あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔-07


 その日、学院の校門前でやり取りをする男女が一組。
「なぁ、本当にこれに乗って行かなくちゃいけないのか?」
「当たり前でしょ。ぶつくさ言ってないでさっさと乗るの!」

 話はその昨晩に戻る。部屋でルイズはギュスターヴに話した。
「明日は虚無の曜日よ。外出するわ」
「外出?」
「王都まで行って買い物するの。あんたも着いて来なさい」
 つまり、ギュスターヴに荷物持ちをしろということだ。女性の買い物とはそういうものだと分かっているギュスターヴは、また一方で、
この世界の街というものを見たことが無いから興味を刺激された。
「それに……ホラ、決闘で勝ったご褒美、まだ、してないし……」
 視線を泳がせて段々先細りの声でルイズが言う。ルイズはギュスターヴに何かを与えるつもりらしい。
ルイズの心遣いに素直に感謝するギュスターヴ。
「すまないな」
「……いいの!ちゅ、忠誠には酬いるところがあって当然よ!」
 気恥ずかしかったのか、もう寝る!と言ってベッドにもぐりこむルイズだった。

翌日、早朝。学院校門前に立つギュスターヴ。
ルイズは学院付の厩番から二頭の馬を受け取り、校門で待つギュスターヴの前につれてきた。
ギュスターヴはルイズがつれてきた黒毛の馬をみて目を白黒させて驚いた。
「な、なんだ?!このでかくて黒い四本足の生き物は?」
「何って、馬じゃない。これに乗って行くのよ」
 さも当然のように行って馬を宥めるルイズ。ギュスターヴは恐る恐る手を伸ばし、馬の腹を撫でてみた。ブルルル、と馬が鼻息を荒く吐く。
 改めてここが異世界なのだと感心するギュスターヴなのだった。
「こんな動物がいるなんてな……やっぱりここはサンダイルとは違うんだな」
「馬に乗って3時間も行けば王都トリスタニアよ。早く出発しないと、夕方までに帰ってこれないわ」

 同時刻、女子寮の自室でキュルケは目覚めた。魅惑的な肉体に心もとないほどの布を纏っている。
昨晩は激しかったわ。一度に4人も呼んじゃったけど、いつもと違った経験が出来て悪くなかったわ……。
眠りに着く前の時間を思い出して、口元が艶っぽく綻ぶ。
こういう気分がいいときは、隣部屋のルイズをたたき起こして遊んでやるのが一番楽しいと、キュルケは思っている。
 早速着替えて隣の部屋に向かうのを、使い魔のフレイムが部屋の隅で見守っていた。
 一応ノックしてみる。返事が無いのを確認すると、杖を握って『アンロック』をかける。
部屋の鍵が落ちる音がする。キュルケは当然のようにドアを開け、ルイズの部屋に入り込んだ。
 しかし休日でのんびりと寝ているものと思われた部屋の主人とその使い魔は影も形もなく、ルイズの鞄もまた消えていた。
「どこに行ったのかしら……」
 当ての外れたキュルケは、窓辺に近寄って外を見てみる。すると校門から先に二頭の馬がいて、学院から離れていくのが見えた。
馬の一方に乗っているらしき人物の姿は窺いきれないが、辛うじて分かるのは、特徴的なチェリーブロンドであること。
「あら、出かけるみたいね……」
 キュルケに一つの考えが浮かんだ。そして階段を登って行く。
タバサの部屋の前に着くと、先ほどと同じようにノックする。返事が返ってこないと、再びノックする。ルイズの部屋とは扱い方が違う。
「タバサいる~?」
 声をかけても返事が無い。仕方ないわ、と再び『アンロック』をかけてドアを開けた。
 タバサはいた。机の上に積んだ本に埋もれるように本を読んでいた。不意の来訪者を見て、それから視線を本に戻した。
「タバサ。今日はいい天気だし、一緒にお出かけしない?」
「虚無の曜日」
 手馴れた風情のタバサ。友人はタバサをよく気に掛けてくれるが、今日は少し面倒だと、タバサ自身の黙する空気が語っている。
「わかってるわ。あなたが休みの日は陽が落ちるまで本を読んでいたいって事くらい。でも、たまには外の空気を吸いに行かないと体に悪くてよ?」
 ね、ね?とタバサの背中に張り付いてご機嫌を取ろうと肩をもみ始める。
 タバサは引っ付かれるままに振り回されている。後頭部になにか柔らかいものが当たっている気がするが全力で無視した。
「別に今日でなくてもいい」
「またそんな事言って……。いいわ。あのね、ルイズと使い魔の彼が休みの朝早くから出かけているのよ。からかい甲斐もないし。
使い魔の彼のこともちょっと気になるかしら?悪くないわよね、こう大人の色気があって。そう思わない?」
「知らない」
 つまり二人を追いかけるのに協力してくれということ。
 タバサの脳裏に昨日のギュスターヴが浮かぶ。異界からやってきたという男。私の知らない知識の持ち主。
「あなたの使い魔じゃないと今からじゃ追いつけないのよ~。お願い、タバサ。協力してくれたら書店で本を贈ってあげるから」
 ぴくり。タバサの気がキュルケの言葉に引かれる。
 タバサは立ち上がると本を棚に戻し、窓を開けて口笛を吹いてから、窓から飛び降りる。
 続くキュルケが飛び降りた時、窓の下には薄青い鱗の竜が翼を広げて、空中を静止していた。
「いつ見ても貴方の使い魔は素敵ね。愛してるわ、タバサ」
 困った友人だな、とタバサが小さなため息をついてから、使い魔―――シルフィード―――の首を叩く。
「ここから出て行った馬二頭を追いかけて。食べちゃ駄目」
 シルフィードはきゅいーっと一声鳴いて、二人を乗せて遠く空に向かって飛んでいく。





『剣と盗賊』





 王都トリスタニアの城下町は、休みとあって人でごった返している。そんな通りをルイズとギュスターヴは歩いていた。
 歩きながらギュスターヴは何度か腰を摩っている。
「慣れないものに乗って腰が……」
「これだから中年はいやねぇ」
 ほーほほ、と優秀な使い魔から一本取れたと優越にルイズが笑った。
 通りは5メイル程で、幅一杯に人が行きかう。通り沿いの店は幌を張って影を作り、軒下を露天商に貸し付けて場所代を取っている。
「思ったより狭いな…」
「狭いって、ここが一番大きな通りなんだけど」
「そうなのか…」
 ギュスの目がいつもと少し違うのがルイズには分かった。それは王の目なのだが、ルイズには分からなかった。
(露天商の方が店を持つ商人より遥かに多い……経済市場はそれほど大きくないのかな。それにこの道幅だと出征などの変事の対応力はあんまりないのか。
……それほど大事のない平穏な国なのか……)
 きょろきょろしながら歩くギュスターヴをルイズが窘めた。
「そんなに周りを見るものじゃないわよ。おのぼりさんに見えるじゃない。田舎者と思われるとスリとかが目をつけるわよ」
 ルイズ曰く、食い詰めもののメイジが犯罪者になって、裕福なものから金を掏り取ったりするらしい。
どうやらメイジというメイジが貴族として生活しているわけではないらしいとギュスターヴは知った。
「……で、買い物をするんだろう。どうするんだ?」
「こっちよ。あんまり行きたい所じゃないんだけど」
 ルイズにつられて路地に入る。そこは表の清潔さとは対照的にゴミが積まれて悪臭を放っている。その匂いに顔をしかめた二人。
 匂いを我慢して歩くルイズについていくギュスターヴ。やがてある建物の前でルイズの足が止まった。
「……ピエモンの秘薬屋の近くなら、ここね」
 そこは看板に盾と剣の掘り込まれた店だ。
「剣を買ってあげる。あんたの荷物に空の鞘があったし、本当はもっと大きな剣を使うんじゃないかな、と思って」

武器屋と思われる建物の中に入ったルイズとギュスターヴ。昼間だというのに店内は暗く、あちこちに蝋燭やランプが置かれていて灯りになっていたが、出来がよいもので
はないらしく、部屋のあちこちが陰になって薄暗い。
入ってきた二人が見えたらしい武器屋の主人は、カウンターの前で恭しげに頭を下げた。
「貴族の旦那。ここは全うな商売しかしておりませんぜ。お上の御用になるようなことは何も……」
「客よ。剣を見せて頂戴」
「おおこれはこれは。貴族様が下々の武器などご利用になるとは、驚きでさ」
「私じゃないわ。こいつに用立てるのよ」
 ルイズは後のギュスを指す。立派な体格のギュスターヴに目を見張る主人。
「なんと!これは貴族様の護衛か何かで?」
「そんなところよ。良さそうなのを選んでやって頂戴」
 へい、と主人が返事をし、ギュスターヴに駆け寄り腕の長さを巻尺で計り始めた。
一般に剣を扱う時は腕の延長として捉える。したがって使用する人間の腕の長さが一種の指針として使われるのだ。
 店の奥に入って暫く時間が過ぎた。持ち無沙汰なルイズは飾られた武器を珍しそうに眺めていた。
 主人が戻ってくると、布に包まれた一本の大剣をカウンターに置いて見せる。
「最近は貴族の方が下僕に剣を持たせるのが流りでございましてね。大抵は細いレイピアなんて御所望されるのですが、そちらの方では物足らぬでしょう」
「剣を持たせるのが流行って?」
「城下を荒らす盗賊が貴族様方を狙って出没するそうですよ。既に某の貴族様が家宝なりを盗まれて面目をなくされたらしく、他の貴族の方々が恐れてるあまり、奉公の下
僕らにも武器を持たせて歩く始末で、へぇ」
 世話話に精を出しながら主人は出した剣を油布で丁寧に拭いている。
「こちらは高名なゲルマニアの錬金の大家とされるシュぺー卿の作。特殊な魔法が施されて鉄だろうがなんだろうが一刀両断でございます。もっとも安くはありませんが。如
何でございましょうか」
 大剣は見事な装飾が鞘や柄や鍔に施されている。柄尻には玉のようなものまでついている。
「ふむ。いいわね。おいくら?」
「エキューで二千、新金貨で三千でございます」
「庭付きの屋敷が買えるじゃないの!」
 ちなみに一般的な平民が一年暮らすのに120エキューほど掛かる。都会で部屋を借りて生活するとしても、大体四、五百エキューは住まいを借りるのに用立てなければな
らない。
 ルイズは主人の提示した金額をうんうん唸りながらつぶやき、主人と剣を交互に見て、またうんうんと唸るのを繰り返している。
ギュスターヴはそんなやり取りをするルイズを見てため息をついた。
「ルイズ、ちょっといいか」
「何よ?」
 耳を貸すように手招きしてルイズに耳打ちする。
「手持ちはいくらなんだ?」
「……エキューで100よ。これ以上は手持ちがないわ」
 本当は財布の中身を知られるのは嬉しくないが、買い物が買い物だけにそうは言っていられない。そうか、と言って、ギュスターヴは主人に話しかけた。
「試しに握らせてくれないか」
「どうぞ」
 シュぺーの剣を受け取りそれらしく構えてみせるギュスターヴ。ルイズはそれが様になっていて満足したが、ギュスターヴにとってそれは剣の出来を見るものだった。
(…鍛造が甘い。管理もあまり上手とはいえない。拵えは豪華だが、肝心の刀身も研がれているようでもないな。
魔法がかかってるとはいえ、値段に相応するようには見えない……)
「主人、本当にこれが二千かね?」
「……ええ。こちらの儲けと仕入れ値、あわせて二千。これほどの名剣はそうはありませんぜ。何であればこちらの証文にサインしていただければ
割賦にさせていただけますぜ」
 証文は役所が発行している特殊な紙に書かれた一種の契約書である。これに書いたものを反故にすると貴族でも処罰される。
 ギュスターヴは主人をじっと値踏む。こちらが貴族だと知って高い品を売りつけようとしているのは間違いないが、問題は値段に合ったものを買うことだ。
(……吹っかけてるな。これは)
 ギュスターヴは見抜いた。シュぺーの剣を主人に返し、一拍置いて聞く。
「主人。一番安い剣はどれかね?」
 その言葉に真っ先に反応したのは、お金を払うルイズであったのは当然の事だろう。
「ちょっと!私に安物買わせる気?!」
 主人が貧乏だと思われたのではないか、とルイズはギュスターヴを見た。ギュスターヴの目は暖かいが、自分を見下げているわけではないらしい事はわかった。
 まぁまぁ、と一応ルイズを宥めて武器屋主人の回答を待つ。主人は渋々とシュぺーの剣をしまい、何やらぶつぶつとつぶやきながら
カウンターから出て店の隅に積まれたものを指差した。そこには大きな樽が置かれていて、樽の中に雑多な武器が差し込んである。
「そこにあるのがうちで扱ってる一番安い剣だよ。一律値段じゃあないが、大体50から80エキューくらいのが入ってる。剣の流通相場が200エキューちょいだから、
ガラクタもいいところさ」
「ギュスターヴ~!わ、私にガラクタを買わせるつもり?!」
 不安になって地団駄を踏み始めるルイズを再び落ち着かせて、ギュスターヴは樽の中を覗いた。
 樽の中の剣はどれも使い古しのボロ剣ばかりだ。中には鞘もなく、折れ曲がっているものもあった。
 ギュスターヴはめぼしい剣を一本一本引き抜いては丁寧に見て、樽に戻してを繰り返す。
その内、剣の中にきっちりと鞘に納められた片刃の長剣が一本、押し込まれているのを見つけ、それを樽から抜き出し主人に見せた。
「こいつも50?」
「あ、や、それは……」
 なにやら答えに窮した主人。ギュスターヴは答えを待たずに鞘から抜いてみた。
「……やい!親父!よくもこの俺様をあんなぼろっちい剣の中につっこみやがったな!今日という今日は俺様もあったまきたぜ!」
 とたんにギュスターヴの手元から何者かの怒鳴り声が発せられ、ルイズがびっくりしてたたらを踏む。ギュスターヴも驚いて剣を落としそうになるのをどうにかこらえた。
武器屋の主人はというと、頭を抱えてうつむいてしまった。
「インテリジェンス・ソード?」
 ルイズが主人を起こして聞いてみる。
「へ、へぇ。誰が作ったか知りませんが、魔法で剣に意思を込めた魔剣、インテリジェンス・ソードでございまさ。あいつは特に口が悪くて客と口げんかばかりして
参ってるんですよ。鞘にきっちり入れておけばしゃべれなくなるんで、ああやってガラクタに紛れ置いてたんですが…」
 ついに主人がルイズに対してなにやら愚痴を言い始めた。ルイズは聞く気がなかったがまくし立てられて二の句が告げられず困り始めている。
 ギュスターヴはそんな二人のやり取りには参加せずこのしゃべり出す剣をじっくりと眺めた。
(拵えは最低限、鍔もある。片刃だと少し慣らしがいるな。砥ぎが大分落ちているが、よく鍛えられている……)
 ぎゃあぎゃあと喚いていた剣が何かに気付いたように静かになり、ギュスターヴに話しかけた。。
「ぁん?なんだおめぇ。『使い手』じゃねえか。それにしては妙な雰囲気だけどよ」
「『使い手』?なんのことだ」
「お前さん、自分が何なのかもしらねえのかい。まぁいいや。おい、俺を買え」
 愚痴が収まってギュスターヴと剣そのやり取りを見ていたルイズがちょっと引いている。
「剣が自分で売り込みやってる……」
 ふむ、と一言言って、武器屋の主人の顔色を見たギュスターヴに、一つの面白い作戦が浮かんだ。
「主人、よっぽどこいつに迷惑をかけられたらしいな」
「そりゃあもう!口ばかり達者でとんでもねぇ剣でさ」
「け!あんな節穴親父に上手な商売ができるかっての!」
「あんだとこのボロ剣が!鋳潰して金床にされてぇのか!」
「まぁまぁ主人。……そこでだ。この剣、俺達が引き取ろうと思う」
 えぇ!とルイズは露骨に嫌な顔をしている。
「達、って…、もっと綺麗な奴選びなさいよ~。何なら割賦で払ってあげるから」
「いや、これでいい。飾りものの剣は俺の趣味じゃないし」
 そりゃ、そうでしょうけど、とルイズはどうしても納得がいかず、シュぺーの剣に後ろ髪引かれる思いをした。
「こいつはいくらだ?」
「70でさ」
 ギュスターヴの口元がすこし歪むように笑う。
「高いな。50にしろ」
「ちょっと待ってくだせぇ」
「迷惑してるところを引き取ってやるんだ。それくらいはしてもらいたいな」
 当然のように言い放つギュスターヴ。しゃべる剣を持ってカウンターをトントンと指で叩く。
「……68」
「55」
「65だ。これ以上は駄目だぜ」
「ふむ…。じゃ、一つ賭けをしよう」
 ギュスターヴは腰の短剣を抜き、武器屋主人の前、カウンターに突き刺した。
「こいつに刃こぼれ一つでもつけることが出来たら、100であれを買う」
「ギュスターヴ!」
 こんなボロ剣で全財産が飛んでしまうのではないかと気が気でないルイズに、あくまで余裕のギュスターヴ。
「大丈夫だ。……どうだ、主人。悪い話じゃないだろう?その代わり、出来なかったら」
「出来なかったら?」
「40であれを買う。それといくらかおまけしてもらうぞ」




 正午を向かえ、お昼時とあって一層の繁盛を迎えようとするトリスタニア、ブリトンネ街。
 その中で、中・上流向けの小綺麗なレストランで、ギュスターヴとルイズは昼食を取っていた。
「それにしても呆れたわ。本当に40エキューで買い物できちゃった」
 瓶詰めの水をグラスに注ぎながら関心するルイズ。
あの後、結局武器屋はギュスターヴの短剣に刃こぼれどころかかすり傷ひとつつけられず降参し、しゃべる妙な剣とナイフ、あと手入れにつかう研ぎ石と油布などを
纏めて40エキューで売ってくれた。その後は、ルイズの欲しがっていた細々としたものを買いに回り、出費は予算内に見事に収まった。
「まぁ、年の功ってやつだな。あのままだと鈍らを買って借金しそうだったし」
「う……」
 ギュスターヴは何故自分があんな事をしたのか丁寧に説明した。ルイズは一等、騙されていたことを激しく怒ったが、ギュスターヴ曰く『見抜ける眼力がないと思われたからそうされたに過ぎない』と言い含めた。
 手前のスープに白パンを千切って浸し、口に放り込むギュスターヴ。学院の賄いとは違い、ハイソな趣の店内は、出す料理もそれに見合った上品なもので、
賄いに慣れたギュスターヴには少し物足りない気がした。
「でも本当によかったの?こんなボロ剣で」
「ボロ剣とはひでぇ扱いだな嬢ちゃん。俺様にはデルフリンガーっていう立派な名前があるんだぜ」
布に包まれたデルフリンガーと名乗る剣は、鍔口をカタカタ鳴らしてしゃべる。
「デルブリンガー?」
「デルフリンガーだよ!デルフって呼んでくれ」
そんなやりとりを食後の紅茶まじりにしていると、店内に新たな客が入ってきた。壺惑的な色気を振りまいている赤毛の女性と、その後ろをついてくる
背の低い青髪の少女、ともに杖と何かしらの荷物を持っている。
「ハァイ、ご機嫌いかがかしらお二人さん」
「キュルケ!なんでここに居るのよ」
「あら、どこにいようと私の勝手でしょ」

 キュルケとタバサは二人を追いかけて王都に入った後、武器屋から出てくる二人を見てから、自分達も武器屋に入って買い物をした。
主人から二人が剣を買ったと聞くとキュルケも剣を所望し、主人から一振りの剣を買うことに成功した。その後タバサに約束の本を買ってあげたキュルケは、
昼食のためにこのレストランに入ったのだ。
キュルケの後にいるタバサに手を振るギュス。
 キュルケはギュスターヴのそばに立てかけてあるデルフを見て鼻で笑った。
「ところで、剣を買ったみたいだけど、そんなボロ剣で済ますなんてヴァリエールもケチね」
「うっさいわね」
「そんなボロ剣より、こっちの方が素敵よ」
 腕に抱えた包みを開くキュルケ。中から出てきたのは煌びやかな装飾の施されたレイピアだった。
「高名な錬金魔術師の名剣よ。割賦だけど新金貨で4000もするのよ。どう?この剣が欲しかったら、私のところに来ない?」
 自信たっぷりにキュルケはウィンクして、ギュスターヴを誘う。剣を使うならより良い剣を贈った方が好印象のはず。
ギュスターヴの秘かに漂う高貴なオーラがレイピアに映えてすばらしい光景になるだろう、とキュルケは考えていた。願わくば褥に誘えれば、とも思っている。
しかしギュスターヴの反応はキュルケの予想したものとは大いに異なったものだ。喜んでいるというより、むしろ、呆れていた。
 向かいに座るルイズは、キュルケの自信満々の素振りがおかしくてなにやらニヤニヤし始めている。
 予想外の反応で困るキュルケ
「……あら?どうかした?」
 キュルケは場の空気に困惑し始めた。こんな反応なんて考えていなかったから。
本当なら目を輝かせてくれるギュスターヴと、悔しげに歯噛みするルイズが見られると思ったのに。
 しかし現実の二人はどこまでもキュルケの予想から遠い。ルイズに至っては紅茶に興味が移ってしまっているし、ギュスターヴも明後日の方向を向き始めている。
 くいくい、とキュルケの袖をタバサが引いた。
「クーリングオフ不可」
 その腕の中にはキュルケに買ってもらった本を抱えている。
タイトルは『落ち着かぬ赤毛』。書店での価格は96スゥであったという。


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