あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔-11


 土くれのフーケ襲撃事件から、既に半月が過ぎようとしていた。
 舞踏会の翌日からギュスターヴを待ち受けていたのは、厨房以下奉公平民衆からの惜しみない賞賛の声だった。
特に懇意にしてくれた料理長マルトーは、顔を真っ赤にして喜んでくれた。
「すっげぇじゃねぇか!ギュス!貴族が息巻いて追いかけてたような盗賊を捕まえるなんてよ!」
 朝食をもらおうと厨房にやってきた瞬間、歓声とともに駆け寄ってきたマルトーの声と抱擁に驚いた。ギュスターヴは気持ち逸るマルトーを一度なだめて話す。
「捕まえたっていっても、俺は手伝っただけさ。一応、使い魔だからな」
「何言ってやがる。前にも貴族に喧嘩売られて返り討ちにしてたじゃないか」
「あれもまぁ、まぐれみたいなものさ。魔法ってどんなものかわからなかったし」
 マルトーの言葉にあくまで謙虚に答えるギュスターヴだったが、マルトーの脳裏ではどうやら別の解釈で刻まれたらしい。
マルトーは振り返って厨房を見渡すようにして声を張った。
「お前達、聞いたか!ギュスは俺らと同じ平民だが、貴族にも負けねぇくらい強い!だのに手前を自慢したりしねぇ!見習えよ!」
「おっす!」
 マルトーの言葉尻にくっついてマルトーの弟子達が応える。
 ギュスターヴがこそばゆい気持ちを味わっていると、やはりマルトーがギュスターヴを引いて食堂のテーブルに着かせた。そこには他のテーブルとは違い、一品だけ、
貴族向けに出されるメニューにも負けない彩りが盛られた皿が置かれていた。
「ギュス。これは俺からのプレゼントだ。マルトー特製ガリア牛のテールスープよ」
 魔法学院の食を一手に引き受けるマルトーが、食堂に通さない雑肉の中から最も美味と考えているテール部分を選び、一晩煮込んで作った極上のスープである。
テールから溶け出した旨みが一緒に煮込まれた野菜のエキスと組み合わされ、スープの水面に映る様だ。
 ギュスターヴとしては嬉しいものの、困惑を隠しきれない。
「マルトー。気持ちはとても嬉しいが、俺一人でこれを食べるのは忍びないよ。他の皆はいつものメニューじゃないか」
「ギュ~ス、だから言ってるだろう?これは俺からお前への贈り物よ。お前さんは貴族様のせいで何処とも知れねぇところからこんな場所に呼ばれちまったくせに、
俺らでも出来ないような大手柄を取ったんだぜ。それが、俺にとっては何につけても嬉しいのよ。だからよ、あれこれ言わねぇで喰っちまえよ!」
 バンバンとギュスターヴの背中を職人の掌で叩くマルトー。その表情は快晴のようである。周りに座る厨房の皆も同じように、ギュスターヴを見ていた。
 ギュスターヴはスプーンを取って、スープから掬った。解けたテール肉とスープを盛り、口に入れた。
「…どうよ」
 マルトーはギュスターヴの言葉を待った。料理人としての誇りを賭けた一皿である。
 ギュスターヴは口の中で柔らかな肉とスープを良く味わってから、ゆっくりと嚥下した。外目に見ても判るほど。その間の沈黙が、マルトーには長く感じられる。
「……美味い。とても美味いよ。こんな美味いスープは初めてだ。こんなご馳走もらって本当にいいのかな」
 微笑み混じりに応えたギュスターヴ。マルトーは感極まって涙交じりに笑った。
「おお!ギュ~ス!その一言が嬉しいぜ!俺はお前にキスしてやるぜ!」
「おいおい…」
 厨房が暖かな空気で満たされた時だった。



『教える者、教えられる者』




 そんな具合に、ギュスターヴは学院に奉公する平民達から『我らの剣』と呼ばれて祭り上げられた。
担ぎ上げられるのは人生経験として慣れた部類とて、本人としては掛け値なしに喜べないのが苦しい。
しかしながら、そんな周囲からの評価が上がっていく割に、ギュスターヴはあくまでルイズの使い魔らしく、ルイズの部屋角に寝泊りし、ルイズを起こしたり、
部屋を掃除してみたりするのが日課だった。初日に窘められて以降、流石にルイズも服をもってこい、服を着せろ、などとは言わなくなった。
言えなくなったというのが正しいかもしれない。

 授業を受けながら、ルイズはぼんやりと己の使い魔である男のことを考えた。
(ギュスターヴ、私の使い魔をやってくれる、って言うのは素直に受け取るわ。とりあえず身の回りの世話はそれなりにするし、護衛としてはこの上ないくらい有能だし。
…でも…持て余すっていうのかしら?歩に合わない感じがしてならないのはどうしてだろう…)
 ルイズは自身が一人前のメイジではない、という自覚から逃げられない。それはギュスターヴの忠勤ぶりを見るほどに深まり、人知れずルイズの苦悩を深めた。
座学はともかく、実践が伴わないのが一層その事実をルイズに刻み付ける。
 知らずに漏れるため息が何度目かになったとき、自分の机の横に誰かが立っているのに気付いた。
「授業はもう終わりましたよ。ミス・ヴァリエール」
「ミスタ・コルベール…」
 講義を済ませ教室の後片付けをしようとしていたコルベールは、授業が終わっても席を立たずにいたルイズに声をかけたのだった。
「質問をしてよろしいでしょうか。ミスタ・コルベール」
「なんでしょう?」
「なぜ私の魔法は失敗しかしないのでしょうか。それに失敗するとなぜ爆発しかしないのでしょうか」
 ルイズの記憶がさかのぼる。この質問は今まで何度、口にしたのだろうかと。たぶん初めは母に、ついで父に、一番上の姉に、二番目の姉に、そして家庭教師にも
したはずだった。
二番目の姉以外は、着せる衣は変わっても、内容は同じだった。『練習が足らない』と。
だからいつからか、そんな質問をするのはやめてしまったのだが、ふと、この一見冴えない教師に問うてみたくなった。
コルベールはそんなルイズを見て、一度呼吸を吐いてから、応えるべく努めた。
「……そうですね。使い慣れない魔法、或いは属性が合わない魔法を唱えれば失敗します。それはメイジの上達過程では必ず起こりうることです」
「しかし私はどの属性の初歩を使おうとも失敗します…」
「判っていますよ。しかしですね、ミス。この世に属性が4つだけ、とは限らないでしょう?いえ、虚無を合せれば、5つですか」
 驚愕がルイズを包む。
「驚かれましたかな?学院に勤める教師ともあろう者が、始祖より受け賜りし魔法が他にあると、六千年の間に未だ知られぬ属性体系が存在するのではないかと、
そんなことを言う」
「え…えぇ…」
「つまり、そういう考え方もあるということですよ。何故と思うなら、前提を捨てなさい。その方が考える選択肢が増えますぞ」
 目元に皺を作ってコルベールは笑いかけた。
「同じ事が失敗の爆発にもいえますぞ。確かに四属性の魔法失敗は、不発動で終わるものです。であるなら、四属性を選択肢から除外するだけです。
そこから先の選択肢は、自分で見つけるものでしょう」
「……見つかるでしょうか」
「それは貴方次第ですぞ。少なくとも、失敗しか起きないからと周囲と壁を作っていた頃よりは、幾分かマシな質問をしてくれて、先生はうれしいですぞ」
 教師らしからぬ毒気が混じった言葉にルイズはたじろぐ。
「…少しは生徒を労わってくれません?」
「いえいえ。向上心のない人こそ労わるものです。貴方は自分で進めるでしょう」
「…はい。頑張ってみます」
 要はなりふり構っていられないのだ。失敗の爆発をコントロールして使おうとしたのもそういう意味では間違いではなかったのだな、とルイズは
少しだけ自分を前向きに見ることが出来た。
「助力は惜しみませんぞ。……っと、そうでした。ちょうどいい。ミス・ヴァリエール。貴方にお願いがあるのです」
「お願い…ですか?」
 そう言うコルベールの目は、教師の目から研究者の目に変わっていた。


同じ頃、学院付属図書館の一角。
 小さな机に連ねて二つの椅子に、一方には短く揃えた蒼髪の少女が、一方には背が高く立派な体躯の男が座り、二人で一冊の本を読んでいた。
「『雨はまだやみません』…と、これで読了だ」
「合格」
 本を机に置いてギュスターヴはうんと背を伸ばした。
 ギュスターヴがタバサに字を習い始めて暫く経つ。今日はテストと称して、500語ほどの短文を読むように指示されたのである。
「とりあえず、ある程度読めて、数字と名前くらいは書けるようになったかな」
 机には秘かに持ち込んだ紙とペンが置かれ、ハルケギニア語で書かれた数字と、ギュスターヴと読める一語が書き綴られている。
生徒の上達振りを確認した風情のタバサは、机に出していた本を持って棚に向かい、新たな本を持って戻ってきた。
「読んでみて」
 それは今まで読んでいた本よりも装丁が甘い。木を使った表紙ではなく、紙と革をあわせたような感じで、比較すると一段下がる格式のように見える。
ギュスターヴは本を受け取り、表紙に書かれた題名を読み取ろうとした。
「ん……『十の角の家の倒し方』?」
 首を振るタバサ、ギュスターヴから本をとり、指先で題名をなぞりながら応えた。
「『十角館の殺人』と読む。文芸が読めて理解できれば、あとは書くだけ」
 教師としてのタバサは結構なスパルタであった。


陽が徐々に傾いてきて、図書館の人もまばらになってきた頃合に、ギュスターヴとタバサは図書館を出た。
行く先は広場の木陰。以前ギュスターヴの短剣を披露した場所である。
 図書館の受付で預かられていたデルフがカタカタとしゃべりだす。
「しかしちびっこよー。おまえさんメイジの癖に剣使いたいなんてかわってるよなー」
 タバサの手には鞘に収まったままの短剣が握られ、だらりと地面に向かって剣先が下がっている。

タバサは最初、剣のからくりを知りたくてギュスターヴの教師を買って出たわけだが、結局、剣自体には何のからくりもないと本人にも言われてしまった。
ならば、本人からその剣を習うことで何か秘密を知ることが出来るのではないか、というのがタバサの発想だった。
それは己に来るべき時のための力を身につけさせるという意味でも悪くない考えだった。
元々只で字を教えてもらうのに引け目があったギュスターヴは、タバサの提案を飲んだ。後にルイズにも確認を取ったが「あの子もかわってるわねー」と言ったきりで
特に咎めもしなかった。

 しかしタバサが剣を使うにはいくつか問題があった。
まず、剣を振れないのだ。
普段タバサが使う杖は長大な代物だが、中抜きがしてあるため見た目以上に軽く、素材の木も丈夫な為問題はないのだが、ギュスターヴの短剣は
40サント程度の刀身とはいえ殆ど装飾のない鋼で出来ているため、実は見た目よりぐっと重いのだ。

そんな状態で、ギュスターヴがまずタバサに科した練習は、『剣に慣れる事』だった。
 鞘にいれたまま短剣を貸してもらい、持つ。自分で鞘から抜いて構え、鞘に戻す。その動作がある程度自然に出来るくらいになるまで、毎日やって10日掛かった。
次に『剣を構える事』を現在、練習としてタバサはこなしていた。
 本来片手で構える短剣を、タバサは小さな手先で両手に構えて立っている。
それをギュスターヴの指示する順番に構えを変えていく。上段、中段、下段、払い、けさ、突き、という具合に。
10セットもやっていると、タバサの額に汗が浮いてくる。雪風の二つ名の少女が熱い息を吐きながら紅潮した肌に汗を浮かす。
メイジが剣を握って四苦八苦している様子を広場の他の場所にいる生徒達は奇妙な目で見ていたのだった。
目標一日100セット。その合間に何度か休憩を取っていると、広場の出入り口から二つの人影が入り、木陰に向かって歩いてきた。
「やっぱりここでやっていたのね…っていうか、本当に剣習ってるし」
 ルイズはギュスターヴの前で短剣を握って立っているタバサを見た。
「見所あるの?」
「人前で言う事じゃない。…と、コルベール先生、何か」
「そうよ、あんたにお願いがあるんですって」
 ルイズがつれてきたのはコルベールその人だった。まだ天空にある太陽の光が広い額に照り付けている。
「はい。ミスタ・ギュス。以前から興味がありました、貴方の鎧についてなのですが」
「俺の鎧?」
「えぇ、是非ともお貸ししてくれないかと」
 ギュスターヴは要領を得ない。
「何故俺の鎧などを」
「貴方がサモン・サーヴァントでこちらに来られた時に検分してからずっと興味が有ったのです。あれはトリステイン、いや、ハルケギニアの職工の手では
作られたものではございませんな」
 瞬間、走る緊張。ギュスターヴがとてつもなく遠くからやってきたのは周知であるが、それが異界『サンダイル』というところであるのを知るのはタバサとルイズ、
それにオスマンだけである。
「えぇ、まぁ」
 らしくなく曖昧に答える。
「ですので、後学のためにどうか分析してみたいのです」
「はぁ……。ルイズが良いというなら、俺は構いませんが」
 困惑の混じった視線がルイズに向けられる。ルイズはギュスターヴに近寄って小声で話す。
「鎧見せたらあんたが異世界の人間だってばれるんじゃない?」
「どうかな…素材はともかく、出来はありふれた鎧なんだが」
「何処で作られたかって聞かれたらどうするのよ」
「自分で作ったって言えばいいだろ。本当のことだし」
 ひそひそと話し込んでいる使い魔と主人を、木陰に立つタバサとコルベールが観察している。
タバサとしては、ギュスターヴの素性があまり明らかにならないほうが個人的な利益になる。だからむやみに情報が漏れるような行動は取って欲しくない…という
心境だが、積極的に相談に入らず、外面的に第三者を決め込んだ。

「どうでしょうか」
 コルベールが返答を待っていた。ギュスターヴはルイズを一度見てから答えた。
「…構いませんよ。ルイズの部屋に置いてあるんですけど、部屋主にとっては邪魔だろうし」
 ニヤついた顔でギュスターヴがルイズを覗くと、ルイズは眉間を寄せてそっぽを向いてしまった。
コルベールはそれらに気付かず、まるで子供のように喜んだ。
「そうですか!ありがとうございます!では、今から早速受け取りに行きますので。ミス・ヴァリエール、よろしいですかな?」
「え?あ、はい」
「では、失礼!」
「え?えぇ?」
 その場からコルベールはルイズの手を引っつかんで退散してしまった。部屋主同伴であれば寮を歩き回っても一応文句は言われまい。
 そしてその場にはギュスターヴとタバサ、そして木に立てかけられたデルフが残った。
「…いいの?」
「ん?」
「鎧」
「そうだぜ相棒。お前さん異界人だってばれたら多分やばいぜ。下手したら教会とか国とかに捕まるかもしれないぜー」
 ロマリア皇国を頂点にハルケギニアに普及しているブリミル信仰は、始祖と魔法を絶対とするものだ。ここ、トリステインを含め、始祖から王権を与えられた国は
その信仰と価値観から国が為っている。異邦人で、魔法と始祖に畏敬を持たない人間がいれば、それは先住のエルフや亜人と同じ、外敵と見られるかもしれない。
「そうだな…あの鎧一つでわかる事はそんなにないだろう。形は珍しいかもしれないが、こちらにだって鉄の鎧はあるだろう?」
「そりゃそーだけどよー…」
「それに」
「それに?」
「コルベール先生は、多分俺がサンダイルから来たって言っても、教会とかに告発するような気がしないんだよ」
「なんだよそれ…」
 呆れるデルフ。ギュスターヴは立ち上がると、デルフを鞘から抜いて、瞬くように構えて振った。一閃、二閃、三閃、四閃…。
「勘さ。あの人はそういうことはしない、っていう、俺がそう思っただけさ。…さて、タバサ。今やったみたいに出来るのが、当面の目標だ。頑張れよ」
「わかった」
 タバサは静かにうなずいた。その口元が仄かにほころんでいるのだが、ギュスターヴは果たして、少女のわずかな変化を理解できたのだろうか。
 木漏れ日の揺れが、デルフと短剣を煌かせている。


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