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虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-11-2


ルイズは小屋から出ると、意味はないかと思いながらもデルフリンガーを引っ掴んで小屋の外の開けた場所まで駆けていく。
そしてその目の前にそびえるゴーレムの威容に思わず思考が止まる。
あの夜。初めは遠くから見た。その後上空から見た。
そして今。その真下から見ている。
大きい。まずそんな言葉が頭をよぎり、そして次によぎるのは「勝てるのか?」という疑問。
蜘蛛の魔剣のことばかり考えていた。もしそれがシュラムッフェンなら、使われたらそれで終わりだ、と。
とんだ間抜けだ。蜘蛛の魔剣など関係なく、端から自分に勝ち目などなかった。黒蟻、爆発、肉体強化。どれ一つとして目の前のゴーレムをどうこうするような力はない。
「フレイム・ボール!」
隣に立つキュルケがゴーレムに向けて魔法を放つ。火の系統2乗分の火球がゴーレムへと向かう。
「ファイヤー・ボール!」
キュルケの行動にルイズは我に返る。うだうだと考えている場合ではない。ファイヤー・ボール。キュルケの唱えたフレイム・ボールより1ランク下の火球の呪文をルイズは唱えた。
だが、当然火球がゴーレムへと向かって飛ぶわけではない。いつものように爆発が起きる。だがそれは都合よくゴーレムに直撃した。さすがに、これだけ大きな的なら外れはしない。
キュルケの火球もルイズの爆発も直撃した。だがそれはゴーレムに対して幾許の効果もあげることはできなかった。
キュルケの火球はゴーレムの身をわずかに焼いた。ルイズの爆発によってゴーレムの一部が爆ぜた。
だが、それが如何したと言わんばかりに、ゴーレムはかけたその身をすぐさま再生して見せた。
ゴーレムの足元に広がる地面。それはゴーレムの身体と同じ。フーケの魔力が尽きない限り、それを材料にいくらでも再生してしまう。
圧倒的な質量。
ルイズの頭にボンボ・タータマルが浮かぶ。
武装司書の一人。彼も圧倒的な質量を武器としていた。彼の魔法の特殊な事情さえなければ、ユキゾナと並んでハミュツの後任候補に数え上げられてもおかしくない力を持つ。
モッカニアは迷宮や巨大構造物など入り組んだ地形でならば最強と言われていた。
そうでない平地などでも十分強い。並の武装司書では平地だろうと敵いはしないだろう。
しかし、壁、天井と3次元的に蟻を這わせることができる点、敵の攻撃をよけながら蟻を放ち続けるというモッカニアの戦法に適した遮蔽物、そしていざとなれば立体的にその場を埋め尽くすことができるという点。
これらの理由で、迷宮のような入り組んだ場所では無敵そのものだった。
ハミュッツとの戦いも、シュラムッフェンさえなければモッカニアの圧勝だっただろう。
ボンボもモッカニアのように己の得意とするフィールドであれば無類の強さを発揮するタイプの武装司書だった。
ボンボの得意としたフィールドは海上。
15匹の巨大なクジラを自在に操り、あまつさえそれに空を飛ばしてみせる。それがボンボの魔法権利。クジラが空から海中に飛び込めばその波だけで船が転覆する。そして、何物にも追撃を許さない海中という逃げ場。
その力は一国の海軍力に匹敵した。
ルイズはつい最近もてあました退屈な時間で、ある思索にふけっていた。
綺羅、星の如く居並ぶ武装司書たち。尋常ではない力を持った彼らの中でモッカニアに勝てる者はいるのか?
バントーラ図書館の地下に広がる巨大な迷宮の中では無敵だろう。初めから、武装司書の中でもトップクラスの近接戦闘の力を持つ者に近付かれているような状況でも仮定しなければ負けようがない。
海上では? モッカニアの力は海上ではほとんど無力だ。一つの船を制圧することは容易いが、他の船から遠距離で攻撃でもされればすぐ沈む。ボンボなどとは比べるべくもない。
ならば平地は? 接近戦については迷宮と同じ。一握りのトップクラスの近接戦闘力を持つ者には、距離を取る前に負けてしまう。
だが、距離をとれれば? 相手に接近を許す前に大量の蟻を放出することができるなら。やはりほとんどの武装司書に勝てるだろう。得意とは言えない開けたフィールドでも、やはり最強に近い存在だ。
だが、迷宮と違って無敵とは言えない。片手の指にも足りない程度ではあるがどっちに転ぶか判らないような相手もいる。それとは別に、平地では絶対に勝てないという相手も、二人いる。
一人は館長代行、ハミュッツ・メセタ。
そしてもう一人がボンボ・タータマル。
ボンボも海ほどに平地を得意としているわけではない。海とは違い上から攻撃で来ても下から攻撃することができない。単純に攻撃機会は半分だ。
それでもモッカニアにはボンボに対抗する手立てがない。
飛行機からの爆撃すら回避して見せるモッカニアだが、爆撃がモッカニアに対して効果のない攻撃かといえばそんなことはない。むしろ効果的だ。
黒蟻の魔法は防御には使えない。距離こそが鎧で、実際に相手の攻撃が届いた場合は強化された肉体で対応するしかないのだ。
爆撃のような面の攻撃。それが、より広範囲に広がり、より精密に行われたなら……。
ルイズが見つけたモッカニアの弱点。圧倒的な質量攻撃。
それを踏まえて現在の状況を鑑みる。
フィールドは平地とは言えないが、まばらに生えた木々はゴーレムにとってはさして影響はないだろう。
敵はボンボのクジラ1匹分ぐらいの大きさか。空は飛ばないのがせめてもの救いか。
そして自分は。未だに操れる蟻の数はせいぜいが20といったところ。モッカニアのそれの、10億分の1にも満たないだろう。
どうにもならない。
ルイズは歯噛みする。
どうにもならないことに対してではない。どうにもならないことが事前に解ってて然るべきだったのに、考えなしに今の状況に陥っていることに。
「エア・カッター」
タバサの声がする。
だが、何も起こらない。
「持ってて」
タバサがそう言うと、ルイズに蜘蛛の魔剣、常笑いの魔刀・シュラムッフェンを手渡した。
そして、自分の杖に持ち替えると、
「エア・ストーム」
別の魔法を唱える。
巨大な竜巻を発生させるその魔法は、ゴーレムをなんとかその場に釘付けすることに成功した。
ルイズは己の手の中にあるものを見る。
常笑いの魔刀・シュラムッフェン。
これならばゴーレムにも勝てるのではないか? むしろゴーレムを倒し得る手段はこれ以外にあり得ないのではないか。
しかし、使ってしまっては、ルイズの心当たりが正しかったと知られれば、その心当たりはどこで得た知識だという話になる。それは困る。
困るのだが……。
「タバサ! シルフィードを! ルイズはそれをちゃんと持ってて! それさえあれば任務の半分は成功なんだから」
キュルケが叫ぶ。
シルフィードが舞い降りた。
そう。これを持ち帰れば任務の半分は達成だ。フーケのような悪党にシュラムッフェンが渡るという最悪も避けられる。
そして、後は心当たりについて「思い違いだった」と言えばルイズが詮索されることもないだろう。
フーケを捕まえることこそ出来ないが、十分といえば十分だろう。
3人がシルフィードに乗る。
だが、シルフィードが飛び立とうとしたその瞬間、ルイズはそこから飛び降りた。
「あ、相棒! ここは逃げの一手だろうよ!」
デルフが叫ぶ。
「ちょっと馬鹿ルイズ! 何やってるのよ!」
キュルケも叫ぶ。
タバサも、1度上昇したシルフィードをなんとか御して、再び下降させようとする。
だが、その前にエア・ストームの効果が消え、ゴーレムが自由を取り戻したことにより、それは叶わなかった。
ルイズはイラついていた。
考えなしの自分にいらついていた。
その実、「最近私ってよく考えて行動しているわよね」なんて言う風に実は思っていたことにもイラついていた。
そして先ほどのタバサにもカチンときた。
「持ってて」などと言い、シュラムッフェンをルイズに渡したタバサ。
同じくキュルケの「それちゃんと持ってて」という言葉にも。
(お前は役に立たないから荷物持ちでもしてろ、とでも言いたいの!)
彼女らに他意はない。ただ、任務の上で重要なものだからきちんと持ってるように言っただけだ。
だが、カチンと来たものは来たのだ。
タバサを見て何故オスマンもタバサも、そしておそらくフーケもシュラムッフェンを使えないのか理解した。
こんな簡単なことも分からない連中のせいで右往左往しているのかと思うと、それも腹が立つ。
(もういいわよ! どうせ考えなしなんだから考えなしにやってやるわよ!)
「デルフ。これを見て魔剣度合を磨くがいいわ!」
ルイズはそう言うと、蜘蛛の脚に己の手を差し出した。
蜘蛛の脚がルイズの手をとらえ、尻から糸のような刀身を吐き出す。
ゴーレムは高く舞い上がったシルフィードをあきらめ、ルイズのほうに向きなおる。そしてルイズに向けてこぶしを振り下ろそうとする。
「穢れよ! シュラムッフェン!」
ルイズはそう叫ぶとシュラムッフェンを振り下ろした。


その場にいた者全てが目を疑った。
ルイズがシュラムッフェンを振ると、振り下ろされんとしたゴーレムの腕に幾本もの線が入る。
それは切れ目。
ゴーレムの腕に入った幾筋もの切れ目。
そして次の瞬間、ゴーレムの胴体とのつながりを断たれたその腕は、幾つもに切り分けられながらルイズの上へと降り注ぐ。
「相棒あぶねえ!」
「ルイズ!」
「!!!!」
デルフリンガーとキュルケとタバサが三者三様に叫ぶが、ルイズは身じろぎ一つしない。
その身に降りかかってくる圧倒的な質量を身じろぎもせず、ただ見つめているだけ。
先程のようにシュラムッフェンを振ろうともしない。
だが、土の塊がルイズに降り注ごうとしたその瞬間。シュラムッフェンは笑った。
その笑い声は空気を切り裂く音。無数の不可視の刃があたりの空気を切り裂いて、それがまるで笑い声のように聞こえる。
この音こそが常笑いの魔刀と呼ばれる所以。かつての持ち主、シロン・ブーヤコーニッシュがそう名づけ、そして彼女自身も常笑いの魔女、もしくは常笑いの聖女などと呼ばれるようになる。
そんな奇妙な笑い声が響いたかと思うと、土の塊が細かく細かく分断されていく。
細かくなり、ルイズに直撃する軌道から外れるものはそのまま落下し、ルイズに当たる軌道を辿るものは細かく、より細かく刻まれていく。
最終的に、ルイズの頭と同じぐらいの土の塊が、ただの砂へと変わって落ちる。
キュルケもタバサも、その光景を呆然と見ている。
ルイズの周りには、ルイズへ向かう軌道を外れて、ある程度の大きさを保ったまま落ちた土くれが無数に転がっている。
「邪魔ね」
ルイズはそう言うとまたひと振り。
するとまた、シュラムッフェンから奇妙な音が鳴り、次の瞬間にはそれらも砂へと変わっていた。
「どう? デルフ。これが魔剣というものよ」
ルイズがにやりと笑って言う。
「おでれーた」
デルフリンガーはそれしか言えなかった。
「じゃあ、あっちのでかぶつもやっちゃいましょうか」
ルイズはそう言うとシュラムッフェンを軽く一振りする。
そうするとまた同じことが起きる。
ゴーレムが一瞬にして切り刻まれていく。
そうして、そこに立っているのはルイズだけになった。
「土……。判断に困るけど、私の邪悪度合いもそこそこなのかしら」
ルイズは冗談めかして呟いたが、その呟きはデルフにしか聞こえなかったし、デルフにはその意味はわからなかった。

シルフィードからキュルケとタバサが降りてきた。
「すごい……」
「…………」
二人とも、蜘蛛の魔剣の凄まじい威力に驚いて、何を言ったものか分からない。
「あら、ミス・ロングビル」
ルイズはゴーレムのいたその先。木々の間にロングビルの姿を見つける。
ロングビルはその声に、一瞬びくりとするが、すぐ居住まいを正してルイズたちのほうへと近づいていく。
「いや……フーケ本人を叩こうと思って周辺の探索をしていたのですが……ゴーレムが崩れたのを見て思わず茫然としてしまいました……」
そんな事を言いながら近づいてくる。
キュルケもタバサもそれには同感だ。
茫然と言うか唖然と言うか、ただただそればかりである。
「噂に違わぬ力でしたね。これが人間相手に振るわれていたのなら……」
ロングビルはそう言うと自分の口を押さえる。あまり良くない想像をしてしまったらしい。
血肉の詰まった人間が、ゴーレムと同じようにバラバラにされたなら……。オスマンが地獄と称したのも頷ける。
ロングビルだけでなく、ルイズたちも顔を青くしている。
「しかし、凄いわね……。無数の風の刃……。無数って言葉で表していいレベルを超えてるわよ」
キュルケがそう言うと、タバサがそれを否定した。
「違う。あれは風の刃などではなかった。風など一つも起こっていない。ただ、突然切れ目が入った感じ」
ルイズはタバサの言葉に少し驚く。目の前で見ていたとはいえ、見事に起こったことを言い当てている。
「一体、これは何だったのです? 説明していただけますか?」
ロングビルの言葉にルイズは溜息を吐いてみせる。説明したくない。そんな気持ちを隠す気もないといった様に。
だが、説明せずに納得させることは出来ないだろう。
肝心要のどこで情報を仕入れたかだけ、何としてでもはぐらかすが、それ以外の部分は説明せざるを得ない。
「これは蜘蛛の魔剣なんて名前ではないわ。常笑いの魔刀・シュラムッフェンというの」
ルイズは説明を始める。
「まず……さっきタバサが言ったこと、あれは殆ど正解ね。何も飛ばしていない。ただ斬っただけ」
ルイズはそう言いながら己の手からシュラムッフェンを引き剥がす。
その手にはシュラムッフェンの脚が絡みついた後が微妙な切り傷となって血が滲んでいる。
ルイズがそんな自分の手を見ながら「うわぁ」と小さく呟くと、ロングビルがどこから取り出したのか傷薬らしい軟膏をルイズに差し出した。
ルイズはそれを受け取るのと同時にシュラムッフェンをロングビルに手渡す。シュラムッフェンを持っていたら傷薬を塗れないし、宝物の管理は学院の職員であるロングビルに任せるのが妥当だろう。
ロングビルは蜘蛛の背のほうを持ちながら、わきわきと動く蜘蛛の足を気味悪げに見ている。
ルイズは傷に軟膏を塗りこみながら説明を再開する。
「能力は因果抹消攻撃、もしくは因果超越攻撃なんていわれるわ」
「因果抹消? 超越?」
キュルケが聞きなれない言葉に首を傾げる。
「簡単に言えば、原因と結果が伴わない……結果に原因が伴わないってのが正確な表現かしら。そういうこと」
ルイズの説明はまだ抽象的過ぎて、周りはぽかんとした顔を浮かべたまま。
「つまりね、タバサはその目で見て違うと解ったみたいだけど、オールド・オスマンを始めとして、遠くのものが見えない何かで斬られたと聞いたら、その結果を引き起こした原因として風の刃が飛んだのだと推測したわけでしょう。
だけど、シュラムッフェンにはその原因がいらないの。シュラムッフェンが発動したら何かを飛ばすわけでもなく、いきなり斬ろうとした場所が斬れるのよ」
ルイズはそこまで言うと言葉を切り、反応を窺う。
キュルケは少し難しい顔をした後に恐る恐る口を開く。
「えっとつまり、発動した瞬間に斬れてるってこと?」
「そうよ」
「何か飛ばしてるわけじゃないってことは、ファイヤーウォールの魔法で壁を作ったりしても意味ないってこと?」
「そうよ。防御不能ね。回避もほぼ不能」
「防御不能ってどんなに硬い甲冑を着込んでたりしても駄目ってこと?」
「んー。それはちょっと微妙な話ね」
今まで即答していたルイズがちょっと困った顔をする。
「まず、どんな甲冑を着ていようと、斬ろうとしたところを斬れるんだから中身は無事じゃすまないわよ。でも中身が斬れても甲冑が斬れるかどうかは別ね。シュラムッフェンの力は持ち主の精神に影響を受けるわ。
邪悪な意思、強い殺意のもとで振られれば、威力は格段に上がるの。まあ、私みたいに心の綺麗な人間でも土を切り裂くのは容易いわ」
ルイズはそう言っておどけてみせる。
実際のところ、先程のあれで己がどれだけ邪悪かはよく解らない。土と言う素材は微妙だ。
武装司書たちはシュラムッフェンを手に入れた後、いろいろと実験をしていたが、比較的善良な者でも鉄で出来た自動車を切り裂いて見せた。
ただ一人、頭に超が2つ3つ付く程の例外として、キャベツの千切りを作るのが限界と言った善良さの塊のような司書見習いもいた。あの司書見習いがちゃんと武装司書になれたのか、少し気になる。
立派な武装司書になれてればいいな、とルイズは思う。
モッカニアが持ったらどれ程のものだったのかは分からない。
そのころモッカニアは既に心を病んでおり、武装司書の地位にはあったがそういった実験などには顔を出さなかった。
ただ、同僚たちがモッカニアのもとにまめに訪れては、そういった実験結果を語っていった。
モッカニア自身は真面目にそれを聞いてなかったが、『本』として読む分には耳に入ってさえいれば、何に着目するかはルイズ次第だ。
「反則にも程があるわね……」
キュルケが神妙な顔で言う。タバサもその後ろでこくこくと頷いている。
「でもまだまだそんなもんじゃないわよ」
ルイズは言う。
「もう一つ、反則機能があってね。私もさっき使って見せたけど……。自動防御の機能もあるの」
「自動防御?」
今度はタバサが相槌を入れる。
「えぇ、さっき、私に向かって落ちてくるゴーレムの腕が勝手にバラバラになったでしょう。あれは、持ち主に攻撃が届きそうになると勝手に切り刻んでくれるのよ」
「……反則」
ルイズの説明にはタバサもそれしか言えないようだ。
「どう? デルフ。アンタとシュラムッフェン。魔剣度合いはどちらが上かしら」
ルイズが己の背中に背負われたデルフリンガーに向けてにやりと笑っていった。
「えーと。あぁ。おでれーた」


「それでミス・ヴァリエール。なぜ、オールド・オスマンは使い方が解らなかったのでしょう?」
ロングビルがそんな質問をルイズにぶつけた。
くだらない。
実にくだらないとルイズは思う。
メイジという生き物はつくづくメイジなのだと。
「これはデルフだったら解るんじゃないかしら?」
ルイズはその質問をデルフリンガーにまわす。
ハルケギニアのメイジは、誰がシュラムッフェンを持とうと使い方は分からないだろう。
もし発動させることが出来るとすれば、自動防御が発動するときだけだ。
「さっきのタバサを思い出せば簡単よ。これが解らないのがメイジの限界なのかしらね」
ルイズはついそんな憎まれ口を叩いてしまう。
ルイズから言わせれば、トリステインのメイジとして最高の地位にあるオールド・オスマンが30年に渡ってこんな簡単なことが分からなかったというのが、呆れてものも言えない。
タバサにしても、風竜を呼び出しルイズよりよっぽど優れた才能を持ちながら、あの体たらくだ。
ルイズからすれば憎まれ口の一つも叩きたくなる。
そんなつもりで言ったルイズだが、タバサはその言葉に何か考え込むような表情を作っていた。しかしそれは誰に気づかれることもなく、デルフリンガーが口を開いた。
「あーあー。さっきの嬢ちゃんな。成程成程。そういう事か。成程確かにな。メイジってのはなんであんなことするんだろうな」
デルフが言うと、
「なによー。勿体振ってないで教えなさいよー。メイジだから? 解らないわ」
キュルケがそんな風に言うと、お手上げと言った感じで手の平を上に向ける。
「オールド・オスマンもタバサも、そしてたぶんフーケも。やってることはつまりナイフとフォークを持って絵を描こうとしているようなものよ」
ルイズはわざと、そんなよく解らないような例えを出してみせる。
だが、解ってしまったものからすれば実に言いえて妙の例え。
デルフが金具を鳴らして笑う。
「全くその通りだな。いいこと言うぜ、相棒。ナイフとフォークを持ったなら、素直に飯でも食ってろって話だ」
「え?」
キュルケはまだ理解していない。
ロングビルも何を言いたいのかわからないといった風に小首を傾げる。
ただ、タバサ一人、何かに気づいたように目を見開いている。
「まったく、おめーらメイジって奴はよお。なんで剣を持ってルーンを唱えたり魔力を練ったりするんだって話だ。あの爺は30年もそんな事してた訳だろ。ボケてるんじゃねーか?」
デルフリンガーがそういって笑う。
ルイズは「言いすぎよ」と軽くたしなめつつ、しかし少し笑ったような顔で言う。
「シュラムッフェンの発動は、何かを斬るという意思の元にただ振るだけよ。風の刃だの、不可視の刃だのを出そうなんて思ってたら、シュラムッフェンからすればなんのこっちゃだし、
魔力をこめるのも全く持って無意味なのよ。シュラムッフェンはあくまで剣だもの」
ルイズはそういってにやりと笑った。
その後ろでデルフリンガーも金具を鳴らして笑った。
少し離れて、ロングビルもにやりと嗤っていた。
その手の中でシュラムッフェンが再び笑う時を待っていた。


「成程成程。よく解りました。確かにメイジの盲点ですね。マジックアイテムと言うと兎に角魔力を通わせようとしてしまう。成程成程」
ロングビルは言う。
ルイズはそんなロングビルに少し違和感を感じる。
ルイズの言葉は自分よりよっぽど優れた魔法の才能を持ったメイジが、揃ってこんな簡単なこともわからなかったのかという皮肉のこもった言葉だった。
それなのにロングビルの顔に浮かぶ笑いは何なのだろう。
苦笑いや、悔し紛れの笑いならわかる。
だが、何故してやったりという笑いをしているのか。
「しかし、蜘蛛の魔剣……シュラムッフェンでしたっけ? これがなくとも御3人ならフーケを倒せていたんだはありませんか? ミス・ツェルプストーには何か作戦がありそうでしたし」
ロングビルは言う。
「えぇ、そうね。一応作戦はあったけど。まあ、ゴーレムはどうにもならないから本体を叩こうってだけだけど。あなたのことも頼りにしていましたわ。まぁ、系統の相性が合えばゴーレムも倒したかったけど」
キュルケが言う。
「そうですね。まぁ、本人を倒すのが一番早いでしょうね。ところで、どんな系統ならあのゴーレムを倒せたとお思いですか?」
ロングビルはさらにキュルケに質問を浴びせる。
妙に晴れやかな笑みを浮かべながら聞く、ロングビルに少し違和感を感じながらキュルケは答える。
「そうね。水のメイジだったらライン、うまくすればドットでも倒せたかもしれませんわ。足場をちょっとぬかるませるだけであの巨体なら簡単にバランスが崩れるでしょうから。あの重さなら倒れた衝撃に耐えられないでしょう。
あのゴーレムが相手だってわかっていながら水のメイジをつれてこなかったのは汗顔の至りって奴ね」
キュルケが答えると、
「成程成程。確かにそうですね。今後は参考にさせていただきますわ」
やはり晴れやかな笑みをしてロングビルは言った。
「しかし、ミス・タバサ。流石にあれは我々メイジには解らなくても無理のないことですわよねぇ」
ロングビルが今度はタバサのほうを向いて言った。
タバサは少し難しい顔をして、
「メイジの限界」
と、ルイズの言った言葉を呟いた。
「あらっ! ミス・タバサはストイックでらっしゃるのね! 流石にあんな例外中の例外でそこまで気を病むことありませんわよ」
ロングビルが言う。
タバサは首を傾げる。
ロングビルの声は何故こんなに上ずっているのだろう? 確かにフーケから秘宝を取り戻した。しかし、ここまで楽しそうな声を出すのは少し場違いではないか?
「仕方ないですわよ。ただ、斬ろうと思って振るだけだなんて。私たちが解らなくても仕方ありませんわよ」
ロングビルの言葉にタバサは引っかかりを感じる。
『私たち』?
先程の我々と同じ、メイジなら気づかなくても仕方ないと言う意味にも取れるが、何か変だ。
「あ……」
タバサが気づいた。
何故、蜘蛛の魔剣を小屋の中に置きっ放しにしていたのか。どういう理由があれば盗んだばかりの価値ある宝物を放置しておく理由になるのか。
フーケほどのメイジになれば、あの異常な魔力に気づかないはずがない。
ならば、オスマンの弱みとしての価値ではなく、マジックアイテムとしての価値こそが真価としてみているはずだ。
ならばそのマジックアイテムを手元におかず、置き放しておく理由は?
使い方が解らなかったから。
使い方が解らなかったらどうする?
わかる人間に聞けばいい。
情報を流せば、魔法学院の関係者がやってくる。生徒が来ることは誤算だっただろうが、魔法学院の人間なら使い方の解るものがいると考え、実際にいた。
「あなたが……」
「私が……」
タバサの言葉に、ロングビルが言葉をかぶせる。
ロングビルの手の中の蜘蛛はいつの間にかその足をロングビルの手に絡めている。
そして糸のような刀身が尻から吐き出される。
「私がフーケ……ってねぇ!」
ロングビル、もといフーケは楽しくて仕方がないといった風に顔を歪ませて言う。
「ルイズちゃーん。もっと詳しいお話聞かせて欲しいなぁ」


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