「あそこに見えるのがフーケが入って行ったという小屋です」
ロングビルが指差す先には、一軒の粗末な小屋が建っている。
小屋も建っているし、あたりの木は疎らで、ここが人の手の入った森なのだとわかる。
だからこそ目撃者もいたのだろう。
ロングビルの後ろには、キュルケ、タバサ、そしてデルフリンガーを背負ったルイズと続いている。
結局ルイズはあれから今まで押し黙ったままだった。
いろいろと考えなければならないことがあった。
本当に蜘蛛の魔剣はシュラムッフェンなのか。シュラムッフェンだとしたら何故オスマンは使い方が解らないのか。肝心のフーケは使えるのか。
蜘蛛の魔剣の特徴は、明らかにそれがシュラムッフェンだと物語っている。
ならば、もしフーケがそれを持って現れた場合どうするのか。逃げるしか出来ない。先程はそう言ったが、逃げることは出来るのか?
出来ないならば今すぐ退くべきではないか。
しかし、もし本当にシュラムッフェンならばフーケのような悪党の手に在るという事態は最悪だ。
やはり取り戻さなければ駄目だ。
なんだかんだと言っても、罅を入れたのは自分だ。責任を取らなくてはならない。
「おい相棒。これから戦いって時にうだうだ悩んでると、ろくなことになんねーぜ」
「デルフ……」
デルフリンガーが声をかける。
「相棒は、その心当たりって奴じゃないかと心配してる見てーだが、まぁそん時は俺を使え。きっと俺のほうが魔剣度合いじゃ上だ」
「何よ、魔剣度合いって」
デルフリンガーは思いつめた顔をしているルイズを気遣っての軽口を叩いているのだろう。
だが、ルイズの心当たりはそんな生易しいものではない。
ただ、別物であることを祈るばかりだ。
しかし別物だったら、ロングビルの語った特徴は何なのだ。偶然の一致?
それにもし蜘蛛の魔剣に村一つ皆殺しにするような力がなければ、それはオールド・オスマンが村一つ皆殺しにしたと言うことになるのか?
(切り替えなくちゃ)
ルイズは必死に胸中に渦巻く詮無き思考を振り払う。
シュラムッフェンであるならば放っておくわけにはいかない。そうでないなら、余計なことなど考えずただフーケを捕まえるだけだ。
ロングビルが指差す先には、一軒の粗末な小屋が建っている。
小屋も建っているし、あたりの木は疎らで、ここが人の手の入った森なのだとわかる。
だからこそ目撃者もいたのだろう。
ロングビルの後ろには、キュルケ、タバサ、そしてデルフリンガーを背負ったルイズと続いている。
結局ルイズはあれから今まで押し黙ったままだった。
いろいろと考えなければならないことがあった。
本当に蜘蛛の魔剣はシュラムッフェンなのか。シュラムッフェンだとしたら何故オスマンは使い方が解らないのか。肝心のフーケは使えるのか。
蜘蛛の魔剣の特徴は、明らかにそれがシュラムッフェンだと物語っている。
ならば、もしフーケがそれを持って現れた場合どうするのか。逃げるしか出来ない。先程はそう言ったが、逃げることは出来るのか?
出来ないならば今すぐ退くべきではないか。
しかし、もし本当にシュラムッフェンならばフーケのような悪党の手に在るという事態は最悪だ。
やはり取り戻さなければ駄目だ。
なんだかんだと言っても、罅を入れたのは自分だ。責任を取らなくてはならない。
「おい相棒。これから戦いって時にうだうだ悩んでると、ろくなことになんねーぜ」
「デルフ……」
デルフリンガーが声をかける。
「相棒は、その心当たりって奴じゃないかと心配してる見てーだが、まぁそん時は俺を使え。きっと俺のほうが魔剣度合いじゃ上だ」
「何よ、魔剣度合いって」
デルフリンガーは思いつめた顔をしているルイズを気遣っての軽口を叩いているのだろう。
だが、ルイズの心当たりはそんな生易しいものではない。
ただ、別物であることを祈るばかりだ。
しかし別物だったら、ロングビルの語った特徴は何なのだ。偶然の一致?
それにもし蜘蛛の魔剣に村一つ皆殺しにするような力がなければ、それはオールド・オスマンが村一つ皆殺しにしたと言うことになるのか?
(切り替えなくちゃ)
ルイズは必死に胸中に渦巻く詮無き思考を振り払う。
シュラムッフェンであるならば放っておくわけにはいかない。そうでないなら、余計なことなど考えずただフーケを捕まえるだけだ。
「あの中にフーケがいるのかしら」
キュルケが声を殺して言う。
「偵察が必要」
タバサは端的に言う。
ただでさえ危険な盗賊が強力なマジックアイテムを持って待ち構えているかもしれないのだ。全員で行ったら全滅の可能性もある。
しかし、ならば誰が行くかという問題。
「偵察なら……私がするわ」
名乗りを上げたのはルイズだった。
「あんたがそんなことで切るの?」
そんなキュルケの言葉を無視して、ルイズは羽蟻を一匹だし小屋へと向けて飛ばす。そして手元には女王蟻。
謹慎期間中に覚えたばかりの羽蟻を使った偵察。
羽蟻は一直線に小屋へと飛んでいく。
「…………」
「なに? 感覚は共有しているの?」
キュルケが聞く。
「してないわよ。……誰もいないみたいね」
「やっぱりしてるんじゃない」
「煩いわね。面倒だから詳しくは説明してやらないけど、蟻同士で信号のやり取りをしてんのよ」
ルイズは面倒そうに言う。
違う場面であったなら蟻たちの力をこれ見よがしに自慢していそうなものだが、今はそんなことにかまけている場合じゃない。
これから起こり得る事態に対しての緊張で一杯一杯だった。
「誰もいない?」
タバサが確認する。
「取り敢えずあの小屋の中に人間、動物、いないわね。それ以上のことは解らないけど」
「それで十分。戻ってこないうちに小屋へ行く」
タバサがそう提案すると、ロングビルも、
「でしたら私はフーケが戻ってこないか周辺を警戒しておきましょう」
そう提案する。
3人はそれに頷き、ロングビルが森の中へ徒歩を進めるのを確認した後、小屋へと歩いていった。
「あ、そうだ」
唐突にルイズが口を開く。
「ミス・ロングビルがいるうちに言っておくべきだった……。まぁ別行動なら大丈夫かな? 運次第か……」
そんな前置きをして、
「タバサ。ちょっと相談しておきたいことがあるんだけど」
タバサに話を持ちかけた。
キュルケが声を殺して言う。
「偵察が必要」
タバサは端的に言う。
ただでさえ危険な盗賊が強力なマジックアイテムを持って待ち構えているかもしれないのだ。全員で行ったら全滅の可能性もある。
しかし、ならば誰が行くかという問題。
「偵察なら……私がするわ」
名乗りを上げたのはルイズだった。
「あんたがそんなことで切るの?」
そんなキュルケの言葉を無視して、ルイズは羽蟻を一匹だし小屋へと向けて飛ばす。そして手元には女王蟻。
謹慎期間中に覚えたばかりの羽蟻を使った偵察。
羽蟻は一直線に小屋へと飛んでいく。
「…………」
「なに? 感覚は共有しているの?」
キュルケが聞く。
「してないわよ。……誰もいないみたいね」
「やっぱりしてるんじゃない」
「煩いわね。面倒だから詳しくは説明してやらないけど、蟻同士で信号のやり取りをしてんのよ」
ルイズは面倒そうに言う。
違う場面であったなら蟻たちの力をこれ見よがしに自慢していそうなものだが、今はそんなことにかまけている場合じゃない。
これから起こり得る事態に対しての緊張で一杯一杯だった。
「誰もいない?」
タバサが確認する。
「取り敢えずあの小屋の中に人間、動物、いないわね。それ以上のことは解らないけど」
「それで十分。戻ってこないうちに小屋へ行く」
タバサがそう提案すると、ロングビルも、
「でしたら私はフーケが戻ってこないか周辺を警戒しておきましょう」
そう提案する。
3人はそれに頷き、ロングビルが森の中へ徒歩を進めるのを確認した後、小屋へと歩いていった。
「あ、そうだ」
唐突にルイズが口を開く。
「ミス・ロングビルがいるうちに言っておくべきだった……。まぁ別行動なら大丈夫かな? 運次第か……」
そんな前置きをして、
「タバサ。ちょっと相談しておきたいことがあるんだけど」
タバサに話を持ちかけた。
「デルフはここで外を見張ってて頂戴。何かあったら大声で呼んで」
ルイズはそう言うと扉の近くにデルフリンガーを立てかける。
「おう。相棒も気をつけろよ」
デルフもそれを承諾する。
剣として使うのにはルイズは未熟だが、剣ではなく魔剣なら他の使いようもあるということだ。
「鍵はかかっていないみたいね」
そう言うとキュルケが扉を開ける。
中にはやはり誰もいない。狭い部屋の中央に、粗末なテーブルが置かれている。そしてその上に箱。
如何にもといった雰囲気の箱。
「あれって……」
宝物を納めているような煌びやかな雰囲気はない。むしろ頑丈そうな、剛健さだけが特徴と言った箱。
それが普通の宝物ならともかく、蜘蛛の魔剣の逸話を踏まえれば如何にもだ。
蜘蛛を外に出さないための、閉じ込めておくための檻。
部屋に入ってすぐディテクト・マジックで室内を調べていたタバサが、それが済んだらすぐに箱へと手をかける。
魔法の罠が仕掛けれれているということはないらしい。
「あった」
タバサが言う。
「蜘蛛の魔剣」
呆気なく言うタバサに、ルイズとキュルケが後ろから箱を覗き込む。
そこには一匹の巨大な蜘蛛がいた。
いや、蜘蛛ではない。それは彫像。
そして、タバサが手を伸ばす。すると、蜘蛛の足がわきわきと動きタバサの手に絡みつく。そして、その尻から糸のような刀身が伸びる。
「うわぁ、気持ち悪い」
キュルケは思わず率直な感想を漏らす。
「蜘蛛の魔剣。間違いない」
タバサは己の手に気味の悪い蜘蛛が絡み付いていることなど意にも介さず淡々と言う。
間違いない。
モッカニアの本の中で見たシュラムッフェンと同一の代物だ。
ルイズはほっと胸を撫で下ろす。
こんなものは存在しないほうがいい。しかし存在する以上、フーケの手に握られることなくこちらで抑えることが出来たのをよしとしよう。
「ルイズ。結局これってあなたの心当たりと同じものなの?」
キュルケが聞いてくるが、
「……そんなこと、フーケに使われずに押さえる事が出来たんだからどうでもいいじゃない」
答えてやるつもりはない。
詳しく話せば、どこでその知識を得たのかと言う話になる。それは言えない。
命の危険が差し迫っているのならともかく、そうでないのならモッカニアの『本』に繋がるようなことは言うべきではない。
「いいじゃない。けちけちせずに教えなさいよ」
キュルケがそんな風に言ってくるが、それを完全に無視するルイズ。
「全く。何を勿体振ってんだか。……で、タバサ。どう? 蜘蛛の魔剣」
ルイズのそんな態度にキュルケはやれやれと首を振り、タバサのほうへと水を向ける。
「魔力は感じる。……ものすごく。でも……」
タバサは途切れ途切れに言う。
だが、その続きを言うことはできなかった。
「相棒! ゴーレムだ!」
デルフリンガーの叫びがそれを遮った。
ルイズはそう言うと扉の近くにデルフリンガーを立てかける。
「おう。相棒も気をつけろよ」
デルフもそれを承諾する。
剣として使うのにはルイズは未熟だが、剣ではなく魔剣なら他の使いようもあるということだ。
「鍵はかかっていないみたいね」
そう言うとキュルケが扉を開ける。
中にはやはり誰もいない。狭い部屋の中央に、粗末なテーブルが置かれている。そしてその上に箱。
如何にもといった雰囲気の箱。
「あれって……」
宝物を納めているような煌びやかな雰囲気はない。むしろ頑丈そうな、剛健さだけが特徴と言った箱。
それが普通の宝物ならともかく、蜘蛛の魔剣の逸話を踏まえれば如何にもだ。
蜘蛛を外に出さないための、閉じ込めておくための檻。
部屋に入ってすぐディテクト・マジックで室内を調べていたタバサが、それが済んだらすぐに箱へと手をかける。
魔法の罠が仕掛けれれているということはないらしい。
「あった」
タバサが言う。
「蜘蛛の魔剣」
呆気なく言うタバサに、ルイズとキュルケが後ろから箱を覗き込む。
そこには一匹の巨大な蜘蛛がいた。
いや、蜘蛛ではない。それは彫像。
そして、タバサが手を伸ばす。すると、蜘蛛の足がわきわきと動きタバサの手に絡みつく。そして、その尻から糸のような刀身が伸びる。
「うわぁ、気持ち悪い」
キュルケは思わず率直な感想を漏らす。
「蜘蛛の魔剣。間違いない」
タバサは己の手に気味の悪い蜘蛛が絡み付いていることなど意にも介さず淡々と言う。
間違いない。
モッカニアの本の中で見たシュラムッフェンと同一の代物だ。
ルイズはほっと胸を撫で下ろす。
こんなものは存在しないほうがいい。しかし存在する以上、フーケの手に握られることなくこちらで抑えることが出来たのをよしとしよう。
「ルイズ。結局これってあなたの心当たりと同じものなの?」
キュルケが聞いてくるが、
「……そんなこと、フーケに使われずに押さえる事が出来たんだからどうでもいいじゃない」
答えてやるつもりはない。
詳しく話せば、どこでその知識を得たのかと言う話になる。それは言えない。
命の危険が差し迫っているのならともかく、そうでないのならモッカニアの『本』に繋がるようなことは言うべきではない。
「いいじゃない。けちけちせずに教えなさいよ」
キュルケがそんな風に言ってくるが、それを完全に無視するルイズ。
「全く。何を勿体振ってんだか。……で、タバサ。どう? 蜘蛛の魔剣」
ルイズのそんな態度にキュルケはやれやれと首を振り、タバサのほうへと水を向ける。
「魔力は感じる。……ものすごく。でも……」
タバサは途切れ途切れに言う。
だが、その続きを言うことはできなかった。
「相棒! ゴーレムだ!」
デルフリンガーの叫びがそれを遮った。
突然屋根が吹き飛んだ。
そしてその後を、巨大な質量が通り抜けた証の風圧が襲う。
「外よ! ここにいたら建物ごと潰されるわ!」
キュルケが叫ぶ。
ルイズとタバサもその言葉に従って外へと飛び出す。
そしてその後を、巨大な質量が通り抜けた証の風圧が襲う。
「外よ! ここにいたら建物ごと潰されるわ!」
キュルケが叫ぶ。
ルイズとタバサもその言葉に従って外へと飛び出す。
キュルケは外に飛び出すとゴーレムを見上げた。
大きい。
やはり間近で見るのは違う。
しかし大きさはどうでもいい。どうでもよくはないが、それよりも肝心なことがある。フーケ本人がどこにいるかだ。
昨夜の戦闘で、ゴーレム自体をどうこうするということがほぼ絶望的であることは悟っている。
ならばフーケ自身を叩くしかない。昨夜はゴーレムの腕によってガードされたが、そのガードを掻い潜ることがフーケ打破への必須条件。
しかし、そのフーケの姿が見えない。
(やられたわね)
遠隔操作。
昨夜のようにゴーレムの上に乗るのではなく、どこか離れた場所で操作している。
だが、それほど遠い場所にいることはあるまい。こちらが見える場所にいるはずだ。そうでなければゴーレムの操作ができない。
ならば、勝機はロングビルか。
自分たちとは別行動をとっているロングビル。
ゴーレムの注意がこちらに向いているうちに、ロングビルがフーケ本人を叩いてくれることを期待するしかないか。
しかし、ロングビルが既にやられている可能性もある。
「フレイム・ボール!」
キュルケがゴーレムに向けて魔法を放つ。火の系統2乗分の火球がゴーレムへと向かう。
とりあえず足止めだ。足止めしてロングビルに期待するか、なんとか、一人ここから離脱してフーケを探しに行く必要がある。
「ファイヤー・ボール!」
キュルケの行動に触発されたのかルイズが魔法を唱える。キュルケの唱えたフレイム・ボールより1ランク下の火球の呪文をルイズは唱えた。
だが、当然火球がゴーレムへと向かって飛ぶわけではない。いつものように爆発が起きる。だがそれは都合よくゴーレムに直撃した。さすがに、これだけ大きな的なら外れはしない。
キュルケの火球もルイズの爆発も直撃した。だがそれはゴーレムに対して幾許の効果もあげることはできなかった。
キュルケの火球はゴーレムの身をわずかに焼いた。ルイズの爆発によってゴーレムの一部が爆ぜた。
(悔しいけど、威力はルイズのほうが上なのね)
キュルケはゴーレムの破壊状況を見てとる。
昨夜も言ったとおり、ルイズが戦力として爆発をみなすなら距離を手に入れる必要がある。逆にいえば遠くに当てられるようになりさえすれば攻撃手段として十分計算が立つ。
特に目の前のゴーレムのような相手には、キュルケの炎よりは効果的だ。そのエネルギーを熱という形で持つキュルケの魔法より、より純粋な破壊を行うルイズのほうが土系統の相手には有効だろう。
キュルケも、材質や質量によっては土系統だろうと存分に相手をできる自信はあるが。フーケのあまりもの巨大質量は相性がいいとは言えない。
しかも、キュルケとルイズの相性の差など関係がないと言わんばかりに、そのどちらの破損も再生して見せるゴーレム。
ゴーレムの足元に広がる地面。それはゴーレムの身体と同じ。フーケの魔力が尽きない限り、それを材料にいくらでも再生してしまう。
「エア・カッター」
タバサがルーンを唱える。
だが、何も起こらなかった。
なぜ何も起こらなかったのかと、キュルケがタバサのほうを向くと、その手には蜘蛛の魔剣が握られていた。
タバサはその後もルーンを唱えずに振ってみたりもしていたが、どうにも発動させられないらしい。
「持ってて」
そう言うと、ルイズに蜘蛛の魔剣を渡してしまった。
一発逆転のチャンスがあるとすれば蜘蛛の魔剣だと思ったが、それも無理だったようだ。
打つ手なしか。
いや、ルイズには何か心当たりがあるようだった。ならばルイズは使えるのか?
しかし、それも期待できない気がする。
ルイズの心当たりがたとえ当たっていたとしても、それがこの場にふさわしいものとも限らない。
風の魔法も決して土に対して相性がいいとは言えないのだ。
特に風の刃を使った魔法は硬いものには通用しない。フーケがトライアングル以上なら、いざという時、部分的にでもゴーレムをより硬い物質に変えてしまうかもしれない。
それに、材質が土のままだったとして目の前のゴーレムに対してどこまで深く切り込めるかもわからない。
切り落とせるならともかく生半可な切れ目では、再生にどれほどの時間もかからない。
やはり期待できないか。
キュルケはそう判断すると、タバサに眼で合図を送る。
タバサはこくりとうなずくと、ルーンを唱える。
「エア・ストーム」
巨大な竜巻を発生させるその魔法は、ゴーレムをなんとかその場に釘付けすることに成功した。
ただ、これはトライアングルスペル。そう連発できるものでもない。
「タバサ! シルフィードを! ルイズはそれをちゃんと持ってて! それさえあれば任務の半分は成功なんだから」
キュルケは叫ぶ。
とりあえず一度空へ退避。それで体勢を立て直そう。
その後、なんとか気付かれぬように一人降下させて、フーケ本人を叩く。ロングビルを期待して3人で上空からけん制するのもありだろうが、打てる手は打つべきだ。
降下するのは本来なら、風を読んで敵を探すことのできるタバサが適任ではあるが、シルフィードの操縦もある。ルイズと自分ではルイズのほうがゴーレムに対する相性もいいことあるし、自分が降りるべきだろう。
そんな風に考えながらシルフィードに乗るキュルケ。
全員のっていることをタバサが確認すると、シルフィードは上昇を開始する。
しかしそこで信じられないことが起きた。
上昇する寸前。ルイズがシルフィードから飛び降りたのだった。
大きい。
やはり間近で見るのは違う。
しかし大きさはどうでもいい。どうでもよくはないが、それよりも肝心なことがある。フーケ本人がどこにいるかだ。
昨夜の戦闘で、ゴーレム自体をどうこうするということがほぼ絶望的であることは悟っている。
ならばフーケ自身を叩くしかない。昨夜はゴーレムの腕によってガードされたが、そのガードを掻い潜ることがフーケ打破への必須条件。
しかし、そのフーケの姿が見えない。
(やられたわね)
遠隔操作。
昨夜のようにゴーレムの上に乗るのではなく、どこか離れた場所で操作している。
だが、それほど遠い場所にいることはあるまい。こちらが見える場所にいるはずだ。そうでなければゴーレムの操作ができない。
ならば、勝機はロングビルか。
自分たちとは別行動をとっているロングビル。
ゴーレムの注意がこちらに向いているうちに、ロングビルがフーケ本人を叩いてくれることを期待するしかないか。
しかし、ロングビルが既にやられている可能性もある。
「フレイム・ボール!」
キュルケがゴーレムに向けて魔法を放つ。火の系統2乗分の火球がゴーレムへと向かう。
とりあえず足止めだ。足止めしてロングビルに期待するか、なんとか、一人ここから離脱してフーケを探しに行く必要がある。
「ファイヤー・ボール!」
キュルケの行動に触発されたのかルイズが魔法を唱える。キュルケの唱えたフレイム・ボールより1ランク下の火球の呪文をルイズは唱えた。
だが、当然火球がゴーレムへと向かって飛ぶわけではない。いつものように爆発が起きる。だがそれは都合よくゴーレムに直撃した。さすがに、これだけ大きな的なら外れはしない。
キュルケの火球もルイズの爆発も直撃した。だがそれはゴーレムに対して幾許の効果もあげることはできなかった。
キュルケの火球はゴーレムの身をわずかに焼いた。ルイズの爆発によってゴーレムの一部が爆ぜた。
(悔しいけど、威力はルイズのほうが上なのね)
キュルケはゴーレムの破壊状況を見てとる。
昨夜も言ったとおり、ルイズが戦力として爆発をみなすなら距離を手に入れる必要がある。逆にいえば遠くに当てられるようになりさえすれば攻撃手段として十分計算が立つ。
特に目の前のゴーレムのような相手には、キュルケの炎よりは効果的だ。そのエネルギーを熱という形で持つキュルケの魔法より、より純粋な破壊を行うルイズのほうが土系統の相手には有効だろう。
キュルケも、材質や質量によっては土系統だろうと存分に相手をできる自信はあるが。フーケのあまりもの巨大質量は相性がいいとは言えない。
しかも、キュルケとルイズの相性の差など関係がないと言わんばかりに、そのどちらの破損も再生して見せるゴーレム。
ゴーレムの足元に広がる地面。それはゴーレムの身体と同じ。フーケの魔力が尽きない限り、それを材料にいくらでも再生してしまう。
「エア・カッター」
タバサがルーンを唱える。
だが、何も起こらなかった。
なぜ何も起こらなかったのかと、キュルケがタバサのほうを向くと、その手には蜘蛛の魔剣が握られていた。
タバサはその後もルーンを唱えずに振ってみたりもしていたが、どうにも発動させられないらしい。
「持ってて」
そう言うと、ルイズに蜘蛛の魔剣を渡してしまった。
一発逆転のチャンスがあるとすれば蜘蛛の魔剣だと思ったが、それも無理だったようだ。
打つ手なしか。
いや、ルイズには何か心当たりがあるようだった。ならばルイズは使えるのか?
しかし、それも期待できない気がする。
ルイズの心当たりがたとえ当たっていたとしても、それがこの場にふさわしいものとも限らない。
風の魔法も決して土に対して相性がいいとは言えないのだ。
特に風の刃を使った魔法は硬いものには通用しない。フーケがトライアングル以上なら、いざという時、部分的にでもゴーレムをより硬い物質に変えてしまうかもしれない。
それに、材質が土のままだったとして目の前のゴーレムに対してどこまで深く切り込めるかもわからない。
切り落とせるならともかく生半可な切れ目では、再生にどれほどの時間もかからない。
やはり期待できないか。
キュルケはそう判断すると、タバサに眼で合図を送る。
タバサはこくりとうなずくと、ルーンを唱える。
「エア・ストーム」
巨大な竜巻を発生させるその魔法は、ゴーレムをなんとかその場に釘付けすることに成功した。
ただ、これはトライアングルスペル。そう連発できるものでもない。
「タバサ! シルフィードを! ルイズはそれをちゃんと持ってて! それさえあれば任務の半分は成功なんだから」
キュルケは叫ぶ。
とりあえず一度空へ退避。それで体勢を立て直そう。
その後、なんとか気付かれぬように一人降下させて、フーケ本人を叩く。ロングビルを期待して3人で上空からけん制するのもありだろうが、打てる手は打つべきだ。
降下するのは本来なら、風を読んで敵を探すことのできるタバサが適任ではあるが、シルフィードの操縦もある。ルイズと自分ではルイズのほうがゴーレムに対する相性もいいことあるし、自分が降りるべきだろう。
そんな風に考えながらシルフィードに乗るキュルケ。
全員のっていることをタバサが確認すると、シルフィードは上昇を開始する。
しかしそこで信じられないことが起きた。
上昇する寸前。ルイズがシルフィードから飛び降りたのだった。
タバサは小屋から外に飛び出しながらも頭の中にいくつかの疑問が渦巻いていた。
なぜ自分たちはまだ死んでないのか。
屋根を吹き飛ばすことができたなら、屋根ごと自分たちを叩き潰すこともできていたはずだ。
しかしそれをしなかった。
中に蜘蛛の魔剣があったから?
しかしそれなら、そもそも何故蜘蛛の魔剣を置いたままにしてあったのか。
いくらなんでも気を抜くには早すぎる。昨日の今日だ。
罠、なのだろう。追手を殺すための。
しかし罠にしても、せっかく奪った秘宝そのものを餌にするのはどうなのか。
タバサは己の手の内にある物を見る。
蜘蛛の魔剣と呼ばれるこれから、恐ろしい力を感じるのは確かだ。
だが、先程からいくら魔力を込めようと、うんともすんとも言わない。
ここで一つ閃く。フーケもこれを使えなかったのだ。だから餌につかった。
いや、それも無理があるか。
仮令マジックアイテムとして使えなくても、仮令タバサが感じている魔力など実はなかったとしても、これには別の価値があるのだ。
オールド・オスマンの弱み。それは金額にすれば如何ほどのものなのだろう。兎に角、フーケがこれを置き放しておく理由はない。
しかし、今、蜘蛛の魔剣はタバサの手の内にある。
暴走の危険性を考えれば自重するべきかとも思ったが、目の前にあるあまりに強大な力を感じさせるそれに、タバサの好奇心は止まらなかった。
もしこれが、曰く通りの力を持ち、そしてそれを己の意のままに操ることができるなら……。
己の宿願を叶えるための重要なピースになるかもしれない。
タバサは己に限界を感じていた。そうは言えど、魔法の力ならまだ成長する余地はあると信じている。
だが、それがどうしたというのだ。
今以上の魔力を手にいれスクウェアになれたとする。それがどうしたというのだ。
敵も系統魔法。
その配下にはスクウェアクラスも片手に余るほどいるはずだ。
いざ決起の時となれば、その中にも何人か自分の見方をする者もいるかも知れない。だが、それで埋まるほど彼我の戦力差は生易しいものではない。
それに、系統魔法だけではないのだ。
母親の身に降りかかっているアレは、系統魔法以外の何かだとしか思えない。
ならば、己にも系統魔法以外の何かが必要なのではないか。何か得体のしれない力にでも頼らなければ、到底宿願には届かないのではないか。
「フレイム・ボール!」
キュルケがゴーレムに向けて魔法を放った。火の系統2乗分の火球がゴーレムへと向かう。
「ファイヤー・ボール!」
それにつられたようにルイズもルーンを唱えた。キュルケのものより1ランク下の火球の魔法。
だが、当然火球がゴーレムへと向かって飛ぶわけではない。いつものように爆発が起きる。だがそれは都合よくゴーレムに直撃した。さすがに、これだけ大きな的なら外れはしない。
キュルケの火球もルイズの爆発も直撃した。だがそれはゴーレムに対して幾許の効果もあげることはできなかった。
キュルケの火球はゴーレムの身をわずかに焼いた。ルイズの爆発によってゴーレムの一部が爆ぜた。
だが、それが如何したと言わんばかりに、ゴーレムはかけたその身をすぐさま再生して見せた。
ゴーレムの足元に広がる地面。それはゴーレムの身体と同じ。フーケの魔力が尽きない限り、それを材料にいくらでも再生してしまう。
圧倒的な質量。
圧倒的な兵力。
数の力というのは残酷だ。
タバサの力はその差を何とか覆そうという方向のものだ。
仮令己一人という最少の兵力しか持たなくても、最小の力で最大の効果を得る。そういった効率的な方向にタバサの力は成長している。
タバサの戦い方はどちらかといえば暗殺者のそれに近い。
しかし、その針のように研ぎ澄まされた力が、あの男まで届くのか。
「エア・カッター」
タバサはルーンを唱える。
しかし手元の蜘蛛はルーンにも反応を示さない。
力が必要なのに。目の前に強大な力を確かに持っているはずの物があるのにそれを使えない。
歯がゆい。
力を手に入れるには……。
タバサはルイズを見る。
彼女には何かがある。タバサはそう思う。
たかが知れている差ではあるが、ゼロでありながらドットを打ち破った。
異質な使い魔。
突如、剣を振り出すという、系統魔法の力とは違うものを求める姿勢。
そして、先程の蜘蛛の魔剣について何か知っているような態度。
「持ってて」
タバサはそう言って、ルイズに蜘蛛の魔剣を手渡す。
ルイズなら使えるのかもしれない。
いや、使えたとしてもその力がこの場面で役に立つとは限らないか。
キュルケが眼で合図を送ってきた。
タバサはそれを以心伝心で察知する。
タバサはゴーレムへと杖を向け、ルーンを唱える。
「エア・ストーム」
巨大な竜巻を発生させるその魔法は、ゴーレムをなんとかその場に釘付けすることに成功した。
しかし、これはトライアングルスペル。そう連発できるものでもない。
結局、自分の力は目の前の圧倒的な質量相手にも足止め程度にしかならない。
「タバサ! シルフィードを! ルイズはそれをちゃんと持ってて! それさえあれば任務の半分は成功なんだから」
キュルケは叫ぶ。
ここは生きて帰ることこそが大切だ。
己の命。親友であるキュルケの命。そして己の可能性になりうるかもしれないルイズの命。それを無事に持ち帰ることこそが重要だ。
蜘蛛の魔剣は己の宿願を叶える重要なピースになるかもしれない。
それと同じように、ルイズが重要なピースになるかもしれない。
そんな風にタバサは考えていた。
タバサは全員のっていることを確認すると、シルフィードを上昇させる。
しかしそこで信じられないことが起きた。
上昇する寸前。ルイズがシルフィードから飛び降りたのだった。
なぜ自分たちはまだ死んでないのか。
屋根を吹き飛ばすことができたなら、屋根ごと自分たちを叩き潰すこともできていたはずだ。
しかしそれをしなかった。
中に蜘蛛の魔剣があったから?
しかしそれなら、そもそも何故蜘蛛の魔剣を置いたままにしてあったのか。
いくらなんでも気を抜くには早すぎる。昨日の今日だ。
罠、なのだろう。追手を殺すための。
しかし罠にしても、せっかく奪った秘宝そのものを餌にするのはどうなのか。
タバサは己の手の内にある物を見る。
蜘蛛の魔剣と呼ばれるこれから、恐ろしい力を感じるのは確かだ。
だが、先程からいくら魔力を込めようと、うんともすんとも言わない。
ここで一つ閃く。フーケもこれを使えなかったのだ。だから餌につかった。
いや、それも無理があるか。
仮令マジックアイテムとして使えなくても、仮令タバサが感じている魔力など実はなかったとしても、これには別の価値があるのだ。
オールド・オスマンの弱み。それは金額にすれば如何ほどのものなのだろう。兎に角、フーケがこれを置き放しておく理由はない。
しかし、今、蜘蛛の魔剣はタバサの手の内にある。
暴走の危険性を考えれば自重するべきかとも思ったが、目の前にあるあまりに強大な力を感じさせるそれに、タバサの好奇心は止まらなかった。
もしこれが、曰く通りの力を持ち、そしてそれを己の意のままに操ることができるなら……。
己の宿願を叶えるための重要なピースになるかもしれない。
タバサは己に限界を感じていた。そうは言えど、魔法の力ならまだ成長する余地はあると信じている。
だが、それがどうしたというのだ。
今以上の魔力を手にいれスクウェアになれたとする。それがどうしたというのだ。
敵も系統魔法。
その配下にはスクウェアクラスも片手に余るほどいるはずだ。
いざ決起の時となれば、その中にも何人か自分の見方をする者もいるかも知れない。だが、それで埋まるほど彼我の戦力差は生易しいものではない。
それに、系統魔法だけではないのだ。
母親の身に降りかかっているアレは、系統魔法以外の何かだとしか思えない。
ならば、己にも系統魔法以外の何かが必要なのではないか。何か得体のしれない力にでも頼らなければ、到底宿願には届かないのではないか。
「フレイム・ボール!」
キュルケがゴーレムに向けて魔法を放った。火の系統2乗分の火球がゴーレムへと向かう。
「ファイヤー・ボール!」
それにつられたようにルイズもルーンを唱えた。キュルケのものより1ランク下の火球の魔法。
だが、当然火球がゴーレムへと向かって飛ぶわけではない。いつものように爆発が起きる。だがそれは都合よくゴーレムに直撃した。さすがに、これだけ大きな的なら外れはしない。
キュルケの火球もルイズの爆発も直撃した。だがそれはゴーレムに対して幾許の効果もあげることはできなかった。
キュルケの火球はゴーレムの身をわずかに焼いた。ルイズの爆発によってゴーレムの一部が爆ぜた。
だが、それが如何したと言わんばかりに、ゴーレムはかけたその身をすぐさま再生して見せた。
ゴーレムの足元に広がる地面。それはゴーレムの身体と同じ。フーケの魔力が尽きない限り、それを材料にいくらでも再生してしまう。
圧倒的な質量。
圧倒的な兵力。
数の力というのは残酷だ。
タバサの力はその差を何とか覆そうという方向のものだ。
仮令己一人という最少の兵力しか持たなくても、最小の力で最大の効果を得る。そういった効率的な方向にタバサの力は成長している。
タバサの戦い方はどちらかといえば暗殺者のそれに近い。
しかし、その針のように研ぎ澄まされた力が、あの男まで届くのか。
「エア・カッター」
タバサはルーンを唱える。
しかし手元の蜘蛛はルーンにも反応を示さない。
力が必要なのに。目の前に強大な力を確かに持っているはずの物があるのにそれを使えない。
歯がゆい。
力を手に入れるには……。
タバサはルイズを見る。
彼女には何かがある。タバサはそう思う。
たかが知れている差ではあるが、ゼロでありながらドットを打ち破った。
異質な使い魔。
突如、剣を振り出すという、系統魔法の力とは違うものを求める姿勢。
そして、先程の蜘蛛の魔剣について何か知っているような態度。
「持ってて」
タバサはそう言って、ルイズに蜘蛛の魔剣を手渡す。
ルイズなら使えるのかもしれない。
いや、使えたとしてもその力がこの場面で役に立つとは限らないか。
キュルケが眼で合図を送ってきた。
タバサはそれを以心伝心で察知する。
タバサはゴーレムへと杖を向け、ルーンを唱える。
「エア・ストーム」
巨大な竜巻を発生させるその魔法は、ゴーレムをなんとかその場に釘付けすることに成功した。
しかし、これはトライアングルスペル。そう連発できるものでもない。
結局、自分の力は目の前の圧倒的な質量相手にも足止め程度にしかならない。
「タバサ! シルフィードを! ルイズはそれをちゃんと持ってて! それさえあれば任務の半分は成功なんだから」
キュルケは叫ぶ。
ここは生きて帰ることこそが大切だ。
己の命。親友であるキュルケの命。そして己の可能性になりうるかもしれないルイズの命。それを無事に持ち帰ることこそが重要だ。
蜘蛛の魔剣は己の宿願を叶える重要なピースになるかもしれない。
それと同じように、ルイズが重要なピースになるかもしれない。
そんな風にタバサは考えていた。
タバサは全員のっていることを確認すると、シルフィードを上昇させる。
しかしそこで信じられないことが起きた。
上昇する寸前。ルイズがシルフィードから飛び降りたのだった。