あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ご立派な使い魔-05


決闘の場所、ヴェストリの広場は、時ならぬ騒然とした雰囲気に包まれていた。
あのギーシュが、よりにもよって、かのご立派なルイズの使い魔に決闘を挑んだというのだ。
それはイコールギーシュの公開処刑とも思える。
あのご立派さからギーシュがどれだけ凄惨な最期を遂げるのか、そのような思いから人々は集まっている。
突き殺されるか、はたまた……
そんな残酷な期待を背に受けつつも、広場の中心にただ鎮座するマーラの姿があった。
気負いの様子も見えず、ただ悠然と構え、動かないまま前方を見続けている。
そして、

「まったく、見れば見るほどご立派だな……嫌になってくるね」

そこにギーシュが姿を現す。
これが見納めかと思うと、生徒達は複雑な顔になった。
鼻持ちならないギーシュだが、しかしそれにしても。

「ほほう、よう逃げなかったものじゃな、小僧」
「と、当然だ。決闘を挑んだのは僕なのだからね」

(あれ? なんで僕が挑戦者みたいになってるんだ?
 ここは僕の方が待ち受ける場面じゃなかったか?)

どうも状況が逆転している気がして、ギーシュは頭を振った。
この際、攻守の順序などどうでもいい。
いやこの場合はどうでもよくないかもしれない。守に回ってしまうと後ろの方が危ない気もする。

「と……とにかく。
 僕はメイジだ。メイジらしく魔法を使わせてもらうが文句はないだろうね?」
「ならば、ワシは魔王ゆえに、あらゆる手段を使わせてもらおう」
「りょ、了解した」

あらゆる手段。
想像するだにそれは……ギーシュの背筋を氷のような悪寒が伝う。

「は、初めから全力を尽くさせてもらおう! いくぞ、ワルキューレ!」

悪寒を振り払うように、愛用する造花の杖をギーシュは全力を込めて振るう。
花びらは七枚舞い散り、見る間にその姿を変えていく。
青銅の女戦士像。ギーシュの生み出したものの姿である。


「オールド・オスマン、よろしいですか?」

学院長室に入ったコルベールは、見ていけないものを目撃した。
今にも秘書のロングビルに襲いかかろうとしている、学院長オスマンの姿である。

「いい加減に……やめてください、オールド・オスマン!
 それは度を越えて……います!」
「よいではないかよいではないか」

これはセクハラという域を超えている。
この爺を焼き殺してやろうかとコルベールが決意したあたりで、オスマンは我に帰った。

「お、おお。す、すまんのうミス・ロングビル」
「冗談ではすみません、本当に……!」

頭をかいて誤魔化そうとする。
セクハラという時点でも犯罪だったが、実力行使に出ようとしたらそれはもう重罪だ。

「い、いや、何故だかここ数日嫌に性欲が……すまん! 本当に申し訳ない!
 決してこれは私の意志ではなくて……そ、そうじゃ! これのせいなんじゃ!」

オスマンが慌てながら杖を振るう。
壁にかかった鏡の中に、映像が現れる。
緑色をして、てかてかと光る物体である。つまりマーラだ。

「最近学院内に現れたこやつを見ているとじゃな、ついつい気持ちが若くなってしもうて……
 それで……」
「今日のような蛮行に及んだ、というのですか」
「……すまん。いや本当にすまん」

オスマンを見るロングビルの目は冷たい。
この光景にはコルベールも引いていたが、マーラの姿を見てああ、と声をあげた。

「オールド・オスマン。そのモノについて話があるのですが」
「お、おお。コルベール君ではないか。どうしたのかね?」
「それはあのヴァリエールが召喚した使い魔なのですが、やはり教師としましてはあれは卑猥に過ぎますので、
 どうにかして処理できないものかと相談に」
「うーむ。処理といっても……」

まさか使い魔を殺す訳にもいくまい。殺せるかどうかはさておいて。
しかしあのビジュアルは、野放しにしておけば学院の風紀を壊滅させるであろうことは確定的に明らかだ。
実際、オスマンからして暴走しかけたくらいなのだ。

「確かに十八禁な姿をしている訳じゃし、そりゃあ子供には悪影響じゃが……
 さりとてモザイクをかける訳にもいかんじゃろう」
「モザイクは、かえって劣情を煽る可能性もありますね」

ロングビルの補足に、オスマンはうんうんと頷いた。
なまじモロにさらけ出すより、隠していた方がそそるというのはオスマンの人生経験がはじき出した法則である。

「この私をも駆り立てる姿というのは問題じゃからの。
 どうにかしたいのは山々じゃが、しかし……」
「オールド・オスマン、それについては貴方が勝手に暴走しただけなのでは」

不毛な議論を続けるオスマンとコルベールを無視して、ロングビルは鏡の映像を見つめていた。
映し出されているのはマーラだが、どうもおかしな状況に見える。
やけに生徒が集まっているし、マーラの前にはギーシュがゴーレムを作り出しているではないか。

「オールド・オスマン。この状況は妙ではありませんか?」
「だからいっそ、コルベール君の顔を模したマーク、名づけて禿げ男であの頭を隠すように……
 なんじゃね、ミス・ロングビル?」
「この映像なのですが、どうも妙な……」
「うむ? これは、グラモンのせがれではないか。ご立派とグラモンのせがれがにらみ合ってナニを」

マーラの様子は普段通りでまったく落ち着いたものだが、ギーシュは表情からも決死である。
決闘でもあるまいし。そう言おうと思ったコルベールは、決闘という単語に自分でも驚いた。

「まさか決闘!?」
「……ミス・ロングビル。ただちに眠りの鐘の使用を教師どもに伝えるんじゃ」
「は、はい!」

オスマンの顔が一気に険しくなる。
その迫力に押されて、ロングビルは弾き飛ばされたように部屋から出て行った。
残ったオスマンとコルベールは、苦々しい表情で鏡を見つめる。

「まったく暇と性欲をもてあました貴族ってやつは……
 相手を見極められんのか。まったく」
「オールド・オスマン、このままでは恐らく」
「だから眠りの鐘を使わせるんじゃ。もっとも……あのご立派に通用するかどうかは怪しいが」

オスマンの目はますます厳しくなっていく。

「一刻も早くせんと……このままではとんでもないことになるぞ」
「やはり、殺……」
「殺されるだけですめばよいがな。……グラモンのせがれめ。菊を散らせるような場面は見せてくれるなよ」
「ギーシュ・ド・グラモンは薔薇を使っていますが……菊?」
「比喩的表現じゃよミスタ・コルベール……」

大人の表現であった。


さりげなく、ギーシュは杖を持たない手で尻を押さえた。
相手は前方にいるのだが、なんだか、そこを守らないといけないと、本能が伝えてくる。

「い、いけ! ワルキューレ!」

そして号令をかけて、女戦士像を突撃させる。
日頃磨いた錬金によって作り出した、自慢のゴーレム達であるのだが……
しかし今回に限っては、この美しい姿が仇になると、ギーシュはここで気づいた。

「は……8Pだ! ギーシュが8Pをしかけたぞ!」
「複数で挑むのか!」

野次馬達のその声によってである。
Pってなんだそりゃ。
薄々意味に気づいていながらも、ギーシュは問わずにいられなかった。

「良いセンスをしておるわな。これだけ美しい戦士を作り出すとはの。
 お陰でワシも滾るというものよ」
「た……滾る……」

マーラがぐっと身をかがめた。
近づいてくるワルキューレに対応してのものだろう。

「か、かかれェ!」

語尾が裏声になりつつ、ギーシュの号令が飛ぶ。
一気に飛び掛るワルキューレだが、マーラは口元をニヤリと歪め、
身をかがめたことで蓄えたパワーを頭に集めて、

一気に解放する。

「グワッハッハッハ! まとめて相手をしてくれるわ!」

マーラの頭部が、凄まじい勢いで振り回された。
技で言うところの、大暴れ……それがついに発動したのである。

「ワ、ワルキューレェェェェ!」

ギーシュの絶叫も、聞くものがあればこそ。
マーラの大暴れを受けたワルキューレ達は、それぞれモノ凄い勢いで天に打ち上げられたのだ。

「おお……見ろ!」
「ギーシュのワルキューレが……!」

そして天頂近く、まさに頂点とも呼べるところまで吹き飛ぶと、ワルキューレは……
一斉に爆裂四散し、その欠片を撒き散らした。

「り……立派すぎるよ……」

ギーシュが涙声でそう呟く。
そして周囲からは、

「ギーシュのワルキューレが!」
「たった、一突きで逝かされて!」
「悶絶昇天しちまったぞ!」
「なんて……なんてご立派なんだ!」

予想されたこととはいえ、この結果の凄まじさは筆舌に尽くしがたい。
そして余韻が収まると、今度は誰もが視線をギーシュに向ける。
この後に待ち受けているのは果たして何であろうか。
凄惨な死か……あるいは……

「もう手はないのかね?」
「あ……あ、ひ、ああ……」

ゆっくりと。
それまで待ち受けるだけだったマーラが、動き始めた。
ゆっくりと。そう、ゆっくりと、頭を突き出したポーズでギーシュに近づいてくる。
そのおかげで、頭の先っぽが近づいてくる様が、ギーシュにはよく見えた。

「ひ、ひぃぃ……!」
「もう手はないのか。ならば……いよいよ終わりじゃのう……」

ギーシュも、彼の作り出したワルキューレ達と同じく……
あのご立派なモノを叩き込まれて、五臓六腑を撒き散らして昇天する羽目になるのであろうか。
人々は恐怖しながら、ただ、見守る。

「むう……?」

しかしギーシュの目前で、マーラは動きを止めた。
あと少しで射程内だというのに一体どうしたのか。
一瞬の命拾いをしたギーシュは、訳もわからず目前のモノを見る。

「ふん。決闘に水を刺すとはつまらぬ者どもだわな。
 ……ぬうん、シバブー!」
「ひっ!」

何事かをマーラが叫んだので、慌ててギーシュは身を隠す。
が、彼には何も起こらない。周囲を見ても、変わった様子はなかった。

「い、今のは……?」
「なに、無粋を咎めたまでよ。まあよいわ。
 小僧……決闘を挑んだからには覚悟はできておろう」
「あ……い、あ、それは……」

助けを求めるようにギーシュは周囲を見渡した。
しかし、これだけ沢山の生徒が集まっているのに誰も割り込もうとはしない。
決闘なのだから、という建前はあるが、しかしなんと薄情な……

「ここで改めて問うぞ、小僧よ。
 お主は複数の子女を弄びたいか……?」
「それは……ああ、それは……」

決闘の切欠となった問いだ。
これを否定したためにこんな有様になっている、と考えると、ここは肯定するべきなのだろうか。
肯定するだけで生き延びられるなら、肯定したことによる悪評など恐れる必要はないはずだ。
だとするなら、今度は自分の意志で頷いてもよいのではないか。

そこまで考えたギーシュはもう一度だけ周りを見る。
そして観衆の中に、ケティとモンモランシー、二人のガールフレンドの姿を見つけた。

(ああ、今日も美しいねモンモランシー。そして不安そうな姿の君も可愛いよ、ケティ。
 まったく二人ともが僕の好みだからね、薔薇は沢山の人に愛でられ……)

そこまで考えた刹那、ギーシュの目に光が宿った。

「……そうだ、薔薇は愛でられ、そして愛でてこそ……」
「どうなのだね、小僧……」
「……ああ! 僕は沢山の女の子と付き合いたいさ!」

こいつ命惜しさに認めやがった。

誰もがそう思ったであろう。モンモランシーとケティも、思いっきりため息をつく。
しかし。

「だがこれは僕の煩悩、欲望で思っていることではない!
 僕は心から! 沢山の女性に愛を与えたいと願っているのだ!」
「むう? 小僧、それは……」
「僕の愛は一人に注ぐだけでは到底満たされぬのだ!
 薔薇は気高く咲いて散る魂! 散る前に、一人でも多くの心を愛するのが定め!
 僕は! 僕の運命として複数の女の子を幸せにする義務がある!」

なんか格好いいように聞こえるが、結局開き直っているだけなのでは。
やっぱりみんなそう思う。

「小僧。欲望によらずということは、いかなる相手をも愛さねばならぬのだぞ。
 それでもなお……その道を選ぶのかね。選べるのかね、その茨道を」
「え、選ぶとも! どんな女性も僕は愛するさ! 手始めにだね、ケティとモンモランシー!
 この二人を同時に、そして最大限に愛するさ! ああ愛するとも! 愛して愛して愛しつくすさ!」

モンモランシーとケティが嫌そうに顔を歪める。
ところが、それを聞いていたマーラは、
にこりと笑って、

「見事! 見事な領解である!」
「……へ?」
「よくぞ認めたぞ小僧。いや、ギーシュ・ド・グラモン!
 煩悩を拒むのではなく、自然として乗りこなす道を選んだか!
 悟りの道はそこからよ! これからも進んでいけい、ギーシュ!」
「は……はい?」
「グワッハッハッハ!」

そして機嫌よさそうに、マーラは後ろを向いて歩き始める。

「お主の勝ちじゃ! よくぞワシを負かしおった! グワッハッハッハ!」

敗北を認めつつ、堂々と去っていったのであった。

「か……勝てた?」

首を傾げるギーシュ。そこに。

「ギ、ギーシュが……勝った……」
「ギーシュの奴……やりやがった……」
「ご立派様に勝ったんだ、ギーシュが……」

見守っていた生徒達が一斉に駆け寄ってきたではないか。

「ギーシュ! 畜生、ついにやりやがったな!」
「震えが止まらねえぜ! へへ、お前って奴は!」
「俺は前からやる奴だと思ってたんだ、ギーシュ!」
「き、君たち……」

生徒達はギーシュを取り囲み、一気に持ち上げる。

「ギーシュ! ギーシュ! ギーシュ! ギーシュ!」
「ありがとう……ありがとう、みんな……!」

ギーシュは泣いていた。
ただただ、泣いていた。
そして感謝の気持ちがこみ上げてくる。

(そうか、マーラ様は僕に、煩悩による愛ではなくまことの愛に目覚めよとおっしゃられたのだ……
 そのためにこんな決闘騒ぎを……感謝いたします、マーラ様……)

そして胴上げが終わり、地面に降ろされるギーシュ。
その花道を迎えるように、ケティとモンモランシーが近づいてきた。
二人とも満面の笑顔である。

「さあ、君たちも聞いていただろう! 僕はついに真の愛の道を歩み始めた!
 手始めに君たちを愛するとしようじゃないか! 早速寝室へ!」

それを聞いて、ケティとモンモランシーは、笑顔のままギーシュに近づき、その右肩と左肩を支える。
そしてもう一度、ギーシュに笑いかけると、

左右の両方から痛烈な膝を叩き込んだ。

「ぐはっ!」
「最低です、ギーシュさま!」
「いい加減にしなさいよギーシュ!」

そしてギーシュを地面に叩き落すと、二人とも足早に去っていく。

「まあ、当たり前だよな」
「人間として最低だもんな」
「恥を知れギーシュ」
「ところで食堂に行かないか? デザートまだ食ってないよ」
「いいね!」

持ち上げていた観衆も去っていった。
しかし倒れているギーシュは……

「ふふふふ……僕の戦いはまだ始まったばかりさ……」

笑い続けていたという。

ちなみにその後、眠りの鐘を使おうとしていた教師数名が金縛りとなり、倒れているのをロングビルが発見している。
突然金縛りにあい、どうすることも出来なかったのだと彼らは言ったそうな。


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