、今日の試合は私の楽勝で、何故簡単に勝利したのかと言えば。
「無理無理、今の坊主の頭はお姫様の事でいっぱいだぜ!」
 楽しげに叫ぶのは、少し離れた地面に突き立てられた片刃のインテリジェンスソード、デルフリンガー。
 六千年も生きているのなら、なにかしらのアドバイスをくれるかと鞘から抜いてあるのだけど、役に立つことを言われたことは一度もない。
「まったく」
 頭痛をこらえるようにギーシュから視線を少し横にずらすと。そこには、やはりぼんやりと焦点の定まらない眼で夕暮れの空を見つめているルイズがいる。



 この国の王女一行が学院の門をくぐったのは、今日の昼過ぎのことである。
 正門の先、本塔の玄関で学院長の出迎えを受けて馬車から降りたのは、髪も髭も白くなった老人に手を引かれた美しい少女。
 白髪の老人がこの国の政務を取り仕切るマザリーニ枢機卿であり、少女がアンリエッタ王女だとは、その時に知った。
 多くの生徒や教師が王女の美しさを褒め称える中、キュルケが自分の方が美人じゃないかと不満を漏らしたが、残念ながら同意してくれるのは少数派だっただろう。
 もちろんキュルケが美人だという事実を否定する気はないのだけれど。
 そんな中、ルイズは王女より馬車の周囲を固める王室直属の近衛隊であるという魔法衛視隊の1人を見つめていた。
 上半身が鷲、下半身が獅子という不可思議な姿の幻獣に騎乗し、胸にその幻獣をかたどった刺繍が入った黒いマントを纏い羽根帽子を被った口ひげの青年である。
 その時、理由もなくその青年が今朝の夢に出てきた子爵だと私は理解した。
 気がついたら、キュルケもルイズと同じような表情で子爵を見つめていて、その隣で唯一人王女一行に興味を示さずに座って本を読んでいたタバサがふと私を見て「同類?」なんて呟いたけど、それはどうでもいいだろう。
 なんにしろ、それからずっとルイズは、ぼけっとしていて。ギーシュの方もモンモラシーが怒って去っていっても気づかないほどの重傷で。
 集中力のないギーシュに付き合ってもらっても鍛錬の意味はなく。
「今日はもう終わりにしたほうがよさそうね」
 切り上げることにした。
「で? 今日はいつものはやらないでいいの?」
 いつものとは、ギーシュの作る剣でガンダールヴのルーンを発動させてのワルキューレとの七対一の試合だ。
 こちらはギーシュが七体のゴーレムを同時に操るための鍛錬なので、ルーンなしの私では役に立たない。もちろん、ルーンを発動させた私が攻撃を繰り出せばすぐに勝負が決まってしまうので、こちらは防御と回避に専念する。
 何故、デルフリンガーを使わないのかといえば、私が<<剣>>に耐性があるとはいえ、それと同種の剣をあまり使いたくなかったからだ。
 最初、その事をデルフに話した時「耐性? なんだそりゃ!」と答えが返ってきた。
 なんでも、ガンダールヴのルーンにはデルフリンガーを制御する能力があって、だからこそ私にしかデルフリンガーは使いこなせないのだという。
 元々<<剣>>に耐性がある上にルーンまであれば、剣に飲まれる心配はまずない。だから自分を使えとデルフは言う。
 だけど、やはり<<剣>>の根源が何かを知っている私にはむやみやたらと使う気にはならず、結局鍛錬ではギーシュに作ってもらう剣を使っているのだった。
 そういえば、この修練を始めてから気づいたというか思い出したことなのだけれど、<<剣>>にはただそこにあるだけで、普通の人なら昏倒し鍛えた人間でも体調を崩させる力がある。聞いた話だけど死んだ人もいるらしい。
 ある程度の耐性をもつ私でもルーンの力がなければ体が少し重くなるのに、この世界の住人はまったく影響を受けない。
 なら、この世界の住人は<<剣>>に耐性があるのかというとそうでもなく、実際ルイズは一度『破滅の剣』を使ったときあっさりと剣に飲まれかけた。
 それが何を意味するのか今の私にはわからないのだけれど。



 そして、その日の夜。
 何を言っても生返事しかしないギーシュを置いて、同じような状態のルイズを部屋に連れ帰って着替えさせて、もう自分の部屋に戻ろうと部屋を出ようとしたところで、扉をノックする音が聞こえた。
 一応ルイズの了解を取ってから開いた扉の向こうには、真っ黒な頭巾をかぶった少女がいて、ルイズの了解を得ずに部屋に入ると後ろ手に扉を閉じた。
「……あなたは?」
 ルイズが上げた驚いた声に、少女は口元に指を立てて杖を取り出し呪文を唱える。
「ディティクトマジック?」
 ルイズの問いに少女は頷き、部屋に聞き耳を立てる魔法や覗き窓がないかを確認し、そして頭巾を取った。
「姫殿下!」
 慌てて膝を突くルイズに、トリステイン王女アンリエッタはにっこりと笑って言った。
「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」

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